生前贈与は、相続対策の手段としてよく使われます。
ただ、相続税調査の現場では、「贈与契約書がある」「毎年110万円以下で渡している」「贈与税申告もしている」といった形式が整っているだけで、当然に贈与が認められるわけではありません。
調査で問われるのは、もっと実態に踏み込んだ部分です。その財産は本当に贈与者から受贈者へ移っていたのか。受贈者がそれを自分の財産として認識し、自ら管理し、自由に使ったり処分したりできる状態にあったのか。ここが見られます。
生前贈与が問題になる場面では、まず二つを分けて考える必要があります。
一つは、そもそも贈与が成立しておらず、実質的には被相続人の財産だったと判断される場面です。この場合、家族名義の預金や有価証券などは、名義財産として相続財産に含められる可能性があります。
もう一つは、贈与自体は成立しているものの、相続税の計算上、一定期間内の暦年課税贈与や相続時精算課税適用財産として、相続税の課税価格に加算される場面です。
この二つを混同すると、調査対応そのものを誤ります。「贈与が成立しているか」と「相続税に加算されるか」は、あくまで別の論点だからです。
生前贈与が税務調査で確認される理由
相続税調査では、被相続人の死亡時点の財産だけでなく、生前の財産移転までさかのぼって確認されます。
理由はシンプルです。生前に家族へ資金を移していた場合、その資金移動が本当に贈与だったのか、単なる名義移転だったのか、生活費や教育費だったのか、それとも貸付けだったのか。どれに当たるかによって、相続税・贈与税の取扱いが変わってくるからです。
贈与税は、個人から贈与によって財産を取得したときにかかる税金です。その課税方法には、暦年課税と相続時精算課税の二つがあります。
出典:国税庁|No.4402 贈与税がかかる場合
ただし、調査で本当に重要なのは、「贈与税の制度を使ったつもりだったか」ではありません。実際に贈与としての法律関係があり、財産移転の実態があったかどうかです。
家族の間では、どうしても資金移動が曖昧になりがちです。親が子や孫のために預金をつくる。配偶者名義の口座に資金を移す。毎年一定額を振り込む。証券口座や保険契約を家族名義にする。
こうした行為は、家族の中では自然な財産管理に見えるものです。しかし税務調査では、その一つひとつについて説明を求められます。
贈与の成立には「贈与者の意思」と「受贈者の受諾」が必要
生前贈与を考えるうえで、まず確認しておきたいのが、民法上の贈与の成立です。
民法上、贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方がこれを受諾することで効力が生じる契約とされています。
出典:e-Gov法令検索|民法
つまり、贈与は一方的な行為ではありません。
親が「子のために預金しておいた」と考えていても、子がその財産の存在を知らず、受け取る意思も示していなければ、贈与が成立したと説明することは難しくなります。
税務調査で特に確認されるのは、次のような点です。
・贈与者に財産を与える意思があったか ・受贈者に財産を受け取る認識と意思があったか ・贈与の対象財産が特定されているか ・贈与の時期を説明できるか ・贈与契約書、振込記録、名義変更などが整合しているか ・贈与後、受贈者がその財産を管理していたか
贈与契約書はもちろん重要です。ただ、契約書さえあれば贈与が完結するわけではありません。契約書の内容と、実際の資金移動、管理状況、使用状況。これらが一致していて初めて、贈与の実態が裏づけられます。
贈与契約書があっても否認される場面
贈与契約書を作成していても、調査で贈与の実態が疑われることがあります。
たとえば、契約書の日付はあるものの、実際の資金移動日と大きくずれている。受贈者が契約書の内容を理解していない。毎年作成されているはずの契約書に、筆跡や署名の不自然さがある。贈与後の通帳や印鑑を、なお贈与者が保管している。
こうした事情があると、税務署側は「形式だけ整えた贈与ではないか」という見方をします。
とりわけ注意したいのが、調査通知を受けた後や相続開始後に、過去の贈与を説明するために契約書をつくろうとする行為です。事実と異なる作成日や内容の書面を作成すれば、単なる贈与否認の問題にとどまりません。重加算税や、事実認定上の不利な評価につながるおそれがあります。
贈与契約書を作成するのであれば、少なくとも次の点は整えておきたいところです。
・贈与者と受贈者が、それぞれ内容を理解していること ・贈与財産、贈与日、贈与方法が明確であること ・実際の資金移動や名義変更と整合していること ・受贈者が署名・押印の意味を理解していること ・後日の調査で、契約書の作成経緯を説明できること
契約書は、あくまで贈与の実態を裏づけるための資料です。実態のない贈与をつくり出すための資料ではありません。
受贈者が贈与を認識していない場合
生前贈与が否認されやすい典型例は、受贈者が贈与を認識していないケースです。
子や孫の名義で預金口座はつくられているものの、本人はその口座の存在すら知らない。通帳も印鑑も被相続人が保管している。成人後も本人が管理していない。引き出しや運用の判断も、本人がしていない。
このような状態では、税務署側から、名義だけを子や孫にした被相続人の財産と見られやすくなります。
受贈者の認識を説明するうえでは、次のような事情が重要になります。
・受贈者が贈与契約書を確認し、署名している ・受贈者自身が通帳、印鑑、キャッシュカードを管理している ・受贈者が自分の判断で入出金や運用をしている ・贈与後の財産を、受贈者自身の生活、投資、納税などに使っている ・受贈者が贈与税申告を行い、納税資金も自ら負担している ・受贈者本人が、いつ、何を、誰から贈与されたかを説明できる
未成年者への贈与であれば、親権者が管理すること自体はあり得ます。ただし、成人後も贈与者側が支配し続けている場合や、本人が財産の存在を知らない場合には、贈与としての説明はどうしても弱くなります。
名義変更だけでは足りない
預金、有価証券、投資信託、不動産、保険契約など。これらの財産では、名義変更が贈与の重要な要素になります。
とはいえ、名義変更さえあれば実質的な贈与が認められる、というわけではありません。
たとえば、親名義の預金を子名義の口座に移したとしても、通帳・印鑑・カードを親が保管し、親が自由に引き出せる状態であれば、実質的には親の財産管理の一部と評価される可能性があります。
有価証券も同じです。子名義の証券口座に移していても、投資判断、売買指示、配当金の管理を親が行っているなら、子の財産としての実態が問われます。
不動産の場合は、登記名義が強い証拠になります。それでも、購入資金を誰が負担したか、どう使われているか、賃料収入が誰に帰属しているか、親族間の使用貸借や賃貸借の実態はどうか、といった点が問題になることがあります。不動産評価や非上場株式評価そのものは別の論点ですが、財産移転の実態を説明するという意味では、名義と資金原資の整合性が欠かせません。
調査対応では、名義変更の事実だけでなく、次の点まで確認します。
・名義変更の原因は、贈与か、売買か、貸付けか、管理上の変更か ・名義変更時の贈与契約書や移転資料があるか ・名義変更後の管理者は誰か ・名義変更後の収益は誰に帰属しているか ・名義人が自由に使用・処分できる状態か ・名義変更に伴う贈与税申告や登記関係が整っているか
名義は、あくまで入口です。結論ではありません。
通帳・印鑑・カードの管理状況が重視される
生前贈与の調査では、通帳、印鑑、キャッシュカード、インターネットバンキングのID・パスワードを、誰が管理していたかが重視されます。
贈与後もこれらを贈与者が握っていた場合、受贈者がその財産を本当に自由に使えたのかが疑われるからです。
特に、次のような状態は調査で説明が難しくなります。
- 受贈者名義の口座を、贈与者が開設している
- 通帳や印鑑を、贈与者が保管している
- 入出金の判断を、贈与者が行っている
- 受贈者が自由に引き出したことがない
- 贈与後も、贈与者の生活費や投資資金として使われている
- 受贈者が、口座の残高や運用状況を知らない
贈与は、財産の支配が移ることを伴う行為です。
「将来渡すつもりで名義だけ変えた」「子どものために親が管理していた」。こうした説明は、家族の中ではごく自然なものでしょう。ただ税務上は、贈与がまだ完了していないと見られることがあります。
贈与税申告をしていても否認されることがある
贈与税申告をしていることは、贈与の成立を裏づける重要な事情です。
ただし、申告さえしていれば必ず贈与が認められる、というわけではありません。
調査で確認されるのは、申告書があるかどうかだけではありません。申告された贈与財産が実際に移転しているか、受贈者が管理しているか、申告内容と資金移動が一致しているか。ここまで見られます。
たとえば、贈与税申告書は提出されているが、その贈与財産を受贈者が知らない。贈与税を贈与者が負担している。贈与後の預金を贈与者が管理している。申告書に記載された金額と、実際の振込額が一致しない。こうした場合には、申告という事実だけでは十分な説明になりません。
贈与税申告について確認しておきたい点は、次のとおりです。
・贈与税申告書の控えがあるか ・贈与契約書、振込記録、申告書の金額が一致しているか ・贈与税を誰が納付したか ・納税資金の原資は誰のものか ・受贈者が申告内容を理解していたか ・申告後の財産管理が、受贈者に移っていたか
贈与税申告は、贈与を裏づける証拠の一つです。実態と矛盾していれば、調査ではその矛盾こそが問われます。
毎年110万円以下の贈与でも安全とは限らない
暦年課税には、基礎控除額110万円という考え方があります。
ただ、「毎年110万円以下なら税務調査で問題にならない」と考えるのは危険です。
この点について、国税庁は次のように整理しています。毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受ける場合、毎年贈与契約を結び、それに基づいて毎年贈与が行われ、各年の贈与財産の価額の合計額が110万円以下であれば、申告は必要ありません。一方で、当初から10年間にわたって100万円ずつ給付を受ける契約があった場合には、その契約をした年に、定期金に関する権利の贈与を受けたものとして贈与税がかかります。
出典:国税庁|No.4402 贈与税がかかる場合
ここで取り違えてはいけないのは、「毎年同じ金額だから否認される」という単純な話ではない、という点です。
問われているのは、毎年独立した贈与契約が成立していたのか、それとも最初からまとまった金額を分割して渡す約束だったのか。この違いです。
税務調査では、次の点が確認されます。
- 毎年ごとに贈与の意思確認があるか
- 毎年ごとに贈与契約書や振込記録があるか
- 贈与金額や時期が機械的すぎないか
- 贈与後の管理が、受贈者に移っているか
- 受贈者が、各年の贈与を認識しているか
- 最初から総額移転を約束していた事情がないか
毎年の贈与を行うのであれば、「暦年で分けている」という形式にとどまらず、各年ごとに贈与が成立していると説明できる状態にしておくことが大切です。
生活費・教育費のつもりでも、資産形成に回ると問題になる
親族の間では、生活費や教育費のために資金を渡すことがあります。
扶養義務者から、生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるものは、贈与税がかからない財産とされています。ただし、これは生活費や教育費として必要な都度、直接これらに充てるためのものに限られます。預金したり、株式や不動産などの購入資金に充てたりした場合には、贈与税がかかることになります。
出典:国税庁|No.4405 贈与税がかからない場合
相続税調査では、生活費や教育費として渡した資金が、本当にその目的に使われたのかが確認されることがあります。
たとえば、生活費名目で毎月資金を移しているが、その多くが受贈者名義の預金として残っている。教育費名目の資金が、投資信託の購入に使われている。住宅取得資金や不動産取得資金に回っている。こうした場合、非課税の生活費・教育費として説明するのは難しくなります。
生活費・教育費として説明するには、次の点を整理しておく必要があります。
- 扶養義務者間の支援といえる関係か
- 通常必要な範囲の金額か
- 必要な都度、直接支出に充てられているか
- 預金や投資として残っていないか
- 実際の支出資料があるか
- 贈与税の非課税特例を使うべき資金移動ではないか
「家族のために渡したお金」という説明だけでは足りません。問われるのは、その使い道です。
贈与後の収益を誰が受け取っているか
預金だけでなく、有価証券、投資信託、不動産、同族会社株式などを贈与した場合には、贈与後の収益帰属も重要になります。
贈与後の配当、分配金、利息、賃料、売却代金を、誰が受け取っているか。その収益を誰が管理しているか。再投資や使用を誰が決めているか。
もし贈与後も収益を贈与者が受け取っているとなれば、財産の実質的な支配がまだ移っていないと見られる可能性があります。
調査では、次のような資料が確認の対象になります。
- 配当金や分配金の入金口座
- 賃料収入の入金先
- 証券口座の取引履歴
- 売却代金の入金先と使途
- 不動産の管理契約や賃貸借契約
- 同族会社からの配当や役員貸付金との関係
贈与は、財産の名義だけでなく、その財産から生じる経済的利益の帰属にも表れます。
相続開始前の贈与は、相続税に加算される場合がある
贈与が有効に成立していても、相続税の計算上、一定期間内の暦年課税贈与は相続税の課税価格に加算されます。
令和6年1月1日以後の暦年課税贈与については、相続税の加算対象期間が段階的に見直されています。国税庁の整理によれば、加算対象期間は相続開始前7年以内が原則です。そのうえで、相続開始日が令和8年12月31日以前の場合は相続開始前3年以内、令和9年1月1日から令和12年12月31日までの場合は令和6年1月1日から死亡日まで、令和13年1月1日以後の場合は相続開始前7年以内とされています。そして、加算対象期間内であれば、基礎控除額110万円以下の贈与財産や、死亡した年の贈与財産も加算の対象になります。
出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
この点は、調査対応で非常に重要です。
相続人が「贈与は成立していた」と説明できたとしても、それが加算対象期間内の暦年課税贈与であれば、相続税の課税価格に加算する必要があるからです。
整理すると、次のようになります。
・贈与が成立していない場合:名義財産として相続財産に含まれる可能性 ・贈与が成立している場合:加算対象期間内であれば、相続税の課税価格に加算される可能性 ・贈与が成立し、加算対象期間外の場合:原則として相続税加算の対象外となる可能性 ・贈与税の非課税財産や特例財産の場合:制度ごとの加算・管理残額の確認が必要
「贈与が有効だから相続税には関係ない」とは限らない、ということです。
相続時精算課税を選んだ場合の注意点
相続時精算課税を選択している場合も、税務調査では贈与の実態、届出、申告、相続時の加算が確認されます。
相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに財産を贈与した場合に選択できる制度です。選択するには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、一定の書類を添付した相続時精算課税選択届出書を提出する必要があります。そして、一度選択すると、その選択に係る贈与者からの贈与については、暦年課税へ変更できません。
令和6年1月1日以後の贈与については、相続時精算課税にも基礎控除額110万円が設けられました。ただし、制度選択の効果や相続時の加算関係は、長期間にわたって影響します。
調査で確認すべき点は、次のとおりです。
- 相続時精算課税選択届出書を適正に提出しているか
- 贈与者ごとに制度選択を整理しているか
- 暦年課税との混同がないか
- 贈与財産の取得時期と価額を説明できるか
- 令和6年以後の基礎控除額110万円の管理ができているか
- 相続税申告時に加算すべき財産を漏らしていないか
相続時精算課税は、単なる節税制度ではありません。贈与税と相続税を通じて課税関係を管理していく制度です。選択後の資料保存が不十分だと、相続のときに過去の贈与内容を説明できなくなることがあります。
死亡直前の贈与は特に確認されやすい
相続開始が近い時期の贈与は、税務調査で重点的に確認されます。
死亡直前に多額の資金移動があると、調査官は次のような点を確かめにきます。
- 被相続人に贈与意思があったか
- 被相続人の判断能力に問題はなかったか
- 受贈者が贈与を認識し、受諾していたか
- 資金移動は実際に完了していたか
- 死亡後の相続財産から除外するための、形式的な移動ではないか
- 相続人間で認識が一致しているか
- 相続税への加算対象として申告しているか
特に、被相続人が入院中、施設入所中、認知症の疑いがある時期、あるいは財産管理を特定の相続人が代行していた時期の資金移動は、事実関係の整理が重要になります。
贈与意思を説明するには、本人の意思確認資料、贈与契約書、振込記録、代理行為の有無、医療・介護記録との時系列、相続人間の認識など。こうした事情を慎重に確認していく必要があります。
死亡直前の資金移動を「生前贈与」と説明するのであれば、通常の贈与以上に、説明可能性が問われると考えておくべきです。
贈与ではなく貸付け・預け金と見られる場面
家族間の資金移動では、贈与なのか、貸付けなのか、預け金なのかが曖昧なことがあります。
親が子に資金を渡したが、返済予定がある。子名義の口座に、親の資金を預けただけ。配偶者名義の口座で家計を管理していた。こうした場合、贈与と説明できるかどうかは、慎重に判断しなければなりません。
贈与と貸付け・預け金を分ける観点は、次のとおりです。
- 返済義務があるか
- 金銭消費貸借契約書があるか
- 返済実績があるか
- 利息の定めや支払があるか
- 資金を受け取った側が、自由に使える状態だったか
- 資金の管理目的は何だったか
- 贈与税申告をしているか
- 当事者の説明が一致しているか
贈与と主張した方が有利だから贈与と説明する。そうした対応は危険です。実態が貸付けや預け金であれば、その実態に沿って整理するのが筋になります。
贈与の否認が重加算税に発展する場面
生前贈与が否認されたとしても、それだけで直ちに重加算税が課されるわけではありません。
重加算税は、課税標準等または税額等の計算の基礎となるべき事実について、隠蔽または仮装があった場合に問題となる加算税です。
出典:e-Gov法令検索|国税通則法
生前贈与の調査で重加算税が問題になりやすいのは、次のような場面です。
- 贈与の実態がないと認識しながら、申告から除外した
- 家族名義財産の存在を、税理士に伝えていなかった
- 調査時に、通帳や証券資料の存在を否定した
- 事実と異なる贈与契約書や説明資料を作成した
- 被相続人が管理していた財産を、受贈者管理であるかのように説明した
- 調査官から質問された際に、確認前の事実を断定してしまった
- 相続人間で、不自然に説明を合わせようとした
一方で、単なる認識違い、資料整理の不足、贈与税や相続税加算の理解不足、税理士への資料提供状況などによっては、重加算税の要件を満たすかどうかは慎重に検討すべきです。
重要なのは、贈与が否認されるかどうかだけではありません。なぜ当初申告に含まれていなかったのかを、きちんと説明できるかどうかです。
調査で説明が弱くなる典型的な状態
生前贈与の税務調査で説明が弱くなりやすいのは、次のような状態です。
- 贈与契約書はあるが、実際の振込記録がない
- 振込はあるが、受贈者が贈与を認識していない
- 受贈者名義の通帳を、贈与者が管理している
- 贈与税申告はあるが、納税資金を贈与者が出している
- 毎年同額を機械的に移しているが、その都度の意思確認がない
- 生活費名目の資金が、預金や投資に回っている
- 死亡直前に大口移動があるが、本人の意思確認ができない
- 贈与後の配当・利息・賃料を、贈与者が受け取っている
- 相続人ごとに、贈与の認識が違う
- 税理士に提出した資料と、調査で出てきた資料が一致しない
こうした状態で調査を受けると、贈与の有効性だけでなく、資料提出や発言の信用性まで問われることになります。
調査対応では、疑われること自体が問題なのではありません。疑われたときに、事実と資料に基づいて整理できるかどうか。そこが分かれ目になります。
調査通知を受けた後に確認すべき資料
生前贈与が論点になりそうな場合には、調査の前に、次の資料を整理しておきたいところです。
- 贈与契約書
- 贈与税申告書、納付資料
- 振込明細、通帳、取引履歴
- 受贈者名義口座の管理状況が分かる資料
- 通帳、印鑑、カード、ID等の管理者の整理
- 証券口座の取引履歴、配当金の入金先
- 不動産や株式の名義変更資料
- 保険契約、保険料負担者、名義変更履歴
- 生活費・教育費として使った場合の支出資料
- 相続時精算課税選択届出書
- 相続税申告で加算した贈与財産の一覧
- 死亡直前の資金移動の時系列
- 被相続人の意思能力や財産管理状況に関する資料
- 相続人ごとの認識整理
資料は、多ければよいというものではありません。
大切なのは、贈与契約、資金移動、名義変更、管理状況、収益帰属、申告内容。これらが一つの流れとして説明できることです。
修正申告に応じる前に整理すべきこと
税務署から「生前贈与として認められない」「名義財産として相続財産に含めるべき」「加算対象の贈与財産が漏れている」と指摘されると、修正申告を勧められることがあります。
修正申告に応じることが合理的な場合もあります。実態を確認した結果、贈与が成立していない、あるいは相続税への加算漏れがあると判断される場合です。
しかし、指摘内容に争いがある場合や、贈与の成立を裏づける資料がある場合には、すぐに応じる前に、次の点を整理しておくべきです。
- 税務署は、何を否認しているのか
- 贈与の成立自体を否認しているのか
- 贈与は認めるが、相続税加算漏れを指摘しているのか
- 指摘の根拠資料は何か
- 反証できる契約書、振込記録、管理資料があるか
- 重加算税が示唆されているか
- 修正申告後は不服申立てができないことを理解しているか
- 更正を受けて争うという選択肢を検討すべきか
税務署長等から更正処分や加算税の賦課決定処分などを受け、それに不服がある場合には、不服申立ての対象となります。一方、誤って過大に申告した場合は、処分を受けていないため、不服申立てではなく更正の請求によることになります。
出典:国税庁|No.7210 「不服申立て」ができる場合、できない場合
また、税務署長等の処分に不服があるときは、原則として、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、再調査の請求または審査請求を行うことができます。
出典:国税庁|No.7200 税務署長等の処分に不服があるときの不服申立手続
修正申告に応じるかどうかは、税額だけで判断すべきではありません。証拠関係、加算税、将来の相続対策、相続人間の負担、そして争う余地。これらを含めて検討する必要があります。
生前贈与を今後の対策として整える視点
生前贈与は、相続税を減らすためだけに行うものではありません。
家族間の財産移転を明確にし、将来の相続争いを防ぎ、納税資金を準備し、事業承継や財産承継を計画的に進める。そうした目的のための手段でもあります。
そのためには、次の視点が欠かせません。
- 贈与の目的を明確にする
- 与契約書を、形式だけで作らない
- 資金移動を、預金記録で残す
- 贈与後の財産管理を、受贈者に移す
- 贈与税申告と納税を、適切に行う
- 暦年課税と相続時精算課税を混同しない
- 相続税への加算期間を管理する
- 生活費
- 教育費と資産形成を区別する
- 財産から生じる収益の帰属を整理する
- 相続人間で、将来説明できる資料を残す
生前贈与は、形式を整えるだけでは不十分です。将来の相続税調査で、第三者に説明できる状態にしておくこと。ここが肝心です。
専門家を付けずに対応するリスク
生前贈与の調査対応は、相続人だけで進めるには難しい場面が少なくありません。
贈与の成立、名義財産、相続税への加算、相続時精算課税、贈与税申告、重加算税、不服申立て。これら複数の論点が、同時に絡み合ってくるからです。
特に、次のような場合は注意が必要です。
- 家族名義口座が多い
- 贈与契約書と資金移動が一致していない
- 贈与後も、被相続人が財産を管理していた
- 死亡直前の資金移動がある
- 相続時精算課税を選択している
- 毎年同額の贈与を、長期間続けている
- 贈与税申告はしているが、管理実態に不安がある
- 税務署から、名義財産や重加算税を示唆されている
- 相続人間で、説明が一致していない
専門家の役割は、税務署と対立することではありません。
事実関係を整理し、資料を確認し、贈与の成立、相続税加算、名義財産、修正申告、重加算税リスクを切り分けていく。そこに意味があります。
生前贈与は、家族の感覚だけでは判断できません。法律関係、資金移動、管理実態、税務上の評価。これらをつなげて説明する必要があります。
まとめ|生前贈与は「渡したつもり」ではなく「移転した事実」を説明する
生前贈与が税務調査で否認されるのは、単に契約書がない場合だけではありません。
契約書があっても、贈与税申告をしていても、毎年110万円以下であっても、否認されることはあります。受贈者が認識していない、管理が移っていない、収益が贈与者に帰属している、相続税への加算が漏れている。こうした場合には、調査で問題になります。
生前贈与で確認すべき中心論点は、次のとおりです。
- 贈与者の意思表示があるか
- 受贈者の受諾があるか
- 財産が特定されているか
- 実際に資金移動や名義変更があるか
- 受贈者が、財産を認識しているか
- 贈与後の管理が、受贈者に移っているか
- 贈与税申告と納税が、実態と一致しているか
- 収益が、受贈者に帰属しているか
- 相続税への加算対象を、漏らしていないか
- 重加算税につながる説明や資料の不備がないか
生前贈与は、「節税策」ではなく、財産移転の法律行為です。
後から説明できない贈与は、調査で大きなリスクになります。
相続税調査で生前贈与を指摘された場合や、過去の贈与契約書・贈与税申告・名義財産・相続時精算課税の整理に不安がある場合には、調査当日を迎える前に、資料と事実関係を整理しておくことが重要です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、生前贈与が相続税調査で問題になった場合の事実関係整理、贈与契約・資金移動・管理状況の確認、修正申告や重加算税リスクの検討、今後の相続対策の見直しまで、実務判断に必要な論点を丁寧に整理する支援を行っています。
過去の生前贈与について「この説明で足りるのだろうか」と不安がある場合は、まずは、現在残っている資料と調査通知の内容を整理するところからご相談ください。
振り返り|生前贈与が否認されないために確認すべき重要ポイント
| 論点 | 調査で確認されること | 実務上の確認ポイント |
|---|---|---|
| 贈与契約 | 贈与者の意思表示と受贈者の受諾があるか | 契約書、署名、作成日、財産内容、資金移動との整合性を確認する |
| 受贈者の認識 | 受贈者が贈与を受けたことを理解していたか | 受贈者本人が財産の存在、金額、管理状況を説明できるか確認する |
| 名義変更 | 名義だけでなく実質的な移転があるか | 預金、証券、不動産、保険などの名義変更資料を整理する |
| 管理状況 | 通帳・印鑑・カード等を誰が管理していたか | 贈与後に受贈者が自由に使用・処分できたか確認する |
| 贈与税申告 | 申告内容と実態が一致しているか | 申告書、納付資料、振込記録、納税資金の原資を確認する |
| 毎年の贈与 | 各年ごとに独立した贈与か | 定期金給付契約と見られる事情がないか確認する |
| 生活費・教育費 | 非課税となる支援か、資産形成か | 必要な都度の支出か、預金・投資に回っていないか確認する |
| 収益帰属 | 贈与後の利息・配当・賃料を誰が受け取ったか | 収益入金先、運用判断、再投資の管理者を確認する |
| 相続税加算 | 贈与が有効でも相続税に加算されるか | 暦年課税の加算期間、相続時精算課税の適用有無を確認する |
| 重加算税 | 隠蔽・仮装と評価される事情があるか | 資料提出、調査時発言、税理士への資料提供状況を整理する |