国外転出時課税・国外財産調書・CRSと相続|海外移住・海外口座がある場合の税務リスク整理

海外移住や海外口座のことを相続対策の文脈で考えるとき、どうしても「日本の相続税がかかるかどうか」という一点に関心が集まりがちです。しかし、実務の現場では、その確認だけでは足りません。

海外に住むお子さまへ株式を渡す。海外移住を予定している親御さまが多額の有価証券を持っている。被相続人に海外の銀行口座や証券口座がある。国外財産調書を過去に提出していたかどうかが分からない。相続が起きたあとになって、CRS情報や国外送金の記録から海外財産が判明する。

このようなケースでは、日本の相続税申告だけでなく、国外転出時課税、国外財産調書、財産債務調書、CRSによる金融口座情報の自動的交換、税務調査対応が一体となって問題になってきます。

国際相続では、住所判定、納税義務者、国外財産の評価、外貨換算、外国税額控除に加えて、国外送金等調書、国外財産調書、国外転出時課税、金融口座情報の自動的交換制度といった、情報把握・課税補完のための制度もあわせて確認しておく必要があります。

本稿では、海外移住や国外資産の管理が、将来の相続税務にどのように影響していくのかを整理します。

目次

国外資産がある相続で、まず分けて考えるべき3つの制度

海外に財産がある場合、出発点となるのは、次の制度を混同しないことです。

制度主な税目・目的相続との関係
国外転出時課税所得税・復興特別所得税海外移住、非居住者への贈与・相続で、対象資産の含み益課税が問題になる
国外財産調書情報申告制度海外財産の保有状況を税務署へ報告する制度。相続税の申告漏れ時の加算税にも影響
財産債務調書情報申告制度高額財産保有者の財産・債務を報告する制度。国外財産も含めた資産把握に関係
CRS国際的な金融口座情報交換海外金融口座の残高・収益情報等が税務当局間で自動交換される
国外送金等調書法定調書海外送金・受領の情報が金融機関から税務署へ提出される場合がある

ここで押さえておきたいのは、これらの制度が「相続税の申告書」とは別物でありながら、相続税申告の正確性や、税務調査での説明のしやすさに強く影響してくる、という点です。

たとえば、国外財産調書に記載されていた海外口座が、相続税申告書に反映されていない。こうした状態では、申告漏れを疑われやすくなります。逆に、過去の調書、海外口座の明細、送金記録、現地の税務資料がきちんと整理されていれば、相続税申告において、財産の存在、評価額、取得者、外貨換算、所得の帰属といった点を説明しやすくなります。

国外転出時課税は「相続税」ではなく「所得税」の問題

国外転出時課税は、その名前から「海外移住したときの税金」と受け取られがちですが、実は相続や贈与の場面でも問題になります。

制度の基本は、含み益への課税にあります。一定の居住者が1億円以上の対象資産を所有等している状態で国外転出する場合、あるいは、その一定の居住者から非居住者へ贈与・相続・遺贈によって対象資産が移転する場合に、その対象資産を譲渡・決済したものとみなし、含み益に対して所得税および復興特別所得税を課税する仕組みです。
出典:国税庁|国外転出時課税制度 出典:国税庁|No.1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例

相続の場面では、特に次の点が重要になります。

確認事項実務上の意味
被相続人が一定の居住者だったか相続開始日前10年以内の国内住所・居所期間などを確認する
対象資産が1億円以上あるか有価証券、匿名組合契約の出資持分、未決済信用取引、未決済デリバティブ取引等を確認する
非居住者である相続人等が取得するか海外在住の子や孫が相続・遺贈で取得する場合に問題になる
準確定申告が必要か相続開始を知った日の翌日から4か月以内の準確定申告に影響する
納税猶予を使うか担保提供、納税管理人、届出、継続届出などの管理が必要になる

国外転出時課税は、相続税の加算項目ではありません。被相続人側の所得税、つまり準確定申告の問題として現れる点に、注意が必要です。

たとえば、海外在住のお子さまが、日本に住んでいた親から上場株式や投資信託を相続するとします。このとき確認すべきなのは、相続税だけではありません。国外転出(相続)時課税による所得税が生じるかどうかも見ておく必要があります。相続税の申告期限は10か月ですが、準確定申告は、原則として相続開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。ここを見落とすと、相続税申告に着手した時点で、準確定申告の期限がすでに目前に迫っている、あるいは過ぎてしまっている、ということが起こりえます。
出典:国税庁|No.1468 相続又は遺贈により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例(国外転出(相続)時課税) 出典:国税庁|No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)

国外転出時課税の対象資産は、海外不動産や預金そのものではない

国外転出時課税を検討するときに、まず確かめたいのは「海外財産があるか」ではありません。対象資産があるかです。

対象資産には、株式や投資信託といった有価証券、匿名組合契約の出資持分、未決済の信用取引・発行日取引、未決済デリバティブ取引などが含まれます。一方で、海外不動産、海外預金、現金そのものは、通常、この制度の対象資産には当たりません。

ただし、次のような財産は判定を誤りやすいため、注意が必要です。

財産・取引確認すべきこと
外国上場株式国内証券会社保管か海外証券口座保管かにかかわらず、有価証券として対象になり得る
外国投資信託対象資産に該当するか、評価額をどう把握するか
海外証券口座口座単位ではなく、中身の有価証券等を確認する
非上場外国法人株式評価額、実質所有者、支配関係を確認する
ストックオプション等国内源泉所得を生ずべき一定の権利の取扱いを確認する
デリバティブ取引未決済取引の有無、損益相当額を確認する

「海外口座にあるから国外転出時課税の対象」「日本の証券会社にあるから対象外」という単純な切り分けにはなりません。見るべきは、財産の保管場所だけではなく、対象資産の種類、所有者、価額、そして移転先の居住性です。

海外在住の相続人へ株式を渡す場合は、遺産分割にも影響する

国外転出(相続)時課税は、遺産分割の方針そのものにも影響してきます。

たとえば、相続人が次のような構成だったとしましょう。

相続人居住地取得予定財産
長男日本自宅不動産
長女海外上場株式・投資信託
配偶者日本預金・生活資金

このケースで、長女が非居住者であり、かつ被相続人の対象資産が1億円以上ある場合には、長女が株式・投資信託を取得することで、国外転出(相続)時課税が問題になる可能性が出てきます。

ここで、「長女には金融資産を渡したほうが分けやすい」という家族間の公平感だけで判断してしまうと、思わぬ落とし穴があります。準確定申告、納税資金、納税猶予の手続、将来帰国の見込み、株式の売却予定まで、すべてが連動して検討対象になってくるからです。

遺産分割にあたっては、次のような比較が欠かせません。

選択肢税務・実務上の確認点
非居住者が対象資産を取得する国外転出(相続)時課税、準確定申告、納税猶予、将来帰国の有無
居住者が対象資産を取得する国外転出(相続)時課税の対象外となる可能性、相続人間の公平性
非居住者には代償金を支払う代償金の資金源、送金手続、為替、贈与認定リスク
対象資産を売却して換価分割する相続開始前後の売却時期、譲渡所得、相続税評価、納税資金

国外転出時課税は、節税策というよりも、誰が何を取得するかによって発生し得る追加論点だと捉えるのが実務的です。相続人が海外にいる場合は、遺産分割協議に入る前に確認しておきたい制度といえます。

納税猶予は「払わなくてよい制度」ではなく、管理が続く制度

国外転出時課税には、一定の手続を踏むことで納税猶予を受けられる仕組みがあります。ただし、これは国外転出、贈与、相続のいずれの場面であっても、手続要件、担保提供、納税管理人、届出書類、継続適用届出といった管理が伴うものです。

相続の場合には、国外転出(相続)時課税の申告をする相続人が所定の手続を行うことで、相続開始の日から5年間、延長届出によって最長10年間、納税猶予を受けられる場合があります。もっとも、準確定申告書への記載、一定書類の添付、担保提供、非居住者である相続人等の納税管理人の届出などが必要になります。
出典:国税庁|No.1468 相続又は遺贈により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例(国外転出(相続)時課税)

納税猶予を選ぶ場合には、次のような点を確認しておきます。

確認事項注意点
担保提供税額だけでなく利子税相当額も考慮する
継続適用届出毎年の届出を失念すると猶予期限が確定する可能性がある
対象資産の売却・贈与一部確定により納税が必要になることがある
相続人の帰国予定一定期間内に帰国し、要件を満たす場合の課税取消しを検討
相続人が複数海外在住全員の手続協力、署名、納税管理人管理が必要になりやすい
遺産分割の変更非居住者に移転する対象資産が増減すると修正申告・更正の請求が問題になる

納税猶予は、資金繰りの面では有効な選択肢になり得ます。とはいえ、手続管理を誤ると期限が確定し、猶予されていた所得税と利子税を納める必要が生じることもあります。海外在住の相続人がいる場合は、どうしても手続の連絡が遅れがちです。相続が起きたら、できるだけ早い段階で論点として上げておくことが大切です。

国外財産調書は、海外財産を「見える化」する制度

国外財産調書は、その年の12月31日時点で、価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する居住者(非永住者を除きます)が、その国外財産の種類、数量、価額その他必要事項を記載し、翌年6月30日までに提出する制度です。
出典:国税庁|No.7456 国外財産調書の提出義務

相続実務では、国外財産調書について、次の2つを確認します。

1つ目は、被相続人が過去に国外財産調書を提出していたかです。提出していたのであれば、その記載財産は、相続財産調査の重要な手掛かりになります。海外預金、海外証券口座、海外不動産、外国法人株式、海外保険、貸付金などが記載されている可能性があります。

2つ目は、相続人自身に提出義務が生じるかです。相続によって海外財産を取得した相続人が、その後も国外財産を保有し続ける場合、年末時点の保有状況によっては、国外財産調書の提出義務が問題になります。

なお、相続開始年分の国外財産調書については、その相続または遺贈によって取得した国外財産を記載しないで提出できる取扱いがあります。この場合、相続開始年分の提出義務を判定する際には、国外財産の価額の合計額から相続国外財産の価額を除いて判定します。

ただし、この取扱いは「相続財産を相続税申告に含めなくてよい」という意味ではありません。あくまで、国外財産調書の提出・記載に関する取扱いです。相続税の課税対象になるかどうかは、被相続人・相続人の住所、国籍、居住履歴、財産の所在地などをふまえて、別途判断することになります。

国外財産調書の提出状況は、加算税にも影響する

国外財産調書は、単なる参考資料ではありません。その提出状況や記載内容は、所得税・相続税の申告漏れがあった場合の過少申告加算税・無申告加算税にも影響します。

国税庁の説明によれば、提出期限内に提出された国外財産調書に記載がある国外財産について、所得税・相続税の申告漏れが生じたときは、その国外財産に係る過少申告加算税等が5%軽減されます。一方で、提出期限内に国外財産調書の提出がない場合や、記載すべき国外財産の記載がない場合などには、一定の場合に過少申告加算税等が5%加重されます。
出典:国税庁|No.7456 国外財産調書の提出義務

実務上は、次のように整理すると分かりやすいでしょう。

状況実務上の意味
国外財産調書に海外財産を適切に記載していた後日申告漏れがあっても、加算税軽減の余地がある
国外財産調書を提出していない申告漏れがあった場合、加算税加重の可能性がある
調書は提出したが重要財産の記載がない不十分な記載として扱われる可能性がある
関連資料を求められて提示できない軽減不適用や加重割合の引上げが問題になることがある
相続開始年の相続国外財産提出義務・記載省略に特別な取扱いがあるため、年分ごとに確認する

海外財産がある相続では、過去の国外財産調書の有無を確認するだけでは足りません。調書に記載された財産と、実際に相続税申告書へ計上する財産とが一致しているかどうかを照合しておくことが重要です。

財産債務調書は、国内外を含めた高額財産の全体像を示す

財産債務調書は、国外財産調書よりも対象が広く、国内財産・国外財産に加えて債務まで含めた、財産状況の全体を報告する制度です。

提出義務者は、大きく次のいずれかに該当する方です。

区分主な要件
所得要件型所得税の確定申告等をする必要がある方等で、退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、年末時点で財産3億円以上または国外転出特例対象財産1億円以上を有する方
財産規模型年末時点で価額合計額10億円以上の財産を有する居住者

提出期限は、その年の翌年6月30日です。相続開始年分については、相続または遺贈によって取得した財産・債務を記載しないで提出できる取扱いがあります。
出典:国税庁|No.7457 財産債務調書の提出義務

相続実務で財産債務調書を確認する意味は、相続財産の把握にあります。

被相続人が生前に財産債務調書を提出していた場合、これは相続財産の棚卸し資料として、きわめて重要です。国内不動産、有価証券、非上場株式、貸付金、保険契約に関する権利、海外財産、借入金、保証債務など、相続税申告で確認すべき論点が一覧化されている可能性があるからです。

ただし、財産債務調書の価額と相続税評価額が、常に一致するわけではありません。調書は年末時点の価額を、相続税は相続開始時点の価額を、それぞれ基礎とします。さらに、土地評価、非上場株式評価、外貨換算、債務控除、名義財産の実質判定などは、相続税申告にあたって別途精査が必要です。

CRSにより、海外口座は「見えない財産」ではなくなっている

CRSとは、Common Reporting Standard(共通報告基準)と呼ばれる制度です。外国の金融機関等を利用した国際的な脱税や租税回避に対応するため、OECDで策定された国際基準にもとづき、各国の税務当局が金融口座情報を自動的に交換する仕組みです。

日本を含む各国の税務当局は、自国の金融機関等から、非居住者が保有する金融口座情報の報告を受けます。そして、租税条約等の情報交換規定にもとづき、その非居住者の居住地国の税務当局へ情報を提供します。日本でも、国内金融機関等が一定の非居住者の金融口座情報を税務署へ報告し、その情報が各国税務当局と自動交換される流れになっています。
出典:国税庁|共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換に関する情報(CRSコーナー)

相続実務では、CRSを「税務署に海外口座が必ず全部見つかる制度」と単純化して捉えるのは、適切ではありません。対象国、金融機関、口座の種類、居住地国への届出、名義、実質的支配者などによって、情報の範囲は変わってきます。

それでも、少なくとも次の認識は持っておく必要があります。

誤解実務上の正しい見方
海外口座は日本の税務署に分からないCRSや租税条約に基づく情報交換により把握される可能性がある
口座名義人が海外在住なら日本相続税に関係ない被相続人・相続人の納税義務者区分と実質所有者を確認する
CRS残高をそのまま相続税評価額に使えばよい相続開始日、外貨換算、未収利息、所有者、受益者を確認する
海外口座を申告しなければ調査されない国外送金、CRS、過去の調書、相続人情報から照会される可能性がある
口座が凍結されていて引き出せないなら相続財産ではない換金不能・手続未了と、財産性・評価の問題は分けて考える

CRSは、相続税申告の敵ではありません。むしろ、海外口座を正確に整理し、申告後にきちんと説明できる状態を整えるための前提情報として捉えるべきものです。

租税条約等に基づく情報交換はCRSだけではない

税務当局どうしの情報交換は、CRSのような自動的情報交換に限られません。要請に基づく情報交換や、自発的情報交換もあります。

国税庁は、租税条約等に基づく情報交換として、次の3つを説明しています。個別調査で国内情報だけでは事実関係を十分に解明できない場合に外国税務当局へ情報提供を要請する「要請に基づく情報交換」、外国税務当局にとって有益と認められる情報を自発的に提供する「自発的情報交換」、そして法定調書等から把握した情報を一括して送付する「自動的情報交換」です。
出典:国税庁|租税条約等に基づく情報交換

つまり、海外財産の申告漏れリスクは、CRSだけで判断できるものではないということです。実務では、次のような情報が互いに関連し合います。

情報源相続税申告での意味
国外財産調書被相続人・相続人の国外財産保有状況の手掛かり
財産債務調書国内外の財産・債務の全体像
CRS情報海外金融口座の存在・残高・収益情報の確認
国外送金等調書海外送金、海外からの入金の把握
海外銀行明細相続開始日時点の残高、利息、入出金の確認
現地税務申告書海外所得・海外資産の申告状況
過去の贈与契約書海外口座への資金移転が贈与か名義預金かを判断
相続人の居住地資料納税義務者区分、国外転出時課税、外国税額控除に影響

海外口座や国外財産がある場合は、申告書を作るだけで終わりにはできません。これらの情報を突き合わせながら、矛盾がないかどうかを確認していく必要があります。

海外口座がある相続で税務調査上確認されやすいポイント

海外口座がある相続では、税務調査において、次のような点が確認されやすくなります。

確認ポイント実務上の整理
口座名義人被相続人名義、配偶者名義、子名義、共同名義、法人名義を確認
資金原資誰の収入・財産から入金されたか
管理者通帳、オンラインバンキング、パスワード、投資判断を誰が管理していたか
収益帰属利息、配当、売却益を誰が申告していたか
贈与の有無贈与契約、受贈者の認識、贈与税申告、管理移転の実態
相続開始日残高どの時点の残高を相続税評価に使うか
外貨換算相続開始日の為替レート、TTB等の適用資料
送金履歴生前贈与、生活費、投資資金、貸付金、名義預金の区別
現地税務現地相続税・遺産税・所得税・源泉税の有無
申告書との整合性国外財産調書、財産債務調書、過去所得税申告、相続税申告の整合

とりわけ家族名義の海外口座は、名義だけで判断しないことが大切です。お子さまや配偶者名義の口座であっても、資金原資、管理状況、収益の帰属、贈与の証拠が不十分であれば、被相続人の相続財産として認定される可能性があります。

これは国内の名義預金と同じ構造です。ただ、海外口座の場合は資料の取得に時間がかかり、相続税の申告期限までに十分な証拠が集まらないことも少なくありません。だからこそ、早い段階で口座一覧、残高証明、取引履歴、送金記録、過去の申告資料を集めておく必要があります。

相続税申告期限と海外資料収集は同時並行で進める

日本の相続税の申告期限は、原則として、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。海外口座の凍結解除、現地のプロベート、海外不動産の評価、翻訳・認証、現地での税務申告が終わっていないからといって、日本の申告期限が自動的に延びるわけではありません。
出典:国税庁|B1-2 相続税の申告手続 出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

そのため、海外財産がある場合には、相続が起きたらすぐ、次のような流れで動いていく必要があります。

時期実務対応
相続発生直後被相続人・相続人の住所、国籍、居住履歴、海外財産の有無を確認
1〜2か月以内海外口座、海外証券、不動産、保険、法人株式の一覧化
早期準確定申告、国外転出(相続)時課税、納税管理人の要否を確認
中盤海外財産評価、外貨換算、現地税務資料、過去調書との照合
申告前相続税申告書、添付資料、評価根拠、未分割対応を整理
申告後海外手続の継続、売却、外国税額控除、更正の請求の可能性を管理

海外相続では、「資料がすべてそろってから税務判断を始める」という進め方では、間に合わないことがあります。不足する資料があることを前提に、どこまで合理的に評価できるか、どの資料を後日補完するか、どのリスクを申告書や説明資料に残しておくかを、あらかじめ検討しておくことが大切です。

海外移住前の相続対策で確認すべきこと

海外移住を予定している方、あるいはご家族が海外に移住されている方は、相続が起きる前から次の点を整理しておくと、将来の混乱を抑えやすくなります。

確認事項なぜ重要か
住所履歴相続税・贈与税の納税義務者区分、国外転出時課税に影響する
国籍・在留資格課税範囲や現地手続の整理に必要
対象資産1億円判定国外転出時課税の入口判定になる
海外口座一覧相続財産調査、CRS情報との照合に必要
海外証券口座の中身対象資産、評価、所得申告を確認する
国外財産調書の提出履歴申告漏れ時の加算税、財産把握に影響する
財産債務調書の提出履歴高額財産の全体像確認に役立つ
生前贈与の記録名義財産、贈与税、相続財産加算、遺留分に影響する
遺言・海外遺言海外財産の名義変更、プロベート、分割方針に影響する
納税資金日本の相続税、所得税、現地税、送金制限を確認する

海外移住は、単に生活の拠点を変えるというだけのことではありません。日本の税務という観点からは、住所判定、所得税、相続税・贈与税、国外転出時課税、調書制度、情報交換、納税管理人といった論点が、すべて連動して動き出します。

「海外に移れば日本の税務から離れられる」という発想ではなく、海外移住後も日本で説明できる資産管理体制を作るという発想が大切です。

避けたい短絡的判断

国外転出時課税、国外財産調書、CRSが絡む相続では、次のような判断は避けたいところです。

「海外口座だから日本の相続税には関係ない」

被相続人・相続人の住所、国籍、居住履歴、財産の所在地によっては、国外財産も日本の相続税の課税対象になります。海外口座であること自体は、申告対象から外す理由にはなりません。

「CRSで把握されるなら、税務署から言われてから対応すればよい」

相続税申告は、申告納税制度です。税務署から照会が来てから動くという姿勢では、申告漏れ、加算税、延滞税、資料不足といった問題が生じやすくなります。

「国外財産調書を出していないので、相続税申告にも載せない」

国外財産調書の提出漏れと、相続税申告で国外財産を除外してよいかどうかは、まったく別の問題です。むしろ調書を出していなかった場合ほど、相続税申告では、慎重に財産調査を行う必要があります。

「海外在住の子に株式を渡すだけだから贈与税・相続税だけ見ればよい」

非居住者への贈与・相続では、国外転出時課税によって、贈与者または被相続人側の所得税が問題になることがあります。所得税、贈与税、相続税を切り離さずに、まとめて検討することが大切です。

「海外財産は現地専門家に任せているので日本側では確認不要」

現地での手続と、日本の税務は別のものです。現地で手続が進んでいても、日本の相続税申告、外貨換算、外国税額控除、調書制度、加算税リスクの整理は、日本側で行う必要があります。

相談前に整理しておきたい資料

国際相続・海外移住・国外財産のご相談では、最初から完璧に資料がそろっている必要はありません。重要なのは、何が存在し、何が不足し、どの期限に影響するのかを、早い段階で見極めることです。

分類整理したい資料
人の情報被相続人・相続人の住所履歴、国籍、在留資格、海外勤務期間、帰国予定
海外口座銀行名、国・地域、口座番号、残高証明、取引履歴、利息・配当明細
海外証券保有銘柄、数量、評価額、取得価額、売買履歴、配当・分配金
対象資産判定有価証券等、匿名組合出資、未決済信用取引、デリバティブ取引の有無
海外不動産登記資料、評価書、固定資産税資料、賃貸契約、ローン残高
調書関係国外財産調書、財産債務調書、国外送金等に関する資料
税務申告日本の所得税申告書、海外税務申告書、現地納税証明
生前贈与贈与契約書、送金記録、贈与税申告書、受贈者の管理状況
遺言・信託日本遺言、海外遺言、信託契約、受取人指定
納税資金国内預金、海外預金、売却予定資産、送金可否、為替管理

国外資産・海外移住がある相続に不安がある場合

海外財産がある相続では、財産を見つけるだけでは終わりません。どの税目で、どの期限までに、どの資料にもとづいて申告するのかを、丁寧に整理していく必要があります。

国外転出時課税は、相続税ではなく所得税の問題として、準確定申告に影響します。国外財産調書や財産債務調書は、過去の財産把握と、申告漏れがあった場合の加算税に影響します。CRSは、海外口座の存在や残高情報を税務当局が把握し得る仕組みであり、申告後の説明可能性を強く意識しておく必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、海外口座・国外財産・非居住者である相続人を含む相続について、日本の相続税申告、国外財産の評価、外貨換算、国外転出時課税の初期判定、調書制度との整合性確認、そして税務調査を見据えた資料整理を支援しています。

海外移住を予定している、海外在住の相続人がいる、海外口座や海外証券の申告に不安がある、過去の国外財産調書・財産債務調書との整合性を確認したい。こうした場合は、財産一覧、住所履歴、海外口座資料、過去の申告書を整理したうえで、ご相談ください。

振り返り|国外転出時課税・国外財産調書・CRSと相続

論点重要ポイント実務上の確認事項
国外転出時課税相続税ではなく所得税の制度対象資産1億円以上、非居住者への移転、準確定申告
国外転出(相続)時課税非居住者が対象資産を相続・遺贈で取得すると問題になる相続人の居住地、対象資産、4か月期限
対象資産海外不動産・預金そのものではなく、有価証券等が中心株式、投資信託、外国法人株式、デリバティブ
納税猶予申請すれば終わりではなく、継続管理が必要担保、納税管理人、継続届出、売却時の期限確定
国外財産調書5,000万円超の国外財産を有する居住者が対象提出履歴、記載財産、相続開始年の特例
財産債務調書高額財産保有者の国内外財産・債務を把握する制度所得要件、財産規模、国外転出特例対象財産
加算税調書の提出・記載状況が軽減・加重に影響提出期限、記載漏れ、関連資料の提示可否
CRS海外金融口座情報が税務当局間で自動交換される口座名義、居住地国、残高、収益情報
国外送金等調書海外送金・受領の情報把握に関係する送金目的、資金原資、贈与・貸付・生活費の区別
海外口座名義だけでなく実質所有者を確認資金原資、管理者、収益帰属、贈与証拠
相続税申告期限海外手続中でも原則10か月以内海外資料収集、評価、外貨換算、未分割対応
相談前資料国内外資料を同時に整理する住所履歴、海外財産一覧、調書、申告書、現地資料
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