会社を閉じる。事業を整理する。債務超過を解消する。個人成りする。スポンサーへ事業を移す。こうした「会社の出口局面」では、通常の決算申告とは種類の異なる判断が、一度に押し寄せてきます。
多くの会社では、出口局面に入ってから、ようやく過去の申告書や借入契約、保証契約、固定資産台帳、株主名簿、債権債務明細を探し始めます。ところが、その段階になって資料が足りないと、判断そのものが後手に回ります。債務免除益の課税、期限切れ欠損金の利用、残余財産分配、みなし配当、消費税、源泉所得税、そして税務調査への対応。いずれも、資料がなければ動きようがありません。
出口局面の税務は、最後の申告書を作るだけの作業ではありません。会社の資産と債務を実態ベースで確定し、株主・債権者・金融機関・税務署・後継者・買い手に対して、数字を説明できる状態を整えていく作業です。
本記事では、解散・清算、債務超過、債務免除、個人成り、法的整理を検討する前に、会社として整理しておきたい税務・財務資料を、実務の目線から解説します。
出口局面では「資料がないこと」自体がリスクになる
会社の出口局面では、次のような判断が求められます。
| 判断事項 | 必要になる資料 |
|---|---|
| 清算できるか | 資産負債明細、債権債務明細、資金繰り表 |
| 債務免除益が課税されるか | 借入契約、債権放棄通知、別表五(一)、別表七(一) |
| 期限切れ欠損金を使えるか | 過去申告書、別表五(一)、実態貸借対照表 |
| 残余財産を分配できるか | 株主名簿、資本金等の額、利益積立金額、現預金残高 |
| 固定資産を売却・移転できるか | 固定資産台帳、登記簿、取得資料、担保資料、時価資料 |
| オーナー貸付金を整理できるか | 役員借入金明細、金銭消費貸借契約、返済履歴 |
| 消費税が発生するか | 資産売却資料、課税事業者判定、消費税申告書 |
| 未払税金が残っていないか | 納税証明、税務署・自治体からの通知、源泉所得税資料 |
| 税務調査に耐えられるか | 契約書、請求書、議事録、稟議書、総勘定元帳 |
資料が不足していると、専門家であっても正確な判断はできません。たとえば、帳簿上は役員借入金が残っているのに、実際には過去に返済済みで、その資料が見当たらない。固定資産台帳には機械が計上されているのに、現物はすでに廃棄されている。株主名簿が更新されておらず、相続で株式が分散したまま放置されている。こうした状態では、清算手続も税務申告も、最初の事実確認からやり直すことになります。
出口局面で最初に取り組むべきは、「税額を試算すること」ではありません。「税額を試算できる資料状態を整えること」が先です。
会社法上も、清算人は財産目録・貸借対照表を作成する
株式会社が解散し清算に入ると、清算人は会社財産の現況を調査したうえで、解散時点の財産目録と貸借対照表を作成し、株主総会の承認を受けなければなりません。加えて、清算株式会社では、各清算事務年度ごとに貸借対照表・事務報告・附属明細書を作成する必要があります。出典:裁判所|清算人の職務の内容等
ここで押さえておきたいのは、税務資料の整理と、会社法上の清算資料の整理が、別々の作業ではないということです。
清算人が作成する財産目録・貸借対照表は、会社法上の手続資料であると同時に、税務上の所得計算、債務免除益、残余財産分配、期限切れ欠損金の判断にも直接影響します。
| 会社法上の資料 | 税務上の意味 |
|---|---|
| 財産目録 | 資産の実在性、換価可能性、残余財産の有無を確認する基礎 |
| 貸借対照表 | 債務超過、期限切れ欠損金、債務免除益の検討に影響 |
| 事務報告 | 清算中の資産処分・債務弁済の経過を説明する資料 |
| 決算報告 | 清算結了時の最終的な資産・負債・分配の根拠 |
| 株主総会議事録 | 解散、清算人選任、財産目録承認、清算結了承認の根拠 |
清算を「登記手続」としてだけ進めてしまうと、税務申告との整合が崩れます。財産目録と税務上の実態貸借対照表、決算報告と法人税申告書、株主総会議事録と残余財産分配資料。これらが互いに一致しているかを、確認しておく必要があります。
まず整理すべき資料は大きく4分類に分ける
出口局面で必要になる資料は、闇雲に集めても意味がありません。目的別に整理していきます。
| 分類 | 主な資料 | 目的 |
|---|---|---|
| 会社の基礎資料 | 定款、登記事項証明書、株主名簿、議事録、組織図 | 誰が意思決定し、誰に分配・課税関係が及ぶかを確認する |
| 税務申告資料 | 法人税申告書、地方税申告書、消費税申告書、別表、届出書 | 欠損金、税務調整、申告期限、過去リスクを確認する |
| 財務・会計資料 | 決算書、試算表、総勘定元帳、固定資産台帳、棚卸表 | 資産・負債・損益の実態を確認する |
| 契約・債権債務資料 | 借入契約、保証契約、担保資料、売買契約、賃貸借契約 | 清算・弁済・免除・移転・解除に伴う税務影響を確認する |
この4分類が揃って、はじめて選択肢を並べて比較できます。会社を閉じるのか。事業だけを残すのか。個人へ戻すのか。スポンサーに譲渡するのか。債務免除を受けるのか。いずれの道を選ぶにしても、判断の土台はこの4分類です。
1. 会社の基礎資料|株主・役員・意思決定を確認する
出口局面では、誰が株主か、誰が代表者か、誰が保証人か、そして誰が清算人になるのかが重要になります。
特に中小企業では、株主名簿が古いまま、株券発行会社かどうかが判然としない、過去の相続で株式が分散している、役員変更登記が遅れている、といった問題が少なくありません。
整理すべき会社基礎資料
| 資料 | 確認するポイント |
|---|---|
| 定款 | 事業目的、株式譲渡制限、株券発行の有無、決算期 |
| 登記事項証明書 | 会社の本店、目的、役員、資本金、解散・清算人登記 |
| 株主名簿 | 株主、持株数、議決権、相続・譲渡履歴 |
| 過去の株主総会議事録 | 解散決議、役員選任、報酬、退職金、重要資産処分 |
| 取締役会議事録 | 借入、担保提供、事業譲渡、固定資産売却、債権放棄 |
| 組織図・グループ図 | 関係会社、親子会社、完全支配関係の有無 |
| 役員・親族関係図 | 同族関係、オーナー貸付金、保証関係、株価影響 |
| 株式移動資料 | 贈与契約、譲渡契約、相続協議書、株券・名義書換資料 |
株主名簿は、株主の氏名・住所・所有株式数を確認するだけの資料ではありません。議決権の有無、自己株式、議決権制限株式まで確認しておかなければ、株主総会決議や清算結了承認の前提を誤りかねません。組織再編や登記手続の場面でも、株主名簿にとどまらず、議決権の状況まで見ておく必要があります。
出口局面で株主資料が曖昧なままだと、その影響は残余財産分配、みなし配当、相続・贈与、少数株主対応へと広がっていきます。株主が親族だけであっても、「誰が実際に株式を持っているか」を確認せずに清算を進めるべきではありません。
2. 税務申告資料|過去の申告書は最低でも直近数期分、論点によっては10年分を見る
会社の出口局面では、直近の決算書だけでは足りません。繰越欠損金、別表五(一)の利益積立金額、税務調整、税額控除、圧縮積立金、未払事業税、貸倒引当金、仮装経理の修正。こうした論点は、過去の法人税申告書までさかのぼらなければ確認できないからです。
整理すべき税務資料
| 資料 | 確認するポイント |
|---|---|
| 法人税申告書一式 | 別表一、四、五(一)、五(二)、七(一)、十六、適用額明細書 |
| 地方法人税・法人住民税・法人事業税申告書 | 均等割、外形標準課税、事業税所得割、繰越欠損金 |
| 消費税申告書 | 課税事業者判定、本則・簡易、課税売上割合、資産売却時の課税 |
| 勘定科目内訳明細書 | 債権債務、借入金、役員貸付金、関係会社取引 |
| 申告期限延長届出書 | 通常申告の期限、残余財産確定事業年度での扱い |
| 青色申告承認関係資料 | 欠損金控除・繰戻還付との関係 |
| 税務調査資料 | 過去の指摘事項、修正申告、更正通知、加算税 |
| 納税証明・未納税額資料 | 未払税金、滞納、差押え、納税猶予 |
| e-Taxメッセージボックス | 申告受信通知、納付情報、届出提出履歴 |
法人の帳簿書類は、原則としてその事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存することとされています。青色申告で欠損金額が生じた事業年度などでは、保存期間は10年間です。ここでいう帳簿には総勘定元帳、仕訳帳、固定資産台帳などが含まれ、書類には棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書などが含まれます。出典:国税庁|No.5930 帳簿書類等の保存期間
もっとも、税務資料は保存してさえいればよいというものではありません。出口局面では、別表五(一)と別表七(一)を中心に、税務上の純資産と欠損金の履歴を読み解いていく必要があります。
3. 決算書・総勘定元帳|帳簿上の数字と実態を照合する
出口局面では、帳簿上の資産と負債が実在しているかを確認します。
通常の決算であれば、前年踏襲で残っている科目があっても、すぐには問題化しないことがあります。しかし、会社を閉じる段階では話が別です。帳簿上の資産・負債を残したまま清算を結了させることはできません。
整理すべき会計資料
| 資料 | 確認するポイント |
|---|---|
| 直近試算表 | 現時点の資産・負債・損益の全体像 |
| 決算書 | 過去数期の利益推移、債務超過、純資産 |
| 総勘定元帳 | 取引の発生原因、相手先、日付、証憑との一致 |
| 補助元帳 | 売掛金、買掛金、借入金、固定資産、役員勘定 |
| 現預金明細 | 残高証明、通帳、ネットバンキング明細 |
| 棚卸表 | 在庫の実在性、評価、廃棄、滞留 |
| 固定資産台帳 | 取得日、取得価額、簿価、償却、現物、担保 |
| 未払金・未払費用明細 | 未払税金、社会保険、給与、退職金、士業報酬 |
| 仮払金・立替金明細 | 役員・従業員への貸付、使途不明金 |
| 前払費用・長期前払費用 | 解約返戻、保険、リース、保証料 |
ここで避けたいのは、「帳簿に載っているから資産がある」「帳簿にないから債務はない」と早合点することです。出口局面では、帳簿を出発点としながらも、実物、契約、残高証明、相手先確認、登記、担保、保証まで一つひとつ照合していきます。
4. 資産負債明細|実態貸借対照表の基礎を作る
債務超過、債務免除、期限切れ欠損金を検討する場合、帳簿上の貸借対照表だけでは足りません。税務上は、残余財産がないと見込まれることを説明する資料として、資産・負債の価額により作成される実態貸借対照表が重要な役割を担います。
国税庁は、解散法人に残余財産がないと見込まれる場合の期限切れ欠損金の損金算入制度について、債務超過の状態は一般に実態貸借対照表によって確認できるとの考え方を示しています。出典:国税庁|解散法人の残余財産がないと見込まれる場合の損金算入制度における「残余財産がないと見込まれるとき」の判定について
また、法人税基本通達では、「残余財産がないと見込まれる」かどうかを、清算中に終了する各事業年度終了時の現況によって判定するものとし、説明書類として実態貸借対照表が例示されています。資産価額は原則として処分価格によりますが、事業譲渡などを前提として資産が継続使用される見込みである場合には、使用収益されるものとして通常付される価額によるとされています。出典:国税庁|第3節 会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金
実態貸借対照表の作成で確認する資料
| 項目 | 確認資料 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 現預金 | 通帳、残高証明、入出金明細 | 代表者個人口座との混同を確認 |
| 売掛金 | 得意先別明細、請求書、入金履歴 | 回収可能性、相殺、貸倒れを確認 |
| 棚卸資産 | 棚卸表、実地棚卸記録、廃棄証明 | 滞留・陳腐化・実在性を確認 |
| 固定資産 | 固定資産台帳、現物写真、売却見積 | 帳簿残だけでなく処分価値を確認 |
| 不動産 | 登記事項証明書、固定資産評価証明、査定書 | 担保、差押え、賃貸借、時価を確認 |
| 投資有価証券 | 株主名簿、決算書、評価資料 | 回収可能性、清算価値、関係会社債務を確認 |
| 保険積立金 | 保険証券、解約返戻金証明 | 解約時期と課税関係を確認 |
| 借入金 | 借入契約、返済予定表、残高証明 | 保証・担保・期限の利益喪失を確認 |
| 買掛金・未払金 | 仕入先明細、請求書、支払履歴 | 債務免除・時効・相殺の有無を確認 |
| 未払税金 | 税務署・自治体通知、納税証明 | 延滞税、加算税、源泉税を確認 |
| 保証債務 | 保証契約、念書、金融機関資料 | 簿外債務としての発生可能性を確認 |
実態貸借対照表は、金融機関向けの説明資料であると同時に、税務上の資料でもあります。特に期限切れ欠損金を検討する場面では、「債務超過です」と述べるだけでは足りません。どの資産をどの価額で評価し、どの負債をどの根拠で計上したのかを、資料として残しておく必要があります。
5. 債権債務資料|貸倒れ・債務免除・相殺を判断する
出口局面では、債権債務の整理が税務に直結します。
売掛金が回収不能であれば、貸倒損失の検討が必要になります。買掛金や借入金の免除を受ければ、会社側では債務免除益が発生する可能性があります。オーナー借入金を放棄する場合も、法人側の益金、株価の上昇、既存株主へのみなし贈与まで確認しておかなければなりません。
債権債務ごとに整理すべき資料
| 区分 | 整理資料 | 判断論点 |
|---|---|---|
| 売掛金 | 得意先別残高、請求書、契約書、入金履歴 | 回収可能性、貸倒損失、相殺 |
| 貸付金 | 金銭消費貸借契約、返済履歴、利息計算 | 回収不能、寄附金、役員給与 |
| 関係会社債権 | 契約書、取引理由、支援資料 | 寄附金、貸倒損失、グループ法人税制 |
| 買掛金 | 仕入先別残高、請求書、支払合意 | 債務免除益、時効、相殺 |
| 借入金 | 借入契約、返済予定表、残高証明 | 担保、保証、債務免除、DES |
| 役員借入金 | 代表者との契約、入金履歴、返済履歴 | 債務免除益、相続財産、株価影響 |
| 未払給与・退職金 | 賃金台帳、退職金規程、議事録 | 源泉所得税、損金算入時期 |
| 未払税金 | 納付書、督促状、納税証明 | 滞納、延滞税、差押え |
| 保証債務 | 保証契約、担保資料、金融機関説明 | 簿外債務、求償権、清算可能性 |
オーナーが会社に対する貸付金を放棄すると、会社側では債務免除益が益金として発生します。そのため、通常は繰越欠損金や所得圧縮策を確認したうえで実行します。さらに、株価の上昇を通じて、既存株主側でみなし贈与が問題となることもあります。
債務免除は、資金繰りを改善する手段である一方で、税務上は利益を生み出す取引でもあります。出口局面では、「返さなくてよくなった債務」ほど、丁寧な資料化が求められます。
6. 借入・保証・担保資料|会社だけでなく代表者個人の出口にも影響する
会社の清算・廃業では、会社債務にとどまらず、経営者保証も問題になります。
会社が解散しても、代表者の保証債務が残る場合があります。金融機関との交渉、保証債務の整理、担保不動産の処分、求償権の発生。これらは、法人税・所得税・相続税のいずれにも波及し得る論点です。
借入・保証で整理すべき資料
| 資料 | 確認するポイント |
|---|---|
| 借入契約書 | 借入主体、金額、利率、返済期限、期限の利益喪失条項 |
| 返済予定表 | 元本残高、利息、遅延損害金 |
| 残高証明書 | 金融機関別の実残高 |
| 担保設定契約 | 不動産、預金、売掛金、機械設備への担保 |
| 登記簿・不動産謄本 | 抵当権、根抵当権、差押え |
| 保証契約書 | 代表者保証、第三者保証、保証極度額 |
| 経営者保証解除・整理資料 | 金融機関との交渉履歴、事業計画、資産目録 |
| リース契約 | 所有権移転外リース、解約損、残債 |
| 補助金・助成金資料 | 財産処分制限、返還義務 |
経営者保証は、借入時、保証契約中、そして保証債務整理という段階ごとに、検討すべき事項が変わります。保証債務の整理においては、主債務が完済不能と見込まれる状況のもとで、経済合理性や残存資産の範囲などが論点になります。
会社の出口を考えるときは、「法人を閉じれば終わり」ではありません。代表者個人の保証、担保、相続財産、生活資金まで含めて、最終的にどこに債務が残るのかを確認しておきます。
7. 固定資産・不動産資料|売却・廃棄・現物分配で税務が変わる
固定資産は、出口局面で最も税務影響が大きくなりやすい項目です。
事業用不動産、機械、車両、ソフトウェア、リース資産。これらをどう処分するかによって、法人税、消費税、登録免許税、不動産取得税、固定資産税、譲渡所得、みなし配当と、影響する税目が変わってきます。
固定資産で整理すべき資料
| 資料 | 確認するポイント |
|---|---|
| 固定資産台帳 | 取得価額、簿価、償却累計額、耐用年数 |
| 請求書・売買契約書 | 取得価額と付随費用 |
| 現物写真・管理台帳 | 実在性、使用状況、廃棄状況 |
| 売却見積・査定書 | 処分価値、時価、売却損益 |
| 廃棄証明・マニフェスト | 除却損・廃棄損の根拠 |
| 不動産登記簿 | 所有者、担保、差押え、地目 |
| 固定資産税評価証明 | 固定資産税、評価額の参考 |
| 賃貸借契約 | 借地権、賃借人、敷金、原状回復 |
| 補助金資料 | 財産処分制限、返還義務 |
| リース契約 | 解約損、残価、所有権移転の有無 |
固定資産を株主へ現物分配する場合、会社側で譲渡損益が生じることがあります。株主側でもみなし配当や譲渡損益が発生し、個人株主であれば所得税・住民税も問題になります。現物分配は、現金分配に比べて処理が見えにくくなりがちです。だからこそ、時価資料と議事録を残しておくことが、特に重要になります。
8. 契約書|解除・譲渡・承継・違約金を確認する
出口局面では、契約が税務判断を左右します。
契約書がないまま取引を終了させると、売上計上時期、損金算入時期、解約損、違約金、原状回復費、債権放棄、寄附金といった論点の判断が、いずれも曖昧になってしまいます。
整理すべき契約書
| 契約書 | 確認するポイント |
|---|---|
| 売買契約書 | 売上計上、返品、値引き、未収債権 |
| 業務委託契約書 | 未完了業務、解約金、成果物、源泉税 |
| 賃貸借契約書 | 敷金返還、原状回復、違約金、借地権 |
| リース契約書 | 解約損、残価、資産除却、消費税 |
| 借入契約書 | 期限の利益、担保、保証、債務免除 |
| 雇用契約・退職金規程 | 未払給与、退職金、源泉所得税 |
| 保険契約 | 解約返戻金、保険金、名義・受取人 |
| 事業譲渡契約 | 資産負債配分、営業権、消費税 |
| 株式譲渡契約 | 株主課税、表明保証、過去税務リスク |
| 債権放棄通知・和解契約 | 債務免除益、貸倒損失、寄附金 |
契約書は、税務調査で「後から作った説明」と見られないための根拠資料です。出口局面に入ってから契約内容を整える場合であっても、取引の実態と整合する資料に仕上げなければなりません。
9. 期限切れ欠損金を検討するための資料
債務超過会社や清算会社では、期限切れ欠損金の検討が重要になります。
平成22年度税制改正により清算所得課税制度が廃止され、平成22年10月1日以後に解散する法人については、清算中に終了する事業年度についても、各事業年度の所得に対する法人税が課されることとなりました。これに合わせて、残余財産がないと見込まれる場合には、一定の期限切れ欠損金を損金に算入できる制度が設けられています。出典:国税庁|平成22年6月30日付課法2-1ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」の趣旨説明
清算中に債務免除益が生じる場合でも、別表五(一)の期首現在利益積立金額の差引合計額がマイナスであり、青色欠損金等を控除した後に金額が残るときは、期限切れ欠損金を検討する余地があります。国税庁の質疑応答事例でも、期限切れ欠損金額は、別表五(一)の期首現在利益積立金額の差引合計額がマイナスである場合のその金額から、当該事業年度に損金算入される青色欠損金額または災害損失欠損金額を控除した金額とされています。出典:国税庁|平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例 問8 期限切れ欠損金額の算定方法
期限切れ欠損金の検討に必要な資料
| 資料 | 確認する理由 |
|---|---|
| 法人税申告書別表五(一) | 利益積立金額のマイナスを確認する |
| 法人税申告書別表七(一) | 青色欠損金・災害損失欠損金を確認する |
| 過去申告書 | 欠損金の発生年度、申告継続、期限管理を確認する |
| 実態貸借対照表 | 残余財産がないことを説明する |
| 債務免除契約・債権放棄通知 | 債務免除益の発生額・時期を確認する |
| 資産評価資料 | 処分価格または継続使用価額を確認する |
| 債権者一覧 | 免除・弁済・相殺の対象を確認する |
債務超過で清算する会社では、別表五(一)の差引合計額と青色欠損金額の関係が、課税所得を左右します。実務上も、別表五(一)のマイナス額から青色欠損金を控除した金額が、期限切れ欠損金として債務免除益を吸収できるかどうか。これが、重要な検討事項になります。
10. 実在しない資産・粉飾決算が疑われる場合の資料
出口局面では、過去の粉飾決算が表面化することがあります。
売掛金が実在しない。在庫が帳簿より少ない。固定資産が存在しない。回収不能の貸付金が、そのまま残っている。これらは単なる会計修正にとどまりません。仮装経理、過年度修正、期限切れ欠損金、税務調査への対応にまで影響が及びます。
国税庁は、破産管財人の財産調査によって、貸借対照表上は資産として計上されているものの実際には存在しない資産が判明した場合について、実態貸借対照表上ないものとして評価するとしています。その結果として債務超過であれば、「残余財産がないと見込まれる」ことになり、期限切れ欠損金額を損金に算入できると整理しています。あわせて、実在性のない資産の発生原因が明らかな場合と不明な場合とで、税務上の処理を分けて示しています。出典:国税庁|平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例 問11 実在性のない資産の取扱い
粉飾決算は、税務上「仮装経理」として扱われます。通常の過大申告とは異なり、減額更正や還付に制限がかかる点に注意が必要です。仮装経理に基づく過大申告では、修正経理、更正の請求、減額更正、そして後続事業年度での控除・還付という、特殊な流れをたどることになります。
粉飾・実在しない資産が疑われるときに確認する資料
| 資料 | 確認するポイント |
|---|---|
| 過去の決算書 | 粉飾が始まった時期 |
| 総勘定元帳 | 架空売上、架空在庫、架空資産の計上仕訳 |
| 請求書・納品書 | 実在取引かどうか |
| 売掛金回収履歴 | 回収不能ではなく架空かどうか |
| 棚卸表・現物確認資料 | 在庫の実在性 |
| 固定資産台帳・現物写真 | 固定資産の実在性 |
| 金融機関提出資料 | 税務申告書・決算書との整合 |
| 税務調査履歴 | 過去に指摘された論点 |
不都合な資料を出さないことは、会社を守る対応にはなりません。出口局面では、問題の所在を早く把握し、税務上どの年度・どの手続で処理するのかを整理しておくことが大切です。
11. 申告期限・届出・納付資料|最後の申告は通常より期限が短いことがある
解散・清算では、事業年度の区切りと申告期限の確認が欠かせません。
破産手続開始決定は会社法上の解散事由に該当するため、破産手続開始決定日に事業年度が終了し、その翌日から定款上の決算期末までが一つの事業年度になる場合があります。また、残余財産が確定した場合には、その確定日の翌日から1か月以内に申告書を提出しなければならず、通常の申告期限延長の特例は認められません。
消費税についても、法人は原則として課税期間終了の日から2か月以内に確定申告書を提出します。ただし、清算中の法人で残余財産が確定した場合には、その確定の日の属する課税期間終了の日の翌日から1か月以内に提出する必要があります。出典:国税庁|No.6610 法人に係る消費税の確定申告書の提出期限について
期限管理で整理すべき資料
| 資料 | 確認するポイント |
|---|---|
| 定款 | 決算期 |
| 解散決議議事録 | 解散日 |
| 清算人登記資料 | 清算人就任日 |
| 残余財産確定資料 | 最後事業年度の申告期限 |
| 申告期限延長届出 | 通常年度での延長可否 |
| 消費税届出 | 課税期間、本則・簡易、期限延長 |
| 源泉所得税納付資料 | 給与・退職金・士業報酬 |
| 納税証明 | 未納税額、滞納、差押え |
出口局面では、申告期限を誤ると、無申告加算税・延滞税・不納付加算税が発生する可能性があります。資金が限られる局面だからこそ、期限管理は早めに手をつけておく必要があります。
12. 株主資料|残余財産分配・みなし配当・完全子会社清算を判断する
会社を清算して財産が残る場合には、株主へ残余財産を分配します。このとき確認すべきは、会社側の税務だけではありません。株主側の税務も見ておく必要があります。
みなし配当は、会社法上の配当ではなくても、実質的に配当と変わらない場合に、税務上これを配当とみなす制度です。解散による残余財産の分配も、みなし配当が発生する場面の一つとして整理されています。
株主課税を確認する資料
| 資料 | 確認するポイント |
|---|---|
| 株主名簿 | 株主、持株数、取得日、取得価額 |
| 株式取得資料 | 出資時資料、譲渡契約、相続・贈与資料 |
| 資本金等の額 | みなし配当・資本払戻し計算 |
| 利益積立金額 | 分配原資の確認 |
| 残余財産分配計算書 | 株主別分配額 |
| 源泉所得税資料 | 個人株主・法人株主への源泉要否 |
| 法人株主資料 | 完全支配関係、欠損金引継ぎ、株式譲渡損益 |
完全支配関係のある子会社を清算する場合には、一定の要件のもとで、残余財産確定時に子会社の未処理欠損金額が法人株主へ引き継がれることがあります。一方で、子会社株式の譲渡損益を計上しない取扱いとの関係も確認が必要です。清算法人の繰越欠損金は、一定の完全支配関係にある子会社の残余財産確定時の引継ぎが適用される場合を除き、原則として切り捨てられます。あわせて、繰戻還付の検討が必要になる場面もあります。
グループ会社の清算は、単体の解散よりも税務影響が大きくなります。親会社側の申告、投資簿価、欠損金、グループ通算制度、地方税まで含めて確認しておきます。
13. 個人成り・廃業を検討する場合の資料
法人を閉じて個人事業へ戻す場合には、法人資産を個人へ移すことになります。このとき整理しておきたいのが、時価譲渡、消費税、役員借入金、在庫、固定資産、契約承継です。
個人成り・廃業で整理すべき資料
| 資料 | 確認するポイント |
|---|---|
| 法人資産一覧 | 個人へ移す資産、売却する資産、廃棄する資産 |
| 在庫明細 | 個人事業への引継ぎ、売却、廃棄 |
| 固定資産台帳 | 時価、簿価、譲渡損益、消費税 |
| 顧客契約 | 契約主体の変更、売上計上時期 |
| 賃貸借契約 | 法人契約の解約・個人契約への変更 |
| 許認可資料 | 法人から個人への承継可否 |
| 従業員資料 | 雇用継続、退職、源泉所得税 |
| オーナー貸付金資料 | 相殺、返済、債権放棄 |
| 消費税申告資料 | 課税事業者判定、資産譲渡、棚卸資産 |
個人成りは、単に「法人をやめる」だけの手続ではありません。法人が持っていた資産・契約・債務を、誰が、いくらで、いつ引き継ぐのか。これを資料で説明できる状態に整えておく必要があります。
14. 専門家へ相談する前に作るべき「出口資料パック」
専門家へ相談する前に、完璧な資料を揃えておく必要はありません。ただ、最低限の資料が手元にあるかどうかで、初回相談の質は大きく変わります。
初回相談前に準備したい資料
| 優先度 | 資料 |
|---|---|
| 高 | 直近3期分の決算書・法人税申告書一式 |
| 高 | 直近試算表、総勘定元帳、勘定科目内訳明細 |
| 高 | 借入金明細、借入契約書、返済予定表 |
| 高 | 役員貸付金・役員借入金の明細 |
| 高 | 固定資産台帳、主要資産の現物・時価資料 |
| 高 | 売掛金・買掛金・未払金の相手先別明細 |
| 高 | 株主名簿、定款、登記事項証明書 |
| 中 | 消費税申告書、源泉所得税資料 |
| 中 | 税務調査・修正申告・更正通知の資料 |
| 中 | 保証契約、担保資料、金融機関提出資料 |
| 中 | 主要契約書、リース契約、賃貸借契約 |
| 中 | 棚卸表、廃棄資料、資産売却見積 |
| 必要に応じて | 実態貸借対照表、再生計画、清算方針案 |
相談の際には、次の5点を簡潔に整理しておくと、論点が明確になります。
| 整理事項 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | 解散清算、債務整理、個人成り、事業譲渡、再生のどれを検討しているか |
| 時期 | いつまでに閉じたいか、申告期限・借入返済期限はいつか |
| 資金 | 現預金、換価可能資産、未払税金、清算費用 |
| 債務 | 金融機関、仕入先、役員、関係会社、保証人 |
| 懸念 | 粉飾、未申告、税務調査、株主不明、保証債務、滞納 |
出口局面では、専門家に「どうすれば税金が安くなりますか」と尋ねる前に、まず「会社の実態はこの資料で説明できます」と示せる状態を作っておく。この順序が大切です。
会社の出口局面の資料整理でお悩みの方へ
犬飼公認会計士・税理士事務所では、会社の解散・清算、債務超過、債務免除、期限切れ欠損金、粉飾決算の修正、個人成り、事業譲渡、法的整理に関連する税務・財務資料の整理を支援しています。
出口局面では、申告書だけを見ていても結論は出ません。決算書、別表五(一)、別表七(一)、資産負債明細、債権債務、株主名簿、借入・保証、固定資産、契約書を横断して確認する必要があります。
「会社を閉じるか迷っている」「債務免除益や欠損金の扱いが分からない」「金融機関や弁護士との相談前に税務資料を整理しておきたい」「清算前に何を確認すべきか把握しておきたい」。このようにお考えの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
この記事の振り返り
| 論点 | 重要ポイント |
|---|---|
| 出口局面の資料整理 | 税額計算より先に、資産・負債・株主・契約・申告の実態を整理する |
| 会社基礎資料 | 定款、登記、株主名簿、議事録で意思決定と株主課税の前提を確認する |
| 税務申告資料 | 法人税申告書、別表五(一)、別表七(一)、消費税申告書を確認する |
| 会計資料 | 決算書、試算表、総勘定元帳、補助元帳で帳簿と実態を照合する |
| 実態貸借対照表 | 残余財産がないこと、債務超過、期限切れ欠損金の説明資料になる |
| 債権債務 | 売掛金、買掛金、借入金、役員借入金は貸倒れ・債務免除益に直結する |
| 借入・保証 | 会社清算後も代表者保証や担保が残る可能性を確認する |
| 固定資産 | 売却、廃棄、現物分配、個人移転で法人税・消費税・株主課税が変わる |
| 契約書 | 解約、違約金、債権放棄、事業譲渡、リース処理の根拠になる |
| 期限切れ欠損金 | 別表五(一)と別表七(一)、実態貸借対照表、債務免除資料が不可欠 |
| 粉飾・実在しない資産 | 早期に事実確認し、過年度修正・仮装経理・期限切れ欠損金への影響を整理する |
| 申告期限 | 残余財産確定事業年度は通常より短い申告期限になることがある |
| 専門家相談前整理 | 目的、時期、資金、債務、懸念事項を資料とともに整理して相談する |