事前通知・無予告調査・行政指導の違い

税務署から連絡が入ったとき、まず気になるのは「何を指摘されるのだろう」という点かもしれません。けれども、最初に確かめておきたいのは、そこではありません。

確認すべきなのは、その連絡が次のどれに当たるのか、という点です。

  • 事前通知のある税務調査
  • 事前通知のない税務調査、いわゆる無予告調査
  • 税務調査ではなく、行政指導としての連絡

この区別を曖昧にしたまま対応すると、本人は軽い確認に応じているつもりでも、実務上は税務調査として、重要な発言や資料提出が進んでしまうことがあります。

逆もまた起こります。税務調査であるにもかかわらず「任意の確認だから大したことはない」と受け止めてしまうと、資料提出や質問への回答、修正申告、加算税、重加算税の判断を誤りかねません。

税務調査対応では、税務署とのやり取りそのもの以上に、最初に手続の性質を正確に見極めることが大切になります。

目次

まず押さえるべき3つの違い

税務署からの連絡は、すべて同じ意味を持つわけではありません。大きく分けると、次の3つがあります。

区分何が行われるか実務上の意味
事前通知のある税務調査調査開始前に、日時・場所・税目・期間・目的などが通知される調査対象と資料範囲を把握し、調査前に準備できる
無予告調査事前通知なしに、調査官が事務所・店舗・自宅等に臨場する現金・在庫・帳簿・データなど、現況確認を含む即時対応が必要になりやすい
行政指導自発的な見直しや修正申告の提出を促される税務調査ではないが、申告内容を見直すべき端緒になり得る

この3つは、税務署から見れば、いずれも申告内容の適正化に関わる手続です。しかし、納税者の側から見ると、準備の仕方、話すべき内容、資料提出の意味、修正申告の判断、加算税への影響が、それぞれ違ってきます。

税務調査手続については、調査手続の透明性と納税者の予見可能性を高めるため、従来の運用上の取扱いが法令上明確化されています。そして調査は、公益的な必要性と納税者の私的利益とのバランスを踏まえ、社会通念上相当な範囲内で、納税者の理解と協力を得ながら行われるものとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

つまり税務調査は、「税務署に言われたことにただ従う場面」ではありません。法令上の手続を踏まえながら、事実と資料に基づいて対応すべき場面なのです。

「調査」とは何か

行政指導との違いを理解するには、まず「調査」が何を指すのかを押さえておく必要があります。

国税通則法第7章の2における「調査」とは、特定の納税義務者の課税標準等または税額等を認定する目的、その他、国税に関する法律に基づく処分を行う目的で、職員が行う一連の行為をいいます。その一連の行為には、証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用などが含まれます。
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達の制定について

ここで押さえておきたいのは、税務調査が単なる質問ではない、という点です。それは、課税処分や更正・決定に向けた、事実確認のプロセスにほかなりません。

確認される項目は、立場によって変わります。

法人であれば、売上、棚卸、役員給与、交際費、外注費、関係会社取引、消費税、源泉所得税など。個人事業主であれば、売上漏れ、必要経費、家事関連費、帳簿保存、現金管理など。資産税であれば、名義預金、生前贈与、財産評価、相続人間の資金移動などです。

これらについて、調査官は単に「資料があるかどうか」を見ているのではありません。資料からどの事実が認定できるか、その事実にどの税法を適用するか、までを確認しています。

ですから税務調査では、「とりあえず資料を出す」「聞かれたことにその場で答える」だけでは足りません。発言、資料、会計処理、契約関係、資金の流れが、互いに整合しているかどうかが問われます。

行政指導とは何か

行政指導は、税務調査とは性質が異なります。

たとえば、税務署の担当者から電話で、申告内容の確認や修正申告書の提出を促されることがあります。調査は、課税標準等または税額等を認定する目的で質問検査等を行い、申告内容を確認するものです。これに対して行政指導は、計算誤り、転記誤り、記載漏れ、法令適用誤りなどがあると思われる場合に、自発的な見直しや、修正申告書の自発的な提出を要請するものとされています。

行政指導に基づいて自主的に修正申告書を提出した場合、延滞税は納付することがあるものの、過少申告加算税は賦課されません。ただし、当初申告が期限後申告であった場合には、無申告加算税が原則として課される点に注意が必要です。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

行政指導の典型は、申告書に形式的な誤りや計算誤りが疑われる場合に、税務署から「内容を見直してください」と連絡が入る場面です。

たとえば、次のような場合が考えられます。

  • 申告書の計算誤りが疑われる
  • 添付書類が不足している
  • 控除や特例の記載に誤りがあるように見える
  • 源泉所得税の納付額に過不足がある可能性がある
  • 消費税の届出や課税区分に、形式的な確認事項がある
  • 申告義務の有無を確認するため、事業活動の有無を尋ねられる

法令解釈通達でも、申告書の自発的な見直しを要請する行為や、計算誤り・転記誤り・記載漏れ等があるのではないかと思われる場合に自発的な見直しを求める行為などは、「調査」に該当しない行為として整理されています。
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達の制定について

とはいえ、行政指導だから軽く受け止めてよい、というわけではありません。

行政指導を受けたということは、税務署の側が何らかの違和感を抱いている、ということでもあります。ここで十分に確認しないまま修正申告を出してしまうと、本来は修正すべきでない内容まで直してしまうことがあります。反対に、行政指導を放置した結果、後日、税務調査へ移行する可能性も残ります。

行政指導への対応で大切なのは、「調査ではないから安心だ」と考えることではありません。「何を疑問視されているのか」を、正確に把握することです。

行政指導を受けたときの初動

税務署から行政指導らしき連絡を受けたとき、最初に確かめておきたいのは、次の一点です。

「このご連絡は、税務調査ではなく、行政指導としてのご連絡でしょうか。」

税務署の担当者は、納税者に調査または行政指導を行う際、具体的な手続に入る前に、そのどちらに当たるのかを明示することとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

この確認を飛ばしたまま、申告内容の詳しい説明や修正申告の話に進んでしまうのは避けたいところです。

行政指導を受けたときは、次の順番で整理していくとよいでしょう。

  • 連絡者の所属、氏名、連絡先を確認する
  • 行政指導か税務調査かを確認する
  • どの税目・年分・事業年度に関する確認かを聞く
  • 税務署が疑問視している点を確認する
  • その場では断定せず、申告書・帳簿・証憑を確認する
  • 修正申告が必要かどうかを、税務上の根拠に基づいて判断する
  • 不明点があれば、税理士・会計士に相談する

行政指導の段階で、税務署から「修正してください」と言われることがあります。

ただ、修正申告はあくまで、納税者が自ら申告内容を修正する手続です。誤りが明らかであれば是正すべきですが、事実関係や法令解釈に検討の余地がある場合には、急いで修正する前に、何を修正するのか、なぜ修正するのか、他の税目に波及しないか、を確かめておく必要があります。

行政指導後の修正申告と、税務調査後の修正申告とでは、加算税の取扱いが変わります。手続の区分を見落とさないことが大切です。

事前通知のある税務調査とは何か

税務調査のうち、通常の実地調査では、原則として事前通知が行われます。

実地の調査を行う場合には、原則として、調査開始前に相当の時間的余裕を置いたうえで、電話などにより、実地の調査を行う旨、調査を開始する日時・場所、調査対象の税目・課税期間、調査の目的などが通知されます。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

事前通知は、納税者に準備の機会を与えるための、大切な手続です。通知を受けたら、次の事項を確認しておきます。

  • 調査を行う旨
  • 調査開始日時
  • 調査場所
  • 調査目的
  • 対象税目
  • 対象期間
  • 対象となる帳簿書類その他の物件
  • 調査相手方である納税者の氏名・名称、住所・所在地
  • 調査担当職員の氏名・所属官署
  • 調査開始日時または場所の変更に関する事項
  • 通知事項以外の事項について非違が疑われる場合には、その事項も調査対象となり得る旨

事前通知事項は、調査対象を特定するための重要な情報です。なかでも「調査を行う旨」「調査対象税目」「調査対象期間」は、加算税の判断にも関係する「調査通知」として位置づけられています。

ここで気をつけておきたいのは、事前通知を受けた時点で、すでに税務調査の入口に立っている、ということです。

たとえば、調査通知の後に修正申告をした場合、一定の加算税が問題になることがあります。平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税については、調査通知以後、かつ、更正または決定を予知する前にされた修正申告または期限後申告に対して、新たに過少申告加算税等が課されることとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

ですから、事前通知を受けた後に「先に修正しておけばよい」と単純に考えるのは、危うい面があります。

修正すべき誤りがある場合でも、次の点を整理してから判断したいところです。

  • 調査通知前に把握していた誤りか
  • 調査通知後に気づいた誤りか
  • 税務署がすでに把握している可能性があるか
  • 修正申告によって他の税目に波及しないか
  • 重加算税を疑われる事情がないか
  • 更正を受けて争う余地を残すべき論点か

事前通知は、単なる日程の連絡ではありません。調査対象、資料範囲、加算税リスク、説明方針を整理するための、出発点です。

事前通知を受けたときにすべきこと

事前通知を受けたら、まずは通知内容を正確にメモしておきます。記録しておきたい事項は、次のとおりです。

確認項目確認すべき内容
連絡者税務署名、部署名、担当者名、電話番号
手続の性質税務調査か、行政指導か
対象者法人、個人事業主、被相続人、相続人など
対象税目法人税、所得税、消費税、源泉所得税、相続税、贈与税など
対象期間事業年度、年分、課税期間、相続開始日など
調査日時提示された日時、変更の可否
調査場所本社、事務所、自宅、税務署、税理士事務所など
調査目的申告内容確認など、説明された目的
予定人数調査官の人数、代表担当者
求められた資料帳簿、証憑、契約書、通帳、評価資料など
税理士関与税務代理権限証書、事前通知に関する同意、立会い予定

日程については、提示された日を必ずその場で受け入れなければならない、というわけではありません。事前通知に際しては、納税者や税務代理人の都合が尋ねられ、申告業務・決算業務などの繁閑にも配慮しながら、調査開始日時が調整されます。一時的な入院、親族の葬儀、業務上やむを得ない事情などがある場合には、通知後であっても変更を協議できるとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

ただし、理由もなく調査を引き延ばすのは望ましくありません。大切なのは、調査官との対立ではなく、調査に耐えうる準備期間を確保することです。

事前通知を受けた後に整えるべき資料

事前通知の後に整えるべき資料は、税目によって変わります。

法人であれば、次の資料を確認します。

  • 申告書
  • 決算書
  • 勘定科目内訳書
  • 総勘定元帳
  • 請求書、領収書
  • 契約書、発注書、納品書、検収書
  • 通帳、入出金明細
  • 棚卸表、原価資料
  • 固定資産台帳
  • 給与台帳、源泉納付書
  • 取締役会議事録、株主総会議事録
  • 消費税申告資料、インボイス関連資料

個人事業主であれば、次の資料を確認します。

  • 所得税申告書
  • 青色申告決算書、収支内訳書
  • 帳簿、売上台帳、現金出納帳
  • 請求書、領収書
  • 通帳、クレジットカード明細
  • 家事関連費の按分資料
  • 消費税申告資料
  • 専従者給与や親族間取引の資料

相続税・贈与税であれば、次の資料が重要になります。

  • 相続税申告書
  • 財産評価資料
  • 預金通帳、入出金履歴
  • 贈与契約書
  • 贈与税申告書
  • 不動産評価資料
  • 非上場株式評価資料
  • 生命保険関係資料
  • 小規模宅地等の特例に関する資料
  • 相続人間で管理している資料

事前通知を受けた段階で行うべきなのは、資料を「作る」ことではありません。当時存在した資料を集め、申告書の数字と整合しているか、説明できない取引や入出金がないかを確認することです。

後から都合よく資料を作成したり、過去の日付の文書を整えたりすると、かえって隠蔽・仮装を疑われることになりかねません。

無予告調査とは何か

無予告調査とは、事前通知なしに行われる実地調査をいいます。

税務調査は、原則として事前通知があります。ただし、一定の場合には、事前通知が行われないことがあります。申告内容、過去の調査結果、事業内容などから、事前通知をすることで、違法または不当な行為を容易にし、正確な課税標準等または税額等の把握を困難にするおそれ、あるいは調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると判断された場合には、事前通知をしないことがあるとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

法令解釈通達では、事前通知を要しない場合の例として、いくつかが挙げられています。たとえば、事前通知によって帳簿書類その他の物件を破棄、移動、隠匿、改ざん、変造、偽造することが合理的に推認される場合。あるいは、調査を困難にするため逃亡することが合理的に推認される場合や、取引先などに調査協力を控えるよう働きかけることが合理的に推認される場合などです。
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達の制定について

無予告調査は、現金商売、在庫確認、現物確認、帳簿と現況の突合、売上除外や架空経費が疑われる場面などで、問題になりやすい手続です。

もっとも、無予告調査だからといって、調査官が何でもできるわけではありません。また、事前通知がなかったというだけで、その調査が直ちに違法になるわけでもありません。

実務上、大切なのは、無予告で来られたときに、感情的に拒絶するのでも、慌てて何でも話すのでもなく、手続と事実を確認しながら対応していくことです。

無予告調査で最初に確認すべきこと

無予告で調査官が来た場合、まず確認しておきたい事項は、次のとおりです。

  • 身分証明書と質問検査章
  • 所属税務署、部署、氏名
  • 調査対象者
  • 対象税目
  • 対象期間
  • 調査目的
  • 調査場所
  • 調査官の人数
  • 税理士へ連絡する時間の確保
  • 調査に対応する責任者

事前通知が行われない場合であっても、運用上、調査対象の税目・課税期間や調査目的などについては、臨場後すみやかに説明することとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

実務上も、無予告調査であっても、臨場後すみやかに、調査目的、対象税目、対象期間、対象物件、対象者、担当者の氏名・所属官署などが通知されます。そのうえで、必要に応じて、調査中に非違が疑われる事項についても質問検査等の対象となる旨が説明され、納税者の理解と協力を得て調査が始まる、という流れになります。

ですから、無予告調査を受けた場合でも、まずは次のように対応します。

「調査に協力する前提で、対象税目、対象期間、調査目的、確認される資料の範囲を確認させてください。税理士にも連絡します。」

これは、調査を妨害するための対応ではありません。正確な対応をするための、初動です。

無予告調査でしてはいけないこと

無予告調査では、通常の事前通知ありの調査よりも、現場での対応が重みを増します。特に避けたいのは、次の5つです。

1. 資料を隠す・捨てる・移動する

調査官が来た直後に、資料を隠したり、パソコンのデータを削除したり、通帳や現金を移動したりすると、重大な不利事情になります。

こうした行為は、単なる資料の不備ではなく、隠蔽・仮装を疑われる原因になってしまいます。

2. 記憶だけで断定する

「売上漏れはありません」 「現金はこれだけです」 「その経費は全部事業用です」 「家族名義の預金は本人のものです」

資料を確認する前に断定してしまうと、後で資料と合わなかったときに、説明が難しくなります。分からないことは、分からないと伝え、資料を確認したうえで回答すべきです。

3. 税理士に連絡しないまま進める

無予告調査では、その場で帳簿、通帳、現金、在庫、メール、パソコン内のデータなどの確認が進むことがあります。

税理士への連絡を後回しにすると、資料提出や発言の整理が不十分なまま、記録が残ってしまうことがあります。

4. 感情的に拒否する

「事前通知がないから帰ってください」と一律に拒否するのは、危険です。

事前通知を要しない場合に該当するかどうかは、個別の事情に基づいて判断されます。まずは身分確認、対象税目、対象期間、調査目的を確認し、税理士へ連絡したうえで、対応方針を整理すべきです。

5. 後から資料を作る

無予告調査の後に、過去の日付で契約書、議事録、贈与契約書、業務報告書、作業記録を作ることは、避けるべきです。

不足している資料を整理することと、存在しなかった資料を作ることは、まったく別のことです。

事前通知がない理由は説明されるのか

無予告調査を受けたとき、「なぜ事前通知がなかったのだろう」と知りたくなるのは、自然なことです。

しかし、法令上、事前通知を行わないこととした理由を説明することとはされていません。また、事前通知をしないこと自体は、不服申立ての対象となる処分には当たりません。そのため、事前通知が行われなかったことについて不服申立てをすることはできない、とされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

この点は、納税者にとって、なかなか納得しにくいかもしれません。

ただ実務上は、事前通知がなかったこと自体を争点にするよりも、調査で確認される事実、資料、質問への回答、後日の処分内容を正確に整理することのほうが、ずっと重要になります。

仮に、調査手続に問題があると考える場合でも、その後の更正処分や加算税賦課決定との関係で、どのように主張するかは、慎重に検討する必要があります。

「事前通知のある調査」と「無予告調査」は何が違うのか

両者の違いは、単に「事前に連絡があるかどうか」だけではありません。

項目事前通知のある調査無予告調査
通知調査開始前に日時・場所・税目・期間等が通知される事前通知なしに臨場される
準備申告書・帳簿・資料を事前に整理できるその場で現況確認が始まることがある
主なリスク資料整理不足、想定論点の見落とし、日程調整不足現金・在庫・データ・発言の即時確認、資料隠匿を疑われるリスク
税理士対応事前に立会い・資料整理を調整しやすいその場で早急に連絡し、対応方針を整理する必要がある
実務上の重点調査前準備、論点整理、説明資料作成身分確認、対象範囲確認、現場対応、記録化

事前通知がある場合は、準備期間があります。とはいえ、それは過去の資料を作り直す時間ではありません。正確に資料を整理し、説明の方針を整えるための時間です。

無予告調査の場合は、準備期間がありません。けれども、準備期間がないからといって、何も確認せずに応じる必要はありません。身分確認、対象税目・期間、調査目的、税理士への連絡は、いずれも欠かせません。

「行政指導」と「税務調査」は何が違うのか

行政指導と税務調査の違いは、加算税だけにとどまりません。

項目行政指導税務調査
目的自発的な見直し・修正を促す課税標準等・税額等を認定し、必要に応じて処分につなげる
手続質問検査権の行使ではない質問検査権に基づき帳簿書類等を確認する
資料確認自主的な提供・説明が中心帳簿書類等の提示・提出が求められる
修正申告自主的見直しとして行われる調査結果に基づく修正申告勧奨につながる
加算税一定の場合、過少申告加算税が賦課されない調査後の修正申告では原則として加算税が問題になる
実務対応誤りの有無を冷静に確認する事実・証拠・法令判断を整理して説明する

最も大きな違いは、行政指導が自発的な見直しを求める段階であるのに対し、税務調査は課税処分に向けた事実認定のプロセスである、という点にあります。

ただし、行政指導であっても、内容によっては、実質的に重要な税務判断を伴うことがあります。

たとえば、外注費が給与に該当する可能性がある、消費税の仕入税額控除が誤っている、役員給与の損金算入に問題がある、生前贈与が成立していない可能性がある、といった指摘であれば、単なる形式的な修正では済みません。

行政指導か税務調査かという手続面を確認したうえで、実質的な税務リスクも、あわせて確認しておく必要があります。

実地の調査以外の調査にも注意する

税務調査は、調査官が会社や自宅に来るものだけではありません。

実地の調査以外にも、税務署に来署して申告内容を確認するなどの方法で、調査が行われる場合があります。こうした実地の調査以外の調査では、法令上は事前通知が求められていません。ただし運用上、来署などを依頼する連絡の際に、対象税目・課税期間・調査目的などを説明することとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

この点は、見落とされがちです。

「税務署に来てください」 「書類を送ってください」 「電話で確認したいです」

こうした連絡であっても、それが行政指導なのか、実地外の調査なのかによって、意味合いが変わってきます。

特に、書面や電話での確認だから軽いものだと考えて、十分に資料を確認しないまま回答してしまうと、後の修正申告や加算税の判断に影響することがあります。

反面調査との関係

取引先や金融機関に対する確認、いわゆる反面調査も、税務調査対応では大切な論点です。

取引先など、納税者以外の者に対する調査を実施しなければ、納税者の申告内容に関する正確な事実把握が難しいと認められる場合には、反面調査が実施されることがあります。反面調査について、事前通知に関する法令上の規定はありません。ただし運用上は、原則として、あらかじめ対象者へ連絡することとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

反面調査が行われると、取引先や金融機関の資料と、納税者側の説明とが照合されます。

売上、外注費、架空経費、紹介料、関係会社取引、名義預金、生前贈与などでは、本人側の説明だけでなく、外部資料との整合性が重視されます。

そのため、調査官が反面調査を示唆した場合には、「取引先に迷惑がかかる」という感情面だけでなく、本人側で何を説明できていないのかを、あらためて整理しておく必要があります。

税理士への連絡はどの段階ですべきか

税理士への連絡は、税務署から具体的な指摘を受けてからで構わない、というものではありません。

むしろ、次のいずれかに当てはまる場合には、早めに相談しておきたいところです。

  • 税務署からの連絡が、行政指導か調査か分からない
  • 事前通知を受けたが、対象税目・期間の意味が分からない
  • 無予告で調査官が来た
  • 調査官から資料提出を求められている
  • 消費税や源泉所得税にも波及しそうである
  • 外注費、役員給与、交際費、売上漏れ、棚卸などに不安がある
  • 相続税で名義財産や生前贈与が問題になりそうである
  • 修正申告を勧められている
  • 重加算税を示唆されている
  • 質問応答記録書への対応が想定される

税理士が関与している場合には、税務代理権限証書の内容も確認しておく必要があります。納税者が税務代理権限証書を提出している税務代理人がいる場合で、その証書に「事前通知に関する同意」が記載されているときは、納税者への事前通知は、税務代理人に対して行えば足りることとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)

また、令和6年4月1日以後の税務代理権限証書では、「調査の通知・終了の際の手続に関する同意」のうち「調査の通知」欄など、現行様式に即した確認が必要になります。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)

実務上も、税務代理権限証書の「過年分に関する税務代理」「調査の通知に関する同意」「代表する代理人の定め」は、事前通知や調査通知の受け方に直結します。調査通知を受けた段階で、確認しておきたい事項です。

3つの区分ごとの初動対応

税務署から連絡があったときは、次のように対応を分けて考えます。

行政指導の場合

行政指導であれば、まずは誤りの有無を確認します。

ただし、税務署から言われた内容をそのまま修正するのではなく、申告書、帳簿、証憑、契約書、通帳などを確認したうえで、修正すべきかどうかを判断します。

必要な対応は、次のとおりです。

  • 行政指導であることを確認する
  • 対象税目・年分・論点を確認する
  • その場で修正を約束しない
  • 申告書と資料を確認する
  • 修正する場合は、修正理由を整理する
  • 他の税目への波及を確認する
  • 専門家に相談すべき論点か判断する

事前通知のある税務調査の場合

事前通知がある場合は、準備期間を使って、調査対応の土台を作ります。

必要な対応は、次のとおりです。

  • 通知内容を正確にメモする
  • 対象税目、対象期間、調査場所を確認する
  • 日程調整が必要か判断する
  • 税理士に連絡する
  • 申告書、帳簿、証憑、契約書、通帳を整理する
  • 想定論点を洗い出す
  • 調査当日の説明者を決める
  • 不用意な修正申告を避ける

無予告調査の場合

無予告調査では、現場での冷静な確認が、何より大切です。

必要な対応は、次のとおりです。

  • 身分証明書と質問検査章を確認する
  • 対象税目、対象期間、調査目的の説明を求める
  • 責任者を呼ぶ
  • 税理士に連絡する
  • 資料を隠したり廃棄したりしない
  • 記憶だけで断定しない
  • 分からないことは確認後に回答する
  • 調査官とのやり取りを記録する

判断を誤りやすい場面

「税務署からの電話だから、すぐ答えなければならない」と思う場面

税務署からの連絡であっても、資料を確認していない内容について、即答する必要はありません。

特に、経費性、売上計上、消費税区分、源泉徴収、名義財産、生前贈与などは、資料を確認する前に断定すべきではありません。

「行政指導だから修正すれば終わる」と思う場面

行政指導に基づく修正申告でも、内容を十分に確認しないと、過大に修正してしまったり、他の税目に影響したりすることがあります。

特に、消費税、源泉所得税、役員給与、外注費、相続税の名義財産などは、単独の修正では済まないことがあります。

「事前通知がない調査は拒否できる」と思う場面

事前通知が原則であることと、事前通知がない調査を一律に拒否できることとは、別の話です。

無予告調査には、例外の要件があります。まずは身分確認、対象税目・期間、調査目的を確認し、税理士に連絡したうえで対応する必要があります。

「調査官の説明に納得できないから何も出さない」と思う場面

資料提出の必要性に疑問がある場合でも、感情的に拒否するのではなく、求められた資料がどの税目・期間・論点に関係するのかを、まず確認すべきです。

提出すべき資料、説明を添えて提出すべき資料、追加の確認が必要な資料。これらを分けて考えることが大切です。

この違いを理解する本当の意味

事前通知、無予告調査、行政指導の違いを理解する目的は、税務署への対応を形式的に分類することではありません。

本当の目的は、次の判断を誤らないことにあります。

  • 今、自分は税務調査を受けているのか
  • 質問検査権に基づく資料確認なのか
  • 自主的な見直しを求められている段階なのか
  • 修正申告を急ぐべきか、資料確認を優先すべきか
  • 加算税や重加算税に影響する局面なのか
  • 税理士・会計士に相談すべき段階なのか
  • 調査官への説明を口頭で済ませてよいのか、資料化すべきなのか

税務調査対応では、手続の区分を誤ると、その後の判断がすべてずれていってしまいます。

税務署からの連絡に対して、最初に確かめるべきことは「何を疑っているのですか」ではありません。

まずは、「これは行政指導ですか、税務調査ですか」「事前通知としての連絡ですか」「対象税目と対象期間は何ですか」という、手続の確認です。

そこから初めて、資料整理、論点整理、説明方針、修正申告の要否、加算税リスクの検討へと進んでいくのが、本来の順序です。

まとめ|手続を見極めてから、事実と資料を整理する

税務署から連絡を受けたとき、慌てて説明する必要はありません。まずは、連絡の性質を確認します。

行政指導であれば、自発的な見直しの段階です。事前通知のある税務調査であれば、調査対象と資料範囲を確認し、調査前の準備を行う段階です。無予告調査であれば、身分確認、対象税目・期間、調査目的を確認し、税理士へ連絡しながら現場で対応する段階です。

どの手続であっても、共通する中心軸は変わりません。

後から説明できるか。資料と発言が整合しているか。税務上の判断を支える事実があるか。そして、修正申告、加算税、重加算税、不服申立てまで見据えて判断しているか。

税務調査対応は、税務署とのやり取りだけで完結するものではありません。日頃の会計処理、資料保存、取引実態、意思決定の記録、財産管理が問われる場面です。

最初の手続判断を誤らず、事実と資料に基づいて冷静に対応すること。それが、会社・事業・財産を守るための第一歩になります。

税務署からの連絡が「調査」か「行政指導」か分からない方へ

税務署から連絡を受けた段階では、まだ対応方針を整える余地があります。一方で、手続の性質を確認しないまま、説明や資料提出、修正申告の判断を進めてしまうと、後から選択肢が狭くなることもあります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、税務署からの連絡を、単なる日程調整や資料提出の問題としてではなく、申告内容、会計処理、証憑、取引実態、資金の流れ、説明可能性を整理する、実務判断の場面として捉えています。

税務署から電話・書面による連絡を受けた方、行政指導か税務調査か分からない方、事前通知を受けて調査前の準備を進めたい方、無予告調査を受けて対応に迷っている方は、まず現在の連絡内容と資料の状況を整理するところから、ご相談ください。

お問い合わせの際は、税務署名、担当部署、連絡内容、対象税目、対象期間、調査予定日、税理士関与の有無を、分かる範囲でお知らせいただけますと、初回相談で確認すべき論点を整理しやすくなります。

振り返り

項目事前通知のある税務調査無予告調査行政指導
手続の性質実地調査前に対象税目・期間・日時等が通知される例外的に事前通知なしで臨場される自発的な見直しを促す連絡
最初に確認すること対象税目、対象期間、調査日時、調査場所身分証明、対象税目、対象期間、調査目的税務調査か行政指導か
準備の余地調査前に資料整理ができるその場で現況確認が始まることがある申告書・資料を確認して自主判断する
主な注意点日程だけ決めて資料確認を後回しにしない資料隠し、廃棄、記憶だけの断定を避ける安易に修正申告を約束しない
加算税との関係調査通知後の修正申告では加算税が問題になり得る調査として進行するため加算税・重加算税に注意一定の場合、過少申告加算税は賦課されない
税理士相談の必要性調査前準備と論点整理のため早期相談が望ましい臨場時点で速やかに連絡すべき修正内容が税務判断を伴う場合は相談すべき
実務上の中心軸調査対象と資料範囲を整理する現場対応と記録化を慎重に行う誤りの有無を冷静に確認する

主な参考資料・出典

出典:国税庁|税務調査手続について(国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係)
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達の制定について
出典:国税庁|第1章 法第74条の2~法第74条の6関係(質問検査権)
出典:国税庁|第4章 法第74条の9~法第74条の11関係(事前通知及び調査の終了の際の手続)

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