非上場株式評価と同族会社の税務調査|自社株評価で確認される実務判断

相続税の調査において、預金や不動産と並んで大きな争点になりやすいのが、非上場会社の株式、いわゆる自社株です。

とりわけ、被相続人が同族会社の創業者や代表者、会長、主要株主であった場合には、相続税申告書に記載された株式評価額を確認するだけで調査が終わることは、あまり多くありません。実務では、次のような点が一つひとつ掘り下げられていきます。

  • 会社の決算書は、実態を反映しているか
  • 株主名簿と、実際の支配関係は一致しているか
  • 役員貸付金や役員借入金は、本当に実在するか
  • 会社が保有する不動産や有価証券は、適切に評価されているか
  • 同族会社間、親族間、役員との取引によって、株価が人為的に動いていないか
  • 会社規模や類似業種、純資産、特定の評価会社の判定に、誤りはないか

非上場株式の評価は、評価明細書の計算だけで完結するものではありません。会社の会計処理、資産・負債の実在性、株主関係、経営支配、同族会社取引、不動産評価、そして贈与税リスク。これらが一体となって確認されていく論点です。

この記事では、相続税・贈与税の調査において、非上場株式評価と同族会社がどのように確認されるのかを、実務判断の観点から整理してみたいと思います。

目次

非上場株式評価は、会社の実態を通じて相続財産を評価する作業である

相続税法では、相続・遺贈・贈与によって取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、その取得時における時価によるものとされています。非上場株式も、その例外ではありません。

出典:e-Gov法令検索|相続税法

ただ、非上場株式には、上場株式のような日々の市場価格が存在しません。そのため相続税・贈与税の世界では、財産評価基本通達に基づき、株主の立場や会社の規模、会社の資産内容などに応じて評価していくことになります。

国税庁は、取引相場のない株式について、相続や贈与で株式を取得した株主が発行会社の経営支配力を持つ同族株主等か、それ以外の株主かによって、原則的評価方式または特例的評価方式である配当還元方式で評価する、と説明しています。
出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価

ここで押さえておきたいのは、非上場株式の評価が「株式だけを見て完結する評価」ではない、という点です。

株価は、会社の貸借対照表、損益計算書、株主構成、事業内容、資産の保有状況、役員との債権債務、不動産評価、過去の配当、直前期の利益、会社規模といった要素の積み上げによって決まります。

ですから、相続税調査で自社株評価が確認されるときには、必然的に、発行会社そのものの数字と実態が問われることになります。

調査で最初に見られるのは「誰がどの立場で株式を取得したか」

非上場株式の評価では、まず、株式を取得した人が同族株主側なのか、それとも少数株主側なのかを確認します。

この判定を誤ると、本来は原則的評価方式で評価すべき株式を配当還元方式で評価してしまう、あるいはその逆という誤りが起こります。評価額が大きく変わるため、調査では非常に重視される部分です。

財産評価基本通達では、同族株主のいる会社、中心的な同族株主のいる会社、同族株主のいない会社、中心的な株主のいる会社というように、議決権割合と同族関係者の範囲に応じて、評価区分が細かく定められています。

国税庁の質疑応答事例でも、「同族株主」の判定は納税義務者を中心に行うのではなく、課税時期における評価会社の株主全体の中で判定するものとされています。
出典:国税庁|同族株主の判定

調査では、おおむね次のような資料が確認されます。

  • 株主名簿
  • 法人税申告書別表二
  • 定款
  • 登記事項証明書
  • 株主総会議事録
  • 過去の株式譲渡契約書
  • 贈与契約書
  • 名義株に関する経緯資料
  • 親族関係図
  • 同族関係会社の株主構成
  • 議決権制限株式や種類株式の有無

とくに注意したいのは、「名義上の株主」と「実質的な出資者・支配者」がずれているケースです。

たとえば、創業時に親族や従業員、知人の名義を借りて株式を持たせていた。株主名簿上は分散しているが、実際には代表者一族が支配している。過去の株式移動について、契約書や代金決済の資料が残っていない。退職した役員や従業員の名義株がそのまま残っている。あるいは、相続の直前に株式を親族や会社へ移している――。

こうした場合には、評価方法の問題にとどまらず、そもそも誰の財産として申告すべきだったのか、贈与や譲渡は本当に成立していたのか、という論点にまで発展することがあります。

原則的評価方式は「会社規模」で評価方法が変わる

同族株主等が取得した株式は、原則的評価方式によって評価します。

国税庁は、この原則的評価方式について、評価会社を総資産価額・従業員数・取引金額により大会社・中会社・小会社に区分して評価するものと説明しています。大会社は原則として類似業種比準方式、小会社は原則として純資産価額方式、中会社は両者の併用方式で評価する、という整理です。
出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価

会社規模の判定では、次の項目が確認されます。

  • 総資産価額
  • 従業員数
  • 直前期末以前1年間の取引金額
  • 業種区分
  • 複数事業を営む場合の主たる業種
  • 臨時従業員、役員、出向者の扱い
  • 売上高と取引金額の整合性
  • 事業実態の有無

会社規模の判定は、決算書の数値をそのまま転記すれば済むものではありません。

たとえば、同族会社が不動産賃貸業や資産管理業、持株会社、あるいは休眠に近い会社である場合、売上規模や従業員数は小さい一方で、多額の不動産や有価証券を保有していることがあります。こうしたケースでは、会社規模の判定、特定の評価会社の判定、純資産価額評価が複雑に絡み合ってきます。

さらに、同族会社間で売上を付け替えている、役員個人との取引が混在している、実態の乏しい管理料や業務委託料が計上されている――といった事情があれば、法人税調査の論点と非上場株式評価が、そのまま接続することになります。

類似業種比準価額では、業種・配当・利益・簿価純資産が確認される

類似業種比準方式は、評価会社と類似する上場会社の株価を基礎として、評価会社の配当・利益・簿価純資産を比準しながら評価する方法です。

財産評価基本通達では、類似業種比準価額は、類似業種の株価、1株当たりの配当金額、年利益金額、純資産価額をもとに計算するものとされています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 類似業種比準価額

類似業種比準価額で調査対象になりやすいのは、次のような事項です。

  • 業種目の選択が正しいか
  • 複数事業がある場合、取引金額に基づく業種判定が適切か
  • 類似業種の株価等に、該当年分の最新通達を使っているか
  • 非経常的利益を利益金額から除外すべきではないか
  • 役員退職金、保険解約益、不動産売却益などをどう扱ったか
  • 配当金額の計算に誤りがないか
  • 簿価純資産の計算に、法人税法上の適正な帳簿価額が反映されているか
  • 自己株式、増資、株式分割、配当基準日との関係に誤りがないか

類似業種比準方式では、該当年分の「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」を用いる必要があります。令和8年分についても、国税庁が令和8年6月5日付で法令解釈通達を公表しています。
出典:国税庁|令和8年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について

相続開始日が属する年や課税時期、利用できる月の株価等によって計算結果が変わりますので、過去の評価ソフトや古い資料のまま計算しているような場合には、注意が必要です。

純資産価額では、貸借対照表の「実在性」と「評価替え」が問われる

純資産価額方式は、会社の資産と負債を相続税評価へ洗い替えたうえで、1株当たりの価額を計算する方法です。

財産評価基本通達では、1株当たりの純資産価額について、課税時期における各資産を通達に定めるところにより評価した価額の合計額から、課税時期における各負債の金額の合計額および評価差額に対する法人税額等相当額を控除し、課税時期における発行済株式数で除して計算するものとされています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 純資産価額

ここで調査官が見ているのは、「決算書に載っているから正しい」という形式ではありません。問われるのは、あくまでも実態です。

その資産は実在するのか。その債権は回収可能か。簿外資産や簿外負債はないか。会社所有不動産の評価は正しいか。役員貸付金は本当に回収できるのか。代表者個人の支出を会社が立て替えていないか。退職金や未払金は確定債務といえるのか。関係会社株式や貸付金の価値は適切か――。こうした点が、一つずつ確認されていきます。

純資産価額は、貸借対照表の数字を相続税評価へと組み替える作業です。だからこそ、法人税の決算書、総勘定元帳、固定資産台帳、借入契約書、金銭消費貸借契約書、不動産評価資料、株式評価資料が、相互に整合している必要があります。

役員貸付金・役員借入金は、自社株評価と相続財産の双方に影響する

同族会社の相続税調査において、役員貸付金と役員借入金は、重要な確認項目です。

会社の貸借対照表に「役員貸付金」がある場合、会社から見ればそれは資産です。純資産価額方式では、会社の資産として株式評価に影響します。同時に、被相続人が会社から借りていたのであれば、被相続人側の債務として相続税申告に反映されているかどうかも問題になります。

反対に、貸借対照表に「役員借入金」がある場合、会社から見れば負債です。純資産価額を下げる要素にはなりますが、被相続人が会社へ貸し付けていたのであれば、被相続人側では貸付金債権として相続財産になります。

調査では、次のような点が確認されます。

  • 契約書、返済条件、利息の定めがあるか
  • 入出金の事実が通帳で確認できるか
  • 長期間動きのない残高ではないか
  • 役員個人の生活費や私的支出が会社経費化されていないか
  • 会社の資金繰りのための一時的な立替か、実質的な資金移転か
  • 代表者の死亡後に債権放棄や相殺が行われていないか
  • 法人税申告書、勘定科目内訳明細書、相続税申告書の間に整合性があるか

役員貸付金・役員借入金は、法人側と個人側の双方に影響します。

会社側では純資産価額に影響し、個人側では相続財産または債務控除に影響します。この部分を曖昧にしたままにすると、自社株評価だけでなく、名義財産、債務控除、役員給与、認定賞与、貸倒れ、贈与税の問題へと、論点が広がっていく可能性があります。

土地保有会社・株式保有会社は、通常の会社評価とは違う視点が必要

同族会社が不動産や有価証券を多く保有している場合には、特定の評価会社に該当するかどうかが重要になります。

財産評価基本通達では、特定の評価会社として、比準要素数1の会社、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社等、開業前または休業中の会社、清算中の会社などが定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 特定の評価会社の株式

とくに同族会社では、次のようなケースが多く見られます。

  • 創業家の不動産を法人に移している
  • 会社の本業収益より、不動産賃貸収入が中心になっている
  • 余剰資金で上場株式や投資信託を保有している
  • 事業会社というより、資産管理会社に近い
  • 相続対策として、不動産や株式の保有割合を調整している
  • 相続前に資産を売却・取得して、特定会社判定を避けようとしている

特定の評価会社の判定については、課税時期前に合理的な理由なく資産構成に変動があり、その変動が株式等保有特定会社または土地保有特定会社に該当することを免れるためのものと認められる場合には、その変動はなかったものとして判定する旨が、財産評価基本通達に定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 特定の評価会社の株式

ですから、相続直前の不動産売却、株式売却、現預金化、借入れ、資産移転については、税務調査でその経緯が確認されます。

「計算上、特定会社には該当しなかった」という説明だけでは足りません。なぜその取引を行ったのか――事業上の必要性、資金繰り、投資判断、経営判断の経緯を説明できる資料が求められます。

会社所有不動産の評価誤りは、自社株評価に直結する

同族会社が不動産を保有している場合、その不動産評価は、非上場株式評価に直接影響します。

土地の評価単位、路線価、倍率、貸宅地、貸家建付地、地積、利用状況、私道、セットバック、地積規模の大きな宅地、特殊な土地の評価。これらに誤りがあれば、純資産価額が変わり、ひいては株式評価額も変わってきます。

また、純資産価額の計算では、評価会社が課税時期前3年以内に取得または新築した土地等や家屋等について、通常の取引価額に相当する金額により評価する旨が定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 純資産価額

この点は、調査でとりわけ確認されやすい部分です。

相続開始前に法人が不動産を取得していた。取得価額と相続税評価額に大きな差がある。法人が代表者や親族から不動産を低額で取得していた。法人が親族へ不動産を低額で譲渡していた。法人所有不動産を代表者一族が無償または低額で使っている。固定資産台帳と登記、評価明細が一致していない――。いずれも、注意して見られるポイントです。

不動産評価の誤りは、自社株評価の誤りにとどまりません。同族会社への低額譲渡、受贈益、寄附金、役員給与、みなし贈与といった問題へと波及していきます。

同族会社への低額譲渡は、株主へのみなし贈与につながることがある

同族会社に対する資産移転は、相続税・贈与税の調査で注意を要する論点です。

たとえば、親が同族会社に不動産や株式を時価より著しく低い価額で譲渡した場合、会社側では受贈益、譲渡者側では譲渡所得やみなし譲渡等の問題が生じる可能性があります。さらに、その取引によって同族会社の株式価値が増加すれば、会社の株主である子や親族が経済的利益を受けたものとして、贈与税の問題が生じることもあります。

相続税法基本通達9-2は、同族会社の株式または出資の価額が、会社に対する無償の財産提供、時価より著しく低い価額での現物出資、債務免除、時価より著しく低い価額での財産譲渡などにより増加した場合、その株主等が株式等の価額の増加部分に相当する金額を贈与により取得したものとして取り扱う旨を定めています。
出典:国税庁|第9条《その他の利益の享受》関係

この論点では、「会社が受けた利益」と「株主が受けた利益」を、分けて整理する必要があります。

会社が財産を安く取得した。その結果、会社の純資産が増えた。その会社の株主である親族の株式価値が増えた。では、その増加部分について、誰から誰への利益移転と評価されるのか――。こうした順序で考えていくことになります。

相続税調査では、相続開始前の同族会社取引を単に法人税の問題として見るだけでなく、将来の相続税・贈与税を意識した財産移転ではないか、という視点でも確認されます。

非上場株式の売買時価と相続税評価額は同じとは限らない

非上場株式については、相続税評価の場面と、売買・譲渡の場面とを混同しないことが大切です。

相続税申告における株式評価は、財産評価基本通達に基づき、取得者の株主区分や会社規模等を踏まえて計算します。

一方で、親族間、同族会社間、会社と役員・従業員の間で株式を売買した場合には、所得税、法人税、贈与税の「時価」が問題になります。このとき、財産評価基本通達をそのまま使えば常に安全、というわけではありません。

法人税基本通達では、市場有価証券等以外の株式について、財産評価基本通達の例により算定した価額を、課税上弊害がない限り一定の条件のもとで認める取扱いが定められています。もっとも、中心的な同族株主に該当する場合の小会社としての取扱い、土地や上場有価証券を有する場合の評価時点、評価差額に対する法人税額等相当額の控除制限など、相続税評価とは異なる調整が必要になる場面もあります。
出典:国税庁|法人税基本通達 第3款 有価証券の評価損

同族会社の税務調査では、過去の株式売買、自己株式取得、従業員持株会からの買取り、親族間譲渡、関係会社への譲渡などが確認されることがあります。

その売買価格は、どのように決められたのか。評価書や算定資料はあるのか。買主と売主の立場に応じた時価を検討したのか。会社法上の手続は整っているのか。代金決済は実際に行われたのか。売買後の支配関係はどう変わったのか――。

これらを説明できなければ、低額譲渡、受贈益、寄附金、給与課税、みなし贈与、相続財産の申告漏れといった、複数の税目に波及することになります。

形式的な少数株主でも、実質的な支配関係が問われることがある

非上場株式の評価では、「少数株主だから常に配当還元方式でよい」とは限りません。

たしかに、同族株主以外の株主等が取得した株式については、原則的評価方式ではなく配当還元方式で評価する場面があります。財産評価基本通達188-2は、同族株主以外の株主等が取得した株式について、年配当金額を基に配当還元方式で評価する旨を定めています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 同族株主以外の株主等が取得した株式の評価

しかし調査では、形式的な議決権割合だけでなく、実質的な支配関係や株式の保有経緯が確認されることがあります。

従業員名義ではあるが、実質的には創業家が資金を出している。株主総会には出席せず、議決権行使も代表者に一任している。株式の譲渡制限や買戻し合意により、自由な処分ができない。退職時に額面で会社や代表者へ戻す慣行がある。配当を受けていない、または配当の帰属が曖昧である。株券、契約書、代金決済資料がない――。

こうした場合には、名義株、贈与の成否、実質所有者、株主区分、評価方法の妥当性が争点になってきます。

自社株評価では、株主名簿だけでなく、出資時の資金原資、株式移動の契約書、代金決済、配当の受領、議決権行使、退職時の取扱いまで整理しておく必要があります。

評価明細書は「添付書類」ではなく説明資料の入口である

取引相場のない株式を評価する際には、国税庁の「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」を使用します。国税庁は、この明細書について、相続税または贈与税の申告に際し、取引相場のない株式等の価額を評価するために使用し、申告書に添付するものと説明しています。
出典:国税庁|B2-1 取引相場のない株式(出資)の評価明細書

ただし、評価明細書を添付しているだけでは、調査対応としては不十分です。

調査で求められるのは、評価明細書の各数字が、どの資料から来ているのかを説明できる状態です。

  • 株主判定の根拠
  • 会社規模判定の根拠
  • 業種判定の根拠
  • 類似業種比準価額の計算根拠
  • 純資産価額の資産・負債明細
  • 不動産評価資料
  • 関係会社株式の評価資料
  • 役員貸付金・借入金の明細
  • 過去の株式移動資料
  • 配当、増資、自己株式取得の資料
  • 同族会社間取引の契約書、稟議書、決済資料

評価明細書は、あくまで結論を示す資料です。調査対応では、その結論に至った過程を説明する資料が必要になります。

税務調査で指摘を受けたときは、評価誤りと事実誤認を分ける

非上場株式評価について税務署から指摘を受けた場合、すぐに修正申告をするかどうかを判断する前に、まず指摘の内容を分解してみる必要があります。

主な分類は、次のとおりです。

  • 株主区分の誤り
  • 会社規模判定の誤り
  • 業種判定の誤り
  • 類似業種比準価額の計算誤り
  • 非経常的利益の処理誤り
  • 純資産価額の資産評価誤り
  • 負債計上の誤り
  • 役員貸付金・役員借入金の認定誤り
  • 特定の評価会社判定の誤り
  • 同族会社取引による株価移転の見落とし
  • 相続財産としての株式数や名義株の認定誤り
  • みなし贈与、低額譲渡、受贈益、寄附金の問題

単純な計算ミスであれば、修正申告によって整理できる場合もあります。

一方で、株主区分、実質所有者、同族会社取引、時価、特定の評価会社、総則6項的な問題など、事実認定や法令解釈に争いがある場合には、指摘内容、根拠資料、反論可能性、不服申立ての見通しを検討したうえで判断すべきです。

非上場株式の評価では、法人税、所得税、贈与税、相続税が同時に関係することがあります。ある税目だけを見て修正してしまうと、別の税目で不利な説明を残してしまうことがあるのです。

重加算税リスクは、評価誤りそのものではなく「事実の隠し方」に現れる

非上場株式評価に誤りがあったからといって、直ちに重加算税になるわけではありません。

会社規模の判定を誤った。業種目の選択を誤った。純資産価額で不動産評価に誤りがあった。役員貸付金の回収可能性の判断が甘かった。特定の評価会社の判定を見落とした――。これらは、まず評価判断や資料整理の問題として検討されるものです。

しかし、次のような場合には、重加算税のリスクを意識する必要があります。

  • 株主名簿と異なる実質株主を把握していたのに、説明しない
  • 過去の株式譲渡契約書を、意図的に提出しない
  • 役員貸付金の実態が代表者の私的支出であることを隠す
  • 相続直前の資産移動の目的や資料を隠す
  • 関係会社取引の契約書を後日作成し、当時から存在したように説明する
  • 会社所有不動産の利用実態を、実際と異なる内容で説明する
  • 調査官の質問に対し、確認せず断定的に回答する

評価の争いと、隠蔽・仮装の問題は、分けて考える必要があります。

不利な事実がある場合でも、それを早期に把握し、どの税目にどのような影響があるのかを整理しておくことが重要です。

調査前に整理しておくべき資料

非上場株式評価が調査対象になりそうな場合、少なくとも次の資料は整理しておきたいところです。

  • 相続税申告書、財産評価明細書
  • 取引相場のない株式の評価明細書一式
  • 発行会社の決算書、法人税申告書、勘定科目内訳明細書
  • 総勘定元帳、固定資産台帳
  • 株主名簿、法人税申告書別表二
  • 定款、登記事項証明書、株主総会議事録、取締役会議事録
  • 過去の株式譲渡契約書、贈与契約書、代金決済資料
  • 親族関係図、同族関係会社の資本関係図
  • 不動産の登記事項証明書、公図、固定資産税課税明細書、評価資料
  • 役員貸付金、役員借入金、関係会社貸付金の契約書・入出金資料
  • 配当、増資、自己株式取得、組織再編に関する資料
  • 関係会社取引、同族会社間取引の契約書・稟議書・請求書
  • 相続開始前後の資産移動、株式移動、不動産売買の資料

これらの資料は、税務署に提出するためだけに集めるものではありません。

まずは自分たちが、どこに評価リスクがあるのかを理解するために整理するものです。評価額に不利な資料であっても、早期に把握しておくことで、説明方針、修正申告の要否、争うべき論点、今後の再発防止を、落ち着いて検討できるようになります。

非上場株式評価は、相続後ではなく平時から整えるべき論点である

非上場株式評価の難しさは、相続が発生してから初めて会社の実態を確認しても、もう修正できない事実が多い、という点にあります。

株主名簿が古い。名義株が残っている。役員貸付金が長年放置されている。代表者個人と会社の資金移動が曖昧である。同族会社間取引の契約書がない。不動産の利用実態が資料化されていない。株式譲渡の価格算定資料が残っていない。過去の贈与や売買の経緯を説明できる人がいない――。

これらが相続税調査で初めて問題化すると、対応は一気に難しくなります。

自社株評価は、事業承継、相続対策、M&A、資金調達、株主整理、役員退職金、不動産保有方針とも、深く関係します。税務調査をきっかけに会社の数字と支配関係を整理しておくことは、将来の承継判断を落ち着いて進めるうえでも、大きな意味を持ちます。

まとめ|非上場株式評価は「会社の数字」と「支配関係」の説明責任である

非上場株式の評価は、評価明細書だけで完結するものではありません。

相続税調査では、同族株主の判定、会社規模、類似業種比準価額、純資産価額、特定の評価会社、役員貸付金、会社所有不動産、同族会社取引、過去の株式移動に至るまで、一体として確認されます。

とりわけ同族会社では、法人と個人、会社と株主、親族間、関係会社間の境界が曖昧になりやすく、ひとつの取引が相続税・贈与税・法人税・所得税に波及していきます。

大切なのは、評価額を低くすることではなく、後から説明できる評価にしておくことです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税調査における非上場株式評価の検証、同族株主判定、会社規模判定、類似業種比準価額・純資産価額の再計算、役員貸付金・同族会社取引の整理、修正申告や更正対応の判断、そして将来の事業承継・資本政策の見直しまで、事実と証拠に基づいた対応を支援しています。

自社株評価について税務署から確認を受けている場合や、相続税申告済みの非上場株式評価に不安がある場合は、評価明細書、決算書、株主名簿、法人税申告書、関係会社資料を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。

振り返り|非上場株式評価と同族会社調査の重要ポイント

論点調査で確認されること実務上の確認ポイント
株主区分同族株主か、同族株主以外か株主名簿、親族関係、議決権割合、同族関係会社を確認する
名義株名義上の株主と実質所有者が一致しているか出資原資、株式譲渡契約、代金決済、配当受領を確認する
会社規模大会社・中会社・小会社の判定が正しいか総資産価額、従業員数、取引金額、業種区分を確認する
類似業種比準価額業種、配当、利益、簿価純資産の計算が正しいか最新の業種目別株価等、非経常的利益、配当、自己株式を確認する
純資産価額資産・負債を相続税評価へ適切に洗い替えているか不動産、貸付金、関係会社株式、未払金、評価差額を確認する
役員貸付金会社資産・個人債務として整合しているか契約書、返済条件、入出金、相続財産・債務控除との整合性を確認する
役員借入金会社負債・個人債権として整合しているか勘定科目内訳明細書、通帳、契約書、相続財産計上を確認する
土地保有特定会社不動産保有割合や資産構成の判定が正しいか不動産評価、資産移動の経緯、相続直前の取引を確認する
株式等保有特定会社有価証券保有割合の判定が正しいか保有株式、投資有価証券、関係会社株式の評価を確認する
同族会社取引資産移転により株価が動いていないか低額譲渡、受贈益、寄附金、みなし贈与の可能性を検討する
自己株式・株式譲渡売買価格の算定根拠があるか評価書、契約書、決済資料、会社法手続を確認する
修正申告判断指摘が計算誤りか、事実認定・解釈の争いか税目横断で影響を整理し、安易に結論を出さない
再発防止次の相続・承継で同じ問題が起きないか株主整理、役員貸付金整理、契約書整備、月次管理を進める
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