国際相続・国外財産・非居住者|海外資産と日本の相続税を整理するテーマガイド

相続に海外の要素が入ると、確認すべきことは一気に増えます。

被相続人が海外に住んでいた。相続人の一人が海外在住である。海外銀行口座、外国証券、国外不動産がある。外国籍の親族がいる。海外で遺言や信託を作っている。現地でも相続税・遺産税のような税金がかかる。

こうした場合に問題となるのは、「日本で相続税がかかるかどうか」だけではありません。

誰が、どの国に住所を持ち、どの国籍で、どの財産を取得するのか。その財産は日本国内財産なのか、国外財産なのか。日本の相続税申告に含める必要があるのか。現地の相続手続や税務申告はどう進むのか。外国で納めた税金を日本側で調整できるのか。海外口座や国外資産について、申告後に説明できる資料が残っているのか。

国際相続では、税務・法務・財産評価・金融実務・現地手続が分断されやすいという特徴があります。早い段階で全体像を整理しておかないと、申告期限、名義変更、納税資金、税務調査対応のいずれかで行き詰まりやすくなります。

相続税の申告は、原則として、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。国際相続では海外資料の取得や現地手続に時間がかかりますから、この10か月という期限を前提に逆算して動くことが重要です。
出典:国税庁|No.4205 相続税の申告と納税

この第16テーマでは、国際相続を「人」「財産」「手続」「二重課税」「申告後リスク」の順に整理し、各詳細コラムへ進むための論点地図をお示しします。

このテーマで理解できること

第16テーマ「国際相続・国外財産・非居住者」では、海外要素のある相続を、断片的な制度解説ではなく、実務上の判断順序として整理します。

最初に確認すべきなのは、人の情報です。被相続人と相続人の住所、国籍、居住履歴、在留資格などによって、日本の相続税で国内財産だけを見るのか、国外財産まで含めるのかが変わることがあります。

次に確認すべきなのは、財産の所在地と内容です。海外口座、外国証券、国外不動産、外国法人株式、海外保険、信託受益権などは、それぞれ評価資料、換算方法、現地手続、税務調査での説明資料が異なります。

さらに、現地の相続手続も問題になります。日本の遺産分割協議書だけでは、海外財産の名義変更や換金が進まない場合があるからです。国によっては、プロベート、現地裁判所手続、現地弁護士、翻訳、認証、アポスティーユが必要になることもあります。

また、外国で相続税・遺産税に相当する税金を納める場合には、日本側で外国税額控除を検討することがあります。ただし、外国で納めた税金が常に全額控除されるわけではありません。対象財産、課税主体、税目、納付時期、証明書類を、ひとつずつ確認していく必要があります。

最後に、国際相続では申告後の説明可能性が特に重要になります。国外財産調書、財産債務調書、CRSによる金融口座情報の自動的交換、国外送金記録、過去の贈与履歴と、相続税申告書の内容が矛盾しないよう整理しておかなければなりません。

国外財産調書は、一定の居住者が年末時点で5,000万円を超える国外財産を有する場合に提出義務が生じる制度です。国際相続では、被相続人の過去の提出状況や、相続後の相続人側の提出義務の有無も確認対象になります。
出典:国税庁|No.7456 国外財産調書の提出義務

国際相続は「海外財産があるか」だけで判断しない

国際相続というと、どうしても海外不動産や海外口座の有無に目が向きがちです。

しかし実務では、海外財産がなくても国際相続になることがあります。たとえば、相続人の一人が海外在住で、日本国内の不動産について遺産分割協議をする場合です。このときは、署名証明、在留証明、送付手続、時差、翻訳、そして相続税申告期限との関係が問題になります。

逆に、海外財産があっても、その財産が日本の相続税の課税対象になるかどうかは、人の住所や国籍、相続開始時点の状況によって判断が変わります。

相続などで財産を取得した時に外国に居住し、日本に住所がない人は、原則として取得した財産のうち日本国内にある財産だけが相続税の課税対象になります。ただし、日本国籍の有無、過去10年以内の日本国内住所の有無、被相続人の区分などによっては、国外財産も課税対象になる場合があります。
出典:国税庁|No.4138 相続人が外国に居住しているとき

つまり、国際相続では、最初に「海外財産の一覧」を作るだけでは不十分だということです。

被相続人と相続人の住所履歴、国籍、財産所在地、取得者、現地手続、日本の申告期限を並べて確認していく必要があります。

このテーマの推奨読書順

第16テーマは、次の順番で読み進めていただくと理解しやすくなります。

まず、16-1で国際相続全体の確認順序を把握します。ここでは、人、財産、手続という大枠をつかみます。

次に、16-2で日本の相続税・贈与税の課税範囲を確認します。国際相続では、ここを誤ると、その後の財産評価や申告要否の判断がずれてしまいます。

そのうえで、16-3で国外財産の評価、外貨換算、資料収集を整理します。海外預金、外国株式、国外不動産がある場合は、ここが申告実務の中心になります。

外国で税金がかかる可能性がある場合は、16-4で外国税額控除と二重課税の整理に進みます。現地税務申告書や納税証明が必要になるため、早めに確認しておきたい論点です。

海外財産の名義変更や承継手続が問題になる場合は、16-5でプロベート、海外遺言、国際私法の基本を確認します。ここは税務だけでは完結しない領域です。

海外移住、国外資産管理、海外口座の情報交換、国外転出時課税が気になる場合は、16-6をお読みください。相続発生前からの資産管理にも関わる論点です。

最後に、16-7で相談前に整理すべき資料を確認します。実際に専門家へ相談する前に、住所履歴、海外財産資料、現地税務書類、相続人情報をまとめるための記事です。

16-1. 国際相続で最初に確認すべきこと

最初に読んでいただきたい導入記事です。

国際相続では、いきなり税額計算に入るのではなく、被相続人の住所、相続人の住所、国籍、財産所在地、現地手続、日本の申告要否を整理する必要があります。

この記事では、海外在住者や国外財産がある相続について、どの順番で事実確認を進めるべきかを扱います。国内相続と同じ感覚で進めてよい部分と、国際相続特有の確認が必要な部分を切り分ける入口です。

海外在住の相続人がいる、被相続人が海外に居住していた、外国籍の親族がいる、海外財産があるかもしれない。そうした段階では、まずこのコラムからお読みいただくことをおすすめします。

16-2. 相続税・贈与税の納税義務者と課税財産の範囲

日本でどの財産に相続税・贈与税がかかるのかを整理する、中核となる記事です。

国際相続では、「日本人だから全部課税される」「海外に住んでいるから日本では課税されない」といった単純な判断はできません。住所、国籍、過去の居住履歴、被相続人の区分、そして取得する財産の所在地を、順に確認していく必要があります。

この記事では、居住無制限納税義務者、非居住無制限納税義務者、制限納税義務者、国内財産、国外財産といった課税範囲の基本を整理します。

海外在住の子が相続人になる場合、外国籍の配偶者が財産を取得する場合、被相続人が海外に長く住んでいた場合などは、このコラムで日本の課税関係の土台を確認してください。

16-3. 国外財産の評価・外貨換算・資料収集

海外口座、外国株式、国外不動産などを日本の相続税申告にどう反映するかを扱う、実務寄りの記事です。

国外財産は、存在を把握するだけでは足りません。相続開始日時点の評価資料をそろえる必要があります。海外銀行の残高証明、証券会社の取引明細、不動産評価書、現地固定資産税資料、賃貸契約、ローン残高など、必要となる資料は財産ごとに異なります。

外貨建ての財産は、日本円に換算しなければなりません。相続税や贈与税を計算する場合の外貨は、原則として、課税時期における最終の対顧客直物電信買相場、いわゆるTTBまたはこれに準ずる相場により換算します。
出典:国税庁|No.4665 外貨(現金)の邦貨換算

海外財産の評価は、資料不足になりやすい領域です。評価額を下げることを先に考えるのではなく、まず相続開始日時点の財産内容と評価根拠を説明できる状態にする。この順序が大切です。

16-4. 外国税額控除と二重課税の整理

海外でも相続税・遺産税のような税金がかかる場合にお読みいただきたい記事です。

国際相続では、同じ財産について日本と外国の双方で課税されることがあります。その場合、日本の相続税側で外国税額控除を検討することになりますが、現地で税金を払えば必ず全額が控除される、というものではありません。

どの財産に対する税金なのか。相続税に相当する税目なのか。誰に課された税金なのか。いつ納付したのか。日本の申告期限までに証明書類が入手できるのか。

これらを確認しないことには、二重課税の調整が見込めるかどうかを判断できません。

外国税額控除を受ける場合には、相続税申告書第8表など申告書上の処理も必要になります。
出典:国税庁|外国税額控除の適用を受けられる方へ

16-5. 海外相続手続・プロベート・海外遺言の基本

税務以外の国際相続手続を整理する記事です。

日本国内の相続であれば、戸籍、遺産分割協議書、印鑑証明、登記書類、金融機関書類をそろえて進めるのが一般的です。しかし海外財産については、日本の遺産分割協議書だけでは名義変更や換金ができないことがあります。

国によっては、プロベート、現地裁判所の手続、遺言執行者、管理者、現地弁護士、現地税務申告、翻訳、認証、アポスティーユが必要になります。

日本の国際私法では、相続は原則として被相続人の本国法によるとされています。ただし、実際に海外財産の名義変更を進める場面では、財産所在地国の手続法、不動産登記制度、金融機関実務が、別途問題になってきます。
出典:e-Gov法令検索|法の適用に関する通則法

また、日本で作成した公文書を外国へ提出する場合、提出先によっては公印確認やアポスティーユが必要になることがあります。
出典:外務省|公印確認・アポスティーユとは

海外不動産、海外遺言、海外信託、ジョイント口座、現地専門家との連携がある場合は、このコラムで税務外の手続リスクを把握してください。

16-6. 国外転出時課税・国外財産調書・CRSと相続

海外移住や国外資産管理が相続税務にどう影響するかを整理する、注意点の記事です。

海外移住をした方、海外口座を持つ方、外国証券を保有する方、非居住者へ財産を移転する方は、相続税だけでなく、所得税や情報申告制度にも注意が必要です。

国外転出時課税制度では、一定の居住者が1億円以上の対象資産を所有等している場合に、国外転出、または非居住者への贈与・相続・遺贈による対象資産の移転について、含み益に所得税等が課税されることがあります。
出典:国税庁|国外転出時課税制度

また、CRSに基づく自動的情報交換により、各国税務当局は非居住者に係る金融口座情報を交換する仕組みを整えています。海外口座は「申告しなければ分からない財産」と考えるべきではありません。
出典:国税庁|共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換に関する情報

この記事では、相続発生後だけでなく、生前の海外移住、国外資産保有、海外口座管理が、将来の相続税申告や税務調査にどうつながっていくのかを扱います。

16-7. 国際相続の相談前に整理すべき資料

第16テーマのまとめとなる記事です。

国際相続では、初回相談の時点ですべての資料がそろっている必要はありません。ただし、何が分かっていて、何が不足していて、どの資料の取得に時間がかかるのか。この見取り図だけは、早めに整理しておく必要があります。

この記事では、住所履歴、国籍、在留資格、海外財産資料、現地税務書類、遺言、海外口座、相続人情報など、相談前に整理すべき資料を具体的に確認していきます。

特に、海外銀行や海外証券会社の残高証明、国外不動産の評価資料、現地税務申告書、プロベート関係書類、署名証明、在留証明、翻訳・認証資料は、取得に時間がかかることがあります。

国際相続の相談をご検討中であれば、16-1から16-6を読んだうえで、この16-7で実際の資料整理に進んでいただくと、専門家との面談がより具体的なものになります。

他テーマとあわせて読むと理解が深まる論点

国際相続は、第16テーマだけで完結するものではありません。

相続人の範囲や相続分が分からない場合は、第2テーマ「相続の基本法務と相続人・相続財産の確定」を先に確認してください。海外在住者がいる場合でも、まず誰が相続人なのか、戸籍や身分関係を整理するところから始まります。

相続税の基本構造に不安がある場合は、第3テーマ「相続税・贈与税の基本構造と申告要否」が前提になります。国際相続であっても、基礎控除、課税価格、債務控除、税額控除、申告期限の基本は避けて通れません。

国外不動産や外国株式の評価が問題になる場合は、第6テーマ「財産評価の総論と税務上の時価」とあわせてお読みください。国外財産であっても、相続税申告においては評価時点、評価根拠、資料保存が重要になります。

海外口座、外国証券、保険、名義財産が問題になる場合は、第12テーマ「生命保険・金融資産・名義財産」と接続します。海外口座の名義人と実質所有者が一致しない場合には、国内の名義預金と同様に慎重な確認が必要です。

申告手続、税務調査、附帯税が気になる場合は、第14テーマ「相続税申告実務・税務調査・附帯税」も重要です。国際相続では、資料不足や評価根拠の不明確さが、そのまま申告後の説明負担につながっていきます。

専門家連携が必要な場合は、第17テーマ「相談前整理・専門家連携・税務リスク管理」へお進みください。国際相続では、税理士だけでなく、弁護士、司法書士、行政書士、現地専門家、不動産評価の専門家との連携が必要になることがあります。

早めに専門家へ相談した方がよい国際相続

次のような場合は、資料が全部そろってからではなく、早い段階で論点整理を始めることをおすすめします。

  • 被相続人が海外に住んでいた期間がある場合
  • 相続人の一部が海外在住である場合
  • 相続人や受遺者に外国籍の方がいる場合
  • 海外銀行口座、外国証券、国外不動産がある場合
  • 海外遺言、海外信託、ジョイント口座がある場合
  • 外国で相続税・遺産税のような税金がかかる可能性がある場合
  • 海外移住、国外転出時課税、国外財産調書、CRSが関係しそうな場合
  • 海外財産の資料が英語・現地語で、評価や翻訳の見通しが立っていない場合

国際相続は、初期整理が遅れるほど、後からの修正が難しくなります。特に、申告期限、現地税務期限、プロベート手続、外貨換算、外国税額控除、納税資金、相続人間の合意形成は、一見それぞれ別に動いているようでいて、実際には相互に影響し合っています。

大切なのは、「海外財産があるから難しい」と漠然と捉えることではありません。人、財産、手続、税務、資料のどこに難しさがあるのかを分解し、優先順位を付けていくことです。

国際相続で不安がある方へ

国際相続では、海外口座や国外不動産の金額だけを見ていても、適切な判断はできません。

被相続人と相続人の住所・国籍、国外財産の所在地、現地手続の要否、日本の相続税の課税範囲、外貨換算、外国税額控除、国外転出時課税、国外財産調書・財産債務調書、CRSとの整合性。ここまで確認して初めて、申告方針や資料収集の優先順位が見えてきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、海外在住者、国外財産、海外口座、外国証券、国外不動産、現地税務書類が関係する相続について、初期論点の整理、必要資料の洗い出し、日本の相続税申告に向けた評価・外貨換算・申告後リスクの確認を支援しています。

「海外財産があるが、何から整理すべきか分からない」「海外在住の相続人がいて手続が進まない」「外国で税金がかかる可能性があり、日本側の申告とどう調整すべきか不安がある」。このような場合は、まず分かる範囲の資料を整理したうえでご相談ください。初回の段階で資料が不足していても、不足している資料と期限を明確にすることで、次に取るべき行動が見えてきます。

振り返り|第16テーマで押さえるべき重要事項

論点まず確認すること詳しく読む記事
国際相続の入口被相続人・相続人・財産・手続のどこに海外要素があるか16-1
日本の課税範囲住所、国籍、居住履歴、財産所在地により、国内財産だけか国外財産も含むか16-2
国外財産評価海外口座、外国証券、国外不動産の評価資料と相続開始日時点の根拠16-3
外貨換算外貨建て財産・債務をどの為替相場で円換算するか16-3
二重課税外国で課された税金が日本の外国税額控除の対象になるか16-4
海外手続プロベート、海外遺言、現地専門家、翻訳・認証が必要か16-5
国際私法相続準拠法と現地手続法を分けて確認する必要があるか16-5
国外転出時課税非居住者への相続・遺贈で対象資産の含み益課税が問題になるか16-6
国外財産調書・CRS海外口座や国外資産情報と相続税申告の整合性を説明できるか16-6
相談前資料住所履歴、相続人情報、海外財産資料、現地税務書類、遺言を整理できているか16-7
専門家連携税理士だけでなく、弁護士・司法書士・現地専門家との連携が必要か16-5・16-7・17テーマ
申告後リスク評価根拠、名義、送金履歴、調書制度との整合性を後から説明できるか16-3・16-6・16-7