事業承継を考え始めると、「自社株はいくらになるのか」という問いは、どうしても避けて通れません。
後継者へ株式を贈与するとき、相続で移転するとき、親族外の役員・従業員へ譲渡するとき、自己株式として会社が買い取るとき、持株会社や組織再編を用いるとき、あるいは第三者へのM&Aを検討するとき。いずれの場面でも、非上場株式の価額は、税負担、資金繰り、経営権、株主間の公平、そして金融機関への説明に影響していきます。
ただ、非上場株式の評価は、決算書の純資産を株数で割れば済むような単純なものではありません。誰が取得するのか、何のために評価するのか、相続税・贈与税の評価なのか、それとも所得税・法人税上の時価なのか、会社の規模や資産構成はどうなっているのか。こうした条件によって、見るべきポイントそのものが変わってきます。
本稿では、個別の株価計算そのものではなく、事業承継の入口で押さえておきたい非上場株式評価の基本構造を整理していきます。
非上場株式評価は「税額計算」だけの問題ではない
非上場株式の評価というと、相続税・贈与税の申告のために行うもの、と受け止められがちです。
たしかに、相続や贈与で自社株式を移転する場合、税務上の評価額はそのまま贈与税・相続税の計算に直結します。国税庁も、取引相場のない株式については、相続や贈与などで株式を取得した株主が発行会社の経営支配力を持つ同族株主等か、それ以外の株主かによって、原則的評価方式または配当還元方式で評価するものと整理しています。出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価
ただ、実務で本当に重要なのは、その評価額が会社の意思決定そのものに影響していく点です。
株価が高ければ、後継者への贈与や相続の際の税負担は重くなります。株式譲渡で承継するなら、後継者側の取得資金が問題になります。自己株式取得を使う場合には、会社資金の流出、みなし配当、財源規制、他の株主への影響を確認しておかなければなりません。持株会社化や会社分割を検討するなら、組織再編後の株価や将来の否認リスクも視野に入ってきます。
つまり非上場株式の評価は、単なる株価計算ではなく、事業承継の設計図を描くための前提情報なのです。
まず確認すべきは「何のための評価か」
非上場株式の評価で最初に確かめておきたいのは、その評価が何のためのものか、という目的です。
同じ非上場株式であっても、評価の目的によって、参照すべき考え方は変わってきます。
相続や贈与による承継であれば、原則として財産評価基本通達に基づく取引相場のない株式の評価が中心になります。一方、売買、自己株式取得、役員・従業員への譲渡、法人間取引、組織再編比率の算定、M&Aの価格交渉といった場面では、相続税・贈与税の評価額がそのまま唯一の答えになるとは限りません。
とくに所得税や法人税の場面では、譲渡人が誰か、譲受人が誰か、法人か個人か、支配株主か少数株主か、第三者間取引か同族関係者間取引か。こうした違いによって、時価の考え方や課税関係が変わってきます。非上場株式の譲渡では、相続・贈与とは異なり、譲渡人側の支配力に着目して評価方法を検討すべき場面があります。相続税評価の株主判定をそのまま流用してしまうことには、注意が必要です。
また、組織再編の比率算定では、株主ごとに税務上の時価が異なり得る一方で、合併比率・分割比率・株式交換比率などは一つに決めなければなりません。そのため、相続税評価、法人税法上の時価、時価純資産法といった考え方のうち、どれを採用するのかについて、合理性を説明できることが重要になります。
こうした事情から、非上場株式の評価では、最初に次の点を整理しておく必要があります。
- 相続・贈与のための評価か
- 売買・自己株式取得のための評価か
- 事業承継税制の検討のための評価か
- M&Aや組織再編の検討のための評価か
- 株主間の公平や経営権整理のための参考評価か
- 金融機関・後継者・外部関係者への説明のための評価か
評価の目的を曖昧にしたまま株価だけを算出してしまうと、後になって「その評価額は、この取引に使ってよかったのか」という問題が生じかねません。
「取引相場のない株式」とは何か
相続税・贈与税の評価で中心になるのは、「取引相場のない株式」です。
これは、上場株式や気配相場等のある株式以外の株式を指します。一般的な中小・中堅企業の自社株式は、その多くがこの取引相場のない株式に該当します。
取引相場のない株式の評価では、大きく分けて二つの視点が必要になります。
一つは、株式を取得する人が、その会社を支配できる立場にあるかどうかです。支配力を持つ株主であれば、その株式は単なる配当期待権ではなく、会社の経営や財産に影響を及ぼす権利として評価されます。
もう一つは、発行会社そのものの規模や状態です。大会社に近い会社であれば上場会社との比較を用いる合理性が高くなり、小規模な会社であれば会社の資産価値を重視する考え方が強くなります。
財産評価基本通達178は、取引相場のない株式について、評価会社が大会社・中会社・小会社のいずれに該当するかに応じて評価するものとし、同族株主以外の株主等が取得した株式や特定の評価会社の株式については、それぞれ別の定めによって評価するとしています。出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第1節 株式及び出資
株主区分が評価方式を左右する
非上場株式の評価では、「会社の株価はいくらか」よりも先に、「誰がその株式を取得するのか」を確認します。
同じ会社の同じ株式であっても、取得者が同族株主等に該当するのか、それとも同族株主以外の少数株主に該当するのかによって、評価方式が変わることがあるためです。
同族株主等が取得する場合
同族株主等が取得する株式は、原則として、会社の実態に応じた原則的評価方式で評価します。
同族株主とは、簡単にいえば、本人とその同族関係者の議決権を合わせて一定以上の支配力を持つ株主グループのことです。財産評価基本通達188では、同族株主のいる会社について、株主の一人およびその同族関係者の議決権合計が議決権総数の30%以上となる場合を基本とし、一定の場合には50%超を基準として同族株主を判定する旨が定められています。出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第1節 株式及び出資
事業承継では、後継者に議決権を集中させることが多いため、後継者が同族株主等として原則的評価方式の対象になる場面が多くなります。
同族株主以外の少数株主が取得する場合
同族株主以外の株主等が取得する株式については、会社規模にかかわらず、原則として配当還元方式で評価されます。
これは、経営支配力を持たない株主は、会社の資産や経営を直接支配する立場ではなく、基本的には配当を期待する立場にとどまると考えられるためです。
ただし、一見すると少数株主に見える場合でも、同族関係者、議決権行使の合意、役員就任の予定、株主間の関係などによって、原則的評価方式が必要となることがあります。親族外承継では、後継者がオーナー経営者と同一内容の議決権を行使する関係にあると評価される場合もあり、配当還元方式を安易に用いることはできない点に注意が必要です。
会社規模によって評価方式が変わる
同族株主等が取得する株式については、次に会社規模を判定します。
財産評価基本通達では、評価会社を大会社・中会社・小会社に区分します。判定にあたっては、総資産価額、従業員数、直前期末以前1年間の取引金額、業種区分を確認します。たとえば大会社は、従業員数70人以上の会社、または一定の総資産価額・取引金額を満たす会社とされ、中会社・小会社についても業種ごとに基準が定められています。出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第1節 株式及び出資
会社規模ごとの原則的な評価方法は、おおむね次のように整理できます。
大会社は、原則として類似業種比準方式で評価します。中会社は、類似業種比準価額と純資産価額を併用します。小会社は、原則として純資産価額方式で評価し、一定の場合には類似業種比準価額との併用方式を選ぶこともできます。出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第1節 株式及び出資
事業承継の実務では、この会社規模の判定が株価に大きく影響します。一般に、純資産価額方式よりも類似業種比準方式のほうが低く評価されることが多いのですが、会社規模や資産構成を形式的に変えて評価方式だけを有利にしようとすると、今度は税務上の説明可能性が問題になります。
類似業種比準方式とは
類似業種比準方式は、評価会社と類似する上場会社の株価を基礎に、評価会社の配当、利益、純資産を比較して株価を求める方法です。
国税庁のタックスアンサーでも、大会社については原則として類似業種比準方式で評価するとされており、この方式は、類似業種の株価をもとに、評価会社の1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額の三つで比準する方法であると説明されています。出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価
実務上は、国税庁が公表する「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」を使用します。令和8年分については、令和8年6月5日付の法令解釈通達により、取引相場のない株式を類似業種比準方式で評価する際に必要となる業種目別の配当金額、利益金額、簿価純資産価額および株価が定められています。出典:国税庁|令和8年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(法令解釈通達)
類似業種比準方式で確認しておきたい主なポイントは、次のとおりです。
- 評価会社の事業内容に合った業種目を選定しているか
- 非経常的な利益や一時的な損益が利益金額に影響していないか
- 配当政策が評価に与える影響を理解しているか
- 直前期の決算内容が適正に整理されているか
- 簿価純資産に含まれる資産・負債が実態と大きく乖離していないか
- 将来の事業承継方針と整合しているか
類似業種比準方式は、上場会社との比較を用いるため、会社の収益力が評価に反映されやすい方法です。その反面、決算書の利益、配当、純資産の整理が不十分だと、評価額の意味を説明しにくくなります。
純資産価額方式とは
純資産価額方式は、評価会社の資産と負債を相続税評価額に洗い替え、会社の純資産価値をもとに株価を評価する方法です。
国税庁のタックスアンサーでは、小会社は原則として純資産価額方式で評価するとされ、この方式は、会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替えたうえで、評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価する方法と説明されています。出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価
財産評価基本通達185では、純資産価額について、課税時期における各資産を通達に基づいて評価した価額の合計額から、各負債の金額および評価差額に対する法人税額等相当額を控除して計算する旨が定められています。あわせて、現行通達では、評価差額に対する法人税額等相当額について38%を乗じる旨が定められています。出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第1節 株式及び出資
純資産価額方式では、次のような項目が株価に影響します。
- 土地・建物など不動産の評価
- 上場株式・投資有価証券の評価
- 保険契約の解約返戻金相当額
- 役員貸付金・役員借入金
- 回収不能債権や不良資産
- 未払法人税等、固定資産税、死亡退職金など負債に含める項目
- 含み益・含み損
- 関係会社株式の評価
- 直前期末後から課税時期までの重要な変動
小規模な会社や資産保有型の会社では、純資産価額方式の影響が大きくなります。土地の含み益、保険契約、オーナー貸付金、役員退職金、不良債権、関係会社株式などを整理しないまま評価してしまうと、事業承継の税負担や株主間の公平に大きな差が生じることがあります。
併用方式は「大会社」と「小会社」の中間にある会社の評価
中会社では、類似業種比準価額と純資産価額を一定割合で併用します。
財産評価基本通達179では、中会社の株式について、類似業種比準価額にLを乗じ、1株当たり純資産価額に1-Lを乗じて合計する方式が定められています。Lの割合は、会社規模に応じて0.90、0.75、0.60などに区分されます。出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第1節 株式及び出資
併用方式は、会社の規模が大きくなるほど類似業種比準価額の比重が高くなり、小さくなるほど純資産価額の比重が高くなる仕組みです。
ここで注意しておきたいのは、中会社の判定そのものが株価に影響するという点です。総資産、従業員数、取引金額の判定、業種区分、直前期末の数字が変われば、適用されるLの割合も変わる可能性があります。ですから、評価ソフトで計算するだけで終わらせず、会社規模判定の前提が正しいかどうかを確認しておく必要があります。
配当還元方式は少数株主向けの評価方式
配当還元方式は、同族株主以外の少数株主等が取得した株式に適用される特例的な評価方式です。
財産評価基本通達188-2では、同族株主以外の株主等が取得した株式について、年配当金額をもとに、10%の還元率で配当還元価額を計算する旨が定められています。あわせて、年配当金額が2円50銭未満または無配の場合には、2円50銭として計算する旨も定められています。出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第1節 株式及び出資
この方式は、少数株主が基本的に配当を期待する立場にとどまることを前提としたものです。
そのため、事業承継で後継者に経営権を持たせる場合や、実質的にオーナー経営者と一体で議決権を行使する場合に、安易に配当還元方式を前提としてしまうと、後から問題になることがあります。配当還元方式は「低い評価方式」ではなく、「経営支配力を持たない株主のための特例的な評価方式」として理解しておくべきものです。
特定の評価会社に該当すると評価が大きく変わる
取引相場のない株式の評価では、一般の評価会社だけでなく、特定の評価会社に該当するかどうかも確認します。
国税庁のタックスアンサーでは、特定の評価会社として、比準要素数1の会社、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社等、開業前または休業中の会社、清算中の会社などが挙げられています。出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価
特定の評価会社に該当すると、原則として純資産価額方式が中心になります。たとえば、土地や株式等を多く保有する会社、開業後間もない会社、事業実態が乏しい会社では、類似業種比準方式による評価になじまないと考えられるためです。
特定の評価会社に該当する場合には、会社の規模にかかわらず原則として純資産価額方式で評価されるため、一般の評価会社に比べて株式評価額が上昇することがあります。また、土地保有特定会社や株式等保有特定会社に該当しないよう、合理的な理由なく資産構成を変動させた場合には、その変動がなかったものとして判定されるリスクもあります。
事業承継の直前に資産構成を変える、持株会社を新設する、不動産や有価証券を移動させる、会社分割を行う。こうした場面では、特定の評価会社に該当しないかどうかを必ず確認しておく必要があります。
株価を下げる処理は、法人税務と一体で検討する
事業承継では、株価の引下げ策が検討されることがあります。
代表的なものとしては、役員退職金の支給、生命保険の見直し、配当政策の変更、不動産や有価証券の整理、オーナー貸付金・借入金の整理、持株会社化、会社分割、従業員持株会の活用などが考えられます。
しかし、株価を下げることだけを目的に処理を選んでしまうと、法人税務上の副作用を見落とすことになりかねません。
役員退職金であれば、退職の事実、分掌変更後の実態、金額の相当性、損金算入の時期を確認しなければなりません。オーナー貸付金の債権放棄であれば、会社側の債務免除益、繰越欠損金の有無、株価上昇による他の株主への利益移転が問題になります。自己株式取得であれば、みなし配当、譲渡所得、会社法上の財源規制、他の株主への影響を確認する必要があります。
親族内承継、親族外の役員・従業員承継、第三者承継では、株式承継の方法や主な税務課題が異なります。たとえば、親族内承継では贈与税制度や事業承継税制、親族外承継では自己株式取得時・持株会社譲渡時の時価、第三者承継ではM&A前の税務処理リスクなどが論点になりやすい、と整理できます。
非上場株式の評価は、節税策の入口ではなく、会社の状態を可視化するための入口です。評価結果を見たうえで、どの処理を行うかを、法人税務・資金繰り・株主構成・将来の選択肢と結び付けて判断していく必要があります。
相続税評価額とM&A価格は同じではない
事業承継の現場では、「税務上の株価」と「M&Aでの譲渡価格」が混同されることがあります。
相続税・贈与税の評価では、財産評価基本通達に基づき、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式などを用います。一方、M&Aでは、将来キャッシュ・フロー、EBITDA倍率、類似会社比較、純資産、シナジー、買い手の戦略、契約条件、デューデリジェンスの結果などが価格に影響します。
ですから、財産評価基本通達上の評価額とM&A価格が一致しないこと自体は、けっして珍しいことではありません。
ただし、同族関係者間取引、親族外後継者への譲渡、役員・従業員への譲渡、持株会社への譲渡などでは、税務上の時価を説明できるかどうかが重要になります。税務評価と取引価格の差が大きい場合には、その差額が贈与、受贈益、寄附金、役員給与、みなし配当などに波及しないかを検討しておかなければなりません。
つまり、M&A価格は経済取引上の価格であり、相続税評価額は税務上の評価額です。両者は目的が異なるため、同じ数字になるとは限りませんが、差がある場合には、その差を説明できる資料と判断の過程が必要になります。
事業承継税制を使う場合も、株式評価の理解は欠かせない
法人版事業承継税制を検討する場合でも、非上場株式評価の理解は欠かせません。
法人版事業承継税制の特例措置では、特例承継計画を提出した事業者について、一定の期間内に贈与・相続により会社の株式を取得した後継者が対象となります。本稿執筆時点では、中小企業庁は、特例承継計画の提出期限を令和9年9月30日まで、対象となる贈与・相続による株式取得の期限を令和9年12月31日までと案内しています。出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)
事業承継税制は、一定の要件を満たす場合に贈与税・相続税の納税猶予を受けられる制度であって、株価そのものを無視できる制度ではありません。対象株式、後継者、先代経営者、会社要件、継続届出、そして将来の譲渡・廃業・組織再編の影響を確認しておく必要があります。
また、納税猶予を受ける場合でも、承継時点の株価は重要です。将来、納税猶予の継続要件を満たせなくなった場合には、猶予税額の納付が問題になります。ですから、事業承継税制を使うかどうかを検討する前提として、まず自社株式の評価構造を理解しておく必要があるのです。
評価制度は今後の動向にも注意が必要
非上場株式の評価制度については、今後の改正動向にも目を向けておく必要があります。
国税庁は、令和8年4月16日付で「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の開催を公表しました。その開催趣旨では、令和6年11月の会計検査院検査報告における指摘が背景として挙げられています。具体的には、評価方式間で評価額にかい離が生じていること、類似業種比準価額を適用する割合が高い規模の大きな会社ほど評価額が相対的に低く算定されること、配当還元方式の還元率が近年の金利水準と比べて相対的に高い率となっているおそれがあること、といった点です。こうした指摘を踏まえ、相続税法の時価主義のもとで適正な評価制度の在り方を検討する、とされています。出典:国税庁|「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の開催について
また、国税庁の審議会・研究会等のページでは、令和8年4月20日の第1回、令和8年5月11日の第2回、令和8年6月4日の第3回の有識者会議資料が掲載されています。出典:国税庁|審議会・研究会等
現時点で、ただちに現行の評価方法が変わるわけではありません。ただ、事業承継は数年単位で設計していくものです。将来の評価制度変更の可能性も踏まえて、早い段階で自社株評価の構造を把握しておくことが重要になります。
非上場株式評価で準備すべき資料
非上場株式の評価を行うには、決算書だけでは足りません。
少なくとも、次の資料を整理しておく必要があります。
- 直近数期分の決算書
- 法人税申告書、勘定科目内訳明細書
- 別表四、別表五(一)、別表七
- 株主名簿
- 定款
- 登記簿謄本
- 発行済株式数、自己株式の有無
- 過去の株式移動資料
- 配当実績
- 役員構成、役員就任予定
- 固定資産台帳
- 不動産の評価資料
- 保険契約一覧、解約返戻金資料
- 借入金明細
- 役員貸付金・役員借入金の明細
- 関係会社株式・投資有価証券の資料
- 直前期末後から評価時点までの重要な取引
- 事業承継の予定時期と承継方法
- 後継者、他の株主、親族関係、議決権関係
評価の精度は、資料の精度に左右されます。
とくに、株主名簿が更新されていない、名義株がある、自己株式の扱いが曖昧、役員貸付金・借入金の内訳が不明、不動産の含み益が把握されていない、過去の株式移動資料が残っていない。こうした状態では、評価額だけでなく、承継設計そのものが不安定になってしまいます。
非上場株式評価を経営判断に活かす視点
非上場株式の評価は、税額を見積もるためだけに行うものではありません。
評価という作業を通じて、会社の状態そのものが見えてきます。
利益が大きく出ている会社は、類似業種比準価額が上がりやすくなります。不動産や有価証券を多く保有する会社は、純資産価額が高くなることがあります。配当政策は配当還元方式に影響します。役員貸付金やオーナー借入金は、相続財産、会社財務、株価、後継者の負担に影響します。自己株式や種類株式は、議決権判定や株主構成に影響します。
こうしたことから、自社株評価を行う際には、次のような問いを持つことが大切です。
- なぜこの株価になっているのか
- どの要素が株価を押し上げているのか
- どの処理をすれば株価が変わるのか
- その処理は法人税務上説明できるのか
- 税負担を下げても、会社資金が流出しすぎないか
- 後継者の経営権は安定するか
- 他の株主や相続人に不公平感が残らないか
- 将来のM&Aや組織再編の選択肢を狭めないか
- 金融機関に説明できる決算・資本構成になっているか
株価を低くすることだけを目的にしてしまうと、後になって、税務調査、株主間の紛争、金融機関対応、M&Aのデューデリジェンスといった場面で問題が表面化することがあります。
大切なのは、低い株価ではなく、説明できる株価です。
ご相談について
非上場株式の評価は、相続税・贈与税の計算にとどまらず、法人税務、資本政策、役員退職金、自己株式、オーナー貸付金、事業承継税制、M&A、組織再編とつながっています。
「自社株がいくらか」を知るだけであれば、評価額の試算で足りるかもしれません。しかし、事業承継に使える評価にするためには、その評価額がなぜ生じているのか、どの処理が株価に影響しているのか、どの承継方法が会社の将来に合っているのか、というところまで整理しておく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、非上場株式の評価を単独の計算作業としてではなく、法人税務、株主構成、資本政策、事業承継、M&Aの判断材料として整理する支援を行っています。自社株評価を起点に、承継の前に整理しておくべき論点を把握したい場合は、お問い合わせページよりご相談ください。
重要事項の振り返り
| 論点 | 確認すべきポイント |
|---|---|
| 評価目的 | 相続・贈与、売買、自己株式取得、M&A、組織再編など、目的により評価の見方が変わる |
| 取引相場のない株式 | 上場株式・気配相場等のある株式以外の株式で、中小・中堅企業の自社株式の多くが該当する |
| 株主区分 | 同族株主等か、同族株主以外の少数株主かにより評価方式が変わる |
| 会社規模 | 総資産、従業員数、取引金額、業種により大会社・中会社・小会社を判定する |
| 類似業種比準方式 | 類似業種の上場会社株価を基礎に、配当・利益・純資産を比較して評価する |
| 純資産価額方式 | 資産・負債を相続税評価に洗い替え、含み益・含み損を反映して評価する |
| 併用方式 | 中会社では、類似業種比準価額と純資産価額を会社規模に応じた割合で併用する |
| 配当還元方式 | 経営支配力を持たない少数株主向けの特例的評価方式であり、安易に適用できるものではない |
| 特定の評価会社 | 土地保有特定会社、株式等保有特定会社、開業後3年未満の会社等では純資産価額方式が中心になる |
| 事業承継への影響 | 株価は、税負担、資金繰り、経営権、株主間公平、M&A、金融機関対応に影響する |
| 実務上の注意 | 低い株価を目指すのではなく、後から説明できる評価根拠と判断過程を残すことが重要 |