法人税申告書の上では黒字なのに、決算書を見ると税金費用が思ったほど大きくない。逆に、当期の納税額はさほど多くないのに、損益計算書には「法人税等調整額」が大きく出ている。あるいは、貸借対照表に「繰延税金資産」が計上されているものの、これは将来本当に使える資産なのか判然としない。
こうした会計と税務のズレを理解するための会計処理が、税効果会計です。
まず押さえておきたいのは、税効果会計は「税金を安くする制度」ではない、という点です。法人税申告で納付すべき税額を直接減らす制度でもありません。その役割は、会計上の利益と税金費用を合理的に対応させ、決算書上の利益・純資産・将来の税負担を、より実態に近い形で表示することにあります。
法人税申告は、「当期にいくら納税するか」を計算する手続です。これに対して税効果会計は、「当期の利益に対応する税金費用はいくらか」「将来の税金負担は増えるのか、減るのか」を決算書に反映する手続だといえます。
この違いを理解しないまま処理を進めると、思わぬところで問題が生じます。繰延税金資産を過大に計上して純資産を実態以上に良く見せてしまう。将来使えるはずの税務上の損金や欠損金を見落とす。金融機関や株主に対して、利益と税金の関係をうまく説明できない。M&Aや組織再編の場面で、税務上の簿価差異を把握しきれない。いずれも、実務でしばしば見かける落とし穴です。
本記事では、税効果会計の基本を、法人税申告との関係から整理していきます。
なお、税効果会計に関する会計基準・適用指針は、改正されることがあります。企業会計基準委員会(ASBJ)の公表資料一覧によれば、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」は2025年3月11日公表・2026年1月9日修正、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」は2018年2月16日公表・2025年10月16日修正とされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針
税効果会計は「納税額」ではなく「税金費用」を整える会計処理
法人税申告では、会計上の利益を出発点としながら、法人税法上の益金・損金に合わせて調整を加え、課税所得を計算します。
法人税法22条は、各事業年度の所得の金額について、益金の額から損金の額を控除して計算すること、そして益金・損金の額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されることを定めています。
出典:e-Gov法令検索|法人税法
ただ、会計と税務では、そもそも目的が異なります。会計は、会社の経営成績や財政状態を利害関係者に伝えるための仕組みです。一方の税務は、課税の公平性や政策目的も踏まえたうえで、課税所得を計算する仕組みです。
目的が違えば、答えも一致しません。会計上の利益と法人税法上の課税所得は、通常ぴったり重なることはないのです。たとえば、会計上は引当金や評価損を計上していても、税務上はまだ損金算入の時期が到来していない、というケースがあります。反対に、特別償却や圧縮記帳のように、会計上の費用・資産評価とは異なる税務処理が生じることもあります。
税効果会計の目的は、企業会計上の資産または負債の額と、課税所得計算上の資産または負債の額に相違がある場合に、法人税等の額を適切に期間配分し、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることにあります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針
実務の言葉に置き換えれば、税効果会計は次のようなズレを調整しているといえます。
| 視点 | 法人税申告 | 税効果会計 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 当期の納税額・課税所得を計算する | 税引前利益と税金費用を合理的に対応させる |
| 見ている数字 | 課税所得、法人税額、税務調整 | 税金費用、繰延税金資産、繰延税金負債 |
| 期間の考え方 | 原則として当期の所得計算 | 将来の税負担・税金軽減効果まで考慮 |
| 成果物 | 法人税申告書、別表四、別表五(一)等 | 決算書、税効果計算資料、法人税等調整額 |
| 経営上の意味 | 納税資金、税務リスク、申告品質 | 利益表示、純資産、財務健全性、将来計画 |
ここで大切なのは、税効果会計を適用しても、原則として当期に納める法人税そのものは変わらない、という点です。変わるのは、決算書に表示される税金費用と、貸借対照表上の繰延税金資産・繰延税金負債なのです。
法人税等、法人税等調整額、繰延税金資産を分けて理解する
税効果会計を理解するうえで、まず整理しておきたいのが、次の3つの違いです。
| 用語 | 意味 | 決算書上の位置づけ |
|---|---|---|
| 法人税、住民税及び事業税 | 当期の課税所得等に基づき納付すべき税額 | 損益計算書の税金費用 |
| 法人税等調整額 | 税効果会計により、繰延税金資産・繰延税金負債の増減を損益に反映する額 | 損益計算書の税金費用の調整項目 |
| 繰延税金資産 | 将来の税金負担を軽減する効果があると見込まれる金額 | 貸借対照表の資産 |
| 繰延税金負債 | 将来の税金負担を増加させる効果があると見込まれる金額 | 貸借対照表の負債 |
具体的に考えてみましょう。当期に会計上は貸倒引当金を計上したものの、税務上はまだ損金算入できない、という場合です。
会計上は費用が発生し、利益は減っています。ところが税務上は損金にならないため、課税所得は会計利益より大きくなり、当期の法人税等は多くなります。
とはいえ、その貸倒引当金に対応する債権が将来貸倒れとなり、税務上の要件を満たせば、将来の事業年度で損金算入される可能性があります。つまり、当期は税金を多めに払うものの、将来は税金が減る可能性がある、というわけです。
この将来の税金軽減効果を、回収可能性を検討したうえで資産として表示したものが、繰延税金資産です。
逆に、税務上は先に損金算入したが会計上は将来費用になる場合や、圧縮記帳・特別償却などによって将来の課税所得を増やす方向の差異が残る場合には、繰延税金負債が生じることがあります。
一時差異とは何か
税効果会計の中心にある概念が、「一時差異」です。
ASBJの回収可能性適用指針では、一時差異とは、連結貸借対照表および個別貸借対照表に計上されている資産・負債の金額と、課税所得計算上の資産・負債の金額との差額をいうものとされています。そして、将来減算一時差異は解消時に課税所得を減額する効果を持つもの、将来加算一時差異は解消時に課税所得を増額する効果を持つものと整理されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針
実務では、次のように整理すると理解しやすくなります。
| 種類 | 意味 | 代表例 | 税効果会計上の方向 |
|---|---|---|---|
| 将来減算一時差異 | 将来、課税所得を減らす方向に解消する差異 | 貸倒引当金繰入限度超過額、賞与引当金否認、減価償却超過額、減損損失・評価損の税務否認 | 繰延税金資産の候補 |
| 将来加算一時差異 | 将来、課税所得を増やす方向に解消する差異 | 圧縮記帳積立金、特別償却準備金、税務上の収益繰延べ、その他有価証券評価差益に係る差異 | 繰延税金負債の候補 |
| 税務上の繰越欠損金 | 将来の課税所得と相殺できる可能性のある欠損金 | 青色欠損金など | 繰延税金資産の候補 |
| 永久差異 | 将来解消しない差異 | 交際費等の損金不算入額、寄附金損金不算入額、受取配当等の益金不算入額など | 原則として税効果の対象外 |
「一時差異」とは、その名のとおり、将来のどこかで解消される差異です。
たとえば減価償却超過額は、当期に税務上否認されても、将来の償却・売却・除却によって認容される可能性があります。貸倒引当金繰入限度超過額も、将来に貸倒れの事実が生じれば、税務上損金算入される可能性が残ります。
一方、交際費等の損金不算入額や寄附金の損金不算入額は、原則として将来戻ってきません。会計上は費用であっても、税務上は永久に損金にならない差異です。こうした差異は税効果会計の対象とはならず、永久差異として扱います。
実務上は、法人税申告書の別表四で留保欄に計上され、別表五(一)に転記されて翌期以降に繰り越されるものが一時差異に近く、別表四の社外流出欄に計上されるものが永久差異に近い、という整理ができます。ただし、すべての留保項目がそのまま繰延税金資産・負債になるわけではなく、解消時期や回収可能性の検討が欠かせません。
法人税申告書の別表と税効果会計のつながり
税効果会計は、決算書だけを眺めて計算できるものではありません。実際には、法人税申告書の別表四、別表五(一)、別表七(一)、別表六関係などと密接につながっています。
国税庁の法人税申告書作成上の留意点でも、会計処理と法人税の取扱いとの差異を、別表四「所得の金額の計算に関する明細書」と別表五(一)「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」で申告調整する例が示されています。
出典:国税庁|令和7年版 法人税のあらましと申告の手引 申告書作成上の留意点
主な対応関係は、次のとおりです。
| 申告書・資料 | 税効果会計での意味 |
|---|---|
| 別表四 | 加算・減算、留保・社外流出を確認する入口 |
| 別表五(一) | 留保された税務調整、税務上の資産・負債差額を把握する基礎資料 |
| 別表七(一) | 税務上の繰越欠損金を確認する資料 |
| 別表六関係 | 税額控除や繰越控除余裕額・限度超過額等を確認する資料 |
| 固定資産台帳 | 会計簿価と税務簿価、償却超過額、売却・除却予定を確認する資料 |
| 引当金・評価損資料 | 将来損金算入されるか、解消時期を検討する資料 |
| 事業計画 | 繰延税金資産の回収可能性を判断する資料 |
グループ通算制度の実務では、各通算会社が単体納税制度と同じ別表を作成します。そのため、一時差異等は別表五(一)、繰越欠損金は別表七(一)、繰越外国税額控除は別表六(三)などを基礎に集計する、という整理がなされます。単体法人であっても、税効果会計を検討する場面では、同じ発想が重要になります。
もっとも、別表五(一)の残高を機械的に合計し、税率を掛ければ正しい繰延税金資産が算出できる、というわけではありません。
税効果会計では、次の問いに答えていく必要があります。
- その差異は、本当に将来解消するのか。
- 解消するなら、いつ解消するのか。
- 解消する年度に課税所得が見込まれるのか。
- 税務上の繰越欠損金や控除限度により、実際に税負担を軽減できるのか。
- 法定実効税率は、解消年度に適用される税率を使っているか。
- 回収可能性を裏付ける事業計画・予算・タックスプランニングはあるか。
こうした確認を経ないまま繰延税金資産を計上すれば、決算書上の純資産を過大に表示してしまうリスクがあります。
税効果会計の計算プロセス
税効果会計は、おおむね次の流れで検討していきます。
| 手順 | 内容 | 実務で見る資料 |
|---|---|---|
| 1 | 会計と税務の差異を把握する | 別表四、別表五(一)、税務調整表、決算整理仕訳 |
| 2 | 一時差異と永久差異に分ける | 留保・社外流出、税務上の解消可能性 |
| 3 | 将来減算一時差異・将来加算一時差異に分類する | 税務上の認容・益金算入時期 |
| 4 | 解消年度をスケジューリングする | 固定資産台帳、債権管理表、引当金明細、処分計画 |
| 5 | 法定実効税率を適用する | 税率表、地方税率、外形標準課税の該当性 |
| 6 | 繰延税金資産の回収可能性を判断する | 事業計画、予算、過去課税所得、欠損金期限 |
| 7 | 法人税等調整額を計上する | 繰延税金資産・負債の期首期末差額 |
| 8 | 法人税申告書・税効果計算資料と整合させる | 別表四、別表五(一)、別表七(一) |
ASBJの適用指針第28号では、繰延税金資産・繰延税金負債の差額について、期首と期末の増減額を、原則として法人税等調整額を相手勘定として計上することが示されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針
実務でも、繰延税金資産・繰延税金負債の期首残高と期末残高の差額を、法人税等調整額として損益計算書に反映する、という形で処理されます。
ただし、その他有価証券評価差額金など、評価差額等を純資産の部に直接計上する場合には、税効果相当額も損益ではなく純資産の部に反映されることがあります。税効果会計は、常に法人税等調整額だけに現れるわけではない、という点は押さえておきたいところです。
法定実効税率は「将来の解消年度」を意識する
繰延税金資産・繰延税金負債は、将来の税金影響を見積もるものです。したがって、単に当期の法人税率を掛ければよい、というわけにはいきません。
ASBJの適用指針第28号では、繰延税金資産・繰延税金負債の金額は、回収または支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算するものとされています。そして、法人税・地方法人税・特別法人事業税、住民税・事業税については、決算日に国会で成立している税法・地方税法等に基づく税率を用いることが示されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針
この点は、実務で見落とされやすい論点です。たとえば税率改正が成立している場合、将来解消する一時差異には、解消年度に適用される税率を用いる必要があります。複数の地方自治体に事業所を有する会社、外形標準課税の対象となる会社、グループ通算制度を適用している会社では、法定実効税率の把握がさらに複雑になります。
税効果会計を経営判断に活かすには、「税率を何%で置いたのか」まで説明できることが求められます。
繰延税金資産は「将来使える」と判断できる範囲だけ計上する
繰延税金資産は、将来の税金負担を軽減する効果を、資産として計上するものです。
ところが、将来の課税所得が見込めない会社が、多額の将来減算一時差異や繰越欠損金を抱えていても、税金を減らす効果は発揮されません。赤字が続いて法人税が発生しないのであれば、損金算入できる差異や欠損金があったところで、実際の節税効果は生じにくいからです。
ASBJの回収可能性適用指針では、将来減算一時差異や税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産について、将来の一時差異等加減算前課税所得、タックスプランニング、将来加算一時差異との相殺などを踏まえたうえで、税金負担額を軽減できると認められる範囲内で計上するものとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針
回収可能性を判断するうえで、特に重要になるのが次の3つです。
| 判断要素 | 内容 | 実務上の確認資料 |
|---|---|---|
| 収益力 | 将来課税所得が十分に発生するか | 過去の課税所得、予算、事業計画、受注状況 |
| タックスプランニング | 含み益資産の売却など、課税所得を発生させる計画があるか | 売却方針、稟議書、鑑定評価、取締役会資料 |
| 将来加算一時差異 | 将来課税所得を増やす差異があるか | 圧縮積立金、特別償却準備金、税務上の収益繰延べ等 |
また、繰延税金資産の回収可能性判断では、将来減算一時差異と将来加算一時差異の解消見込額を年度ごとに相殺し、それでも相殺できない部分について将来課税所得と照合し、なお回収できない部分は繰延税金資産から控除する、という手順が定められています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針
つまり、繰延税金資産を計上するには、「将来損金になる可能性がある」というだけでは足りません。
どの年度に解消するのか。その年度に課税所得があるのか。繰越欠損金の期限内に使えるのか。事業計画は合理的か。そして、その計画は取締役会や経営会議で承認されたものか。
ここまで確認して、はじめて説明可能な繰延税金資産になるのです。
企業分類と回収可能性|黒字会社でも油断できない
繰延税金資産の回収可能性は、会社の収益力や欠損金の状況に応じて判断します。
ASBJの回収可能性適用指針では、過去の課税所得、将来課税所得の見込み、重要な税務上の欠損金の発生状況などによって企業を分類し、その分類に応じて回収可能と認められる繰延税金資産の範囲を判断する、という枠組みが示されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針
大まかには、次のように整理できます。
| 分類 | 会社の状態 | 繰延税金資産の考え方 |
|---|---|---|
| 分類1 | 過去・当期に安定して十分な課税所得があり、近い将来に大きな変化が見込まれない | 原則として全額の回収可能性がある |
| 分類2 | 課税所得は安定しているが、将来減算一時差異を十分上回るほどではない | スケジューリングされた範囲で回収可能 |
| 分類3 | 課税所得が大きく増減している | おおむね5年以内など合理的な見積可能期間で判断 |
| 分類4 | 重要な税務上の欠損金が生じている、または期限切れがある | 原則として翌期の課税所得見込みなど限定的に判断 |
| 分類5 | 過去・当期に重要な欠損金が続き、翌期も欠損が見込まれる | 原則として回収可能性はない |
ここで注意しておきたいのは、黒字会社だからといって繰延税金資産をすべて計上できるわけではない、という点です。
会計上は黒字でも、税務上の課税所得が安定していない会社があります。一時的な資産売却益で黒字になっているだけの会社もあります。過去に欠損金が発生している会社では、将来計画の合理性が、より厳しく問われることになります。
しかも、将来計画は希望的観測では足りません。ASBJの適用指針では、将来課税所得の見積りについて、合理的な仮定に基づく業績予測を用い、適切な権限を有する機関の承認を得た数値を、外部環境や内部情報と整合的に修正して見積もることが示されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針
税効果会計は、単なる会計処理ではなく、会社の将来計画の信頼性そのものを問う処理でもあるのです。
税効果会計でよく問題になる一時差異
実務で頻出する一時差異を、法人税申告との関係で整理すると、次のようになります。
| 項目 | 会計処理 | 税務処理 | 税効果会計上の見方 |
|---|---|---|---|
| 減価償却超過額 | 会計上償却費を計上 | 税務上償却限度超過額を損金不算入 | 将来減算一時差異 |
| 賞与引当金 | 会計上引当計上 | 税務上債務確定要件等により損金時期が異なる | 将来減算一時差異 |
| 貸倒引当金 | 会計上回収不能見込みを反映 | 税務上限度額・貸倒要件により差異が生じる | 将来減算一時差異 |
| 棚卸資産評価損 | 会計上評価損計上 | 税務上損金算入要件を満たさない場合がある | 将来減算一時差異となる可能性 |
| 固定資産減損損失 | 会計上減損損失計上 | 税務上損金算入が認められない場合が多い | 売却・除却等により解消する可能性 |
| 圧縮記帳積立金 | 会計・税務で差異が残る | 将来取崩し・減価償却により課税所得へ影響 | 将来加算一時差異 |
| 特別償却準備金 | 税務上の特例処理 | 将来取崩しにより益金算入 | 将来加算一時差異 |
| 税務上の繰越欠損金 | 会計上は資産ではない | 将来課税所得と相殺可能 | 回収可能性があれば繰延税金資産の候補 |
| 交際費損金不算入 | 会計上費用 | 税務上損金不算入 | 永久差異 |
| 受取配当等益金不算入 | 会計上収益 | 税務上益金不算入 | 永久差異 |
とりわけ、貸倒引当金、評価損、減損損失、繰越欠損金は、税効果会計上も法人税務上も判断が難しくなります。
これらは「将来損金になる可能性がある」というだけでは足りません。将来の貸倒れ、売却、除却、回収不能、さらには事業計画、課税所得、欠損金期限まで確認したうえで、繰延税金資産を計上できるかどうかを判断する必要があります。
法人税等調整額が大きいときに見るべきポイント
損益計算書に大きな法人税等調整額が出ている場合、経営者はその理由を確認しておくべきです。
法人税等調整額は、当期の納税額そのものではありません。とはいえ、会社の将来税負担や純資産には大きく影響します。
| 法人税等調整額の動き | 主な原因 | 経営上の確認点 |
|---|---|---|
| マイナスの法人税等調整額が大きい | 繰延税金資産の増加、繰延税金負債の減少 | 将来の課税所得により本当に回収できるか |
| プラスの法人税等調整額が大きい | 繰延税金資産の取崩し、繰延税金負債の増加 | 事業計画悪化、欠損金期限切れ、評価性引当の増加がないか |
| 毎期大きく変動する | 一時差異の解消、税率変更、回収可能性の見直し | 利益計画や税務調整の安定性に問題がないか |
| 納税額と税金費用が大きく違う | 一時差異・永久差異・欠損金の影響 | 金融機関や株主へ説明できるか |
税効果会計を適用している会社では、「当期の納税額」と「損益計算書上の税金費用」がズレます。
このズレをきちんと説明できないと、金融機関や投資家に対して、利益の質や将来の税負担を語ることができません。とりわけ繰延税金資産が大きい会社では、純資産のうちどの程度が将来の課税所得を前提とした資産なのかを、あらかじめ把握しておく必要があります。
税効果会計と資金繰りを混同しない
税効果会計は、資金繰りと直接一致するものではありません。
繰延税金資産を計上したからといって、当期に現金が入ってくるわけではありません。法人税等調整額がマイナスになっても、納税資金が減るとは限りません。税務上の繰越欠損金があっても、将来黒字が出なければ納税軽減効果は生じません。
だからこそ、経営管理の場面では、次の3つを分けて見ておく必要があります。
| 数字 | 意味 | 管理目的 |
|---|---|---|
| 納付税額 | 実際に支払う税金 | 資金繰り、納税資金準備 |
| 税金費用 | 損益計算書に表示される税金負担 | 利益管理、業績評価 |
| 繰延税金資産・負債 | 将来の税金軽減・増加見込 | 純資産、将来計画、財務説明 |
たとえば、赤字年度に多額の繰延税金資産を計上すると、損益計算書上は税金費用が軽くなり、純資産も厚く見えることがあります。
しかし、その資産はあくまで、将来の課税所得が発生することを前提としたものです。事業計画が崩れれば、繰延税金資産の取崩しによって、将来の損益に大きなマイナスの影響が及ぶ可能性があります。
税効果会計は、会社の将来収益力を数字に織り込む処理です。だからこそ、安易な計上は避けるべきなのです。
税効果会計と別表五(一)の整合性
税効果会計を適用する会社では、別表五(一)の留保項目と、税効果計算資料との整合性が重要になります。
ただし、別表五(一)の利益積立金額に残っている項目が、そのまま繰延税金資産・負債になるわけではありません。
確認しておきたいのは、次の対応関係です。
| 別表上の項目 | 税効果会計での確認 |
|---|---|
| 別表四の加算・留保 | 将来減算一時差異となるか |
| 別表四の減算・留保 | 将来加算一時差異の解消か |
| 別表四の社外流出 | 永久差異として税効果対象外か |
| 別表五(一)の残高 | 一時差異の期末残高と一致するか |
| 別表七(一)の欠損金 | 繰越期限と将来課税所得を確認したか |
| 税額控除の繰越 | 回収可能性・適用期限を確認したか |
別表五(一)に古い減価償却超過額、貸倒否認額、評価損否認額などが残っている場合には、その残高が実態と合っているかを確認する必要があります。
対象資産がすでに売却・除却されているのに、税務調整だけが残っている。貸倒れが発生しているのに、過年度の否認残高が解消されていない。修正申告や更正後の別表五(一)が、税効果計算に反映されていない。
こうした状態を放置すると、税効果会計も法人税申告も、将来に向けて連鎖的に誤っていく可能性があります。
税効果会計を適用していない会社でも、考え方は重要
中小企業や非上場会社では、税効果会計を財務諸表に正式に適用していないケースもあります。適用の要否や範囲は、会社の会計方針、監査の有無、金融機関・株主・親会社への報告要請などによって異なります。
もっとも、税効果会計を適用していない会社であっても、その考え方そのものは重要です。なぜなら、税効果会計が扱う論点は、いずれも会社の将来税負担に直結するからです。
| 税効果会計の論点 | 税効果会計を適用していない会社でも重要な理由 |
|---|---|
| 一時差異 | 将来損金算入・益金算入される税務調整を把握できる |
| 繰越欠損金 | 将来黒字化したときの税負担を見通せる |
| 回収可能性 | 将来利益計画の現実性を確認できる |
| 永久差異 | 節税効果のない支出を把握できる |
| 税率差異 | 会計利益に対する実質的な税負担を説明できる |
| 別表五(一)残高 | M&A・承継・清算前の税務履歴確認に役立つ |
税効果会計は、上場会社や監査対象会社だけの専門論点ではありません。中小企業であっても、金融機関に対する説明、M&Aの税務デューデリジェンス、事業承継時の株価評価、組織再編、解散・清算、債務免除、繰越欠損金の利用判断といった場面で、同じ考え方が必要になります。
実務でよくある誤り
1. 繰延税金資産を「将来必ず使える資産」と考える
繰延税金資産は、現金預金や売掛金とは性質が異なります。
価値を持つのは、将来課税所得が発生し、税務上の差異や欠損金を実際に使える場合に限られます。赤字が続く会社、事業計画の確度が低い会社、欠損金の期限切れが近い会社では、繰延税金資産を十分に計上できない可能性があります。
2. 永久差異まで税効果の対象にしてしまう
交際費等の損金不算入額、寄附金の損金不算入額、受取配当等の益金不算入額などは、原則として将来解消しません。
これらは永久差異であり、税効果会計の対象にはなりません。「会計と税務が違うものはすべて税効果」と考えるのは、誤りです。
3. 別表五(一)の残高をそのまま税効果計算に使う
別表五(一)は重要な基礎資料ですが、その残高がすべて一時差異として回収可能とは限りません。
税務上の損金算入時期が不明確な項目、将来解消しない可能性がある項目、既に実態がなくなっている項目、資本等取引に関する項目などは、個別に確認が必要です。
4. 繰越欠損金に税率を掛けて全額資産計上する
繰越欠損金は、将来課税所得と相殺できて、はじめて税金軽減効果が生まれます。
欠損金の繰越期限、控除限度、将来課税所得、組織再編やグループ通算制度による制限を確認しないまま、繰延税金資産を計上することはできません。
5. 事業計画が会計・税務とつながっていない
繰延税金資産の回収可能性を判断する事業計画は、単なる営業目標では足りません。
会計上の利益から、税務上の加算・減算、欠損金控除、税額控除、設備投資、減価償却、役員報酬、賞与、貸倒れ、資産売却などを反映して、将来課税所得を見積もる必要があります。
経営判断への影響
税効果会計は、税務・会計の技術論にとどまるものではありません。経営判断にも、次のように影響してきます。
| 経営場面 | 税効果会計が影響するポイント |
|---|---|
| 月次・決算管理 | 会計利益と税金費用の関係を把握できる |
| 資金繰り | 税金費用と納付税額を分けて管理できる |
| 金融機関対応 | 純資産に含まれる繰延税金資産の性質を説明できる |
| 事業計画 | 将来課税所得の見通しを数値化する必要がある |
| M&A | 税務上の簿価差異、欠損金、繰延税金資産の妥当性が確認される |
| 組織再編 | 税務上の資産負債、欠損金制限、税効果への影響を検討する必要がある |
| 事業承継 | 純資産、株価、将来税負担の見通しに影響する |
| 解散・清算 | 繰延税金資産の回収可能性が大きく変わる |
| グループ通算制度 | 単体とグループで回収可能性の見方が変わることがある |
税効果会計は、決算書の見栄えを整えるための処理ではありません。会社の将来課税所得、収益力、資産処分方針、税務上の差異、欠損金の利用可能性を可視化するための処理なのです。
税効果会計を確認するための実務チェックリスト
税効果会計を検討する際には、次の項目を確認しておきましょう。
| チェック項目 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 税効果会計の適用要否 | 会計方針、監査の有無、金融機関・株主・親会社への報告要請 |
| 一時差異の網羅性 | 別表四、別表五(一)、固定資産台帳、引当金明細との整合 |
| 永久差異の区分 | 交際費、寄附金、受取配当等を税効果対象にしていないか |
| 繰越欠損金 | 繰越期限、控除限度、将来課税所得、組織再編制限 |
| スケジューリング | いつ差異が解消するか、根拠資料があるか |
| 回収可能性 | 過去課税所得、将来事業計画、タックスプランニング |
| 法定実効税率 | 解消年度の税率、地方税率、外形標準課税の有無 |
| 法人税等調整額 | 期首期末の繰延税金資産・負債の増減と一致するか |
| 純資産への影響 | 繰延税金資産が純資産をどの程度押し上げているか |
| 申告書との整合 | 別表五(一)、別表七(一)、税額控除明細との整合 |
このチェックは、決算期末だけで行おうとすると、手遅れになることがあります。とりわけ、赤字転落、事業撤退、固定資産売却、減損、貸倒れ、M&A、組織再編、グループ通算制度の開始・離脱を検討している会社では、早めに税効果会計への影響を確認しておくべきです。
専門家に相談すべきタイミング
次のような場面では、税効果会計と法人税申告を一体で確認する必要があります。
| 相談すべき場面 | 理由 |
|---|---|
| 繰延税金資産が大きくなっている | 純資産の実質性と回収可能性を確認する必要がある |
| 赤字・欠損金が発生している | 欠損金の利用可能性と回収可能性判断が必要 |
| 減損損失・評価損を計上した | 税務上損金になる時期と税効果の要否を確認する必要がある |
| 貸倒損失・債権放棄を検討している | 一時差異、損金算入時期、回収可能性が変わる |
| 事業計画を見直した | 将来課税所得の見積りが変わり、繰延税金資産の取崩しが必要になる場合がある |
| M&A・組織再編を検討している | 税務上の簿価差異、欠損金、税効果への影響を把握する必要がある |
| グループ通算制度を適用している | 単体税務と通算税効果の整理が必要 |
| 金融機関・株主へ決算説明する | 税金費用、純資産、繰延税金資産の性質を説明する必要がある |
税効果会計は、会計基準だけを見ても、法人税申告書だけを見ても、正しく判断することはできません。会計処理、税務調整、別表、事業計画、資金繰り、将来の取引予定を一つにつなげて検討する必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
税効果会計は、法人税申告とは別の専門論点のように見えます。しかし実際には、別表四・別表五(一)、繰越欠損金、税額控除、固定資産、貸倒れ、評価損、グループ通算制度、組織再編、M&A、事業承継と、深くつながっています。
繰延税金資産をどこまで計上してよいか。法人税等調整額の変動をどう説明すべきか。別表五(一)の残高と税効果計算資料が整合しているか。将来課税所得の見積りに無理はないか。これらはいずれも、会社の決算書の信頼性と経営判断に直結する論点です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人税申告書の作成にとどまらず、税務調整、別表管理、税効果会計、将来課税所得、事業計画、金融機関説明、そしてM&A・組織再編・事業承継への影響まで含めて整理いたします。
繰延税金資産の計上額に不安がある、赤字・欠損金が発生している、別表五(一)の残高と決算書の関係を確認したい、M&Aや組織再編の前に税務・会計上の差異を整理しておきたい。そうした場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページから、どうぞお気軽にご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 項目 | 重要ポイント |
|---|---|
| 税効果会計の目的 | 税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させること |
| 法人税申告との違い | 法人税申告は納税額を計算し、税効果会計は税金費用と将来税負担を表示する |
| 法人税等調整額 | 繰延税金資産・繰延税金負債の増減を損益に反映する項目 |
| 繰延税金資産 | 将来の税金負担を軽減する効果が見込まれる場合に計上する資産 |
| 繰延税金負債 | 将来の税金負担を増加させる効果が見込まれる場合に計上する負債 |
| 一時差異 | 会計上と税務上の資産・負債の差額で、将来解消するもの |
| 将来減算一時差異 | 将来、課税所得を減らす効果を持つ差異 |
| 将来加算一時差異 | 将来、課税所得を増やす効果を持つ差異 |
| 永久差異 | 将来解消しない差異で、原則として税効果会計の対象外 |
| 別表四との関係 | 留保・社外流出の区分が一時差異・永久差異の判断に関係する |
| 別表五(一)との関係 | 留保された税務調整の残高を確認する重要資料 |
| 繰越欠損金 | 将来課税所得と相殺できる範囲で繰延税金資産の候補になる |
| 回収可能性 | 将来課税所得、タックスプランニング、将来加算一時差異を踏まえて判断する |
| 事業計画 | 繰延税金資産の計上を支える重要な根拠資料になる |
| 経営上の意味 | 利益表示、純資産、金融機関説明、M&A、承継、再編に影響する |