指摘事項への改善対応と再発防止|レビュー指摘を次年度監査品質へつなげる実務判断

監査調書レビュー、審査、品質管理レビュー、あるいは金融庁・公認会計士・監査審査会の検査で指摘事項が出たとき、現場ではまず「どの調書を直すか」「どのコメントを消すか」に意識が向きがちです。

しかし、監査品質という観点から見れば、指摘事項は単なる修正依頼ではありません。監査計画、リスク評価、監査証拠、内部統制評価、会計上の見積り、不正リスク、KAM、審査、監査役等とのコミュニケーション、監査調書化。そのどこかに判断の断絶があったことを示すサインです。

したがって、指摘事項への改善対応は、個別調書の補正では終わりません。本来は、次の問いに答えるプロセスでなければならないはずです。

  • なぜ、この指摘が生じたのか
  • 当年度の監査意見に影響する未解決事項はないか
  • 同じ弱点は、他の勘定科目、他の見積り、他の内部統制、他の関与先にも存在しないか
  • 次年度監査計画、チーム編成、審査、研修、レビュー手続、モニタリングにどう反映するか
  • 会社、監査役等、審査担当者、外部レビュー担当者に、改善の実効性をどう説明できるか

本稿では、指摘事項への改善対応と再発防止を、単発のレビュー対応ではなく、監査品質を継続的に高めていく判断プロセスとして整理します。

目次

指摘事項は「ミス」ではなく、監査プロセスの弱点である

指摘事項には、軽重があります。

表現の不備、参照漏れ、証憑添付漏れのように、比較的容易に補正できるものもあります。一方で、リスク評価の不足、監査証拠の不十分性、会計上の見積りに対する懐疑心の不足、内部統制不備の評価漏れ、KAM判断との不整合、審査への上程遅れといった論点は、個別調書の修正だけでは解消しません。

監査調書は、監査報告書の裏付けとなるだけの文書ではありません。監査業務の計画・実施・レビューに役立ち、第三者レビューや品質評価の基礎にもなります。だからこそ、調書上の不備は「書き方」の問題ではなく、監査判断の再現可能性の問題として捉える必要があります。

品質管理レビュー制度は、監査業務の公共性に鑑み、監査業務の適切な質的水準の維持・向上を図り、監査に対する社会的信頼を維持・確保することを目的として実施されています。
出典:日本公認会計士協会|品質管理レビュー制度

つまり、レビュー指摘は、調書の体裁を整えるために存在するものではありません。監査意見の基礎となる判断が、外部から検証可能な水準に達しているかを確認するためのものです。

改善対応には、三つの層がある

指摘事項への対応は、少なくとも三つの層に分けて考える必要があります。

第一に、当該監査業務への対応

当年度の監査意見、内部統制監査報告、KAM、監査役等報告、開示、未修正虚偽表示の評価に影響する事項であれば、監査報告書日までに監査証拠を補強し、結論を明確にしなければなりません。

第二に、同種論点への水平展開

例えば、減損調書で将来キャッシュ・フローの検討不足が指摘されたとします。同じ問題は、税効果、引当金、棚卸資産評価、金融商品の時価、継続企業の前提にも潜んでいるかもしれません。売上のカットオフ手続で証拠不足があったのなら、仕入、在庫、外注費、未払費用など、期間帰属リスクを伴う領域にも展開して確認する必要があります。

第三に、品質管理上の再発防止

担当者教育、レビュー手続、審査上程基準、専門的見解の相談、監査計画の更新、人的資源の配置、監査ツール、チェックリスト、モニタリング。ここに反映しなければ、翌年も同じ指摘が形を変えて再発します。

登録上場会社等監査人については、品質管理システムを整備すれば足りるのではなく、実態を伴う運用が求められます。不備を防止し、不備が発見された場合には自ら改善する、自律的なPDCAサイクルの確立が重要とされています。
出典:日本公認会計士協会|品質管理レビュー基本方針(2026年度~2028年度)及び2026年度品質管理レビュー方針の公表

このPDCAサイクルを個別の監査業務に引き寄せてみると、指摘事項対応の位置づけがはっきりします。Planである監査計画、Doである監査手続、Checkであるレビュー・審査・外部検証、Actである改善計画と次年度反映。これらをつなぐ実務そのものが、指摘事項対応なのです。

「調書を直す」と「原因を直す」は違う

レビューコメントへの対応で最も危ういのは、指摘事項を「コメント消込作業」として処理してしまうことです。

例えば、レビューで「会社作成資料の正確性・網羅性の検討が不足している」と指摘されたとします。このとき、単に「会社作成資料と総勘定元帳を照合した」と追記するだけでは、改善として不十分なことがあります。

本当に確認すべきなのは、次の点です。

  • なぜ当初の監査手続設計で、会社作成資料の信頼性を検討する必要性が明示されていなかったのか
  • 担当者は、その資料を監査証拠として利用する前提を理解していたのか
  • マネージャーや監査責任者のレビューで、なぜ検出されなかったのか
  • 他の調書でも、同じ資料依拠の問題がないか
  • 次年度の監査計画や作業プログラムに、会社作成資料の検証手続をどう組み込むか
  • チーム内研修で、会社作成資料の利用と監査証拠の信頼性をどう扱うか

近年の検査でも、根本原因究明の重要性を踏まえ、根本原因の究明および根本原因の事例が充実されています。
出典:公認会計士・監査審査会|監査事務所検査結果事例集(令和7事務年度版)の公表について

根本原因を見ない改善対応は、翌年の指摘事項を先送りしているだけです。調書の文言を直すのではなく、監査判断が弱くなった構造そのものを直す必要があります。

原因分析は、担当者個人の問題に閉じてはいけない

指摘事項が出たとき、原因を「担当者の理解不足」「作業漏れ」「レビュー不足」として処理してしまうことがあります。もちろん、個人の知識や注意不足が原因の一部であることはあるでしょう。

しかし、監査品質の観点からは、それだけでは足りません。原因分析では、少なくとも次の階層で整理する必要があります。

原因の階層確認すべき問い
個別作業手続が実施されなかったのか、実施したが証拠化されなかったのか
判断理解担当者がリスク、アサーション、監査証拠の関係を理解していたか
レビュー上位者レビューが、形式確認ではなく判断内容まで踏み込んでいたか
監査計画そもそも監査計画段階でリスク評価と手続設計が適切だったか
審査重要論点が審査担当者に適時に上がっていたか
人的資源経験、専門性、時間、繁忙度に照らしてチーム編成が妥当だったか
会社側体制会社の決算体制、内部統制、資料作成能力に起因する問題がなかったか
品質管理研修、テンプレート、監査ツール、モニタリングに共通の弱点がないか

例えば、会計上の見積りの調書で指摘が出たとします。それは、担当者が見積りを理解していなかったというだけの話ではないかもしれません。

会社の事業計画提出が遅く、期末に十分な検討時間がなかった。専門家の利用判断が遅れた。審査上程が期末直前だった。監査法人内の見積り監査研修が抽象論にとどまり、実際の調書作成に結びついていなかった。こうした原因が複合していることは、決して珍しくありません。

企業会計審議会の改訂品質管理基準は、監査事務所が品質目標を設定し、その達成を阻害し得るリスクを識別・評価したうえで、評価したリスクに対処する方針または手続を定めて実施する、というリスク・アプローチに基づく品質管理システムを導入しています。
出典:金融庁|監査に関する品質管理基準の改訂に係る意見書

この考え方を踏まえるなら、原因分析とは「誰がミスをしたか」を突き止める作業ではありません。「どの品質リスクへの対応が弱かったか」を明らかにする作業です。

改善計画は、抽象的な反省文ではなく、検証可能な計画である

改善計画に「今後は十分注意する」「レビューを徹底する」「研修を実施する」と書くだけでは、再発防止として弱いといえます。

改善計画には、少なくとも次の要素を含めるべきです。

改善計画の要素実務上の記載・管理ポイント
指摘事項何が指摘されたのかを、調書番号や論点単位で明確にする
影響評価監査意見、内部統制監査報告、KAM、開示、未修正虚偽表示への影響を評価する
根本原因個人、レビュー、計画、審査、会社側体制、品質管理のどこに原因があるかを整理する
是正措置当該監査業務で不足している証拠や判断をどう補強するか
再発防止策次年度以降、どの手続・体制・教育・審査に反映するか
責任者改善措置ごとに実施責任者とレビュー責任者を分ける
期限監査報告書日前、次年度計画前、期中監査前、期末監査前など、期限を具体化する
完了証拠研修資料、改訂後の作業プログラム、レビュー記録、審査資料、改善済調書を残す
有効性評価改善策が実際に機能したかを次年度監査で検証する

改善計画で重要なのは、「実施したこと」ではなく「効いたこと」です。

研修を実施しただけでは、改善完了とはいえません。研修後の調書レビューで、同種の不備が減っているか。審査で同じコメントが出ていないか。会社資料の提出遅延が改善しているか。内部統制不備の評価が財務諸表監査に反映されているか。

こうした有効性の評価まで含めて、はじめて改善対応と呼ぶべきでしょう。

内部監査の実務でも、発見事項から改善案を策定し、結果の伝達と進捗状況のモニタリングにつなげる流れが重視されます。監査法人のレビュー指摘対応においても、指摘、改善案、実行、モニタリングを分断しないことが重要です。

次年度監査計画への反映がなければ、再発防止とはいえない

指摘事項への改善対応で最も重要なのは、次年度監査計画への反映です。

当年度の調書を補正しても、次年度の監査計画が前期踏襲であれば、再発防止は機能していません。次年度監査計画に反映すべき事項は、次のように整理できます。

指摘事項の性質次年度監査計画への反映
リスク評価不足事業理解、内部統制理解、分析的手続、リスク評価調書を更新する
証拠不足手続の種類・時期・範囲、会社作成資料の検証、外部証拠の入手方針を見直す
見積り監査の弱さ主要な仮定、感応度、事後的検討、専門家利用、経営者バイアス評価を計画に組み込む
内部統制不備の評価漏れJ-SOX評価結果と財務諸表監査の手続設計を接続する
不正リスク対応不足仕訳テスト、非定型取引、関連当事者、収益認識、経営者関与リスクを再設計する
KAM判断の不整合KAM候補、注記、監査役等コミュニケーション、審査時期を早期化する
レビュー遅延期中レビュー、期末前レビュー、審査前レビューのチェックポイントを設定する
会社資料遅延会社との資料依頼、課題管理、決算スケジュール協議を期首から行う

監査計画、重要な虚偽表示リスクの識別と評価、評価したリスクに対応する監査人の手続、監査証拠、会計上の見積りの監査、KAM、監査報告。監査プロセスを構成する各監査基準報告書は、体系的に公表されています。
出典:日本公認会計士協会|監査実務指針等

もっとも、指摘事項を次年度監査計画に反映するとは、これらの監査基準報告書を個別に読み直すことではありません。指摘事項が、監査計画、リスク評価、リスク対応、証拠評価、意見形成のどこに関係するのかを特定し、次年度の監査アプローチそのものを変えることです。

会計上の見積りに関する指摘は、再発しやすい

指摘事項の中でも、会計上の見積りに関するものは再発しやすい領域です。

減損、繰延税金資産、貸倒引当金、棚卸資産評価、金融商品の時価、引当金、退職給付、継続企業の前提。これらは毎年、事実関係と仮定が変わります。前期の改善対応をそのままコピーしても、翌期の監査品質は確保できません。

会計上の見積りは、現時点で正確に測定できない金額を、将来事象や不足する情報を前提に概算する領域です。そこには、経営者の偏向可能性や見積りの不確実性が含まれます。

また、見積額と実績が乖離した場合に重要なのは、乖離そのものではなく、乖離が生じた原因です。見積時点で当然考慮すべき情報を考慮していなかった場合や、楽観的な見積りに起因する場合には、誤謬や内部統制改善の検討につながります。

企業会計基準第31号は、会計上の見積りを、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出するものと定義しています。そのうえで、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目について、財務諸表利用者の理解に資する情報の開示を求めています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第31号 会計上の見積りの開示に関する会計基準

見積り監査に関する改善対応では、単に見積り資料を増やすのではなく、次の点を計画に組み込むべきです。

  • 過年度見積りと実績の乖離分析を、期首または期中に実施する
  • 主要な仮定について、内部情報だけでなく外部情報との整合を確認する
  • 会社の事業計画について、達成可能性、過去の予算精度、経営者バイアスを評価する
  • 感応度分析を、審査担当者や監査役等に説明できる粒度で整理する
  • KAM候補や見積り注記との整合を、期末直前ではなく早期に確認する

見積りの指摘事項は、翌年に同じ調書を厚くするだけでは再発防止になりません。見積りの不確実性を、監査計画、審査、開示、KAM、監査役等コミュニケーションへ、早期から接続していく必要があります。

内部統制不備への改善対応は、会社任せにしない

内部統制に関する指摘事項は、監査法人だけで完結しません。

例えば、決算・財務報告プロセスのレビュー統制が弱い。IT全般統制に不備がある。販売プロセスの承認証跡が不足している。会社作成資料の正確性・網羅性を担保する統制がない。こうした指摘は、いずれも会社側の改善を伴います。

ただし、監査人は会社の内部統制を自ら設計・運用する立場ではありません。独立性を損なわない範囲で、不備の内容、財務報告への影響、改善に必要な方向性、改善期限、改善状況の確認方法を、会社および監査役等と共有する必要があります。

金融庁は、2023年4月に財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準ならびに実施基準の改訂についての意見書を公表しています。この改訂では、内部統制の実効性、評価範囲、不正リスク、ITへの対応など、財務報告の信頼性を支える内部統制のあり方が改めて整理されました。
出典:金融庁|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について

内部統制不備の改善対応では、次の二つを区別する必要があります。

会社の内部統制改善

これは会社の責任であり、経営者、取締役会、監査役等、内部監査、経理・開示部門、IT部門が関与します。

監査人の監査対応改善

内部統制不備を識別した結果、統制リスクをどう評価し、実証手続の種類・時期・範囲をどう変更し、内部統制監査報告や財務諸表監査にどう反映したか。これを監査調書上で明確にする必要があります。

会社の改善が完了していないのに、監査人側のリスク対応を変えないことはできません。内部統制不備があるのなら、その不備が財務諸表監査のリスク評価と手続設計にどう影響したかを、説明できる状態にしておく必要があります。

課題管理表は、形式的な一覧表ではなく、改善の証跡である

指摘事項の改善対応では、課題管理表が重要な役割を果たします。

ただし、課題管理表は単なるToDoリストではありません。指摘事項の発生、原因、対応方針、責任者、期限、改善状況、完了証拠、残余リスク、監査上の影響を一元管理するための文書です。

IPO準備監査の実務では、課題管理表を通じて課題の進捗を確認し、期限を設定して対応状況をフォローすることが重視されます。例えば、期中レビュー・トライアルで新たな指摘事項が検出された場合、課題管理表に追記し、期末までの期限を設定して改善状況を確認していく、という考え方です。

法定監査でも、これは同じです。指摘事項が口頭やメールで散在している状態では、改善対応の全体像を把握できません。とりわけ複数の関係者が関わる場合、課題管理表は次のような役割を持ちます。

  • 監査チーム内で、未解決論点を共有する
  • 監査責任者が、監査意見形成への影響を把握する
  • 審査担当者が、重要論点の収束状況を確認する
  • 会社が、改善すべき事項と期限を理解する
  • 監査役等が、財務報告上の重要課題を把握する
  • 次年度監査チームが、過年度指摘事項を監査計画に反映する

課題管理表に記載すべきなのは、「対応済」という一語ではありません。対応内容、入手証拠、レビュー結果、残されたリスク、そして次年度への引継ぎ事項です。

研修は、一般論ではなく、実際の指摘事項から設計する

再発防止策として研修を実施することは有効です。ただし、研修が一般的な基準解説で終わってしまうと、現場の改善には結びつきにくくなります。

例えば、見積り監査の指摘が出たのであれば、「会計上の見積りとは何か」を講義するだけでは不十分です。実際に指摘された調書を題材として、どのリスク評価が弱かったのか、どの証拠が不足していたのか、会社説明をどう批判的に評価すべきだったのか、レビュー担当者はどこで気付くべきだったのか。そこまで検討する必要があります。

研修の目的は、知識を増やすことだけではありません。監査判断の癖を変えることです。

そのため、研修は次のように設計する方が、実務に効きます。

指摘領域研修で扱うべき内容
リスク評価事業理解からアサーション別リスクへ落とす演習
監査証拠質問、閲覧、確認、再計算、分析的手続の証拠力の違い
見積り監査仮定、データ、方法、感応度、事後的検討、経営者バイアス
不正リスク仕訳テスト、収益認識、非定型取引、関連当事者への対応
内部統制不備評価、補完統制、実証手続への反映
KAMKAM候補、注記、監査役等コミュニケーション、監査報告書の整合
調書化リスク、手続、証拠、判断、結論の一貫性

教育は、監査品質管理の形式要件ではありません。現場判断を変えるための投資です。研修後には、実際の調書レビューで同じ弱点が解消されているかを、必ず確認しなければなりません。

レビュー手続は、期末一括ではなく、重要論点ごとに前倒しする

指摘事項が再発する監査チームには、レビューのタイミングが遅いという共通点があります。

  • 期末監査後半に、初めて重要見積りの調書をレビューする
  • 審査直前になって、KAM候補の整理を始める
  • 内部統制不備の財務諸表監査への影響を、意見形成時に初めて検討する
  • 開示チェックで、注記不足が期末直前に判明する

このような運用では、レビューコメントは改善機会ではなく、時間的制約の中での消込作業になってしまいます。

再発防止として有効なのは、重要論点ごとにレビュー時点を前倒しすることです。

  • 期首または計画段階で、過年度指摘事項と当年度リスク評価の関係をレビューする
  • 期中で、内部統制不備、会社資料の提出状況、会計方針変更、見積り前提の変化をレビューする
  • 期末前に、重要見積り、KAM候補、開示注記、監査役等報告事項をレビューする
  • 意見形成前に、未修正虚偽表示、内部統制不備、監査証拠、審査コメントの解決状況をレビューする

レビューとは、監査調書が完成した後に誤字や参照を確認する作業ではありません。監査判断が誤った方向に進む前に、軌道修正するための品質管理手続です。

モニタリングでは「改善済み」の意味を厳しく定義する

改善対応で最も曖昧になりやすいのが、「改善済み」の判定です。

例えば、会社が内部統制を変更した。監査チームがチェックリストを改訂した。担当者研修を実施した。レビューコメントを消し込んだ。

これらはいずれも改善活動ではあります。しかし、それだけで改善完了とは限りません。

改善完了といえるためには、少なくとも次の点を確認する必要があります。

  • 改善策が実際に運用されたか
  • 改善策が対象リスクを低減しているか
  • 改善後の統制や手続について、証拠が残っているか
  • 同種の指摘が再発していないか
  • 再発した場合、その原因が前回と同じか、別の要因か
  • 次年度監査計画、審査、研修、レビューに反映されたか

2025年度品質管理レビュー事例解説集は、監査事務所または監査業務で発見された改善勧告事項等を編纂したものであり、監査品質向上の実務に資するよう、改善勧告事項が項目別に取り上げられています。
出典:日本公認会計士協会|自主規制レポート

モニタリングは、改善計画の実施状況を追うだけでは不十分です。改善策が監査品質に効いているかまで検証する必要があります。そして、改善策が機能していないのであれば、計画そのものを修正しなければなりません。

監査役等・内部監査との連携も再発防止の一部である

指摘事項の中には、監査チームだけでは再発を防げないものがあります。

決算資料の遅延、開示資料の誤り、承認統制の形骸化、内部監査のフォロー不足、IT統制不備、経営者による内部統制の無効化リスク。これらは、会社のガバナンスと深く関係しています。

会計不正事案の再発防止は、監査人だけの努力で達成されるものではありません。上場企業のガバナンスで重要な責務を担う監査役等や内部監査部門との連携が重要とされています。
出典:日本公認会計士協会|品質管理レビュー基本方針(2026年度~2028年度)及び2026年度品質管理レビュー方針の公表

監査人が、会社の内部統制を代行することはできません。しかし、監査上識別した不備や改善課題について監査役等に適切に報告し、内部監査の改善状況やフォローアップ結果をリスク評価に反映することは必要です。

再発防止は、監査法人内の品質管理だけで完結するものではありません。会社の財務報告プロセス、監査役等の監督、内部監査のフォロー、外部監査人のリスク評価。これらが接続して初めて、実効性を持ちます。

指摘事項対応で避けるべき五つの姿勢

指摘事項への改善対応では、次の姿勢を避けるべきです。

第一に、「指摘された箇所だけ直す」こと

指摘事項は、同種論点への水平展開が必要です。個別調書だけを直しても、同じ弱点が他の調書に残っていれば、改善とはいえません。

第二に、「次年度で対応する」と安易に先送りすること

当年度の監査意見や内部統制監査報告に影響する事項であれば、当年度中に解決しなければなりません。次年度改善に回せるのは、当年度の意見形成に影響しない事項に限られます。

第三に、「研修をしたから完了」とすること

研修は手段であり、目的ではありません。研修後の調書品質、レビューコメント、審査指摘、外部レビュー結果によって、その有効性を確認する必要があります。

第四に、「会社側の問題」として閉じること

会社の決算体制や内部統制に原因があったとしても、監査人はそのリスクを監査計画と手続に反映する必要があります。会社が改善しないのであれば、監査人側の手続は深くなるはずです。

第五に、「レビュー担当者が見つけたから品質管理は機能している」と安心すること

レビューで検出できたこと自体は重要です。しかし、同じ指摘が繰り返されるのであれば、検出ではなく予防が機能していません。品質管理は、指摘を見つける仕組みではなく、指摘を減らす仕組みでなければなりません。

改善対応は、監査品質を説明できる状態にするためのプロセスである

指摘事項への対応は、監査法人内の管理作業ではありません。

監査人が、どのようにリスクを識別し、どのように証拠を入手し、どのように判断し、どのように改善し、次年度監査にどう反映したのか。それを説明できる状態にするためのプロセスです。

レビュー指摘や検査指摘を受けたとき、最も避けるべきなのは、「なぜこの指摘が出たのか」を深掘りしないまま、調書を直して終わることでしょう。

監査品質は、単年度の監査意見だけで測られるものではありません。指摘事項を、次年度監査計画、教育、審査、レビュー、モニタリング、会社とのコミュニケーションに反映し、同じ弱点を繰り返さない仕組みへ変換できるか。そこで測られます。

監査を「作業」と捉えると、指摘事項は面倒なコメントに見えます。監査を「説明責任を伴う専門的判断」と捉えると、指摘事項は監査品質を高めるための具体的な入口になります。

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レビュー指摘や検査指摘への対応では、個別調書の補正だけでは足りません。原因分析、改善計画、次年度監査計画への反映、会社側内部統制の改善状況確認、審査対応、監査役等への説明、モニタリング。これらを一体として整理する必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、会計・監査・内部統制・開示を横断した論点整理、レビュー指摘事項の原因分析、監査調書・論点メモの改善、次年度監査計画への反映、監査役等や審査担当者に説明できる改善対応の整理について、独立性その他の職業倫理上の制約を確認したうえで、対応可能な範囲でご相談を承っています。

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この記事の振り返り

論点実務上のポイント
指摘事項の意味個別ミスではなく、監査計画・リスク評価・証拠形成・レビュー・審査のどこかにある弱点として捉える
改善対応の三層当該監査業務への是正、同種論点への水平展開、品質管理上の再発防止を分けて整理する
原因分析担当者個人に閉じず、レビュー、監査計画、審査、人的資源、会社側体制、品質管理まで遡る
改善計画指摘事項、影響評価、根本原因、是正措置、再発防止策、責任者、期限、完了証拠、有効性評価を明確にする
次年度監査計画指摘事項を、リスク評価、監査手続、内部統制評価、審査、KAM、監査役等報告に反映する
会計上の見積り仮定、データ、方法、感応度、事後的検討、経営者バイアス、開示との整合を改善対象に含める
内部統制不備会社の改善と、監査人側のリスク対応・実証手続への反映を区別して整理する
課題管理表ToDoリストではなく、原因、対応、期限、完了証拠、残余リスク、次年度引継ぎを管理する文書として使う
研修一般論ではなく、実際の指摘事項を題材に、判断のどこが弱かったかを検討する
レビュー手続期末一括ではなく、重要論点ごとに期首・期中・期末前・意見形成前へ前倒しする
モニタリング改善策を実施したかではなく、改善策が監査品質に効いているかを検証する
監査役等・内部監査との連携会社側の財務報告プロセス改善を、ガバナンス・内部監査・外部監査の連携で確認する
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