弁護士・司法書士・不動産鑑定士と連携すべき場面|相続税申告で税理士だけでは完結しない論点

相続税の申告や相続対策について、「税理士に依頼すれば、すべて解決する」と考えておられる方は少なくありません。

ただ、実際の相続では、税額の計算だけが論点になるわけではありません。相続人間の利害調整、遺言の有効性、遺留分、相続登記、共有不動産、土地の境界、農地法、不動産の時価、売却手続、国外財産、現地での相続手続など、性質の異なる問題が幾重にも絡み合います。これらをすべて税理士だけで処理しようとすると、かえって判断の前提を見誤ったり、本来は他の専門家が責任を負うべき領域にまで踏み込んでしまったりするおそれがあります。

相続税申告の品質は、税理士が一人で抱え込めるかどうかで決まるものではありません。必要な場面で、弁護士、司法書士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、不動産会社、行政書士、現地専門家などと、どれだけ適切に連携できるか。むしろ、ここに大きな差が生まれます。

この記事では、相続実務でとりわけ重要になる「弁護士・司法書士・不動産鑑定士」との連携場面を中心に、どの段階で、何を、誰に相談すべきかを整理していきます。

目次

まず押さえておきたい考え方:税理士は税務判断の専門家であり、すべての領域の代理人ではない

税理士の中心的な業務は、税務代理、税務書類の作成、税務相談です。相続税申告でいえば、課税財産の把握、財産評価、特例の適用、申告書の作成、税務署への対応、そして税務リスクの説明が主な役割になります。税理士法でも、税理士は税務に関する専門家として、納税義務の適正な実現を図ることを使命とし、税務代理・税務書類作成・税務相談を業務とすると定められています。
出典:e-Gov法令検索|税理士法

一方で、相続人間に争いがある場合の代理交渉、訴訟や調停への対応、遺留分侵害額請求への対応などは、原則として弁護士の領域です。弁護士法では、訴訟事件、非訟事件、行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事務を行うことが弁護士の職務として定められています。あわせて、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で一般の法律事件に関する鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務を業として取り扱うことは制限されています。
出典:e-Gov法令検索|弁護士法

また、不動産登記や相続登記の申請代理は、司法書士の中心的な領域です。法務省は、司法書士の業務として、登記または供託に関する手続の代理、裁判所・検察庁・法務局に提出する書類の作成、登記・供託に関する審査請求手続の代理、簡裁訴訟代理等関係業務などを整理しています。
出典:法務省|司法書士の業務

そして、不動産の鑑定評価は、不動産鑑定士の専門領域です。不動産の鑑定評価に関する法律は、「不動産の鑑定評価」を、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することと定義し、不動産鑑定士の業務として不動産の鑑定評価を行うことを定めています。
出典:e-Gov法令検索|不動産の鑑定評価に関する法律

こうして見ていくと、相続実務で問われるのは「誰が上位の専門家か」ではないことが分かります。大切なのは、どの論点を、どの専門家の責任範囲で判断するのか。この切り分けにこそ、実務上の意味があります。

専門家連携の基本図

相続や贈与における専門家連携を考えるときは、次のように整理すると全体像がつかみやすくなります。

主な論点中心となる専門家税理士との関係
相続税申告、財産評価、特例判断、税務調査対応税理士税務上の判断・申告・説明根拠を整理する
遺産分割紛争、遺留分、交渉代理、調停・訴訟弁護士分割案ごとの税額・納税資金・譲渡課税を税理士が試算する
相続登記、不動産名義変更、信託登記、会社登記司法書士登記内容と相続税申告・遺産分割協議書の内容を整合させる
不動産の時価、鑑定評価、特殊土地の評価不動産鑑定士通達評価、鑑定評価、売却価額、調査リスクを比較する
境界確定、測量、分筆、地積更正土地家屋調査士評価単位、地積、分割方法、登記に影響する
不動産売却、媒介、買主探索宅地建物取引業者売却時期、譲渡所得税、納税資金との関係を税理士が整理する
農地法、農業委員会、転用、農地バンク行政書士、農業委員会、司法書士等農地評価、納税猶予、分割・売却・転用の税務影響を税理士が整理する
海外相続手続、プロベート、現地法現地弁護士・現地税務専門家等日本の相続税申告、外国税額控除、外貨換算を税理士が整理する

この整理は、単なる形式論ではありません。専門家の関与が遅れると、税務上の特例が使えなくなる、登記が進まない、売却できない、遺産分割協議が無効・不完全になる、税務調査で説明できないといった、実務上の不都合に直結します。

弁護士と連携すべき場面

弁護士との連携が必要になる典型は、相続人間に利害の対立がある場合、あるいは対立が生じる可能性が高い場合です。

相続税申告では、誰がどの財産を取得するかによって、税額、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例、納税資金、二次相続への影響が変わってきます。分割案ごとの税務影響を整理するのは、税理士の役割です。しかし、一方の相続人の代理人として他の相続人と交渉したり、法的主張を組み立てて調停・訴訟に対応したりすることは、税理士の通常業務ではありません。

弁護士に相談すべき代表的な場面としては、次のようなものが挙げられます。

  • 遺産分割協議がまとまらない
  • 相続人の一部が財産資料を開示しない
  • 使途不明金や生前の預金引出しが問題になっている
  • 遺言の有効性に疑義がある
  • 遺留分侵害額請求が予想される、または現に請求された
  • 特別受益や寄与分をめぐり相続人間で主張が対立している
  • 被相続人と同居していた相続人への不信感が強い
  • 代償金の支払能力や支払条件で争いがある
  • 内縁関係、前婚の子、認知、養子縁組など家族関係が複雑である
  • 遺産分割調停・審判に進む可能性がある

遺産分割事件では、相続人の範囲、遺言の存否と有効性、遺産分割協議の有効性、遺産の範囲、特別受益、寄与分、遺産評価、具体的相続分、使途不明金、葬儀費用、遺産管理費用、遺産から生じた果実など、実に多岐にわたる争点が生じ得ます。

ここで意識しておきたいのが、税理士と弁護士の役割分担です。弁護士は、法的紛争の代理や調整を担います。税理士は、分割案ごとの相続税額、特例の適用、譲渡所得税、納税資金、二次相続への影響を整理します。

たとえば、不動産を長男が取得し、他の相続人に代償金を支払う案があるとします。このとき、弁護士は合意形成や法的条件を整理し、税理士は代償金の記載、相続税の計算、納税資金、将来売却したときの譲渡所得税を検討します。どちらか一方だけで進めてしまうと、法的には合意できても税務上は不利になる、あるいは税務上は有利でも相続人間の納得が得られない、といった事態が起こりかねません。

「まだ争っていない段階」でも弁護士連携を検討すべき場合

弁護士への相談は、紛争が始まってからとは限りません。

むしろ、次のような場合には、問題が表面化する前に、法的リスクを確認しておく方が望ましいことがあります。

  • 特定の相続人に財産を集中させる遺言を作成したい
  • 事業承継のために非上場株式を後継者に集中させたい
  • 相続人の一部に多額の生前贈与がある
  • 相続人の一人が親の介護や財産管理を担ってきた
  • 兄弟姉妹間で連絡が取りづらい
  • 認知症が疑われる時期に作成された遺言や贈与がある
  • 遺留分侵害額請求を受ける可能性が高い

税務上は「この分け方なら税額が下がる」という結論になったとしても、法的な紛争リスクが高ければ、全体としてよい相続対策とはいえません。相続対策では、節税、納税資金、争族の防止を一体で考える必要があります。相続税対策だけを先行させると、相続人に長期の借入負担や不公平感を残してしまうことがあるからです。

税理士が早い段階で弁護士と連携するのは、「揉めそうだから丸投げする」ためではありません。税務と法務の両面に耐えられる選択肢を、あらかじめ用意しておくためです。

司法書士と連携すべき場面

司法書士との連携が必要になる中心的な場面は、不動産や会社に関する登記です。

相続税申告では、不動産の評価や取得者を申告書に記載します。しかし、申告書を提出しただけでは、不動産の名義は変わりません。遺産分割協議書を作成しても、登記が未了のままであれば、売却、担保設定、建替え、共有解消、次の相続時の整理に支障が出ることがあります。

特に現在は、相続登記の義務化を前提に実務を考える必要があります。法務省は、令和6年4月1日から相続登記が義務化されたこと、相続したことを知った日から3年以内に登記する必要があること、正当な理由なく義務に違反した場合には10万円以下の過料が科される可能性があることを案内しています。これは義務化前の相続も対象で、義務化前に相続したことを知った不動産は、令和9年3月末までに登記する必要があります。
出典:法務省|相続登記の義務化

司法書士に相談すべき代表的な場面は、次のとおりです。

  • 相続登記を行う
  • 遺産分割協議書を、登記に使える内容に整える
  • 法定相続分登記後に、遺産分割による持分移転登記を行う
  • 換価分割のために、売却前の相続登記を行う
  • 共有不動産の持分を整理する
  • 配偶者居住権の設定登記を行う
  • 家族信託の信託登記を行う
  • 同族会社の役員変更、株式承継、種類株式など会社登記が絡む
  • 古い相続が未登記のまま残っている
  • 所有者不明土地、休眠担保権、表題部のみの登記などがある

不動産登記は司法書士の独占業務です。相続実務では、不動産売却があれば不動産業者等と、不動産の相続登記があれば司法書士と連携する必要があると整理できます。

相続税申告と登記内容を一致させる重要性

税理士と司法書士の連携で何より重要なのは、相続税申告書、遺産分割協議書、登記内容のあいだに矛盾を生じさせないことです。

たとえば、相続税申告では長男が土地を取得したものとして小規模宅地等の特例を適用したのに、登記手続では別の相続人との共有にしてしまう。これでは、申告内容と法的な権利関係が整合しません。反対に、登記を急いで共有名義にしてしまった後で、税務上は単独取得の方が望ましかったと気づいても、後から分割をやり直すと、贈与税や譲渡所得税の問題が生じることがあります。

換価分割でも注意が必要です。遺産である不動産を売却して代金を分配する場合、被相続人名義から直接買主名義へ登記を変更することはできません。前提として、相続登記が必要になります。

ですから、不動産がある相続では、「税理士が申告書を作ってから司法書士に登記を依頼する」という順番にこだわらない方がよいでしょう。遺産分割案を検討する段階で、司法書士にも確認しておく方が安全です。

遺言の作成・執行で連携すべき場面

遺言は、相続対策のなかでも、法務と税務が強く交差する領域です。

遺言によって、誰にどの財産を承継させるかを明確にしておけば、遺産分割協議の負担を減らせる場合があります。その一方で、遺留分を無視した遺言、税務上不利な財産配分、登記できない表現、換価手続が不明確な遺言、受遺者が先に死亡した場合の備えがない遺言は、かえって紛争や申告上の混乱を招きかねません。

公正証書遺言の作成では、公証人、弁護士、司法書士、税理士が関与することがあります。公証実務では、遺言の方式、法定相続分、遺留分、公正証書遺言の作成に必要な書類、不動産の特定資料などが問題になります。

このなかで税理士が関与すべきなのは、遺言の内容が将来の相続税申告にどう影響するか、という点です。具体的には、次のような観点になります。

  • 小規模宅地等の特例を使いやすい取得者になっているか
  • 配偶者の税額軽減に偏りすぎて、二次相続で不利にならないか
  • 代償金の原資があるか
  • 不動産を共有にして、将来きちんと管理できるか
  • 非上場株式を後継者に集中させた場合の遺留分対策はあるか
  • 生命保険金や死亡退職金とのバランスは取れているか
  • 法人、公益法人、第三者への遺贈で課税関係に問題がないか
  • 換価型遺言で、譲渡所得税や申告期限に対応できるか

弁護士は、紛争予防、遺留分、複雑な家族関係、遺言能力に疑義がある場合に重要な役割を担います。司法書士は、不動産登記や信託登記、遺言執行に関連する登記実務で力を発揮します。そして税理士は、相続税、譲渡所得税、法人税、贈与税への影響を整理します。

遺言の作成段階で専門家連携ができていないと、相続が開始してから「法的には有効だが税務上は不利」「税務上は有利だが登記や執行が難しい」といった問題が表面化してしまいます。

不動産鑑定士と連携すべき場面

相続税申告における不動産評価は、原則として財産評価基本通達に基づいて行います。路線価方式、倍率方式、画地補正、貸宅地、貸家建付地、地積規模の大きな宅地、小規模宅地等の特例など、多くの評価判断は税理士が担います。

しかし、次のような場合には、不動産鑑定士との連携を検討すべきです。

  • 通達評価額と実勢価格に大きな乖離がある
  • 相続人間で不動産の価額に争いがある
  • 遺産分割調停・審判で評価額が問題になっている
  • 売却予定価格と相続税評価額の差が大きい
  • 土壌汚染、埋蔵文化財、地下埋設物、高圧線下地など特殊な事情がある
  • 無道路地、接道不良、建築制限、がけ地、私道負担がある
  • 市街化調整区域、開発許可、農地転用など利用制限がある
  • 借地権、底地、貸宅地、定期借地権など権利関係が複雑である
  • 共有不動産や一部売却予定地の時価を把握したい
  • 同族会社との不動産取引や低額譲渡リスクを検討する

ただし、「鑑定評価を取れば、必ず相続税評価額を下げられる」と考えるのは危険です。税務上は、鑑定評価額が通達評価額を下回るという理由だけで、ただちに通達によらない評価が認められるわけではありません。鑑定意見書に基づく評価方法が一般に是認でき、客観的交換価値を示し得るものであっても、それだけでは評価通達によるべきでない特別の事情があるとはいえない、とされた裁判例も整理されています。

国土交通省は、不動産鑑定評価基準およびその運用上の留意事項を、不動産鑑定士が鑑定評価を行うにあたっての統一的な基準として位置づけています。
出典:国土交通省|法令・不動産鑑定評価基準等

つまり、不動産鑑定士に依頼する意味は、単に評価額を下げることにあるのではありません。税務上の通達評価、実勢価格、鑑定評価、分割上の時価、売却見込額を並べて比較し、どの目的でどの価額を使うのかを整理すること。ここにこそ、本来の意味があります。

鑑定評価を検討する前に、税理士が整理しておくべきこと

不動産鑑定士に依頼する前に、税理士の側で整理しておきたい点があります。

  • 相続税申告上の評価額を検討したいのか
  • 遺産分割協議上の時価を把握したいのか
  • 売却価格の妥当性を確認したいのか
  • 同族会社・親族間取引の時価を確認したいのか
  • 調停・訴訟で提出する資料として必要なのか
  • 税務調査で説明するための補助資料として必要なのか

目的が違えば、必要となる評価資料も変わります。相続税申告用の評価、遺産分割のための評価、売却交渉のための査定、裁判手続での鑑定。同じ「価額」という言葉でも、その意味するところは一つひとつ異なります。

この切り分けをしないまま鑑定評価を取得すると、高額な費用をかけたにもかかわらず、税務申告にも遺産分割にも十分に使えない、という結果になりかねません。

農地・生産緑地がある場合は、税理士だけで判断しない

農地は、一般的な宅地とは事情が異なります。農地法、農業委員会、都市計画、生産緑地、農地の納税猶予、農地バンク、相続登記、転用許可といった制度が、幾重にも関係してきます。

農林水産省は、農地を相続したときは農地所在地の農業委員会への届出が必要であること、土地を相続した場合は相続を知った日から3年以内の登記が必要であることを案内しています。さらに、農地を貸す・売る場合は原則として農業委員会の許可が必要であり、農地を転用する場合も自由にはできず、原則として都道府県知事等の許可が必要とされています。
出典:農林水産省|農地相続ポータル

農地案件では、次のような連携が必要になります。

  • 税理士:農地評価、納税猶予、相続税申告、贈与税、譲渡所得税
  • 司法書士:相続登記、所有権移転登記
  • 行政書士等:農地法の許可・届出、農業委員会対応
  • 不動産鑑定士:特殊な農地・転用見込地・時価の把握
  • 土地家屋調査士:測量、分筆、地目変更、境界確認
  • 弁護士:共有農地、貸借関係、相続人間の紛争

農地の相談では、農地法、農業振興地域整備法、都市計画法、生産緑地法といった関連制度の把握に加えて、基礎資料の収集、役所調査、現地調査、農地の利用状況、近隣状況、関係者の意向把握が重要になります。

特に農地等の納税猶予を検討する場合には、農業相続人の要件、対象農地の要件、申告期限内の遺産分割、期限内申告、添付書類が関係してきます。

農地は「評価額が低いから問題が少ない財産」ではありません。むしろ、利用・売却・転用・承継者の意思・納税猶予の継続要件が重く、税務と法務を切り離して考えにくい財産だといえます。

不動産の売却を予定している場合

相続税を納めるために不動産を売却する場合や、換価分割で不動産を売却して代金を分ける場合も、専門家連携が欠かせません。

不動産の売却には、少なくとも次の論点が絡みます。

  • 売却前に相続登記が必要か
  • 遺産分割協議書に換価分割として記載すべきか
  • 売却代金を誰が受け取り、どのように分配するか
  • 売却益に対する譲渡所得税が発生するか
  • 取得費加算の特例を検討できるか
  • 空き家特例を検討できるか
  • 売却予定価額と相続税評価額に大きな差がないか
  • 売却する土地の境界・測量・越境・私道負担に問題がないか
  • 相続税の申告期限までに売却代金が入金されるか
  • 共有名義にすると、売却の判断が難しくならないか

宅地建物取引業法は、宅地建物取引業を、宅地・建物の売買・交換や、売買・交換・貸借の代理・媒介を業として行うものと定義し、宅地建物取引業を営む者に免許制度を設けています。
出典:e-Gov法令検索|宅地建物取引業法

不動産会社は、市場での売却実務に強みがあります。ただし、相続税申告上の評価や譲渡所得税の判断を行う専門家ではありません。不動産会社の査定額、相続税評価額、不動産鑑定評価額は、それぞれ目的が異なります。

したがって、不動産の売却を前提とする相続では、税理士、司法書士、不動産会社、そして必要に応じて不動産鑑定士・土地家屋調査士が、同じ前提を共有しておく必要があります。

国際相続では、国内の専門家だけで完結しないことがある

海外居住者、外国籍の相続人、国外財産、海外金融口座、海外不動産、海外遺言がある場合は、国際相続として整理する必要があります。

国税庁は、相続人が外国に居住している場合の相続税の納税義務者について、日本国内に住所がない人は原則として取得した財産のうち日本国内にある財産だけが相続税の課税対象になる一方で、一定の場合には国外財産も相続税の課税対象になる、と案内しています。
出典:国税庁|No.4138 相続人が外国に居住しているとき

国際相続では、次の点を整理していきます。

  • 被相続人の住所・国籍・在留資格
  • 相続人の住所・国籍・在留資格
  • 国内財産と国外財産の範囲
  • 日本の相続税の納税義務者に該当するか
  • 国外財産の評価資料をどう取得するか
  • 外貨建財産をどの為替相場で換算するか
  • 海外で相続税・遺産税を納める場合の外国税額控除
  • 海外不動産や海外口座の名義変更手続
  • プロベートなど現地手続の要否
  • 翻訳・認証・アポスティーユ等の要否
  • 日本の遺産分割協議書で海外財産が動くか

国際相続では、日本の相続税・贈与税、住所判定、納税義務者、財産の所在地、国外財産の評価、外貨換算、外国税額控除、国際私法、海外の相続手続、海外遺言、プロベートなどが、横断的に問題になります。

この場合、税理士は日本の相続税申告を中心に整理します。一方で、現地の名義変更や裁判所手続、相続人資格の確認、現地での税務申告については、現地弁護士・現地税務専門家・金融機関・大使館関係手続などとの連携が必要になることがあります。

認知症・後見・家族信託が絡む場合

相続発生前の対策では、本人の判断能力が決定的に重要になります。

贈与、遺言、不動産売却、家族信託、任意後見契約などは、いずれも本人の意思能力や契約能力が前提です。判断能力に疑義がある状態で、無理に贈与や不動産移転を行うと、後日、親族間紛争や税務調査の場で問題になりかねません。

認知症が疑われる親の財産管理では、預貯金の引出し、不動産の処分、贈与、代理、後見、親族間紛争、税務調査が、いずれも問題となり得ます。

家族信託では、税理士、司法書士、弁護士、行政書士、不動産鑑定士、宅地建物取引士などのチームワークが重要であり、各士業法を尊重しながら連携する姿勢が求められます。

この領域では、司法書士や弁護士が契約・登記・後見申立てを担い、税理士が贈与税、相続税、譲渡所得税、不動産所得、信託受益権の評価などを整理します。高齢期の対策を「相続税対策」としてだけ捉えてしまうと、本人の意思の尊重や財産管理の安全性を見落としやすくなります。

連携が必要かどうかを見極めるチェックポイント

次のいずれかに当てはまる場合は、税理士が単独で進めるのではなく、他の専門家との連携を検討すべきです。

確認項目連携を検討すべき専門家
相続人間で意見対立がある弁護士
遺留分、特別受益、寄与分、使途不明金が問題になっている弁護士、税理士
遺言の有効性や遺言能力に疑義がある弁護士、公証人、司法書士、税理士
不動産の相続登記が必要司法書士
換価分割で不動産を売却する司法書士、不動産会社、税理士
共有不動産を整理したい弁護士、司法書士、税理士、不動産会社
土地の境界・測量・分筆が必要土地家屋調査士、司法書士、税理士
不動産の時価に争いがある不動産鑑定士、弁護士、税理士
通達評価と売却価額に大きな差がある不動産鑑定士、税理士
農地・生産緑地がある行政書士、農業委員会、司法書士、税理士
海外居住者や国外財産がある税理士、弁護士、現地専門家
認知症・後見・家族信託が絡む弁護士、司法書士、税理士
同族会社株式や会社不動産がある税理士、公認会計士、司法書士、弁護士

大切なのは、最初から全員に依頼することではありません。まず、どの論点が税務、法務、登記、評価、売却、国際手続のいずれに属するのかを整理し、必要な専門家を適切な順番で関与させていくことです。

専門家連携で失敗しやすい進め方

相続実務でよくある失敗は、専門家に相談していないことばかりではありません。相談の順番や、情報共有の不足によっても、問題は起こります。

たとえば、次のような進め方には注意が必要です。

  • 不動産会社に売却だけを先に依頼し、相続登記や譲渡税を後回しにする
  • 弁護士が作成した分割案について、税額・納税資金の確認を後から行う
  • 税理士が作成した申告内容と、司法書士の登記内容が一致していない
  • 鑑定評価を取得したものの、相続税申告で使う目的が整理されていない
  • 農地の評価だけを行い、農地法・転用・納税猶予を確認していない
  • 遺言を作成したが、二次相続や小規模宅地等の特例を検討していない
  • 海外財産について、日本の相続税申告と現地手続を別々に進めている
  • 相続人の一部だけが専門家と情報共有し、他の相続人が不信感を抱く

相続では、専門家が多ければよいというものではありません。各専門家が異なる前提で動いてしまうと、かえって混乱を招きます。

だからこそ、最初に「誰が全体の論点整理を行うのか」を決めておくことが重要です。税務が中心なら税理士、紛争が中心なら弁護士、登記整理が中心なら司法書士、不動産評価が中心なら不動産鑑定士を起点にしつつ、必要な領域を横断していく。これが、現実的な進め方になります。

税理士に期待していただきたい、専門家連携の役割

相続税申告における税理士の役割は、すべての手続を代行することではありません。

むしろ、税理士に期待していただきたいのは、次のような整理です。

  • この問題は税務判断か、それとも法務判断か
  • この遺産分割案は、税務上どのような影響があるか
  • 登記前に確認すべき税務論点は何か
  • 不動産評価について、鑑定評価を検討すべきか
  • 売却予定不動産について、譲渡税や納税資金はどうなるか
  • 農地や生産緑地について、税務だけで判断していないか
  • 国外財産について、日本側の申告と現地手続がつながっているか
  • 他の専門家に渡すべき資料は何か
  • 申告後の税務調査で、きちんと説明できるか

税理士が他の専門家と連携する意味は、無理に業務範囲を広げることにあるのではありません。むしろ、業務範囲を明確にしたうえで、判断の品質を高めることにあります。

ご相談をご検討の方へ

相続や贈与のご相談では、「税理士に相談すべきか、弁護士に相談すべきか、司法書士に相談すべきか、不動産鑑定士に相談すべきか」。この見極めが、最初の悩みになることがあります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税申告や相続対策を、税額の計算だけでなく、遺産分割、登記、不動産評価、納税資金、二次相続、税務調査での説明可能性まで含めて整理することを重視しています。すべてを当事務所だけで抱え込むのではなく、弁護士、司法書士、不動産鑑定士等との連携が必要な場面を早期に見極め、税務判断と他専門家の判断が矛盾しないように進めること。ここを大切にしています。

不動産、非上場株式、農地、国外財産、遺言、過去の贈与、名義財産、相続人間の不安などがある場合は、まず現在の状況とお手元の資料を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。どの専門家に、どの順番で、何を確認すべきかを整理することが、後から説明できる相続税申告と承継判断の出発点になります。

この記事の振り返り

重要論点判断のポイント連携すべき専門家
税理士の役割相続税申告、財産評価、特例判断、税務調査対応が中心税理士
遺産分割紛争交渉代理、調停、訴訟、遺留分、特別受益、寄与分は法務領域弁護士
相続登記相続税申告だけでは名義は変わらず、登記内容との整合が必要司法書士
相続登記義務化令和6年4月1日から義務化。相続を知った日から3年以内が原則司法書士、税理士
遺言作成法的有効性、遺留分、登記、税務効果を同時に確認する弁護士、司法書士、公証人、税理士
不動産鑑定通達評価と時価、売却価額、分割上の評価を区別する不動産鑑定士、税理士
農地・生産緑地農地法、農業委員会、転用、納税猶予、相続登記が絡む行政書士、司法書士、税理士
不動産売却相続登記、換価分割、譲渡所得税、納税資金を同時に検討する司法書士、不動産会社、税理士
国際相続日本の相続税、現地手続、国外財産評価、外国税額控除が絡む税理士、弁護士、現地専門家
連携の目的専門家を増やすことではなく、判断範囲と責任を明確にすること案件に応じて選択
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