グローバル・ミニマム課税は、一般に「巨大な多国籍企業グループのための税制」として説明されることが多い制度です。
そのため、中小・中堅企業では、はじめから「自社には関係ない」と受け止められがちです。確かに、独立系の中小企業の多くにとって、この制度が直接の申告税額を生じさせる場面は、通常それほど多くありません。
ただ、そこで検討を止めてしまってよいかというと、必ずしもそうとは言えません。
海外子会社を持つ会社、海外親会社の日本子会社、M&Aによって大企業グループに入る会社、海外PEや支店を持つ会社、あるいは将来的にIPO・海外展開・グループ再編を視野に入れている会社。こうした会社では、「直接課税されるかどうか」だけでなく、いくつかの視点を整理しておく必要があります。グループ判定上どう見られるのか。親会社や買主からどの資料を求められるのか。外国子会社合算税制や移転価格税制と、どう並行して確認していくのか。こうした点です。
本稿では、2026年6月時点で公表されている一次情報・公式情報を前提に、グローバル・ミニマム課税を、中小・中堅企業の実務判断へ落とし込んで整理していきます。
まず結論:多くの中小企業は直接対象外でも、「対象外の確認」は必要になる
グローバル・ミニマム課税について、中小・中堅企業がまず押さえておきたい結論を整理すると、次のとおりです。
| 確認項目 | 実務上の見方 |
|---|---|
| 独立系の中小企業 | 連結売上規模や海外展開状況から、通常は直接対象外となる可能性が高い |
| 海外子会社がある中堅企業 | 連結売上規模、最終親会社、海外所在地国、実効税率、CFC・移転価格との関係を確認する |
| 海外親会社の日本子会社 | 自社単体が小規模でも、外国親会社グループが対象規模なら資料提出・申告・納税義務が問題になり得る |
| M&A対象会社 | 買主が大規模多国籍企業グループの場合、買収後に構成会社等として管理対象になる可能性がある |
| 大企業グループの国内子会社 | 国内ミニマム課税やUTPRの判定上、日本法人側で資料管理が必要になる可能性がある |
| 海外拠点・PEがある会社 | 子会社がなくても、恒久的施設等を通じて国際的な活動を行う形になり得るため確認が必要 |
| 事業承継・再編・IPO準備会社 | 将来の資本関係変更により、グループ判定が変わる可能性がある |
ここで大切なのは、「うちは中小企業だから関係ない」と早々に結論づけてしまわないことです。
順序としては、まず自社グループの連結売上、親会社・子会社の関係、海外拠点、M&Aの予定、外国親会社の有無を整理します。そのうえで、「対象外だと説明できる状態」をつくっておく。これが本来の進め方です。
税務判断では、適用される制度を見つけることだけが重要なのではありません。適用されない理由を、後から資料で説明できるようにしておくこと。これも、同じくらい大切な作業だと考えています。
グローバル・ミニマム課税とは何か
グローバル・ミニマム課税は、OECD/G20のBEPS包摂的枠組みで合意された「第2の柱」に基づく国際課税ルールです。
大枠としては、一定規模以上の多国籍企業グループについて、各国・地域ごとの実効税率が最低税率15%を下回る場合に、その不足部分をトップアップ税額として課税する仕組みです。GloBEルールは、年間収入7億5,000万ユーロ以上の、国際的に活動する多国籍企業グループを対象とし、実効税率を国・地域単位で計算して15%を下回る場合にトップアップ税額を計算する枠組みとされています。
出典:OECD|Minimum Tax Implementation Handbook (Pillar Two)
この制度は、単純に「法人税率が15%未満の国に子会社があるかどうか」だけを見るものではありません。
実際には、会計上の利益を出発点として、一定の調整を加えた所得、対象租税、繰延税金、実体ベース所得除外、セーフ・ハーバーなどを用いながら、国・地域ごとの実効税率とトップアップ税額を計算していきます。したがって、税務部門だけで完結する制度ではなく、連結財務諸表、会計方針、税効果会計、海外子会社決算、現地税務申告、移転価格文書、国別報告事項との接続が問題になってきます。
3つのルール:IIR、UTPR、QDMTTを混同しない
グローバル・ミニマム課税は、主に次の3つのルールで構成されています。
| ルール | 日本語での位置づけ | 何をする制度か |
|---|---|---|
| IIR | 所得合算ルール | 低税率国の子会社等で生じたトップアップ税額を、親会社等の所在地国で課税する |
| UTPR | 軽課税所得ルール | IIRで課税されていない残余のトップアップ税額を、子会社等の所在地国側で課税する補完ルール |
| QDMTT | 国内ミニマム課税 | 低税率所得が生じた国自身が、他国に課税される前に自国でトップアップ課税する |
日本では、令和5年度税制改正で、IIRに対応する「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」が創設されました。続く令和7年度税制改正では、UTPRに対応する「各対象会計年度の国際最低課税残余額に対する法人税」と、QDMTTに対応する「各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税」が創設されています。
このうちUTPRは、IIRの対象とされていない残余のトップアップ税額について、子会社等の所在地国で課税を行う制度とされています。QDMTTは、自国での税負担が基準税率15%に至るまで課税を行い、IIRやUTPRによる他国からの課税を防ぐ機能を持つ制度と説明されています。
出典:国税庁|グローバル・ミニマム課税への対応に関する改正のあらまし(2)
さらに令和8年度改正では、米国を含む一定の要件を満たす国の制度との共存等を踏まえ、SbSセーフ・ハーバーやUPEセーフ・ハーバーが設けられています。2026年4月1日現在、SbSセーフ・ハーバーについては米国が指定されており、UPEセーフ・ハーバーについては同日時点で指定国・地域はないとされています。
出典:国税庁|令和8年度法人税関係法令の改正の概要 5 グローバル・ミニマム課税への対応
中小・中堅企業の実務では、この3つのルールを詳細に計算できることよりも、まず「自社がどの立場で関係する可能性があるのか」を見極めることのほうが大切です。
適用対象の入口:7億5,000万ユーロ基準を見る
グローバル・ミニマム課税の入口は、原則として、国際的に活動する多国籍企業グループの連結収入規模にあります。
判定にあたっては、判定対象年度の直前4事業年度のうち、2事業年度以上で連結財務諸表上の収入が7億5,000万ユーロ以上かどうかを見ます。単年での判定ではなく、4年テストである点がポイントです。
出典:OECD|Minimum Tax Implementation Handbook (Pillar Two)
実務では、次の順番で確認していきます。
| 順序 | 確認内容 |
|---|---|
| 1 | 自社単体ではなく、最終親会社を頂点とする企業グループを確認する |
| 2 | 連結財務諸表を作成しているか、作成していない場合に作成するとしたらどの会社が含まれるかを確認する |
| 3 | 海外子会社、海外支店、PE、外国親会社、日本子会社を確認する |
| 4 | 直前4対象会計年度の連結収入を確認する |
| 5 | そのうち2以上の年度で7億5,000万ユーロ相当額以上かを確認する |
| 6 | 除外会社等、投資ファンド、政府関係会社等の特殊論点を確認する |
| 7 | 日本法人が納税義務者、構成会社等、報告対象、資料提供者のいずれに該当するかを確認する |
この判定で誤りやすいのは、自社単体の売上だけを見てしまうことです。
たとえば、日本法人単体の売上が10億円であっても、外国親会社グループの連結収入が7億5,000万ユーロ以上であれば、その日本法人はグループ内の構成会社等として、情報収集や税額計算の対象になる可能性があります。
反対に、海外子会社を1社持っていたとしても、独立系グループとして連結収入規模が基準を大きく下回っていれば、通常は直接のグローバル・ミニマム課税の対象とはなりにくいと考えられます。ただし、その場合でも、移転価格税制、外国子会社合算税制、源泉税、外国税額控除の確認は、別途必要になります。
中小・中堅企業が確認すべき6つの場面
1. 外国親会社の日本子会社である場合
日本法人そのものが中小規模であっても、外国親会社が大規模多国籍企業グループである場合には、注意が必要です。
このケースでは、日本法人は「自社が小さいから関係ない」とは言い切れません。外国親会社側でIIRが適用されるのか、日本側でUTPRやQDMTTに関する確認が必要になるのか、そしてグループ本部からどのデータを求められるのか。これらを確認しておく必要があります。
特に外資系企業の日本法人では、次のような資料を親会社へ提出する場面が想定されます。
| 資料 | 確認目的 |
|---|---|
| 日本法人の決算書 | 日本における利益・損失の把握 |
| 法人税申告書・別表 | 対象租税、税額、税務調整の確認 |
| 税効果会計資料 | 繰延税金資産・負債、税率差異の確認 |
| 固定資産台帳 | 実体ベース所得除外、有形資産の確認 |
| 人員数・給与資料 | 従業員数、給与費用の確認 |
| 移転価格資料 | グループ内取引の所得配分の確認 |
| CbCR関連資料 | 国別報告事項との整合性確認 |
親会社から突然、詳細な税務データを求められたときに、経理担当者だけで対応しようとすると、法人税申告書、会計数値、移転価格資料、税効果資料の数字が食い違ってしまうことがあります。ここは、法人税務の品質管理として、事前に整理しておきたい領域です。
2. 大企業グループに買収される場合
M&Aでは、買収前は制度の対象外だった会社が、買収後に大規模多国籍企業グループの構成会社等になることがあります。
中小・中堅企業のM&Aでは、どうしても売却価格、株式譲渡益、消費税、役員退職金、のれん、税務デューデリジェンスに関心が向きがちです。しかし、買主がグローバル企業である場合には、買収後の税務管理として、対象会社の税務データがグローバル・ミニマム課税の計算に組み込まれる可能性があります。
こうした場合、買収前に次の点を確認しておくと、買収後の混乱を抑えやすくなります。
| 確認項目 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 過去決算の信頼性 | 買収後の連結・税務報告に耐えられるか |
| 税務調整の継続管理 | 別表四・五(一)の残高が正しく引き継げるか |
| 税効果会計の有無 | 買主グループの連結決算で追加対応が必要か |
| 固定資産・人員データ | GloBE計算上の実体ベース所得除外等に影響し得る |
| 海外取引 | 移転価格・源泉・CFCと同時に確認が必要 |
| 税務調査履歴 | 潜在的な追加税額や附帯税の把握 |
M&A後の税務リスクは、過去の申告漏れだけにとどまりません。買収後にグローバル税務報告へ組み込めないほど資料が不足していること。これもまた、買主側から見れば、実務上のリスクとして映ります。
3. 海外子会社を持つ中堅企業である場合
海外子会社を持つ会社では、グローバル・ミニマム課税の対象外であっても、制度の考え方そのものを理解しておく意味があります。
というのも、グローバル・ミニマム課税は、国・地域別に利益と税負担を見ていく制度だからです。この発想は、移転価格税制、外国子会社合算税制、外国税額控除、海外配当政策とも、そのままつながっていきます。
外国子会社合算税制は、昭和53年度改正で創設され、低税率国の外国関係会社を通じた租税回避に対応する制度として発展してきました。近年は、グローバル・ミニマム課税の導入に伴う対象企業の事務負担を踏まえ、令和5年度以降も見直しが続けられています。
中堅企業では、グローバル・ミニマム課税そのものよりも、むしろ次のような論点のほうが先に問題になるケースが少なくありません。
| 論点 | 先に確認すべき制度 |
|---|---|
| 海外子会社に利益が過大に残っている | 移転価格税制 |
| 低税率国に実体の薄い子会社がある | 外国子会社合算税制 |
| 海外子会社から配当を受ける | 外国子会社配当益金不算入、源泉税 |
| 海外で税金を支払っている | 外国税額控除 |
| 海外子会社へ経営支援・ロイヤリティ・貸付がある | 移転価格、源泉税、寄附金課税 |
| グループ全体の税負担を把握したい | 国別損益・実効税率管理 |
つまり、中小・中堅企業にとっての実務課題は、いきなりGloBE計算に取りかかることではありません。海外子会社ごとの利益、税額、機能、リスク、契約、資金移動を、きちんと説明できる状態にしておくこと。まずはここからです。
4. 海外支店・PEを持つ場合
子会社がなくても、海外支店や恒久的施設等がある場合には注意が必要です。
単独の法人が他国にPEを有する場合には、国際的な活動を行う主体として、GloBEルールの対象になり得るという考え方が示されています。
出典:OECD|Minimum Tax Implementation Handbook (Pillar Two)
中小・中堅企業では、海外支店や駐在員事務所について、現地法人よりも税務管理があいまいになりがちです。しかし、PEがある場合には、現地課税、日本側の外国税額控除、帰属所得、移転価格的な利益配分、源泉税、現地申告といった論点が絡んできます。
グローバル・ミニマム課税の対象規模でなかったとしても、PEの管理は国際税務の入口として重要です。
5. 連結売上が基準に近づいている場合
急成長企業、上場準備企業、あるいはM&Aで売上規模が拡大している企業では、現在は対象外でも、将来対象となる可能性があります。
特に、直前4事業年度のうち2事業年度で7億5,000万ユーロ基準を超えるかどうかを見るため、単年度で急に売上が増えた場合だけでなく、複数年度の推移を管理していく必要があります。
この場合、経営管理の面では、次のような資料を整えておきたいところです。
| 資料 | 理由 |
|---|---|
| 連結売上推移表 | 適用対象判定の基礎になる |
| 連結範囲一覧 | どの会社を含めるかが判定に影響する |
| 海外子会社一覧 | 国・地域別管理が必要になる |
| 国別損益・税額一覧 | 実効税率確認の入口になる |
| CbCR対応状況 | グローバル・ミニマム課税の情報申告にも関連する |
| M&A履歴 | 取得・売却・組織再編で判定が変わる |
移転価格の文書化においても、マスターファイル、ローカルファイル、国別報告事項は、グループ全体の事業・無形資産・金融・財務税務状況を整理する枠組みとして重要な役割を果たします。
6. 海外M&A・海外子会社再編を検討している場合
海外M&Aでは、対象会社の現地税率だけを見て判断するのでは不十分です。
買収後に、グループ内のどの国で利益が生じ、どの国で税金が課され、どの国でトップアップ税額が生じる可能性があるのか。ここまで見ておく必要があります。対象会社が低税率国に所在している場合であっても、十分な人員・有形資産・事業実体があるか、現地の税制優遇の内容がGloBE上どのように扱われるかを確認しておかなければなりません。
令和8年度改正では、移行対象会計年度前の繰延税金資産・負債、一定の税額控除制度等、そしてセーフ・ハーバーに関する見直しが行われています。あわせて、調整後対象租税額の計算や外国子会社合算税制等の見直しも示されています。
出典:財務省|令和8年度税制改正の大綱(5/9)
海外M&Aは、買収時だけでなく、買収後の税務データ収集体制まで含めて検討していく必要があります。
グローバル・ミニマム課税とCFC税制は別制度
中小・中堅企業が誤解しやすいのは、グローバル・ミニマム課税と外国子会社合算税制を、同じ制度のように理解してしまうことです。
両者は、いずれも海外子会社や低税率国を意識する制度ですが、その目的も対象も異なります。
| 項目 | グローバル・ミニマム課税 | 外国子会社合算税制 |
|---|---|---|
| 主な対象 | 一定規模以上の多国籍企業グループ | 日本株主等が関係する外国関係会社 |
| 見る単位 | 国・地域別の実効税率、構成会社等 | 外国関係会社ごとの所得、受動的所得 |
| 基準 | 原則として連結収入7億5,000万ユーロ規模 | 持株関係、租税負担割合、経済活動基準等 |
| 課税の考え方 | 15%に満たない不足分をトップアップ課税 | 一定の外国子会社所得を日本側に合算 |
| 中小企業での重要性 | 多くは直接対象外でも、グループ入り・外資系・M&Aで関係 | 海外子会社があれば中小・中堅でも実務上重要 |
外国子会社合算税制は、グローバル・ミニマム課税の導入によって不要になったわけではありません。むしろ、グローバル・ミニマム課税の導入に伴い、対象企業の事務負担を踏まえながら、CFC税制側でも見直しが続いています。グローバル・ミニマム課税の導入に伴う追加的な事務負担を踏まえ、外国子会社合算税制等について見直しが行われたことが示されています。
出典:国税庁|グローバル・ミニマム課税への対応に関する改正のあらまし(2)
中小・中堅企業が海外子会社を持つ場合には、まずCFC税制と移転価格税制を正しく整理し、そのうえでグローバル・ミニマム課税の対象可能性を確認する。この順番が実務的です。
会計・税効果会計にも影響する
グローバル・ミニマム課税は、法人税申告だけでなく、会計にも影響を及ぼします。
ASBJは、実務対応報告第44号において、グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の取扱いを示しています。同報告では、連結会計年度および事業年度の決算における税効果会計の適用にあたり、当面は、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しない取扱いが示されています。
出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第44号 グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い
この点は、中小企業会計だけを前提としている会社では、大きな論点にならないこともあります。しかし、監査対象会社、上場準備会社、上場会社グループの子会社、外資系企業の日本法人では、税務だけでなく、会計処理・開示・親会社レポーティングとの整合性が問題になってきます。
税効果会計では、会計上の資産・負債と税務上の資産・負債の相違を通じて、税金費用を期間対応させるという考え方をとります。ただ、グローバル・ミニマム課税は、通常の各事業年度の所得に対する法人税とは異なる性質を持つため、会計上の取扱いについても特別な検討が必要になります。
中小・中堅企業の実務判断フロー
自社にグローバル・ミニマム課税が関係するかどうかを確認する際は、次の流れで整理していきます。
| ステップ | 確認内容 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 1 | 最終親会社を特定する | 自社がグループの頂点か、外国親会社の子会社か |
| 2 | 連結範囲を確認する | どの会社が連結されるか、連結財務諸表があるか |
| 3 | 海外拠点を確認する | 海外子会社、支店、PE、共同支配会社等の有無 |
| 4 | 連結収入を確認する | 直前4年度のうち2年度で7億5,000万ユーロ基準を超えるか |
| 5 | 日本法人の立場を確認する | 最終親会社、中間親会社、子会社、PE保有法人、構成会社等のいずれか |
| 6 | IIR・UTPR・QDMTTの関係を確認する | 日本で納税・申告・情報提供が必要か |
| 7 | 他制度との関係を整理する | 移転価格、CFC、外国税額控除、源泉税、配当益金不算入 |
| 8 | 資料保存体制を整える | 決算書、申告書、税額資料、固定資産、人員、契約、移転価格資料 |
| 9 | 制度改正を確認する | 令和7年度・令和8年度改正、国税庁様式、通達、OECDガイダンス |
| 10 | 専門家へ相談する | 対象外判断、親会社報告、M&A、海外再編が絡む場合は早めに確認 |
この流れの中で、特に重要になるのが「最終親会社」と「連結収入」です。
日本の中小・中堅企業では、税務判断を法人単体で考える習慣が身についていることがあります。しかし、グローバル・ミニマム課税では、単体の法人ではなく、企業グループを見ます。親会社、子会社、持株会社、共同支配会社、PE、投資ファンドの関係を整理しておかないと、入口の判定を誤ってしまいます。
申告・様式・通達の更新確認も必要
グローバル・ミニマム課税は、制度そのものが現在も改正・更新され続けている領域です。
国税庁は、グローバル・ミニマム課税に関する別表、様式、記載要領、法令解釈通達を公表・更新しています。2026年時点でも、令和8年4月改訂の記載要領や、令和8年4月以降に提供された国際最低課税額に対する法人税等の別表が案内されています。
出典:国税庁|グローバル・ミニマム課税に関する様式等
出典:国税庁|グローバル・ミニマム課税に関する別表
また、法令解釈通達についても、令和5年、令和6年、令和7年、令和8年の改正通達および趣旨説明が公表されています。
出典:国税庁|グローバル・ミニマム課税に関する法令解釈通達
こうした状況ですので、実務では「去年確認したから今年も同じだろう」と考えるのは危険です。特に令和7年度・令和8年度改正では、UTPR、QDMTT、セーフ・ハーバー、CFC税制の見直しが続いています。
「対象外」と判断する場合に残すべき資料
中小・中堅企業でもっとも多いのは、「直接対象外」という結論です。
ただ、その場合でも、次のような資料を残しておくと、将来の説明がぐっと容易になります。
| 資料 | 残す理由 |
|---|---|
| グループ組織図 | 最終親会社・子会社関係を説明するため |
| 株主名簿・資本関係表 | 外国親会社・海外子会社・同族関係を把握するため |
| 直前4年度の売上推移 | 7億5,000万ユーロ基準を下回ることを説明するため |
| 海外子会社一覧 | 国際的活動の有無を確認するため |
| 海外支店・PEの有無の確認メモ | 子会社がなくても海外拠点がある場合に備えるため |
| 連結財務諸表又は連結不要の判断資料 | グループ判定の前提を残すため |
| M&A・再編予定のメモ | 将来判定が変わる可能性を管理するため |
| 顧問税理士・専門家との相談記録 | 判断過程を会社に残すため |
こうした資料の整理は、グローバル・ミニマム課税のためだけに行うものではありません。
外国子会社合算税制、移転価格税制、外国税額控除、海外子会社配当、M&A税務、税務調査対応にも、共通して役立ちます。
判断を誤ると何が経営上のリスクになるか
中小・中堅企業にとって、グローバル・ミニマム課税のリスクは、いきなり巨額の追加税額が発生することばかりではありません。
むしろ、次のような実務リスクのほうが、現実的な問題として立ち現れてきます。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 親会社報告に対応できない | 外国親会社や大企業買主から求められる税務データを提出できない |
| M&Aで評価を下げる | 税務資料が整っておらず、買主側のDDで管理リスクと評価される |
| 対象外判断を説明できない | なぜ制度対象外なのかを会社として説明できない |
| CFC・移転価格を見落とす | グローバル・ミニマム課税ばかりに意識が向き、通常の国際税務を見落とす |
| 会計処理と税務判断がずれる | 税効果・開示・親会社連結レポートと申告情報が整合しない |
| 制度改正に追随できない | 令和7年度・令和8年度改正や通達・様式更新を見落とす |
国際税務の高度な論点では、「税額が出るかどうか」だけでなく、「説明できるか」「資料があるか」「グループ内で整合しているか」が問われます。
これは、移転価格税制や外国子会社合算税制とも共通する考え方です。海外子会社や国外関連者との取引では、制度ごとの申告書だけでなく、契約、価格設定、機能リスク、資料保存、税務調査対応までを、一体で管理していく必要があります。
中小・中堅企業が専門家に相談すべきタイミング
次のいずれかに当てはまる場合は、グローバル・ミニマム課税が直接適用されるかどうかにかかわらず、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
| タイミング | 相談すべき理由 |
|---|---|
| 海外子会社を設立する | CFC、移転価格、源泉税、配当政策と同時に確認する必要がある |
| 外国親会社のグループに属している | 親会社報告、UTPR、QDMTT、情報提供の可能性を確認するため |
| 海外M&Aを検討している | 買収後のグループ税務報告、低税率国リスク、税制優遇の扱いを確認するため |
| 大企業グループに売却予定がある | 買主側の国際税務管理に耐えられる資料を整えるため |
| 上場準備・監査対応が始まる | 会計処理、税効果、開示、税務資料の整合性が必要になるため |
| 連結売上が急拡大している | 将来の7億5,000万ユーロ基準到達可能性を確認するため |
| 低税率国に子会社・持株会社・IP会社がある | CFC、移転価格、グローバル・ミニマム課税の横断確認が必要なため |
| 親会社からGloBE・Pillar Two関連資料を求められた | 申告書・会計資料・移転価格資料の整合性を確認するため |
相談の際には、少なくとも組織図、株主名簿、決算書、申告書、海外子会社一覧、海外取引一覧、連結売上推移、M&A予定資料を準備しておくと、論点の整理がスムーズに進みます。
まとめ:中小・中堅企業に必要なのは「直接対象か」ではなく「関係する可能性の棚卸し」
グローバル・ミニマム課税は、制度の中心だけを見れば、大企業向けの税制です。
しかし、中小・中堅企業にとっても、外資系子会社、海外子会社、M&A、上場準備、グループ再編、海外PE、親会社報告といった場面では、無関係とは言い切れません。
実務上の第一歩は、難解なGloBE計算を始めることではありません。
自社がどの企業グループに属しているのか。最終親会社はどこか。連結収入はどの程度か。海外子会社・海外支店・PEはあるか。M&Aや資本関係の変更で、グループ判定が変わる予定はあるか。親会社や買主から求められる資料に対応できるか。
こうした棚卸しができていれば、多くの会社では「対象外」と説明できる可能性が高まります。一方で、棚卸しをしないまま「中小企業だから関係ない」と処理してしまうと、親会社報告、M&A、税務調査、将来の制度改正対応の場面で、不意に問題化することがあります。
法人税務は、申告書を作る作業だけにとどまるものではありません。会社の現在地と将来の選択肢を守るために、制度の対象外であることも含めて、判断の過程を会社に残しておくこと。これが大切だと考えています。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
グローバル・ミニマム課税は、制度名だけを見ると、大企業向けの論点に見えます。しかし、海外子会社、外国親会社、M&A、グループ再編、上場準備が絡む場合には、中小・中堅企業でも、早い段階で確認しておく価値があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人税申告だけでなく、海外子会社管理、移転価格税制、外国子会社合算税制、外国税額控除、M&A税務、税効果会計、税務調査対応を一体で整理し、後から説明できる税務判断を大切にしています。
自社がグローバル・ミニマム課税の対象となる可能性があるか。対象外と判断するためには、どの資料を残しておくべきか。海外子会社や外国親会社との関係を、どう整理すればよいか。こうした点にご不安がある場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り:本稿の重要ポイント
| 論点 | 振り返り |
|---|---|
| 制度の位置づけ | グローバル・ミニマム課税は、一定規模以上の多国籍企業グループに最低15%水準の税負担を求める国際課税ルール |
| 適用対象 | 原則として、国際的に活動し、直前4事業年度のうち2事業年度以上で連結収入7億5,000万ユーロ以上のグループが入口 |
| 中小企業の基本姿勢 | 多くは直接対象外となる可能性が高いが、対象外の理由を資料で説明できる状態にする |
| 3つのルール | IIR、UTPR、QDMTTを分けて理解する |
| 外国親会社の日本子会社 | 自社単体が小規模でも、外国親会社グループが対象規模なら資料提供・申告対応が問題になり得る |
| M&A | 買収後に大規模多国籍企業グループの構成会社等となる可能性を確認する |
| 海外子会社 | グローバル・ミニマム課税以前に、CFC、移転価格、源泉税、外国税額控除を整理する |
| 制度改正 | 令和7年度・令和8年度改正、国税庁様式、通達、OECDガイダンスの更新確認が必要 |
| 会計への影響 | 監査対象会社、上場準備会社、外資系子会社では税効果会計・開示・親会社レポートにも注意 |
| 相談前資料 | 組織図、株主名簿、決算書、申告書、海外子会社一覧、連結売上推移、海外取引一覧を整理する |
| 実務上のゴール | 「対象かどうか」だけでなく、「なぜ対象外又は対象と判断したか」を後から説明できる状態にする |