国外関連者への役務提供・無形資産・金融取引|海外子会社への支援・ロイヤリティ・貸付・保証料の税務判断

海外子会社を持つ会社では、親会社が日常的にさまざまな支援を行っています。

現地法人の月次決算を確認する。資金繰りを見て銀行借入を助言する。日本本社の技術者が現地工場を指導する。グループのブランドや製造ノウハウを使わせる。運転資金を貸し付ける。現地銀行からの借入に親会社保証を付ける。

いずれも、経営上は自然な行動です。むしろ海外子会社を立ち上げた直後であれば、本社が支えなければ事業そのものが回らないことも珍しくありません。

しかし法人税務の観点では、まさにここに大きな論点が潜んでいます。

その支援は、無償のままでよいのか。経営支援料を請求すべきなのか。ロイヤリティを取るべきなのか。貸付金利子や保証料は、どの水準に設定すべきなのか。費用を肩代わりした場合、寄附金にならないのか。

国外関連者との取引では、契約名や会計科目といった形式だけでは判断できません。実際に誰が機能を果たし、誰がリスクを負い、誰が便益を受け、どの資産・無形資産が利益を生んでいるのか。ここまで踏み込んで整理する必要があります。

本稿では、国外関連者への役務提供、無形資産、金融取引を、移転価格税制と国外関連者寄附金の境界を意識しながら整理していきます。

目次

まず押さえておきたい結論

国外関連者への支援や資金取引を考えるうえでは、次の3つを分けて捉えることが出発点になります。

1つ目は、役務提供です。親会社が海外子会社に対し、経理、財務、法務、税務、人事、IT、製造、購買、販売、物流、マーケティングなどの支援を行う場合です。その活動が海外子会社にとって経済的または商業的な価値を持ち、第三者であれば対価を支払うような性質のものであれば、原則として対価設定を検討します。

2つ目は、無形資産です。技術、ノウハウ、ブランド、商標、営業秘密、販売網、顧客リスト、契約上の権利などを海外子会社が使用している場合です。単なる助言にとどまらず、所得の源泉となる無形資産を使わせているのであれば、ロイヤリティや利益配分の検討が必要になります。

3つ目は、金融取引です。親子ローン、キャッシュ・マネジメント、債務保証、保証予約、キープウェル、為替・金利リスク管理などが該当します。貸付金利子や保証料は、通貨、期間、信用力、担保、保証の有無、資金使途といった要素によって、判断が変わってきます。

この3つを曖昧にしたまま、「海外子会社支援費」「本社費配賦」「ロイヤリティ」「立替金」「長期貸付金」といった科目だけで処理してしまうと、いざ税務調査を迎えたときに説明が難しくなります。

移転価格税制と国外関連者寄附金の境界

国外関連者との取引を検討する際、中心に据えるべきは移転価格税制です。

移転価格税制とは、国外関連者との取引が独立企業間価格で行われているかを検証する制度です。国税庁の移転価格事務運営要領は、租税特別措置法第66条の4に関し、この制度を適正かつ円滑に執行するための事務運営指針として整備されています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)

一方で、国外関連者への支援が「取引価格の問題」ではなく、「経済的利益の無償供与」「債権放棄」「費用の肩代わり」といった性格を帯びる場合には、国外関連者寄附金の問題が浮かび上がります。

国税庁のタックスアンサーでは、法人が国外関連者に対して支出した寄附金の額は、その全額が損金の額に算入されないとされています。
出典:国税庁|No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算

また、国税庁の税務大学校論叢でも、移転価格税制の対象取引とはならない取引によって国外関連者に所得が移転している場合に、従来の寄附金課税とのバランスをとるため、平成3年に国外関連者に対する寄附金の全額損金不算入制度が導入された経緯が整理されています。
出典:国税庁|移転価格税制と寄附金課税(はじめに)

ここで実務上、押さえておきたい視点があります。

海外子会社に何らかの経済的価値を与えている場合、それを「移転価格の問題」として独立企業間価格で整理するのか、それとも「国外関連者寄附金」として全額損金不算入の問題として扱うのか。この振り分けを、取引の性質そのものから検討しなければなりません。

たとえば、親会社が海外子会社に技術指導を行い、本来なら対価を受け取るべき取引であるにもかかわらず無償としているなら、役務提供または無形資産使用許諾の対価設定が問題になります。これに対して、海外子会社の赤字補填として金銭を支出する、債務を免除する、回収不能とまではいえない費用を肩代わりする、といった場合には、寄附金課税が問題になりやすくなります。

「海外子会社を支援しただけです」という説明では足りません。どのような支援なのか、対価性のある取引なのか、経済的利益の供与なのか、再建支援として合理性があるのか。ここを分けて整理しておく必要があります。

役務提供:経営支援料を請求すべきか

海外子会社への役務提供でまず確認すべきは、その活動が海外子会社にとって経済的または商業的な価値を持つかどうかです。

国税庁の移転価格事務運営要領では、経営、技術、財務または営業上の活動その他法人が行う活動が国外関連者に対する役務提供に該当するかどうかは、その活動が国外関連者にとって経済的または商業的な価値を有するかどうかによって判断するとされています。具体的には、その活動を親会社が行わなかった場合に、国外関連者が自ら同様の活動を行う必要があるか、または非関連者であれば対価を支払うか、という点が判断軸になります。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

対象になり得る活動としては、次のようなものが挙げられます。

  • 企画または調整
  • 予算管理または財務上の助言
  • 会計・監査・税務・法務
  • 債権債務の管理
  • 情報通信システムの運用・保守・管理
  • キャッシュ・フローまたは支払能力の管理
  • 資金の運用または調達
  • 利子率または外国為替レートに係るリスク管理
  • 製造・購買・販売・物流・マーケティング支援
  • 雇用・教育その他の従業員管理
  • 広告宣伝

出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

つまり、経理・財務・法務・人事といった管理部門の支援であっても、現地法人にとって実際に便益があるのであれば、移転価格上の役務提供に該当し得るということです。

役務提供に該当しないものもある

もっとも、親会社が行った活動のすべてを海外子会社に請求できるわけではありません。

たとえば、親会社自身の株主総会、有価証券報告書、連結財務諸表、親会社株主向けの広報、親会社としてのコーポレート・ガバナンス体制の整備など、親会社が株主または出資者として自らのために行う活動は、原則として海外子会社への役務提供には該当しません。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

この区分は非常に重要です。

海外子会社から見れば便益のない親会社活動まで「本社費」として配賦してしまうと、海外子会社側で損金性を否認される可能性があります。反対に、海外子会社のために行った日々の経営助言、緊急時の管理、特定業務に係る企画、技術的助言などを無償のままにしていると、日本側で収益計上漏れや国外関連者寄附金の問題が生じかねません。

親会社活動なのか、子会社向けの役務提供なのか。この判定は、費用配賦表を作る前に済ませておくべき、入口の判断です。

低付加価値グループ内役務提供と「原価+5%」

一定の支援的な役務提供については、実務上、原価に5%を上乗せした金額を独立企業間価格として取り扱う、という整理が示されています。

国税庁の移転価格事務運営要領では、法人と国外関連者との間で行われた役務提供について、支援的な性質で中核的事業活動に直接関連しないこと、無形資産を使用しないこと、重要なリスクの引受け・管理・創出を行わないこと、研究開発、製造・販売・原材料購入・物流・マーケティング、金融・保険・再保険、天然資源の採掘等に該当しないこと、同種の役務提供を非関連者との間で行っていないことといった要件を満たす場合に、合理的に配分した総原価に5%を加算した金額を対価とすることが示されています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

ここで注意すべき点が2つあります。

1つ目は、「原価+5%」がすべての海外子会社支援に使えるわけではないということです。製造、販売、物流、マーケティング、金融、研究開発、無形資産を使う支援、重要なリスクを伴う支援などは、この簡便的な整理の対象から外れる可能性があります。

2つ目は、書類保存が要件として重視されているということです。役務提供を行った者・受けた者、要件充足を確認できる書類、役務内容、実際に役務提供を行ったことを確認できる書類、総原価の配分方法とその合理性、契約書または契約内容、対価の明細と計算過程。これらを保存しておく必要があります。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

したがって、「本社費に5%上乗せしておけば十分」といった単純な理解は危険です。

まず役務提供の内容を分類し、低付加価値の支援的業務に該当するかを確認する。そのうえで原価集計、配賦基準、計算過程、契約、実績資料を残す。この手順を踏むことが欠かせません。

経営支援料でよくある判断ミス

海外子会社への経営支援料をめぐっては、次のような判断ミスが起きやすくなります。

「子会社が赤字だから請求しない」

海外子会社が赤字であることを理由に、本社が経営支援料を請求しないケースがあります。

事業の立上げ期や市場開拓期には、資金繰り上の配慮として理解できる面もあります。しかし移転価格の観点では、赤字であるという一事をもって対価をゼロにする理由にはなりません。

第三者から同じ支援を受ければ対価を支払うような活動であれば、原則として対価設定を検討する必要があります。あえて請求しないのであれば、支援の性質、子会社の再建状況、将来の回収方針、契約上の取扱い、現地税務上の取扱いを整理しておくことが求められます。

「親会社の人件費を一律配賦する」

親会社の管理部門費用を、海外子会社の売上高や従業員数に応じて一律に配賦するケースもあります。

配賦そのものが直ちに否定されるわけではありません。ただし、配賦対象となる費用のなかに親会社活動が混在していると問題になります。また、海外子会社ごとに受けている便益が異なるにもかかわらず、売上高だけを基準に配賦している場合には、配賦基準の合理性が問われます。

配賦に着手する前に、対象費用を「子会社向け役務」「親会社活動」「重複活動」「無形資産関連」「金融関連」に分けておく必要があります。

「出張費だけ請求する」

技術者の出張費や旅費だけを海外子会社に請求し、人件費やノウハウの対価は含めていない、というケースもあります。

単なる現地作業支援であれば、旅費・人件費・間接費を基礎とした役務提供料で整理できることもあります。しかし、製造ノウハウ、品質管理手法、生産工程、営業手順といった無形資産を使っている場合には、役務提供料だけでは足りない可能性があります。

国税庁の事務運営要領でも、役務提供を行う際に無形資産を使用しているにもかかわらず、その対価に無形資産の使用部分が含まれていない場合があることが示されています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

無形資産:ロイヤリティを取るべきか

海外子会社が日本親会社の技術、ブランド、ノウハウ、営業秘密、販売網、顧客リスト、契約上の権利などを使用している場合には、無形資産取引を検討します。

国税庁の租税特別措置法関係通達では、無形資産には、顧客リスト及び販売網、ノウハウ及び営業上の秘密、商号及びブランド、無形資産の使用許諾または使用許諾に相当する取引により設定される権利、契約上の権利などが含まれるとされています。
出典:国税庁|第8款 棚卸資産の売買以外の取引における独立企業間価格の算定方法の適用

ここで重要なのは、税務上の無形資産は、会計上の貸借対照表に計上されているものに限られないという点です。

特許権や商標権のように登録されているものだけではありません。従業員の経験を通じて形成されたノウハウ、生産工程、交渉手順、開発・販売・資金調達に係る取引網なども、所得の源泉となる場合には検討の対象になります。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

法的所有者だけで判断しない

無形資産では、「登録上の権利者が誰か」だけで判断してはいけません。

国税庁の事務運営要領では、無形資産の使用許諾取引等について、法的な所有関係だけでなく、無形資産の形成、維持または発展への貢献の程度も勘案する必要があるとされています。その判断に当たっては、意思決定、役務提供、費用負担、リスク管理において法人または国外関連者が果たした機能等を総合的に勘案することとされ、単に費用を負担しているだけでは貢献の程度は低いとされています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

たとえば、日本親会社が研究開発費を負担し、技術方針を決定し、開発リスクを負い、技術者を管理しているのであれば、日本親会社が無形資産から生じる収益の主要部分を享受すべき、という整理につながりやすくなります。

反対に、海外子会社が現地市場で販売網、顧客関係、ブランド認知、販売ノウハウを形成している場合に、日本親会社の商標権だけを理由に過大なロイヤリティを請求すると、現地子会社側で問題になる可能性があります。

無形資産のロイヤリティは、「権利を持っているから何%」という発想ではなく、価値創造に誰がどのように貢献したかを見て判断する必要があります。

契約がなくても使用許諾取引が認定され得る

無形資産について契約書がないからといって、安心はできません。

国税庁の事務運営要領では、法人または国外関連者のいずれか一方が保有する無形資産を他方が使用している場合で、当事者間にその使用に関する取決めがないときは、譲渡があったと認められる場合を除き、無形資産の使用許諾取引があるものとして独立企業間価格の算定を行うことに留意するとされています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

つまり、「契約がないのだからロイヤリティも存在しない」という説明は通用しません。

実際に海外子会社が日本親会社の技術、商標、ノウハウ、営業資料、製造手順、品質管理手法、顧客リストを使って収益を得ているのであれば、契約書の有無にかかわらず、使用許諾取引として整理すべき可能性があります。

ロイヤリティ設定で確認すべき実務論点

ロイヤリティを設定する場合には、少なくとも次の点を確認します。

まず、対象となる無形資産を特定します。商標、技術、特許、製造ノウハウ、設計図面、ソフトウェア、営業秘密、ブランド、顧客リスト、販売網。このうちどれを使わせているのかを、曖昧にしてはいけません。

次に、使用範囲を決めます。国・地域、対象製品、対象サービス、独占か非独占か、サブライセンスの可否、使用期間、契約終了後の取扱いを明確にします。

さらに、ロイヤリティ料率の根拠を整理します。比較可能なライセンス契約があるのか。第三者のライセンスデータを使えるのか。製品別の利益率や販売会社の機能を踏まえて検証するのか。利益分割法やTNMMとの整合をどう見るのか。これらを検討します。無形資産の使用許諾または譲渡について、独立価格比準法と同等の方法や原価基準法と同等の方法を適用する場合には、比較対象取引に係る無形資産の同種性・類似性、使用許諾または譲渡の時期、使用許諾期間等の条件が重要になります。
出典:国税庁|第8款 棚卸資産の売買以外の取引における独立企業間価格の算定方法の適用

実務上は、契約書上の料率だけでなく、海外子会社に残る利益水準もあわせて見ます。海外子会社が限定的な販売会社であるにもかかわらず、ロイヤリティ控除後もなお高い利益を継続しているのであれば、日本親会社が無形資産の対価を十分に回収できていないのではないか、という論点が生じます。反対に、ロイヤリティによって海外子会社が恒常的に赤字となっている場合には、料率が高すぎる、あるいは海外子会社の機能・リスクに見合っていない可能性があります。

技術支援料とロイヤリティを分ける

技術者を現地に派遣している場合には、技術支援料とロイヤリティの区分が問題になります。

技術者が単に機械の据付指導、品質確認、教育研修を行うだけであれば、役務提供料として整理できることがあります。しかし、その支援を通じて製造ノウハウ、工程管理手法、品質管理ノウハウ、設計思想が移転または使用される場合には、無形資産使用許諾の対価を含める必要があります。

「出張者の人件費と旅費を請求しているから十分だ」とは限りません。

技術支援契約、ライセンス契約、製造委託契約、品質保証契約が互いにどう関係しているかを確認し、役務提供部分と無形資産部分を切り分ける必要があります。役務提供と無形資産の使用は概念的に別のものであり、どの無形資産を用いているか、受け手の活動・機能にどのような影響を与えているかを検討すべきとされています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

金融取引:貸付金利子・保証料をどう設定するか

海外子会社への貸付や保証は、中小・中堅企業にも非常に多く見られる論点です。

海外子会社の立上げ資金、設備投資資金、運転資金、赤字補填資金を、日本親会社が貸し付けることがあります。また、現地銀行からの借入について、日本親会社が保証を差し入れることもあります。

これらは資金繰り上は自然な対応ですが、税務上は金融取引として対価設定を検討します。

国税庁の事務運営要領では、金銭の貸借取引その他の金融取引について、通貨、時期、期間その他の取引内容を的確に把握したうえで、移転価格税制上の問題の有無を検討するとされています。また、返済期日が明らかでない場合には、金銭貸借の目的等に照らして期間を合理的に算定することとされています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

貸付金利子で見るべき要素

金銭の貸付けまたは借入れについては、比較対象取引の通貨が同一であること、貸借の時期、貸借期間、固定か変動か、単利か複利か、利払方法、借手の信用力、担保・保証の有無、その他利率に影響を与える要因が同様であること。これらが重要になります。
出典:国税庁|第8款 棚卸資産の売買以外の取引における独立企業間価格の算定方法の適用

したがって、海外子会社への貸付利率を決める際には、少なくとも次の事項を整理します。

貸付通貨は円か現地通貨か。貸付期間は短期か長期か。返済期日はあるか。元本返済は一括か分割か。固定金利か変動金利か。担保はあるか。親会社保証や他の保証はあるか。海外子会社単体の信用力はどの程度か。現地銀行から同じ条件で借りた場合の利率はどの程度になるか。資金使途は運転資金か、設備投資か、赤字補填か。

特に、海外子会社が日本親会社グループに属していること自体によって、信用力が高まる場合があります。このような付随的な便益そのものには対価が発生しないとされていますが、信用格付等を基に比較可能性を判断する場合には、その付随的便益を加味した結果として引き上げられた信用格付等を基に判断することに留意すべきとされています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

無利息・低利貸付けは慎重に扱う

海外子会社が資金不足に陥っている場合、親会社が無利息または低利で貸し付けることがあります。

このとき、「子会社支援なのだから無利息でよい」と安易に考えるのは危険です。原則としては、第三者間で同様の貸付を行った場合の利率を基礎に検討する必要があります。

ただし国税庁の事務運営要領では、法人税基本通達9-4-2に定める、子会社等を再建する場合の無利息貸付け等の適用がある金銭の貸付けについては、移転価格税制の適用上も適正な取引として取り扱うとされています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

これは、無利息・低利であれば常に認められる、という意味ではありません。

海外子会社の再建計画、支援の必要性、倒産防止の合理性、支援期間、支援額、回収可能性、金融機関・取引先への影響、将来の資金計画などを資料として残しておく必要があります。再建支援の実態がなく、単に利益を海外子会社へ移しているように見える場合には、移転価格または国外関連者寄附金の論点が生じます。

債務保証・保証料の判断

親会社が海外子会社の銀行借入や社債発行に保証を付ける場合には、保証料を収受すべきかどうかが問題になります。

国税庁の事務運営要領では、債務保証等について、対象債務の性質・範囲、保証が法人または国外関連者に与える影響に配意するとされています。特に、保証者が法的責任を負っているか、保証によって相手方の信用力が増しているかを検討することが示されています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

保証料を検討する際には、次のような視点が重要です。

保証がない場合とある場合とで、海外子会社の借入利率がどれだけ下がるか。保証がなければそもそも借入ができないのか。親会社は法的にどの範囲で履行責任を負うのか。保証対象は元本だけか、利息や費用も含むのか。保証期間は何年か。保証解除の条件はあるか。保証によって親会社の信用枠や財務制限条項に影響が及ぶか。

国税庁の事務運営要領では、債務保証等について、保証がない場合と保証がある場合の利率差、債務不履行時に保証者が負担すべき損失額の債務額に対する割合、信用リスクに相当するデリバティブ取引のスプレッドなどを勘案して想定した取引を、比較対象取引とすることができるとされています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

実務上は、保証契約に似た文書にも注意が必要です。キープウェル、経営指導念書、保証予約、サポートレターなどは、法的責任の有無、信用補完効果、借入条件への影響によって、保証料の要否が変わってきます。保証料を収受していた事例や、キープウェル等の保証類似取引について、法的責任や格付けへの影響が争点になった裁決例もあります。

「正式な保証契約ではないから保証料は不要だ」とは限りません。反対に、単なるグループ所属による信用力の向上にとどまるのであれば、それ自体に対価が発生するものではない、と整理される場面もあります。契約書の名称ではなく、法的責任と信用補完効果を確認することが肝心です。

費用負担・立替金・本社費配賦の整理

国外関連者への支援では、費用負担の処理も頻繁に問題になります。

たとえば、日本親会社が海外子会社のために外部専門家を手配し、その費用を一時的に立て替えて支払う場合があります。海外展示会費用、広告宣伝費、採用費、システム利用料、出向者給与、現地監査費用、現地法務費用などです。

ここで確認すべきことは、次の3点です。

1つ目は、誰のための費用かです。親会社自身のための費用なのか、海外子会社のための費用なのか、双方に便益がある費用なのか。これを分けます。

2つ目は、立替か役務提供かです。外部業者への支払を親会社が一時的に代行しただけであれば、立替精算として整理できることがあります。一方で、親会社が外部業者の成果物を加工し、判断を加え、海外子会社に提供している場合には、単なる立替ではなく役務提供になる可能性があります。

3つ目は、無償負担の合理性です。海外子会社が本来負担すべき費用を親会社が負担し、これを回収しない場合には、経済的利益の供与として国外関連者寄附金の問題が生じ得ます。

実務では、費用負担を次のように分類すると整理しやすくなります。

  • 親会社活動に係る費用は、海外子会社に配賦しない
  • 海外子会社に直接便益がある費用は、立替精算または役務提供料として請求する
  • 複数会社に共通する費用は、便益に応じた合理的な配賦基準で配分する
  • 無形資産や重要リスクを伴う活動は、単なる原価配賦ではなく、ロイヤリティや利益配分を含めて検討する

源泉所得税・租税条約も同時に確認する

移転価格の対価設定にばかり目を向けて、源泉所得税を見落としてしまうケースがあります。

海外子会社に対して日本親会社がロイヤリティや利子を支払う場合、あるいは外国法人から日本国内源泉所得に該当する使用料・利子等が発生する場合には、源泉所得税の検討が必要になります。

国税庁のタックスアンサーでは、非居住者および外国法人は日本国内で稼得した国内源泉所得のみが課税対象とされ、国内で業務を行う者に貸し付けた貸付金の利子で国内業務に係るもの、国内で業務を行う者から受ける工業所有権等の使用料や著作権の使用料等で国内業務に係るものが、国内源泉所得に含まれるとされています。
出典:国税庁|No.2878 国内源泉所得の範囲

また、非居住者等に対する源泉徴収税率として、貸付金の利子、工業所有権・著作権等の使用料等は20.42%とされています。ただし、租税条約によって免除または軽減される場合があり、その適用を受けるには、支払日の前日までに租税条約に関する届出書等を提出する必要があります。
出典:国税庁|No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率

租税条約届出書を期限までに提出していない場合、支払者は租税条約上の限度税率ではなく、国内法の税率で源泉徴収することになります。
出典:国税庁|No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)

したがって、ロイヤリティ、利子、保証料、役務提供料を設定する場合には、移転価格だけでなく、源泉所得税、租税条約届出、外国税額控除、現地源泉税、現地側の損金算入要件も、あわせて確認する必要があります。

税務調査で見られる資料

国外関連者への役務提供、無形資産、金融取引では、税務調査の場面で、資料の有無が非常に大きな意味を持ちます。

国税庁の移転価格事務運営要領では、調査において、法人および国外関連者ごとの資本関係、事業内容、関連会社間の資本・取引関係、沿革、主要株主、計算書類、取扱品目、取引金額、販売市場、事業別業績、経理処理基準、外国税務当局による調査内容、ローカルファイル相当書類などを基に、国外関連取引の実態を把握するとされています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

特に、本稿が対象とする取引では、次の資料を整えておくことが重要です。

役務提供については、役務提供契約書、業務内容一覧、担当者別工数、出張報告書、会議資料、メール、成果物、月次支援記録、費用集計表、配賦基準、請求書、計算過程を残します。

無形資産については、ライセンス契約書、対象無形資産の一覧、知的財産権の登録資料、研究開発費の負担資料、技術資料、商標使用状況、ブランド管理資料、品質管理資料、ロイヤリティ料率の根拠、比較対象契約、現地法人の損益、無形資産の形成への貢献資料を残します。

金融取引については、金銭消費貸借契約書、返済予定表、利率決定資料、通貨・期間・担保・保証条件、海外子会社の財務諸表、信用力分析、銀行借入条件、保証契約書、保証料計算資料、取締役会議事録、稟議書、資金使途資料を残します。

費用負担については、外部請求書、立替精算書、受益者別配分表、親会社活動との区分資料、配賦基準、回収方針、無償負担とした場合の理由を整理します。

こうした資料がないと、後になってから「実際に役務提供をした」「海外子会社に便益があった」「無形資産は使っていない」「保証による信用補完は限定的だった」と説明することが、非常に難しくなります。

申告前に確認すべきチェックポイント

国外関連者への役務提供・無形資産・金融取引については、決算・申告の前に、次の順番で確認していきます。

まず、国外関連者を洗い出します。資本関係だけでなく、実質支配関係、役員兼任、取引依存、資金依存、保証関係も確認します。

次に、取引を分類します。棚卸資産取引、役務提供、無形資産、貸付、保証、費用負担、出向、立替、債権放棄を分けます。

そのうえで、対価があるかを確認します。請求しているか、無償か、低額か、相殺されているか、別取引の価格に含めていないかを見ます。

続いて、価格設定の根拠を確認します。役務提供なら便益、原価、マークアップ、配賦基準。無形資産なら対象資産、貢献、料率、利益水準。金融取引なら通貨、期間、信用力、市場金利、保証効果。それぞれの観点から整理します。

最後に、資料と申告書の整合性を確認します。契約書、請求書、会計処理、別表17(4)、ローカルファイル、源泉税、租税条約届出、現地税務処理の間に食い違いがないかを確認します。

この順番で見ていけば、「何となく海外子会社を支援している」という状態から、「どの取引にどの税務論点があるか」を整理できる状態へと進むことができます。

経営判断としての意味

国外関連者への役務提供、無形資産、金融取引は、単なる税務調整ではありません。

経営支援料を請求すれば、日本親会社に利益と資金が戻ってきます。その一方で、海外子会社の損益と資金繰りには負担が生じます。ロイヤリティを設定すれば、日本親会社が技術・ブランドの対価を回収できますが、現地税務上の損金算入、源泉税、利益水準に影響が及びます。貸付金利子や保証料を設定すれば、資金支援の対価を明確にできますが、海外子会社の金融費用は増加します。

短期的には、海外子会社に利益を残すことが、現地の成長にとって必要な場合もあります。反対に、日本親会社が技術、ブランド、資金、経営管理を提供しているにもかかわらず対価を回収していなければ、日本側の利益が過少になり、将来の税務調査やM&A時の税務デューデリジェンスで問題になります。

移転価格は、税務上の「正しい料率」を探す作業ではありません。グループ内で利益、機能、リスク、資金をどう配分するかという、経営管理そのものです。

まとめ:海外子会社への支援は、無償か有償かではなく「何を提供しているか」で判断する

国外関連者への役務提供・無形資産・金融取引では、まず「何を提供しているか」を明確にする必要があります。

経理、財務、法務、人事、ITなどの支援なのか。製造技術や営業ノウハウなのか。ブランドや商標なのか。資金そのものなのか。信用補完なのか。それとも赤字補填なのか。

提供しているものが違えば、税務上の判断も変わります。

役務提供であれば、海外子会社に便益があるか、対価をどう算定するかを検討します。無形資産であれば、法的所有者だけでなく、形成・維持・発展への貢献を確認し、ロイヤリティの根拠を整理します。金融取引であれば、通貨、期間、信用力、担保、保証、資金使途を踏まえて、利子・保証料を検討します。費用負担や無償支援であれば、国外関連者寄附金との境界を確認します。

海外子会社との取引は、税務調査を迎えてから初めて整理するものではありません。契約の前、価格設定の前、送金の前、決算の前に、資料と判断過程を残しておく。それが、会社を守る実務です。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

海外子会社への経営支援、技術支援、ロイヤリティ、貸付金利子、保証料、費用負担について、「どこまで請求すべきか」「無償支援のままでよいか」「ローカルファイルや別表17(4)と整合しているか」に不安がある場合には、まず取引の棚卸しから始めることが重要です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、国外関連者との取引整理、役務提供・無形資産・金融取引の分類、価格設定方針、契約書・証憑の整理、申告前レビュー、税務調査対応を一体として検討し、後から説明できる法人税務判断の構築をご支援しています。

海外子会社への支援や資金取引について、自社の処理を確認したいとお考えの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

振り返り:本稿の重要ポイント

論点実務で確認すべきこと
役務提供海外子会社に経済的・商業的価値があるか、第三者なら対価を支払うかを確認する
親会社活動株主総会、連結決算、親会社広報など、親会社自身のための活動を子会社向け役務と混同しない
原価+5%支援的で中核事業に直接関連せず、無形資産や重要リスクを伴わない一定役務に限り検討する
無形資産技術、ノウハウ、ブランド、販売網、営業秘密など、所得の源泉となるものを広く確認する
ロイヤリティ対象資産、使用範囲、料率根拠、海外子会社に残る利益水準を整理する
技術支援出張費・人件費だけでなく、ノウハウや技術の使用許諾が含まれないか確認する
貸付金利子通貨、期間、固定・変動、利払方法、信用力、担保、保証の有無を確認する
無利息貸付け再建支援としての合理性、支援期間、回収可能性、事業計画を資料化する
保証料法的責任、信用補完効果、借入利率差、保証範囲、保証期間を確認する
費用負担親会社活動、子会社向け役務、立替、無償供与を区分する
国外関連者寄附金海外子会社への経済的利益の無償供与や費用肩代わりは全額損金不算入リスクを確認する
源泉所得税ロイヤリティ・利子等では国内源泉所得、租税条約届出、源泉税率を併せて確認する
資料化契約書、計算過程、配賦基準、役務提供記録、ロイヤリティ根拠、信用力分析を保存する
経営判断税負担だけでなく、海外子会社の資金繰り、利益配分、M&A、金融機関説明への影響を考える
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