時価・低額譲渡・非上場株式・不動産取引|親族・同族会社間の売買価格は税務調査でどう見られるか

親族の間で不動産を売買する。個人オーナーが自社へ土地を譲渡する。同族会社どうしで非上場株式を移す。あるいは、事業承継やM&Aの前後で、資産管理会社や持株会社、関係会社との間に株式や不動産を整理する。

こうした取引では、契約書を作り、代金を支払い、登記や株主名簿の変更まで完了していても、税務調査の場で「その価格は時価といえるのか」が問われることがあります。

とりわけ、親族や同族会社、役員、関係会社が相手方となる取引では、第三者どうしの売買のような価格交渉が働きにくくなります。そのため税務署は、取引価格そのものだけを見るわけではありません。価格決定に至った経緯、評価資料、資金の移動、契約条件、当事者どうしの関係、そして取引後にどのような財産移転の効果が生じたのかまで、丁寧に確認していきます。

時価をめぐる論点で大切なのは、「いくらなら絶対に安全か」という正解を探すことではありません。本当に重要なのは、取引を行った時点で、なぜその価格を採用したのかを、事実と資料、そして法律関係に基づいて説明できる状態にしておくことです。

目次

時価論点は、税額計算ではなく「利益移転」の確認である

低額譲渡や高額譲渡が税務調査で問題になるのは、売買価格が相場と少し違っているから、ではありません。問われている本質は、その取引価格を通じて、特定の誰かや特定の法人に利益が移っていないか、という一点にあります。

たとえば、時価1億円の不動産を、親から子へ5,000万円で売却したとします。形式は売買であっても、子は時価との差額にあたる経済的利益を受け取っていることになります。

個人オーナーが自社へ時価より低い金額で土地を売却した場合はどうでしょうか。会社側には受贈益が生じる可能性がありますし、その会社の株主構成によっては、株式価値の増加を通じて別の親族へ利益が移ることもあります。

反対に、法人が役員や同族関係者から時価より高く資産を買い取ったときには、法人からその役員等へ利益が移ったと見られる場合があります。このとき問題となる税目は一つではありません。法人税、所得税、源泉所得税、消費税、贈与税が、横断的に絡んでくるのです。

つまり時価の論点は、単なる「評価額の計算問題」にとどまりません。誰から誰へ、どのような経済的利益が、どの税目で移転したと評価されるのか——そこまで含めた問題だと捉える必要があります。

税務上の時価は、目的によって見方が変わる

税務上の時価を考えるうえで、最初に注意していただきたいことがあります。同じ「時価」という言葉でも、その場面によって使われ方が異なるという点です。

相続税・贈与税の財産評価では、財産評価基本通達が重要な出発点になります。同通達において時価とは、課税時期に、それぞれの財産の現況に応じて、不特定多数の当事者の間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額として整理されています。あわせて、評価にあたっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮するものとされています。出典:国税庁|財産評価基本通達 第1章 総則

ただし、親族間の売買や法人との売買において取引価格の妥当性を検討する場面では、「相続税評価額で計算したから問題ない」とは限りません。相続税評価額は、あくまで相続税・贈与税の申告のための評価体系です。売買時点の客観的な交換価値を、常にそのまま示しているわけではないからです。

特に、次のような場合には、相続税評価額だけでは説明が弱くなることがあります。

  • 対象不動産が、近い時期に第三者へ売却されている
  • 金融機関の担保評価や鑑定評価が、相続税評価額と大きく異なっている
  • 再開発、用途変更、借地権、土壌汚染、接道、収益性など、個別事情が強く働いている
  • 非上場株式の発行会社が、多額の含み益不動産や有価証券を保有している
  • M&A、組織再編、自己株式取得、親族間承継など、評価の目的そのものが相続税申告とは異なる

時価を検討するときには、まず「何の税目で」「誰の立場で」「どの時点の」「どの権利を」評価しているのかを、きちんと切り分けておく必要があります。

低額譲渡で問題になる税務上の効果

低額譲渡とは、時価より低い価額で財産を譲渡することをいいます。もっとも、ひと口に低額譲渡といっても、税務上の効果は当事者の組み合わせによって変わってきます。

個人から個人への低額譲渡

個人が、別の個人から著しく低い価額で財産を譲り受けた場合には、その時価と支払った対価との差額について、財産を譲渡した人から贈与により取得したものとみなされることがあります。

ここで「著しく低い価額」に当たるかどうかは、個々の具体的な事案に即して判定されます。国税庁は、贈与税におけるこの判定基準について、法人に対する低額譲渡で用いられる「資産の時価の2分の1に満たない金額」という基準とは異なるものだと説明しています。出典:国税庁|No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき

この点は、実務でも非常に誤解の多いところです。

  • 「2分の1以上なら贈与税は絶対に問題ない」
  • 「相続税評価額以上なら必ず適正だ」
  • 「親族間でも契約書さえあれば売買として認められる」

こうした理解は危険です。個人間の低額譲渡では、時価との乖離、当事者どうしの関係、代金支払の実態、資金の原資、取引の必要性、譲渡する側の事情、譲り受ける側の経済的利益などを、総合的に確認されることになります。

個人から法人への低額譲渡

個人が法人へ土地や建物を時価より低い価額で売却し、その売却先が法人で、しかも売却価額が時価の2分の1を下回るときは、実際の売却価額ではなく時価を収入金額として、譲渡所得が計算されます。出典:国税庁|No.3217 時価より低い価額で売ったとき

たとえば、個人オーナーが時価1億円の土地を自社へ4,000万円で売却したとします。この場合、個人側では4,000万円ではなく、1億円で譲渡したものとして譲渡所得課税が問題になります。

一方の法人側では、時価より低い価額で資産を取得していますから、時価と支払った対価との差額が受贈益として、法人税の課税対象になる可能性があります。さらに、その法人の株主に親族がいる場合には、会社の価値が増えたことを通じた利益移転まで、検討の対象に入ってきます。

したがって、個人から法人への低額譲渡では、個人側の譲渡所得、法人側の受贈益、株主側の贈与税リスクを、同時に確認しておかなければなりません。

法人から個人への低額譲渡

法人が役員や従業員、株主などへ資産を低額で譲渡した場合には、法人税だけでなく、個人側の所得税や源泉所得税、そして消費税も問題になります。

たとえば、法人が役員に対して資産を著しく低い金額で譲渡したとき、消費税では、実際に受領した金額ではなく、譲渡時の時価を課税標準として課税される場合があります。国税庁は、法人がその役員に対して資産を低額譲渡した場合について、その資産の時価のおおむね50%に相当する金額に満たない金額による譲渡を、著しく低い金額による譲渡として説明しています。出典:国税庁|No.6321 法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い

法人税では、法人側に時価で譲渡したものとしての収益認識や、役員等への経済的利益の供与が問われます。個人側でも、役員給与、賞与、退職給与、配当に類似する利益、その他所得など、実態に応じた所得区分を検討しなければなりません。

なかでも役員に対する利益供与は、法人税上の損金算入制限や源泉徴収漏れにつながりやすいところです。「会社が安く売っただけ」と、軽く考えるべきではありません。

法人から法人への低額譲渡

法人どうしで低額譲渡を行った場合には、譲渡法人側で時価による譲渡収益、譲受法人側で受贈益、そして譲渡法人側で寄附金が、それぞれ問題になることがあります。

法人税法上の寄附金とは、金銭その他の資産または経済的利益の贈与・無償供与をいいます。低額譲渡等のような場合で、その差額について実質的に贈与等をしたと認められるときは、その差額をもって寄附金の額を計算することになります。出典:国税庁|No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算

このため、グループ会社の間で「支援が目的」「資金繰りの調整」「事業再編のため」といった理由から低い価格で資産を移す場合には、経済合理性と価格の根拠を、あらかじめ整理しておくことが欠かせません。

高額譲渡も問題になる

税務調査で問題になるのは、時価より低い譲渡だけではありません。時価より高い譲渡もまた、論点になります。高額譲渡は、買主側から売主側へ利益を移す取引にほかならないからです。

たとえば、法人が役員個人から時価より高い金額で不動産や非上場株式を買い取った場合、法人が過大な対価を支払うことで、役員個人へ経済的利益を与えたと見られる可能性があります。法人どうしの取引であれば、買主法人から売主法人への寄附金、売主法人側の益金、グループ間の利益移転といった問題が生じます。

高額譲渡で確認されるのは、おおむね次のような点です。

  • 買主が、なぜその価格で買う必要があったのか
  • 第三者であっても、同じ価格で買ったといえるのか
  • 価格交渉の過程があったのか
  • 鑑定評価、株式評価、収益予測、担保評価などの根拠があるのか
  • 売主が、役員、株主、親族、関係会社にあたらないか
  • 差額の部分が、給与、寄附金、配当、贈与、受贈益として評価されないか

高額譲渡は、「売主に税金が出るのだから安全だ」という話ではありません。法人側で、損金性、寄附金、役員給与、源泉徴収、株主間の利益移転が問題になることがあります。

不動産取引の時価|相続税評価額だけで判断しない

不動産の時価を判断するときには、路線価、固定資産税評価額、公示価格、基準地価、不動産鑑定評価、近隣の売買事例、収益還元価格、金融機関評価など、複数の指標が存在します。

財産評価基本通達において、宅地の評価は、市街地的形態を形成する地域では路線価方式、それ以外の地域では倍率方式を原則としています。そして路線価は、売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額、精通者意見価格等を基として評定されるものとされています。出典:国税庁|財産評価基本通達 第2章 土地及び土地の上に存する権利

しかし、親族間の売買や個人法人間の売買では、次のような事情があると、路線価や固定資産税評価額だけでは説明が弱くなります。

  • 直近で、第三者への売却予定がある
  • 不動産会社から、具体的な買取りの提示を受けている
  • 金融機関の担保評価が高い
  • 収益物件として、賃料収入が安定している
  • 更地化、開発、用途変更によって、価値が上がる見込みがある
  • 借地権、底地、使用貸借、賃貸借、共有、越境、土壌汚染など、権利関係が複雑である
  • 建物と土地を一括で譲渡しており、対価の配分が不明確である

不動産取引では、土地と建物の消費税区分にも注意が必要です。土地の譲渡および貸付けは消費税の非課税取引に含まれますが、事業者が事業用建物等を譲渡する場合は、非課税取引以外の資産の譲渡等として、消費税の課税対象になり得ます。出典:国税庁|No.6201 非課税となる取引 出典:国税庁|No.3240 個人が事業用建物等を譲渡した場合の消費税

また、課税事業者が事業用資産を譲渡した場合、土地や借地権の譲渡は非課税ですが、事業に付随して対価を得て行う資産の譲渡として、消費税が課税される資産もあります。出典:国税庁|No.6931 消費税等と譲渡所得

土地建物の一括売買では、契約書に総額だけを記載し、土地と建物の内訳を後から便宜的に決めてしまうと、法人税、所得税、消費税のすべてで説明が難しくなります。売買契約書、固定資産評価、鑑定評価、建物の簿価、減価償却の状況、収益性を踏まえたうえで、対価の配分を事前に整理しておくべきです。

非上場株式の時価|相続税評価と売買価格は同じとは限らない

非上場株式の時価は、不動産以上に争点化しやすい領域です。

非上場株式には、市場価格がありません。しかも、同じ会社の株式であっても、支配株式か少数株式か、同族株主か少数株主か、相続税申告か売買取引か、M&Aか自己株式取得かによって、評価の見方が変わってきます。

相続税・贈与税の財産評価では、取引相場のない株式について、評価会社を大会社・中会社・小会社に区分します。大会社は原則として類似業種比準方式、小会社は原則として純資産価額方式、中会社は両方式を併用して評価する、という整理が示されています。出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価

また、財産評価基本通達には、取引相場のない株式の評価に関する各種の規定が置かれています。純資産価額の計算では、課税時期における各資産を評価した価額から負債等を控除し、1株当たりの純資産価額を算出する方法が示されています。出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 株式及び出資

ただし、非上場株式の売買において、常に相続税評価額をそのまま売買時価として用いればよい、というわけではありません。

たとえば、次のような場面では、評価方法の選択そのものが税務調査で問われます。

  • 支配権の移転を伴う株式譲渡
  • 少数株主からの買取り
  • 同族会社による自己株式取得
  • 従業員持株会への譲渡
  • 資産管理会社への株式移転
  • M&Aにおける株式譲渡
  • 持株会社化に伴う株式交換・株式移転・株式交付
  • 親族間での事業承継株式の売買
  • 不動産保有会社、株式保有会社、休眠会社、債務超過会社の株式移転

評価の実務では、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式、DCF法、類似会社比較法、時価純資産法などが用いられることがあります。しかし税務調査で確認されるのは、評価手法の名前ではありません。なぜその評価手法を採用したのか、評価の目的と整合しているのか、基礎となる資料が実態と合っているのか——そうした中身です。

非上場株式で調査されやすい具体論点

非上場株式の評価では、次のような項目が、調査で問題になりやすくなります。

役員貸付金・役員借入金

同族会社では、代表者貸付金、役員借入金、仮払金、未収入金が、株価に大きく影響することがあります。

  • 役員貸付金が、実質的には回収不能であるにもかかわらず、額面で評価していないか
  • 代表者からの借入金が、本当に返済義務のある債務といえるのか
  • 債権放棄やDES、相続前の整理が、株価操作に見えてしまわないか

これらは、単なる貸借対照表の項目ではありません。株式価値、相続税、法人税、贈与税にまで影響する論点です。

含み益不動産・含み損資産

不動産保有会社では、土地や建物の帳簿価額と時価が、大きく異なることがあります。特に、古くから保有している土地、収益物件、遊休地、再開発予定地がある場合には、帳簿価額だけで株価を説明することはできません。

反対に、含み損資産を抱える会社では、評価損の実現時期、事業の継続性、M&Aや組織再編との関係が確認されます。

直前・直後の取引

評価の時点の直前または直後に、第三者への株式売買、M&A交渉、増資、自己株式取得、組織再編、配当、債権放棄があった場合、その取引価格や意思決定資料は、重要な確認資料になります。

税務調査では、「相続税評価ではこの価格だった」と説明しても、その直後に高額なM&A価格で売却していれば、なぜ評価額にこれほど大きな差が生じたのかを、説明しなければなりません。

少数株主か支配株主か

少数株式と支配株式では、経済的な価値が異なります。議決権の割合、配当への期待、譲渡制限、支配権、経営への関与の可能性、買主の属性によって、評価の考え方は変わってきます。

財産評価基本通達でも、同族株主以外の株主等が取得した株式について、配当還元方式による評価が定められている場面があります。出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 株式及び出資

ただし売買取引では、「少数株主だから低い評価でよい」と単純に割り切れるとは限りません。誰が買うのか、その買主にとって、その株式に支配権・経営権・グループ再編上の価値があるのかを、確認しておく必要があります。

個人法人間取引は、複数税目に同時に波及する

時価の論点で最も注意していただきたいのは、個人と法人が絡む取引です。

個人と法人とでは、所得税・法人税・贈与税・消費税の課税体系が異なります。そのため、同じ価格差であっても、当事者ごとに異なる税務効果が生じます。

たとえば、個人オーナーが自社へ不動産を低額譲渡した場合には、次のような検討が必要になります。

  • 個人側では、譲渡所得の収入金額を、実際の対価でよいのか、それとも時価で認識すべきか
  • 法人側では、時価との差額が受贈益にならないか
  • 法人の株主が親族である場合、株式価値の増加を通じたみなし贈与がないか
  • 土地と建物の対価配分は、合理的か
  • 建物部分や事業用資産について、消費税の課税関係を確認しているか
  • 役員貸付金や役員借入金の精算と、一体になった取引ではないか
  • 取引後の短期間のうちに、第三者へ売却していないか

同族会社を使った取引では、「会社は自分のものだから」という感覚が、どうしても残りやすいものです。しかし税務上は、個人と法人は別の納税主体です。資産を会社に移すこと、会社から個人へ移すこと、関係会社の間で移すことは、それぞれが独立した課税関係を持っています。

同族会社間取引は、価格だけでなく「目的」が見られる

同族会社の間で不動産や非上場株式を取引するときには、価格の妥当性に加えて、「なぜその取引を行ったのか」が確認されます。

  • 事業再編のためか
  • 金融機関対応のためか
  • 不採算事業を切り離すためか
  • 不動産管理を一元化するためか
  • 後継者への承継準備のためか
  • 単に所得や財産を移すためか
  • 含み益や含み損を、特定の法人へ移すためか
  • 相続税評価を下げるためだけの、形式的な移転ではないか

仮に合理的な事業目的があったとしても、その目的を資料として残していなければ、調査の場では説明が弱くなってしまいます。取締役会議事録、稟議書、事業計画、金融機関への説明資料、グループの組織図、取引前後の資金繰り表、税務意見書を整えておくべきです。

税務調査で確認される資料

時価・低額譲渡・高額譲渡をめぐる税務調査では、次のような資料が確認されやすくなります。

  • 売買契約書
  • 覚書、補足合意書、サイドレター
  • 代金決済資料、通帳、振込記録
  • 不動産登記簿、固定資産税評価証明書、路線価図、公示価格資料
  • 不動産鑑定評価書、査定書、近隣の売買事例
  • 賃貸借契約書、収支実績、修繕履歴
  • 非上場株式の評価明細書、株主名簿、議決権割合表
  • 決算書、申告書、勘定科目内訳明細書
  • 役員貸付金・役員借入金の明細
  • 株式価値算定書、M&A資料、DD報告書
  • 取締役会・株主総会の議事録
  • 資金繰り表、金融機関への提出資料
  • 取引前後の組織図・資本関係図
  • 税務上の処理方針メモ

調査対応で避けたいのは、取引が終わってから評価の根拠を探し始めることです。後から作成した資料が、それだけで直ちに否定されるわけではありません。ただ、取引の時点でどの情報に基づいて意思決定したのかが不明確だと、どうしても説明力は弱くなります。

評価差があること自体と、重加算税リスクは分けて考える

時価をめぐる見解の対立があるからといって、それが直ちに重加算税につながるわけではありません。

不動産や非上場株式の評価には、もともと幅があります。鑑定評価、路線価、収益還元、純資産価額、類似業種比準、DCFなど、採用する前提や評価の目的によって結論が変わることは、決して珍しくありません。

問題となるのは、評価の違いそのものではなく、事実を隠したり、仮装したりしていないか、という点です。

たとえば、次のような行為があると、重加算税のリスクが高まります。

  • 実際の売買代金と異なる契約書を作成する
  • 代金の一部を、現金で戻す
  • 別契約で利益を補填する
  • 取引日を、意図的にずらす
  • 鑑定評価の前提となる事実を偽る
  • 存在しない賃貸借や債務を作る
  • 株主名簿や議事録を、実態と異なる内容にする
  • 評価資料の一部を隠す
  • 反面調査で確認される取引先の資料と、自社の資料が整合しない

国税庁の法人税の重加算税に関する事務運営指針でも、二重帳簿、帳簿書類の隠匿・改ざん・虚偽記載、相手方との通謀による虚偽証憑の作成などが、隠蔽または仮装に該当する場合として示されています。出典:国税庁|法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

評価の論点で争うべき場面では、評価の根拠、前提となった事実、採用しなかった評価方法、意思決定の経緯を整理しておくことが重要です。単に「税務署の評価が高すぎる」と主張するだけでは、争点は整理されません。

取引前に整えるべき実務対応

時価の論点は、税務調査の通知を受けてから整えるのでは、間に合わないことがあります。取引を実行する前に、少なくとも次の整理はしておきたいところです。

第一に、取引の目的を明確にします。事業承継、M&A、資産管理、金融機関対応、グループ再編、少数株主の整理など、税務以外の合理的な目的を、きちんと説明できるようにしておきます。

第二に、当事者の関係を整理します。親族、役員、同族会社、関係会社、株主、取引先の関係を、資本関係図と人的関係図で示します。

第三に、評価の時点を明確にします。契約日、決済日、引渡日、登記日、株主名簿の書換日、取締役会決議日がそれぞれずれている場合には、どの時点の時価を基準にしたのかを整理します。

第四に、評価方法を比較します。不動産であれば、路線価、固定資産税評価、公示価格、売買事例、鑑定評価、収益価格を。非上場株式であれば、財産評価基本通達、純資産、類似業種、配当還元、DCF、M&A価格、第三者評価を、それぞれ比較します。

第五に、採用した価格の理由を残します。複数の評価額がある中で、なぜその価格を採用したのかを、取締役会資料、稟議書、評価メモ、専門家の意見書として残しておきます。

第六に、税目を横断して影響を確認します。所得税、法人税、贈与税、相続税、消費税、源泉所得税、地方税、不動産取得税、登録免許税まで、取引の全体で確認します。

第七に、取引後の処理を確認します。会計仕訳、申告書の別表、消費税区分、源泉徴収、株主名簿、登記、契約承継、資金移動が整合しているかを、確認しておきます。

専門家を付けずに判断するリスク

時価の論点は、評価額を計算するだけであれば、資料を集めて試算できることもあります。しかし税務調査で問われるのは、計算結果そのものよりも、その価格が当事者の関係、取引の目的、税目を横断した課税関係と整合しているか、という点です。

専門家を付けずに進めてしまうと、次のようなリスクが生じます。

  • 相続税評価額を、売買時価と誤解する
  • 個人間と個人法人間の低額譲渡基準を、混同する
  • 法人側の受贈益や寄附金を、見落とす
  • 株主側のみなし贈与を、見落とす
  • 土地と建物の対価配分を、誤る
  • 消費税の課税・非課税区分を、誤る
  • 非上場株式の支配株式と少数株式を、同じように評価する
  • 評価資料を、取引時点で残していない
  • 税務署への説明時に、事実関係と評価理論が分離してしまう
  • 修正申告に応じるべきか、更正を待つべきかの判断を誤る

時価・低額譲渡・非上場株式・不動産取引は、税務、会計、会社法、民法、M&A実務、資産税が交差する領域です。金額が大きく、親族や同族会社が絡むだけに、後からの修正が難しいことも、この分野の特徴といえます。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

親族間や同族会社間の不動産・非上場株式取引では、「いくらで売ればよいか」だけを考えていると、後になって説明に苦しむことがあります。

本当に確認していただきたいのは、次の点です。

  • その価格は、取引時点の資料で説明できるか
  • 当事者の間に利益移転がないと、説明できるか
  • 低額譲渡、高額譲渡、みなし贈与、受贈益、寄附金、役員給与、消費税への波及を検討しているか
  • 相続税評価額と売買時価の違いを、整理しているか
  • 非上場株式の評価目的と評価方法が、一致しているか
  • 税務調査で提出できる資料が、手元に残っているか

犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産、非上場株式、個人法人間取引、同族会社間取引について、単なる評価額の計算にとどまらず、取引の目的、法律関係、会計処理、税務上の評価、証拠資料、そして将来の税務調査対応までを、一体で整理します。

親族間売買、自社株移転、資産管理会社への不動産移転、M&A前後の株式評価、同族会社間の資産移転について不安をお持ちの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページから、お気軽にご相談ください。

本記事の振り返り

論点税務調査で確認されること実務上の対応
税務上の時価不特定多数間の自由な取引で通常成立する価額として説明できるか評価時点、評価目的、評価方法、前提事実を整理する
相続税評価額と売買時価相続税評価額をそのまま売買価格にしてよい理由があるか路線価、鑑定評価、売買事例、収益価格を比較する
個人間の低額譲渡著しく低い価額としてみなし贈与が成立しないか時価との差、親族関係、代金支払、資金原資を確認する
個人から法人への低額譲渡個人側の譲渡所得、法人側の受贈益、株主側の利益移転所得税・法人税・贈与税を同時に検討する
法人から個人への低額譲渡役員給与、賞与、経済的利益、消費税課税標準取引相手の属性、時価、源泉徴収を確認する
法人間の低額譲渡受贈益、寄附金、グループ間利益移転事業目的、経済合理性、価格根拠を資料化する
高額譲渡買主から売主への利益移転、寄附金、役員給与買主が高く買う合理的理由を整理する
不動産取引土地・建物配分、権利関係、消費税、鑑定評価契約書、鑑定、査定、賃貸借資料、固定資産資料を保存する
非上場株式支配権、少数株式、純資産、類似業種、配当還元評価目的に応じた評価方法を選び、比較資料を残す
同族会社取引価格を通じた親族・株主への利益移転資本関係図、取締役会議事録、事業目的資料を整える
重加算税評価差ではなく、隠蔽・仮装の有無契約、資金移動、評価資料を実態どおり整備する
相談前整理専門家が評価・税務・証拠を一体で検討できるか申告書、契約書、評価資料、通帳、議事録を準備する
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