複数事業を営む場合の簡易課税|区分記帳・原則計算・75%特例・区分不能売上の実務

簡易課税制度は、実際の仕入税額を一つひとつ積み上げるのではなく、売上げに係る消費税額を基礎として仕入控除税額を計算する仕組みです。この特徴から、「仕入側のインボイス確認や用途区分が簡単になる制度」と受け止められることがよくあります。

ところが、複数の事業を営む事業者にとって、簡易課税は「売上を一括で集計すれば済む制度」ではありません。むしろ、売上を第1種から第6種までの事業区分ごとに分けられるかどうかが、納付税額はもちろん、申告書の作成、会計ソフトの設定、税務調査での説明のしやすさまでを大きく左右します。

たとえば、一つの会社の中に卸売、小売、製造、修理、飲食、不動産賃貸、固定資産売却が混在しているとします。このとき、「主業種が小売だからすべて第2種」「製造業の会社だからすべて第3種」とまとめて処理することはできません。以前の記事でも整理したとおり、簡易課税の事業区分は、原則として課税資産の譲渡等ごと、つまり売上取引ごとに判断していきます。

本記事では、複数の事業を営む事業者が簡易課税を適用する場合について、計算の構造、区分記帳の方法、75%特例、区分不能売上の影響、そして月次運用への落とし込みまでを順に整理します。

なお、本記事は2026年6月26日を基準日として、国税庁等の公表情報を確認したうえで作成しています。令和8年度改正では、2割特例終了後の3割特例や、簡易課税制度選択届出書の提出期限特例の見直しが設けられていますが、本記事の中心となる「複数事業を営む場合の簡易課税の区分計算」については、現行の国税庁公表情報に基づいて整理しています。
出典:国税庁|インボイス制度に関する令和8年度税制改正について

目次

まず結論|複数事業では「区分記帳」が税額を守る

複数の事業を営む事業者が簡易課税を適用する場合、押さえておきたい結論は次のとおりです。

論点実務上の結論
計算単位売上を第1種から第6種までの事業区分ごとに分ける
原則計算各事業区分の売上税額に、それぞれのみなし仕入率を乗じる
75%特例一定の事業区分の売上割合が高い場合、簡便な特例計算を選べる
区分していない売上区分していない売上に含まれる事業のうち、最も低いみなし仕入率を適用する
実務対応帳簿、請求書、売上伝票、レジ、販売管理データ、部門コードで区分できるようにする
調査対応後から「なぜその区分にしたか」を説明できる資料を残す

簡易課税は、あくまで仕入側の実額集計を簡便にする制度です。売上側の分類まで不要にしてくれる制度ではありません。

制度の基本を確認しておくと、簡易課税は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間について、売上げに係る消費税額に事業区分ごとのみなし仕入率を乗じて、仕入れに係る消費税額を計算する仕組みです。
出典:国税庁|No.6505 簡易課税制度

複数事業を営む場合の基本計算

簡易課税の事業区分とみなし仕入率は、次の6区分に整理されています。

事業区分主な内容みなし仕入率
第1種事業卸売業90%
第2種事業小売業、飲食料品の譲渡に係る農業・林業・漁業80%
第3種事業製造業、建設業、農業等、鉱業、電気業等70%
第4種事業第1・2・3・5・6種以外の事業、飲食店業、固定資産売却等60%
第5種事業サービス業等、運輸通信業、金融・保険業等50%
第6種事業不動産業40%

複数の事業区分に該当する売上がある場合、原則として、各事業区分ごとの売上税額に、それぞれのみなし仕入率を掛けていきます。

たとえば、次のような会社を考えてみます。説明を簡単にするため、国税・地方消費税を合わせた10%で概算しています。実際の申告では、国税部分と地方消費税部分をそれぞれ所定の方法で計算します。

事業区分売上税額みなし仕入率みなし仕入税額
第1種事業:卸売40万円90%36万円
第2種事業:小売300万円80%240万円
第5種事業:サービス60万円50%30万円
合計400万円306万円

このケースでは、簡易課税による仕入控除税額は306万円となり、納付税額の概算は次のとおりです。

売上税額400万円 − みなし仕入税額306万円 = 納付税額94万円

ここで大切なのは、複数事業を営む場合の原則計算は、単純に「全体の売上税額 × 主業種のみなし仕入率」ではない、という点です。あくまで事業区分ごとに分けて計算していきます。

2種類以上の事業を営む場合の基本的な計算も、この考え方に沿って、事業区分ごとに仕入控除税額を求めるのが原則とされています。
出典:国税庁|No.6505 簡易課税制度

区分記帳とは何か

「区分記帳」と聞くと、総勘定元帳に第1種、第2種、第5種などと細かく書き込まなければならない、という印象を持たれるかもしれません。しかし実務では、帳簿だけでなく、売上伝票、請求書、納品書、レジデータ、販売管理システムといった原始資料から事業区分を確認できる状態にしておくことが重要になります。

この点、消費税法基本通達13-3-1では、複数種類の事業を行う事業者は課税資産の譲渡等を事業の種類ごとに区分する必要があるとされています。その具体的な方法としては、帳簿に事業の種類を記帳する方法のほか、納品書、請求書、売上伝票、レジペーパー等に事業の種類、または事業の種類が区分できる内容を記載する方法、さらに事業場ごとに一種類の事業のみを行っている場合には事業場ごとに区分する方法も認められています。
出典:国税庁|消費税法基本通達 第13章 第3節 事業の区分及び区分記載の方法

実務で使える区分方法を整理すると、次のようになります。

区分方法具体例向いている事業者
勘定科目・補助科目で分ける売上高(小売)、売上高(修理)、売上高(不動産)売上種類が比較的少ない会社
商品・サービスコードで分ける商品販売コード、製造品コード、保守サービスコード販売管理システムを使う会社
部門・店舗で分ける本店小売部門、工場製造部門、不動産部門事業場ごとに取引内容が分かれる会社
レジ・POS区分で分ける店内飲食、持帰り物販、売店、自動販売機小売・飲食・宿泊業
請求書明細で分ける機械本体、据付工事、保守料を別明細にする設備販売・建設・IT業
取引判定メモで補完する委託販売、材料支給、特殊契約の判断を記録境界事例が多い会社

肝心なのは、申告のときに経理担当者が記憶をたどって分ける、という運用ではないという点です。取引が発生したその時点で、売上データから区分が再現できることこそが本質になります。

区分記帳がない場合の影響

複数の事業を営んでいるにもかかわらず、売上を事業区分ごとに分けていないと、納税者にとって厳しい取扱いになります。

2種類以上の事業を営む事業者が課税売上げを事業ごとに区分していない場合、その区分していない部分については、そこに含まれる事業のうち一番低いみなし仕入率を適用して仕入控除税額を計算することになります。
出典:国税庁|No.6505 簡易課税制度

ただし、ここでいう「一番低いみなし仕入率」とは、常に第6種の40%を指すわけではありません。あくまで、区分されていない売上に含まれている事業の中で、最も低いみなし仕入率を使う、という意味です。

この点は質疑応答事例でも示されています。第1種、第2種、第3種が含まれている課税売上高を区分していない場合には、その区分されていない課税売上高の合計額について第3種のみなし仕入率を適用するのであって、すべてを第6種として計算するわけではありません。また、一部の課税売上高だけを区分しているときは、区分している売上はその区分に従い、区分していない部分には最も低いみなし仕入率を適用することになります。
出典:国税庁|事業の種類が区分されていない場合

この取扱いを、先ほどの例に当てはめてみると、影響の大きさがよく分かります。

処理みなし仕入税額納付税額
区分記帳あり:第1種・第2種・第5種を正しく区分306万円94万円
全体を区分できない:含まれる事業のうち最も低い第5種50%を適用200万円200万円

区分記帳ができているかどうかだけで、概算の納付税額に106万円もの差が生じます。

これは「節税テクニック」ではありません。取引の実態を説明できるかどうか、その差です。売上区分が事実に即して管理されていなければ、本来なら適用できるはずのみなし仕入率を使えなくなる可能性があるということです。

一部だけ区分している場合の考え方

実務では、「すべての売上を完璧に区分しているわけではないが、一部は明確に分かる」という状況もよく起こります。

こうした場合、ただちに全売上が最低率になってしまうわけではありません。基本通達13-3-2では、複数事業のうち一種類の事業に係る課税売上げのみを区分していないときは、課税期間における課税売上高から、区分している事業に係る課税売上高の合計額を控除した残額を、区分していない種類の事業に係る課税売上高として取り扱って差し支えないとされています。
出典:国税庁|消費税法基本通達 第13章 第3節 事業の区分及び区分記載の方法

たとえば、第1種、第2種、第3種を営む会社で、第1種と第2種は帳簿上区分されており、残りは第3種だけであることが明らかな場合には、その残額を第3種として扱うことができます。

一方で、残額の中に第3種と第5種が混在している可能性があるのなら、残額をまるごと有利な第3種として処理することはできません。その未区分部分に含まれる事業のうち、最も低いみなし仕入率を適用することになります。

実務では、「区分できる部分」と「区分できない部分」を切り分けて考えることが大切です。

75%特例の全体像

複数の事業を営む場合でも、一定の事業が売上の大部分を占めているときには、簡便な特例計算が認められています。

まず、2種類以上の事業を営む事業者で、1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上を占める場合には、その事業のみなし仕入率を全体の課税売上げに対して適用できます。次に、3種類以上の事業を営む事業者で、特定の2種類の事業の課税売上高の合計額が全体の75%以上を占める場合には、その2種類のうちみなし仕入率の高い方の事業に係る課税売上高には高い方の率を適用し、それ以外の課税売上高には低い方の率を適用できます。
出典:国税庁|No.6505 簡易課税制度

整理すると、次の2つになります。

特例要件計算の考え方
1種類75%特例1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上その事業のみなし仕入率を全体に適用
2種類合計75%特例3種類以上の事業があり、特定の2種類の合計が全体の75%以上2種類のうち高い率をその事業に、低い率をそれ以外全体に適用

なお、特例は「必ず使わなければならない制度」ではありません。適用できる場合に、原則計算と比較して有利か不利かを確認するための制度、という位置づけです。

1種類75%特例の計算例

先ほどの例を使って見ていきます。

事業区分売上税額売上割合
第1種事業:卸売40万円10%
第2種事業:小売300万円75%
第5種事業:サービス60万円15%
合計400万円100%

第2種事業が全体の75%を占めています。この場合、1種類75%特例を使うと、全体に第2種のみなし仕入率80%を適用できます。

売上税額400万円 × 80% = みなし仕入税額320万円
売上税額400万円 − みなし仕入税額320万円 = 納付税額80万円

原則計算では納付税額が94万円でしたので、この例では、1種類75%特例を使うことで納付税額が少なくなります。

ただし、特例が常に有利になるとは限りません。

たとえば、第5種サービス売上が80%、第2種小売売上が20%というケースを考えてみます。

事業区分売上税額みなし仕入率原則計算の控除額
第5種事業:サービス80万円50%40万円
第2種事業:小売20万円80%16万円
合計100万円56万円

原則計算では、みなし仕入税額は56万円、納付税額は44万円です。

これに対して、第5種が75%以上だからといって第5種50%を全体に適用すると、みなし仕入税額は50万円、納付税額は50万円となり、原則計算より不利になってしまいます。

特例は、使えるかどうかだけでなく、使うべきかどうかまで比較して判断する必要があります。

2種類合計75%特例の計算例

続いて、3種類以上の事業を営む場合の2種類合計75%特例を見ていきます。

事業区分売上税額みなし仕入率
第1種事業:卸売40万円90%
第2種事業:小売300万円80%
第5種事業:サービス60万円50%
合計400万円

第1種と第2種の合計は、売上税額ベースで340万円、全体400万円の85%です。したがって、特定の2種類の事業の合計が75%以上、という要件を満たします。

この場合、第1種と第2種のうち、みなし仕入率が高い第1種には90%を適用し、それ以外の売上には、第1種・第2種のうち低い方である第2種の80%を適用できます。

第1種部分:40万円 × 90% = 36万円
それ以外:360万円 × 80% = 288万円
みなし仕入税額合計:324万円
納付税額:400万円 − 324万円 = 76万円

この例では、原則計算94万円、1種類75%特例80万円、2種類合計75%特例76万円という結果になります。

計算方法納付税額
原則計算94万円
1種類75%特例80万円
2種類合計75%特例76万円
未区分で第5種50%200万円

同じ売上であっても、区分記帳と特例の選択次第で、納付税額は大きく変わってきます。

区分記帳の経済的価値

区分記帳は、単なる経理作業ではありません。複数の事業を営む簡易課税事業者にとっては、次のような経営上の価値を持っています。

観点区分記帳の価値
納付税額本来適用できるみなし仕入率を反映できる
特例計算75%特例を使えるか判定できる
資金繰り月次で納税見込を把握しやすくなる
価格設定事業区分ごとの税負担感を価格・粗利管理に反映できる
会計処理売上区分、税率区分、部門別損益が整合する
取引設計契約・請求段階で売上内容を明確にできる
税務調査申告数字と原始資料のつながりを説明できる
将来選択原則課税への移行検討や事業再編時の分析に使える

とりわけ、卸売とサービス、不動産賃貸と物販、製造と修理、飲食と小売が混在している会社では、区分記帳の有無がそのまま納付税額に直結します。

「税率区分」と「事業区分」は別物

インボイス制度や軽減税率への対応を通じて、多くの事業者が「10%売上」「軽減8%売上」を区分するようになりました。しかし、簡易課税では、税率区分だけでは足りません。

同じ10%売上であっても、第1種、第3種、第5種、第6種があり得ます。同じ軽減8%売上であっても、第2種になる場合もあれば、第3種や第4種に関係してくる場合もあります。

取引例税率区分簡易課税の検討
仕入食品を一般消費者へ販売軽減8%第2種
自社製造した弁当を持帰り販売軽減8%第3種を検討
飲食設備で食事を提供標準10%第4種
機械修理標準10%第5種等を検討
事務所賃貸標準10%第6種
使用していた車両の売却標準10%第4種

会計ソフト上で「課税売上10%」だけを集計していると、簡易課税の事業区分を後から判定できなくなることがあります。税率コードとは別に、簡易課税の事業区分コードを設けておくことが、実務上は有効です。

売上対価の返還等も事業区分別に管理する

複数の事業を営む場合、売上そのものだけでなく、値引き、返品、割戻し、返金といった売上対価の返還等についても、事業区分ごとに整理しておく必要があります。

たとえば、小売売上の返品なのか、サービス売上の返金なのか、固定資産売却の値引きなのかによって、調整すべき事業区分が変わってきます。

この点、基本通達13-2-10では、簡易課税制度を適用する事業者が売上げに係る対価の返還等を行った場合において、事業区分をしていない部分があるときは、課税売上げに係る帳簿等または対価の返還等に係る帳簿等をもとに合理的に区分するものとされています。
出典:国税庁|消費税法基本通達 第13章 第2節 事業区分の判定

返金や値引きは、営業部門、販売管理システム、請求担当者の処理に左右されがちです。経理部門が決算のときにまとめて確認するだけでは、事業区分の判断根拠が残らないこともあります。

複数事業で誤りやすい売上

複数の事業を営む場合、次のような売上は、特に区分漏れが起こりやすい項目です。

売上の種類誤りやすい点
固定資産売却本業の事業区分に入れてしまう
廃材・加工くず売却雑収入として事業区分を付けない
修理・保守料製品販売と一括して第3種にしてしまう
機械販売と据付工事本体と工事を分けるべきか検討しない
飲食店の物販飲食売上と一括して第4種にしてしまう
宿泊施設の売店・自販機宿泊売上と一括して第5種にしてしまう
不動産売却・賃貸非課税、第4種、第6種を混同する
委託販売・精算書取引売上総額・手数料・純額処理の整理が曖昧
EC・プラットフォーム売上販売主体、手数料、国内外判定が未整理
補助金・保険金そもそも課税売上かどうかを確認しない

たとえば、自己が使用していた固定資産等を譲渡した場合には、本業の事業種類にかかわらず第4種事業に該当します。また、製造工程で発生した加工くずや副産物等の譲渡は第3種事業に該当するなど、通常の売上とは別の判断が求められる例が示されています。
出典:国税庁|No.6509 簡易課税制度の事業区分

申告書作成だけでなく、月次で確認する

簡易課税の事業区分は、申告書を作る段階になって初めて考え始めると、どうしても負担が大きくなります。複数の事業を営む会社では、月次で次の項目を確認していく運用が望まれます。

月次確認項目確認内容
新規売上の有無新商品、新サービス、新契約、新店舗
事業区分未設定売上会計ソフト又は販売管理データで未設定がないか
雑収入廃材、手数料、保険金、補助金、固定資産売却の有無
固定資産売却第4種処理すべき売却がないか
売上返還等返品、値引き、返金を事業区分別に処理しているか
75%判定1種類又は2種類の売上割合が75%以上になっているか
税率区分との整合10%・軽減8%と事業区分が混同されていないか
部門別売上部門・店舗・事業場の区分が実態に合っているか
契約変更物販から保守契約、販売から委託販売などへ変更がないか
翌期の方式選択原則課税へ戻す必要がないか、届出期限に間に合うか

月次で区分できていれば、75%特例を使えるかどうかも早い段階で見えてきます。納税資金の見込みも立てやすくなります。

会計ソフト・販売管理システムに落とし込む設計

複数事業の簡易課税では、会計ソフトの税区分だけに頼らない設計が必要になります。

最低限、次のようなマスター設計を検討しておきたいところです。

マスター項目設計例
税率区分10%、軽減8%、非課税、不課税、免税
簡易課税事業区分第1種、第2種、第3種、第4種、第5種、第6種
取引内容区分商品販売、製品販売、加工賃、修理、保守、不動産、固定資産売却
販売先区分事業者、一般消費者、国外顧客
売上形態直販、委託販売、代理販売、EC、店舗、卸
部門区分小売部門、製造部門、サービス部門、不動産部門
証憑区分請求書、レジ、売上伝票、精算書、契約書

特に、販売管理システムから会計ソフトへ仕訳を連携している場合、連携の時点で事業区分が抜け落ちてしまうことがあります。月次決算で「売上高の金額」は合っていても、「簡易課税の事業区分」が欠落していれば、申告計算の土台は不安定になります。

2割特例・3割特例から簡易課税へ移る場合の注意点

インボイス登録により課税事業者となった小規模事業者については、2割特例や、令和8年度改正による3割特例が問題になってきます。これらの特例を適用している間は、簡易課税の第1種から第6種までの事業区分を使わずに納付税額を計算する場面もあります。

しかし、特例が終了して簡易課税へ移行する際には、複数事業の売上区分が改めて必要になります。

令和8年度改正では、個人事業者である適格請求書発行事業者の令和9年分および令和10年分について、一定の要件のもと、納付税額を売上税額の3割とする3割特例が創設されました。あわせて、2割特例や3割特例の適用を受けた適格請求書発行事業者が、その翌課税期間に係る確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を提出した場合には、その翌課税期間から簡易課税を適用できる、という見直しも行われています。
出典:国税庁|インボイス制度に関する令和8年度税制改正について

ここで注意しておきたいのは、「特例期間中は事業区分を管理しなくてよい」と考えてしまうことです。特例終了後に簡易課税へ移る可能性があるのなら、早い段階から売上を事業区分別に集計できるようにしておくべきです。特例が終わってから過去の売上構成をさかのぼろうとしても、販売データやレジ区分が不十分であれば、事業区分の判定はどうしても難しくなります。

原則課税との比較にも売上区分は必要

複数の事業を営む場合、簡易課税が常に有利とは限りません。設備投資、外注比率、非登録仕入先、非課税売上、原価率、将来の事業計画などによっては、原則課税の方が適しているケースもあります。

そして、原則課税と簡易課税を比較するためにも、やはり売上区分が欠かせません。

比較項目売上区分が必要な理由
簡易課税の納税額事業区分ごとのみなし仕入率が必要
75%特例の判定事業区分ごとの売上割合が必要
原則課税の試算税率別売上、課税・非課税売上の整理が必要
課税売上割合非課税売上や免税売上との区分が必要
設備投資判断原則課税で還付・控除可能性を検討するため
届出判断簡易課税選択・不適用の期限管理に影響

つまり、簡易課税を選んでいる会社であっても、売上の性質を粗く扱ってよいわけではありません。将来、原則課税へ戻すのか、簡易課税を続けるのかを判断するうえでも、売上構造の把握が土台になります。

税務調査で確認されやすい点

複数の事業を営む簡易課税事業者では、税務調査で次のような点が確認されます。

調査で確認されやすい点説明に必要な資料
事業区分ごとの売上金額総勘定元帳、売上補助元帳、販売管理表
区分方法の合理性商品コード、部門コード、請求書、売上伝票
第1種と第2種の区分販売先が事業者か一般消費者か分かる資料
第3種と第4種・第5種の区分材料支給、加工賃、修理、保守の契約書
第6種と非課税取引の区分賃貸契約書、用途、土地・建物内訳
固定資産売却固定資産台帳、売買契約書、請求書
雑収入の課税区分入金明細、請求書、精算書、契約書
売上対価の返還等返品伝票、値引通知書、返金明細
75%特例の要件事業区分別売上集計、返還等控除後の割合
未区分売上の処理未区分部分に含まれる事業の特定資料

税務調査で問われるのは、単に計算式が合っているかどうかだけではありません。売上の実態、契約、請求、会計処理、証憑が、同じ結論を支えているかどうかが確認されます。

後から作成した集計表だけでは、根拠として弱いことがあります。販売時点、請求時点、記帳時点で事業区分が残る仕組みを作っておくことが大切です。

複数事業の簡易課税で整えるべき社内ルール

複数の事業を営む事業者は、次の社内ルールを整えておくと、申告時の混乱をぐっと減らせます。

ルール内容
新規取引承認新商品・新サービス開始時に消費税区分と簡易課税事業区分を確認する
請求書設計本体、加工、保守、設置、不動産、手数料を必要に応じて明細化する
売上コード管理商品・サービスごとに税率区分と事業区分を持たせる
雑収入確認月次で雑収入の内訳を確認し、課税売上と事業区分を判断する
固定資産売却確認資産売却・除却があった月に経理へ通知する
返金・値引処理売上対価の返還等を元の事業区分に紐付ける
75%判定四半期又は決算前に事業区分別売上割合を確認する
判断メモ境界事例について、事実、根拠、結論、承認者を記録する
年度更新翌期の課税方式、届出期限、事業計画を確認する

これらのルールは、経理部門だけで完結するものではありません。営業、店舗、現場、販売管理、経営層が、新しい取引や事業の変更を経理へ共有していく必要があります。

専門家に相談すべきタイミング

次のような場合は、申告直前ではなく、契約・請求・会計設計の段階で専門家に相談しておくことをおすすめします。

状況相談すべき理由
複数事業を始めた売上区分と会計ソフト設定を最初に設計すべき
売上の一部が未区分最低みなし仕入率の適用リスクがある
75%特例を使えそう原則計算と特例計算を比較する必要がある
飲食・物販・宿泊・サービスが混在税率区分と事業区分がずれやすい
製造・加工・修理・保守が混在第3種、第4種、第5種の境界が問題になる
不動産収入がある非課税、第4種、第6種を分ける必要がある
固定資産売却・雑収入が多い通常売上と異なる区分が必要
2割特例・3割特例後に簡易課税を検討特例終了後を見据えた売上区分管理が必要
原則課税への移行を検討方式比較、届出期限、設備投資計画が絡む
税務調査を見据えて整理したい契約・請求・帳簿・証憑の整合性を確認すべき

簡易課税の複数事業計算は、単に申告ソフトへ数字を入力する作業ではありません。自社の売上構造をどう説明できるか、という経営管理と税務防御の問題です。

まとめ

複数の事業を営む場合の簡易課税では、売上を事業区分ごとに分けることが、すべての出発点になります。

区分記帳ができていれば、原則計算により各事業区分のみなし仕入率を反映できます。一定の事業が75%以上を占めるなら、特例計算も検討できます。反対に、売上を区分していない場合には、未区分部分に含まれる事業のうち最も低いみなし仕入率を適用することになり、納付税額が大きく増えてしまう可能性があります。

簡易課税は、仕入税額控除の計算を簡便にする制度です。しかし、売上側の区分管理は、むしろ重要性を増します。契約、請求、販売管理、会計処理、証憑保存、月次確認を連動させ、税務調査でもきちんと説明できる状態を整えておくことが必要です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、複数事業を営む事業者の簡易課税計算、事業区分判定、区分記帳の設計、会計ソフト・販売管理データの見直し、原則課税との比較、届出期限の確認まで、実態に即して整理しています。

自社の売上が複数の事業区分にまたがる場合、区分不能売上が残っている場合、75%特例の適用可否を確認したい場合は、契約書、請求書、売上明細、会計データを整理したうえで、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

振り返り

項目重要ポイント
複数事業の基本売上を第1種から第6種までの事業区分ごとに分ける
原則計算各事業区分の売上税額に、それぞれのみなし仕入率を掛ける
区分記帳帳簿だけでなく、請求書、売上伝票、レジ、販売管理データでも区分可能
未区分売上区分していない部分に含まれる事業のうち、最も低いみなし仕入率を適用
一部区分区分している部分はその区分、未区分部分は別途整理
1種類75%特例1種類の事業が全体の75%以上なら、その率を全体に適用可能
2種類合計75%特例3種類以上の事業で特定2種類が75%以上なら、2種類の率を使う特例を検討
特例の有利不利特例は任意。原則計算と比較して判断する
税率区分との違い10%・軽減8%の区分と、簡易課税の事業区分は別物
売上返還等値引き、返品、返金も事業区分別に管理する
雑収入・固定資産売却通常売上と別に確認し、事業区分漏れを防ぐ
月次運用新規取引、未区分売上、75%判定、届出期限を月次・決算前に確認する
相談タイミング申告直前ではなく、契約・請求・会計設計の段階で確認する
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