M&A後のPMIについて専門家に相談しようとするとき、多くの経営者がまず迷うのは、「何を、どこまで準備してから相談すればよいのか」という点です。
月次決算が遅れている。買収時の計画と実績が噛み合わない。対象会社の幹部が思うように動いてくれない。資金繰りの先行きが読めない。会議は開いているのに、何も決まらないまま終わる。前経営者に確認しなければ分からない業務が、いまだに数多く残っている。取引先や金融機関、従業員への説明にも不安がある。DD報告書はあるものの、PMIのタスクには落とし込めていない。
こうした状態のまま相談に向かおうとすると、「まだ情報が整理できていないのだから、相談しても意味がないのではないか」と感じてしまうかもしれません。
しかし、PMI相談で本当に大切なのは、完璧な資料を一式そろえることではありません。
むしろ重要なのは、買収後の会社をどのように経営したいのか、いま何が見えておらず、何を判断できずに困っているのかを、専門家と一緒に構造化できる状態にしておくことです。
PMIは、専門家に丸投げして片づく作業ではありません。中小PMIガイドラインにおいても、PMIはM&A成立後の一定期間だけの作業ではなく、成立前の取組から、成立後の集中実施期、その後の継続的な取組までを含む一連のプロセスとして整理されています。
相談前に整理しておく目的は、専門家に「答え」を出してもらうことではありません。経営者自身が判断すべき論点を、数字・事実・仕組みという観点から、見える状態にしておくことにあります。
PMI相談は「困りごとの説明」ではなく「経営課題の棚卸し」である
PMI相談がうまく進まない典型は、最初から個別の論点だけを持ち込んでしまうケースです。
「月次を早くしたい」 「管理資料を作ってほしい」 「社内規程を整えたい」 「人事制度を統合したい」 「金融機関向けの資料を作りたい」
もちろん、いずれも重要な論点です。しかし、これらを並べただけでは、PMI全体のなかでの優先順位までは見えてきません。
たとえば、月次決算を早める必要があるのは、翌月の経営判断に使うためなのか、親会社報告のためなのか、金融機関への説明のためなのか、あるいは連結・監査対応のためなのか。
管理資料を作る必要があるのは、対象会社の採算を把握するためなのか、シナジーを検証するためなのか、資金繰りを説明するためなのか。
規程を整える必要があるのは、意思決定を早めるためなのか、不正や事故を防ぐためなのか、親会社として統制を効かせるためなのか。
同じ「月次」「資料」「規程」という言葉であっても、目的が違えば、整える順番も深さも変わってきます。
ですから相談の前には、まず困りごとを「作業名」ではなく「経営上の判断課題」へと置き換えておくことが大切です。
たとえば、次のように整理してみます。
| 表面的な困りごと | 経営判断上の論点 |
|---|---|
| 月次決算が遅い | いつまでに、どの精度の数字がなければ、経営判断・親会社報告・金融機関説明に支障が出るのか |
| 予実管理ができていない | 買収時の計画と実績のズレを、誰が、どの会議で、どのアクションにつなげるのか |
| 対象会社の幹部が動かない | 権限、責任、報告ライン、評価、前経営者依存のどこが詰まっているのか |
| シナジーが出ていない | 施策、責任者、期限、測定方法、現場負荷が定義されているか |
| 管理が効かない | 放任なのか、過干渉なのか、親会社が見るべき領域が未定義なのか |
この置き換えができると、専門家面談は単なるヒアリングではなく、PMIそのものを再設計する場へと変わっていきます。
相談前に整理すべき第1の論点:買収目的と成功定義
PMI相談で最初に確認すべきは、買収目的です。ここが曖昧なままでは、PMIの優先順位は定まりません。
買収目的が「後継者不在企業の承継」であれば、事業の継続、従業員・取引先の維持、前経営者からの引継ぎ、資金繰りの安定が、初期の重点になります。
「売上シナジー」が目的であれば、顧客、販路、商品、営業体制、KPI、そしてクロスセルの進捗管理が重要になります。
「コストシナジー」が目的であれば、本社機能、購買、外注、経理・人事・総務、IT、重複業務の見直しが論点になります。
「グループ経営の強化」が目的であれば、子会社管理、レポーティング、権限設計、連結、内部統制、資金管理が中心になります。
中小PMIガイドラインでも、PMIの優先順位を検討する際には、M&Aの目的や戦略との適合度、実行した場合・しなかった場合の経営への影響、リスクの発生確率、実行コスト、効果が出るまでの期間といった観点を考慮する、という考え方が示されています。
相談の前に、次の問いに答えられるようにしておくと、面談の精度は大きく上がります。
- なぜ、この会社を買収したのか
- 買収時に期待していた効果は何か
- その効果は定量化されているか
- 「成功した」と言える状態は何か
- いつまでに、どの数字・状態を確認したいのか
- 買収目的は、買収後の実態を踏まえて修正が必要か
ここで一つ気をつけたいのは、買収時の説明資料を、そのまま正解として扱わないことです。買収後に見えてきた実態を踏まえれば、買収目的そのものを、改めて確認し、定義し直す必要が出てくることもあります。
相談前に整理すべき第2の論点:いまPMIのどの段階にいるか
同じPMI相談でも、クロージング直後なのか、100日計画の途中なのか、1年経過後の立て直しなのかによって、扱うべき論点は変わってきます。
ですから相談の前に、まず自社がいまどの段階にいるのかを整理しておきます。
| 段階 | 主な相談テーマ |
|---|---|
| クロージング前・プレPMI | Day1体制、報告ライン、資金確認、DD発見事項の引継ぎ、統合方針の仮説 |
| Day1直後 | 事業継続、従業員説明、金融機関・取引先対応、最低限の承認・報告ルール |
| 100日計画中 | 月次、資金繰り、管理資料、PMIタスク、優先順位、キーマン対応 |
| 集中実施期後 | 予実管理、KPI、シナジー検証、内部統制、業務フロー、追加統合 |
| PMI停滞・立て直し | 目的、体制、数字、信頼関係、権限、業務フローの総点検 |
| ポストPMI | グループ経営、子会社管理、追加統合、組織再編、長期PDCA |
中小PMIガイドラインでは、M&A成立後の集中実施期だけで終わらせることなく、次期会計年度等に向けてPMIの取組方針を見直し、継続的にPDCAを回していくことが重要だとされています。
相談の時点がどこにあるのかを明確にしておけば、「いま急ぐべきこと」と「後で整えればよいこと」を、無理なく切り分けられるようになります。
相談前に整理すべき第3の論点:現状課題を6つに分ける
PMIの相談内容は、どうしても散らばりがちです。数字の問題、人の問題、業務の問題、制度の問題、取引先の問題、資金の問題が、同時並行で起きるからです。
そこで相談の前に、現状の課題を次の6つに分けてメモしておくことをお勧めします。
1. 数字の問題
月次決算が遅い、試算表の精度が低い、部門別採算が見えない、予実差異の理由を説明できない、在庫や売掛金の数字が信用できない――こうした問題です。
月次決算は、会計ソフトから試算表を出すだけの作業ではありません。経営者が最新の業績を把握し、会計を「読める・話せる・使える・見通せる」状態へと近づけていく、その土台になるものです。
相談の前には、直近の月次試算表、決算書、総勘定元帳、売掛金・買掛金・在庫・借入金の明細、過去の月次締め日、親会社報告資料がそろっているかを確認しておきます。
2. 体制の問題
PMI責任者が曖昧、買収側の担当者が兼務で動けない、対象会社側の窓口が前経営者だけ、会議体は多いのに決定事項が残らない――こうした問題です。
中小PMIガイドラインでは、PMI推進に必要な役割として、重要意思決定、企画・推進、実務作業の3つが想定されています。企業規模や状況によっては兼務もあり得ますが、役割そのものは明確にしておく必要があります。
相談の前には、誰がPMIの意思決定者なのか、誰が進捗を管理しているのか、誰が実務を担っているのかを整理しておきます。
3. 信頼関係の問題
従業員が不安を抱えている、前経営者との引継ぎが進まない、取引先への説明が不十分、対象会社の幹部が買収側を警戒している――こうした問題です。
一見すると感情論のように見えますが、実務の上では情報設計の問題として捉えられます。
誰に、何を、いつ、どこまで伝えるのか。決まっていることと、まだ決まっていないことを、きちんと分けて伝えているか。悪い情報が、きちんと上がってくるルートがあるか。前経営者の暗黙知を引き継ぐ計画があるか。
相談の前には、従業員説明資料、面談メモ、前経営者との引継ぎ項目、主要取引先・金融機関への説明状況を整理しておきます。
4. 業務フロー・内部統制の問題
販売、購買、在庫、固定資産、経費、支払、契約、給与、情報管理が属人的になっていて、どこにリスクが潜んでいるのか分からない――そうした状態です。
業務フローは、会計数値の前提でもあります。典型的な業務フローを理解しておくことは、リスクに応じた内部統制を整備するためだけでなく、不要なフローを削減・簡略化する判断にもつながります。
相談の前には、販売から入金まで、仕入から支払まで、給与計算、在庫管理、契約締結、銀行支払の流れを、簡単に書き出しておくと役立ちます。
5. 権限・会議体の問題
誰が何を決めるのかが曖昧で、判断が遅い。あるいは反対に、すべてが親会社承認となり、対象会社の現場が止まってしまう。これも、PMIではよく起きる問題です。
職務分掌規程は各組織の守備範囲を定めるものであり、職務権限規程は各職位の責任と権限、委任や代行の方法、意思決定事項ごとの最終承認権限者を定めるものです。
相談の前には、現状の決裁ルール、稟議基準、取締役会・経営会議の議題、親会社の承認事項、対象会社に任せている範囲を整理しておきます。
6. 制度・契約・会計税務の問題
ポストクロージング義務、表明保証・補償、許認可、COC条項、税務届出、PPA、のれん、連結、監査、組織再編といった論点です。
この領域は、個別の事情と、最新制度の確認の両方が欠かせません。たとえば企業結合会計については、ASBJの企業会計基準第21号が企業結合に関する会計処理・開示を定めており、適用にあたっては関連する適用指針もあわせて参照する必要があります。
出典:企業会計基準委員会(ASBJ)|企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
相談の前には、最終契約書、株式譲渡契約書、表明保証・補償条項、クロージング後義務、許認可・重要契約リスト、税務届出状況、監査・連結対応の有無を確認しておきます。
相談前にすべての資料をそろえる必要はない
PMI相談の前に、すべての資料を完璧にそろえる必要はありません。むしろ、資料がないこと自体が、重要な情報になります。
月次試算表がない。資金繰り表がない。借入一覧がない。主要取引先別の売上が分からない。在庫明細がない。組織図がない。稟議規程がない。契約リストがない。DD報告書がPMI担当者に共有されていない。
これらは、いずれもPMI上の課題そのものです。
ですから相談の前には、「ある資料」と「ない資料」を分けて整理しておけば十分です。専門家面談では、資料の不足を責めるのではなく、どの資料を優先的に整えるべきか、どの資料が経営判断に直結するのかを見極めていきます。
相談時に有効な資料一覧
次のような資料があると、PMI相談の初回面談は、かなり具体的に進みます。すべてが必要だという意味ではありません。該当するものから確認してください。
| 区分 | あると有効な資料 | 面談で確認すること |
|---|---|---|
| M&A基本情報 | 最終契約書、基本合意書、クロージング資料、スキーム図 | 取引内容、クロージング後義務、制約条件 |
| 買収目的 | 稟議資料、投資判断資料、事業計画、バリュエーション資料 | 何を成功と見るか、投資回収をどう確認するか |
| DD関連 | 財務DD、税務DD、法務DD、ビジネスDD、労務DDの報告書 | 発見事項をPMIタスクへ落とせているか |
| 数字 | 決算書、月次試算表、総勘定元帳、勘定科目内訳、部門別損益 | 数字の速さ、精度、比較可能性 |
| 資金 | 資金繰り表、借入一覧、返済予定、金融機関説明資料 | 資金不足リスク、返済原資、追加投資余力 |
| 業績管理 | 予算、予実表、KPI、経営会議資料 | 差異分析とアクションがつながっているか |
| 組織・人事 | 組織図、役員・幹部一覧、雇用条件、人事制度、退職者情報 | キーマン依存、権限移譲、労務リスク |
| 業務フロー | 販売、購買、在庫、支払、給与、契約の流れが分かる資料 | 属人化、不正・誤謬リスク、内部統制 |
| 規程・権限 | 職務分掌、職務権限、稟議、経理規程、印章管理規程 | 誰が何を決めるか、承認ルールが実務に合うか |
| 外部関係者 | 主要取引先、金融機関、顧問士業、支援機関一覧 | 説明責任、役割分担、連携不足 |
| 制度対応 | 税務届出、許認可、重要契約、連結・監査・開示対応資料 | 期限、担当、未対応リスク |
なかでもDD報告書は、相談の前に確認しておきたい資料です。DDで得られなかった情報や未確認のリスクに目を向けておくことは、企業としての意思決定を行ううえで重要であり、事業計画やシナジー効果まで含めて整理しておくことが望ましいといえます。
DD報告書は「過去の調査資料」ではなく「PMIタスクの材料」である
PMI相談でよく見かけるのが、DD報告書が保管されているだけで、PMI担当者には引き継がれていない、というケースです。
DDは、買収価格や契約条件を決めるためだけの資料ではありません。買収後に何を確認し、何を是正し、何を管理していくかを示す、いわば材料でもあります。
相談の前には、DDの発見事項を、次の4つに分けて整理しておきます。
| DD発見事項の分類 | PMIでの扱い |
|---|---|
| 価格・条件に反映済み | 追加対応が不要か、契約上の前提が崩れていないかを確認 |
| 契約で手当て済み | 表明保証、補償、誓約、ポストクロージング義務の履行管理 |
| PMIで対応すべき事項 | 担当者、期限、優先順位、必要資料を設定 |
| 未確認・継続調査事項 | 追加調査、専門家確認、リスクモニタリング |
DDの発見事項をこの形で整理しておけば、専門家面談では「どこから手を付けるか」を、具体的に議論できるようになります。
相談前に「優先順位」を仮置きしておく
PMI相談では、課題が多すぎて、議論が広がりすぎてしまうことがあります。そこで相談の前に、仮でかまいませんので、優先順位を付けておくと有効です。
優先順位は、次の4つの軸で考えます。
1. 経営目的への影響
買収目的に直結する課題か。シナジー、事業継続、投資回収、グループ管理に影響するか。
2. リスクの大きさ
放置すれば、資金不足、不正、取引先の離反、キーマンの退職、法令違反、税務リスク、金融機関への説明不能につながるか。
3. 緊急性
期限があるか。クロージング後義務、税務届出、金融機関説明、従業員説明、契約更新など、遅れた場合の影響が大きいものか。
4. 実行可能性
人員、資金、時間、現場の負荷、専門家関与の必要性を踏まえて、現実に実行できるか。
中小PMIガイドラインでも、経営資源に制約のある中小企業では、すべての課題やリスクに一度に対応することは現実的ではなく、M&A目的の実現上の重要性、リスクや課題の重要性・緊急性・実行可能性といった観点から優先度を判断する必要がある、とされています。
相談の前に優先順位を仮置きしておけば、専門家はその妥当性を検証しやすくなり、抜け漏れや、順番の誤りも指摘しやすくなります。
専門家に相談すべきタイミング
PMI相談は、問題が大きくなってから行うものではありません。次のような兆候が見えている場合は、早めに外部の視点を入れる価値があります。
月次・数字の兆候
- 月次決算が翌月末を過ぎても固まらない
- 数字が出るたびに、大きく変わる
- 予算と実績の差異理由を説明できない
- 部門別・事業別の採算が見えない
- 資金繰り表がなく、3か月後の資金残高が読めない
体制・権限の兆候
- 誰がPMI責任者なのか決まっていない
- 会議はあるが、決定事項・期限・担当者が残らない
- 親会社承認と対象会社判断の境界が曖昧
- 前経営者や特定の幹部に判断が集中している
人・信頼関係の兆候
- キーマン退職の兆候がある
- 従業員に、買収後の方針が伝わっていない
- 対象会社側が、情報を出したがらない
- 取引先・金融機関への説明が後回しになっている
リスク・制度対応の兆候
- DDの発見事項が、PMIタスクに落ちていない
- 税務届出、許認可、契約上の期限が管理されていない
- 内部統制や承認ルールが未整備
- 不正、事故、クレーム、労務問題などの悪い情報が、遅れて上がってくる
- 連結、監査、開示、J-SOX対応が必要になった
上場会社や上場準備会社など、管理水準が一段と高まる会社では、内部統制の実効性も重要になります。金融庁・企業会計審議会は、2023年4月7日に「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準等の改訂に関する意見書」を公表しており、改訂後の基準・実施基準は、2024年4月1日以後開始する事業年度から適用されています。
出典:金融庁|「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」の公表について
相談時に伝えるべきこと
専門家面談では、きれいに整った説明よりも、事実を正直に伝えることのほうが、はるかに重要です。とりわけ、次の情報は隠さずにお伝えください。
- 買収時に想定していた効果が、出ていない
- DDで分かっていたものの、未対応のままの論点がある
- 対象会社側と、信頼関係が十分に築けていない
- 月次決算や資金繰りが、見えていない
- 親会社のなかでも、PMIの責任者が曖昧なままになっている
- 取引先・金融機関・従業員への説明に、不安がある
- 税務・労務・法務・内部統制で、気になる点がある
- すでに専門家が入っているが、役割分担が整理されていない
PMIは、問題があるから失敗するわけではありません。問題を見える化できず、優先順位を付けられず、誰も責任を持って進めない――その状態こそが危険なのです。
専門家は、経営者の代わりに意思決定をする存在ではありません。論点を整理し、見落としを防ぎ、判断材料を整え、説明可能な管理体制を作っていく。そのための支援者です。
専門家への依頼範囲は「作業」ではなく「判断支援」で考える
PMI相談で重要なのは、依頼範囲を、最初から細かい作業名で固定しすぎないことです。
「月次資料を作ってほしい」 「規程を作ってほしい」 「予実管理表を作ってほしい」
これらは依頼としては分かりやすいのですが、それだけでは、PMIの本質に届かないことがあります。
月次資料を作る前に、何を経営会議で判断するのかを決める必要があります。規程を作る前に、どこまで親会社が統制し、どこまで対象会社に任せるのかを決める必要があります。予実管理表を作る前に、買収目的とKPIを接続する必要があります。
ですからPMI相談では、依頼範囲を、次のように整理しておくと有効です。
| 依頼範囲 | 内容 |
|---|---|
| 診断・論点整理 | 買収目的、現状課題、リスク、優先順位の整理 |
| 管理資料設計 | 月次、予実、資金、KPI、シナジーの資料体系設計 |
| 会議体・権限設計 | 経営会議、PMI会議、親会社報告、承認事項の整理 |
| 業務フロー・内部統制 | 販売、購買、在庫、支払、契約、給与等の統制整理 |
| 会計・税務・制度対応 | PPA、のれん、税務届出、連結、監査、開示対応の論点整理 |
| 実行支援 | タスク管理、進捗確認、資料レビュー、関係者説明支援 |
| 専門家連携 | 弁護士、社労士、金融機関、IT専門家等との役割分担整理 |
専門家を有効に使うとは、作業を外に出すことではありません。経営者が判断すべき論点を、判断できる形に整えていくことです。
相談前に作ると有効な「PMI論点整理メモ」
初回相談の前に、A4で2〜3枚程度の「PMI論点整理メモ」を作っておくと、面談の質は大きく上がります。形式は、簡単なもので構いません。
PMI論点整理メモの構成例
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 1. 案件概要 | 買収日、対象会社、株式譲渡・事業譲渡等のスキーム、買収比率 |
| 2. 買収目的 | 事業承継、売上シナジー、コストシナジー、技術獲得、地域展開等 |
| 3. 現在の段階 | Day1直後、100日計画中、1年経過後、PMI停滞、ポストPMI等 |
| 4. 主要課題 | 数字、体制、人材、資金、業務、内部統制、契約、税務等 |
| 5. 緊急課題 | 期限が近いもの、資金・人材・契約・法令上のリスク |
| 6. 既存資料 | 決算書、月次、DD報告書、契約書、資金繰り、組織図等 |
| 7. 不足資料 | ない資料、作れていない資料、所在不明の資料 |
| 8. 判断したいこと | 専門家面談で決めたいこと、整理したいこと |
| 9. 社内体制 | 誰が責任者か、誰が実務担当か、外部専門家は誰か |
| 10. 希望する支援 | 診断、資料設計、会議体設計、タスク管理、制度論点整理等 |
このメモは、精緻である必要はありません。むしろ、未整理のまま放置されている事実を、見える化することにこそ意味があります。
相談前に避けたい進め方
PMI相談を有効なものにするためには、避けておきたい進め方もあります。
1. 「とにかく標準テンプレートがほしい」と考える
テンプレートは便利ですが、PMIの目的や対象会社の成熟度に合っていない資料は、結局使われません。管理資料、規程、会議体は、買収目的と現場負荷に合わせて設計する必要があります。
2. 問題を小さく見せる
「特に大きな問題はない」と言いながら、実際には月次が遅い、資金繰りがない、キーマン退職のリスクがある、DDの指摘事項が未対応――というケースがあります。問題を隠せば隠すほど、専門家の初期判断は遅れてしまいます。
3. 相談相手を作業代行者としてだけ使う
PMIでは、作業を進める前に、判断軸を整えておく必要があります。経営者が何を実現したいのか、どこまで管理するのか、何を優先するのかが曖昧なままでは、外部専門家が手を動かしても、仕組みは定着しません。
4. すべてを一度に整えようとする
PMIの課題は多岐にわたります。月次、資金、権限、会議体、従業員対応、DDの発見事項など、経営判断とリスクに直結するものから着手すべきです。過剰な管理は、かえって現場の信頼を損なうこともあります。
PMI相談の初回面談で確認すべきゴール
初回面談のゴールは、すべての解決策をその場で決めきることではありません。むしろ、次の5つを明確にできれば十分です。
1つ目は、買収目的と現在の課題が、きちんとつながっているか。
2つ目は、経営上の重大リスクが、見落とされていないか。
3つ目は、短期で整えるべき課題と、中長期で整える課題が、分かれているか。
4つ目は、社内で進めることと、専門家が支援することの境界が、見えているか。
5つ目は、次回までに準備すべき資料と、意思決定すべき事項が、明確になっているか。
この5つが整理できれば、初回相談としては、十分に価値のある時間になります。
相談後に行うべきこと
専門家面談を受けた後は、必ず社内で、次の整理を行ってください。
- 決定事項
- 未決定事項
- 追加で確認すべき資料
- 誰が担当するか
- いつまでに行うか
- 次回面談で判断すること
- 経営者が自ら決めるべきこと
- 専門家に依頼すること
中小PMIガイドラインでも、行動計画は「誰が、いつまでに、何を実行するか」にまで落とし込み、定期的に進捗状況を確認し、必要に応じて取組を見直していくことが示されています。
相談して終わり、ではありません。相談で得た内容を、PMIのタスク管理へと接続していくことが重要です。
PMI相談は、経営者自身がPMIを引き受けるための準備である
PMI相談前の整理で最も大切なのは、経営者自身が、PMIを自社の経営課題として引き受ける姿勢です。
専門家は、対象会社の代わりに経営することはできません。従業員との信頼関係を、経営者の代わりに築くこともできません。買収目的を、経営者の代わりに決めることもできません。
それでも専門家は、見えていない論点を見える化し、数字と業務をつなぎ、リスクを整理し、会議体や管理資料を設計し、後から説明できる状態を作る――その支援はできます。
買収後の会社を、勘や属人性ではなく、数字・事実・仕組みによって経営できる状態へと近づけていく。そのためにこそ、PMI相談前の整理は、単なる事前準備ではなく、PMIそのものの第一歩になります。
PMIの停滞、月次決算・予実管理・資金繰り・管理資料・会議体・権限設計・内部統制・DD発見事項の引継ぎ・ポストPMIの進め方について、自社の状況を整理したいとお考えの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
初回のご相談では、買収目的、現在のPMI課題、手元の資料、月次・資金・予実・権限・会議体・内部統制の状況を確認しながら、どこから着手すべきか、何を社内で進め、どこに外部専門家を活用すべきかを整理してまいります。
出典
出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン
出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン 概要版
出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン
出典:金融庁|「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」の公表について
出典:企業会計基準委員会(ASBJ)|企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
出典:e-Gov法令検索|会社法
振り返り
| 整理項目 | 相談前に確認すること | 専門家面談で深掘りすること |
|---|---|---|
| 買収目的 | なぜ買収したのか、何を成功と見るのか | 買収目的とPMI課題がつながっているか |
| PMIの段階 | Day1直後、100日計画中、PMI停滞、ポストPMIのどこか | いま急ぐ課題と後回しにできる課題 |
| 数字 | 月次決算、予実、部門別採算、資金繰りがあるか | 経営判断に使える数字になっているか |
| 体制 | 誰が意思決定、企画推進、実務作業を担うか | 役割分担、会議体、タスク管理の設計 |
| 信頼関係 | 従業員、前経営者、取引先、金融機関への説明状況 | 情報設計、悪い情報が上がる仕組み |
| 業務フロー | 販売、購買、在庫、支払、給与、契約の流れ | 属人化、不正・誤謬リスク、内部統制 |
| 権限設計 | 誰が何を決裁するか、親会社承認事項は何か | 放任と過干渉を避ける権限・稟議設計 |
| DD発見事項 | 価格・契約・PMI対応・未確認事項に分けているか | PMIタスクへの落とし込み、担当・期限 |
| 制度対応 | 契約、税務、会計、許認可、連結、監査の論点 | 最新制度と個別事情を踏まえた対応 |
| 専門家活用 | 何を相談したいのか、どこまで社内で進めるのか | 作業代行ではなく、判断支援として活用する範囲 |