外国税額控除と二重課税の整理|海外で相続税・遺産税・贈与税を払う場合の日本側の調整

海外の不動産を相続したところ、現地でも相続税や遺産税が課された。海外で暮らす親から国外財産の贈与を受け、日本でも贈与税の申告が必要になった。あるいは、米国・英国・フランス・韓国といった国々の税務手続と、日本の相続税申告を同時に進めなければならない——。

こうした国際相続・国際贈与の場面では、「日本でも税金がかかるのか」という入口の疑問だけでなく、海外で支払う税金を日本の相続税・贈与税からどこまで控除できるのかが、大きな論点になってきます。

ただ、海外で税金を払えば、その全額が日本の税金から差し引かれる、というわけではありません。外国税額控除には、対象となる税の種類、対象財産、財産の所在地、控除限度額、為替換算、申告資料、納税時期など、ひとつずつ確かめておくべき事項がいくつもあります。

国際相続では、日本の相続税そのものに加えて、納税義務者、財産の所在地、国外での手続、外国税額控除、現地の法制までを見渡しておく必要があります。第16テーマでは、住所判定、納税義務者、国外財産評価、外貨換算、外国税額控除、国外転出時課税、海外相続手続、国際私法を、ひとつのまとまりとして整理しています。

この記事では、16-2「相続税・贈与税の納税義務者と課税財産の範囲」、16-3「国外財産の評価・外貨換算・資料収集」を前提に、国外財産について海外でも課税される場合の外国税額控除と二重課税の整理を取り上げます。

目次

外国税額控除は「海外で払った税金の全額還付」ではない

はじめに押さえておきたいのは、外国税額控除は、海外で支払った税金を日本が全額返してくれる制度ではない、という点です。

これは、同じ国外財産について、日本と外国の双方で相続税・贈与税に相当する税が課される場合に、一定の範囲で日本側の税額から差し引く仕組みです。

たとえば、海外の不動産を相続し、その不動産について現地で相続税・遺産税が課され、日本でも同じ不動産が相続税の課税対象になる。このようなときに、二重課税の調整が問題になります。

一方で、次のような税金や費用は、相続税・贈与税の外国税額控除とは切り分けて整理する必要があります。

海外で発生する支払い外国税額控除との関係
海外の相続税・遺産税要件を満たせば控除対象になり得る
海外の贈与税要件を満たせば控除対象になり得る
海外の所得税・キャピタルゲイン税原則として相続税・贈与税の外国税額控除とは別問題
固定資産税・不動産税通常は相続税・贈与税相当税ではない
印紙税・登録税・登記費用通常は外国税額控除ではなく、手続費用等として整理
プロベート費用・弁護士費用税額控除ではなく、費用・債務・取得費等の別論点
罰金・延滞金・加算金控除対象税額に含められるか、慎重な確認が必要

つまり「海外で何か税金を払った」というだけでは足りないのです。日本側で見極めるべきは、その税が、国外財産について課された相続税または贈与税に相当する税なのかどうか、という点になります。

まず確認するのは、日本で国外財産が課税対象になるかどうか

外国税額控除を考える前に、まずはその国外財産が、そもそも日本の相続税・贈与税の課税対象になるのかを確かめます。

相続税についていえば、相続人が外国に居住していて日本に住所がない場合、原則として日本国内の財産だけが課税対象になります。ただし、相続人の国籍、被相続人の住所・国籍、日本での居住履歴などによっては、日本国外の財産も課税対象に入ることがあります。国税庁も、居住無制限納税義務者または非居住無制限納税義務者に該当する相続人が相続・遺贈により取得した財産は、国内財産・国外財産を問わず課税対象になる、と整理しています。
出典:国税庁|No.4138 相続人が外国に居住しているとき

ここで大切なのは、外国税額控除が、日本側でもその国外財産が課税価格に入っていることを前提とした制度だということです。

たとえば、制限納税義務者として日本国内の財産だけが課税対象になる人の場合、国外財産そのものが日本の課税対象に入りません。そのため、その国外財産について外国で税金を払っていても、日本の相続税・贈与税から控除する余地は、基本的にないことになります。

したがって国際相続では、次の順番で整理していくのが自然です。

  1. 被相続人・相続人・受贈者・贈与者の住所、国籍、在留資格、日本居住履歴を確認する
  2. 日本で課税対象となる財産の範囲を決める
  3. 国外財産の所在地と評価額を確認する
  4. 外国で課された税の性格を確認する
  5. 外国税額控除の対象になるか、控除限度額を計算する

海外で課された税額だけをいきなり眺めても、正しい判断にはたどり着けません。

相続税の外国税額控除の基本構造

日本の相続税では、相続または遺贈によって国外財産を取得し、その財産について外国の法令により相続税に相当する税が課されたとき、一定額を日本の相続税額から差し引く仕組みが用意されています。

相続税法基本通達20の2-1は、在外財産に対する相続税額控除に係る外国税額の邦貨換算について、その地の法令により課された相続税に相当する税額を、納付すべき日における対顧客直物電信売相場、いわゆるTTSで円換算すると定めています。ただし、送金が著しく遅れて行われる場合を除き、国内から送金する日のTTSによることもできる、とされています。
出典:国税庁|相続税法基本通達 第20条の2《在外財産に対する相続税額の控除》関係

相続税の外国税額控除では、概念としては、次のふたつの金額のうち少ない方が控除の限度になります。

比較する金額内容
A国外財産について、財産所在地国で課された相続税・遺産税等に相当する税額
B日本の相続税額のうち、その国外財産に対応する部分

ですから、外国で1,000万円の税金を支払っていても、日本の相続税額のうちその国外財産に対応する部分が600万円であれば、控除できるのは原則として600万円まで、ということになります。控除しきれなかった部分が、そのまま日本で還付されるわけではない、という点は押さえておきたいところです。

控除限度額は「日本の税額のうち国外財産に対応する部分」

外国税額控除の実務で要になるのは、海外で支払った税額そのものではなく、日本の税額のうち、国外財産に対応する部分がいくらかという点です。

相続税の計算では、まず各人の課税価格を求め、その合計額から基礎控除額を差し引き、法定相続分により相続税の総額を算出します。そのうえで、各人の課税価格に応じて税額を按分していきます。国税庁も、相続税の一般的な計算の流れとして、各人の課税価格の計算、相続税の総額の計算、各人ごとの相続税額の計算、各種税額控除、という順序を示しています。
出典:国税庁|No.4152 相続税の計算

外国税額控除は、この「各人ごとの税額」のなかで、国外財産に対応する部分を限度として適用していくものです。

かなり単純化すると、相続税の外国税額控除の限度額は、おおよそ次のような考え方になります。

項目考え方
控除前の日本の相続税額各種控除を考慮したあとの、対象者の相続税額を確認
国外財産の価額日本の課税価格計算に含まれた国外財産の価額
課税価格計算の基礎に算入された財産価額その人が相続等により取得した財産のうち、日本の課税価格に入った部分
控除限度額日本の相続税額 × 国外財産対応割合

実際の計算では、債務控除、相続時精算課税、ほかの税額控除、2割加算、相次相続控除などとの関係も確かめる必要があります。相続税法基本通達20の2-4は、相続税の税額控除等の順序として、暦年課税分の贈与税額控除、配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除を行ったあとに、在外財産に対する相続税額控除を行う、と示しています。
出典:国税庁|相続税法基本通達 第20条の2《在外財産に対する相続税額の控除》関係

このように、外国税額控除は単独で計算できるものではありません。相続税申告全体の税額計算のなかに組み込んで、確かめていく必要があります。

贈与税の外国税額控除の基本構造

贈与税についても、国外財産の贈与を受け、その財産について外国で贈与税に相当する税が課されたときは、日本の贈与税額から一定額を控除できる仕組みがあります。

相続税法基本通達21の8-1は、贈与税に係る外国税額控除の邦貨換算について、相続税の外国税額控除に係る邦貨換算の取扱いを準用する、としています。したがって、贈与税に相当する外国税額についても、原則として納付すべき日のTTS等で円換算することになります。
出典:国税庁|相続税法基本通達 第21条の8《在外財産に対する贈与税額の控除》関係

贈与税の外国税額控除では、とりわけ次の点が重要になります。

確認事項内容
贈与財産は国外財産か日本国外に所在する不動産、外国株式、海外口座など
外国で課された税は贈与税相当か名称ではなく、課税内容で判断する
誰に課税されたか受贈者ではなく、贈与者に課税される制度もある
暦年課税か相続時精算課税か税額控除の適用区分が異なる
控除限度額日本の贈与税額のうち、その国外財産に対応する部分

国税庁は、外国が遺産税体系を採っており、国外不動産の贈与について受贈者ではなく贈与者に贈与税が課される場合であっても、要件は「受贈者に課税されたこと」ではなく「贈与財産について贈与税に相当する租税が課されたこと」である、と整理しています。そのため、日本の受贈者の贈与税額の計算上、その外国税額を控除できる、としています。
出典:国税庁|贈与税に係る外国税額控除

この取扱いは、国際贈与の場面で非常に重要です。国によっては、日本のように「財産を取得した受贈者」に課税するのではなく、「贈与者」や「財産そのもの」に課税する仕組みもあります。そうした場合でも、名称や納税者だけで判断せず、課税の実質を確かめることが大切になります。

「財産所在地国で課された税」かどうかを確認する

外国税額控除で見落とされやすいのが、どの国で課された税かという点です。

日本の相続税法上の外国税額控除は、国外財産について、その地の法令により相続税または贈与税に相当する税が課された場合を想定しています。

そのため、次のような整理が必要になります。

外国税額控除の検討
フランス所在の不動産にフランス相続税が課された対象になり得る
米国所在の不動産に米国連邦遺産税が課された対象になり得る
韓国所在の財産に韓国相続税が課された対象になり得る
カナダ居住者の死亡に伴い、カナダでみなし譲渡課税が生じた相続税相当税か、所得税かを慎重に確認
米国居住者の死亡により、フランス所在財産にも米国遺産税が課された財産所在地国ではない国の税として、別途検討が必要
海外不動産の名義変更で登録税・印紙税が課された通常は相続税・贈与税相当税とは別に整理

「どの国で課税されたか」は、外国税額控除の可否に直結します。とくに、居住地国が全世界財産に課税する制度を持っている場合、財産所在地国以外でも税金が発生することがあります。このようなケースでは、日本の外国税額控除だけでは二重課税を完全に解消しきれないことがあります。

日米相続税条約を確認すべき場面

国際相続でとりわけ注意したいのが、米国との関係です。

米国には連邦遺産税・贈与税があり、日本の相続税・贈与税とは課税の方式が異なります。日本では、相続や贈与によって財産を取得した人に課税する取得者課税方式が基本です。一方、米国連邦遺産税は、被相続人の遺産の側に課税される仕組みになっています。

この制度の違いから、日本と米国の双方で課税関係が生じることがあります。日本と米国との間には、遺産・相続・贈与に対する租税についての二重課税の回避等を目的とした条約と、その実施に伴う国内法があります。
出典:国立国会図書館 日本法令索引|遺産、相続及び贈与に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約
出典:日本法令外国語訳データベースシステム|遺産、相続及び贈与に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約の実施に伴う相続税法の特例等に関する法律

日米が関係する相続・贈与では、日本の相続税法上の外国税額控除だけを見るのではなく、日米相続税条約および実施特例法の適用可能性まで確かめておく必要があります。

たとえば、次のような場合には、条約の確認が必要になりやすいといえます。

  • 被相続人が米国市民または米国居住者である
  • 相続人が日本居住者で、米国財産を相続する
  • 米国不動産、米国株式、米国証券口座がある
  • 米国連邦遺産税申告が必要となる可能性がある
  • 米国以外の第三国財産について、米国と日本の双方で課税される可能性がある
  • 米国の統一税額控除、債務控除、配偶者控除、条約上の調整を確認する必要がある

「米国で税金を払ったから、日本で必ず全額控除できる」とも、「日本で課税されるから、米国は関係ない」とも、いずれも言い切れません。米国が関係する場合は、国内法、条約、現地申告、財産所在地、そして相続人・被相続人の居住・国籍を組み合わせて確かめていきます。

所得税・キャピタルゲイン税との混同に注意する

外国税額控除でとくに誤解が多いのが、海外の所得税・キャピタルゲイン税との混同です。

たとえば、国によっては、被相続人が死亡した時点で保有資産を時価で譲渡したものとみなし、キャピタルゲイン課税が行われることがあります。この税は、経済的には相続に伴って発生しているように見えます。しかし、日本の相続税法上の外国税額控除の対象となる「相続税に相当する税」といえるかどうかは、税の性格を慎重に確かめなければなりません。

また、海外不動産を相続したあとに売却し、現地で課される譲渡所得税は、相続税申告時の外国税額控除ではなく、相続後の譲渡所得課税の問題として整理します。

整理すると、次のようになります。

税の種類主な整理
海外相続税・遺産税相続税の外国税額控除を検討
海外贈与税贈与税の外国税額控除を検討
死亡時みなし譲渡課税所得税的性格か、相続税相当税かを確認
相続後売却に係る現地譲渡税譲渡所得税・所得税の外国税額控除等を別途検討
海外不動産の固定資産税保有税・管理費用として別途整理
プロベート費用相続手続費用として、債務控除・取得費等との関係を検討

この区分を誤ると、日本の相続税申告で控除できない税額を控除してしまったり、本来検討すべき所得税・譲渡所得の論点を見落としたりすることにつながります。

外国税額控除のために必要な資料

外国税額控除を適用するには、海外で課された税額、対象財産、納税義務者、納税時期、円換算の根拠を説明できる資料が欠かせません。

少なくとも、次の資料は確認しておきたいところです。

資料確認する内容
現地の相続税・遺産税・贈与税申告書税の種類、対象財産、申告額
現地税務当局の課税通知書・納税通知書確定税額、納期限
納付証明書・送金記録実際の納付額、納付日、通貨
財産別の評価明細どの財産に税が課されたか
遺産目録・プロベート資料現地手続上の財産の範囲
遺言・信託契約・遺産分割資料誰が財産を取得したか
現地法の説明資料税の性格、納税義務者、課税方式
為替レート資料納付すべき日のTTS、または送金日のTTS
翻訳・要約メモ日本側で申告内容を説明するための資料

海外の資料を、日本の税務署がそのまま読めるとは限りません。重要な資料については、どの部分が税額を示し、どの部分が対象財産で、どの部分が納付日にあたるのかを、日本語で整理したメモを残しておくと安心です。

為替換算は「財産評価」と「外国税額」で使うレートが違う

国外財産を日本の相続税・贈与税申告に反映する際には、外貨換算が必要になります。

16-3で整理したとおり、外貨建て財産の評価では、原則として、納税義務者の取引金融機関が公表する課税時期の最終のTTB、またはこれに準ずる相場を使います。

一方、外国税額控除の対象となる外国税額については、相続税法基本通達20の2-1により、原則として、納付すべき日のTTSで円換算します。贈与税の外国税額控除についても、同じ取扱いが準用されます。
出典:国税庁|相続税法基本通達 第20条の2《在外財産に対する相続税額の控除》関係
出典:国税庁|相続税法基本通達 第21条の8《在外財産に対する贈与税額の控除》関係

混同しやすい点を整理すると、次のとおりです。

対象原則として使う為替相場
外貨建て財産の評価課税時期のTTB
外貨建て債務の評価課税時期のTTS
外国税額控除の外国税額納付すべき日のTTS
送金により納付した外国税額一定の場合、国内から送金する日のTTSも検討

海外財産の評価額と、外国税額控除の外国税額とでは、使うレートが異なることがあります。為替差だけで税額が変わってくるため、採用したレートの根拠資料は、必ず保存しておきたいところです。

申告期限と外国税の確定時期がずれる場合

国際相続では、日本の相続税申告期限と、現地の相続税・遺産税の申告・納付時期が一致しないことがよくあります。

日本の相続税申告書は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に提出する必要があります。
出典:国税庁|相続税の申告手続

一方、海外では、プロベート手続が長引いたり、不動産評価や税額の確定に時間がかかったりすることがあります。その結果、日本の申告期限の時点では、外国税額がまだ確定していないこともあります。

このとき大切なのは、外国税の確定を待つために、日本の申告を遅らせないことです。日本の申告期限は、あくまで日本の税法に基づいて管理する必要があります。

実務上は、おおむね次のように進めていきます。

状況実務上の対応
外国税額が申告期限までに確定している確定資料に基づき、外国税額控除を計算
外国税額が未確定だが、見込み資料がある当初申告でどこまで反映できるか、慎重に検討
外国税額が申告後に確定した更正の請求等の要否を検討
外国税額が当初見込みより増減した日本側の申告修正・更正の請求を検討
外国税が控除対象か不明税の性格、現地法、財産所在地、条約を確認

見込みの税額を安易に控除して申告すると、後日、外国税額控除が過大だったとして、修正申告や附帯税の問題につながることがあります。反対に、控除をまったく検討しないまま申告すれば、本来受けられたはずの控除を逃してしまうおそれもあります。

判断が不確実な場合には、当初申告時点での資料、未確定の事項、今後の見込み、後日の対応方針を記録しておくことが大切です。

遺産分割・納税資金との関係

外国税額控除は、税額計算だけの問題にとどまりません。遺産分割や納税資金にも影響してきます。

たとえば、海外不動産を長男が取得し、日本国内の預金を長女が取得する場合を考えてみます。海外不動産について現地で遺産税が課され、その支払いを誰が負担するかによって、相続人それぞれの実質的な取得額が変わってきます。

また、外国税額控除は、日本の税額を一定の範囲で減らす制度であって、海外での納税資金そのものを用意してくれる制度ではありません。海外で先に税金を支払い、日本では後から控除・還付を受ける流れになる場合には、資金繰りが問題になることもあります。

確認しておきたい事項は、次のとおりです。

  • 外国税を誰が支払うのか
  • その外国税は、特定の相続人が取得する財産に対応するのか
  • 遺産全体から支払うのか、取得者が個別に負担するのか
  • 日本の相続税で控除できる金額と、実際の外国税額に差が出ないか
  • 控除しきれない外国税額を、家族間でどう負担するか
  • 外国税の納付時期と日本の納税期限がずれる場合、資金をどう確保するか
  • 為替変動による負担差を、どう扱うか
  • 遺産分割協議書に、外国税・現地費用の負担をどう記載するか

国外財産を含む相続では、「海外財産を誰が取得するか」と「海外税額を誰が負担するか」を、分けて考えておく必要があります。ここを曖昧にしたままだと、申告後に相続人のあいだで不公平感が生まれやすくなります。

二重課税を整理する実務手順

国外財産について外国税額控除を検討する場合、次の順序で整理していくと、判断がつけやすくなります。

1. 日本の課税対象になる国外財産を確定する

相続人・受贈者の納税義務者区分を確認し、その国外財産が日本の相続税・贈与税の課税対象に入るかどうかを確かめます。

2. 財産所在地を判定する

海外不動産、外国株式、海外預金、外国投資信託、保険、貸付金など、財産の種類ごとに所在地を確認します。相続税の財産所在地判定では、不動産はその所在地、預金は受入れをした営業所等、株式は発行法人の本店または主たる事務所の所在地などによって判定します。
出典:国税庁|No.4138 相続人が外国に居住しているとき

3. 外国で課された税の性格を確認する

現地の税目名だけでなく、課税対象、納税義務者、課税の原因、税額の計算方法までを確かめます。そのうえで、相続税・遺産税・贈与税に相当する税なのか、それとも所得税・譲渡税・登録税・費用なのかを整理します。

4. 外国税額控除の対象になる税額を円換算する

納付すべき日、または送金日のTTS等を確認し、外国税額を円に換算します。延滞金、罰金、利息、手数料が含まれている場合には、控除対象額から除外すべきものがないかを確かめます。

5. 日本側の控除限度額を計算する

日本の相続税・贈与税の計算を行い、その国外財産に対応する日本税額を求めます。外国税額と日本側の限度額のうち、低い方が控除額になります。

6. 租税条約・特例法を確認する

米国が関係する場合など、条約・特例法による調整が必要なケースでは、日本側だけでなく、現地の専門家との連携も必要になります。

7. 申告資料と説明記録を残す

外国税額控除は、税務調査で説明を求められやすい論点です。現地税務申告書、課税通知、納付証明、財産明細、為替資料、翻訳、判断メモを残しておきます。

よくある誤解と注意点

海外で払った税金はすべて日本で控除できる、という誤解

控除できるのは、原則として国外財産について課された相続税・贈与税に相当する税であり、控除限度額もあります。所得税、譲渡税、登録税、固定資産税、プロベート費用などは、別に整理します。

外国税額控除を使えば二重課税は必ず完全に消える、という誤解

外国税額控除には限度額があります。外国税額が日本の対応税額を超える場合、その超過分は控除しきれません。また、財産所在地国以外で課された税については、外国税額控除だけでは対応できないこともあります。

租税条約があれば自動的に有利になる、という誤解

相続税・贈与税について条約が関係する場面は、限られています。米国が関係する場合には日米相続税条約・特例法の確認が重要になりますが、条約を適用するには、財産所在地、居住地、国籍、税額計算、申告資料を丁寧に確かめる必要があります。

外国税が未確定なら、日本の申告も待てる、という誤解

日本の相続税申告期限は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。外国税の確定が遅れても、日本の申告期限の管理は、別に行う必要があります。

外国税額を支払った人と日本の相続人が違うと控除できない、という誤解

国によっては、受贈者や相続人ではなく、贈与者、遺産、財産そのものに課税する制度があります。贈与税について国税庁は、受贈者ではなく贈与者に課された外国税額であっても、贈与財産について課された贈与税相当税であれば、控除対象になり得る、としています。
出典:国税庁|贈与税に係る外国税額控除

為替レートは財産評価と同じでよい、という誤解

国外財産の評価ではTTBを使う場面が多い一方、外国税額控除の外国税額は、原則としてTTSで換算します。どの通貨、どの日付、どの金融機関のレートを使ったのかは、記録しておく必要があります。

外国税額控除を検討すべき典型例

次のような場合には、外国税額控除や二重課税調整の検討が必要になります。

  • 海外不動産を相続し、現地で相続税・遺産税が課された
  • 海外在住の親から、国外不動産や外国株式の贈与を受けた
  • 米国市民・米国居住者の相続で、日本居住者が財産を取得した
  • 海外法人の株式や海外信託財産が、相続財産に含まれている
  • 現地で遺産税申告・プロベート手続が必要になった
  • 外国税の納税通知書が、日本の相続税申告期限後に届く
  • 外国税が遺産全体に課され、各相続人への配分が分かりにくい
  • 海外税務申告書の内容と、日本の相続税評価額が一致していない
  • 為替レートの採用日や、TTS・TTBの区分に不安がある
  • 日米相続税条約の適用可能性がある

こうしたケースでは、相続税申告の最後に控除欄だけを埋めるのではなく、初期の段階から国外財産評価、現地税務、遺産分割、納税資金を並行して確認していく必要があります。

外国税額控除の相談前に整理しておきたい資料

専門家に相談する前に、次の資料を可能な範囲で整理しておくと、検討がスムーズに進みます。

分類準備したい資料
人の情報被相続人・相続人・贈与者・受贈者の住所履歴、国籍、在留資格
財産情報国外財産の一覧、所在地、名義、取得者、評価資料
現地税務資料外国の相続税・遺産税・贈与税申告書、課税通知、納税通知
納付資料納付証明、送金記録、銀行明細
現地手続資料プロベート資料、遺言、信託契約、遺産管理人資料
日本側資料相続税の試算、遺産分割案、相続時精算課税・贈与履歴
為替資料納付すべき日のTTS、送金日のTTS、採用した金融機関
翻訳資料重要部分の日本語訳、現地専門家の説明書
家族間の整理外国税・現地費用を誰が負担するかの合意メモ

国外財産の二重課税整理では、資料の一部だけを見ても判断できないことが多くあります。現地の税務申告、日本の相続税申告、遺産分割、納税資金を、同じテーブルに載せて検討していくことが大切です。

外国税額控除と二重課税に不安がある場合

国外財産に海外の相続税・遺産税・贈与税が課される場合、日本側でどこまで外国税額控除が使えるかは、税額だけを見ていても判断できません。

確かめるべきは、誰がどの財産を取得し、その財産が日本の課税対象に入り、外国でどのような性格の税が課され、その税がどの財産に対応し、日本の税額のうちどこまでがその国外財産に対応するのか——という、一連のつながりです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、国外財産を含む相続税・贈与税申告について、納税義務者の判定、国外財産の評価、外国税額控除、日米相続税条約を含む二重課税の整理、申告資料の確認、現地専門家との連携が必要となる論点の整理を支援しています。

海外で税金を払う予定がある、現地税務資料の読み方が分からない、日本の申告期限までに外国税が確定しない、外国税額控除を適用してよいか判断に迷う——。このような場合には、国外財産の一覧、現地税務書類、納税通知、遺産分割案を整理したうえで、ご相談ください。

振り返り|外国税額控除と二重課税の整理

論点重要ポイント実務上の確認事項
課税対象まず日本で国外財産が課税対象か確認する納税義務者区分、住所、国籍、在留資格
制度の目的外国税額控除は二重課税の調整制度海外税額の全額還付ではない
相続税の控除国外財産に外国の相続税相当税が課された場合に検討財産所在地国、税の性格、控除限度額
贈与税の控除国外贈与財産に外国の贈与税相当税が課された場合に検討暦年課税・相続時精算課税の区分
控除限度額日本の税額のうち国外財産に対応する部分が上限外国税額と日本側限度額の低い方
税の性格所得税・譲渡税・登録税等は別論点現地法と課税原因を確認
日米関係米国が関係する場合は条約・特例法を確認米国市民、米国居住者、米国財産
為替換算外国税額は原則TTSで換算納付すべき日または送金日の相場
申告期限外国税確定が遅れても日本の期限は別管理相続開始を知った日の翌日から10か月以内
資料収集現地税務資料・納付証明・翻訳が重要課税通知、納付証明、財産明細
遺産分割外国税の負担者を明確にする誰が取得し、誰が税を負担するか
説明可能性税務調査に備えて判断メモを残す控除対象税額、限度額、為替、根拠資料
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