リスク発覚時の対応|是正、開示、再発防止をどう整理するか

IPO準備の目的は、問題がまったく見つからない会社をつくることではありません。

むしろ大切なのは、成長の過程で積み残されてきたリスクと正面から向き合える会社へと変わっていくことです。法務、労務、税務、会計、内部統制、コンプライアンス。こうした領域に潜むリスクを早い段階で発見し、その影響を測定し、是正し、そして再発防止まで自らの言葉で説明できる。そうした状態を目指すことに、本当の意味があります。

リスクが見つかった瞬間、経営者が真っ先に考えるべきなのは「IPOのスケジュールに間に合うかどうか」ではありません。最初に問うべきは、もっと根本的なことです。

事実を正確に把握できているか。影響を定量・定性の両面から説明できるか。監査法人、主幹事証券、取締役会、監査役に対して、同じ情報を示せるか。そして、二度と同じ問題が起きない仕組みへと変えられるか。問うべきは、この四点です。

IPOとは、未上場会社の株式を不特定多数の投資家へと開いていくプロセスです。プライベートカンパニーからパブリックカンパニーへ移行する以上、一般の投資家から資本参加を受けるにふさわしい、魅力ある会社づくりが求められます。

ただ、魅力だけでは足りません。IPOの本質を「投資家に対する自社株式のマーケティング」と捉えるなら、内部管理体制、予算管理、監査、コンプライアンス、開示体制は、その株式が欠陥商品ではないと示すための必要条件にほかなりません。

本稿では、第12テーマ「法務・労務・税務・コンプライアンスリスク」の総括として、リスクが発覚したときにどの順番で対応していくべきかを整理します。

目次

リスク発覚時に、最も避けたい対応

問題が見つかったとき、会社がつまずきやすい対応には、いくつかの共通点があります。

避けたい対応なぜ危険なのか
事実確認の前に「大した問題ではない」と決めてしまう調査範囲が狭くなり、後から追加の事実が出てくる
経営者だけで処理方針を決めてしまう取締役会、監査役、監査法人、主幹事証券への説明が後手に回る
監査法人・主幹事証券への共有を遅らせる隠蔽や説明不足と受け取られ、信頼を失う
影響額を概算しないまま是正に入る財務諸表、税務、事業計画、資金繰りへの影響が見えない
「今後は注意する」で終わらせる再発防止策として機能せず、内部統制の不備が残る
IPOスケジュールを守ることだけを優先する申請書類、監査、審査、開示の全体整合性が崩れる
表向きの説明と社内の実態が食い違う後の虚偽記載、開示訂正、信用毀損につながる

リスク発覚時の初動には、その会社の統制環境そのものが映し出されます。

問われるのは「問題があったかどうか」だけではありません。その問題を誰が把握し、誰に報告し、どこまでの範囲を調査し、どのように是正したのか。一連の動きすべてが見られていると考えておくべきです。

リスク発覚時の対応は、5つの段階で整理する

リスクが発覚した場面で感情的に動くと、対応はたちまち混乱します。実務上は、次の5つの段階に分けて考えると、頭の中が整理しやすくなります。

段階主な目的経営上の問い
1. 初動・証拠保全事実を失わない何が起きた可能性があるのか、証拠は残っているか
2. 調査・事実認定事実関係を確定するいつ、誰が、何を、なぜ行い、どこまで広がっているか
3. 影響評価財務・法務・税務・事業への影響を測る金額、期間、関係者、事業継続、開示への影響は何か
4. 是正・関係者説明問題を修正し、説明する監査法人、主幹事証券、取締役会、監査役にどう説明するか
5. 再発防止・運用確認仕組みとして再発を防ぐ規程改訂だけでなく、業務に定着しているか

リスク対応は、最後に「報告書」を仕上げるための作業ではありません。発見、調査、評価、是正、再発防止という流れを通じて、会社の管理体制を実際に変えていくプロセスなのです。

まず証拠を保全し、事実確認の前に結論を急がない

リスクが発覚したとき、最初に手をつけるべきは証拠の保全です。

会計不正であれば、会計データ、仕訳承認ログ、契約書、請求書、納品書、検収書、入金記録、メール、チャット、稟議、取締役会資料、営業管理資料、KPIの集計元データを保全します。

労務問題であれば、勤怠データ、雇用契約書、就業規則、36協定、給与台帳、賃金規程、PCログ、入退館記録、ハラスメント相談記録が対象になります。

税務問題であれば、申告書、税務調整資料、資本取引資料、株式報酬関連資料、組織再編資料、移転価格資料、消費税区分、請求書・インボイス情報を確認します。

個人情報・情報漏えいであれば、アクセスログ、権限設定、外部送信履歴、委託先との契約、インシデント記録、顧客対応履歴を押さえておきます。

この段階で大切なのは、責任の追及よりも事実の保全です。関係者へのヒアリングを急ぎすぎると、証言が変わったり、証拠が消えたり、関係者の間で口裏合わせが生じたりすることもあります。とりわけ経営者、役員、主要株主、子会社の責任者、営業責任者などが関与している可能性がある場合は、調査体制の独立性を早い段階で検討しておくべきでしょう。

内部統制には、もともと限界があります。人の判断の誤り、担当者同士の共謀、環境の変化、非定型取引への対応不足などです。日常的な取引では機能していた統制も、異常取引や例外処理の場面では働かないことがあります。

調査範囲は、「発覚した一点」だけに絞らない

リスク調査でよく見られる失敗が、最初に見つかった事象だけを調べて終わらせてしまうことです。

たとえば、売上計上の誤りが1件見つかったとします。このとき確認すべきは、その仕訳だけではありません。同じ顧客、同じ営業担当、同じ契約類型、同じ期末処理、同じ検収条件、同じシステム処理に、似たような誤りが潜んでいないかまで目を配る必要があります。

未払残業が見つかった場合も同じです。相談者1名にとどまらず、同一部署、同一職種、管理監督者として扱われている従業員、裁量労働制や固定残業代の運用、さらには過去期間への波及まで確認しておくべきでしょう。

法務デュー・ディリジェンスの世界では、発見された法的問題点やリスクは、取引の実行可否、ストラクチャー、対価算定、契約条件に影響し得るものとして扱われます。IPO準備でも考え方は変わりません。リスクは単独の問題にとどまらず、事業継続、企業価値、監査、開示、審査、資本政策へと波及していきます。

調査範囲を決めるときは、次の観点から広がりを確認します。

観点確認内容
期間当期だけか、過年度に遡るか
組織本社だけか、子会社・海外拠点・買収会社にも及ぶか
取引類型特定の顧客だけか、同種契約の全体に及ぶか
関与者担当者レベルか、管理職・役員・経営者が関与しているか
金額財務諸表、税務、資金繰り、事業計画に重要か
反復性一過性か、業務フロー上の構造的な問題か
開示影響申請書類、届出書、有報、適時開示、IR資料に影響するか
統制影響内部統制不備、J-SOX、内部監査、監査役監査に影響するか

調査範囲を狭くしすぎると、後から追加の問題が出てきたときに「最初の調査は不十分だった」と見られてしまいます。かといって、必要以上に広げすぎれば、IPO準備全体が止まり、現場の負荷が過大になります。

このバランスをひとりで抱え込む必要はありません。経営者は、監査法人、主幹事証券、弁護士、公認会計士・税理士、社労士などと相談しながら、合理的な調査範囲を設計していくことが大切です。

影響評価は、金額だけでなく「説明責任」まで見る

リスク発覚時の影響評価は、単なる損失額の見積りではありません。

IPO準備会社では、次のように複数の影響を同時に整理していく必要があります。

影響領域確認すべき事項
財務諸表売上、費用、資産、負債、引当金、減損、税効果、注記への影響
過年度決算過年度修正、比較情報、申請書類、監査証明への影響
税務修正申告、更正リスク、延滞税・加算税、税効果、繰越欠損金への影響
労務未払賃金、社会保険、就業規則、労使協定、労務管理体制への影響
法務契約違反、許認可、訴訟、損害賠償、重要契約の継続性
資金繰り是正支払、追徴、賠償、借入契約、財務制限条項
事業計画売上計画、利益計画、人員計画、KPI、資金使途の見直し
企業価値バリュエーション、投資家説明、上場時価格形成への影響
内部統制全社統制、業務プロセス統制、IT統制、モニタリング不備
開示Iの部、有価証券届出書、リスク情報、適時開示、訂正の要否
IPO日程監査、主幹事審査、取引所審査、申請時期、上場時期

会計上の見積りや誤謬訂正が関係する場面では、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」や企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」といった、現行の会計基準に照らして処理と開示を検討する必要があります。

出典:ASBJ|企業会計基準第24号 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
出典:ASBJ|企業会計基準第31号 会計上の見積りの開示に関する会計基準

ここで気をつけたいのは、「金額的な重要性が小さいから問題ない」と短絡してしまわないことです。

リスクには、定量的な重要性だけでなく、定性的な重要性があります。経営者の関与、内部統制の無効化、反社会的勢力、個人情報、労務コンプライアンス、許認可、関連当事者、投資家説明への影響。これらは、たとえ金額が小さくても、上場審査や開示の場面で重大な意味を持ち得ます。

IPO準備では、業績、コンプライアンス、コーポレートガバナンス、反社会的勢力との関係が、上場スケジュールに大きく影響することがあります。とりわけコンプライアンス違反や法的にグレーな商慣習は、早い段階で主幹事証券会社や弁護士などと検討しておくべき論点です。

監査法人・主幹事証券への共有は、遅らせない

リスクが発覚したとき、監査法人や主幹事証券にいつ共有するかは、対応の成否を分ける重要な判断です。

結論が出ていない段階で、不用意に断定する必要はありません。ただ、重要なリスクである可能性があるにもかかわらず、会社側だけで調査と是正を進めてしまい、後から「実はこういう問題がありました」と切り出すと、隠蔽や情報統制の不備と受け取られかねません。

IPO準備では、監査法人、主幹事証券会社、取引所、会社が並行して関与します。直前々期には課題の抽出・調査・対応が行われ、直前期には上場会社と同レベルの管理体制で、一定期間の運用実績を示すことが想定されます。

監査法人には、財務諸表、会計処理、監査証拠、内部統制、期首残高、過年度修正への影響を説明します。主幹事証券には、上場審査、申請書類、リスク情報、内部管理体制、事業計画、投資家説明、IPOスケジュールへの影響を伝えます。そして取締役会・監査役には、経営判断、監督責任、調査体制、是正計画、再発防止、関係者説明の全体像を報告します。

相手先共有すべき主な内容
監査法人事実関係、影響額、会計処理、監査証拠、内部統制不備、過年度修正可能性
主幹事証券審査上の影響、申請書類、リスク情報、事業計画、是正状況、スケジュール
取締役会経営責任、調査範囲、是正方針、再発防止、重要判断
監査役調査の相当性、取締役の職務執行、内部統制、会計監査人との連携
内部監査統制不備の検証、改善状況のフォローアップ
弁護士等法令違反、契約、労務、許認可、個人情報、第三者調査の要否
税理士・会計士税務修正、会計処理、開示、資本政策・株式報酬への影響
社労士労務監査、未払賃金、社会保険、就業規則、労使協定

監査役は、取締役の職務執行、会計監査、内部統制を監視する役割を担います。その監査は会計監査にとどまらず、業務監査、内部統制、不正、後発事象なども視野に入ってきます。

経営者がリスクを抱え込むほど、IPO準備はかえって危うくなります。重要な問題ほど、早く共有し、論点を開いた状態で整理していくことが大切です。

開示の要否は、「上場後の話」ではない

IPO準備会社は未上場である以上、上場会社と同じ適時開示義務を負っているわけではありません。

とはいえ、だからといって開示の要否を検討しなくてよいわけではありません。IPO準備の段階でも、上場申請書類、有価証券届出書、目論見書、Iの部、リスク情報、事業計画、成長可能性資料、主幹事審査資料、監査法人への提出資料に、発覚したリスクをどう反映するかが問われます。

上場後になれば、適時開示制度、法定開示、訂正報告書、内部統制報告書、臨時報告書、業績予想修正、決算短信といった論点が生じます。東京証券取引所の「会社情報適時開示ガイドブック」は、適時開示制度の概要、開示時期、開示方法、開示内容の中止・変更・訂正、情報取扱責任者などを整理しています。

出典:日本取引所グループ|会社情報適時開示ガイドブック

また、証券取引等監視委員会は「開示検査事例集」を公表しています。開示検査によって判明した開示規制違反の内容、その背景・原因、是正策の概要などを取りまとめたものです。令和6年度版には、令和6年4月から令和7年3月までに開示検査を終了し、開示規制違反について課徴金納付命令勧告を行った事例などが掲載されています。

出典:証券取引等監視委員会|令和6年度 開示検査事例集の公表について

金融商品取引法のもとでは、有価証券届出書や有価証券報告書などに重要な事項について虚偽の記載がある場合、あるいは記載すべき重要な事項などが欠けている場合に、損害賠償責任などが問題となり得ます。具体的な責任主体、要件、損害額、故意・過失の有無については、個別の事案ごとに検討が必要です。

出典:e-Gov法令検索|金融商品取引法

IPO準備の段階では、次のように考えると整理しやすくなります。

会社の段階検討すべき情報反映
N-2・N-1期会計方針、監査対応、内部統制、労務・法務・税務是正、課題管理表
申請準備期Iの部、事業計画、リスク情報、内部管理体制説明資料
有価証券届出書作成時証券情報、企業情報、リスク情報、財務諸表、注記、監査報告
上場承認後・上場後適時開示、法定開示、決算短信、臨時報告書、訂正報告書、IR説明

「まだ上場していないから開示しなくてよい」ではありません。「将来、投資家が投資判断に使う情報に、どう反映していくべきか」という目線が必要なのです。

是正措置は、原因ごとに分けて設計する

是正措置は、表面的な処理だけで済ませてしまうと、十分とはいえません。

たとえば未払残業が見つかったとき、未払額を支払うだけでは足りません。勤怠管理、労働時間の把握、固定残業代の設計、管理監督者の範囲、36協定、上長承認、業務量、人員計画、労務相談窓口まで、ひと続きで見直す必要があります。

売上計上の誤りが見つかった場合も同じです。仕訳を修正するだけでなく、契約管理、検収、請求、入金、返品・解約条件、営業インセンティブ、収益認識方針、経理レビュー、月次締め、システム権限まで点検していくことになります。

発覚した問題一時対応根本対応
売上計上誤り仕訳修正、影響額算定、監査法人協議収益認識方針、契約・検収フロー、経理レビューの整備
未払残業未払額算定、支払、社会保険・税務確認勤怠管理、労働時間統制、人員計画、管理職教育
税務処理誤り修正申告、更正リスク確認税務レビュー体制、資本取引・株式報酬の事前検討
個人情報漏えい影響範囲確認、本人・当局対応、再発防止権限管理、委託先管理、ログ監視、教育
関連当事者取引取引一覧化、条件確認、承認手続関連当事者管理規程、年次確認、取締役会承認
反社チェック不備対象者調査、取引継続可否判断取引開始時・更新時チェック、証跡保存、解除条項
子会社不備子会社調査、連結影響確認グループ規程、報告体制、子会社内部監査
KPI誤り定義修正、過去数値再集計KPI定義書、データ責任者、集計ロジック統制

是正措置で問われるのは、「何を直したか」だけではありません。「なぜその是正で再発を防げるのか」まで、自分の言葉で説明できる必要があります。

再発防止は、規程の改訂では終わらない

再発防止策として、規程改訂、研修、チェックリストの追加、承認者の追加が並ぶことはよくあります。

けれども、それだけでは実効性が伴いません。

日本取引所自主規制法人の「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」は、不祥事またはその疑義が把握された場合に、必要十分な調査によって事実関係や原因を解明し、その結果に基づいて再発防止を図ることを求めています。さらに再発防止策については、組織変更や社内規則の改訂にとどめず、日々の業務運営に具体的に反映され、目的に沿って運用・定着しているかを検証することが重要だとされています。

出典:日本取引所グループ|上場会社における不祥事対応のプリンシプル

再発防止策は、少なくとも次の4つの層で設計しておきたいところです。

内容
ルール規程・マニュアル・承認権限収益認識規程、関連当事者規程、労務管理規程
業務業務フロー・職務分掌・証憑検収確認、未払計上、棚卸立会、契約レビュー
システムIT権限・ログ・自動統制会計システム権限、ワークフロー、アクセスログ
組織文化経営者姿勢・通報・教育内部通報、役員研修、現場からの異常報告

内部統制の改訂をめぐる論点では、従来の「財務報告の信頼性」から、非財務情報や内部報告も含む「報告の信頼性」へと考え方を広げること、不正リスクへの対応、内部統制とガバナンス・リスク管理との関連性が重視されています。金融庁は2023年4月7日に改訂意見書を公表し、同年8月31日には内部統制報告制度Q&Aなどを改訂しています。

出典:金融庁|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)の公表について
出典:金融庁|内部統制報告制度に関するQ&A等の改訂について

内部統制は、業務の有効性・効率性、報告の信頼性、法令等の遵守、資産の保全を目的とし、統制環境、リスク評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング、ITへの対応という要素で構成されます。

ですから、再発防止策は「規程を改訂しました」では終われません。

誰が、いつ、どの証憑を見て、どのシステムで承認し、異常値を誰に報告し、内部監査がいつ検証するのか。ここまで落とし込んで初めて、IPO審査や監査に耐えられる再発防止策になります。

情報開示・危機対応では、透明性と正確性を両立させる

リスクが発覚した場面では、「早く説明すること」と「正確に説明すること」のバランスが難しくなります。

早すぎる説明は、後から訂正が必要になるおそれがあります。一方で、遅すぎる説明は、隠蔽、情報の小出し、当事者意識の不足と受け取られかねません。

法務・コンプライアンスリスクでは、不祥事そのものだけでなく、なぜ事前に防げなかったのか、そして事後の対応は適切かという視点が重要になります。制度や文書を整えていても不祥事は起きるものです。だからこそ、重要な情報が正確かつ迅速に経営陣へ共有される仕組みが欠かせません。

開示や説明にあたっては、次の順番で整理していくとよいでしょう。

項目説明すべき内容
発覚経緯いつ、どのように問題を把握したか
事実関係現時点で確認できた事実と未確認の事項
影響範囲金額、期間、対象取引、関係者、事業影響
原因個人要因、業務フロー、内部統制、組織文化
是正措置すでに実施した対応と、今後実施する対応
再発防止仕組みとして再発を防ぐ方法
業績影響財務諸表、事業計画、資金繰りへの影響
スケジュール監査、審査、申請、開示への影響
責任体制取締役会、監査役、内部監査、外部専門家の関与
今後の確認フォローアップ、運用確認、追加調査の予定

未確認の事項を、無理に断定する必要はありません。大切なのは、確認済みの事実、未確認の事項、今後の調査予定を分けて説明することです。

IPOスケジュールは、守るものではなく、見直すもの

IPO準備会社にとって、スケジュールの見直しは重い判断です。

それでも、リスクが発覚したにもかかわらず当初スケジュールを守ることばかりを優先すれば、監査、主幹事審査、取引所審査、開示書類、投資家説明のどこかで、必ず無理が生じます。

IPOスケジュールは、事業や業績の進捗に応じて柔軟に対応し、株式市場でのマーケティングに成功するタイミングを計っていくものです。

スケジュールを維持できるかどうかは、次の観点から判断します。

判断軸維持しやすい場合見直しが必要になりやすい場合
事実関係発生範囲が限定され、証拠が明確期間・範囲・関与者が未確定
影響額財務諸表・税務・資金繰りへの影響が軽微過年度修正、税務修正、資金流出が大きい
経営者関与現場運用上の不備にとどまる経営者、役員、主要株主が関与
内部統制個別統制の不備で改善済み全社統制、統制環境、通報制度に問題
監査対応監査証拠が十分で、監査法人と合意形成可能十分な監査証拠が入手できない
主幹事対応審査上の説明が整理できている審査部門が追加調査・運用実績を求める
開示リスク情報として説明可能開示訂正、重要な虚偽記載リスクがある
再発防止実行済みで運用確認が可能再発防止策が未実施、運用実績がない

IPO準備では、直前期に上場会社水準の管理体制で、一定期間の運用実績を示すことが想定されます。リスク是正後の運用実績が不足していると、形式上は改善済みであっても、審査の場面では「実際に機能しているか」が問われます。

スケジュールの見直しは、決して敗北ではありません。説明できない状態のまま進むほうが、上場後の信用毀損リスクははるかに大きくなります。

リスク発覚時の課題管理表をつくる

リスク対応では、論点があちこちに散らばりがちです。そこで課題管理表を作成し、経営者、CFO、経理、法務、人事、内部監査、監査役、監査法人、主幹事証券が、同じ前提を見られる状態にしておくことが大切です。

管理項目記載内容
論点番号課題を一意に管理する番号
発覚日いつ把握したか
発覚経緯内部通報、監査指摘、月次差異、外部指摘など
リスク区分会計、税務、労務、法務、情報管理、反社、内部統制など
事実関係現時点で判明している事実
未確認事項追加調査が必要な事項
影響額財務・税務・資金繰りへの影響
影響期間当期、過年度、将来期間
関係部署営業、経理、人事、法務、子会社など
責任者調査・是正を主導する責任者
外部専門家弁護士、会計士、税理士、社労士など
監査法人共有共有日、コメント、追加資料
主幹事共有共有日、コメント、審査影響
是正措置実施済み・実施予定の対応
再発防止ルール、業務、IT、組織面の改善
運用確認内部監査、モニタリング、再テスト
開示・書類影響Iの部、有届、リスク情報、適時開示など
IPOスケジュール影響申請時期、審査、上場時期への影響
ステータス未着手、調査中、是正中、完了、運用確認中

この管理表は、単なる進捗表ではありません。経営判断の前提となる資料です。

どの論点が未解決なのか。どの論点が監査法人のボトルネックになっているのか。どの論点が主幹事審査上の重大事項なのか。そして、どの論点が開示に影響するのか。これらを見える化しておかなければ、IPO準備は部分最適に陥ってしまいます。

問題を小さく見せるより、説明できる状態にする

リスクが発覚したとき、会社が取るべき姿勢は、問題を小さく見せることではありません。

必要なのは、問題を正しく分解し、影響を測定し、意思決定の前提をそろえ、関係者に説明できる状態へと整えることです。

IPO準備では、公開引受部や主幹事証券会社が、内部管理体制などに関するチェックリストを用いて、ビジネスモデル、規程、経営組織、労務管理、業務フロー、会計制度、予算管理、利害関係者取引、グループ会社、情報開示、内部監査、資本政策、反社会的勢力排除、コンプライアンスなどを確認します。

つまり、リスクは一つの専門分野だけにとどまる問題ではありません。会計処理の問題は、監査、内部統制、開示、事業計画、企業価値へと波及します。労務問題は、人件費、引当金、資金繰り、採用計画、コンプライアンス体制へと広がります。税務問題は、過去の申告、資本政策、株式報酬、組織再編、税効果へとつながっていきます。

経営者が向き合うべき問いは、次の5つに集約されます。

  1. 発覚した問題は、単発のミスなのか、それとも構造的な不備なのか。
  2. 影響は、財務諸表、税務、事業計画、開示、審査のどこまで及ぶのか。
  3. 監査法人・主幹事証券に、同じ事実と同じ資料で説明できるか。
  4. 是正措置は、根本原因に対応できているか。
  5. 再発防止策は、実際に運用され、検証できる状態になっているか。

この問いに答えられる会社は、リスクが発覚しても立て直せます。反対に、答えられない会社は、表面的に問題を処理しても、上場後に同じ構造が再び燃え上がってしまうのです。

リスク発覚時に、相談を検討したい場面

次のような状況では、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

状況相談したい理由
監査法人から重要な指摘を受けた会計処理、監査証拠、過年度修正、内部統制への影響を整理する必要がある
主幹事証券から審査上の懸念を示された審査対応、申請書類、リスク情報、スケジュール見直しが必要になる
未払残業、社会保険、労務トラブルが発覚した影響額、人件費、労務監査、内部統制、再発防止を整理する必要がある
税務調査・過去申告・資本取引に不安がある修正申告、税効果、資本政策、株式報酬への影響が生じ得る
売上計上、在庫、債権、減損、引当金に疑義がある財務諸表、監査、開示、事業計画に影響し得る
関連当事者取引や経営者周辺取引がある利益相反、開示、ガバナンス、税務評価が問題になり得る
子会社・海外拠点の管理が不十分連結決算、グループ内部統制、開示、税務に波及する
情報漏えい・個人情報・反社チェックに不備がある法務、開示、レピュテーション、審査に影響し得る
IPOスケジュールを維持するか迷っている監査、審査、是正完了、運用実績を踏まえた判断が必要になる

犬飼公認会計士・税理士事務所では、IPO準備を単なる上場審査への対応とは捉えていません。資本市場に耐えられる会社づくりのプロセスとして向き合い、会計・税務・内部統制・開示・事業計画・資本政策を横断しながら、論点の整理を支援しています。

リスクが発覚したときに必要なのは、慌てて結論を出すことではありません。事実、影響、是正、開示、再発防止、スケジュールを、一つの判断体系として整理していくことです。

監査法人や主幹事証券への説明に不安がある、過去の会計処理や税務処理を棚卸ししたい、IPOスケジュールを見直すべきか判断したい、内部統制や再発防止策の実効性を確認したい。そうした場合は、お問い合わせページより現在の状況をお知らせください。

問題を隠さず、説明できる状態へと整えていく。その積み重ねが、IPO準備を「会社を強くする過程」へと変えていきます。

重要ポイントの振り返り

論点重要ポイント
初動対応事実確認の前に結論を出さず、証拠保全と調査体制の設計を優先する
調査範囲発覚した一点だけでなく、期間、組織、取引類型、関与者、類似事象まで確認する
影響評価金額だけでなく、会計、税務、労務、法務、資金繰り、事業計画、開示、審査への影響を見る
監査法人対応財務諸表、監査証拠、過年度修正、内部統制不備を早期に共有する
主幹事証券対応申請書類、リスク情報、内部管理体制、IPOスケジュールへの影響を整理する
開示要否未上場でも、将来の申請書類、有価証券届出書、リスク情報への反映を検討する
是正措置仕訳修正、未払支払、修正申告だけでなく、原因に応じた業務改善が必要
再発防止規程改訂だけでなく、業務フロー、職務分掌、IT統制、内部監査、組織文化まで落とし込む
スケジュール見直し当初予定を守ることより、監査・審査・開示に耐える状態をつくることが重要
課題管理表事実、影響、是正、関係者説明、開示、再発防止、運用確認を一元管理する
経営判断問題を小さく見せるのではなく、資本市場に説明できる状態へ整える
専門家活用作業代行ではなく、論点整理、判断支援、関係者説明、体制構築に活用する
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次