小規模宅地等の特例と相続税調査|居住・事業・貸付の実態をどう説明するか

相続税の申告で小規模宅地等の特例を適用している場合、税務調査では「その特例を使ったこと」そのものが確認の対象になります。

この特例は、土地の評価額を大きく引き下げる制度です。特定居住用宅地等や特定事業用宅地等であれば、一定面積まで80%の減額が可能です。貸付事業用宅地等の場合でも、一定面積まで50%の減額が認められることがあります。

それだけ相続税額への影響が大きい制度ですから、税務署は申告書の形式的な記載を確認するだけでは終わりません。相続開始直前の利用実態、取得者の要件、申告期限までの保有・居住・事業の継続、遺産分割の状況、そして添付書類の整合性まで、一つひとつを丁寧に見ていきます。

小規模宅地等の特例は、単なる「節税のための規定」ではありません。被相続人やご家族の生活基盤、事業基盤を守るための制度です。だからこそ、その趣旨に合った実態が本当にあったのかどうかが問われます。

この記事では、相続税調査で小規模宅地等の特例が争点になる場面を、居住用、事業用、同族会社事業用、貸付事業用の類型に分けて整理していきます。

目次

小規模宅地等の特例は「土地の評価減」ではなく「実態の証明」が必要な制度

小規模宅地等の特例とは、個人が相続または遺贈によって取得した宅地等のうち、相続開始の直前において、被相続人または被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用または居住の用に供されていた一定の宅地等について、一定面積まで、相続税の課税価格に算入すべき価額を減額する制度です。

対象となる宅地等は、大きく次の4類型に分かれます。

区分主な内容限度面積減額割合
特定居住用宅地等被相続人等の居住用宅地等330㎡80%
特定事業用宅地等被相続人等の貸付事業以外の事業用宅地等400㎡80%
特定同族会社事業用宅地等一定の同族会社の事業用宅地等400㎡80%
貸付事業用宅地等不動産貸付業、駐車場業等の貸付事業用宅地等200㎡50%

特定事業用等宅地等と特定居住用宅地等は、貸付事業用宅地等がない場合、最大で合計730㎡まで選択できることがあります。一方、貸付事業用宅地等を含めて選択する場合には、限度面積の調整計算が必要になります。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例
出典:e-Gov法令検索|租税特別措置法

ここで押さえておきたいのは、評価減を受けられるかどうかは、土地の名義や申告書の記載だけで決まるものではない、ということです。

調査で確認されるのは、おおむね次のような事実です。

  • 相続開始の直前に、その土地が実際に居住・事業・貸付の用に供されていたか
  • その利用実態が、一時的・形式的なものではないか
  • 特例を受ける相続人が、取得者の要件を満たしているか
  • 相続税の申告期限まで、保有・居住・事業継続・貸付継続などの要件を満たしているか
  • 遺産分割、選択同意、添付書類が整っているか
  • 相続の直前に、特例の適用だけを目的とした不自然な変更がないか

つまり小規模宅地等の特例では、「評価額をどう計算するか」よりも前に、「その土地が何のために、誰によって、どのように使われていたのか」を説明できる状態にしておく必要があるのです。

特定居住用宅地等で問われるのは「生活の本拠」だったかどうか

特定居住用宅地等では、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等であること、これが出発点になります。

税務調査で確認される典型的な論点は、次のとおりです。

  • 被相続人が、本当にその家に住んでいたか
  • 老人ホーム等へ入所した後も、従前の自宅としての性質を維持していたか
  • 空き家、別荘、物置、あるいは親族の居住用になっていなかったか
  • 二世帯住宅や区分所有建物の場合、どの部分が被相続人の居住用だったか
  • 取得者が、配偶者・同居親族・いわゆる持ち家のない親族等の要件を満たすか
  • 申告期限まで居住・保有の継続が必要な取得者について、その要件を満たしているか

配偶者が取得する場合には、取得者ごとの居住継続要件はありません。しかし、同居親族が取得するときは、相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住し、かつ宅地等を保有していることが求められます。

被相続人と同居していない親族が取得する場合は、さらに要件が重なります。被相続人に配偶者がいないこと、同居の相続人がいないこと、取得者等が一定期間内に国内の持ち家に居住していないこと、相続開始時に居住している家屋を過去に所有していないこと。これらが幾重にも重なってきます。「別居の子だから適用できる」と単純に考えてしまうと、思わぬところでつまずきかねません。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

調査の場で説明するには、住民票だけでは足りないことがあります。住民票上の住所と実際の生活実態が一致していないケースは、決して珍しくありません。

そこで、あらかじめ確認しておきたい資料を整理すると、次のようになります。

確認事項整理すべき資料
被相続人の居住実態住民票、介護保険関係資料、郵便物、公共料金、医療・介護記録、近隣状況
老人ホーム等への入所入所契約書、要介護・要支援認定資料、入所時期、自宅の管理状況
自宅の維持状況家財の有無、固定資産税資料、電気・水道・ガスの使用状況、写真
同居親族の居住継続住民票、勤務先・学校の状況、公共料金、生活費負担、申告期限までの居住事実
持ち家のない親族の要件過去3年の居住状況、本人・配偶者・三親等内親族・関係法人の所有家屋の確認

とりわけ老人ホーム入所後の自宅については、入所したからといって直ちに適用不可になるわけではありません。一定の要介護認定等を受けて施設に入所していた場合など、要件を満たす限り、従前の居住用宅地等として扱われる余地があります。

ただし、入所後に自宅を賃貸に出した、第三者や親族の新たな居住用にした、実質的に処分を予定していた、といった事情があると、判断は変わってきます。調査では「住んでいたこと」だけでなく、「住めなくなった後、その自宅をどう扱っていたか」までが確認されるのです。

二世帯住宅・親族同居では「建物の構造」と「誰がどこに住んでいたか」が問われる

二世帯住宅では、建物の登記、構造、そして利用の実態が調査で確認されます。

たとえば、被相続人と子が同じ建物に住んでいたとしても、区分所有建物として登記されている場合と、区分所有ではない一棟の建物として登記されている場合とでは、特定居住用宅地等の判定に違いが生じます。

また、同じ敷地内に複数の建物があるときは、母屋、離れ、賃貸部分、事業部分、倉庫部分といったように、それぞれの利用実態を分けて確認していく必要があります。

調査に備えるうえで、次の資料が重要になります。

  • 建物登記事項証明書
  • 固定資産税課税明細書
  • 建物図面、間取り図
  • 玄関、台所、浴室、居住スペースの利用状況
  • 親族ごとの居住部分
  • 公共料金の契約者・支払者
  • 相続開始前後の写真
  • 相続後、申告期限までの居住・保有状況

「同じ住所だった」「同じ敷地にいた」というだけでは、特例の対象範囲を説明しきれません。どの土地のどの部分が、誰の居住用に供されていたのかを、図面と時系列に沿って説明できるようにしておくことが大切です。

特定事業用宅地等では「事業を引き継ぎ、申告期限まで続けたか」が問われる

特定事業用宅地等は、被相続人等の貸付事業以外の事業の用に供されていた宅地等について、一定の要件のもとで80%の減額を認めるものです。

税務調査で確認されるのは、主に次の点です。

  • 相続開始の直前に、実際に事業の用に供されていたか
  • 土地の上に建物または構築物があり、その敷地として使われていたか
  • 事業が一時的・名目的なものではないか
  • 相続人が、相続税の申告期限までに事業を引き継いだか
  • 申告期限まで、その事業を営んでいたか
  • 申告期限まで、その宅地等を保有していたか
  • 相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等に該当しないか

特定事業用宅地等では、被相続人の事業用宅地等について、事業承継要件と保有継続要件が重要になります。被相続人と生計を一にしていた親族の事業用宅地等については、相続開始の直前から申告期限までその宅地等の上で事業を営んでいること、そして申告期限まで保有していることが確認されます。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

ここでいう事業には、通常の商店、工場、事務所、診療所、飲食店、作業場などが含まれます。一方で、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業は特定事業用宅地等から除かれ、貸付事業用宅地等として検討することになります。

事業用として主張する場合には、次のような資料を整理しておきます。

確認事項整理すべき資料
事業の実在性所得税申告書、青色決算書、売上台帳、請求書、領収書、許認可資料
事業場所店舗・事務所写真、看板、固定資産税資料、建物図面、賃貸借契約
相続開始直前の利用直前期の売上、顧客対応記録、在庫、従業員資料、設備の使用状況
事業承継開業・廃業届、名義変更資料、取引先通知、口座変更、許認可承継資料
申告期限までの継続申告期限までの売上、請求書、入出金、帳簿、事業継続を示す写真

調査では、相続開始の直前に看板だけ出した、倉庫に一時的に荷物を置いた、実際には事業をしていないのに事業用とした、といった形式的な利用が問題になります。

事業用宅地等は、事業の継続を支えるための特例です。ですから、事業の中身、事業上の必要性、そして相続後の承継の状況をきちんと説明できるかどうかが、何より重要になります。

特定同族会社事業用宅地等では、法人の実態と役員要件が問われる

被相続人の一族が経営する会社に土地を貸している場合、特定同族会社事業用宅地等の適用が問題になることがあります。

この類型では、相続開始の直前から相続税の申告期限まで、一定の法人の事業の用に供されていた宅地等であることが必要です。さらに、その宅地等を取得した親族が、相続税の申告期限においてその法人の役員であり、かつ申告期限まで宅地等を保有していることも求められます。

ここでいう一定の法人とは、相続開始の直前において、被相続人および被相続人の親族等が、法人の発行済株式総数または出資総額の50%超を有している場合の、その法人をいいます。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

調査で確認される資料は、相続税申告書だけにとどまりません。

  • 法人税申告書
  • 法人税申告書別表二
  • 株主名簿
  • 登記事項証明書
  • 役員変更登記
  • 賃貸借契約書
  • 地代の入金状況
  • 法人の決算書・総勘定元帳
  • その土地上の建物の利用状況
  • 会社の事業実態
  • 会社が貸付事業を営んでいないことの確認資料

特定同族会社事業用宅地等で気をつけたいのは、「会社に貸している土地だから80%減額」と単純には言えない、という点です。

会社がその土地を本業の店舗、工場、事務所などに使っているのか。会社の事業が不動産貸付業等ではないか。取得者は申告期限において役員であるか。株式保有割合の判定に誤りはないか。地代が形式的なものではなく、法人と個人の取引として説明できるか。法人の事業実態と賃貸借関係が整合しているか。

こうした点を説明できないと、法人税・所得税・相続税が交差する難しい論点へと発展してしまいます。

貸付事業用宅地等では「相当の対価」と「継続性」が争点になる

貸付事業用宅地等は、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業に使われていた宅地等について、一定の要件のもとで50%の減額を認める制度です。

ただし、この類型は調査で争点になりやすいものです。相続の直前に賃貸物件化する、親族に形式的に貸す、駐車場として一時的に利用する、といった、特例の適用を意識した処理が行われやすいためです。

国税庁は、貸付事業には事業的規模でない不動産貸付け等の準事業も含まれると説明しています。もっとも、それは相当の対価を得て継続的に行うものに限られ、使用貸借により貸し付けられている宅地等は対象にならないとされています。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(Q&A)

とりわけ注意したいのは、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等です。一定の例外を除き、3年以内貸付宅地等は貸付事業用宅地等の対象から除かれます。相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等について、その特定貸付事業の用に供された宅地等には例外が認められます。ただし、事業的規模でない準事業では、この例外が使えない点に注意が必要です。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

調査で確認される資料は、次のとおりです。

確認事項整理すべき資料
賃貸借の実在性賃貸借契約書、更新契約、管理委託契約、入居者募集資料
相当の対価家賃・地代の入金記録、周辺相場、親族貸付の場合の金額根拠
継続性過去の賃貸実績、空室期間、募集状況、管理会社とのやり取り
3年以内貸付宅地等貸付開始日、取得・新築日、賃貸開始資料、既存貸付事業の規模
駐車場利用舗装、フェンス、区画線、精算機、管理契約、利用者契約、入金資料
申告期限までの継続相続後の賃貸継続資料、入金記録、保有状況

親族に無償または著しく低額で貸している場合は、形式上は契約書があっても、相当の対価を得て継続的に行う貸付事業といえるかどうかが問われます。

また、青空駐車場については、そもそも小規模宅地等の特例の対象となる「建物または構築物の敷地」に該当するかどうかが確認されます。舗装、車止め、フェンス、精算機などの構築物がなく、単に更地を駐車スペースとして使っていただけであれば、説明はどうしても弱くなってしまいます。

生前贈与で取得した宅地等には、原則として特例は使えない

相続対策として、将来この特例を使いたい土地を生前のうちに贈与しているケースを見かけます。しかし、小規模宅地等の特例は、相続または遺贈によって取得した一定の宅地等を対象とする制度です。

国税庁の措置法通達では、被相続人から贈与により取得した宅地等は特例対象宅地等に含まれないとされています。相続開始前7年以内の加算対象贈与財産や、相続時精算課税の適用を受ける財産についても、小規模宅地等の特例の適用はないとされています。
出典:国税庁|措置法第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》関係

この点は、生前対策のなかで見落とされやすい論点です。

相続時精算課税で自宅敷地を贈与した。暦年贈与で賃貸不動産の敷地持分を移した。事業用土地を後継者へ贈与した。将来の相続税計算で加算される財産だから、相続財産と同じように特例が使えると思っていた。

こうした理解は危険です。

相続税調査では、生前贈与、名義変更、相続時精算課税、贈与税申告、登記、資金移動が確認されます。小規模宅地等の特例を前提に承継を設計するのであれば、「相続で取得するのか」「贈与で取得するのか」によって結論が変わることを、あらかじめ整理しておく必要があります。

未分割の場合、特例は原則として使えない申告になる

小規模宅地等の特例は、原則として、相続税の申告期限までに分割されている宅地等について、適用を選択する相続人等の同意を前提に適用します。

相続財産が未分割であっても、相続税の申告期限が延びるわけではありません。国税庁は、未分割の場合でも期限内に申告・納税が必要であり、その場合、小規模宅地等の特例などは適用できない申告になると説明しています。その後、申告期限から原則3年以内に分割があったときは、一定の手続によって特例を適用できる場合があります。
出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

調査で問題になるのは、次のような場面です。

  • 申告期限までに分割が確定していないのに、特例を適用している
  • 遺産分割協議書の内容と、申告内容が一致していない
  • 特例対象宅地等の選択について、相続人全員の同意が確認できない
  • 申告期限後に分割されたが、必要な手続や期限を確認していない
  • 一部が未分割のまま、特例対象部分の取得者が曖昧になっている

小規模宅地等の特例は、相続人間の遺産分割と密接に結びついています。税額だけを見て特例対象地を決めるのではなく、誰がその土地を取得し、居住・事業・貸付の要件を満たせるのかを、遺産分割の段階から検討しておくことが大切です。

税務調査で否認されやすい典型場面

小規模宅地等の特例で調査の指摘を受けやすいのは、次のような場面です。

1. 住民票と生活実態が一致していない

住民票は自宅にあるが、実際には別の場所で生活していた。施設入所後、自宅は親族が使っていた。被相続人の生活の本拠が、申告した自宅ではなく別宅だった。

このような場合には、郵便物、医療・介護記録、公共料金、家財、近隣事情、滞在頻度などを総合して説明する必要があります。

2. 同居親族の申告期限までの居住継続が弱い

相続後すぐに転居した。申告期限の前に売却した。一時的に住民票を移しただけだった。生活の実態は別の住宅にあった。

同居親族が取得する場合には、居住継続と保有継続が重要です。単に相続開始日に同じ家にいたというだけでは足りません。

3. 貸付の開始が相続直前である

相続の直前に空き家を賃貸に出した。相続の直前に親族と賃貸借契約を作った。相続の直前に駐車場として看板を出した。貸付の実績や入金記録が乏しい。

こうした場合には、貸付事業用宅地等の3年以内貸付宅地等の制限や、相当の対価・継続性の要件が確認されます。

4. 事業承継が形式的である

相続人が事業を引き継いだことになっているが、実際には廃業している。取引先、売上、帳簿、許認可の引継ぎが確認できない。相続後、申告期限までに事業の実態がない。

特定事業用宅地等では、相続開始直前の事業実態と、申告期限までの事業継続が確認されます。

5. 同族会社の事業実態が弱い

会社に貸している土地だが、会社が事業に使っていない。会社が不動産貸付業を営んでいる。取得者が申告期限に役員ではない。株式保有割合の判定資料が不十分である。

特定同族会社事業用宅地等では、法人側の資料も調査の対象になります。相続税申告だけでなく、法人税申告書、会社の実態、役員登記、株主関係まで整えておく必要があります。

6. 添付書類や選択同意が不十分である

小規模宅地等の特例を適用するには、相続税申告書に特例を受けようとする旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなど、一定の書類を添付する必要があります。また、特例の対象となり得る宅地等を取得した相続人等が2人以上いる場合には、特例を適用する宅地等の選択について、その全員が同意していることが必要です。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

調査では、計算の正誤だけでなく、こうした手続面の整合性も見られます。

貸付用不動産は、評価額の前提にも注意が必要

小規模宅地等の特例は、一定の宅地等について評価減を行う制度ですが、その前提となる土地・建物の評価額そのものも重要です。

とりわけ貸付用不動産については、財産評価の適正化が近年の重要な論点になっています。財務省が公表した令和8年度税制改正の大綱では、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離を踏まえ、一定の貸付用不動産について、令和9年1月1日以後に相続等により取得する財産の評価を見直す内容が示されています。
出典:財務省|令和8年度税制改正の大綱(2/9)

この見直しは、小規模宅地等の特例の適用要件そのものとは、別の問題です。

しかし、貸付事業用宅地等では、まず財産評価の前提となる土地・建物の評価があり、そのうえで小規模宅地等の特例を適用するかどうかを判断します。ですから、貸付用不動産を相続税対策として取得・建築している場合には、評価額の根拠、貸付実態、取得時期、資金調達、賃貸開始時期を、一体で整理しておく必要があります。

調査対応では、まず「事実」「要件」「証拠」を分ける

小規模宅地等の特例について税務署から指摘を受けたとき、すぐに「適用できる」「適用できない」と結論を急ぐべきではありません。

まずは、次の3つに分けて整理します。

整理区分内容
事実誰が、いつ、どこに住み、どの土地を何に使っていたか
要件居住用、事業用、同族会社事業用、貸付事業用のどの要件が問題か
証拠申告書、契約書、住民票、登記、帳簿、写真、入金記録、介護資料など

たとえば、税務署から「この土地は貸付事業用宅地等に該当しないのではないか」と指摘されたとしても、争点は複数に分かれます。

  • 貸付開始時期の問題なのか
  • 相当の対価の問題なのか
  • 継続性の問題なのか
  • 構築物の敷地といえるかの問題なのか
  • 親族への使用貸借の問題なのか
  • 申告期限までの継続の問題なのか

争点を分けずに「契約書があります」「家賃をもらっています」とだけ説明しても、調査官の疑問に正面から答えることはできません。

修正申告に応じる前に確認すべきこと

小規模宅地等の特例が否認されると、相続税額が大きく増えることがあります。本税だけでなく、過少申告加算税、延滞税、場合によっては重加算税のリスクまで、検討の対象になります。

もっとも、特例の適用に誤りがあったからといって、直ちに重加算税になるわけではありません。

単なる要件確認の不足、法令解釈の誤り、資料整理の不十分さと、事実を隠したり仮装したりした場合とは、はっきり区別して考える必要があります。

特に注意すべきなのは、次のような行為です。

  • 実際には住んでいないのに、住んでいたと説明する
  • 相続後に作成した契約書を、相続前から存在していたように説明する
  • 親族間の無償使用を、有償賃貸であるかのように説明する
  • 事業を廃止しているのに、継続しているように資料を整える
  • 申告期限の前に売却・転居している事実を説明しない
  • 税務署からの質問に対し、確認せずに断定的に回答する

調査対応で最も避けるべきなのは、不利な事実を隠してしまうことです。

不利な事実があるとしても、それが特例の全体に影響するのか、一部の面積だけの問題なのか、他の類型で適用できる余地があるのか、修正申告で整理すべきか、更正を待って争うべきか。これらを順序立てて検討していきます。

相談前に整理しておくべき資料

小規模宅地等の特例について専門家に相談する場合、次の資料を整理しておくと、判断の精度が上がります。

  • 相続税申告書一式
  • 小規模宅地等の特例の計算明細書
  • 遺産分割協議書、遺言書
  • 不動産の登記事項証明書
  • 固定資産税課税明細書
  • 路線価図、評価明細
  • 建物図面、間取り図、写真
  • 住民票、戸籍、相続関係説明図
  • 被相続人の居住実態を示す資料
  • 老人ホーム等の入所契約書、介護認定資料
  • 事業所得、不動産所得の申告書・決算書
  • 賃貸借契約書、家賃・地代の入金記録
  • 法人に貸している場合の法人税申告書、株主名簿、役員登記
  • 相続開始前後の売却、転居、廃業、賃貸開始に関する資料
  • 税務署からの質問事項、指摘内容、提出済み資料

大切なのは、申告書だけでなく、相続開始前後の時系列を作っておくことです。

いつまで住んでいたのか。いつ施設に入ったのか。いつ賃貸を始めたのか。いつ相続人が事業を引き継いだのか。いつ売却や転居をしたのか。そして申告期限の時点で、保有・居住・事業・貸付の要件を満たしていたのか。

時系列を作ると、どこが強く、どこが弱いのかが、自然と見えてきます。

まとめ|小規模宅地等の特例は「使えるか」ではなく「説明できるか」で準備する

小規模宅地等の特例は、相続税額への影響が大きい制度です。だからこそ税務調査では、適用した宅地等について、利用実態、取得者要件、継続要件、申告手続、添付書類、相続人間の同意まで、丁寧に確認されます。

特例の適用を受けるために大切なのは、制度名を知っていることではありません。

被相続人の生活実態を説明できるか。相続人の居住継続を説明できるか。事業の実在性と承継を説明できるか。貸付の相当対価と継続性を説明できるか。法人に貸している土地について、会社の事業実態と役員要件を説明できるか。未分割、贈与、相続時精算課税、相続直前の変更について、制度上の制限を踏まえて判断しているか。

税務調査は、特例を「使ったこと」の正しさだけを問う場ではありません。その土地が家族や事業にとってどのような意味を持っていたのかを、資料と事実で説明する場でもあるのです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、小規模宅地等の特例を適用した相続税申告について、税務調査前の資料整理、税務署からの指摘内容の検討、居住・事業・貸付実態の整理、修正申告の要否判断、そして不服申立てを見据えた争点整理まで支援しています。

小規模宅地等の特例について税務署から確認を受けている場合や、申告済みの特例適用に不安がある場合は、申告書、評価明細、遺産分割協議書、不動産資料、居住・事業・貸付の証拠資料を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。

振り返り|小規模宅地等の特例と相続税調査の重要ポイント

論点調査で確認されること実務上の対応
制度の基本どの類型で特例を適用したか居住用、事業用、同族会社事業用、貸付事業用を明確に分ける
特定居住用宅地等被相続人等の生活の本拠だったか住民票だけでなく、生活実態を示す資料を整理する
老人ホーム入所入所後も従前自宅として扱えるか介護認定、入所契約、自宅の維持状況を確認する
同居親族申告期限まで居住・保有しているか転居、売却、生活実態の有無を確認する
持ち家のない親族複数の取得者要件を満たすか過去3年の居住状況、所有家屋、関係法人を確認する
二世帯住宅建物構造と居住部分が一致しているか登記、間取り図、利用状況を整理する
特定事業用宅地等事業の実在性と承継・継続があるか売上、帳簿、許認可、事業承継資料を確認する
特定同族会社事業用宅地等法人の事業用、役員要件、50%超保有を満たすか法人税申告書、株主名簿、役員登記、賃貸契約を確認する
貸付事業用宅地等相当の対価と継続性があるか賃貸借契約、入金記録、管理資料、募集資料を整理する
3年以内貸付宅地等相続直前の貸付開始ではないか貸付開始時期、事業規模、既存貸付事業との関係を確認する
未分割申告期限までに分割されているか遺産分割協議書、選択同意、期限後手続を確認する
生前贈与贈与取得財産に特例を適用していないか暦年贈与、相続時精算課税、登記移転の経緯を確認する
修正申告判断指摘が事実問題か、要件解釈か争点を分解し、証拠関係を確認してから判断する
重加算税リスク事実の隠蔽・仮装がないか後付け契約書、不実説明、資料隠しを避ける
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