利益計画というと、「来期は売上をどれだけ伸ばすか」を決める作業だと受け止められがちです。もちろん、売上計画は欠かせません。ただ、売上目標を置いただけでは、会社に必要な利益がそのまま残るとは限らないのです。
売上は伸びた。人も増やした。設備も入れた。広告も強めた。それなのに、利益も現金も思ったほど残らない――。こうした状態は、利益計画を「売上目標」から組み立てている会社で起こりやすいものです。
利益計画は、希望的な売上目標とは違います。会社に必要な利益をはっきりさせたうえで、その利益を実現するために、売上、変動費、固定費、資金繰り、そして実行可能性までを逆算して整理していく――それが本来の姿だと考えています。
利益計画は、一定の期間に区切って作成する計画です。通常は1年を基準にした短期計画と、複数年を対象とする中長期計画とに分けて考えます。そして、利益を確保できるようにするだけでは足りません。資金の入りと出までを踏まえておかなければ、たとえ黒字でも手元の資金が不足してしまうことがあるからです。
この記事では、中小・中堅企業が利益計画を作るための基本を、目標利益、固定費計画、変動費率、必要売上高、そして資金計画との接続という観点から整理していきます。
利益計画は「売上を当てる作業」ではない
利益計画を作るとき、まず売上から考えたくなるのは自然なことです。営業現場に聞き、前年実績を見て、主要取引先の見込みを集め、新規案件の可能性を積み上げながら、来期の売上を見積もっていく。この作業そのものは、確かに必要です。
しかし、売上見込みを積み上げるだけでは、利益計画としては不十分です。会社が本当に知るべきなのは、「いくら売れそうか」ではなく、次のような問いに答えられるかどうかだからです。
- その売上で、必要な利益は確保できるのか
- その利益で、借入返済や納税に耐えられるのか
- 採用や設備投資をしても、固定費を吸収できるのか
- 値引きや原価上昇があっても、利益は守れるのか
- 売上が計画を下回ったとき、どこまで耐えられるのか
- 金融機関や社内に、計画の前提を説明できるのか
売上計画は、あくまで利益計画の一部です。利益計画そのものではありません。利益計画とは、まず「会社に必要な利益」を定め、その利益を実現するために売上と費用の構造を設計していく作業なのです。
利益計画の出発点は、目標売上ではなく目標利益である
利益計画を作るとき、最初に決めるべきは目標利益です。
ここでいう目標利益とは、「これくらい利益が出たらよい」という願望のことではありません。会社が継続し、成長し、外部に説明できる状態を保つために必要な利益、という意味です。
目標利益を考えるときは、少なくとも次の要素を確認しておきたいところです。まず、本業としてどれだけの利益を確保すべきか。次に、借入利息を含めた経常的な負担を吸収できるか。さらに、税金を支払った後に、借入元本の返済、設備投資、賞与、内部留保、運転資金の増加にまで耐えられるか――。
ここで押さえておきたいのは、損益計算書上の利益と、会社に残る現金は一致しないという点です。
借入金の元本返済は、損益計算書上の費用には現れません。設備投資も、支出した時点で全額が費用になるとは限りません。売掛金や在庫が増えれば、利益が出ていても資金は不足します。だからこそ、目標利益は「会計上の利益」だけでなく、「資金を回すために必要な利益」としても考えておく必要があります。
利益計画だけでは、資金不足を防ぎきれません。利益計画と資金計画は、合わせて作る必要があります。特に掛取引では、売上を計上するタイミングと入金のタイミングがずれるため、利益が出ていても資金回収が間に合わない、という事態が起こり得るのです。
目標利益は、どの利益段階で見るべきか
利益計画では、どの利益を目標にするのかを曖昧にしてはいけません。
売上総利益なのか。営業利益なのか。経常利益なのか。税引前利益なのか。税引後利益なのか。あるいは、資金繰り上必要な利益なのか。それぞれ意味が異なります。
- 売上総利益は、商品・サービスそのものの採算を見るための利益です
- 営業利益は、本業で固定費を吸収した後の、稼ぐ力を見ます
- 経常利益は、借入利息など営業外損益も含めた、通常の収益力を見ます
- 税引後利益は、納税を済ませたうえで会社に残る利益を見ます
- 資金繰り上必要な利益は、借入返済や投資資金まで含めて、会社が耐えられるかどうかを見るために使います
中小・中堅企業の経営判断では、営業利益と経常利益を軸に置きつつ、最終的には資金繰りに接続して考えるのが現実的だと感じています。
本業の稼ぐ力を確認するには、営業利益が要ります。金融機関への説明や借入返済力を見るうえでは、経常利益やキャッシュフローが重要になります。そして会社に資金を残すには、税引後の資金余力まで見ておかなければなりません。
目標利益を一つの数字だけで考えると、判断を誤りやすくなります。利益段階ごとの意味を整理したうえで、会社として何を最重要の目標に据えるのかを明確にしておくことが大切です。
固定費計画を先に確認する
目標利益を決めたら、次は固定費の確認に移ります。利益計画において、固定費の見積りは非常に重要です。
固定費とは、短期的には売上の増減にかかわらず発生しやすい費用を指します。人件費、役員報酬、家賃、リース料、保険料、システム費、顧問料、減価償却費などが、その代表例です。
固定費が増えれば、必要な売上高は上がります。そして固定費が重くなると、売上が少し下がっただけで利益が大きく悪化してしまいます。
一方で、必要な固定費まで削ってしまうと、営業力、採用力、管理体制、品質、将来の成長力までが弱くなりかねません。ですから固定費計画では、単に「減らせるか」を見るのではなく、次のように分けて考えることが重要です。
- 現在の事業を維持するために必要な固定費
- 成長のために先行して負担する固定費
- 管理体制や内部統制を整えるために必要な固定費
- 一時的に発生している固定費
- 見直しの余地がある固定費
- 売上や業務量に応じて変動費化できる固定費
特に、採用、拠点拡大、設備投資、システム導入、広告投資、管理部門の強化といった項目は、将来の成長に欠かせない場合があります。とはいえ、利益計画の上ではいずれも固定費の増加として表れます。
「必要だから増やす」という判断だけでは、十分とは言えません。増やした固定費を回収するために、どれだけの限界利益が必要か。その限界利益を生む売上は現実的か。回収するまでの期間、資金繰りは耐えられるか。ここまで確認して初めて、固定費計画は経営判断に使えるものになります。
変動費率・限界利益率を確認する
固定費を確認したら、次に見るのは変動費率です。
変動費とは、売上や販売数量に応じて増減しやすい費用を指します。仕入、材料費、外注費、販売手数料、配送費、決済手数料などが代表例です。
この変動費を売上高から差し引いたものが、限界利益です。
売上高 - 変動費 = 限界利益
限界利益は、固定費を回収し、利益を生み出すための原資です。利益計画を作るうえでは、売上高そのものよりも、その売上高からどれだけ限界利益が残るかのほうが重要になります。
限界利益率は、次の式で求めます。
限界利益 ÷ 売上高 = 限界利益率
限界利益率が高ければ、売上が増えたときに利益も増えやすくなります。反対に限界利益率が低ければ、売上を大きく伸ばさなければ固定費を回収できません。
月次で業績を把握するうえでは、変動損益計算書が有効です。これは費用を、売上の増減に伴って変化するかどうかで変動費と固定費に分け、経営者が業績をつかみやすくする管理用の様式です。
ここで一つ注意したいのは、利益計画で使う限界利益率は、過去実績をそのまま当てはめればよいわけではない、という点です。
- 仕入価格は上がっていないか
- 外注比率は変わらないか
- 値引きは増えていないか
- 高採算商品と低採算商品の構成は変わらないか
- 新規取引先の採算は、既存取引先と同じか
- 物流費や販売手数料は増えていないか
- 価格改定を計画に織り込んでいるか
こうした前提を確認しないまま過去の粗利率や限界利益率を使うと、利益計画はすぐに現実からずれていきます。
必要売上高を逆算する
目標利益、固定費、限界利益率が整理できれば、必要売上高を計算できます。基本となる式は次のとおりです。
(固定費 + 目標利益) ÷ 限界利益率 = 必要売上高
この計算によって、「目標利益を達成するためには、どれだけの売上が必要か」が見えてきます。
ただ、大切なのは、計算した必要売上高を見て終わらせないことです。次の点まで確認しておきたいところです。
- その売上高は、営業力から見て現実的か
- 生産能力や人員体制から見て対応できるか
- 必要な在庫や外注体制を確保できるか
- その売上を実現するまでの資金繰りは耐えられるか
- 値引きや原価上昇が起きても達成可能か
- 既存顧客だけで足りるのか、新規開拓が必要なのか
- 必要な売上を追うことで、低採算案件が増えないか
必要売上高が現実的でないとき、売上目標を無理に引き上げるだけでは解決しません。その場合は、複数の選択肢を検討することになります。
- 限界利益率を改善する
- 価格を見直す
- 低採算取引を整理する
- 商品・サービス構成を見直す
- 外注費や仕入条件を見直す
- 固定費の増加時期を遅らせる
- 固定費の一部を変動費化する
- 投資の規模やタイミングを見直す
- 資金調達と合わせて段階的に実行する
利益計画の価値は、必要売上高を計算することだけにあるのではありません。必要売上高と現実とのギャップを見て、経営上の打ち手を整理できることにこそ、その意味があります。
利益計画は、年次だけでなく月次に落とし込む
年間の利益計画を作っても、月次に落とし込まなければ、経営判断には使いにくいものです。
年間売上、年間原価、年間固定費、年間利益だけを並べても、どの月に利益が出て、どの月に資金が苦しくなるのかが見えてきません。
季節変動のある会社では、売上が偏ります。賞与、税金、保険料、設備投資、借入返済といった支払いも、月によって偏りが出ます。広告費や採用費も、発生する時期によって月次の損益に影響します。だからこそ、利益計画は月別に分解しておく必要があるのです。
経営計画では、3か年の目標利益計画を作ったうえで、初年度については月別の目標利益計画を作成し、毎月、計画どおりに推移しているかを確認できるようにしておく――この考え方が重要になります。季節変動の大きい会社であれば、過去の季節変動を分析したうえで月別計画を組む必要があります。
なお、月別計画を作るときに、年間計画を単純に12等分するだけでは不十分です。次のような要素を織り込んでおきたいところです。
- 売上の季節性
- 主要取引先の発注時期
- 納品・検収のタイミング
- 仕入・外注の発生時期
- 賞与や社会保険料の負担
- 税金の納付時期
- 設備投資や修繕の予定
- 広告・採用活動の時期
- 借入返済のスケジュール
これらを織り込んで初めて、月次で確認できる利益計画になります。
利益計画は、主要施策・行動計画とつながっていなければならない
利益計画は、数字だけで完結するものではありません。
売上を増やす。粗利率を改善する。固定費を抑える。不採算取引を見直す。新商品を投入する。営業体制を変える。調達条件を見直す。在庫を圧縮する。価格改定を行う――。こうした施策が伴わなければ、利益計画はただの数字の表になってしまいます。
経営計画では、目標利益計画、月別目標利益計画、主要施策、行動計画をつなげ、その行動計画をPDCAで運用していく、という考え方が示されています。利益計画は、経営目標から主要施策、そして行動計画へと落とし込まれて初めて、実行管理の対象になります。
利益計画を作るときは、それぞれの数字に対応する施策を確認しておきたいところです。
- 売上を増やすなら、どの顧客、商品、地域、チャネルで増やすのか
- 限界利益率を改善するなら、価格、原価、商品構成、外注比率のどこを変えるのか
- 固定費を増やすなら、その固定費で何を実現するのか
- 固定費を見直すなら、業務品質や成長力への影響はないか
- 不採算取引を見直すなら、売上減少と利益改善の両方を見ているか
数字と施策がつながっていない利益計画は、実行の段階で形骸化していきます。反対に、施策と数字がつながっていれば、月次の予実差異を見たときに、次に何を確認すべきかがはっきりします。
利益計画は、資金計画と必ず接続する
利益計画を作るうえで、最も注意すべきなのは、利益と資金を混同しないことです。利益が出る計画であっても、資金が回らなければ実行できません。
売上が増えれば、売掛金が増えることがあります。在庫を増やす必要が出てくるかもしれません。外注費や仕入代金の支払いが先行することもあります。設備投資をすれば、その時点で資金が出ていきます。借入金の元本返済は、利益計算には現れなくても現金を減らします。法人税、消費税、社会保険料などの支払いも、資金繰りに大きく影響します。
ですから、利益計画と資金計画は別々に作るのではなく、接続して確認する必要があります。
予算財務諸表の考え方では、損益予算、資金予算、資本予算を分けて整理します。損益予算は売上と費用の計画であり、資金予算は必要な現金を維持するための計画です。発生主義の財務諸表だけでは資金の動きをつかみきれないため、現金主義的な資金管理が欠かせなくなります。
利益計画を作ったら、少なくとも次の資金項目を確認しておきたいところです。
- 売上計上から入金までの期間
- 仕入・外注の支払条件
- 在庫の増減
- 設備投資の支払時期
- 借入金の返済予定
- 税金の納付時期
- 賞与や一時金の支払い
- 資金調達の必要額と時期
- 手元資金の最低ライン
利益計画では黒字が見込まれていても、月別の資金繰り表では資金不足が見えてくることがあります。その場合には、利益計画を修正するのか、投資時期を変えるのか、借入を検討するのか、回収条件や支払条件を見直すのかを判断しなければなりません。
利益計画は、資金繰り表とつながって初めて、実行可能な計画になるのです。
利益計画は、金融機関への説明にも影響する
利益計画は、社内管理のためだけの資料ではありません。金融機関に対して、会社の今後の見通しを説明する場面でも重要な役割を果たします。
金融機関は、過去の決算書だけでなく、現在の月次業績、今後の見通し、資金使途、返済原資までを確認します。特に、追加融資、設備資金、運転資金、返済条件の見直しなどを相談する場合には、利益計画と資金計画の整合性が問われます。
金融機関に月次決算を提出する場合、利益が出ている月の資料だけでなく、正確な月次決算を継続して提出していくことが重要です。金融機関は会社の現況を把握したいと考えていますから、業績が芳しくない月であっても正確な数字を出し続けることが、信頼の形成につながります。
金融機関に説明できる利益計画には、おおむね次のような特徴があります。
- 過去実績と整合している
- 売上計画の前提を説明できる
- 粗利率・限界利益率の前提を説明できる
- 固定費の増減理由を説明できる
- 借入返済の原資が見えている
- 資金繰り表とつながっている
- 計画未達時の対応策が整理されている
- 月次で進捗を報告できる
反対に、売上だけが大きく伸びているのに根拠が弱い計画、原価上昇や固定費増加が織り込まれていない計画、利益は出ているのに資金繰りを説明できない計画は、外部への説明に耐えにくくなります。
利益計画は、社内の意思決定資料であると同時に、外部に対する説明責任の基礎でもあるのです。
利益計画を作る実務ステップ
利益計画は、いきなり精密な表を作るところから始める必要はありません。むしろ、最初から細かく作り込みすぎると、入力作業に追われて、経営判断に使えない計画になりがちです。
実務では、次の順番で整理していくと進めやすくなります。
1. 直近実績を確認する
まずは、直近の月次決算や決算書をもとに、現在の利益構造を確認します。
- 売上高
- 変動費
- 限界利益
- 限界利益率
- 固定費
- 営業利益
- 経常利益
- 借入返済額
- 税金負担
- 資金繰りの状況
ここで重要なのは、過去の数字をそのまま将来に延ばさないことです。まず現状を正しく把握し、そのうえで変化の要因を整理していきます。
月次決算は、月末を決算期末とみなして業績判断に役立つ決算書を作るものです。最新の経営状態をつかみ、タイムリーに打ち手を実践していくためには欠かせません。
2. 目標利益を決める
次に、会社に必要な利益を決めます。
- 本業として必要な営業利益
- 借入利息を含めた経常利益
- 納税後に必要な利益
- 借入返済や投資に耐えるための資金余力
この段階では、「いくら利益を出したいか」ではなく、「いくら利益が必要か」を考えます。
3. 固定費を見積もる
現在の固定費に、来期の変化を加えていきます。
- 採用予定
- 昇給や賞与
- 家賃や拠点費用
- システム費
- 広告費
- 保険料
- リース料
- 減価償却費
- 専門家報酬
- 管理体制整備に必要な費用
固定費は、計画上の前提を明確にしておく必要があります。特に、成長のために増やす固定費と、削減・見直しの余地がある固定費は、分けて考えることが大切です。
4. 変動費率・限界利益率を設定する
過去実績をもとにしながら、将来の変化を織り込みます。
- 価格改定
- 仕入単価の変動
- 外注比率の変化
- 商品構成の変化
- 顧客別採算の変化
- 物流費や手数料の増減
ここを粗く見積もると、利益計画全体が大きくずれてしまいます。特に限界利益率が低下する可能性がある場合は、保守的に確認しておく必要があります。
5. 必要売上高を計算する
固定費、目標利益、限界利益率から、必要売上高を逆算します。
(固定費 + 目標利益) ÷ 限界利益率 = 必要売上高
計算した必要売上高が、営業現場や生産体制から見て実現可能かを確認します。実現が難しい場合は、売上目標を無理に押し上げるのではなく、利益構造の見直しを検討します。
6. 月別に展開する
年間計画を月別に分解します。
- 月別売上
- 月別変動費
- 月別限界利益
- 月別固定費
- 月別利益
- 月別資金収支
月別計画にすることで、予実管理と資金繰り管理に使えるようになります。
7. 資金繰り表と照合する
利益計画を資金繰り表に接続します。
- 利益は出ているが資金が不足する月はないか
- 借入返済に耐えられるか
- 税金の支払いに備えられているか
- 設備投資の自己資金は確保できるか
- 手元資金の最低ラインを下回らないか
ここで資金不足が見えてきた場合は、利益計画、投資計画、資金調達計画を合わせて見直します。
8. 主要施策と行動計画を紐づける
最後に、数字を実行へと落とし込みます。
- どの施策で売上を増やすのか
- どの施策で限界利益率を改善するのか
- どの固定費を増やし、何を実現するのか
- どの費用を見直すのか
- 誰が、いつ、何を確認するのか
- 月次でどの指標を見るのか
利益計画は、行動計画とつながって初めて実行されます。
利益計画でよくある失敗
前年比だけで作ってしまう
「売上は前年比で増やす」「経費は前年並み」「利益は前年より少し上げる」――こうした作り方では、利益構造の変化を見落としてしまいます。
前年と同じ限界利益率とは限りません。前年と同じ固定費の水準とも限りません。前年にはなかった採用、投資、借入返済、税金負担があるかもしれません。
前年比は参考にはなりますが、利益計画の根拠にはなりません。
売上目標が先にあり、必要利益が後回しになる
売上目標を先に決めてしまうと、利益が不足していても「売上をもっと頑張る」という話になりがちです。しかし、売上を増やすだけでは利益が増えないことがあります。
低採算案件が増えれば、忙しくなるだけで利益は残りません。値引きで売上を作れば、限界利益率が下がります。売上増加に伴って在庫や売掛金が増えれば、資金繰りが悪化します。
利益計画では、売上ではなく、まず必要利益から考えるべきなのです。
固定費の増加を甘く見る
固定費の増加は、利益計画に大きく影響します。特に、人件費、家賃、設備、システム、広告、管理体制に関する費用は、一度増えると短期的には下げにくいものです。
固定費を増やすときは、その費用がどのように利益へ貢献するのか、いつ回収できるのかを確認しておく必要があります。
粗利率・限界利益率を固定で考える
過去の粗利率や限界利益率をそのまま使うと、計画がずれてしまうことがあります。
- 原価上昇
- 値引き
- 商品構成の変化
- 外注比率の上昇
- 物流費や手数料の増加
- 低採算取引の増加
これらが起きると、売上が計画どおりでも、利益は計画を下回ってしまいます。
利益計画と資金繰りがつながっていない
利益計画上は黒字でも、資金繰りの上では厳しい、ということがあります。
- 売掛金の回収が遅い
- 在庫が増える
- 仕入支払いが先行する
- 借入返済が重い
- 税金の支払いが大きい
- 設備投資の支出が先行する
これらは、利益計画だけでは見えにくい論点です。利益計画は、必ず資金繰り表と照合する必要があります。
計画を作って終わりにする
利益計画は、作ること自体が目的ではありません。毎月確認し、差異を分析し、次の行動を決めるために作るものです。
計画を上回ったときも、下回ったときも、売上高、売上原価、一般管理費などのどこに差異が出たのかを確認し、主要施策や行動計画に問題がなかったか、あるいは良かった点は何かを検討する必要があります。
利益計画は、月次で使われなければ意味がありません。
利益計画を月次管理に活かす視点
利益計画を経営に活かすには、月次で次の点を確認します。
- 売上は計画どおりか
- 限界利益率は計画どおりか
- 固定費は計画どおりか
- 営業利益・経常利益は計画どおりか
- 資金繰りは計画どおりか
- 差異の原因は一時的か、構造的か
- 次月以降にどの施策を修正するか
このとき、単に「計画に対してプラスかマイナスか」を見るだけでは不十分です。
売上が未達でも、限界利益率が改善していれば、利益への影響は抑えられているかもしれません。逆に売上を達成していても、値引きや原価上昇で限界利益率が下がっていれば、利益には危険信号が灯っています。利益を達成していても、売掛金や在庫が増えていれば、資金繰りには注意が必要です。
利益計画を月次管理に活かすには、売上、限界利益、固定費、利益、資金を一体で見ていく必要があります。
利益計画は、経営者の判断を代替するものではない
利益計画を作ると、数字が一人歩きしてしまうことがあります。
「計画だから必ず達成しなければならない」「計画未達は悪いことだ」「計画を変えるのはよくない」「予算を守ることが目的だ」――こうした考え方になると、利益計画はかえって経営を縛るものになってしまいます。
利益計画は、経営者の判断を代替するものではありません。経営者がより確かな判断をするための前提です。
計画と実績がずれること自体は、必ずしも悪いことではありません。問題は、ずれた理由を見ないこと、そして、ずれた理由を見ても次の判断につなげないことにあります。
利益計画は、経営の仮説です。月次の実績は、その仮説に対する、現実からの回答です。計画と実績の差を見ながら、価格、原価、固定費、投資、採用、資金調達、撤退・集中の判断を更新していく――それが、利益計画を経営に使うということなのだと考えています。
専門家に相談する前に整理しておきたいこと
利益計画を専門家と一緒に作る場合、事前に次の点を整理しておくと、相談の質が高まります。
- 直近の月次試算表は、いつまで確認できているか
- 売上、原価、販管費の主な内訳は把握できているか
- 変動費と固定費を分けて見ているか
- 限界利益率を把握しているか
- 現在の損益分岐点売上高を把握しているか
- 借入返済、税金、設備投資を含めた必要利益を考えているか
- 来期に増える固定費は何か
- 原価上昇や値引きの影響を織り込んでいるか
- 年間計画を月別に分解しているか
- 利益計画と資金繰り表がつながっているか
- 計画未達時の対応策を考えているか
- 金融機関や社内に説明できる前提になっているか
すべてが整っていなければ相談できない、というわけではありません。むしろ、どこが見えていて、どこが見えていないのかを明らかにすることこそ、利益計画づくりの出発点になります。
まとめ|利益計画は、必要利益から逆算する経営判断の土台である
利益計画は、単なる売上目標ではありません。会社に必要な利益を明確にし、その利益を実現するために、売上、変動費、固定費、資金繰り、実行可能性を逆算していくものです。
売上を伸ばすことは、もちろん重要です。しかし、売上だけでは会社は強くなりません。
- 限界利益が残る売上か
- 固定費を回収できる売上か
- 借入返済や納税に耐えられる利益か
- 設備投資や採用に必要な資金を確保できるか
- 月次で確認し、施策を修正できるか
- 外部に説明できる前提になっているか
ここまで整理できて初めて、利益計画は経営に使える数字になります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、月次決算、変動損益計算、利益計画、資金繰り表、予算管理、経営計画を、経営判断に使える形へ整える支援を行っています。
- 「売上目標はあるが、必要利益から逆算できていない」
- 「利益計画と資金繰りがつながっていない」
- 「金融機関や社内に説明できる計画にしたい」
- 「月次の数字を見ながら、利益改善の打ち手を整理したい」
このような課題をお持ちの場合は、お問い合わせページからご相談ください。数字を作るだけでなく、その数字をもとに、どこに利益構造上の課題があり、どこから整えていくべきかを、一緒に整理していくことができます。
振り返り
| 項目 | 確認すべきポイント |
|---|---|
| 利益計画の目的 | 希望的な売上目標ではなく、必要利益を実現するために売上・費用・資金を設計する |
| 目標利益 | 営業利益、経常利益、税引後利益、資金繰り上必要な利益を分けて考える |
| 固定費計画 | 維持費、成長投資、管理体制整備、一時費用、見直し可能な費用を分けて確認する |
| 変動費率 | 仕入、外注、材料費、手数料、配送費など、売上に連動する費用の前提を確認する |
| 限界利益率 | 売上から変動費を差し引いた限界利益が、固定費と目標利益を回収できるかを見る |
| 必要売上高 | 固定費と目標利益を限界利益率で割り、必要な売上水準を逆算する |
| 実行可能性 | 営業力、生産能力、人員体制、在庫、外注、資金繰りから現実性を確認する |
| 月別計画 | 年間計画を季節変動、支払時期、税金、賞与、投資時期を踏まえて月別に分解する |
| 資金計画との接続 | 利益が出ても資金が不足しないか、資金繰り表で確認する |
| 主要施策との接続 | 売上増、粗利改善、固定費管理、価格改定、採算改善の施策と紐づける |
| 予実管理 | 計画と実績の差を確認し、原因分析と次の行動に結びつける |
| 外部説明 | 金融機関や社内に対して、前提・数字・施策・返済原資を説明できる状態にする |