買収後の経営体制とレポーティングライン――誰が誰に何を報告するか

M&A後のPMIで意外に見落とされやすいのが、「誰が誰に何を報告するか」という点です。

買収は完了した。株式も移転した。代表者や役員体制も一応決めた。従業員への説明も済ませた。それでも、買収後の経営がうまく動き出さないことがあります。多くの場合、その原因は経営体制とレポーティングラインが曖昧なまま放置されていることにあります。

対象会社の経営陣は、これまでどおり自分たちで判断してよいと考えている。買収側は、重要なことは当然報告されるはずだと考えている。経理担当者は、月次資料を誰にどの形式で出せばよいのか分からない。現場責任者は、投資・採用・値引き・取引先対応をどこまで独自に進めてよいのか迷っている。金融機関や主要取引先から尋ねられても、買収後の方針を誰が説明するのか決まっていない。

こうした状態は、「対象会社の自主性を尊重している」のではありません。単に、買収後のガバナンスが設計されていないだけです。

PMIは、主にM&A成立後に行われる統合に向けた作業であり、M&Aの目的を実現し、統合効果を最大化するために必要なプロセスと位置づけられています。

出典:中小企業庁|PMIを実施する

そして、PMIを実際に動かすには、買収後の経営体制と報告経路を明確にしておかなければなりません。どれほど優れた買収目的があっても、誰が判断し、誰が報告し、誰が異常を上げるのかが曖昧であれば、買収後の会社は「中の見えない会社」のままになってしまいます。

目次

買収後の経営体制は「支配したか」ではなく「経営できるか」で考える

株式を取得すれば、法的には対象会社を支配下に置くことができます。完全子会社化すれば、買収側は株主として強い影響力を持てます。

しかし、PMIで問われるのは、法的に支配しているかどうかだけではありません。実務の現場では、次の問いに答えられるかどうかが重要になります。

・対象会社の日々の経営判断は、誰が行うのか ・対象会社の経営者は、買収側の誰に報告するのか ・買収側は、どの事項を事前承認事項とするのか ・月次の数字は、誰が、いつ、どの資料で報告するのか ・資金繰りや借入の状況は、どの頻度で共有されるのか ・採用、退職、昇給、賞与、重要人事は、誰が承認するのか ・主要取引先、金融機関、法務・労務リスクは、誰に報告されるのか ・悪い情報が出たとき、誰がどのルートで買収側へ上げるのか ・外部専門家の指摘事項は、誰が経営判断へつなげるのか

買収後の経営体制とは、組織図を作ることだけを指すのではありません。買収側の経営判断に、対象会社の数字・事実・リスク・課題が確実に上がってくる仕組みを作ることです。

買収先を子会社として残し、法人格やオペレーションをすぐには統合しない場合には、どのようにガバナンスを効かせるかという観点から、派遣する役職員や出向者のポジション、レポーティングライン、報告内容、報告頻度を設計しておく必要があります。

ここで大切なのは、「任せる」と「放任する」を切り分けることです。

対象会社の経営陣に日常運営を任せる場面はもちろんあります。むしろ、事業を深く理解している既存の経営陣や幹部の力を活かすべき場面は少なくありません。ただし、任せる場合であっても、報告事項、承認事項、相談事項、禁止事項が明確になっていなければ、買収側は経営状況を把握できません。

自治は、報告と責任があって初めて成立します。報告のない自治は、PMIの観点では放任に限りなく近づいていきます。

Day1から最低限の報告体制を置くべき理由

買収後の経営体制は、落ち着いてから整えればよいと思われがちです。しかし実務上は、Day1の段階から最低限の報告体制を置いておく必要があります。

理由は単純です。クロージングの日から、対象会社は買収側グループの一員として事業を続けていくからです。

売上はその日から発生します。支払もその日から続きます。従業員の不安もその日から始まります。取引先や金融機関からの質問も、その日からやってきます。重要な契約、許認可、労務、資金繰りの問題は、買収直後だからといって待ってはくれません。

Day1の時点で、少なくとも次のような報告体制は決めておきたいところです。

・対象会社の代表者または経営責任者が、買収側の誰に報告するか ・月次の財務数値を、誰が、いつ、どの形式で提出するか ・資金繰り、借入、支払予定を、誰が確認するか ・重要な契約、取引先、金融機関対応を、誰に報告するか ・一定金額以上の支出、投資、採用、契約変更を、誰が承認するか ・不正、事故、クレーム、法令違反、労務トラブルが起きた場合の報告先 ・対象会社側の相談窓口と、買収側の受け手

対象会社がこれまで独立した企業体として運営されてきた場合、買収側の助けがなくても事業そのものは回るため、Day1の準備はどうしても後回しにされがちです。しかし、そのままでは、買収側の意向が対象会社の経営に反映されないリスクが残ります。クロージングの日から買収側傘下での運営が始まる、という認識を持っておくことが必要です。

Day1に求められるのは、完璧な統合ではありません。最低限、買収側が対象会社の状態を把握できる報告ラインです。

経営体制で決めるべき5つの論点

買収後の経営体制を考えるときは、次の5つに分けて整理すると、論点が見えやすくなります。

1. 誰が対象会社の経営責任を負うのか

最初に決めるべきは、対象会社の経営責任者です。

前経営者が引き続き残るのか。買収側から代表者や役員を派遣するのか。既存幹部を昇格させるのか。買収側の役員が兼務するのか。あるいは、一定期間だけ暫定体制を置くのか。

この判断は、単なる人事ではありません。買収後の経営管理そのものを左右します。

前経営者が残る場合、事業の継続性や、取引先・従業員の安心感は得やすくなります。一方で、従来の経営スタイルが変わらず、買収側の管理方針が浸透しにくいリスクがあります。

買収側から経営者や役員を派遣する場合、ガバナンスは効かせやすくなります。ただし、対象会社の現場理解が不足していると、過剰な管理や現場の反発を招くことがあります。

既存幹部を登用する場合、現場との連続性は保てますが、経営者としての数字管理、資金管理、人事判断、外部説明の経験が十分でないこともあります。

つまり、誰を置くかだけでなく、その人が何を決め、何を報告し、どこで買収側が支援するのかまで設計しておく必要があるのです。

なお、役員の選任、代表者変更、登記、取締役会・株主総会の手続、出向契約などは、会社法、定款、契約、労務実務に従って個別に確認すべき事項です。本記事では、こうした法的手続の詳細ではなく、PMI上の経営管理として、どのような体制と報告ラインを設計すべきかに焦点を当てています。

出典:e-Gov法令検索|会社法

2. 買収側から誰を関与させるのか

買収後、買収側から誰を対象会社に関与させるかも重要な論点です。

関与の形にはさまざまな選択肢があります。社外取締役的に関与する、非常勤役員として関与する、常駐役員や出向者を置く、経理財務や管理部門だけを支援する、月次会議でモニタリングする、といった形です。

ここで避けたいのは、形式だけの役員派遣です。

役員に就任しているが、月次数値を見ていない。取締役として名前はあるが、重要事項の報告を受けていない。出向者はいるものの、現場作業に追われて経営管理を担えていない。買収側の担当者はいるが、対象会社の経営陣との関係が弱く、実態が上がってこない。こうした状態では、ガバナンスは効きません。

買収側からの関与者には、役割を明確にしておく必要があります。

・経営判断に関与するのか ・月次数字をレビューするのか ・資金繰りを確認するのか ・重要契約や法務リスクを確認するのか ・人事労務の報告を受けるのか ・対象会社の経営陣の相談相手になるのか ・PMIタスクの進捗を管理するのか ・金融機関や親会社への説明資料を整えるのか

特に中小企業では、買収側にも十分な管理人材がいないことがあります。その場合は、買収側の経営者、管理部門、経理財務担当者、外部専門家が役割を分担しながら、対象会社の経営管理を支えていくことになります。

中小PMIでは、譲受側・譲渡側ともに限られた人員でPMIを進めるため、重要意思決定、企画・推進、実務作業という役割を整理し、企業規模に応じて兼務も含めて分担していく考え方が示されています。

3. 何を対象会社に任せ、何を買収側が承認するのか

買収後の経営体制で最も揉めやすいのが、権限の線引きです。

対象会社の経営陣からすれば、従来どおりスピーディーに判断したい。買収側からすれば、重要な判断は事前に知っておきたい。どちらの言い分にも合理性があります。問題は、どちらが正しいかではなく、線引きが曖昧なまま放置されることにあります。

承認事項として検討すべき領域には、たとえば次のようなものがあります。

・一定金額以上の設備投資 ・新規借入、借換、保証、担保設定 ・大口支払、役員報酬、賞与、退職金 ・重要な採用、退職、降格、組織変更 ・主要取引先との契約変更 ・価格改定、値引き、リベート、長期契約 ・新規事業、撤退、不採算案件の継続判断 ・重要な外注先・仕入先の変更 ・訴訟、行政対応、重大クレーム ・税務調査、労務トラブル、不正疑義 ・会計方針や決算処理に影響する判断 ・ITシステム、情報セキュリティ、個人情報に関する重要事項

ただし、すべてを買収側の承認制にすると、対象会社の意思決定は止まってしまいます。現場は「何をするにも親会社確認」と感じ、主体性を失いかねません。

逆に、承認事項を一切置かなければ、買収側は重要なリスクを後から知ることになります。

そこで、承認事項は次の観点から絞り込むのが現実的です。

・買収目的に影響するか ・資金繰りや投資回収に影響するか ・法務・税務・労務・会計上の重大リスクになり得るか ・対象会社単独では責任を負い切れないか ・買収側グループ全体の信用に影響するか ・後から外部へ説明する必要があるか

買収後の管理とは、細かく縛ることではありません。経営上、見逃してはいけない判断を確実に上げる仕組みを作ることです。

4. 月次で何を報告するのか

買収後のレポーティングラインの中心になるのが、月次報告です。

月次報告が整っていなければ、買収側は対象会社を数字で経営できません。業績が良いのか悪いのか、資金は足りるのか、シナジーは出ているのか、採算が崩れていないか、主要取引先に変化はないか――そのいずれも判断できなくなります。

月次で報告すべき内容は会社の状況によって異なりますが、PMIの初期段階では、次の項目を検討するとよいでしょう。

・月次試算表 ・売上、粗利、営業利益の推移 ・予算または買収時計画との差異 ・資金繰り表 ・借入残高、返済予定、保証・担保の状況 ・売掛金、買掛金、在庫、滞留債権 ・部門別・事業別・案件別の採算 ・主要取引先の動き ・受注、解約、クレーム、品質問題 ・人員、退職、採用、労務リスク ・シナジー施策の進捗 ・PMIタスクの進捗 ・重要な未決事項 ・買収側に判断を求める事項

買収後のレポーティング体制は、Day1までに取り決めておくべき代表的な論点です。月次の財務や経営指標の報告、買収側が上場企業であれば四半期連結対応などに向けて、対象会社の実務対応能力、買収側と対象会社の会計基準の差異、財務報告体制のスピードと品質を、早い段階で把握しておく必要があります。

ここで気をつけたいのは、月次報告を「試算表の提出」で終わらせないことです。

試算表だけでは、経営判断に使えないことがあります。数字の背景、資金への影響、差異の理由、今後の見通し、そして対策まで説明されて、初めて買収後の経営会議で使える資料になります。

中小企業の経営者が月次決算を活用できない背景には、月次決算書を「作る壁」と、それを「読みこなす壁」の二つがあると整理できます。買収後のPMIでも事情は同じです。対象会社が数字を作れるだけでなく、買収側と対象会社がその数字を読んで判断できる状態にまで持っていく必要があります。

5. 悪い情報を誰に上げるのか

レポーティングラインで最も重要なのは、良い情報ではありません。悪い情報です。

売上が落ちた。資金繰りが厳しい。主要取引先から取引条件の見直しを求められた。キーマンが退職を申し出た。未払残業代の可能性が出てきた。在庫差異が大きい。不正や不適切処理の疑いがある。顧客クレームが重大化している。金融機関から追加説明を求められた――。

こうした情報が対象会社の内部で止まると、買収側の対応は遅れます。後から発覚したときには、資金、信用、従業員、取引先、会計処理、税務、法務にまで影響が広がっていることがあります。

法務・コンプライアンスリスクの管理においても、不祥事や不正そのものだけでなく、なぜ事前に防げなかったのか、事後対応は適切だったのか、という視点が重要になります。そのためには、重要情報が正確かつ迅速に経営陣へ共有される仕組みが欠かせません。

PMIでは、悪い情報が上がる仕組みを、信頼関係と制度の両面から作っていく必要があります。

制度面では、報告事項、報告先、報告期限、記録方法を決めます。信頼関係の面では、悪い情報を上げた担当者を一方的に責めない姿勢が求められます。

対象会社側が「報告すると怒られる」「買収側に知られると不利になる」と感じれば、情報は上がってきません。かといって、買収側が何でも細かく叱責すれば、現場はかえって防衛的になります。

大切なのは、責任追及よりも早期把握です。早く分かれば、それだけ早く対策を打てるからです。

レポーティングラインは「縦」と「横」の両方で設計する

買収後の報告ラインは、単純な上下関係だけでは足りません。

対象会社の社長から買収側社長への報告。対象会社の経理責任者から買収側経理財務担当への報告。対象会社の営業責任者から買収側事業部門への報告。対象会社の人事担当から買収側管理部門への報告。対象会社の現場責任者からPMI担当者への報告。

このように、縦の経営報告と、横の機能別報告を分けて設計しておく必要があります。

縦の報告ラインは、経営責任を明確にするために必要です。横の報告ラインは、専門的な論点を見落とさないために必要です。

たとえば、月次決算の遅れは、対象会社の社長が「問題ない」と感じていても、買収側の経理財務担当から見れば重大なリスクかもしれません。労務管理の不備は、対象会社の現場では慣行として処理されていても、買収側の管理部門から見れば早急に是正すべき論点かもしれません。IT権限や情報管理は、現場の利便性だけで判断すると、内部統制や情報セキュリティ上のリスクを見落とすことがあります。

経理部門や管理部門が縦割りになると、手待ち、手戻り、重複が生じ、最終成果物から逆算した管理ができなくなります。決算早期化においても、単体・連結・開示といった個別領域だけを見るのではなく、全体を俯瞰する「森を見る視点」が重要とされています。

PMIでも同じことが言えます。対象会社の経営体制に、縦の責任ラインだけでなく横の専門ラインを持たせることで、数字・資金・人事・リスクを立体的に把握できるようになります。

買収後の「自治」と「放任」を切り分ける

PMIで難しいのは、買収側がどこまで関与するかという見極めです。

対象会社の強みを残すには、一定の自主性が欠かせません。一方で、買収側が投資責任を負う以上、最低限の管理は避けて通れません。

このバランスを誤ると、二つの失敗に陥ります。

一つは、放任です。対象会社に任せきりにして、月次、資金、リスク、人材、シナジーの状況が見えないまま時間だけが過ぎていく状態です。

もう一つは、過干渉です。買収側のルールを対象会社の実態を見ずに押し込み、現場の負荷を高め、既存経営陣や従業員の意欲を削いでしまう状態です。

過干渉は対象会社の経営陣のモチベーション低下につながりかねません。とはいえ、最も避けるべきは、買収側によるガバナンスの不在です。対象会社と協議し、理解を得ながら、必要なガバナンス体制について合意していくことが重要になります。

自治と放任を切り分けるには、次の考え方が役に立ちます。

日常の営業活動や現場運営は、対象会社に任せる。ただし、数字、資金、重要契約、人事、投資、重大リスクは、買収側へ報告する。一定金額・一定重要度を超える事項は、事前承認とする。未決事項や悪い情報は、通常報告とは別に早期共有する。そして月次会議では、結果だけでなく、原因と対策まで確認する。

このように、自由に任せる範囲と、必ず報告・承認を求める範囲を分けておくことで、対象会社の事業運営を止めることなく、買収側として必要な管理を効かせることができます。

報告内容は「細かいほど良い」わけではない

買収直後は、不安からつい報告内容を増やしすぎてしまうことがあります。

毎日の売上。全取引の明細。すべての支払予定。細かな勤怠状況。全案件の進捗。全社員の動き――。

もちろん、危機対応や資金繰り不安があるときには、短期的に詳細な報告が必要になる場面もあります。しかし、恒常的に細かすぎる報告を求め続けると、対象会社の現場は報告作業に追われ、本来の業務が止まってしまいます。

レポーティングは、あくまで経営判断に使うためのものです。報告を増やすこと自体が目的ではありません。

報告項目を決める際には、次の問いを使うとよいでしょう。

・この情報は、買収側の経営判断に本当に必要か ・この情報が遅れると、どのリスクが生じるか ・対象会社側に過度な負担をかけていないか ・月次でよいのか、それとも週次で必要なのか ・異常時だけ報告すれば足りるのか ・数字だけでなく、原因や対策まで必要か ・報告を受けた買収側が、実際に判断・支援できるか

報告は、受け手側の責任も伴います。買収側が報告を求める以上、その報告を読み、判断し、必要な支援や指示を行う体制が整っていなければなりません。

報告させているのに、買収側が見ていない。資料は受け取るが、会議では使われない。現場は報告しているのに、何も返ってこない。こうした状態になると、レポーティングはたちまち形骸化します。

買収側の管理水準と対象会社の実務能力のギャップを見る

買収後のレポーティングラインを設計するときには、買収側が求める管理水準と、対象会社の実務能力との間にあるギャップを見ておかなければなりません。

買収側は、翌月の早い時期に月次数字が欲しい。けれど対象会社は、月次試算表が翌々月にしか出てこない。買収側は部門別採算を見たい。けれど対象会社は、そもそも部門区分を設定していない。買収側は資金繰り表を毎週更新したい。けれど対象会社は、社長の感覚で資金を見ている。買収側は連結報告パッケージを求めたい。けれど対象会社は、会計ソフトから出る試算表しか作ったことがない。

このギャップを無視して、買収側の資料フォーマットだけを押し付けても、正確な報告は出てきません。

レポーティング体制は、次の順番で整えていくのが現実的です。

まず、対象会社が現在どのような数字を作っているかを把握する。次に、買収側が本当に必要とする報告項目を絞り込む。そのうえで、初期段階で最低限必要な報告と、段階的に整えていく報告を分ける。最後に、担当者、期限、資料形式、レビュー方法を決める。

買収者側が想定する管理水準・管理方針と、対象会社の現状の管理水準とのギャップ把握とその対応策は、クロージング前から準備し、事業部門や対象会社の担当者も交えて議論を始めておく必要があります。

PMIの初期に大切なのは、最初から理想形を求めることではありません。買収側が経営判断を誤らないために必要な最低限の数字を、まず出せるようにすることです。

経営体制とレポーティングラインを整える実務ステップ

買収後の経営体制と報告ラインは、次の順番で整理すると、実務に落とし込みやすくなります。

ステップ1:買収目的から、管理すべき対象を決める

買収目的が販路拡大であれば、売上、顧客、営業活動、クロスセルの進捗が重要になります。製造能力の確保が目的であれば、生産、品質、納期、在庫、設備、人材が重要になります。事業承継が目的であれば、前経営者への依存、キーマン、取引先、人材の引継ぎが重要になります。グループ管理が目的であれば、月次決算、資金繰り、内部統制、会計方針が重要になります。

何を報告させるかは、買収目的から逆算して決めるべきです。

ステップ2:対象会社の現行の意思決定構造を把握する

次に、対象会社がこれまでどのように意思決定してきたかを確認します。

誰が価格を決めていたのか。誰が支払を承認していたのか。誰が採用を決めていたのか。誰が主要取引先との交渉をしていたのか。誰が資金繰りを見ていたのか。誰が月次数字を確認していたのか。

中小企業では、これらが前経営者や一部の幹部に集中していることがあります。経営者依存を責めるのではなく、どの判断が属人化しているのかを見える化することが大切です。

ステップ3:買収後の経営責任者と買収側窓口を決める

対象会社側の報告責任者と、買収側の受け手を決めます。

対象会社の社長が買収側社長へ報告するのか。対象会社の経理責任者が買収側経理財務担当へ報告するのか。対象会社の営業責任者が買収側事業部門へ報告するのか。あるいは、PMI担当者が全体を取りまとめるのか。

この窓口が曖昧だと、報告が分散してしまいます。複数の報告ラインを置く場合でも、最終的に誰が全体を見ているのかは決めておく必要があります。

ステップ4:報告事項・承認事項・相談事項を分ける

すべてを承認事項にする必要はありません。

報告すれば足りる事項。事前承認が必要な事項。判断の前に相談すべき事項。発生次第、即時に共有すべき事項。

この4つを分けておくと、対象会社側も動きやすくなります。特に、資金、重要人事、重要契約、主要取引先、重大クレーム、法令違反、不正疑義、税務・労務・会計上の重大論点については、通常の月次報告とは別に、早期共有のルートを持たせておくべきです。

ステップ5:月次報告と経営会議に接続する

報告ラインは、単に資料を送るだけでは機能しません。月次の経営会議に接続して、初めて意味を持ちます。

月次資料を提出する。買収側がレビューする。対象会社と数字の背景を確認する。必要な対策を決める。次回までのアクションを設定する。未決事項を追跡する。

ここまで回って初めて、レポーティングは経営管理になります。

ステップ6:一定期間後に報告ラインを見直す

Day1の時点で決めた報告ラインは、あくまで暫定的なものです。

買収後の実態が見えてくると、報告項目の過不足が分かってきます。対象会社側の実務能力も見えてきます。買収側が本当に見たい数字も明確になってきます。不要な報告、重複した報告、足りない報告も浮かび上がってきます。

ですから、初期PMIの一定期間を経た段階で、報告内容、頻度、資料、会議体、承認事項を見直すべきです。

PMIは、最初から完璧な仕組みを作ることではありません。実際に回しながら、経営判断に使える形へ整えていく営みです。

相談を検討すべきタイミング

次のような状態が見られる場合は、経営体制とレポーティングラインを見直す必要があります。

・買収後、対象会社の経営陣が誰に何を報告すべきか曖昧になっている ・買収側から役員や担当者を置いているが、実際には数字やリスクを把握できていない ・月次試算表は出ているが、経営判断に使える資料になっていない ・資金繰り、借入、支払予定が、買収側に十分共有されていない ・重要な契約、取引先、人事、投資の判断が、後から報告されてくる ・対象会社に任せているつもりが、実態としては放任に近くなっている ・買収側の管理要求が細かすぎて、対象会社の現場が疲弊している ・DDで把握した財務・税務・法務・労務上の論点が、買収後の報告体制に反映されていない ・金融機関や外部関係者に、買収後の経営体制や数字をうまく説明できない

PMIでは、対象会社をすぐに完全統合することが、常に正解とは限りません。しかし、経営体制とレポーティングラインが曖昧なままでは、買収側は対象会社を経営することができません。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&A後の月次決算、管理資料、資金繰り、予実管理、会計・財務論点の整理を通じて、買収後の会社を数字と事実に基づいて経営できる状態へ近づけるご支援を行っています。

買収後の経営体制や報告ラインが曖昧になっている、対象会社から上がってくる数字が経営判断に使えない、どこまで任せてどこから承認事項とすべきか整理したい――こうした場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。現状の報告資料、月次数字、資金繰り、会議体、承認事項を確認しながら、買収後の経営管理に必要な仕組みを一緒に整えていきます。

出典・参考情報

出典:中小企業庁|PMIを実施する
出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン
出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン(第3版)
出典:e-Gov法令検索|会社法

重要事項の振り返り

振り返り項目実務上のポイント
経営体制の目的法的に支配するだけでなく、買収後の会社を実際に経営できる状態にすること。
Day1の報告体制クロージング日から、誰が誰に何を報告するかを最低限決めておく必要がある。
経営責任者前経営者継続、買収側派遣、既存幹部登用、兼務などの選択肢を、買収目的と管理水準から判断する。
買収側の関与役員派遣や出向は形式ではなく、月次、資金、人事、契約、リスクを実際に把握する役割を持たせる。
承認事項すべてを承認制にせず、資金・投資・重要人事・契約・重大リスクなど、経営上重要な事項に絞る。
月次報告試算表の提出で終わらせず、業績、資金、差異理由、見通し、対策まで経営判断に使える形にする。
悪い情報の共有不正、事故、クレーム、資金繰り、人材離脱などは、通常報告とは別に早期共有ルートを設ける。
縦と横の報告ライン経営責任の縦ラインと、会計・財務・人事・IT・法務等の機能別ラインを組み合わせる。
自治と放任の違い任せる範囲を明確にしつつ、数字・資金・リスク・重要判断は買収側に上がる仕組みを作る。
最終的な目標対象会社を、勘や属人性ではなく、数字・事実・報告・承認・会議体によって経営できる状態へ近づけること。

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