取引所審査とは|投資者保護の観点から会社を見る

IPO準備では、主幹事証券会社による審査を経たうえで、東京証券取引所などの取引所による上場審査を受けます。

この段階に入ると、会社側は「いよいよ最終関門に来た」と感じやすくなります。たしかに、取引所審査は上場承認に向けた重要な局面です。ただ、これを単なる最終チェックや形式的な質疑応答として捉えてしまうと、その本質を見誤ります。

取引所審査は、会社の希望を実現するための手続ではありません。その会社の株式を、不特定多数の投資者が売買できる市場に出してよいかどうかを確認するプロセスです。

ここで見られているのは、会社の成長性だけではありません。事業の継続性、企業経営の健全性、内部管理体制、コーポレート・ガバナンス、リスク情報、開示体制、そして上場後も投資者に対して説明責任を果たし続けられるかという点まで含まれます。

IPOを「会社を資本市場に開く経営判断」として捉えるなら、取引所審査は、その会社が資本市場の信頼に耐えられるかどうかを、外部から確認される場面だといえます。

目次

取引所審査は「投資者保護」の観点から行われる

取引所審査を理解するうえで、最初に押さえておきたい言葉が「投資者保護」です。

金融商品取引法第1条は、企業内容等の開示制度の整備や、金融商品取引所の適切な運営の確保などを通じて、有価証券の発行・取引等を公正にし、その流通を円滑にし、公正な価格形成を図ることを掲げています。そのうえで、国民経済の健全な発展と投資者の保護に資することを目的としています。

出典:e-Gov法令検索|金融商品取引法

ここでいう投資者保護とは、投資家が損をしないようにすることではありません。株式投資には、業績悪化、成長未達、市場環境の変化、株価下落といったリスクが常に伴います。これらのリスクを投資者自身が負うこと、それ自体は資本市場の前提です。

問題になるのは、投資判断に必要な情報が適切に開示されていない状態です。たとえば、次のようなケースが考えられます。

  • 事業内容が分からない
  • リスクが十分に説明されていない
  • 財務情報の信頼性に疑義がある
  • 経営者や大株主との取引が不透明である
  • 内部管理体制が未成熟で、上場後の開示に耐えられない
  • 成長計画が数字として説明できない
  • 不都合な事実が投資家に見えない

こうした状態では、投資者は合理的な判断を下せません。だからこそ取引所審査では、上場申請会社が「投資者が判断できる情報を、正確・公平・継続的に提供できる会社か」という点が確認されます。

取引所審査は、会社を守るためだけの審査ではありません。市場に参加する投資者と、市場そのものの信頼を守るための審査なのです。

主幹事審査と取引所審査は何が違うのか

主幹事証券会社の審査と取引所審査は、いずれも上場適格性を確認する点では共通しています。ただし、その立場と目的は大きく異なります。

主幹事証券会社は、IPO準備を支援する立場でありながら、最終的には公募・売出し等を引き受け、投資家に株式を販売する立場でもあります。そのため、引受責任、投資家への販売、価格形成、ロードショー、案件リスクといった観点から会社を見ていきます。

東京証券取引所の説明でも、主幹事証券会社は上場申請準備の段階で、資本政策や社内体制整備のアドバイス、上場手続のサポート、会社内容の審査である引受審査などを行い、取引所に対して「上場適格性調査に関する報告書」を提出するとされています。

出典:日本取引所グループ|上場関係者と役割

一方の取引所審査は、取引所市場に上場する会社としての適格性を、市場運営者・自主規制機関の観点から確認するものです。

日本取引所グループは、会社が発行する株式が金融商品取引所に上場すると、不特定多数の投資者の投資対象となるため、上場会社には投資者からの信頼を確保できる体制が求められると説明しています。実際の審査は、日本取引所自主規制法人の上場審査部が、投資者の信頼性確保という観点から、一定の品質基準である上場審査基準に基づいて行うとされています。

出典:日本取引所グループ|新規上場会社の適格性の維持

整理すると、主幹事証券会社は「この会社の株式を引き受け、投資家に販売できるか」を見ています。これに対し、取引所は「この会社の株式を取引所市場に上場させ、投資者の投資対象としてよいか」を見ています。

会社側が注意したいのは、この両者を混同しないことです。主幹事証券会社に説明済みだからといって、取引所審査で説明が不要になるわけではありません。取引所審査では、市場全体の信頼と投資者保護の観点から、あらためて会社の説明可能性が問われます。

取引所審査の流れ|申請書類、質問事項、ヒアリング

取引所審査は、上場申請書類を提出して終わるものではありません。

日本取引所グループの説明によれば、上場申請後の審査は、新規上場申請のための有価証券報告書、いわゆる「Ⅰの部」「Ⅱの部」の記載内容等をもとに、東証が送付する質問事項への回答書、さらにヒアリングによる質問と確認を通じて実施されます。グロース市場では、審査期間が2か月とされています。あわせて、上場申請までに申請直前2期間分の監査証明が必要になる点も、押さえておきたいところです。

出典:日本取引所グループ|上場スケジュール

実務上は、おおむね次のような流れで理解すると整理しやすくなります。

まず会社は、主幹事証券会社、監査法人、印刷会社、弁護士等と連携しながら、Ⅰの部、Ⅱの部、各種説明資料、添付資料を準備していきます。ここには、事業内容、沿革、役員、株主、資本政策、財務情報、経営成績、リスク情報、内部管理体制、関連当事者取引、事業計画など、会社を説明するための情報が集約されます。

次に、取引所から質問事項が提示されます。質問の内容は、書類の不足や表現の確認にとどまりません。事業内容の理解、成長計画の前提、主要リスク、内部統制の運用状況、関連当事者取引、法令遵守、労務・法務・税務上の論点、経営者の認識、監査論点など、幅広い範囲に及ぶことがあります。

その後、会社は回答書を作成し、必要に応じて追加資料を提出します。ここで大切なのは、質問ごとに個別に答えるだけで終わらせないことです。Ⅰの部、事業計画、監査法人への説明、主幹事証券会社への説明、取締役会資料、リスク情報との整合性を、一貫して保てているかが問われます。

さらに、経営者、管理部門責任者、事業部門責任者などに対するヒアリングが行われます。ここでは、資料に記載された内容を、経営者や実務責任者が自分の言葉で説明できるかが確認されます。CFOやIPO担当者だけが回答できればよい、というものではありません。事業計画は経営者自身が語れる必要があり、内部管理体制は運用責任者が説明できる必要があります。

つまり取引所審査は、書類審査でありながら、同時に会社の理解度、運用実態、そして経営者の説明責任を確認するプロセスでもあるのです。

取引所審査で見られる5つの実質論点

形式要件を満たすことは、もちろん重要です。しかし取引所審査の核心は、その会社が実質的に上場会社として適格かどうかにあります。

グロース市場の上場審査について、日本取引所グループは、その内容として次の5つを掲げています。企業内容・リスク情報等の開示の適切性、企業経営の健全性、コーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制の有効性、事業計画の合理性、そしてその他公益または投資者保護の観点から東証が必要と認める事項です。

出典:日本取引所グループ|上場審査基準概要(グロース市場)

この5項目は、取引所審査を理解するうえで非常に重要な手がかりになります。

1. 企業内容、リスク情報等の開示の適切性

最初に問われるのは、会社の内容とリスクを、投資者が判断できる形で開示できるかどうかです。

ここでいう開示とは、見栄えのよい資料を作ることではありません。投資者が、会社の事業内容、収益構造、成長可能性、主要リスク、財政状態、経営成績、資本政策、ガバナンスを理解できる状態にすることを指します。

IPO準備会社では、事業の魅力を強調する資料は作れても、リスク情報が弱くなりがちです。たとえば、主要顧客への依存、特定サービスへの依存、広告宣伝費の効率低下、競争環境の変化、人材採用の遅れ、システム障害、許認可、契約更新、知的財産、未払残業、税務リスクといった論点が、事業計画と十分に接続されていないケースが見られます。

リスク情報は、会社に不利な情報を並べるだけの欄ではありません。投資者が、会社の成長可能性と不確実性を同時に理解するための情報です。

ですから取引所審査では、リスクが網羅されているかどうかだけでなく、そのリスクが事業内容、財務数値、事業計画、資金使途、内部管理体制ときちんと整合しているかが問われます。

2. 企業経営の健全性

企業経営の健全性では、会社が事業を公正かつ忠実に遂行しているかが確認されます。

これは、単に黒字であるか、成長しているか、という問題ではありません。確認されるのは、たとえば次のような点です。

経営者、大株主、親会社、VC、事業会社、関連会社、役員、親族、主要取引先との関係が、上場会社として説明できる状態にあるか。会社資産が、経営者個人や特定株主の利益のために使われていないか。関連当事者取引が適切に把握・承認・開示されているか。投資契約や株主間契約によって、上場会社としての意思決定が過度に制約されていないか。反社会的勢力との関係を排除する体制があるか。法令遵守上の重大な問題を放置していないか。

こうした論点が、企業経営の健全性として確認されていきます。

成長企業では、創業者の強いリーダーシップが事業拡大を支えてきた一方で、意思決定が経営者個人に集中していることがあります。未上場の段階では、それが機動力として機能する場面もあるでしょう。しかし上場会社になれば、重要な意思決定は、株主全体、投資者、市場に対して説明できるプロセスを経る必要があります。

取引所審査では、経営者の能力だけでなく、その経営者を支える牽制、記録、承認、開示の仕組みが見られているのです。

3. コーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制の有効性

取引所審査では、コーポレート・ガバナンスと内部管理体制が、会社の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能しているかが確認されます。

ここで重要なのは、「整備されていること」だけでなく、「機能していること」です。たとえば、次のような状態は注意が必要です。

  • 規程はあるが、実際の承認は経営者の口頭判断で行われている
  • 取締役会は開催されているが、実質的な議論が記録されていない
  • 内部監査規程はあるが、監査計画やフォローアップがない
  • 職務分掌はあるが、少人数のため承認と実行が同一人物に集中している
  • 月次決算はあるが、予算対比や差異分析が経営会議で使われていない
  • ITシステムのアクセス権限が整理されていない
  • 子会社や海外拠点の情報が、本社に適時に上がってこない

こうした状態では、形式的な体制はあっても、上場会社としての内部管理体制が機能しているとは言いにくくなります。

取引所審査における内部管理体制は、会社を縛るための仕組みではありません。事業成長に伴って増えていく取引、組織、人員、拠点、システム、契約、資金の流れを、再現可能な形で管理するための仕組みです。

上場後は、決算短信、有価証券報告書、適時開示、内部統制報告、株主総会、IRなどを継続的に行っていく必要があります。上場申請の時点で管理体制が不安定であれば、上場後の開示責任に耐えられません。

4. 事業計画の合理性

グロース市場では特に、事業計画の合理性が重要になります。

ただし、ここでいう合理性とは、将来計画が必ず達成されることではありません。将来には常に不確実性があります。取引所審査で問われるのは、事業計画が、事業の実態、過去実績、KPI、経営資源、資金計画、リスクを踏まえて説明できるかどうかです。

具体的には、次のような点が問われます。

売上成長の前提は何か。単価、顧客数、解約率、受注残、稼働率、広告効率、営業人員、生産能力は整合しているか。利益率の改善は、どの施策によって実現するのか。人員計画、開発投資、広告宣伝費、設備投資、資金繰りは、売上計画とつながっているか。主要リスクが発生した場合の感応度は把握されているか。計画未達のときに、どのKPIを見て、どのように修正するのか。

これらを説明できなければ、成長ストーリーは単なる期待に見えてしまいます。

グロース市場の上場会社には、投資者に合理的な投資判断を促す観点から、「事業計画及び成長可能性に関する事項」について、新規上場日の開示に加え、少なくとも1事業年度に1回以上、進捗状況を反映した最新の内容で開示することが求められています。

出典:日本取引所グループ|事業計画及び成長可能性に関する事項の開示

つまり事業計画は、上場審査を通すためだけの資料ではありません。上場後も投資者に継続的に説明していく経営情報です。

取引所審査で事業計画の合理性が問われるのは、上場時だけでなく、上場後の説明責任まで見据えているからにほかなりません。

5. その他公益または投資者保護の観点から必要な事項

最後に、公益または投資者保護の観点から必要と認められる事項があります。

これは、形式的な項目では拾いきれない重大論点を確認するための観点です。たとえば、重大な法令違反、反社会的勢力との関係、粉飾・不正、重要な訴訟、行政処分、主要事業の許認可リスク、重大な労務問題、情報管理上の重大な不備、経営者の資質に関する問題、社会的信用を大きく毀損する事象などが挙げられます。

会社側から見ると、「この論点は形式要件には書かれていない」と感じることがあるかもしれません。しかし取引所審査は、形式要件だけで完結するものではありません。

取引所市場に上場する会社として、投資者保護や市場信頼の観点から見過ごせない問題があれば、それは審査上の重要な論点になります。

IPO準備において、不都合な事実を「審査で聞かれたら答える」という姿勢では、すでに遅すぎます。会社が自ら事実を把握し、影響を評価し、是正策を講じ、再発防止策を整え、必要に応じて開示できる状態にしておく必要があります。

ヒアリングでは「資料の説明」ではなく「経営の理解度」が問われる

取引所審査のヒアリングは、想定問答を暗記して臨む場ではありません。

もちろん、質問に対して簡潔かつ正確に回答する準備は必要です。しかし、本当に問われているのは、経営者や責任者が、自社の事業、数字、リスク、管理体制をどこまで理解しているかという点です。

たとえば、事業計画についてCFOだけが説明できても、経営者が主要KPIや投資方針を語れなければ、投資者への説明責任に不安が残ります。内部管理体制についてIPO担当者だけが説明できても、現場部門が承認手続や証憑管理を理解していなければ、運用実態に疑義が生じます。リスク情報について法務担当者だけが説明できても、経営会議や取締役会でリスクが議論されていなければ、経営管理の実効性が疑われます。

ヒアリングでは、資料に書かれていることと、実際の経営判断が一致しているかが見られています。

ですから会社側は、取引所からの質問を「審査担当者への回答」としてではなく、「上場後の投資者からの質問」として捉えるべきです。たとえば、次のような問いです。

この事業の成長余地は何か。競争優位はどこにあるか。業績計画の前提は何か。主要リスクは何か。管理体制はどこまで運用されているか。資金使途は成長戦略にどう結びつくか。関連当事者取引はなぜ問題ないといえるか。上場後はどのような開示体制で投資者に説明していくのか。

これらに経営者が自分の言葉で答えられないとすれば、IPO準備が書類作成に偏っている可能性があります。

申請書類は「提出物」ではなく、会社の説明体系である

取引所審査では、Ⅰの部、Ⅱの部、各種説明資料、添付資料が中心になります。

しかし、申請書類を「取引所に提出するための書類」と捉えてしまうと、大切な視点が抜け落ちます。申請書類とは、会社の事業、数字、リスク、資本政策、管理体制、ガバナンスを一貫して説明する体系です。

よくある問題は、資料ごとに説明がずれてしまうことです。たとえば、次のようなケースです。

  • 事業計画では成長投資を強調しているのに、資金使途では具体的な投資時期や金額が曖昧である
  • リスク情報では主要顧客依存を記載しているのに、売上計画では依存先の変動を考慮していない
  • 資本政策では安定株主を説明しているのに、既存株主の売出し方針が整理されていない
  • 内部管理体制資料では職務分掌が整っているように見えるが、実際の承認証跡が残っていない
  • 関連当事者取引の説明が、取締役会議事録や契約書と合っていない
  • 監査法人への説明と主幹事証券会社への説明が、微妙に異なっている

こうしたずれは、取引所審査で追加質問を招きます。単なる表現の不統一としてではなく、会社自身が経営情報を統合して理解できていない兆候として受け止められる可能性があります。

取引所審査に耐える申請書類とは、見栄えのよい資料のことではありません。事業の実態、会計数値、リスク、管理体制、経営判断が一貫して説明されている資料のことです。

取引所審査で問題になりやすい会社の特徴

取引所審査で苦しくなる会社には、いくつかの共通点があります。

第一に、成長ストーリーが数字に落ちていない会社です。市場規模や事業の魅力は語れても、売上、利益、キャッシュ・フロー、KPI、人員、投資、資金使途がつながっていなければ、事業計画の合理性を説明しにくくなります。

第二に、管理体制が「整備済み」に見えて、運用実績が弱い会社です。規程、業務フロー、権限表、内部監査計画はそろっているものの、実際に運用されていなければ、取引所審査では弱点になります。上場会社水準の体制は、作るだけでなく、運用して初めて意味を持ちます。

第三に、経営者周辺取引や関連当事者取引の整理が遅れている会社です。未上場段階では許容されていた役員貸付、オーナー関連会社との取引、親族会社との契約、不動産賃貸、業務委託、保証、立替などが、上場準備で問題になることがあります。大切なのは、早期に棚卸しし、解消・条件変更・承認手続・開示の方針を整理しておくことです。

第四に、リスク情報を後回しにしている会社です。リスクを記載すると上場審査に不利になると考え、抽象的な表現にとどめてしまうケースがあります。しかし投資者保護の観点からは、投資判断に必要なリスクを適切に開示することが重要です。リスクを隠そうとする姿勢は、かえって信頼を損ないます。

第五に、部門ごとの説明が分断されている会社です。経理、法務、人事、事業部、経営企画、CFO、CEOがそれぞれ別々に資料を作り、最終的な説明体系が統合されていなければ、審査対応で矛盾が出てきます。IPO準備は管理部門だけの仕事ではなく、経営全体のプロジェクトです。

取引所審査は、上場後の開示責任を先取りしている

取引所審査は、上場の時点だけを見ているわけではありません。

上場後、会社は継続開示、適時開示、決算短信、IR、内部統制報告、株主総会、投資者との対話に対応していく必要があります。だからこそ取引所審査では、上場申請時点の資料作成能力だけでなく、上場後も継続して説明責任を果たせる会社かどうかが見られています。

これは、事業計画にもはっきりと表れます。

グロース市場では、「事業計画及び成長可能性に関する事項」について、少なくとも1事業年度に1回以上、進捗状況を反映した最新の内容での開示が求められています。加えて、事業計画を見直した場合や事業内容に大幅な変更があった場合など、記載内容に重要な変更が生じたときには、速やかな開示が必要とされています。

出典:日本取引所グループ|「事業計画及び成長可能性に関する事項」の進捗状況の開示タイミング

つまり、IPO時に作った成長ストーリーは、上場後も検証され続けるということです。

取引所審査を「上場承認を得るための一時的な審査」と捉えてしまうと、上場後に苦しくなります。取引所審査は、上場後の開示責任、投資者との対話、資本市場からの評価を先取りしたプロセスなのです。

取引所審査に向けて経営者が整理すべき問い

取引所審査に向けて経営者が整理しておきたいのは、審査質問への回答例ではありません。次のような問いです。

  • 自社の事業内容を、投資者が理解できる言葉で説明できるか
  • 成長戦略を、売上、利益、KPI、投資、資金繰りまで一体で説明できるか
  • 事業計画の前提を、過去実績や外部環境と整合させて説明できるか
  • 主要リスクを、投資判断に必要な粒度で開示できるか
  • 関連当事者取引、投資契約、資本政策、株主構成を、上場後も説明できるか
  • 月次決算、予実管理、会計方針、監査対応は、上場会社水準に近づいているか
  • 取締役会、監査役、内部監査、内部統制は、実際に機能しているか
  • 法務、労務、税務、コンプライアンス上の未整理論点はないか
  • 上場後の開示体制、IR体制、情報管理体制を、どこまで整備しているか
  • 経営者自身が、上場後の説明責任を引き受ける覚悟を持っているか

これらの問いに答えられないとすれば、取引所審査への回答を整える前に、会社の経営管理そのものを整える必要があります。

取引所審査への対応は、会社を資本市場に耐える状態へ引き上げる作業である

取引所審査は、会社にとって負荷の高いプロセスです。質問対応、資料提出、ヒアリング、修正作業、社内確認、外部専門家との協議が次々と重なります。

しかし、この負荷を単なる審査対応として終わらせてしまうのは、とてももったいないことです。

取引所審査を通じて、会社は自社の事業を再定義します。数字の根拠を見直し、リスクを棚卸しし、資本政策の説明を整え、内部管理体制の運用実態を確認します。経営者の意思決定を記録に残し、開示体制を整えていきます。

これは、上場のためだけの作業ではありません。投資家、金融機関、役職員、株主、取引先に対して説明できる会社をつくる作業です。

IPOを目的化している会社にとって、取引所審査は重い手続に見えるでしょう。しかし、IPOを会社を強くする過程として捉える会社にとっては、取引所審査は経営の未成熟さを可視化してくれる機会になります。

大切なのは、審査に通るための答えを探すことではありません。投資者保護の観点から自社を見直し、上場後も信頼される会社へと近づけていくことです。

相談前に整理しておきたいこと

取引所審査を見据えて相談する場合、単に「審査で何を聞かれますか」と確認するだけでは不十分です。

まずは、自社の現在地を棚卸ししておく必要があります。具体的には、次のような項目です。

  • 市場選択の理由
  • 主幹事証券会社からの指摘事項
  • 監査法人との論点
  • 事業計画とKPI
  • 月次決算と予実管理
  • 資本政策と株主構成
  • 関連当事者取引
  • 内部管理体制と内部監査
  • 労務・法務・税務リスク
  • リスク情報の整理状況
  • Ⅰの部、事業計画、IR資料、取締役会資料の整合性
  • 上場後の開示体制

これらを整理しておくことで、取引所審査を「質問への回答作業」としてではなく、「投資者に説明できる会社づくり」として進めやすくなります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、IPOを単なる上場手続としてではなく、成長戦略、資本政策、会計・決算体制、内部管理体制、ガバナンス、開示責任を、資本市場に耐える水準へと整える経営判断として捉えています。

取引所審査を見据えて、申請書類、事業計画、リスク情報、監査論点、内部管理体制の整合性を確認したいという場合は、現在の準備状況と、主幹事証券会社・監査法人からの指摘事項を整理したうえでご相談ください。

「取引所にどう答えるか」ではなく、「投資者保護の観点から、自社は何を説明できる状態にしておくべきか」を、一緒に確認していくことができます。

振り返り

論点確認すべきこと
取引所審査の本質会社の株式を、不特定多数の投資者の投資対象としてよいかを確認する審査である
投資者保護投資リスクをなくすことではなく、投資判断に必要な情報を適切に提供できる状態を確保すること
主幹事審査との違い主幹事証券会社は引受責任・販売・価格形成の観点、取引所は市場信頼・投資者保護の観点から見る
審査の流れⅠの部・Ⅱの部等の申請書類、質問事項への回答、追加資料、ヒアリングを通じて確認される
企業内容・リスク情報事業内容、収益構造、主要リスク、財務情報、資本政策が投資者に理解できる形で説明されているか
企業経営の健全性経営者、大株主、関連当事者、投資契約、法令遵守、利益相反の整理ができているか
ガバナンス・内部管理体制規程や組織図だけでなく、取締役会、内部監査、月次決算、承認手続が実際に機能しているか
事業計画の合理性成長ストーリーがKPI、投資、人員、資金繰り、リスクと整合しているか
公益・投資者保護上の論点不正、重大な法令違反、反社、訴訟、情報管理、社会的信用毀損リスクを放置していないか
ヒアリング対応想定問答の暗記ではなく、経営者・責任者が自社の事業、数字、リスク、体制を自分の言葉で説明できるか
申請書類の位置づけ提出物ではなく、会社の事業・数字・リスク・管理体制を一貫して説明する体系である
上場後への接続取引所審査は、上場後の継続開示、適時開示、IR、投資者対話への準備でもある
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