国際相続の相談前に整理すべき資料|住所履歴・国外財産・海外手続を同時に確認する

国際相続のご相談では、最初の面談で「海外に財産があります」「相続人の一人が海外に住んでいます」とお伝えいただくだけでは、正確な判断まで進めないことが少なくありません。

理由は、国際相続で問題になるのが、単に「日本の相続税がかかるかどうか」にとどまらないからです。被相続人と相続人の住所、国籍、在留資格、過去の居住履歴、国外財産の所在地、海外口座の名義、現地での相続手続、日本での相続税申告期限、外国税額控除、国外財産調書、CRSによる金融口座情報の把握といった論点が、同時に絡み合ってきます。

しかも、海外財産に関する資料は、取得そのものに時間がかかります。海外銀行の残高証明、証券口座の明細、国外不動産の評価資料、現地の税務申告書、プロベート関係書類、翻訳や認証が必要な書類などは、日本国内の相続税申告期限を待ってはくれません。

相続税の申告期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。相続財産が未分割のままであっても、申告期限が当然に延びるわけではありません。出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

そこでこの記事では、国際相続のご相談前に何を整理しておくとよいのかを、税務・法務・資料収集・申告後の説明可能性という観点から整理してみます。

目次

国際相続の資料整理は「税額計算のため」だけではない

国際相続の相談前資料というと、海外口座の残高証明や不動産の評価書だけを思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし実務上は、資料を整理する目的を、次の5つに分けて考えておく必要があります。

目的確認する理由
日本の相続税・贈与税の課税範囲を判定する被相続人・相続人の住所、国籍、居住履歴によって、国内財産だけか、国外財産も含むかが変わる
国外財産の存在と所有者を確認する海外口座・海外不動産・外国株式が誰の財産かを確認する
相続税評価額と外貨換算を行う相続開始日時点の評価資料、為替レート、現地評価書が必要になる
海外の名義変更・承継手続を進める日本の遺産分割協議書だけでは海外財産が動かない場合がある
申告後の税務調査に備える国外財産調書、財産債務調書、CRS情報、送金履歴との整合性が問われる

こうして見ると、国際相続の相談で必要なのは「海外財産の一覧」だけではないことがわかります。人の情報、財産の情報、税務資料、法務資料、現地手続資料を、同時に整理しておくことが重要になります。

まず整理すべきは「人」の情報

国際相続では、財産よりも先に、人の情報を確認します。

というのも、日本の相続税・贈与税では、相続人等が財産を取得した時点で日本国内に住所を有しているか、日本国籍を有しているか、被相続人がどの区分に該当するか、といった事情によって、課税対象となる財産の範囲が変わってくるためです。

相続などで財産を取得した時に外国に居住していて、日本に住所がない方は、原則として、取得した財産のうち日本国内にある財産だけが相続税の課税対象になります。ただし、日本国籍の有無、相続開始前10年以内の国内住所の有無、被相続人の区分などによっては、国外財産も日本の相続税の課税対象に含まれることがあります。
出典:国税庁|No.4138 相続人が外国に居住しているとき

ご相談の前には、少なくとも次の情報を整理しておきます。

区分整理する情報
被相続人氏名、生年月日、死亡日、死亡時の住所、国籍、過去10年程度の居住履歴
相続人氏名、続柄、住所、国籍、日本国籍の有無、海外居住開始時期
外国籍の関係者在留資格、日本滞在歴、相続開始時の居住地、永住・一時滞在の別
海外在住日本人住民票の除票、戸籍の附票、在留証明、署名証明の要否
相続人以外の受遺者居住地、国籍、遺言による取得内容、2割加算や課税範囲への影響
生前贈与を受けた人贈与時の住所、国籍、贈与財産、贈与税申告の有無

ここで気をつけたいのは、「いま海外に住んでいるかどうか」だけで判断しないことです。

国際相続では、相続開始時点の住所に加えて、過去の居住履歴、国籍、被相続人側の住所・国籍、在留資格までさかのぼって確認します。海外赴任、留学、永住、二重国籍、帰国予定、一時滞在といった事実関係の違いが、税務判断を左右することがあるためです。

住所履歴は「ざっくり海外在住」では足りない

国際相続では、住所履歴の整理が非常に重要な意味を持ちます。

ご相談の前に、被相続人と相続人について、少なくとも次のような時系列表を作っておくと、初期の判断が大きく進みます。

年月被相続人の住所・居所相続人の住所・居所補足
2010年4月東京都東京都国内居住
2016年8月東京都米国カリフォルニア州長女が海外赴任
2020年1月シンガポール米国被相続人が海外移住
2024年6月東京都米国被相続人が帰国
2026年3月東京都米国相続開始

このような表を作る際は、次の資料を手元に集めておきます。

資料確認できること
戸籍の附票日本国内外の住所履歴の手掛かり
住民票の除票日本から海外へ転出した事実
在留証明海外における住所・居住期間の証明
パスポート出入国、滞在履歴の補助資料
ビザ・在留資格資料一時滞在か長期居住かの確認
現地の納税者番号・居住者証明現地税務上の居住地判定の補助資料
雇用契約・海外赴任辞令海外居住の目的・期間の説明資料
賃貸借契約・公共料金明細生活の本拠の補助資料

在留証明は、外国に住む日本人が、どこに住所、つまり生活の本拠を有しているか(または有していたか)を在外公館が証明するものです。日本国内の不動産登記や年金手続などで、外国における住所証明を求められた場合に発給される行政証明です。
出典:外務省|在外公館における証明

海外在住の相続人が遺産分割協議書に署名する場合には、日本の印鑑証明の代わりに署名証明が必要になることがあります。署名証明は、日本に住民登録をしていない海外在留者に対して、日本の印鑑証明に代わるものとして、日本での手続のために発給されるものです。
出典:外務省|在外公館における証明

相続人情報は「戸籍」だけでなく海外手続に使える形で整理する

日本国内の相続では、戸籍、除籍、改製原戸籍、法定相続情報一覧図を集めることで相続人を確定します。

国際相続でも、日本の相続税申告や国内財産の名義変更には、これらの資料が欠かせません。ただし、海外財産がある場合には、さらに「海外手続でそのまま使える形」に整えておく必要があります。

相談前に整理しておきたい相続人資料は、次のとおりです。

資料用途
被相続人の出生から死亡までの戸籍一式日本法上の相続人確定
相続人全員の現在戸籍相続人の存在・続柄確認
法定相続情報一覧図国内金融機関・登記手続での利用
相続人の住所証明国内在住者は住民票、海外在住者は在留証明等
相続人の本人確認資料パスポート、マイナンバーカード、運転免許証等
海外在住者の署名証明遺産分割協議書、銀行手続、登記手続
外国籍相続人の身分関係資料出生証明、婚姻証明、死亡証明、現地ID等
翻訳文海外機関・国内機関の求めに応じて準備
認証・アポスティーユの要否確認提出国・提出機関の要求に応じて判断

日本で発行された戸籍や遺産分割協議書を外国の機関へ提出する場合、提出先によっては、公印確認、アポスティーユ、領事認証、翻訳が必要になることがあります。アポスティーユは、ハーグ条約に基づく外務省の証明であり、提出先国がハーグ条約の締約国であれば、原則として領事認証と同等のものとして扱われます。ただし、締約国であっても、提出先の機関が領事認証を求めてくる場合があります。
出典:外務省|公印確認・アポスティーユとは

ここで大切なのは、どの国に、どの書類を、どの形式で提出するのかを早い段階で確認しておくことです。同じ戸籍であっても、日本の税務署に提出する場合、国内金融機関に提出する場合、海外裁判所に提出する場合、海外の不動産登記機関に提出する場合とで、求められる形式が違ってきます。

海外財産は「国別・名義別・財産種類別」に一覧化する

国際相続のご相談前に、最も重要な作業の一つが、海外財産の一覧化です。

このとき、単に「海外口座あり」「米国株あり」と書くだけでは足りません。税務判断では、財産の所在地、名義、実質的な所有者、評価時点、取得者、現地税務、送金履歴まで確認していく必要があるためです。

次のような一覧表を作っておくと、ご相談がぐっと進みやすくなります。

国・地域財産種類金融機関・所在地名義人通貨相続開始日残高・価額資料の有無
米国銀行預金○○Bank被相続人USD未確認月次明細あり
米国上場株式○○証券被相続人USD未確認取引報告書あり
豪州不動産シドニー被相続人・配偶者共有AUD未確認固定資産税資料あり
シンガポール投資口座○○Bank長男名義SGD未確認原資確認中
香港生命保険○○Insurance契約者:被相続人USD未確認保険証券あり

整理のポイントは、名義と実質を分けて見ることにあります。

たとえば、海外口座の名義が子であっても、資金の原資が被相続人であり、通帳やオンラインアクセス、投資判断を被相続人が管理していたような場合には、相続税申告上、被相続人の財産として問題になる可能性があります。国内の名義預金と同じように、海外口座についても、資金原資、管理状況、収益の帰属、贈与契約、贈与税申告の有無を一つひとつ確認します。

海外口座は残高証明だけでは足りない

海外口座の相続税評価では、相続開始日時点の残高証明が必要になります。しかし、残高証明だけでは、税務上の説明として不十分なことがあります。

ご相談の前には、次の資料を、可能な範囲で集めておきます。

資料確認する内容
相続開始日現在の残高証明相続税評価額の基礎
月次・年次ステートメント相続開始日前後の残高推移
取引履歴生前贈与、送金、貸付、引出しの確認
利息・配当明細準確定申告、所得帰属の確認
口座開設書類名義人、共同名義、受益者、住所地国
CRS・税務居住地届出関係居住地国の申告内容との整合性
海外送金記録資金原資、贈与・貸付・生活費の区別
閉鎖口座の履歴過去の資金移動、財産移転の確認

CRSは、外国の金融機関等を利用した国際的な脱税・租税回避に対応するため、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換する国際基準です。各国の税務当局は、自国の金融機関等から非居住者の金融口座情報の報告を受け、租税条約等に基づいて、その非居住者の居住地国の税務当局へ情報を提供します。
出典:国税庁|共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換に関する情報

つまり、海外口座を「どうせ見つからない財産」と考えるべきではありません。申告の前に、名義、実質的な所有者、残高、収益、送金履歴を整理しておくことが、税務調査リスクを下げるうえで重要になります。

国外不動産は「評価資料」と「現地手続資料」を分けて集める

国外不動産がある場合、相談前に集める資料は、大きく2つに分かれます。

一つは、日本の相続税申告で評価するための資料です。もう一つは、現地で名義変更・売却・管理を行うための資料です。

区分主な資料
評価資料現地固定資産税評価資料、鑑定評価書、売買事例、査定書、賃貸契約、ローン残高、管理費資料
権利資料登記簿、権利証、タイトルレポート、共同所有契約、信託契約
収益資料賃料明細、管理会社報告書、修繕費、固定資産税、保険料
債務資料モーゲージ残高証明、担保契約、返済予定表
現地手続資料プロベート書類、遺言、死亡証明、相続人証明、翻訳・認証書類
売却予定資料売却査定、仲介契約、売買契約案、譲渡税見込

日本の相続税評価では、国外財産も原則として、日本の財産評価の考え方に沿って評価します。ただし、通達による評価が難しい場合には、現地評価書、取得価額の時点修正、相続開始後の売却価額など、合理的な資料を組み合わせて説明していくことになります。

外貨建ての財産については、邦貨換算も必要です。相続税や贈与税を計算する場合の外貨は、原則として、納税義務者の取引金融機関が公表する課税時期における最終の対顧客直物電信買相場、つまりTTB(またはこれに準ずる相場)によって換算します。
出典:国税庁|No.4665 外貨(現金)の邦貨換算

ここで注意したいのは、現地の固定資産税評価額や売却査定額を、そのまま日本の相続税評価額として使えるとは限らない、という点です。現地制度上の評価目的、評価時点、評価主体、換算レートを確認したうえで、日本の申告書上できちんと説明できる形に整えておく必要があります。

外国株式・海外証券口座は国外転出時課税も意識する

海外証券口座や外国株式がある場合には、相続税評価だけでなく、国外転出時課税の有無もあわせて確認します。

国外転出時課税制度では、1億円以上の対象資産を所有等している一定の居住者から、非居住者へ贈与、相続または遺贈によって対象資産が移転した場合に、その含み益に対して所得税および復興特別所得税が課税されることがあります。
出典:国税庁|国外転出時課税制度

ご相談の前には、次の資料を整理しておきます。

資料確認内容
証券口座一覧国内証券会社、海外証券会社、保管国
保有銘柄一覧上場株式、投資信託、債券、外国ETF、非上場株式
相続開始日評価額時価、基準価額、終値、取引通貨
取得価額資料含み益、譲渡所得、国外転出時課税の確認
配当・利息明細準確定申告、外国税額控除、源泉税確認
相続人ごとの取得予定非居住者が取得するかどうか
納税猶予資料国外転出時課税の納税猶予を検討する場合

国外転出時課税は、相続税ではなく所得税の問題として現れます。そのため、相続税申告期限の10か月だけを見ていると、準確定申告の期限に間に合わなくなるおそれがあります。

準確定申告は、年の中途で亡くなった方について、相続人等がその死亡の日までの所得金額と税額を計算し、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告・納税する手続です。
出典:国税庁|No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)

現地税務書類は「外国税額控除」と「二重課税」の判断材料になる

海外財産に、現地の相続税、遺産税、贈与税、キャピタルゲイン税、源泉税などがかかる場合には、日本側で外国税額控除を検討することがあります。

ただし、外国で税金を払ったからといって、必ず日本の相続税から全額を控除できるわけではありません。どの財産に対する、どの税目に相当する租税なのか、誰に課税されたのか、いつ納税したのか、日本の相続税額の限度内に収まるのか、といった点を確認していきます。

相談前に集めておきたい現地税務資料は、次のとおりです。

資料確認内容
現地相続税・遺産税申告書課税財産、納税者、税額、評価額
納税証明書実際に納付した税額と納付日
現地税務通知書課税根拠、税目、対象財産
源泉徴収明細配当、利息、不動産収入に対する源泉税
現地所得税申告書海外不動産所得、譲渡所得、配当所得
税理士・弁護士のレター現地税制の説明、申告内容の補足
租税条約関連資料国によっては条約上の調整が問題になる

外国税額控除は、二重課税を調整するための重要な制度ですが、資料が不足したままでは、適用の可否も控除額の計算もできません。特に、海外での申告期限と日本の相続税申告期限がずれる場合には、いったん日本の相続税申告を行ったうえで、後日、更正の請求等を検討する、という流れになることもあります。

遺言・信託・プロベート関係資料は早めに確認する

国際相続では、日本の遺産分割協議だけでは海外財産が動かない、ということがあります。

たとえば、英米法系の国・地域では、プロベートと呼ばれる裁判所等の手続を経なければ、財産の名義変更や換金が進まない場合があります。また、共同名義、ジョイント口座、トラスト、受益者指定など、日本の民法上の相続とは異なる仕組みによって財産が承継されることもあります。

ご相談の前には、次の資料を確認しておきます。

資料確認内容
日本の遺言書公正証書遺言、自筆証書遺言、遺言執行者の有無
海外遺言財産所在地国で作成された遺言、対象財産、執行者
信託契約委託者、受託者、受益者、信託財産、承継条項
プロベート申立書類現地手続の進捗、裁判所、代理人
Letters of Administration等管理者・執行者の権限確認
受益者指定書保険、退職口座、証券口座、年金口座
共同名義契約Joint Tenancy、Tenancy in Common等の内容
現地専門家の意見書現地法上の承継方法、必要資料、税務影響

日本の国際私法では、相続についてどの国の法律を適用するかが問題になります。日本法上は、法の適用に関する通則法によって、相続は原則として被相続人の本国法によるとされています。ただし、海外不動産や海外金融機関の手続では、財産所在地国・金融機関所在地国の法制度や実務が、別途問題になってきます。

ですから、「日本人だから日本の遺産分割協議書だけで足りる」とは限りません。日本法上の承継関係、現地手続、現地税務、日本の相続税申告を、それぞれ分けて整理しておく必要があります。

国外財産調書・財産債務調書の提出履歴を確認する

被相続人が生前に国外財産調書や財産債務調書を提出していた場合、それらは相続財産を把握するうえで重要な手掛かりになります。

国外財産調書は、居住者(非永住者を除きます)で、その年の12月31日において価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する方が、翌年6月30日までに提出する制度です。なお、相続開始年の年分については、その相続または遺贈により取得した国外財産を記載しないで提出できる取扱いもあります。
出典:国税庁|No.7456 国外財産調書の提出義務

財産債務調書は、一定の所得・財産規模に該当する方などが、保有する財産の種類、数量、価額、債務の金額その他の必要事項を記載して、翌年6月30日までに提出する制度です。こちらも、相続開始年分については、相続または遺贈により取得した財産・債務を記載しないで提出できる取扱いがあります。
出典:国税庁|No.7457 財産債務調書の提出義務

相談前には、次の点を確認しておきます。

確認事項実務上の意味
被相続人が国外財産調書を提出していたか海外口座・国外不動産・外国株式の把握に役立つ
被相続人が財産債務調書を提出していたか国内外の財産・債務の全体像を確認できる
相続人自身に提出義務があるか相続後の年末時点で調書提出が必要になる場合がある
調書と相続税申告書の整合性申告漏れ、評価差異、名義財産の説明に関係する
過去の提出漏れがないか加算税や税務調査対応に影響する可能性がある

調書制度は、相続税申告書とは別の制度です。しかし、相続税申告における財産の計上と矛盾があれば、税務調査の場で説明を求められる可能性があります。

相談前に避けたい資料整理の失敗

国際相続でよくある失敗は、資料が不足していることそのものよりも、何が不足しているのか分からないまま時間が過ぎてしまうことにあります。

特に、次のような整理は避けたいところです。

1. 海外財産を国別に分けず、まとめてしまう

「海外口座」「海外不動産」と一括りにしてしまうと、どの国の法律、どの通貨、どの金融機関、どの税務当局が関係するのかが見えてきません。国別・財産種類別・名義別に整理しておきます。

2. 相続開始日ではなく、資料取得日の残高だけを見てしまう

相続税評価は、原則として相続開始時点の価額を基礎とします。資料取得日の残高や、後日の売却価額だけで判断してしまうと、評価時点を誤るおそれがあります。

3. 海外在住の相続人の署名・住所証明を後回しにする

海外在住者の署名証明や在留証明は、在外公館への申請、予約、郵送、本人の出頭が必要になることがあります。遺産分割協議書が完成してから準備に取りかかると、申告期限に影響することがあります。

4. 現地税務と日本税務を別々に進めてしまう

現地で提出した相続税・遺産税申告書の評価額、対象財産、納税者、納税日は、日本の外国税額控除や相続税評価と密接に関係します。現地専門家と日本側専門家の間で、情報を共有しておく必要があります。

5. 名義人だけで所有者を判断してしまう

海外口座や外国法人株式では、名義人、実質的な所有者、受益者、管理者が一致しないことがあります。資金原資、管理状況、収益の帰属、契約関係を確認しておきます。

6. 「海外の手続が終わってから日本の申告を考える」としてしまう

海外手続が長期化しても、日本の相続税申告期限は原則として延びません。未分割申告、概算評価、後日の更正の請求、外国税額控除の後日対応など、期限内にできる対応を検討しておきます。

相談前チェックリスト

国際相続のご相談前には、次の表をもとに、分かる範囲で資料を整理しておくと効果的です。すべてを初回相談時に完璧にそろえる必要はありません。大切なのは、すでに存在する資料、不足している資料、取得に時間がかかる資料を切り分けておくことです。

分類整理する資料・情報優先度
基本情報被相続人の死亡日、死亡時住所、国籍、海外居住歴
相続人情報相続人全員の氏名、住所、国籍、居住履歴、連絡先
戸籍関係戸籍、除籍、改製原戸籍、戸籍の附票、法定相続情報一覧図
海外在住者資料在留証明、署名証明、パスポート、現地住所証明
国内財産国内預金、不動産、有価証券、保険、債務、同族会社資料
海外口座残高証明、取引履歴、月次明細、口座開設書類
海外証券保有銘柄、評価額、取得価額、配当・利息明細
国外不動産登記資料、評価資料、賃貸契約、固定資産税資料、ローン残高
外貨換算相続開始日の為替レート、取引金融機関の公表相場
現地税務現地相続税・遺産税申告書、納税証明、税務通知
日本税務過去の所得税申告書、国外財産調書、財産債務調書
贈与履歴贈与契約書、送金記録、贈与税申告書、受贈者管理資料
遺言・信託日本遺言、海外遺言、信託契約、受益者指定
現地手続プロベート書類、現地専門家の連絡先、必要書類リスト
納税資金国内外預金、売却予定資産、送金制限、為替リスク
税務調査対応CRS、国外送金、調書、申告書の整合性確認

専門家に伝えるべきこと

国際相続のご相談では、資料そのものだけでなく、次のような事情も早めに共有しておくことが重要です。

伝えるべき事情なぜ重要か
相続人間で分割方針が決まっているか未分割申告、特例適用、海外手続に影響する
海外財産を誰が取得する予定か非居住者取得、国外転出時課税、現地手続に影響する
海外財産を売却する予定があるか評価、譲渡税、納税資金、為替に影響する
現地専門家に相談済みか現地手続と日本申告の整合性を取る必要がある
過去に海外送金や贈与があるか名義財産、贈与税、相続財産加算に影響する
海外口座のログイン情報を把握しているか財産調査、残高証明、取引履歴取得に影響する
申告期限までの残り期間資料取得、評価、分割協議、納税資金に影響する
争いになりそうな親族関係があるか弁護士連携、遺産分割方針、税務申告の進め方に影響する

国際相続は、税理士だけで完結しないことも多い分野です。弁護士、司法書士、行政書士、現地の弁護士、現地の税理士、不動産鑑定士、金融機関、翻訳者、公証関係者との連携が必要になることがあります。

国際相続の相談では「資料が全部そろってから」では遅い

国際相続では、初回相談の時点で、すべての資料がそろっている必要はありません。

むしろ、早い段階でご相談いただきたいのは、次のような場合です。

早期相談が必要な場面理由
海外在住の相続人がいる署名証明、在留証明、分割協議、納税義務者判定に時間がかかる
海外口座・海外証券がある残高証明、取引履歴、外貨換算、CRS対応が必要
国外不動産がある評価資料、現地登記、現地税務、売却方針を確認する必要がある
海外遺言・信託がある日本法上の相続と現地手続の整合性を確認する必要がある
被相続人が海外移住していた住所判定、課税財産範囲、国外転出時課税を確認する必要がある
相続人が非居住者として財産を取得する所得税・相続税・送金・納税管理人の論点が生じる可能性がある
現地税金を払う予定がある外国税額控除、納税時期、証明書取得を管理する必要がある
申告期限まで時間がない未分割申告、概算評価、後日対応の方針が必要

資料がそろっていない段階であっても、相続人・財産・期限・不足資料を整理すれば、優先順位を付けることができます。国際相続では、「完全な資料を待つ」よりも、不足している資料を明確にしたうえで、期限に間に合う判断手順を組むことのほうが重要です。

国際相続の相談前整理で不安がある場合

国際相続では、海外財産の有無だけでなく、被相続人と相続人の住所履歴、国籍、在留資格、国外財産の所在地、現地税務、遺言、プロベート、外貨換算、国外転出時課税、そして国外財産調書・財産債務調書との整合性まで、幅広く確認していく必要があります。

相談前に資料を整理する目的は、単に税理士へ渡す書類を増やすことではありません。日本でどの財産に相続税がかかるのか、海外財産をどう評価するのか、誰が何を取得すべきか、現地手続と日本の申告をどう両立させるのか、そして申告後にきちんと説明できるのか――こうした点を判断するためです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、海外在住者・国外財産・海外口座・国外不動産・外国株式・現地税務書類が関係する相続について、初期論点の整理、必要資料の洗い出し、日本の相続税申告に向けた評価・外貨換算・調書制度との整合性確認をご支援しています。

海外財産がある相続で、何から整理すればよいか分からないという場合は、まず分かる範囲で、住所履歴、相続人情報、国内外の財産一覧、海外口座資料、遺言・信託関係資料、過去の申告書をまとめたうえでご相談ください。資料が不足している段階であっても、不足資料と期限を整理することで、次に取るべき行動がはっきりと見えてきます。

振り返り|国際相続の相談前に整理すべき資料

重要項目確認する内容実務上の意味
被相続人の住所履歴死亡時住所、過去の居住地、海外移住歴日本の相続税の課税範囲、準確定申告、納税地に影響
相続人の住所・国籍海外在住、日本国籍、外国籍、居住期間納税義務者区分、国外財産課税、署名証明に影響
在留資格・居住証明在留証明、ビザ、現地居住者証明住所判定、海外在住者手続の基礎資料
戸籍・法定相続情報戸籍、除籍、戸籍の附票、法定相続情報一覧図相続人確定、国内手続、海外提出書類の基礎
海外口座残高証明、取引履歴、名義人、実質所有者相続財産計上、名義財産、税務調査対応に影響
海外証券保有銘柄、評価額、取得価額、配当明細相続税評価、準確定申告、国外転出時課税に影響
国外不動産登記資料、現地評価、賃貸契約、ローン残高相続税評価、現地名義変更、売却判断に必要
外貨換算相続開始日のTTB等日本円での相続税評価に必要
現地税務書類遺産税・相続税申告書、納税証明、税務通知外国税額控除、二重課税調整に必要
遺言・信託日本遺言、海外遺言、信託契約、受益者指定財産承継方法、プロベート、税務処理に影響
プロベート資料現地裁判所書類、執行者・管理者資料海外財産の名義変更・換金に必要
国外財産調書提出履歴、記載財産、相続開始年の取扱い申告漏れ、加算税、税務調査対応に影響
財産債務調書国内外財産・債務の記載内容財産全体の把握、相続税申告との整合性確認
納税資金国内外預金、売却予定資産、送金可否10か月以内の申告納税に向けた資金計画
不足資料リスト取得中、取得不能、翻訳・認証が必要な資料期限管理、専門家連携、申告後説明に必要
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