予実管理と経営会議――数字を見て、次の打ち手を決める仕組み

M&A後のPMIにおいて、予実管理は欠かせない取り組みです。

ただし、ここでいう予実管理は、単に「予算と実績を見比べること」ではありません。

売上は予算に届いたか。利益は計画を下回っていないか。販管費は膨らんでいないか。粗利率は悪化していないか。こうした点を確認する作業は、もちろん必要です。

しかし、数字を眺めて「予算未達でした」「来月は頑張ります」で終わってしまうのであれば、PMIにおける予実管理としては、まだ半分も機能していません。

買収後に本当に必要なのは、数字を見て、次の打ち手を決める仕組みです。

なぜ差異が生まれたのか。それは一時的なものか、それとも構造的なものか。買収前から抱えていた問題なのか、買収後に新たに生じた問題なのか。予算の前提が誤っていたのか、実行が遅れているだけなのか。シナジー施策が進んでいないのか。資金繰りに響くのか。そして、誰が、いつまでに、何を変えるのか。

ここまで経営会議で詰め切って、ようやく予実管理はPMIの実務として動き出します。

中小企業庁は、PMIを「主にM&A成立後に行われる統合に向けた作業であり、M&Aの目的を実現させ、統合の効果を最大化するために必要なプロセス」と整理しています。あわせて、実践のためのツールも公表されています。M&Aの目的と現状を照らし合わせて優先課題と対応方針を整理する「PMI分析ワークシート」、いつ・誰が・何を行うかを計画し進捗を管理する「PMIアクションプラン」、そして推進体制や会議体を示す「統合方針書」です。

出典:中小企業庁|PMIを実施する

つまりPMIは、「統合方針を作ること」でも「会議を開くこと」でも完結しません。計画、実績、差異、対応策、責任者、期限、進捗確認――これらを一本につなげて、買収後の会社を実際に動かしていく。そこまでが、PMIの予実管理です。

目次

予実管理は「責任追及」ではなく「経営判断」のために行う

買収後の予実管理で最も避けたいのは、経営会議が責任追及の場になってしまうことです。

予算未達の部門を責める。対象会社の経営陣に説明だけを求める。現場には「改善してください」とだけ伝える。毎月、同じ差異理由を聞かされて終わる。未達の数字を前に、買収側が一方的に管理を強めていく。

こうした運用に陥ると、悪い情報はますます上がってこなくなります。対象会社の現場は防御的になり、買収側は数字の背景を理解できないまま、管理資料だけを積み上げてしまいます。

PMIにおける予実管理の目的は、責任の追及ではありません。買収後の会社で何が起きているのかを正しくつかみ、それを次の意思決定につなげること。これが本来の目的です。

予算実績分析は、実績の決算数値を検証するだけのものではありません。予算に対する進捗を確認し、必要に応じて着地予測を更新し、予算を下回りそうなら対策を検討する。そこまでを含めて、初めて意味を持ちます。修正予算も、当初予算そのものを差し替えるものではなく、年度の着地見込みを更新していく性格のものです。

買収後の経営会議で問うべきは、「誰が悪いか」ではありません。「この数字を見て、次に何を変えるか」です。

M&A後の予実管理で見るべき数字は、PLだけではない

予実管理というと、売上、粗利、営業利益といった損益計算書の数字に目が向きがちです。

しかし、PMIにおいてはPLだけでは足りません。買収後の会社を「経営できる状態」にするには、少なくとも次の視点を組み合わせて見ていく必要があります。

売上の差異

売上の予算差異を見るときは、金額だけでなく、その中身まで分解します。

数量が足りないのか。単価が下がったのか。主要な顧客が離れたのか。案件の受注時期がずれただけなのか。前経営者や特定の営業担当者への依存が影響しているのか。あるいは、買収側とのクロスセル施策が思うように進んでいないのか。

売上未達を「営業努力が足りない」とだけ片づけてしまうと、重要な構造変化を見落とします。PMIでは、売上の差異を、顧客、商品、地域、部門、営業担当、案件、シナジー施策へと分けて確認することが欠かせません。

粗利・原価の差異

売上が予算どおりでも、粗利が悪化していれば話は別です。

販売構成が変わったのか。仕入価格が上がったのか。外注費が増えたのか。在庫評価や廃棄が発生したのか。価格改定が後手に回っているのか。買収後の品質対応や納期対応で、追加コストが生じているのか。

粗利率の悪化は、買収後の収益力を大きく左右します。とりわけ、シナジーとして売上拡大を見込んでいる場合には、その売上が本当に利益を生んでいるのかを、必ず確認しておく必要があります。

固定費・PMI費用の差異

買収後は、通常の固定費に加えて、PMI関連の費用が発生します。

管理資料の整備、月次決算体制の構築、会計方針や勘定科目の整理、外部専門家への費用、システム対応、従業員への説明や研修、規程の整備、経営会議やPMOの運営――挙げていけば、相応の額になります。

これらを、ひとくくりに「予定外コスト」と見るべきではありません。必要なPMI費用を削りすぎると、管理体制が整わず、後からかえって大きな混乱を招くことがあります。

一方で、PMI費用が膨らんでいる場合には、その目的、効果、優先順位、そして継続費用化していないかどうかを確認する必要があります。

資金繰りの差異

利益が出ていても、手元の資金が不足することはあります。

売掛金の回収が遅れている。在庫が積み上がっている。仕入の支払いが先行している。借入返済が増えている。設備投資やシステム投資が前倒しになった。PMI費用が想定より早く発生した――こうした要因は、利益の数字には表れにくいものです。

資金計画は、中長期の事業計画や予算をベースに策定されます。同時に、資金計画の実現可能性や資金効率もまた、事業計画や予算の立て方に影響を与えます。月次のBS・PLを土台に資金計画を描く視点は、買収後の予実管理でも欠かせません。

PMIでは、PL上の利益だけを見て「順調だ」と判断しないこと。これが大切です。

KPI・シナジー施策の差異

PMIでは、財務数値だけでなく、施策そのものの進捗も見ていきます。

顧客紹介は進んでいるか。クロスセルの商談は生まれているか。購買条件の見直しは動いているか。月次決算は予定日までに締まっているか。管理資料は期限どおり出てきているか。対象会社の幹部は経営会議に参加しているか。従業員の離職や不安は増えていないか。内部統制上の未整備事項は改善に向かっているか。

M&Aの成果は、最終的には売上、利益、事業価値といった結果指標に表れます。しかし、その源泉となるバリュードライバーまで分解し、継続的にトラッキングしておくことで、統合の過程で生じる問題に、より早く手を打てるようになります。

財務数値だけを追っていると、結果が悪くなってから気づくことになりかねません。PMIでは、結果指標と先行指標を組み合わせて見ていく必要があります。

差異分析では、差異を「分類」することが重要になる

予算と実績に差異が出たとき、最初にやるべきは、もっともらしい説明を組み立てることではありません。

差異を分類することです。

差異の性質を見分けないまま動き出すと、打ち手を誤ります。

タイミング差異か、純増減か

売上が予算に届かなかったとしても、それが単なる月ズレなのか、年度内には取り戻せない未達なのかで、意味はまったく変わります。

費用が予算を超過していても、前倒しで発生しただけなのか、純粋な追加費用なのかで、判断は分かれます。

予実分析では、PLの月ズレが年度内で吸収されるものか、翌年度までずれ込むものか、それとも純増減なのか。そして、その理由は何か。ここを確認する必要があります。

買収後の経営会議では、「今月の差異」だけでなく、「通期の着地にどう響くか」まで見ておかなければなりません。

一時的な差異か、構造的な差異か

一時的な差異であれば、慌てて大きく方針を変える必要はないかもしれません。

しかし、構造的な差異であれば、早めに手を打たなければなりません。

売上未達は、一時的な納期ずれなのか、主要顧客の離脱なのか。粗利率の悪化は、一時的な材料高なのか、価格決定力そのものの低下なのか。人件費の増加は、一時的な採用費なのか、恒常的な人員不足なのか。PMI費用の増加は、一過性の整備費用なのか、これからも続く管理コストなのか。

この見極めができないと、短期的な問題に過剰反応したり、逆に構造的な問題を放置したりすることになります。

買収前からあった問題か、買収後に生じた問題か

PMIでは、差異の原因が買収前から存在していたのか、買収後に生じたのかを切り分ける必要があります。

買収前から売上が特定顧客に依存していた。買収前から在庫管理が弱かった。買収前から月次決算が遅かった。あるいは、買収後に親会社報告の負荷が増えた。買収後にシステム連携が必要になった。買収後に人材の流出が起きた――同じ「差異」でも、背景はさまざまです。

原因が違えば、対応策も変わります。

買収前からあった問題であれば、DDの発見事項や買収時の前提との関係を確認する必要があります。買収後に生じた問題であれば、統合方針、コミュニケーション、権限設計、現場の負荷を見直す必要があります。

予算前提の問題か、実行の問題か

予算未達は、実行が悪いときだけ起きるわけではありません。そもそも予算の前提が甘かった、という可能性も十分にあります。

売上シナジーを早く見込みすぎた。コスト削減を簡単に見積もりすぎた。主要顧客の継続可能性を高く見すぎた。対象会社の経理・財務体制を過大に評価していた。PMI費用を十分に織り込んでいなかった。人材不足や現場の負荷を軽く見ていた――こうした場合、現場をいくら責めても解決しません。予算の前提そのものを見直す必要があります。

逆に、前提は妥当だったのに施策が進んでいないのであれば、責任者、期限、権限、会議体、支援体制を見直すことになります。

経営会議は「報告の場」ではなく「決める場」にする

予実管理を経営判断に結びつけるには、経営会議そのものの設計が問われます。

買収後の経営会議が、いつのまにか単なる報告会になってしまう。これは決して珍しいことではありません。

試算表を説明する。予算差異を読み上げる。各部門が状況を報告する。質疑応答をする。そして「引き続き対応します」で終わる。

これでは、予実管理は動きません。

経営会議は、数字を見て、次の打ち手を決める場です。

経営会議で決めるべきこと

買収後の経営会議では、少なくとも次のような事項を決めていく必要があります。

通期の着地をどう見るか。予算未達を放置できるか。追加施策が必要か。費用削減を行うか。投資を前倒しするか、延期するか。人員を補強するか。シナジー施策の優先順位を変えるか。対象会社への権限移譲を進めるか。買収側の支援を増やすか。金融機関や株主に説明すべき事項はあるか。

経営会議で決めなければ、現場は動きません。現場が動かなければ、翌月もまた、同じ差異理由が並ぶことになります。

経営会議に出す資料は、試算表だけでは足りない

試算表は重要です。ただ、試算表だけでは、経営判断に使いにくい場面が出てきます。

買収後の経営会議では、次のような資料が必要になります。月次PL、月次BS、資金繰り表、予算実績対比表、差異分析資料、着地見込み、主要KPI、シナジー施策の進捗表、PMIアクションプラン、決定事項・未決事項の一覧、そして前回会議からの宿題管理表です。

とりわけ大切なのは、「数字」と「アクション」を同じ会議の場で扱うことです。

数字だけを見ても、行動にはつながりません。アクションだけを見ても、その効果は分かりません。予実管理とPMIアクションプランをつなぐことで、経営会議はようやく、PMIを動かす場になります。

中小企業庁のPMI実践ツールでも、PMIアクションプランは、優先課題と対応方針をもとに「いつ・誰が・何を行うか」を具体的に計画し、スケジュール、担当者、取組を一覧にして進捗を管理するツールと位置づけられています。

出典:中小企業庁|PMIを実施する

予実管理とPMIアクションプランをつなげる

PMIでは、アクションプランの質が、成果を大きく左右します。

「売上を伸ばす」「経費を削減する」「月次決算を早める」「管理体制を整える」「シナジーを出す」――こうした言葉だけでは、アクションプランとして不十分です。

アクションプランは、現場が実際に実行できる粒度まで落とし込む必要があります。抽象的で曖昧なままにしておくと、現場では何をすればよいのか分からず、形だけ「実施済み」とされてしまうおそれがあります。

大切なのは、アクションプランを実施したかどうかではなく、実際に成果につながる施策を実施しているかどうかです。だからこそ、できる限り具体的に書き切ることが重要になります。

買収後のアクションプランでは、少なくとも次の項目を明確にしておきます。

何をするのか。なぜ必要なのか。どの数字に影響するのか。誰が責任者か。誰が協力者か。いつまでに行うのか。どの会議で進捗を確認するのか。どのKPIで効果を測るのか。そして、未達の場合にどうするのか。

ここまで落とし込むことで、予実管理と経営会議が初めてつながります。

たとえば、売上未達が出たとき、単に「営業強化」と書くのではなく、対象顧客、提案商品、営業担当、訪問件数、見積件数、受注見込み、粗利率、次回の確認日まで落とし込む。

粗利率が悪化しているなら、仕入条件、外注費、価格改定、案件別採算、在庫ロス、原価計算ルールのどこを確認するのかを決める。

月次決算が遅れているなら、資料回収、請求書の締め、在庫確定、売上計上、経費精算、残高確認、レビュー手順のどこが遅いのかを分けて見る。

PMIの予実管理は、差異を見つけるだけのものではありません。差異をアクションに変える仕組みなのです。

修正予算と着地見込みをどう扱うか

買収後は、計画の前提が動くことがあります。

買収時に見込んだシナジーが遅れる。主要顧客の反応が想定と違う。経理体制の整備に時間がかかる。PMI費用が増える。人材採用が予定どおり進まない。追加投資が必要になる。市場環境が変わる――こうした変化は、珍しくありません。

このとき、当初予算をどこまで維持し、どこから修正予算や着地見込みに反映するのか。その線引きを、あらかじめ決めておく必要があります。

当初予算は、買収後の目標と責任の基準です。着地見込みは、現実的な通期の見通しです。修正予算は、重要な前提変更を反映した管理基準です。

これらを混同すると、経営会議の議論はたちまち曖昧になります。

当初予算を都合よく書き換えてしまえば、何が未達だったのか分からなくなります。一方で、明らかに前提が変わっているのに当初予算だけに固執すれば、現実的な打ち手が遅れます。

年度途中で行う修正予算は、会社によって年に1回のこともあれば、複数回行うこともあります。ただし、やりすぎると営業部門は本業に集中できず、管理部門も疲弊します。ここはバランスが肝心です。

PMIでは、当初予算を「守るべき数字」としてだけでなく、「どの前提が変わったのかを説明するための基準」として使う。この姿勢が大切です。

経営会議で確認すべき問い

買収後の経営会議では、毎月、同じ形式で数字を確認していくことに意味があります。

ただし、形式だけを整えても、問いが浅ければ経営判断にはつながりません。

経営会議では、次のような問いを持っておきたいところです。

売上について

予算未達は、単なるタイミング差か。主要顧客に変化はないか。新規案件は計画どおり発生しているか。買収側からの紹介案件は進んでいるか。価格改定や取引条件の見直しは進んでいるか。前経営者やキーマンへの依存の影響はないか。

粗利について

粗利率は計画どおりか。商品構成や案件構成が変わっていないか。原材料・仕入・外注費の上昇を、価格に転嫁できているか。不採算の案件はないか。在庫評価や廃棄の問題はないか。

固定費について

人件費は人員計画と整合しているか。PMI関連費用は本当に必要なものか。管理コストを削りすぎていないか。重複した費用が残っていないか。システム費用や専門家費用は計画の範囲内か。

資金について

資金繰りは計画どおりか。売掛金の回収に遅れはないか。在庫や前払費用が増えていないか。借入返済や利息負担に変化はないか。追加投資を行う余力はあるか。

PMI施策について

シナジー施策は進んでいるか。PMIアクションプランは期限どおりか。責任者は明確か。対象会社側の協力は得られているか。現場に過度な負荷がかかっていないか。予定どおり進まない場合、方針を変えるべきか。

こうした問いを毎月の会議に組み込むことで、予実管理は「数字の確認」から「経営の修正」へと変わっていきます。

買収後の予実管理で起きやすい失敗

PMIにおける予実管理では、次のような失敗が起きやすいものです。

試算表は出ているが、経営判断に使えない

試算表はある。けれども、部門別・事業別・案件別には見えてこない。資金繰りとつながっていない。シナジー施策の進捗とつながっていない。勘定科目が粗く、差異の理由が分からない。

この状態では、経営会議で数字を見ても、次の打ち手を決めようがありません。

差異理由が毎月同じになる

「売上が遅れた」「費用が増えた」「人手が足りない」「想定より時間がかかっている」――毎月、同じ理由が並ぶようなら、それは差異分析ではなく、問題の放置です。

経営会議では、前月の説明に対して何を実行し、その結果どうなったのかを確認する必要があります。

予実管理が現場の負担だけを増やす

買収側が管理資料を増やしすぎると、対象会社の現場は疲弊します。

とりわけ中小企業では、人員や資金といった経営資源に制約があります。中小PMIガイドラインも、譲受側・譲渡側の会社規模やM&Aの目的はさまざまであり、一括りに扱うことは妥当でないこと、そして経営資源に制約がある中でPMIを進める必要があることを前提に、基礎編と発展編を整理しています。

予実管理は、細かければよいというものではありません。経営判断に使える粒度と、現場で続けられる負荷――この両方のバランスが重要です。

数字が遅く、会議に間に合わない

月次決算が遅いと、予実管理はどうしても後追いになります。

翌月の後半や翌々月に数字が出てきても、打ち手は遅れます。PMIでは、買収直後ほど変化が早いため、数字が遅いこと自体がリスクになります。

月次決算を活かすには、ただ作るだけでなく、経営者が読める、話せる、使える、見通せる状態にまで仕上げる必要があります。

悪い情報が上がらない

経営会議が責任追及の場になると、対象会社側は悪い情報を出しにくくなります。

PMIでは、悪い情報こそ早く上げる必要があります。売上未達、顧客の離脱、キーマンの退職、在庫問題、資金繰りの悪化、内部統制上の問題――早くつかめば、それだけ打ち手を検討できます。

逆に、表面化が遅れるほど、選べる選択肢は減っていきます。

予実管理とPMOが分断される

PMOや統合分科会ではPMIタスクを管理している。一方、経営会議では月次PLだけを見ている。

このように両者が分断されると、PMI施策と業績差異の関係が見えなくなります。

PMOは、複数のワークストリームの優先順位付け、情報共有、連携の確保を担い、シナジーの定義、進捗を評価する指標や頻度の設定、進捗管理を行うことがあります。

予実管理とPMOは、別物ではありません。PMIの施策が数字にどう効いているのかを確認するために、両者をつなげる必要があります。

経理・財務部門は、数字を作るだけでは足りない

PMIにおける予実管理では、経理・財務部門の役割が大きくなります。

ただし、その役割は、試算表を作ることだけにとどまりません。

経理・財務部門には、数字の前提を整える役割があります。月次決算を早める。科目をそろえる。部門区分を整える。残高を確認する。異常値を見つける。差異の理由を確認する。着地見込みを作る。資金繰りとつなげる。経営会議の資料を整える。そして、アクションプランが数字にどう影響するのかを確認する。

経理は、単に計算をする部署ではありません。企業の戦略を数字に落とし込むには相応の制約があり、その制約を理解したうえで数字を整える役割を担っています。

買収後の会社で経理・財務が弱いと、経営者は数字を信じ切れません。数字を信じ切れなければ、予実管理も経営会議も、形だけのものになってしまいます。

専門家が関与すべき局面

予実管理や経営会議は、本来、経営者自身が引き受けるべきテーマです。専門家に丸投げして機能するものではありません。

ただし、次のような状況では、外部専門家の関与を検討する価値があります。

買収後の計画が、買収時の資料のままになっている。月次決算が遅く、経営会議に間に合わない。予算と実績の差異理由が、毎月曖昧なままだ。部門別・事業別・案件別の採算が見えない。資金繰りと予実管理がつながっていない。シナジー施策の効果を測定できていない。経営会議が報告会になっている。対象会社の経理体制に不安がある。金融機関や株主に説明できる資料が整っていない。PMIアクションプランと月次業績が分断されている――こうした兆候が見えるときです。

専門家の役割は、経営者に代わって意思決定をすることではありません。

判断に必要な数字を整えること。差異の見方を整理すること。予実管理と会議体をつなげること。見落としやすい論点を示すこと。後から説明できる管理資料に仕上げること。そして、現場で回る仕組みに落とし込むこと。ここに、外部専門家が関与する意味があります。

なお、会計基準、税務、会社法、金融機関対応、連結、開示、PPA、労務、許認可などが関係する場合には、最新の法令・基準・実務指針や、個別の事情を確認する必要があります。本記事は、M&A後の経営管理・予実管理に関する一般的な考え方を整理したものであり、個別の案件については、関係する専門家と確認しながら進めていただくことをおすすめします。

予実管理を、PMIの実行エンジンに変える

買収後の予実管理は、毎月の数字を確認するためだけのものではありません。

買収の目的を実現するために、計画と実績のズレを見つけ、原因を切り分け、着地を見直し、次の打ち手を決めていく仕組みです。

PMIで本当に必要なのは、次の流れです。

月次決算を締める。管理資料を作る。予算と実績を比較する。差異を分類する。着地見込みを更新する。PMI施策との関係を見る。経営会議で判断する。アクションプランを決める。責任者と期限を明確にする。そして翌月、その進捗と効果を確認する。

この流れが回り始めると、買収後の会社は、勘や属人性ではなく、数字・事実・仕組みによって経営できる状態へと近づいていきます。

M&Aは、成立した時点では、まだ投資判断が実行段階に移ったにすぎません。

買収後に数字を見て、何を変えるかを決め続ける。その地道な積み重ねこそが、PMIの成果を左右します。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&A後の月次決算、予実管理、経営会議資料、資金繰り、PMIアクションプラン、シナジー管理について、会計・税務・財務・管理会計の視点から整理を支援しています。

買収後の予実管理が報告だけで終わっている。経営会議で次の打ち手が決まらない。数字とPMI施策がつながっていない。そう感じている場合は、まず現在の月次資料、予算、経営会議の議題、アクションプランを整理するところから始めると、糸口が見えてきます。

M&A後の予実管理や経営会議の仕組みを見直したいとお考えの際は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

この記事の振り返り

論点重要な考え方
予実管理の目的予算と実績を比べることではなく、次の打ち手を決めること
PMIで見るべき数字PLだけでなく、BS、資金繰り、KPI、シナジー施策、PMIタスクも見る
差異分析の基本タイミング差異か純増減か、一時的か構造的か、前提の問題か実行の問題かを分ける
経営会議の役割報告会ではなく、意思決定とアクション管理の場にする
管理資料の要件試算表だけでなく、予実対比、差異理由、着地見込み、KPI、アクションプランをつなげる
修正予算の扱い当初予算を都合よく変えるのではなく、前提変更を説明できる形で管理する
アクションプラン誰が、何を、いつまでに行い、どの数字に効くのかまで明確にする
よくある失敗差異説明で終わる、数字が遅い、現場負荷が重い、悪い情報が上がらない
経理・財務の役割数字を作るだけでなく、経営判断に使える前提と資料を整える
専門家の関与経営者の代わりに判断するのではなく、判断材料と説明可能性を整える

参考情報・出典

出典:中小企業庁|PMIを実施する
出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン 概要版
出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン

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