M&A後のPMIでは、「会議はしているのに、なぜか前に進まない」という状態がしばしば起こります。
毎週のように打合せを重ね、買収側と譲渡側の関係者もきちんと集まり、議事録も残している。それでも、月次決算は早くならず、資金繰りも見えてこない。業務フローの整理は進まず、従業員への説明も後手に回る。シナジー施策にいたっては、誰が進めているのかすら分からない。
こうした場面で問題なのは、「会議の回数が少ないこと」ではありません。多くの場合、会議体そのものが、PMIを動かす設計になっていないのです。
PMIにおける会議体とPMOは、単なる情報共有の仕組みではありません。買収後の会社を、数字・事実・権限・タスク・期限によって経営できる状態へと近づけていくための、運営基盤だと考えています。
中小企業庁も、PMIを「主にM&A成立後に行われる統合に向けた作業であり、M&Aの目的を実現させ、統合の効果を最大化するために必要なプロセス」と整理しています。あわせて、実践ツールとして、M&Aの目的と現状を確認し優先課題を整理する「PMI分析ワークシート」、誰が・いつ・何を行うかを一覧化して進捗を管理する「PMIアクションプラン」、統合方針やPMI推進体制、会議体の持ち方を関係者へ説明する「統合方針書」などが公表されています。
つまりPMIでは、「何をするか」だけでなく、「どの場で決め、どの場で進捗を確認し、どの場で未決事項を経営判断に上げるか」が問われることになります。
PMIにおける会議体は「報告の場」ではなく「統合を進める場」である
買収後の会議が機能しない典型的な理由は、会議が「報告会」になってしまっていることです。
各担当者が順に状況を話し、問題が共有され、「引き続き確認します」で終わる。そして次回も、また同じ論点が残っている。
このような会議は、一見すると丁寧に運営されているように見えます。しかしPMIの観点からは、これでは不十分です。
PMIの会議体に求められるのは、単なる状況共有ではありません。会議のたびに、少なくとも次のいずれかが前に進んでいる必要があります。
- 何を優先するかが決まる
- 誰が対応するかが決まる
- いつまでに確認するかが決まる
- 経営者が判断すべき論点が明確になる
- 現場で進めてよい範囲が明確になる
- 次回までに必要な資料や数字が明確になる
- 放置してはいけないリスクが経営層に上がる
会議が終わっても、何も決まっておらず、誰のタスクにもなっておらず、期限もない。そして次回もまた同じ話をする。これでは、いくら会議を増やしてもPMIは進みません。
PMIの会議体とは、買収後の会社を経営に組み込むための「意思決定装置」なのです。
PMOとは何か――PMIを動かすための企画・推進機能
PMOという言葉は、案件によってさまざまな意味で使われます。大企業の大型M&Aでは、専任のPMOや統合事務局が置かれることもあります。一方、中小企業のM&Aでは、専任のPMOを置く余裕がなく、買収側の経営者、役員、経理財務担当、管理部門、外部専門家が兼務するケースも少なくありません。
ただ、名称や体制がどうであれ、PMOに求められる本質的な役割は変わりません。PMOとは、PMIを「動く状態」にするための機能です。
経営者が方向性を決めるだけでは、現場は動けません。現場が資料を集めるだけでは、経営判断にはつながりません。専門家が論点を指摘するだけでは、会社の行動には落ちていきません。
その間をつなぐのが、PMOです。
PMOは、買収目的、統合方針、DDで見つかった課題、現場の実態、月次の数字、資金繰り、人事労務、IT、法務、内部統制、シナジー施策といった要素を整理し、会議で扱うべき論点へと変換していきます。
PMOの役割は、議事録係でも日程調整係でもありません。もちろん、議事録も日程調整も必要です。しかし、それだけではPMIは進みません。
PMOが本来担うべきなのは、次のような役割です。
- PMI課題を一覧化する
- 課題ごとの優先順位を整理する
- 担当者と期限を明確にする
- 会議の目的と議題を設計する
- 未決事項を経営判断に上げる
- 分科会や担当者間の情報のズレを調整する
- 専門家の助言を、経営者が判断できる論点へ整理する
- 会議後の決定事項と宿題を追跡する
- 月次決算、資金繰り、管理資料などの数字を会議に接続する
- PMIが買収目的から逸れていないかを確認する
M&A成立後のPMIを、経営統合・信頼関係構築・業務統合に分け、さらにプレPMI・PMI・ポストPMIという流れで捉える。この見方は、PMIを単発の作業としてではなく、買収前後を通じた継続的な経営プロセスとして捉えるうえで欠かせません。
PMOは、この継続的なプロセスを止めないための、中核となる機能なのです。
会議体を設計する前に決めるべきこと
PMIの会議体をつくるとき、つい最初から「毎週水曜日に会議をしましょう」と頻度から決めてしまうことがあります。しかし頻度から入ると、会議の目的があいまいになりがちです。
先に決めるべきは、会議の種類ではなく、次の5つです。
何を決める会議なのか
その会議は、報告の場なのか、意思決定の場なのか、進捗確認の場なのか、それとも課題整理の場なのか。ここがあいまいなままでは、参加者も資料も議題も定まりません。
たとえば経営者が参加する会議であれば、細かな作業報告よりも、統合方針、優先順位、追加投資、重要人事、資金繰り、重大リスク、外部説明といった、経営判断を要する論点を中心に扱うべきです。
一方、実務担当者が中心の会議であれば、月次資料の回収、会計処理の確認、業務フローの棚卸し、人事データの整理、IT権限の確認など、具体的なタスク管理が中心になります。
誰が参加すべき会議なのか
PMIでは、関係者を広く集めすぎると会議が重くなります。逆に、参加者が少なすぎると、必要な情報が出てきません。
参加者は、「関係がありそうな人」ではなく、「その会議の目的を達成するために必要な人」で決めます。
経営判断が必要な会議には、最終判断者が要ります。数字を扱う会議には、会計・財務の実務を理解している人が要ります。人事労務を扱う会議には、現場の実態と制度の両方が分かる人が要ります。業務フローを扱う会議には、実際に業務を回している人が要ります。法務・税務・労務など専門論点がある会議には、必要に応じて外部専門家の関与も検討します。
大切なのは、肩書だけで参加者を決めないことです。PMIでは、現場の実態を知る人が会議にいないと、判断がどうしても机上のものになってしまいます。
どの資料を見て判断するのか
PMIの会議では、発言だけで判断すると危険です。
「売上は問題なさそうです」「資金繰りは何とかなると思います」「従業員は大きく反発していません」「月次はもう少しで整います」――こうした言葉だけでは、経営判断の根拠としては足りません。会議では、可能なかぎり数字と事実に基づいて議論する必要があります。
見るべき資料は会議の目的によって異なりますが、PMI初期であれば、少なくとも次のような資料が論点になります。
- PMI課題一覧
- アクションプラン
- 月次試算表
- 資金繰り表
- 借入一覧
- 主要取引先一覧
- 主要人材・キーマンの整理
- 未決リスク一覧
- DD発見事項の引継ぎリスト
- 業務フローや承認ルールの棚卸し
- シナジー施策と進捗状況
- 会議の決定事項と未完了タスク
月次決算や決算早期化の実務でも、部分最適に陥らず、最終成果物から逆算して業務を組み立てる「森を見る視点」が欠かせません。PMI会議も同じで、個別のタスクだけを見るのではなく、それが買収後の経営管理全体にどうつながるのかを見る必要があります。
どの論点をこの会議で扱わないのか
会議体を機能させるには、「扱う論点」だけでなく、「扱わない論点」を決めることも同じくらい重要です。
すべてを一つの会議に詰め込むと、会議は長くなり、判断は浅くなります。経営者が参加する会議で細かな作業確認に時間を使い、逆に実務担当者の会議で経営判断を求めても、PMIは前に進みません。
たとえばPMI全体会議では、各分科会の詳細作業ではなく、進捗の遅れ、経営判断が必要な事項、横断的な論点、優先順位の変更を扱います。月次決算の詳細な残高確認は、会計・財務分科会で扱うべきものです。人事制度の細かな設計は人事・労務分科会に委ね、経営会議では統合時期や基本方針を扱う。こうした切り分けが効いてきます。
「この会議では何を決めるのか」を明確にすることは、裏を返せば「この会議では何を決めないのか」を明確にすることでもあります。
決定事項を誰が追跡するのか
PMI会議で最も重要なのは、実は会議が終わったあとです。
議論が良かったかどうかではなく、決まったことが実行されたかどうか。会議で決めたことが次回までに進んでいなければ、その会議体は機能していないということになります。
そのため、会議ごとに次の事項を残しておく必要があります。
- 決定事項
- 未決事項
- 担当者
- 期限
- 次回までの宿題
- 経営判断が必要な論点
- 保留理由
- 外部専門家に確認する事項
PMOは、これらを追跡する役割を担います。PMOがいない場合でも、誰かがこの役割を明確に引き受ける必要があります。
PMIで設計すべき主な会議体
PMIの会議体は、会社規模、買収目的、対象会社の成熟度、統合の難易度によって変わってきます。ですから、すべての案件に同じ会議体を当てはめるべきではありません。
ただ、考え方としては、次のような階層で整理すると見通しがよくなります。
統合意思決定会議
統合意思決定会議は、PMI全体の方向性や重要事項を決める場です。
ここでは細かな作業報告ではなく、買収目的に照らして何を優先するかを判断します。参加者は、買収側の経営者、役員、必要に応じて対象会社の経営陣、PMO責任者、外部専門家などが中心になります。
扱う論点は、たとえば次のようなものです。
- 買収後の経営方針
- 統合レベル
- PMIの優先課題
- 重要人事
- 前経営者やキーマンの関与方針
- 追加投資
- 資金繰り上の重要事項
- 重大な法務・労務・税務・会計リスク
- 主要取引先・金融機関への説明方針
- シナジー施策の優先順位
- グループ経営上の管理水準
この会議で肝心なのは、現場から上がってきた論点を、経営判断に変えることです。
単に「問題があります」と報告して終わるのではなく、「選択肢は何か」「どの選択肢にどのリスクがあるか」「いつまでに決める必要があるか」「誰が実行するか」まで整理しておく必要があります。
PMO会議・統合事務局会議
PMO会議は、PMI全体の進捗を実際に動かす場です。
経営会議が「決める場」だとすれば、PMO会議は「決まったことを進める場」にあたります。
ここでは、各分科会や担当者から上がってくる課題を整理し、遅れているタスクを確認し、次に経営判断へ上げるべき論点を抽出していきます。
扱う論点は、たとえば次のようなものです。
- PMIアクションプランの進捗
- タスクごとの担当者・期限
- 遅延している論点
- 分科会間の調整事項
- 資料不足や確認待ち事項
- 専門家への確認事項
- 次回の統合意思決定会議に上げる論点
- 対象会社側への依頼事項
- 会議体や報告ルールの見直し
PMO会議の価値は、現場の細かな状況をそのまま経営者に投げるのではなく、整理したうえで上げるところにあります。
「何となく遅れています」ではなく、どのタスクが、なぜ、どれだけ遅れているのか。経営判断が必要なのか、資料不足なのか、担当者のリソース不足なのか、譲渡側の協力が得られていないのか。ここを見極めることが求められます。
分科会・ワークストリーム会議
分科会は、個別領域の実務を進める場です。
PMIでは、会計・財務、人事・労務、法務、IT、営業、購買、製造、物流、内部統制など、多くの論点が並行して動きます。これらをすべて全体会議で扱おうとすると、どうしても議論が浅くなります。
そこで、必要に応じて分科会を設けます。代表的なものには、次のような分科会があります。
- 会計・財務分科会
- 人事・労務分科会
- 法務・契約分科会
- IT・システム分科会
- 営業・取引先対応分科会
- 購買・在庫・業務フロー分科会
- 内部統制・規程分科会
- シナジー施策分科会
分科会で気をつけたいのは、専門領域に閉じこもらないことです。
会計・財務分科会で月次決算を整えることは、経営会議や金融機関への説明に直結します。人事・労務分科会でキーマンや労務リスクを確認することは、従業員コミュニケーションや事業継続に影響します。IT分科会でシステム権限を整理することは、内部統制や情報セキュリティに関わってきます。
業務フローは、内部統制、全体最適化、業務改善のいずれにとっても前提になります。典型的な業務フローを知らなければリスクは特定しにくく、業務全体のどこで問題が起きているのかも把握しづらくなります。
分科会は、専門論点を深掘りする場であると同時に、PMOへ論点を上げていく入口でもあるのです。
月次経営会議
PMI初期は、どうしてもプロジェクト型の統合会議に意識が向きがちです。しかし、買収後の会社を本当に経営へ組み込むには、月次経営会議の設計が重要になります。
月次経営会議では、対象会社の月次業績、資金繰り、予実差異、部門別採算、KPI、主要取引先、投資、リスク、PMI進捗を確認します。
これは単なる定例会議ではありません。買収後の会社を、買収側の経営判断に組み込むための場です。
月次経営会議で見るべき論点は、たとえば次のようなものです。
- 売上、粗利、営業利益の推移
- 計画と実績の差異
- 資金繰りと借入返済
- 部門別・事業別・案件別の採算
- 主要取引先の動き
- 未回収債権、在庫、滞留債権
- 人員、採用、退職、労務リスク
- PMIタスクの進捗
- シナジー施策の進捗
- 重要な未決事項
- 金融機関や外部関係者への説明事項
月次決算を経営に活かすには、数字を作るだけでなく、経営者がその数字を読める・話せる・使える状態にする必要があります。月次決算を会社経営に活かすうえでは、作り方と読み方、その両方の壁を越えなければなりません。
PMIにおける月次経営会議も、これと同じです。試算表が出ているだけでは足りません。その数字を見て、次に何をするかを決める場にしてこそ、意味を持ちます。
専門家レビュー会議
会計・税務・財務・労務・法務・ITなどの論点について外部専門家が関与する場合には、専門家レビュー会議を設けることがあります。
ただし、専門家レビュー会議は、専門家が好きなように論点を語る場ではありません。PMIの意思決定に必要な論点を確認する場です。
会計・税務・財務の観点では、たとえば次のような論点が対象になります。
- 月次決算の信頼性
- 会計方針・勘定科目・部門区分の整理
- 資金繰り・借入・返済予定
- DD発見事項のPMIタスク化
- 税務届出・申告体制
- PPA・のれん・取得後会計の影響
- 管理資料の設計
- 金融機関説明に使う資料
- 内部統制や証憑管理上の論点
専門家レビュー会議で大切なのは、専門家のコメントを「検討事項」のままで終わらせないことです。
その論点は、すぐに対応すべきものなのか。次回決算までに整理すべきものなのか。税理士、弁護士、社労士、IT専門家など、別の専門家につなぐべきものなのか。経営者が判断すべきものなのか。それとも、現場で進めればよいものなのか。この切り分けが必要になります。
M&Aや組織再編の実務では、重大な失敗の背景に、細かなミスやレビュー不足が積み重なっていることが少なくありません。関与者が少ない案件ほど、チェック体制が弱くなりやすい点にも注意が必要です。
PMIでも事情は同じです。小さな確認漏れが、後になって大きな説明不能へとつながることがあります。
会議体を作ってもPMIが進まない典型パターン
会議体を整えたつもりでも、実際には機能していないことがあります。ここでは、特に注意したい典型的なパターンを整理しておきます。
会議が「近況報告」で終わっている
各担当者が順番に話すだけの会議は、PMIを前に進めません。
必要なのは、報告そのものではなく、報告を受けて何を決めるかです。報告が必要な場合でも、経営判断が必要な事項、進捗の遅延、リスク、次回までの対応を明確にしておく必要があります。
決定事項が残っていない
議論が活発でも、決定事項が残っていない会議は危険です。
「確認する」「検討する」「進める」という言葉だけでは足りません。誰が、何を、いつまでに、どの資料をもとに、どの水準まで確認するのか。ここまで残さなければなりません。
未決事項が放置される
PMIでは、すぐには決められない論点も出てきます。しかし、だからといって未決事項を放置してよいわけではありません。
未決事項については、未決のままになっている理由、追加で必要な情報、判断期限、次回の扱いを、あわせて明確にしておく必要があります。
経営判断と実務確認が混在している
経営者が参加している会議で、細かな資料回収や入力ルールに時間を使いすぎると、肝心の判断が後回しになります。
逆に、実務担当者だけの会議で、統合方針や重要人事の判断を求めても、決めることはできません。
会議の階層ごとに、扱う論点を分けることが大切です。
数字が会議に間に合っていない
PMI会議の場で、月次数字や資金繰りが出そろっていなければ、経営判断はどうしてもあいまいになります。
買収後の会社を管理するには、会議体と月次決算体制を連動させる必要があります。数字が遅れれば、会議で議論できる範囲もそのぶん限られてしまいます。
専門家の指摘がタスク化されない
専門家が会議で論点を指摘しても、それが誰のタスクにもならなければ、意味を持ちません。
専門家のコメントは、対応の要否、優先順位、担当者、期限、追加確認事項にまで落とし込む必要があります。
対象会社側が受け身になっている
PMI会議が買収側だけの指示の場になってしまうと、対象会社側はどうしても受け身になります。
しかし、対象会社側の現場情報がなければ、実態はつかめません。会議体には、対象会社側が事実を出しやすく、必要な範囲で意見を述べられるような設計も求められます。
会議が多すぎて現場が疲弊する
PMIに会議は必要ですが、増やせばよいというものではありません。
会議が多すぎると、現場は資料作成と会議対応に追われ、本来進めるべき業務が進まなくなります。会議体は、必要最小限から始め、状況に応じて見直していくのが現実的です。
PMI会議で必ず確認したい基本項目
PMI会議の議題は、案件ごとに異なります。それでも、どの案件でも確認しておきたい基本項目があります。
まず、買収目的です。PMIの議論は、買収目的から外れてはいけません。何のために買収したのか、どの効果を期待しているのか、どのリスクは許容できないのかを、常に確認しておく必要があります。
次に、現状の見える化です。対象会社の業績、資金、人材、取引先、業務フロー、契約、IT、リスクを、どこまで把握できているかを確認します。
次に、優先課題です。すべてを一度に整えることはできません。短期的に事業継続に関わるもの、経営判断に必要なもの、後から取り返しがつきにくいものを優先します。
次に、担当者と期限です。PMIでは、「誰かがやるはず」が最も危険です。担当と期限のない課題は、存在しない課題と同じ扱いになってしまいがちです。
次に、未決事項です。決まっていないことを見える化し、いつ、誰が、何をもとに判断するのかを明確にします。
次に、数字と資料です。会議で扱う論点が、月次、資金繰り、採算、KPI、契約、労務、業務フローなど、どの資料に基づくものなのかを確認します。
そして最後に、次回までの進め方です。会議は、その場で完結するものではありません。次回までに何を進めるのかが明確になって初めて、会議はPMIを動かす場になります。
PMOが作るべき管理資料
PMOが機能するために、複雑な資料を大量に作る必要はありません。むしろ初期段階では、簡潔で更新しやすい資料のほうが役に立ちます。
PMIの初期に整えておきたい管理資料は、次のようなものです。
PMI課題一覧
PMI全体の課題を一覧化する資料です。
項目としては、領域、課題、重要度、担当者、期限、状況、未決事項、経営判断の要否などを入れます。領域は、経営体制、月次決算、資金繰り、人事労務、取引先、契約、IT、内部統制、シナジーなどに分けておくと整理しやすくなります。
アクションプラン
課題一覧よりも一段具体的に、いつ、誰が、何を行うかを管理する資料です。
中小企業庁のPMI実践ツールでも、PMIアクションプランは、優先課題と対応方針をもとに、具体的な取組、スケジュール、担当者、進捗を一覧化して管理するものとされています。
PMIでは、このアクションプランが会議体の中心資料になります。
未決事項リスト
決まっていない事項を見える化する資料です。
未決事項は、放置するとPMIの遅延要因になります。特に、統合レベル、人事方針、資金対応、会計処理、システム統合、重要契約、取引先説明などは、判断が遅れると現場が動けなくなります。
未決事項リストには、未決の理由、判断者、判断期限、必要資料、影響範囲を入れておくとよいでしょう。
リスク・論点一覧
PMIで見落としてはいけないリスクを管理する資料です。
財務・税務・法務・労務・IT・内部統制などのリスクは、別々に管理すると、どうしても漏れが生じやすくなります。PMOが一覧化し、誰が対応しているのかを確認する必要があります。
月次経営資料
PMIの進捗だけでなく、買収後の業績と資金の状況を確認する資料です。
PMIは、統合タスクが進めば成功、というものではありません。買収後の会社が、経営判断に使える数字で見えるようになること。ここが重要です。
月次経営資料には、業績、資金繰り、予実差異、主要KPI、主要取引先、部門別採算、PMI進捗、重要リスクなどを、必要に応じて含めます。
会議体とPMOを設計する実務ステップ
PMIの会議体を設計する際は、次の順番で進めると整理しやすくなります。
ステップ1:買収目的とPMIの成功状態を確認する
最初に確認すべきは、会議体ではなく、買収目的です。
何のために買収したのか。どの効果を期待しているのか。どのリスクを避けたいのか。買収後、どの状態になれば「統合が進んだ」と言えるのか。
これがあいまいなままでは、会議体もPMOも形だけになってしまいます。
ステップ2:PMI課題を大きく分類する
次に、PMI課題を大きく分類します。
経営体制、信頼関係、月次決算、資金繰り、予実管理、人事労務、取引先、契約、IT、業務フロー、内部統制、シナジーなどに分けていきます。
この段階では、完璧な分類を目指すより、まず課題が見えることを優先します。
ステップ3:会議体の階層を決める
課題が見えてきたら、どの会議体で何を扱うかを決めます。
経営判断は統合意思決定会議。進捗管理はPMO会議。個別実務は分科会。業績と資金は月次経営会議。専門論点は、必要に応じて専門家レビュー会議。
このように、会議ごとの役割を分けていきます。
ステップ4:PMO機能の担当を決める
専任PMOを置けるかどうかにかかわらず、PMO機能の担当は必要です。
PMO担当者は、必ずしも一人で全領域を理解している必要はありません。しかし、課題を一覧化し、会議で扱う論点を整理し、未決事項を追跡する役割は、誰かが担う必要があります。
中小企業では、経営者、管理部門、経理財務担当、外部専門家が連携してPMO機能を補完していく形も、現実的な選択肢です。
ステップ5:会議資料を最小限に絞る
PMI初期に完璧な資料を作ろうとすると、会議体そのものが重くなってしまいます。
まずは、課題一覧、アクションプラン、未決事項リスト、月次経営資料といった、意思決定と進捗管理に直結する資料から始めるのがよいでしょう。
資料は、きれいに見せるためではなく、判断するために作るものです。
ステップ6:会議後のフォローを仕組みにする
会議体の成否は、会議が終わったあとに決まります。
決定事項が実行されているか。期限を過ぎたタスクはないか。未決事項は次回判断できる状態になっているか。専門家確認が必要な論点は進んでいるか。経営者判断が必要な事項は上がっているか。
このフォローがなければ、会議体は形だけのものになってしまいます。
会議体は「買収後の経営管理」に移行していく
PMIの会議体は、いつまでも同じ形で続けるものではありません。
買収直後は、PMI課題の整理、Day1対応、100日計画、信頼関係構築、月次整備、資金繰り確認など、プロジェクト型の会議が必要になります。
しかし、初期PMIが進むにつれて、会議体は通常の経営管理へと移行していくべきものです。
最初はPMI会議で扱っていた月次決算の論点が、月次経営会議へ移ります。資金繰りの確認が、財務管理の定例運用へ移ります。業務フローの見直しが、内部統制や規程管理へ移ります。シナジー施策の確認が、予実管理やKPI管理へ移ります。人事や組織の課題が、通常の人事会議や経営会議へ移っていきます。
この移行ができて初めて、PMIは「一時的な統合作業」から「買収後の経営管理」へと変わります。
PMIの会議体は、いつまでも特別な会議として残しておくためのものではありません。買収後の会社を、買収側の経営管理へ自然に組み込んでいくための、過渡的な仕組みなのです。
相談を検討すべきタイミング
次のような状態が見られる場合は、PMIの会議体やPMO機能を見直す余地があります。
- 会議は開いているが、決定事項が残っていない
- PMI課題の一覧がなく、何が未完了か分からない
- 担当者と期限があいまいなタスクが多い
- 経営判断が必要な論点が現場で滞留している
- 月次決算や資金繰りが会議に間に合っていない
- DDで見つかった課題がPMIタスクに落ちていない
- 譲渡側の幹部や現場担当者の協力を得られていない
- 専門家に相談しているが、指摘事項が実行に移っていない
- PMI会議と通常の経営会議の関係があいまいになっている
PMIの会議体は、形式的に整えても意味がありません。必要なのは、買収後の会社を経営できる状態に近づけていくことです。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&A後の月次決算、資金繰り、管理資料、予実管理、会計・財務論点の整理を通じて、PMIの会議体や経営管理の仕組みづくりを支援しています。
PMI会議が報告だけで終わっている、PMO機能が形だけになっている、買収後の数字や課題を経営判断に使える形へ整えたい――そうした場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。現在の会議体、管理資料、月次の数字、未決論点を確認しながら、どの場で何を決めるべきかを、一緒に整理してまいります。
出典・参考情報
出典:中小企業庁|PMIを実施する
出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン講座(概要編/基礎編)
出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン講座(詳細編/発展編)
重要事項の振り返り
| 振り返り項目 | 実務上のポイント |
|---|---|
| PMI会議体の目的 | 情報共有ではなく、意思決定・進捗管理・課題解決を進める場として設計する。 |
| PMOの本質 | 議事録係ではなく、PMI課題を整理し、担当・期限・未決事項を管理し、経営判断につなげる機能である。 |
| 統合意思決定会議 | 統合方針、優先順位、重要人事、資金、重大リスク、外部説明など、経営判断が必要な論点を扱う。 |
| PMO会議 | 各領域の進捗を整理し、遅延・未決事項・経営判断事項を抽出する。 |
| 分科会 | 会計・財務、人事・労務、IT、法務、業務フローなど、個別領域の実務を深掘りする。 |
| 月次経営会議 | 買収後の業績、資金繰り、予実、KPI、PMI進捗を確認し、通常の経営管理へ移行する場となる。 |
| 会議資料 | 課題一覧、アクションプラン、未決事項リスト、月次経営資料を中心に、判断に使える資料へ絞る。 |
| よくある失敗 | 会議が報告だけで終わる、決定事項が残らない、未決事項が放置される、数字が間に合わない。 |
| 中小企業での考え方 | 専任PMOを置けなくても、PMO機能は必要。経営者、管理部門、経理財務担当、外部専門家で補完する。 |
| 最終的な目標 | PMI会議を一時的な統合作業で終わらせず、買収後の経営管理に接続すること。 |