中小M&Aを検討するとき、価格と並んで重要になるのが「どのスキームで実行するか」という問いです。
ここでいうスキームとは、M&Aをどの法的・税務的な形で実行するかという、取引そのものの設計を指します。代表的なものとして、株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割、株式交換などがあります。
同じ会社、同じ事業を対象としたM&Aであっても、選ぶスキームが変われば、引き継ぐもの、引き継がないもの、課税関係、会計処理、契約手続、許認可、従業員対応、金融機関対応、そしてPMIの負荷まで、実務は大きく変わってきます。
特に中小・中堅企業では、次のような点がスキーム判断に直結します。
- 会社全体を引き継ぐのか、一部事業だけを引き継ぐのか
- 簿外債務や偶発債務をどこまで引き受けるのか
- 主要契約や許認可をそのまま使えるのか
- 従業員の雇用をどう引き継ぐのか
- 経営者保証や担保をどう整理するのか
- 売り手の手取り、買い手の取得原価、対象会社の課税がどう変わるのか
- 買収後に会社を統合するのか、子会社として残すのか
- 金融機関や取引先にどう説明するのか
つまり、M&Aのスキームは「税金が安い方法を選ぶ」という話ではありません。税務・会計・法務・契約・資金・管理体制を一体で見たうえで、M&Aの目的を実現しやすい形を選ぶ、れっきとした経営判断なのです。
この点については、中小企業庁が2024年8月に「中小M&Aガイドライン」を第3版へ改訂し、最終契約・クロージング後のリスク事項、経営者保証の扱い、仲介者・FAの説明義務などについて内容を拡充しています。スキームを判断する場面でも、契約後のリスク、保証、説明責任までを見据えておく必要があると考えています。
本記事では、一般的な中小・中堅企業を対象に、M&Aスキームと税務・法務の基本を整理します。なお、医療法人・医療機関に固有のM&A、医療制度、診療報酬、医療法人税務といった論点は扱いません。
M&Aスキームは「何を引き継ぐか」を決める設計である
M&Aのスキームを考えるとき、最初に整理しておきたい問いは「何を引き継ぐのか」です。
会社全体を引き継ぐのか、それとも特定の事業だけを引き継ぐのか。株主を入れ替えるのか、法人格そのものを統合するのか。あるいは、グループ内で事業を切り出してから譲渡するのか、買い手の株式を対価にして完全子会社化するのか。この違いによって、M&Aの実務はまったく異なる姿になります。
たとえば株式譲渡では、対象会社の株主が変わるだけで、対象会社そのものは存続します。契約、雇用、資産、負債、許認可は、原則として対象会社に残ります。ただし、会社全体を引き継ぐ以上、簿外債務や偶発債務のリスクもあわせて引き受ける可能性があります。
一方、事業譲渡では、売り手会社から買い手会社へ、特定の事業に関する資産・負債・契約等を個別に移転します。引き継ぐ範囲を選びやすい反面、契約移転、許認可、従業員の同意、不動産登記、取引先対応といった実務手続は重くなりがちです。
実際、中小M&Aでは株式譲渡と事業譲渡が中心的な手法として用いられることが多いものです。株式譲渡は手続が比較的シンプルである一方で簿外債務・偶発債務リスクを引き継ぎやすく、事業譲渡は承継対象を選べる一方で財産の特定、対抗要件、許認可取得などの作業が必要になります。
スキーム判断は、次の6つの視点で整理すると、実務上わかりやすくなります。
| 視点 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 承継範囲 | 会社全体か、一部事業か、資産・負債を選ぶのか |
| 債務・リスク | 簿外債務、偶発債務、未払税金、未払残業、保証債務をどう扱うか |
| 契約・許認可 | 主要契約、取引条件、許認可、COC条項、第三者同意が必要か |
| 税務・会計 | 売り手・買い手・対象会社・株主にどの課税・会計処理が生じるか |
| 手続負担 | 株主総会、債権者保護、登記、通知、公告、従業員対応の負荷 |
| PMI | 買収後に統合するのか、子会社として残すのか、管理体制をどう合わせるか |
この整理をせずに、「株式譲渡が簡単そう」「事業譲渡ならリスクが少なそう」「会社分割なら税務上有利そう」といった断片的な印象で進めてしまうと、後になって想定外の税負担、契約の不承継、許認可の問題、従業員対応、金融機関への説明の難しさが表面化します。
株式譲渡|会社全体を引き継ぐ最も基本的なスキーム
株式譲渡は、売り手株主が保有する対象会社の株式を、買い手に譲渡する方法です。
中小M&Aの中でも、最もイメージしやすいスキームといえるでしょう。対象会社の法人格はそのまま残り、変わるのは株主だけです。
株式譲渡の基本構造
株式譲渡では、売り手が売却するのは対象会社そのものではなく、対象会社の株式です。買い手は、その株式を取得することで対象会社の支配権を手に入れます。
対象会社の資産、負債、契約、従業員、許認可、取引関係は、原則として対象会社に残ります。会社自体が契約当事者であり続けるため、形式上は事業が途切れにくい。これが株式譲渡の大きな利点です。
ただし、「会社がそのまま残る」ということは、裏を返せば、良いものも悪いものも会社に残るということでもあります。
買い手は、対象会社の資産だけでなく、借入金、未払金、未払税金、未払社会保険、未払残業代、保証債務、訴訟リスク、過去の税務リスク、契約違反リスクなども、対象会社を通じて実質的に引き受けることになるのです。
株式譲渡の法務上の注意点
株式譲渡でまず確認したいのは、そもそも株式を本当に譲渡できる状態にあるかどうかです。
中小企業では、次のような問題がよく見受けられます。
- 株主名簿が整備されていない
- 名義株がある
- 株券発行会社なのに株券の所在が不明
- 譲渡制限株式であり、会社の承認が必要
- 少数株主が残っている
- 相続で株式が分散している
- 過去の株式移転の資料が残っていない
- 代表者が実質的には支配しているが、議決権割合が十分でない
株式譲渡では、株式の権利関係が取引の根幹になります。株主構成や株主名簿の不備は、事業承継・M&Aそのものの障害になりかねません。
契約面では、チェンジ・オブ・コントロール条項、いわゆるCOC条項の確認も重要です。COC条項とは、株主変更や支配権変更があった場合に、契約の解除、事前承諾、条件変更などを定める条項を指します。主要取引先との契約、フランチャイズ契約、代理店契約、ライセンス契約、リース契約、借入契約、不動産賃貸借契約などに含まれていることがあります。
財務DDの実務でも、株式取得のようにオーナーシップが変わるM&Aでは、営業上・財務上の契約にCOC条項があると、契約条件の変更や契約解消を求められるリスクがあります。だからこそ、契約書の確認やマネジメントへのヒアリングが欠かせません。
株式譲渡は「簡単なスキーム」と言われることがあります。しかし、簡単なのはあくまで形式的な移転手続であって、リスク確認まで簡単になるわけではない、という点は強調しておきたいところです。
株式譲渡の税務上の基本
個人株主が株式を譲渡した場合、株式等の譲渡所得等は、上場株式等と一般株式等に区分され、他の所得とは分けて計算する申告分離課税の対象となります。非上場会社の株式は、通常「一般株式等」に該当します。
出典:国税庁|No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)
株式譲渡では、対象会社自体が資産を譲渡するわけではないため、対象会社に資産譲渡益課税が直接生じることはありません。ただし、売り手が個人か法人か、譲渡先が第三者か関係者か、自己株式取得を組み合わせるか、役員退職金を支給するかなどによって、税務上の取扱いは変わってきます。
中小M&Aでは、株式譲渡と退職金支給を組み合わせるケースがあります。この場合、譲渡側経営者の手取り、対象会社の損金性、買い手の資金負担、役員退任の実態、退職金の相当性などを、慎重に確認する必要があります。
ここで気をつけたいのは、税務上有利に見える組み合わせが、必ずしも経営判断として適切とは限らない、ということです。
たとえば、役員退職金を支給すれば、売り手の手取りが改善する可能性があります。一方で、対象会社の現預金が減少すれば、買収後の資金繰り、運転資金、借入返済、金融機関への説明に影響が及びます。買い手の側から見れば、「買収価格は妥当だが、クロージング時に会社の現金が大きく減る」という状態では、実質的な買収負担そのものが変わってしまうのです。
したがって株式譲渡の税務は、売り手の手取りだけでなく、買収後の対象会社の資金余力まで含めて見ておく必要があります。
株式譲渡の会計上の基本
買い手が株式を取得した場合、買い手の個別財務諸表では、原則として取得した株式を投資有価証券または関係会社株式として処理します。対象会社の会計帳簿は、そのまま継続します。
ただし、買い手が対象会社を子会社化し、連結財務諸表を作成する会社であれば、企業結合会計、連結会計、のれん、取得原価配分などが論点になります。
この点、ASBJの企業結合会計基準は、企業結合に関する会計処理・開示を定めることを目的としており、企業結合を「ある企業又はある企業を構成する事業と他の企業又は他の企業を構成する事業とが1つの報告単位に統合されること」と定義しています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
中小企業では連結財務諸表を作成していないことも多いものですが、買収後に金融機関、親会社、外部株主へ説明する場面では、実質的に連結的な見方が求められます。
株式譲渡は対象会社の法人格を残すスキームですから、買収後の管理体制をどう整えるかが重要になります。子会社として残す場合であっても、月次決算、資金繰り、借入管理、契約管理、内部統制、経営会議の仕組みは、買い手グループの管理水準に合わせて整えていく必要があります。
事業譲渡|必要な事業だけを選んで引き継ぐスキーム
事業譲渡は、売り手会社が特定の事業を買い手に譲渡するスキームです。
株式譲渡が「会社ごと引き継ぐ」方法だとすれば、事業譲渡は「事業を構成する資産・負債・契約等を選んで引き継ぐ」方法だといえます。
事業譲渡の基本構造
事業譲渡では、対象となる事業、資産、負債、契約、従業員、取引関係を、契約で一つひとつ特定していきます。たとえば、次のようなものを譲渡対象に含めるかどうかを決めていくイメージです。
- 売掛金
- 在庫
- 機械設備
- 車両
- 不動産
- ソフトウェア
- 商標・特許・ノウハウ
- 顧客リスト
- 取引契約
- リース契約
- 買掛金・未払金
- 従業員
- 許認可に関係する設備・人員体制
- 屋号、ブランド、ドメイン
事業譲渡とは、会社が事業活動のために有している有機的一体としての組織的財産を譲渡するものであり、単なる個々の財産の譲渡とは性格が異なります。重要な事業譲渡等にあたっては、会社法上、株主総会の特別決議による承認が必要になる場合があります。
事業譲渡の利点は、買い手が引き継ぐ範囲を設計しやすいことにあります。不採算事業、不要資産、過去債務、簿外債務、偶発債務を、一定程度切り離す設計が可能です。
ただし、切り離せるということは、移すための手続が必要になるということでもあります。
事業譲渡の法務上の注意点
事業譲渡では、契約関係が自動的に移転するわけではありません。契約当事者が変わるため、取引先、貸主、リース会社、ライセンサーなどの同意が必要になることがあります。
許認可についても、事業譲渡によって当然に承継できるとは限りません。許認可の種類によって、再取得、変更届、承継届、事前承認、人的・設備要件の確認が求められます。
労働契約にも注意が必要です。事業譲渡の場合、従業員の労働契約は当然には買い手へ承継されず、労働者の真意による承諾が重要になります。厚生労働省は、事業譲渡等指針において、事業譲渡や合併にあたって会社等が留意すべき事項を定めています。
出典:厚生労働省|企業組織の再編(会社分割等)に伴う労使関係(労働契約の承継等)について
さらに、この事業譲渡等指針は、2026年5月25日から改正後の内容が適用されています。事業譲渡を検討する際には、労働者・労働組合とのコミュニケーションや、労働契約承継に関する説明・協議の進め方について、最新の指針を確認しておく必要があります。
出典:厚生労働省|「『事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針』の一部改正について」
事業譲渡は、リスクを選別しやすい反面、事業を構成する要素を一つずつ確認していく必要があります。買い手にとっては、特に次の点が重要です。
- 譲渡対象資産は事業継続に十分か
- 必要な契約を承継できるか
- 主要取引先が取引継続に同意するか
- 許認可を維持・再取得できるか
- 必要な従業員が移籍に同意するか
- 売掛金・在庫・仕掛品をどう扱うか
- 譲渡対象外の債務が実質的に事業に影響しないか
- 買収後すぐに必要な運転資金はいくらか
特に中小企業では、「社長との関係で取引が続いていた」「従業員が移ると思っていたが同意が得られなかった」「許認可を再取得するまで営業できない期間が生じた」といったリスクが、現実に起こり得ます。
事業譲渡の税務上の基本
事業譲渡では、売り手会社が事業資産を譲渡します。そのため、売り手会社に資産譲渡益、あるいは譲渡損が生じる可能性があります。
また、譲渡対象に棚卸資産、固定資産、営業権、土地建物などが含まれる場合には、それぞれの税務処理、消費税、不動産取得税、登録免許税、固定資産税精算なども確認しておく必要があります。
事業譲渡は会社分割と似ていますが、性格は異なります。会社分割が会社法上の組織再編行為として権利義務を包括的に承継させるのに対し、事業譲渡は契約で定められた範囲の財産を移転する取引法上の行為と整理されます。また、法人税法上、事業譲渡は適格組織再編税制の対象外であり、税務上は時価譲渡として譲渡損益が生じる点に注意が必要です。
このため売り手側では、「株式譲渡なら株主課税で済んだものが、事業譲渡では会社側に譲渡益課税が生じ、その後の資金移転にも課税関係が生じる」というケースが出てきます。
買い手側では、取得した資産・負債を取得価額で受け入れます。取得対価が受け入れた識別可能資産・負債の時価を上回る場合には、会計上ののれんや税務上の資産調整勘定等が論点になることがあります。
もっとも、これらは対象資産の内容、スキーム、当事者の属性、税務上の要件によって変わります。個別の案件では、税務専門家による確認が欠かせません。
事業譲渡の会計上の基本
買い手は、取得した事業に係る資産・負債を会計上受け入れます。売り手は、譲渡した資産・負債と受取対価との差額を、損益として認識することがあります。
事業譲渡の会計処理では、取得企業側で承継した事業の取得原価を算定し、受け入れた資産・負債に配分したうえで、必要に応じてのれんまたは負ののれんを認識します。
ここで中小企業ならではの問題があります。そもそも対象事業だけの貸借対照表が作成されていないことが少なくないのです。部門別損益はあっても、売掛金、在庫、固定資産、買掛金、未払金、借入金、共通費、税金を事業別に把握できていないケースは珍しくありません。
事業譲渡や会社分割のように会社の一部を対象とするM&Aでは、カーブアウトの対象となる事業、ないし資産・負債の範囲を特定したうえでDDを行う必要があります。事業別損益は把握していても、事業別の貸借対照表がない場合には、移管対象の範囲を明確にしておくことが重要です。
事業譲渡を検討する会社は、価格交渉に入る前に、対象事業の損益だけでなく、対象資産・負債、運転資本、共通費、必要人員、契約、許認可までを整理しておきたいところです。
合併|法人格を統合するスキーム
合併は、複数の会社を一つの会社に統合するスキームです。代表的なものに、吸収合併と新設合併があります。
中小M&Aでは、買収直後の初期スキームとして使うよりも、株式譲渡で子会社化したあと、一定期間を経てグループ内統合として行われることがあります。
合併の基本構造
吸収合併では、一方の会社が存続し、他方の会社が消滅します。消滅会社の権利義務は、原則として存続会社に包括承継されます。
会社が消滅するため、法務・会計・税務・労務・システム・取引先対応の負荷は大きくなります。株式譲渡であれば対象会社を子会社として残せますが、合併では法人格が一つになります。そのため、経理、給与、人事制度、会計方針、取引条件、システム、金融機関取引、社内規程、権限規程などを統合する必要が生じます。
財務DDの実務でも、合併は法的に異なる会社同士の融合であり、相手会社全体の財政状態、経営状況、会計基準、会計処理方法、人事、情報システム、取引先、企業文化等を事前に把握する必要があると整理されています。
合併の法務上の注意点
合併は、会社法上の組織再編行為です。合併契約、株主総会承認、債権者保護手続、公告、個別催告、登記、反対株主の株式買取請求など、会社法上の手続が問題になります。
会社法は、合併、会社分割、株式交換、株式移転等について規定しています。合併等を実行するにあたっては、会社法、会社法施行規則、対象会社の機関設計、株主構成、債権者保護手続等を確認する必要があります。
合併では契約や許認可が包括承継されると考えられる場面もありますが、許認可の種類によっては届出、承認、再取得が必要になることがあります。主要取引先との契約でも、合併時の通知義務や解除権が定められている場合があります。
合併を、形式上の包括承継だけで判断してはいけません。実務上は、主要契約、借入契約、許認可、補助金、リース、不動産、従業員制度を、一つずつ確認していく必要があります。
合併の税務上の基本
合併は、組織再編税制の対象となる代表的な取引です。税務上は、適格合併に該当するか、非適格合併になるかで、取扱いが大きく変わります。
組織再編成では、資産が移転する際に、移転資産の譲渡損益に課税するのが原則です。ただし、経済実態に実質的な変更がないと考えられる適格組織再編成については、一定の要件のもとで、移転資産等の譲渡損益や株主の株式譲渡損益の計上を繰り延べる整理が示されています。
ただし、「適格にすれば税金が安くなる」という単純な話ではありません。適格要件には、支配関係、共同事業性、事業継続、従業者引継ぎ、株式継続保有、対価要件などが関係します。さらに、繰越欠損金の引継ぎ制限、特定資産譲渡等損失の損金算入制限、みなし共同事業要件なども問題になります。
合併は、税務上の影響が大きいスキームです。M&Aの目的、統合後の事業運営、買い手・売り手の資本関係、繰越欠損金、含み損益、株主構成を確認しないまま進めるべきではありません。
合併の会計上の基本
合併の会計処理は、企業結合会計の問題になります。会計上は、取得、共同支配企業の形成、共通支配下の取引等のどれに該当するかによって、処理が変わります。
これは、法形式として合併であるかどうかだけでは決まりません。実質的に誰が支配を獲得したのか、グループ内取引なのか、共同支配なのかを判断する必要があります。
中小企業では、会計基準の詳細な適用が、常に上場会社と同じ実務負荷で問題になるわけではありません。しかし、金融機関、親会社、外部株主、あるいは将来のM&A・IPOを見据えるのであれば、合併による会計処理、のれん、繰延税金資産、会計方針統一の影響を無視することはできません。
合併は、M&A成立後の統合を一気に進める手段です。その分、実務負荷も大きく、PMIの準備なしに実行すると混乱を招きます。
会社分割|事業を包括的に切り出すスキーム
会社分割は、会社の事業に関する権利義務の全部または一部を、他の会社または新設会社に承継させる組織再編スキームです。
事業譲渡と同じく「事業の切り出し」に使われますが、法的な性質は異なります。
会社分割の基本構造
会社分割には、吸収分割と新設分割があります。吸収分割では既存の会社に事業を承継させ、新設分割では新しく設立する会社に事業を承継させます。
会社分割は、事業に関する権利義務を包括的に承継させる、会社法上の組織再編行為です。事業譲渡のように個別の資産・契約を一つずつ譲渡する取引とは異なります。
そのため会社分割は、次のような場面で検討されます。
- 売却対象事業を事前に切り出す
- 複数事業を兄弟会社に分ける
- 持株会社体制を作る
- 不採算事業と優良事業を分ける
- 事業承継前に株式・事業を整理する
- M&A前に譲渡対象を明確にする
- グループ内再編を行う
組織再編の実務では、複数の事業を会社分割で分離し、承継や再生、売却の前提を整えることがあります。会社分割は、事業の多角化対応、経営効率化、株主間紛争の回避、企業再生といった場面でも使われます。
会社分割の法務上の注意点
会社分割では、分割契約または分割計画、株主総会承認、債権者保護手続、公告、登記、反対株主対応などが問題になります。
労働契約については、会社分割に伴う労働契約承継法が重要です。会社分割では、従業員への通知、異議申出の機会、労働組合対応など、事業譲渡とは異なる手続が定められています。
厚生労働省は、会社分割について、労働契約承継法、同施行規則、関係指針が定められていると説明し、会社分割を行うにあたって、労働者・労働組合への通知や異議申出の機会等によって労働者保護を図る制度であるとしています。
出典:厚生労働省|企業組織の再編(会社分割等)に伴う労使関係(労働契約の承継等)について
会社分割は、事業譲渡より包括的に事業を移せる反面、会社法・労働法上の手続が重くなります。また、契約や許認可についても、会社分割で当然に承継できるとは限りません。法律上は包括承継と整理される場面でも、契約条項、業法、行政実務、金融機関の同意、取引先の承諾が必要になることがあります。
特に中小企業では、契約書が整っていない、許認可の管理が属人的になっている、従業員への説明が後手に回る、といった問題が起きやすいものです。会社分割を検討する段階で、資料を整えておく必要があります。
会社分割の税務上の基本
会社分割も、組織再編税制の対象になります。適格分割に該当する場合には、一定の要件のもとで、移転資産・負債の譲渡損益の計上が繰り延べられることがあります。一方、非適格分割となる場合には、時価移転として課税関係が生じることがあります。
ただし、適格要件の判定は複雑です。完全支配関係、支配関係、共同事業要件、事業関連性、事業規模、従業者引継ぎ、事業継続、株式継続保有、対価要件など、複数の要件を確認する必要があります。さらに、適格であっても、繰越欠損金や含み損の利用制限が問題になることがあります。
会社分割は、税務上の繰延べだけを目的に使うものではありません。事業再編の経済合理性、組織運営、将来のM&A、金融機関への説明とあわせて検討すべきものです。
会社分割の会計上の基本
会社分割の会計処理も、企業結合会計・事業分離会計の問題になります。分割会社側では、事業を移転したことによる投資の継続か清算かを判断し、承継会社側では、取得か共通支配下の取引か、あるいは共同支配企業の形成かなどを判断する必要があります。
ASBJは、事業分離等に関する会計基準において、他の企業に対して事業を分離する企業の会計処理や、結合当事企業の株主に係る会計処理などを検討対象としています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第7号『事業分離等に関する会計基準』及び企業会計基準適用指針第10号の公表
中小企業で会社分割を行う場合には、会計処理だけでなく、分割対象事業の月次損益、貸借対照表、資産負債明細、契約、許認可、従業員、共通費配賦を整理しておかなければ、分割後の経営管理が混乱します。
会社分割は、事業を整理するための強力な手段です。しかし、事業の数字が見えていない状態で行えば、分けた後に採算・資金・管理責任が不明確になってしまいます。
株式交換|完全子会社化やグループ再編に使われるスキーム
株式交換は、ある会社を他の会社の完全子会社にするための組織再編スキームです。買い手会社が完全親会社となり、対象会社が完全子会社になります。対象会社の株主は、原則として完全親会社の株式等を受け取ります。
株式交換の基本構造
株式交換は、対象会社を100%子会社化するために使われます。現金を使わずに、買い手会社の株式を対価としてM&Aを行える点が特徴です。買い手にとっては、買収資金を抑えながら完全子会社化できる可能性があります。
ただし中小企業では、買い手会社の株式が非上場で流動性に乏しいことが多く、売り手株主がその株式を受け取ることに納得するかどうかが問題になります。評価額、将来の換金方法、配当方針、議決権、少数株主としての立場を、あらかじめ整理しておかなければなりません。
株式交換の法務上の注意点
株式交換も、会社法上の組織再編行為です。株式交換契約、株主総会承認、反対株主の株式買取請求、登記などが問題になります。
また、株式交換後に売り手側の元株主が買い手会社の株主になる場合には、買い手会社の株主構成にも影響します。支配権、希薄化、議決権割合、種類株式の有無、株主間契約、将来の出口を確認する必要があります。
株式交換は、単なる買収手法ではなく、買い手会社の資本政策にも影響するスキームなのです。
株式交換の税務上の基本
株式交換も、組織再編税制の対象です。一定の要件を満たす適格株式交換に該当する場合には、対象会社株主における譲渡損益の課税が繰り延べられることがあります。一方、金銭等の交付がある場合や、要件を満たさない場合には、課税関係が生じることがあります。
適格株式交換では、株式交換完全親法人株式のみが交付されるか、一定の要件を満たすかなどが問題になり、株式交換完全子法人の株主側では、譲渡損益の繰延べが論点になります。
税務上の繰延べが可能に見える場合でも、売り手株主にとっては「現金を受け取れない」「取得した株式をいつ換金できるか分からない」という問題が残ります。税務上の繰延べと、経営者の資金ニーズは、別の問題として考える必要があります。
株式交換の会計上の基本
株式交換の会計処理も、企業結合会計の判断が必要です。完全親会社側では、取得した完全子会社株式の取得原価、企業結合の会計処理、連結上ののれん、取得原価配分などが問題になります。対象会社側では、法人格は残るため、個別会計帳簿は継続します。
株式交換は、資金を使わずに完全子会社化できる可能性がある反面、資本政策、株主間関係、会計処理、税務要件が複雑になりやすいスキームです。中小企業では、安易に使うよりも、目的が明確な場合に慎重に検討すべきものといえます。
スキーム別に見る税務・法務・会計の違い
各スキームを比較すると、次のように整理できます。
| スキーム | 何を移すか | 主な利点 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡 | 株式 | 手続が比較的シンプル。会社・契約・雇用が原則継続しやすい | 簿外債務・偶発債務・過去税務リスクを会社ごと引き継ぐ可能性 |
| 事業譲渡 | 特定事業の資産・負債・契約等 | 承継対象を選びやすく、リスク遮断を設計しやすい | 契約移転、許認可、従業員同意、消費税・登録等の手続負担 |
| 合併 | 会社全体の権利義務 | 法人格を統合し、グループ管理を一本化しやすい | 統合負荷が大きく、債権者保護、許認可、労務、会計・税務が複雑 |
| 会社分割 | 事業に関する権利義務 | 事業を包括的に切り出せる。再編・承継・売却準備に使える | 会社法・労働契約承継法・組織再編税制の確認が必要 |
| 株式交換 | 対象会社を完全子会社化 | 現金を抑えた完全子会社化やグループ再編に使える | 買い手株式の評価、流動性、希薄化、株主関係、税務要件が問題 |
スキームの選択では、「どれが一般的か」よりも、「自社の目的に合っているか」が重要です。
たとえば、買い手が対象会社の過去リスクを引き受けたくないのであれば、事業譲渡や会社分割を検討する余地があります。一方で、許認可・契約・従業員を維持しながら事業を継続する必要が強いのであれば、株式譲渡のほうが現実的な場合もあります。買収後すぐに統合したいなら合併が選択肢になりますが、PMIの準備がなければ混乱します。特定事業だけを切り出したいなら会社分割が有効な場合がありますが、税務・労務・契約実務の負荷は決して軽くありません。
スキームは、単独で評価できるものではありません。M&Aの目的、価格、リスク、資金、税務、契約、従業員、PMIを同時に見て、判断していく必要があります。
スキーム選択でよくある誤解
誤解1:株式譲渡は簡単だから安全である
株式譲渡は、手続が比較的シンプルなことがあります。しかし、それは安全という意味ではありません。
株式譲渡では、対象会社の過去の処理、契約、税務、労務、簿外債務、偶発債務が、会社にそのまま残ります。だからこそ、買い手にとってはDDが重要になります。
DDは、買収対象の実態を理解し、リスクを事前に特定・評価するための作業です。財務DDで検出された事項は、価格算定だけでなく、ストラクチャー、買収契約書、シナジー、買収後の財務諸表、統合作業のプランニングにも影響します。
株式譲渡を選ぶのであれば、簡単だからこそ、DDと契約でリスクを整理しておく必要があります。
誤解2:事業譲渡ならリスクを完全に遮断できる
事業譲渡では、承継対象を選ぶことで、過去債務や不要資産を引き継がない設計が可能です。しかし、リスクを完全に消せるわけではありません。
たとえば、主要取引先が契約移転に同意しなければ、事業は続きません。従業員が移籍しなければ、ノウハウが途切れます。許認可が取得できなければ、営業できません。譲渡対象外とした債務が、実質的に事業継続に影響することもあります。
事業譲渡は、リスクを選別できる一方で、事業を構成する要素を再構築するスキームです。買い手は「何を引き継がないか」だけでなく、「何を引き継がなければ事業が回らないか」まで確認すべきです。
誤解3:組織再編税制を使えば税負担を避けられる
合併、会社分割、株式交換では、適格組織再編に該当すれば、一定の課税繰延べが可能になる場合があります。しかし、これは「税金がなくなる」という意味ではありません。
経済実態に実質的な変更がないと考えられる場合など、一定の要件を満たす組織再編について、課税を将来に繰り延べる制度です。また、要件判定を誤れば、想定外の課税が発生します。繰越欠損金や含み損の利用制限も問題になります。
税務上の適格性だけを目的にスキームを組むのではなく、事業上の合理性、承継後の経営管理、外部への説明可能性をあわせて確認すべきです。
誤解4:税務上有利なスキームが最善である
M&Aにおいて、税務上の有利・不利は確かに重要です。しかし、税務だけでスキームを決めるべきではありません。
税負担が少なくても、主要契約が承継できない、従業員が移らない、許認可が取れない、金融機関が説明を受け入れない、PMIが進まないのであれば、そのスキームは経営判断として適切とはいえないからです。
スキームは、税引後の手取りだけではなく、M&A目的の実現可能性で判断する必要があります。
売り手側がスキーム判断で整理すべきこと
売り手側は、まず「何を譲渡したいのか」を明確にする必要があります。
会社全体を譲渡したいのか、特定事業だけを譲渡したいのか。不動産や非事業用資産は残したいのか。役員貸付金・役員借入金をどう精算するのか。従業員の雇用をどう守りたいのか。経営者保証を解除したいのか。引退後の資金をどう確保するのか。
この整理が曖昧なまま進めると、価格交渉やスキーム交渉の場面で混乱します。
売り手側が事前に確認しておきたい資料は、次のとおりです。
- 株主名簿
- 定款
- 株券発行の有無
- 過去の株式移転資料
- 決算書・申告書
- 月次試算表
- 借入金一覧
- 担保・保証一覧
- 役員貸付金・役員借入金明細
- 契約書一覧
- 許認可一覧
- 不動産・固定資産台帳
- 従業員一覧・雇用契約・就業規則
- 未払税金・未払社会保険・未払残業の有無
- 事業別損益
- 売掛金・在庫・買掛金明細
- 保険、リース、補助金、重要な取引条件
これらは、スキーム判断のためだけのものではありません。買い手の安心、DD対応、価格交渉、契約条件、クロージング、PMIにまで影響します。
買い手側がスキーム判断で整理すべきこと
買い手側は、「どの形なら買えるか」ではなく、「どの形なら買収目的を実現できるか」を考える必要があります。
買収の目的が、顧客基盤の取得なのか、技術・人材の取得なのか、商圏拡大なのか、設備・拠点の取得なのか、許認可やブランドの取得なのか。それによって、適したスキームは変わってきます。
買い手側が確認しておきたい問いは、次のとおりです。
- 対象会社全体を引き受ける必要があるか
- 特定事業だけで目的を達成できるか
- 過去リスクをどこまで許容できるか
- 必要な契約・許認可は承継できるか
- キーマンや従業員は残るか
- 金融機関の同意や保証解除は可能か
- 買収後の運転資金はいくら必要か
- 買収後すぐに統合するか、子会社として残すか
- 会計・税務・労務・IT・契約管理をどう統合するか
- 想定するスキームを金融機関や株主に説明できるか
特に、買い手側が中小企業の場合には、自社にも管理リソースの制約があります。中小M&Aでは、譲受側も人的資源等のリソース制約を抱えることがあり、同業種・近接地域でのM&Aが多い傾向が指摘されています。
そのため、理論上は合併や会社分割が可能であっても、実務として運用できる体制がなければ、選ぶべきではありません。スキームは、買収後に自社が管理できる形であることが重要です。
スキーム判断はDD・契約・PMIとつながっている
スキームは、M&Aの初期段階で決めて終わり、というものではありません。
初期検討では株式譲渡を想定していたが、DDで簿外債務が見つかり、事業譲渡へ変更する。事業譲渡を想定していたが、許認可・契約移転が難しく、株式譲渡へ変更する。株式譲渡で子会社化した後、一定期間を経て合併する。譲渡前に会社分割で対象事業を切り出す。このように、DDの結果によってスキームが変わることは珍しくありません。
財務DDでは、価値評価だけでなく、ストラクチャーに関連する検出事項も重要です。ストック・ディールでは、不要資産や偶発債務を含めて権利義務を引き継ぐリスクがあり、アセット・ディールでは、承継対象を選べる一方で、移転手続や取得対象範囲の特定が重要になります。
さらに、スキームは最終契約にも影響します。株式譲渡なら、表明保証、補償、価格調整、経営者保証、役員貸付金、クロージング条件が重要になります。事業譲渡なら、承継対象資産・負債、契約移転、従業員移籍、許認可、競業避止、売掛金・在庫・買掛金の精算が重要になります。会社分割なら、分割対象、債権者保護、労働契約承継、税務適格性、分割後の契約・許認可が重要になります。
そして、スキームはPMIにも影響します。株式譲渡で子会社として残すなら、ガバナンス、月次報告、資金管理、権限規程、経営会議の設計が重要です。合併するなら、会計・人事・IT・契約・規程を統合する必要があります。事業譲渡なら、初日から買い手側の業務フローに組み込む準備が必要です。
中小PMIでは、M&A成立前からPMIに向けた準備を進めることが重要であり、M&Aの成功は成立そのものではなく、当初期待した効果を実現できるかによって判断されます。
スキーム判断は、DD、契約、PMIと一体のものとして考えるべきです。
スキームを選ぶための実務的な判断軸
中小M&Aでスキームを選ぶ際は、次の順番で整理していくと、実務上の迷いが減ります。
1. M&Aの目的を確認する
まず、何のためにM&Aを行うのかを確認します。
売り手であれば、引退、事業承継、従業員雇用の維持、事業の一部売却、資金確保、会社整理などが目的になります。買い手であれば、商圏拡大、人材確保、技術取得、製造能力強化、顧客基盤取得、事業ポートフォリオ再編などが目的になります。
目的が曖昧なままスキームを選ぶと、手段ばかりが先行してしまいます。
2. 引き継ぐ範囲を決める
会社全体を引き継ぐのか、事業だけを引き継ぐのかを整理します。
会社全体を引き継ぐなら、株式譲渡や合併が中心になります。事業だけを引き継ぐなら、事業譲渡や会社分割が選択肢になります。
3. リスクをどこまで引き受けるかを決める
簿外債務、偶発債務、税務リスク、労務リスク、契約リスクを確認します。
リスクを会社ごと引き受けてもよいのか。承継対象を選別したいのか。契約上の表明保証・補償で対応するのか。価格調整で対応するのか。ここが、スキーム選択の中心になります。
4. 契約・許認可・従業員の承継可能性を見る
スキーム上は可能でも、契約、許認可、従業員が引き継げなければ、M&Aは機能しません。
特に、許認可事業、フランチャイズ、代理店、主要顧客依存、キーマン依存、専門人材依存の会社では、この確認が重要です。
5. 税務・会計の影響を見る
売り手株主、売り手会社、買い手会社、対象会社のどこに課税が生じるのかを整理します。
- 株式譲渡の譲渡所得
- 事業譲渡の法人課税・消費税
- 役員退職金
- 自己株式取得
- 適格組織再編の可否
- 繰越欠損金の制限
- のれん・資産調整勘定
- 取得原価配分
- 繰延税金資産
- 登録免許税、不動産取得税
- 消費税の課税・非課税・不課税
税務は、スキーム選択の重要な要素です。ただし、税務だけで決めるべきではありません。
6. 手続負担とスケジュールを見る
株式譲渡は、比較的短期間で進められることがあります。一方、事業譲渡、会社分割、合併、株式交換は、契約、決議、通知、公告、登記、債権者保護、従業員対応、許認可対応に時間がかかります。
資金繰りや事業承継の期限が迫っている場合には、理論上は最適なスキームであっても、実務上は間に合わないこともあります。
7. 買収後に管理できるかを見る
最後に、買収後にそのスキームを管理できるかを見ます。
子会社管理ができるのか。合併後の経理・人事・ITを統合できるのか。事業譲渡後に業務フローを回せるのか。会社分割後の部門別採算を管理できるのか。
M&Aは、成立がゴールではありません。スキームは、買収後の経営管理まで見据えて選ぶ必要があります。
専門家に相談すべき場面
M&Aスキームは、会計・税務・法務・労務・許認可・金融実務が重なり合う領域です。経営者が全体像を理解しておくことは重要ですが、個別の判断を自社だけで完結させるのは危険です。
特に、次のような場合には、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
- 株式譲渡と事業譲渡のどちらがよいか判断できない
- 対象会社に簿外債務や労務リスクの懸念がある
- 役員退職金や自己株式取得を組み合わせたい
- 会社分割で事業を切り出してから売却したい
- 合併や会社分割の適格要件を確認したい
- 繰越欠損金や含み損がある
- 許認可や契約移転が重要な事業である
- 経営者保証や担保をどう扱うか整理したい
- 売り手の手取りと買い手の資金負担を比較したい
- M&A後の月次管理、資金管理、PMIまで見据えたい
専門家の役割は、経営判断を代行することではありません。判断に必要な前提を整理し、選択肢ごとの税務・会計・法務・資金・実務負荷を比較できる状態に整えることにあります。
特に、公認会計士・税理士が関与すべき領域としては、次のようなものが挙げられます。
- スキーム別の税務影響整理
- 売り手手取りと買い手負担の比較
- 対象会社・対象事業の財務実態把握
- 簿外債務・未払税金・未払社会保険等の確認
- 事業譲渡・会社分割時の対象資産負債整理
- 正常収益力・運転資本・資金繰りの確認
- 組織再編税制の適用可能性の初期整理
- 金融機関説明資料の作成
- M&A後の月次管理・PMI支援
弁護士、司法書士、社会保険労務士、行政書士等との連携が必要になる場面も多くあります。
大切なのは、スキームを単なる手続としてではなく、M&Aの目的を実現するための設計として捉えることです。
まとめ|M&Aスキームは、税務・法務・資金・PMIをつなぐ経営判断である
M&Aスキームは、税務上有利かどうかだけで選ぶものではありません。
株式譲渡は、会社全体を比較的シンプルに引き継げる一方で、過去リスクも会社に残ります。事業譲渡は、承継対象を選びやすい一方で、契約、許認可、従業員対応、税務負担が重くなります。合併は、法人格を統合できる一方で、PMI負荷が大きくなります。会社分割は、事業を包括的に切り出せる一方で、会社法、労働法、税務の確認が不可欠です。株式交換は、完全子会社化や資本再編に有効である一方、株式対価、資本政策、税務要件の検討が必要になります。
スキーム判断では、次の問いから目をそらしてはいけません。
- 何を引き継ぐのか
- 何を引き継がないのか
- どこに課税が生じるのか
- 契約や許認可は維持できるのか
- 従業員はどうなるのか
- 金融機関や取引先に説明できるのか
- 買収後の管理体制で回せるのか
- M&Aの目的を本当に実現できるのか
犬飼公認会計士・税理士事務所では、中小・中堅企業のM&Aにおいて、株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併、株式交換等のスキームについて、税務・会計・財務・資金・管理体制の観点から論点を整理し、経営者が納得して判断できる状態を整えることを大切にしています。M&Aを進める前にスキームごとの税務・法務・資金影響を整理したい場合、あるいは売り手・買い手双方の立場からリスクと選択肢を比較したい場合は、当事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り|M&Aスキームと税務・法務で確認すべき重要事項
| 論点 | 株式譲渡 | 事業譲渡 | 合併 | 会社分割 | 株式交換 |
|---|---|---|---|---|---|
| 移転するもの | 株式 | 特定事業の資産・負債・契約等 | 会社全体の権利義務 | 事業に関する権利義務 | 対象会社株式 |
| 法人格 | 対象会社は存続 | 売り手・買い手は別法人のまま | 消滅会社が消える | 分割会社・承継会社に分かれる | 対象会社は完全子会社として存続 |
| 手続負担 | 比較的軽いことが多い | 個別移転手続が多い | 重い | 重い | 重い |
| 簿外債務・偶発債務 | 引き継ぎやすい | 承継対象外にしやすいが完全遮断ではない | 包括承継により引き継ぎやすい | 分割対象に応じて承継 | 対象会社に残る |
| 契約承継 | 原則継続。ただしCOC条項に注意 | 個別同意が必要になりやすい | 包括承継でも契約条項確認が必要 | 包括承継でも契約条項確認が必要 | 原則対象会社に残るがCOC条項に注意 |
| 許認可 | 対象会社に残りやすいが変更届等に注意 | 再取得・承継確認が必要 | 届出・承認・再取得が必要な場合あり | 届出・承認・再取得が必要な場合あり | 対象会社に残りやすいが確認必要 |
| 従業員 | 雇用主は変わらない | 個別承諾が重要 | 原則承継されるが制度統合が必要 | 労働契約承継法の手続が重要 | 雇用主は変わらない |
| 売り手税務 | 株主に株式譲渡課税 | 売り手会社に資産譲渡課税が生じ得る | 適格・非適格で異なる | 適格・非適格で異なる | 適格・非適格、対価内容で異なる |
| 買い手税務 | 株式取得。資産の税務簿価は基本的に対象会社側で継続 | 資産取得。取得価額・消費税等を確認 | 適格・非適格で異なる | 適格・非適格で異なる | 完全子会社株式取得 |
| 会計処理 | 株式取得、子会社化、連結上ののれん等 | 資産・負債受入、のれん等 | 企業結合会計 | 企業結合・事業分離会計 | 企業結合会計 |
| 向いている場面 | 会社全体を承継したい場合 | 特定事業だけを承継したい場合 | 買収後に法人格を統合したい場合 | 事業を切り出して再編・承継・売却したい場合 | 完全子会社化や資本再編をしたい場合 |
| 注意点 | DDと契約で過去リスクを整理する | 契約・許認可・従業員移籍を事前確認する | PMI負荷を見込む | 税務・労務・契約を横断確認する | 株式対価の評価・流動性・資本政策を確認する |