相続時精算課税・生前対策の調査リスク|選択後に戻れない制度をどう管理するか

相続時精算課税や生前贈与は、相続対策を考える場面でよく話題にのぼる制度です。

令和6年1月1日以後の贈与からは、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられました。これを受けて、「これからは相続時精算課税を使えばよいのではないか」と考える方も増えてきたように感じます。

ただ、相続時精算課税は、単に「2,500万円まで贈与税がかからない制度」ではありません。一度選択すると、その特定贈与者からの贈与については、暦年課税に戻ることができなくなります。

相続が起きた際には、相続時精算課税の対象となった贈与財産を相続財産に加算して相続税を計算します。とりわけ不動産や自社株式を贈与した場合には、贈与時の評価額、登記、管理、収益の帰属、さらには将来の小規模宅地等の特例を使えるかどうかにまで影響が及びます。

相続税の調査では、「制度を使ったかどうか」だけが見られるわけではありません。その贈与が本当に成立していたのか、誰から誰への贈与だったのか、届出は期限内に提出されていたのか、相続税申告で正しく加算されているのか。こうした点が一つずつ確認されていきます。

この記事では、相続時精算課税と生前対策について、税務調査で問題になりやすい論点を、制度、証拠、財産管理、将来リスクの順に整理していきます。

目次

まず押さえておきたい結論

相続時精算課税や生前贈与を検討するとき、最初に確認しておきたいのは、次の4点です。

確認事項実務上の意味
贈与が本当に成立しているか贈与者の意思表示と受贈者の受諾、財産移転、管理支配の移転が必要
暦年課税か相続時精算課税か同じ「110万円」でも、制度の効果と相続時の取扱いが異なる
選択届出を期限内に提出しているか相続時精算課税は選択届出が出発点。提出漏れは調査で大きな問題になる
相続税申告で加算・控除を正しく処理しているか贈与時の価額、令和6年以後の基礎控除、贈与税額控除の確認が必要

相続時精算課税は、相続税対策というよりも、贈与税と相続税を通じて課税関係を整理していく制度だと考えています。ですから、「贈与税が少ないかどうか」だけで判断してしまうと、いざ相続税の調査で説明を求められたときに、言葉に詰まってしまうことがあります。

相続時精算課税はどのような制度か

相続時精算課税は、原則として、贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母などから、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の子または孫などへ財産を贈与した場合に選択できる制度です。

この制度を選択するには、最初に適用を受けようとする贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、一定の書類を添付した「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。

選択は贈与者ごとに行えます。ただし、いったん選択すると、その特定贈与者からの贈与については、その年分以後すべてに相続時精算課税が適用され、暦年課税に戻ることはできません。
出典:国税庁|No.4103 相続時精算課税の選択

制度の骨格を整理すると、次のとおりです。

項目相続時精算課税の取扱い
贈与者原則として60歳以上の父母・祖父母など
受贈者原則として18歳以上の子・孫など
選択単位贈与者ごと
選択後の変更その特定贈与者からの贈与について暦年課税へ戻れない
令和6年以後の基礎控除年110万円
特別控除累計2,500万円
税率基礎控除・特別控除後の金額に一律20%
相続時の取扱い相続時精算課税適用財産を相続税の課税価格に加算
加算価額原則として贈与時の価額。令和6年以後の贈与は年110万円の基礎控除後の残額

令和6年以後の贈与では、相続時精算課税に係る基礎控除額110万円を控除し、さらに累計2,500万円の特別控除額を控除した後の金額に、20%の税率を乗じて贈与税額を計算します。

注意したいのは、同一年中に2人以上の特定贈与者から贈与を受けた場合の扱いです。このとき、相続時精算課税に係る基礎控除額110万円は、特定贈与者ごとの課税価格であん分することになります。
出典:国税庁|No.4103 相続時精算課税の選択

つまり、「父から110万円、母から110万円を相続時精算課税で非課税にできる」と単純に考えてしまうのは危険です。暦年課税の110万円と、相続時精算課税の110万円は、同じ金額であっても、制度上の意味がまったく異なります。

暦年課税の生前贈与加算も、令和6年以後は確認範囲が広がる

生前贈与の調査リスクを考えるとき、相続時精算課税だけを見ていては足りません。暦年課税による贈与についても、相続税申告で加算の対象になる場合があるからです。

令和6年1月1日以後の暦年課税に係る贈与については、相続税の課税価格に加算される期間が、相続開始前7年以内へと延長されました。ただし経過措置が設けられており、相続開始日によって加算対象期間は次のように変わります。

被相続人の相続開始日暦年課税贈与の加算対象期間
令和8年12月31日まで相続開始前3年以内
令和9年1月1日から令和12年12月31日まで令和6年1月1日から死亡の日まで
令和13年1月1日以後相続開始前7年以内

また、令和9年1月2日以後に相続が開始する場合には、相続開始前3年以内に取得した財産以外の加算対象贈与財産について、贈与時の価額の合計額から総額100万円までは加算されません。
出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

ここで押さえておきたいのは、暦年課税では、加算対象期間内の贈与であれば、贈与税がかかったかどうかに関係なく相続税の課税価格に加算される、という点です。

したがって、年110万円以下の贈与で贈与税申告をしていなかった場合であっても、相続開始前の加算対象期間内に行われた贈与であれば、相続税申告での確認対象になります。
出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

税務調査では、過去の預金移動、証券移管、不動産登記、保険料の負担、親族口座への送金などから、生前贈与の有無が確認されていきます。令和6年以後の改正によって、調査で確認すべき年数と資料の範囲が広がった点は、実務上かなり大きな意味を持つと感じています。

相続時精算課税の選択届出は、調査で最初に確認される

相続時精算課税の調査対応で、最初に確認しておきたい資料があります。「相続時精算課税選択届出書」と贈与税申告書です。

相続時精算課税を選択しようとする受贈者は、選択しようとする贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、納税地の所轄税務署長へ相続時精算課税選択届出書を提出しなければなりません。贈与財産の価額が110万円を超えるなど、贈与税申告書を提出する場合には、届出書はその贈与税申告書に添付して提出します。
出典:国税庁|No.4304 相続時精算課税選択届出書に添付する書類

さらに、相続税法基本通達では、贈与税申告書の提出を要しない場合であっても、相続時精算課税の適用を受けようとする者は、相続時精算課税選択届出書を提出期限までに提出する必要があるとされています。提出期限までに届出書を提出しなかった場合には、相続時精算課税の適用を受けることはできません。
出典:国税庁|第21条の9《相続時精算課税の選択》関係

この点は、令和6年以後に基礎控除が創設されてから、いっそう注意が必要になりました。

「110万円以下だから申告も届出も不要」と考えてしまうと、相続時精算課税を選択したつもりでいても、制度上は選択できていない、という事態が起こり得ます。

一方で、いったん有効に相続時精算課税を選択した後の年については、相続時精算課税に係る基礎控除後の贈与税の課税価格がない場合、贈与税申告の義務がない場面もあります。ここを混同してしまうと、初年度の届出漏れ、2年目以降の申告要否の誤解、相続税申告時の加算漏れへとつながりかねません。

相続時精算課税は「贈与時の価額」で相続税に戻ってくる

相続時精算課税で最も誤解されやすいのは、相続時に加算される金額です。

相続時精算課税を選択した受贈者は、特定贈与者が亡くなったときに、それまでに受けた相続時精算課税適用財産の価額と、相続や遺贈により取得した財産の価額を合計して相続税を計算します。

このとき、相続財産と合算する相続時精算課税適用財産の価額は、原則として贈与時の価額です。令和6年1月1日以後の贈与については、贈与を受けた年分ごとに、相続時精算課税適用財産の贈与時の価額の合計額から、相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額となります。
出典:国税庁|No.4103 相続時精算課税の選択

これは、たとえば次のような場面で重要になってきます。

贈与後の状況相続税調査での確認点
贈与財産を売却した売却済みでも、贈与時の価額で相続税の課税価格に加算されているか
贈与財産を費消した現在残っていなくても、加算漏れになっていないか
贈与した不動産の価値が下落した相続時の時価ではなく、原則として贈与時の評価額で加算されているか
贈与した株式の価値が上昇した上昇益を移転できたかだけでなく、贈与時評価の妥当性を説明できるか
令和6年以後の贈与年110万円の基礎控除後の残額で加算されているか

相続時精算課税は、いわば「相続時まで課税を先送りする」性格を持った制度です。ですから、相続時精算課税を使った財産については、相続開始の時点で現物が残っているかどうかにかかわらず、贈与時の資料をきちんと保存しておく必要があります。

税務調査で確認されるのは「制度選択」だけではない

相続税の調査で相続時精算課税や生前贈与が問題になる場合、調査官は、おおむね次の順序で確認していきます。

1つ目は、贈与があったかどうかです。預金移動、不動産登記、証券口座の移管、保険料の負担、貸付金の免除、親族間売買などから、財産移転の有無が確認されます。

2つ目は、その移転が贈与として成立しているかどうかです。たとえ贈与契約書があっても、受贈者が贈与を認識していない、財産を管理していない、収益を受け取っていない、通帳や印鑑を贈与者が管理している。こうした事情があれば、名義財産として相続財産に含めるべきではないか、という問題になってきます。

3つ目は、課税方式です。暦年課税なのか、相続時精算課税なのか。相続時精算課税選択届出書はあるのか。特定贈与者ごとの管理ができているのか。令和6年以後の110万円基礎控除を、どちらの制度として処理したのか。こうした点が確認されます。

4つ目は、相続税申告への反映です。暦年課税の加算対象贈与財産、相続時精算課税適用財産、贈与税額控除、2割加算、小規模宅地等の特例との関係が、正しく処理されているかが見られます。

特に、相続時精算課税を選択した孫がいる場合には、法定相続情報一覧図だけでは十分でないことがあります。孫は相続人でない場合であっても相続時精算課税を選択できることがあり、相続税申告で加算の対象になり得るためです。

「贈与契約書があるから安全」とはいえない

生前贈与の調査では、贈与契約書の有無が確認されます。とはいえ、贈与契約書があるというだけで、贈与が当然に認められるわけではありません。

大切なのは、契約書、資金移動、名義変更、そしてその後の管理状況が、互いに整合しているかどうかです。

確認事項説明が弱くなる例
贈与意思贈与者だけが「贈与した」と認識し、受贈者が知らない
受諾受贈者が財産をもらった事実や金額を説明できない
財産移転口座間移動や名義変更が確認できない
管理支配贈与後も贈与者が通帳、印鑑、証券口座、賃貸管理を握っている
収益帰属贈与財産から生じる配当、家賃、利息を贈与者が受け取っている
贈与税申告必要な申告がない、または申告内容と実態が合わない
資金使途受贈者が自由に使えず、贈与者の指示で動かしている

贈与税は、個人から贈与により財産を取得したときに課される税金です。課税方法には暦年課税と相続時精算課税がありますが、いずれの場合も、前提として「贈与により財産を取得した」といえることが必要です。
出典:国税庁|No.4402 贈与税がかかる場合

税務調査で問われるのは、形式的に「贈与契約書を作ったかどうか」ではありません。実際に財産の管理・支配が移転していたかどうかです。

たとえば、子や孫の名義の預金であっても、原資が被相続人であり、通帳や印鑑を被相続人が管理し、受贈者が自由に使えない状態であれば、名義預金として相続財産に含まれるリスクがあります。

相続時精算課税を使った不動産贈与は、小規模宅地等の特例との関係に注意する

不動産を生前贈与するときは、相続時精算課税だけで判断してはいけません。

小規模宅地等の特例は、個人が相続または遺贈によって取得した一定の宅地等について、要件を満たす場合に評価減を認める制度です。国税庁は、相続時精算課税に係る贈与によって取得した宅地等については、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできないとしています。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

また、措置法通達でも、被相続人から贈与により取得した宅地等は特例対象宅地等に含まれません。そのため、加算対象贈与財産や相続時精算課税の適用を受ける財産であっても、小規模宅地等の特例の対象にはならないとされています。
出典:国税庁|措置法第69条の4関係通達 69の4-1

この点は、非常に重要です。

たとえば、将来、被相続人の自宅敷地として特定居住用宅地等の80%評価減を検討できたはずの土地を、生前に相続時精算課税で子に贈与してしまうと、その土地は「相続または遺贈により取得した宅地等」ではなくなります。その結果として、小規模宅地等の特例を使えない可能性が出てきます。

不動産贈与では、贈与税だけでなく、登録免許税、不動産取得税、固定資産税、将来売却時の譲渡所得、そして相続税での特例適用の可否まで含めて検討しておく必要があります。

住宅取得等資金の特例と相続時精算課税の混同にも注意する

住宅取得等資金の贈与については、相続時精算課税とは別に、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税制度や、住宅取得等資金に関する相続時精算課税選択の特例が問題になります。

令和8年12月31日までに、父母や祖父母などから住宅取得等資金の贈与を受け、一定の要件を満たす場合には、贈与者が60歳未満であっても相続時精算課税を選択できる特例があります。
出典:国税庁|No.4503 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税選択の特例

また、令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間に住宅取得等資金の贈与を受けた場合、要件を満たせば、住宅取得等資金の非課税特例と相続時精算課税を併せて適用できる場合があります。

ここで気をつけたいのは、同一の者から住宅取得等資金とそれ以外の財産の贈与を同一年中に受け、住宅取得等資金について相続時精算課税を選択した場合です。このとき、それ以外の財産についても相続時精算課税が適用されることになります。
出典:国税庁|No.4506 住宅取得等資金とそれ以外の財産を同一年中に贈与されたとき(相続時精算課税)

住宅資金の非課税制度、相続時精算課税、暦年課税は、それぞれ効果が違います。

「住宅資金だから非課税」「親からの贈与だから精算課税」「110万円以下だから申告不要」といった断片的な理解で処理してしまうと、いざ税務調査でどの制度を使ったのかと問われたときに、説明できなくなることがあります。

贈与者が贈与した年の途中で死亡した場合の注意点

贈与者が贈与した年の中途に死亡した場合、相続時精算課税の選択手続は、通常の場合とは異なります。

国税庁は、贈与者が贈与をした年の中途に死亡した場合に相続時精算課税の適用を受けるときは、贈与税の申告書を提出する必要はないものの、「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があるとしています。この場合の提出期限と提出先は通常と異なり、贈与税の申告書の提出期限または贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限のいずれか早い日までに、贈与者の死亡に係る相続税の納税地の所轄税務署長へ提出します。
出典:国税庁|No.4302 贈与者が贈与した年の中途に死亡した場合の相続時精算課税の選択

生前対策では、年末に近い時期に贈与を行うこともあります。贈与の直後に相続が発生すると、贈与税申告、相続税申告、相続時精算課税選択届出書の提出期限が、複雑に絡み合うことになります。

こうした場合には、単に「贈与税申告をしなくてよい」と考えるのではなく、届出書の提出が必要かどうか、相続税申告にどう反映するかを、あらためて確認しておく必要があります。

孫への相続時精算課税は、相続税の2割加算にも注意する

相続時精算課税は、一定の孫への贈与にも使えます。資産移転を一世代飛ばして行いたい場合に、検討されることがあります。

ただし、孫への贈与では、相続税の2割加算を確認しておく必要があります。国税庁は、相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族および配偶者以外である場合には、その人の相続税額に2割相当額を加算するとしています。代襲相続人となった孫は一親等の血族に含まれますが、代襲相続人ではない孫については注意が必要です。
出典:国税庁|No.4157 相続税額の2割加算

孫への贈与は、相続人間の公平感にも影響します。

長男の子には贈与したが、次男の子には贈与していない。孫には相続時精算課税で資産を移したが、相続人には説明していない。相続税申告では孫の贈与財産が加算されるのに、遺産分割協議ではその事情が共有されていない。

このような状態になると、税務の問題にとどまらず、遺産分割や遺留分、親族間の紛争にもつながりかねません。

生前対策は「税額」だけでなく、争族・納税資金・管理体制で見る

生前対策を相続税額の軽減だけで考えてしまうと、重要な判断を誤ることがあります。

相続対策では、少なくとも次の3つを分けて考える必要があります。

対策の種類目的生前贈与との関係
争族対策相続人間の争いを防ぐ贈与の偏り、特別受益、遺留分、説明不足が問題になる
納税資金対策相続税を納める資金を確保する現金を減らしすぎると、相続人が納税に困ることがある
税負担の調整贈与税・相続税の負担を比較する暦年課税、相続時精算課税、各種特例の組合せを検討する

「今の税額が少ない」ことと、「将来の相続税調査で説明できる」ことは、別の問題です。

不動産を贈与すれば、相続財産から外れたように見えるかもしれません。しかし、相続時精算課税なら相続税に加算されます。暦年課税でも、加算対象期間内であれば相続税に加算されます。さらに、小規模宅地等の特例が使えなくなる可能性もあります。

株式を贈与すれば、将来の値上がり益を移転できる場合があります。しかし、贈与時の株価評価が適切か、会社への貸付金や不動産の含み益が反映されているか、種類株式や議決権の問題がないか。これらを説明できなければ、調査で争点になってしまいます。

現金を毎年贈与していても、受贈者が自由に使えず、贈与者が管理していれば、名義財産として問題になります。

調査前に確認すべき資料

相続時精算課税や生前贈与がある相続税申告では、調査通知を受けてから慌てて資料を集めるのではなく、申告前、あるいは申告後の早い段階で、次の資料を整理しておきたいところです。

資料確認目的
贈与契約書贈与意思と受諾の確認
預金通帳・振込記録財産移転日、金額、原資、送金経路の確認
贈与税申告書暦年課税か相続時精算課税か、申告内容の確認
相続時精算課税選択届出書選択の有無、特定贈与者、提出期限の確認
税務署受付控・電子申告送信結果期限内提出の証拠
戸籍・住民票贈与者・受贈者の関係、年齢要件の確認
不動産登記事項証明書名義移転日、所有者、持分の確認
固定資産税通知書贈与後の負担者・管理者の確認
賃貸借契約書・家賃入金記録収益不動産の収益帰属の確認
証券会社の取引報告書株式・投資信託の移管、評価、配当帰属の確認
贈与後の管理資料受贈者が財産を管理していたかの確認
相続税申告書・財産評価明細相続時加算、贈与税額控除、2割加算等の確認

資料整理で大切なのは、1年分だけを見ないことです。

贈与開始年、制度選択年、相続開始年、申告期限、相続後の財産管理まで、時系列に沿って整理していく必要があります。

修正申告を検討する前に、争点を分ける

税務署から生前贈与や相続時精算課税について指摘を受けた場合、すぐに修正申告へ応じるのではなく、まずは争点を分けて整理することをおすすめします。

争点確認すべきこと
贈与の有無そもそも贈与が成立していたか、名義財産ではないか
課税方式暦年課税か、相続時精算課税か、届出は有効か
加算漏れ暦年課税の加算対象期間、相続時精算課税適用財産の加算が漏れていないか
評価誤り贈与時の財産評価に誤りがないか
税額控除贈与税額控除、相続時精算課税分の控除・還付が正しいか
特例との関係小規模宅地等の特例、住宅取得等資金、2割加算等に影響しないか
加算税リスク単なる誤りか、隠蔽・仮装と評価される事情があるか

特に避けたいのは、不利な事実を隠すことです。

実際には届出書を出していないのに「出したはず」と説明する。贈与後も親が管理していた預金を、子が自由に管理していたように説明する。相続後に作成した契約書を、当時から存在していたかのように扱う。贈与財産を相続税申告に加算していない理由を確認しないまま、感覚で説明する。

こうした対応は、重加算税や将来の不服申立てにおいて、不利な記録につながる可能性があります。

相続時精算課税を選ぶ前に確認すべき判断軸

相続時精算課税は、有効に使える場面もあります。しかし、選択の前に次の点を確認しないまま使うべきではありません。

判断軸確認内容
財産の種類現金、不動産、株式、自社株式、収益物件のどれか
価額変動将来値上がりが見込まれるか、値下がりリスクがあるか
収益帰属贈与後の家賃、配当、運用益を誰が受けるか
相続時の加算贈与時価額で相続税に加算されることを理解しているか
小規模宅地等不動産贈与により将来の特例適用を失わないか
相続人間の公平他の相続人・孫への説明、遺留分、特別受益の問題はないか
納税資金贈与により相続時の現金が不足しないか
届出管理初年度の選択届出、申告書、添付書類を管理できるか
将来の相続税申告何十年後でも贈与時資料を説明できるか

相続時精算課税は、「使うかどうか」よりも、「使った後に管理できるか」が重要だと考えています。

制度を選択してから相続が発生するまで、10年、20年と時間が空くことも珍しくありません。相続人が制度を知らない、受贈者が資料を失くしている、贈与者の通帳が確認できない、贈与税申告書の控えがない。そうした状態では、相続税調査での対応が難しくなってしまいます。

まとめ|生前対策は、相続税調査で説明できる形にしておく

相続時精算課税や生前贈与は、相続対策の有力な選択肢になり得ます。しかし、制度の効果だけを見て選んでしまうと、相続税調査で思わぬ問題が出てくることがあります。

令和6年以後の相続時精算課税には、年110万円の基礎控除があります。その一方で、一度選択すると暦年課税には戻れません。相続のときには、相続時精算課税適用財産を相続税の課税価格に加算します。

暦年課税の生前贈与についても、相続開始前7年以内加算の制度が、段階的に影響していきます。不動産贈与では、小規模宅地等の特例が使えなくなる可能性があります。孫への贈与では、2割加算や相続人間の公平も検討が必要です。

大切なのは、「贈与したつもり」「税金がかからないはず」「毎年110万円だから大丈夫」といった感覚で進めないことです。

誰から誰に、いつ、何を、どの制度で贈与したのか。その財産は誰が管理し、収益は誰に帰属しているのか。届出書と申告書は期限内に提出されているのか。相続税申告では、加算と控除が正しく反映されているのか。将来の相続人に説明できる資料が残っているのか。

これらを一つずつ整理して、はじめて、生前対策は税務調査に耐えられる実務になります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続時精算課税の選択前検討、生前贈与の実行後チェック、相続税申告における贈与加算の整理、名義財産・小規模宅地等の特例との関係、税務調査での説明資料作成まで、事実と証拠に基づいて支援しています。

相続時精算課税をすでに選択している方、生前贈与を続けている方、相続税申告で過去の贈与整理に不安がある方は、贈与契約書、通帳、贈与税申告書、相続時精算課税選択届出書、不動産・株式の評価資料を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。

振り返り|相続時精算課税・生前対策の調査リスク

論点重要ポイント調査前に確認すべき資料
贈与の成立契約書だけでなく、受贈者の認識、財産移転、管理支配が必要贈与契約書、通帳、名義変更資料
暦年課税令和6年以後の贈与は段階的に7年以内加算の対象贈与記録、通帳、贈与税申告書
相続時精算課税一度選択すると特定贈与者からの贈与は暦年課税に戻れない相続時精算課税選択届出書
令和6年以後の基礎控除相続時精算課税にも年110万円の基礎控除がある贈与年ごとの財産明細
初年度の届出110万円以下でも相続時精算課税を選ぶなら届出が必要税務署受付控、e-Tax送信結果
特別控除累計2,500万円。超過部分は20%課税過年度の贈与税申告書
相続時加算原則として贈与時の価額で相続税に加算贈与時評価明細、不動産・株式資料
贈与財産の管理贈与後も贈与者が管理していると名義財産リスク通帳・印鑑管理、収益入金記録
不動産贈与小規模宅地等の特例が使えなくなる可能性登記事項証明書、評価明細
住宅取得等資金非課税特例と相続時精算課税の関係を区別する住宅取得資料、申告書、届出書
孫への贈与相続時加算、2割加算、相続人間の公平に注意戸籍、贈与記録、相続関係図
贈与者の年途中死亡通常と異なる提出期限・提出先を確認相続時精算課税選択届出書、相続税申告資料
修正申告判断加算漏れか、評価誤りか、贈与不成立かを分ける指摘事項メモ、説明資料、証拠一式
重加算税リスク後付け契約書、不実説明、資料隠しを避ける当時資料、提出済資料、質問対応メモ
再発防止生前対策は実行後の資料管理まで含めて設計する贈与台帳、年次管理表、財産一覧
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