負債・引当・退職給付・未払費用のDD論点|買収後に不足負債を抱えないための財務DD

M&Aの財務デューデリジェンスで貸借対照表の負債を確認する目的は、単に「借入金がいくらあるか」を把握することではありません。実務上の焦点は、むしろ決算書に表示されている負債の外側にあります。

未払費用は適切に計上されているか。賞与や社会保険料、未払残業代に漏れはないか。退職給付債務は実態を反映しているか。役員退職慰労金やオーナー退任時の支払は、価格に織り込まれているか。製品保証、返品、クレーム、工事損失、資産除去債務は、十分に引き当てられているか。そして、買収後になって初めて請求書や労務リスクが顕在化することはないか。負債DDでは、こうした問いを一つずつ確かめていきます。

負債・引当・退職給付・未払費用のDD論点は、買収後に想定外の支出を抱え込まないための守りの確認であると同時に、買収価格や価格調整、表明保証、補償、前提条件、クロージング前対応に直結する、重要な判断材料でもあります。

本記事では、M&Aの財務DDにおいて、負債・引当・退職給付・未払費用をどのように確認し、その発見事項を実行判断へどう変換していくべきかを整理します。

目次

負債DDの本質は「存在している負債」より「漏れている負債」を見ること

資産評価のDDでは、帳簿価額が実態より過大になっていないかを確認します。これに対して負債DDでは、帳簿価額が実態より過小になっていないかを確認します。

つまり、負債のDDで最も重要になるのは、次の2つの観点です。

観点内容
網羅性計上すべき負債が漏れていないか
評価の妥当性計上されている負債・引当金の金額が不足していないか

買収対象会社の貸借対照表に未払金や引当金が計上されていても、それだけで安心はできません。未払計上の基準が粗い、請求書の到着ベースで処理している、賞与や社会保険料を翌期に回している、退職給付債務を簡便に見積もっている、過去のクレーム費用を十分に反映していない——こうしたケースでは、買収後に負債が追加で顕在化することになります。

そのため財務DDの実務では、未払費用や未払金について、内訳明細や管理資料、処理基準、網羅性を担保する資料に加え、債務保証・訴訟・クレーム・リコール・環境問題などに関する資料まで依頼対象に含めるのが一般的です。

負債は「通常の運転資本」か「デットライクアイテム」かを分ける

負債DDで発見された項目は、すべてが同じ扱いになるわけではありません。

買掛金や未払費用、未払給与のように、通常の営業循環の中で発生するものは、正常運転資本に含めて検討することがあります。一方で、過年度から積み上がった未払税金、未積立の退職給付債務、役員退職慰労金、未払賞与、未払残業代、社会保険未加入リスク、資産除去債務、店舗閉鎖費用、環境対策費用、負債性引当金などは、ネットデットまたはデットライクアイテムとして価格控除の対象になることがあります。

ここで注意したいのが、二重控除です。たとえば、将来の支出がすでに事業計画のフリーキャッシュフローや正常収益力分析に反映されているにもかかわらず、同じ支出をさらにデットライクアイテムとして控除してしまうと、買収価格を過度に引き下げることになります。財務DDの場面でも、デットライクアイテムを選定する際には、事業価値から重複して価値が控除されないよう、FCFや正常化後EBITDAとの整合性を確認しておく必要があります。

負債DDでは、単に「負債があるかどうか」を見るだけでなく、その項目を価格・契約・買収後管理のどこで扱うべきかまで決めていくことが求められます。

未払費用・未払金のDD論点

未払費用・未払金は、財務DDの中でも最も基本的な科目でありながら、見落としの多い領域です。

特に中小企業やオーナー企業では、決算時に未払費用を精緻に計上していないケースが見られます。「請求書が来たら費用処理する」という運用が定着している会社では、基準日時点ですでにサービスの提供を受けているにもかかわらず、請求書が届いていないことを理由に未払計上されていない、ということが起こりがちです。

確認すべき主な項目は、次のとおりです。

項目確認ポイント
未払給料給与締日と支給日、未払日数、残業代計算期間
未払賞与・賞与引当金支給対象期間、支給規程、過去支給実績、見積差額
未払社会保険料賞与・給与に対応する会社負担分の計上有無
未払外注費検収済み未請求、月末締め未請求分
未払家賃・リース料契約期間、支払期日、フリーレント・遅延分
未払水道光熱費月次締め後の未計上分
未払専門家報酬FA、弁護士、会計士、税理士費用の負担者
未払設備代金設備投資未払金、検収済み設備、資産計上との整合
未払税金法人税等、消費税、源泉所得税、固定資産税等
その他未払金内容不明残高、長期滞留、関連当事者への未払

未払費用のカットオフでは、本来であれば調査基準日に未払計上すべきであったものが、翌期に費用処理されていないかを確認します。対象会社が請求書の到着時点で未払計上している場合、請求書未着分が漏れやすいため、未払費用・未払金の捕捉方法を確かめたうえで、進行期に到着した請求書を手がかりに、基準日時点での未払計上の要否を検討していくと有効です。

仕入債務の過小計上は利益の過大表示につながる

買掛金や支払手形などの仕入債務は、通常の営業活動から生じる負債です。ただし、仕入債務の計上漏れは、負債の過小表示であると同時に、売上原価や費用の過小表示、すなわち利益の過大表示にもつながる点に注意が必要です。

確認すべきポイントは、次のとおりです。

確認項目見るべき内容
仕入計上基準入荷基準、検収基準、船積通知基準など
期末前後の仕入基準日前に発生した仕入が未計上でないか
輸入仕入船積・通関・到着・検収のどこで計上しているか
支払保留資金繰り悪化か、品質トラブルか
仕入債務回転期間支払サイトの長期化、資金繰り悪化の兆候
主要仕入先別残高特定仕入先への集中、支払条件の変更
関係会社仕入債務通常取引条件と異なる支払条件

支払が保留されている仕入債務がある場合には、その理由を確認します。資金繰りの問題で支払が遅れているのであれば重大な問題になり得ますし、原材料の不具合など取引上の理由で支払を保留しているのであれば、法務DDとの連携が必要になることもあります。

未払給与・未払賞与・未払社会保険料

人件費関連の未払は、金額的な重要性が高く、買収後の従業員対応や労務DDと接続しやすい領域です。

特に確認しておきたいのは、次の4つです。

項目DD上の確認事項
未払給与給与計算期間と支給日のズレ、締日後未払分
未払残業代労務DDの指摘事項、勤怠管理、固定残業代制度の実態
未払賞与・賞与引当金支給対象期間、支給予定、過去の支給差額
未払社会保険料給与・賞与に対応する会社負担分の計上漏れ

給与については、締日から月末までの未払分が計上されているかを確認します。賞与については、支給規程や対象期間、支給見込額、過去の見積差額を確認し、賞与引当金または未払賞与が十分かどうかを見ていきます。

さらに、賞与引当金や未払賞与に対応する社会保険料も、あわせて未払計上されているかを確認する必要があります。財務DDのチェックリストでも、未払給料、未払賞与、賞与引当金、役員賞与引当金、そしてこれらに付随する社会保険料などの計算資料は、重要な依頼資料として位置づけられています。

未払残業代は、財務DDだけで完結しない

未払残業代は、会計上は未払費用または簿外債務の論点ですが、その根本にあるのは労務リスクです。勤怠管理の実態や固定残業代制度の設計、管理監督者の範囲、休日労働・深夜労働の把握状況、過去の労基署対応、従業員からの請求可能性、さらには買収後に制度を是正した場合の人件費増加まで、論点は多岐にわたります。これらは、財務DDだけで判断しきれるものではありません。

財務DDの役割は、まず金額影響を把握し、それを実態純資産やネットデット、価格調整、補償へどう反映するかを整理することにあります。そのうえで、法的な支払義務の有無、対象期間、請求可能性、制度是正の必要性については、労務DD・法務DDと連携して判断していくことになります。

役員賞与・役員退職慰労金の論点

役員に対する支払は、中小・オーナー企業のM&Aで特に注意を要する論点です。

役員賞与は、会計上、発生した会計期間の費用として処理されます。出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第4号 役員賞与に関する会計基準

財務DDでは、役員賞与が発生期間に対応して費用処理されているか、決算後の決議を理由に費用計上が遅れていないかを確認します。

さらに重要になるのが、役員退職慰労金です。

オーナーが買収に伴って退任する場合、退職慰労金が支払われることがあります。この支払は、実質的に株式譲渡対価の一部として交渉されることもあれば、会社の損金算入やオーナー個人の税負担を意識して設計されることもあります。

財務DDでは、次の点を確認します。

確認項目見るべき内容
内規の有無役員退職慰労金規程、算定式、功労加算
過去支給実績同族役員、歴代役員への支給実績
株主総会決議支給手続、支給予定の有無
買収時の退任予定クロージング前後に支払われるか
価格との関係株式譲渡対価に含めるか、対象会社負担か
税務影響退職給与該当性、過大役員退職給与の検討
契約反映クロージング前支払、売主負担、補償、前提条件

買収に伴って退任する役員に退職慰労金を支払う予定があるにもかかわらず、対象会社がその見込額を役員退職慰労引当金として計上していない場合には、財務DD上で引当金計上の調整を行い、純資産に反映させることがあります。

引当金のDD論点

引当金は、負債DDの中でも判断の難しい領域です。なぜなら引当金は、「すでに請求書が来ている負債」ではなく、将来発生する費用や損失を見積もって計上するものだからです。会計上の要件、過去実績、見積方法、事業実態、契約条件、法的リスクを組み合わせて判断していく必要があります。

DDで確認すべき引当金には、次のようなものがあります。

引当金主な確認ポイント
賞与引当金支給対象期間、支給見込、社会保険料
役員賞与引当金職務執行期間、決議予定、発生期間
製品保証引当金保証条件、過去修理実績、保証期間
返品調整引当金返品実績、販売条件、顧客別傾向
ポイント引当金未使用ポイント、利用率、失効率
工事損失引当金赤字契約、工事原価総額見込
債務保証損失引当金保証先の財政状態、履行可能性
損害補償損失引当金クレーム、訴訟、和解見込
修繕引当金定期修繕、過去修繕実績、設備状態
リストラ引当金撤退計画、希望退職、店舗閉鎖
資産除去債務関連原状回復、解体、有害物質除去

財務DDでは、すでに計上されている引当金の妥当性を検討するだけでなく、そもそも計上されていない引当対象を見つけ出すことが重要になります。とはいえ、未計上項目を検出するのは容易ではありません。QAリストやマネジメントインタビュー、他DDの発見事項、進行期の費用発生状況を組み合わせながら、計上漏れを可能なかぎり拾い上げていきます。

引当金は「過去実績」と「足元の変化」を併せて見る

引当金の見積りでは、過去実績が重要な手がかりになります。しかし、過去実績だけでは十分ではありません。

たとえば、製品保証費用が過去3年平均で売上高の1%だったとしても、直近期に新製品の不具合やリコールが発生していれば、過去平均はそのまま使えません。返品率が過去は低くても、大口顧客との販売条件が変わっていれば、返品リスクは高まります。工事損失が過去になかったとしても、足元で資材価格や外注費が上昇していれば、赤字契約が発生する可能性があります。

引当金のDDでは、次の順番で考えると整理しやすくなります。

  1. 引当対象となる事象があるか
  2. その事象は基準日以前の取引・契約・事象に起因するか
  3. 発生可能性はどの程度か
  4. 金額を合理的に見積もれるか
  5. 既存の引当金額は十分か
  6. 足元の変化を反映しているか
  7. 価格・契約・補償のどこで手当てするか

退職給付引当金のDD論点

退職給付は、負債DDの中でも特に専門性の高い領域です。

退職給付制度には、確定拠出制度と確定給付制度があります。確定拠出制度では、会社は原則として一定の掛金以外に追加的な拠出義務を負いません。一方、確定給付制度では、会社が将来の給付水準に関するリスクを負うため、退職給付債務、年金資産、未認識項目、費用処理、将来のキャッシュアウトまで確認する必要があります。

現行の企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」では、確定拠出制度を「一定の掛金を外部に積み立て、企業が当該掛金以外に追加的な拠出義務を負わない制度」とし、確定給付制度をそれ以外の退職給付制度と定義しています。また、退職給付債務は、認識時点までに発生していると認められる退職給付を割り引いたものとされています。出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第26号 退職給付に関する会計基準

退職給付で確認すべき事項

項目確認内容
制度内容退職一時金、確定給付企業年金、厚生年金基金、確定拠出年金
会計方針原則法、簡便法、未認識項目の処理
退職給付債務年金数理計算書、割引率、昇給率、退職率、死亡率
年金資産時価、運用資産の内訳、期待運用収益率
未認識項目数理計算上の差異、過去勤務費用
増減分析勤務費用、利息費用、給付支払、拠出、制度改定
臨時支給功労加算金、特別退職金、慣行的な上乗せ
複数事業主制度自社負担分、脱退時拠出リスク
将来支出退職給付費用と実際拠出額の差
買収後統合制度変更、親会社制度との統合、人件費影響

財務DDでは、退職給付制度の内容を理解したうえで、確定給付型制度の採用有無、退職給付引当金に関係する会計方針、退職給付引当金の増減要因、退職給付債務の計算資料、年金資産、割引率、未認識部分、簡便法、複数事業主制度などを確認していきます。

未認識退職給付債務は、価格にどう反映するか

退職給付で問題になりやすいのは、帳簿上の退職給付引当金と、実態としての未積立退職給付債務が一致しないことです。

経済的な負担を示す基礎になるのは、退職給付債務から年金資産を控除した額です。ところが個別財務諸表上は、未認識の数理計算上の差異や未認識過去勤務費用の処理によって、貸借対照表上の退職給付引当金が実態の負担と異なってしまう場合があります。

修正簿価純資産法の観点では、「退職給付債務と年金資産の差額」があるべき退職給付引当金の残高と考えられるため、未認識部分も含めて把握しておくことが重要です。

ただし、未積立退職給付債務をデットライクアイテムとして控除する場合には、将来の退職給付費用が正常収益力や事業計画にどのように反映されているかを確認しなければなりません。未認識債務をネットデットで控除し、さらにその償却費用をEBITDAからも控除してしまうと、二重控除になります。退職給付に係る未認識債務をデットライクアイテムとする際には、退職給付費用の調整や正常収益力分析との整合が必要になる点は、実務上もたびたび指摘されています。

資産除去債務のDD論点

資産除去債務は、工場、店舗、倉庫、医療施設、製造設備、不動産賃貸借契約などが関係する案件で重要になります。

現行の企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」では、資産除去債務とは、有形固定資産の取得・建設・開発または通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるものとされています。また、資産除去債務は発生時に負債として計上し、合理的に見積れない場合には、合理的に見積ることができるようになった時点で負債計上するものとされています。出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第18号 資産除去債務に関する会計基準

財務DDで確認すべき資産除去債務の論点は、次のとおりです。

項目確認内容
賃貸借契約原状回復義務、スケルトン返し、特別仕様
工場・設備解体、撤去、廃棄、リサイクル義務
有害物質アスベスト、PCB、土壌汚染、有害物質除去
見積方法将来キャッシュアウト、割引率、工事単価
未計上理由合理的見積不能か、単なる検討漏れか
過去実績退去・閉店・工場閉鎖時の原状回復費用
契約更新長期利用前提の変化、閉鎖予定
環境DD接続環境調査、行政指導、法令リスク

財務DDでは、資産除去債務の増減や内訳、重要項目、環境リスクを示唆する項目、見積計算、そして未計上の場合の要否を確認します。資産除去債務には、建物解体時の有害物質除去費用や工場閉鎖時の土壌汚染調査費用など、環境リスクの一部を定量化したものが含まれるため、環境DDとの連携も重要になります。

税金・税効果関連の負債も見落とさない

未払税金は、確定した税額の未払部分です。ただし財務DDでは、未払法人税等の残高を見るだけでは不十分です。

税務DDの結果として、過年度申告の誤り、消費税区分の誤り、源泉所得税の漏れ、外形標準課税、地方税、税務調査での指摘、繰延税金資産の回収可能性などが発見されると、未払税金や潜在的な税務債務に影響します。

この領域は税務DDで詳しく扱うため本記事では深追いしませんが、負債DDとしては次の点を押さえておく必要があります。

項目財務DD上の意味
未払法人税等期間損益に対応した税金が未計上でないか
未払消費税課税区分誤り、納付不足がないか
源泉所得税役員報酬、外注費、非居住者支払等の源泉漏れ
税務調査リスク追徴税額が価格・補償に影響するか
繰延税金負債含み益、会計処理差異、買収後会計影響
繰延税金資産回収可能性が過大でないか

税金関連の未払・潜在債務は、財務DDと税務DDが分断されると見落とされがちです。財務DDの側では、税務DDの発見事項を実態純資産、ネットデット、契約条件へ反映していく視点が欠かせません。

負債DDの発見事項をどう実行判断に変えるか

負債・引当・退職給付・未払費用の発見事項は、次のように実行判断へ変換していきます。

発見事項主な対応
金額が確定している未払費用実態純資産修正、価格調整
未払賞与・未払社会保険料価格調整、正常運転資本調整
未払残業代労務DD連携、補償、価格調整、買収後制度是正
退職給付引当金不足デットライクアイテム、価格控除、正常収益力調整
役員退職慰労金売主負担、クロージング前支払、価格控除
資産除去債務未計上価格調整、補償、環境DD、買収後投資計画
製品保証・返品引当不足引当追加、補償、顧客契約確認
工事損失引当不足赤字契約の切り分け、価格控除、撤退判断
税務調査リスク税務DD、特別補償、エスクロー
金額不明の偶発債務表明保証、特別補償、前提条件、追加DD
情報開示不十分追加資料依頼、Q&A、契約上の保護、場合により撤退検討

財務・税務DDで検出されたリスク要因への対応には、買収価格への反映、買収契約書上でのリスク限定、ストラクチャー変更によるリスクの切り離し、そして買収自体の中止という、4つの方法があります。定量化できるリスクはできるかぎり買収価格に反映させるべきであり、定量化が難しいリスクについても、最大リスク金額などを用いて交渉の俎上に載せることが望ましいと考えられます。

価格で調整すべき負債と契約で手当てすべき負債

負債DDで大切なのは、「見つかったから価格を下げる」という単純な話ではありません。発見事項の性質によって、とるべき対応は変わってきます。

分類対応
金額が確定している負債未払請求書、未払税金、未払賞与価格調整、純資産修正
金額を合理的に見積れる負債退職給付不足、資産除去債務、製品保証価格控除、引当調整
発生可能性はあるが金額不確実訴訟、クレーム、税務調査、環境リスク特別補償、エスクロー、前提条件
売主側で整理すべき負債役員退職慰労金、関連当事者未払、ディール費用クロージング前支払、売主負担
買収後管理課題月次未払処理、勤怠管理、退職給付制度買収後管理体制整備
重大かつ把握不能な負債資料不開示、簿外債務疑義、不正兆候追加DD、条件変更、撤退検討

価格で調整できるものは、価格で処理します。将来発生するかどうかが不確実なものは、表明保証や補償が重要になります。そして、クロージング前に解消しておくべきものは、前提条件や誓約事項として契約に盛り込む必要があります。

負債DDで危険なサイン

次のような状況が見られる場合、単なる会計処理の問題にとどまらない可能性があります。

危険なサイン背景にある可能性
未払費用の計上基準が曖昧月次決算・管理体制の弱さ
請求書到着ベースで費用処理カットオフ漏れ、利益過大表示
仕入債務の支払遅延資金繰り悪化、取引先トラブル
賞与引当・社会保険料が未計上人件費負債の過小表示
未払残業代の資料がない労務管理不備、内部統制の弱さ
退職給付制度の資料が古い負債見積りの信頼性低下
年金数理計算書が未入手退職給付債務の検証不能
役員退職慰労金の話が後出し売主との条件交渉リスク
資産除去債務が一切検討されていない原状回復・環境リスクの見落とし
引当金の戻入が多い利益調整、不自然な見積変更
訴訟・クレーム資料が不十分偶発債務の把握不能
経営者・経理責任者の説明が変わる資料信頼性・不正リスク

こうした兆候がある場合には、負債DDだけで結論を出すのではなく、法務DD、労務DD、税務DD、環境DD、さらには会計不正リスクの追加調査と接続させながら判断していきます。

買収後に引き継ぐべき管理課題

負債DDの発見事項は、買収価格や契約だけで終わらせてはいけません。買収後に同じ問題が繰り返されれば、結局はその負担を買主が背負うことになるからです。

買収後に整備しておきたい管理課題は、次のとおりです。

管理領域買収後の整備事項
月次決算未払費用・未払金の網羅的計上
購買管理発注・検収・請求・支払の照合
人件費管理給与締日、残業代、賞与、社会保険料の管理
労務管理勤怠、固定残業、休日・深夜労働の管理
退職給付制度内容、数理計算、年金資産、拠出計画
引当金見積基準、過去実績、見積差額分析
契約管理原状回復義務、保証義務、解約不能契約
税務管理源泉、消費税、法人税等、税務調査対応
内部統制承認権限、職務分掌、証憑保管
モニタリングDD発見事項の買収後フォロー

負債DDは、買収後の管理課題を先回りして発見するプロセスでもあります。DDの過程で「未払計上が弱い」と分かったのであれば、買収後は月次決算の締め処理を見直す必要があります。退職給付債務が重要であれば、年金数理人や人事部門と連携した制度管理が求められますし、未払残業代のリスクがあるなら、労務DDと買収後の制度是正をセットで考えていくことになります。

経営者が確認すべき問い

負債・引当・退職給付・未払費用のDDでは、経営者自身も次のような問いを持っておきたいところです。

  • 貸借対照表に載っていない負債はないか。
  • 請求書未着分、検収済み未請求分、支払保留分は把握できているか。
  • 給与、賞与、社会保険料、残業代は、発生期間に対応して計上されているか。
  • 退職給付制度の内容を理解しているか。
  • 退職給付債務、年金資産、未認識項目、将来拠出を把握しているか。
  • 役員退職慰労金やオーナー退任時の支払は、誰が負担するのか。
  • 資産除去債務や原状回復義務は見積もられているか。
  • 製品保証、返品、クレーム、赤字契約の引当は十分か。
  • 税務DDで発見された税務リスクは、未払税金や補償に反映されているか。
  • 発見事項は、価格、契約、クロージング前対応、買収後管理のどこに落とし込まれているか。
  • 同じ負債を、ネットデットとEBITDA調整で二重に控除していないか。
  • そして、資料が不足している場合に、それでも前へ進める合理的な理由を説明できるか。

これらの問いに答えられないまま最終契約に進んでしまうと、買収後に「想定外の支出」という形で問題が顕在化することになります。

負債DDに不安がある場合は、早い段階で専門家に相談する

負債・引当・退職給付・未払費用の論点は、買収意欲が高まるほど、かえって軽視されがちです。

売上や利益は魅力的に見え、事業シナジーもありそうに思える。売主との関係も良好で、すでに基本合意まで進んでいる。このまま契約へ進めたい——。そうした局面ほど、冷静に負債の実態を見つめ直す必要があります。

ここで重要なのは、リスクがあるから直ちに撤退する、ということではありません。金額が見える負債は価格で調整する。不確実な負債は契約で手当てする。売主側で整理すべき負債はクロージング前に対応する。買収後に管理すべき負債は管理体制へ引き継ぐ。そして、把握できず、かつ重大な負債については、追加DDや撤退の判断を検討する。

この切り分けこそが、財務DDを単なる調査報告ではなく、M&Aの実行判断を支える経営判断のインフラへと変えていきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&Aの財務DD、実態純資産分析、ネットデット・デットライクアイテム分析、未払費用・賞与引当・退職給付・資産除去債務・簿外負債の検証、価格調整や契約条件への反映に関するご相談をお受けしています。

対象会社の負債や引当金をどこまで信じてよいか、買収後に想定外の支出を抱え込まないために何を確認しておくべきかを整理したい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

振り返り|負債・引当・退職給付・未払費用のDD論点

論点確認すべき内容判断への反映
負債DDの目的負債の網羅性と評価の妥当性を確認する実態純資産、価格調整、契約条件
未払費用・未払金請求書未着分、カットオフ、進行期請求書価格調整、買収後月次決算整備
仕入債務計上基準、支払保留、輸入仕入、回転期間運転資本調整、資金繰りリスク
未払給与締日後未払、残業代、給与規程純資産修正、労務DD連携
未払賞与・賞与引当金支給対象期間、支給規程、過去差額価格調整、社会保険料の追加確認
未払社会保険料給与・賞与対応分の計上有無未計上負債、補償
未払残業代勤怠管理、固定残業、労務DD指摘価格調整、補償、買収後制度是正
役員賞与発生期間に対応した費用処理純資産修正、税務確認
役員退職慰労金内規、退任予定、支給見込、売主負担クロージング前対応、価格控除
引当金製品保証、返品、工事損失、クレーム等引当不足、補償、追加DD
退職給付制度内容、退職給付債務、年金資産、未認識項目デットライク、正常収益力調整
複数事業主制度自社負担分、脱退時拠出、積立不足簿外負債、補償
資産除去債務原状回復、有害物質、見積計算、未計上理由価格調整、環境DD、契約条件
未払税金法人税等、消費税、源泉所得税、税務調査税務DD、補償、エスクロー
二重控除リスクネットデット・EBITDA・FCFとの整合価格調整ロジックの整理
契約対応表明保証、補償、特別補償、前提条件リスク配分の明確化
買収後管理月次決算、勤怠、引当金、退職給付、税務管理PMI・管理体制整備
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