シナジー計画とモニタリング――売上シナジー・コストシナジーを検証する

M&Aを検討する段階では、「シナジー」という言葉がよく交わされます。

買収先の商品を自社の顧客に販売できる。自社の販路を使えば売上が伸びる。仕入をまとめれば原価が下がる。重複する管理部門を統合すればコストを削減できる。技術、ノウハウ、人材、ブランドを組み合わせれば、単独ではできなかった成長が実現できる――。

いずれも、M&Aを実行するうえで欠かせない仮説です。ただし、買収後にその仮説を検証する仕組みがなければ、シナジーは経営会議で語られる言葉のままにとどまり、現実の経営成果へと姿を変えることはありません。

M&Aで本当に問われるのは、「どのようなシナジーを見込んで買ったか」ではありません。買収後に、そのシナジーをどの施策で実現し、誰が責任を持ち、いつまでに、どの数字で確認するのか。問われているのは、ここです。

中小企業庁は、PMIを「主にM&A成立後に行われる統合に向けた作業」と位置づけ、M&Aの目的を実現させ、統合の効果を最大化するために必要なプロセスだと説明しています。

出典:中小企業庁|PMIを実施する

中小PMIガイドラインでも、M&Aの成功は成立そのものではなく、当初期待した効果をどこまで実現できるかによって決まると整理されています。

出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン 概要版

本記事では、M&A後のPMIにおいて、売上シナジーとコストシナジーをどのように計画へ落とし込み、月次でモニタリングし、未達のときにどう見直していくのかを整理します。

目次

シナジーは「目的」ではなく、買収目的を実現するための手段である

まず確認しておきたいのは、シナジーはM&Aの目的そのものではない、ということです。

たとえば「売上シナジーを出す」こと自体が最終目的になるわけではありません。本来の目的は、買収によって顧客基盤を広げる、既存事業の競争力を高める、地域展開を加速する、製造能力を確保する、後継者不在の会社を引き継いで成長させる、といった経営上の成果にあります。

コストシナジーも同じです。「費用を削る」ことが目的なのではありません。統合によって重複を減らし、収益力を高め、キャッシュを生み、その資金を次の成長投資や人材投資へ回せる状態をつくること。そこに本来の狙いがあります。

PMIの実務では、シナジー効果を売上シナジーとコストシナジーに分けて整理することが多く、短期的には収益性やキャッシュフローの改善に寄与します。とはいえ、それはあくまでM&Aの目的を実現するための手段です。中長期の成長を考えれば、生み出したキャッシュを新たな投資へ振り向ける判断もあわせて必要になります。

そのため、シナジー計画を組み立てるときは、次の順番で考えていきます。

順番問うべきこと
1このM&Aの目的は何か
2その目的を実現するために、どのシナジーが必要か
3そのシナジーは、どの施策によって生まれるのか
4その施策は、誰が、いつまでに実行するのか
5効果は、どの数字で、どの頻度で測定するのか
6未達の場合、施策を変えるのか、前提を見直すのか

「シナジーがありそうだ」という感覚を、「測定できる経営管理」へと変える。それが、PMIにおけるシナジーモニタリングの出発点です。

シナジー計画がないと、買収後に何が起きるか

シナジー計画が曖昧なまま買収後に突入すると、次のような問題が起こりがちです。

買収時の資料にはシナジーが書かれていたのに、買収後の月次会議では誰も追っていない。売上シナジーを期待していたのに、営業同士の連携が進まず、紹介件数も提案件数も把握されていない。コストシナジーを見込んでいたものの、どの費目を、いつ、どの契約で削減するのかが決まっていない。

重複業務を削減しようとした結果、月次決算や内部統制の品質が落ちてしまう。対象会社の現場からは、買収側に「数字を上げろ」「コストを下げろ」と言われているだけに映る。経営会議では「シナジーが出ていない」と議論になるものの、何が未実行で、何が前提違いなのかが分からない。

これでは、シナジーはいつしか責任追及の言葉に変わってしまいます。

本来、シナジー計画は、現場を追い詰めるための管理表ではありません。買収目的を実現するために、経営者、買収側担当者、対象会社の幹部、現場責任者が、同じ前提に立って進捗を確認し、必要な支援や軌道修正を行うための共通言語です。

中小PMIの実務整理でも、想定したシナジー効果ごとに実現に向けた取組を具体化し、想定効果や実現可能性を踏まえて優先順位を決め、誰が、いつまでに、何を実施するかを行動計画へ落とし込むことが重要だとされています。あわせて、成果を測定・検証できるよう、目標やKPIといった定量指標を設定しておく必要があります。

シナジーは、まず「売上シナジー」と「コストシナジー」に分ける

PMIで最初に整理しやすいのは、PLへの影響を軸に、シナジーを売上シナジーとコストシナジーへ分ける方法です。

中小PMIガイドラインの発展編でも、M&Aの目的や期待するシナジー効果を実現するための取組として、事業機能の改善・連携を進め、売上・コストシナジーを実現することで収益性を高めることが整理されています。

出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン 詳細版

売上シナジー

売上シナジーとは、買収によって単独では得られなかった売上・粗利を生み出す効果のことです。

代表的なものを挙げると、次のようになります。

売上シナジーの類型具体例
クロスセル買収側の既存顧客に対象会社の商品を販売する
販路共有対象会社の商品を買収側の営業網・店舗・代理店で販売する
顧客紹介買収側と対象会社が相互に顧客を紹介する
商品・サービス拡充両社の商品を組み合わせて提案単価を上げる
エリア拡大対象会社の地域基盤を使って買収側商品を展開する
ブランド・信用力活用グループ入りによる信用力を営業活動に活用する
生産能力活用対象会社の設備・人員余力を使って受注機会を増やす

売上シナジーで気をつけたいのは、売上高だけで評価しないことです。

売上が増えても、粗利率が低い。新規案件は増えたが、営業工数がかかりすぎている。既存顧客への販売が伸びた一方で、対象会社の既存顧客対応が疎かになっている。クロスセル案件は増えたが、値引きが常態化している。生産能力を超える受注によって、納期遅延や品質問題が起きている。

こうした状態では、売上シナジーが出ているように見えても、企業価値の向上にはつながっていない可能性があります。

売上シナジーは、売上高ではなく、粗利、継続率、営業工数、キャッシュ回収、顧客満足、現場負荷まで含めて検証する必要があるのです。

コストシナジー

コストシナジーとは、統合によって売上原価や販管費を削減し、利益率やキャッシュフローを改善する効果です。

代表的なものは、次のとおりです。

コストシナジーの類型具体例
共同購買仕入先・購買条件を見直し、単価を下げる
物流統合配送ルート、倉庫、外部委託先を見直す
外注費見直し重複外注、割高な外注契約、内外製を見直す
本社機能統合経理、人事、総務、法務、ITなどの重複業務を整理する
システム統合会計、販売、在庫、人事システムの重複コストを減らす
拠点統廃合営業所、倉庫、工場、事務所の重複を見直す
業務標準化手作業、二重入力、属人的確認作業を減らす

コストシナジーで注意したいのは、「削減額」だけを見ないことです。

管理部門を削減した結果、月次決算が遅れる。物流費を下げた結果、納期遅延が増える。外注費を削減した結果、品質や顧客対応が悪化する。購買先を集約した結果、供給リスクが高まる。システムを統合した結果、現場入力がかえって増え、業務が回らなくなる。

コストシナジーは、削減してよいコストと、維持すべき管理コストを分けて判断しなければなりません。とりわけPMI初期に、会計、資金繰り、内部統制、顧客対応に関わる管理コストを機械的に削ると、後から大きなリスクとして跳ね返ってくることがあります。

業務改革においても、本社間接業務の見える化、成果物の再定義、業務遂行状況の見える化、プロセスの効率化、内外製の判断などを通じて、単なる削減ではなく、業務の質と効率を同時に検討していく必要があります。

シナジー計画は、施策ごとに分解する

シナジー計画で大切なのは、「売上シナジー1,000万円」「コストシナジー500万円」といった総額だけを書かないことです。

総額だけでは、誰も動けません。必要なのは、シナジーを施策単位へ分解することです。

たとえば、売上シナジー1,000万円を見込む場合でも、その中身は次のように分解できます。

A事業の既存顧客50社に対象会社の商品を提案する。買収側営業担当から対象会社営業担当へ顧客を紹介する。上位10社について共同訪問を実施する。既存商品に保守サービスを組み合わせた提案を行う。対象会社の製造余力を使って、買収側の受注制約を解消する。

コストシナジー500万円も同じです。

主要材料3品目について共同購買を実施する。重複している外注先を整理する。物流委託先の契約条件を見直す。経理処理の二重入力をなくす。不要なシステム契約を解約する。

こうして施策へ分解して初めて、責任者、期限、KPI、効果測定が設定できるようになります。

シナジー施策管理表の基本形

実務では、少なくとも次の項目を管理表に盛り込みます。

管理項目内容
シナジー区分売上シナジー、コストシナジー、その他
施策名何を実施するか
狙いどの買収目的とつながるか
対象範囲顧客、商品、拠点、部門、費目、契約など
ベースライン何と比較して効果を測るか
想定効果売上、粗利、コスト削減、キャッシュ影響
実行コスト追加人件費、システム費、移転費、解約費など
ネット効果想定効果から実行コストを差し引いた効果
KPI提案件数、受注率、単価、削減額、締め日数など
責任者誰が実行責任を持つか
関係部門営業、購買、製造、経理、人事、ITなど
期限着手日、完了日、効果発現時期
測定頻度週次、月次、四半期など
リスク顧客離反、品質低下、現場負荷、統制低下など
ステータス未着手、実行中、遅延、完了、見直し

ここまで分解しなければ、シナジーは管理できません。

効果測定では「ベースライン」を決める

シナジー効果を測定するうえで最も重要なのが、ベースラインです。

ベースラインとは、「シナジー施策を行わなかった場合に、どの程度の売上・利益・コストになっていたか」という比較基準を指します。

これを決めないまま効果測定に入ると、次のような混乱が起こります。

市場成長によって自然に増えた売上を、売上シナジーとして数えてしまう。対象会社がもともと進めていた値上げ効果を、買収後のシナジーとして数えてしまう。一時的な費用減少を、継続的なコストシナジーとして扱ってしまう。統合費用を控除せず、削減額だけを効果として報告してしまう。売上は増えたものの、既存事業からの置き換わりや値引きの影響を見落としてしまう。

シナジー効果を説明するには、少なくとも次の3つを分けて捉える必要があります。

区分内容
自然成長・自然減少M&Aをしなくても起きた可能性がある増減
既存施策の効果買収前から対象会社または買収側が進めていた施策の効果
PMI施策による追加効果M&A後の統合・連携によって追加的に生じた効果

厳密な実験のように完全に切り分けるのが難しい場合もあります。それでも、経営会議で「何をシナジー効果としてカウントしているのか」を説明できる状態にはしておく必要があります。

売上シナジーは「売上高」だけでなく「粗利」で見る

売上シナジーは、売上高ではなく粗利で見るのが実務的です。

たとえば、クロスセルによって売上が1,000万円増えても、粗利率が10%なら粗利は100万円にとどまります。そこに営業工数、導入支援、アフターサービス、追加外注費がかかれば、実質的な効果はさらに小さくなります。

売上シナジーでは、次のように段階を追って確認していきます。

段階確認する数字
活動顧客紹介件数、面談件数、提案件数、見積提出件数
成果受注件数、受注額、継続率、リピート率
採算粗利額、粗利率、案件別利益、営業工数当たり粗利
キャッシュ入金サイト、滞留債権、追加運転資金
顧客影響解約件数、クレーム件数、顧客満足度

売上シナジーの本質は、売上高を増やすことではなく、買収目的に沿った利益と顧客基盤を増やすことにあります。

コストシナジーは「グロス効果」と「ネット効果」を分ける

コストシナジーでは、削減額だけを報告すると実態を見誤ります。

たとえば、年間500万円の外注費を削減できたとしても、そのためにシステム移行費300万円、退職関連費用200万円、追加教育費100万円がかかっていれば、初年度のネット効果はマイナスになることもあります。

コストシナジーは、次のように分けて管理します。

区分内容
グロス削減額契約見直し、単価引下げ、業務削減による削減額
実行コスト移行費用、解約違約金、追加人件費、教育費、システム費
ネット効果グロス削減額から実行コストを控除した効果
一時効果初年度だけ発生する削減・費用
継続効果翌期以降も継続する削減効果
副作用品質低下、納期遅延、内部統制低下、現場負荷増加

コストシナジーは、短期のPL効果だけでなく、翌期以降も続く構造的な収益改善になっているかどうかまで確認する必要があります。

シナジーKPIは「活動」「成果」「財務影響」に分ける

シナジーを月次でモニタリングするには、KPIを階層化しておくことが欠かせません。

売上シナジーであれば、最終的な財務効果は売上・粗利・営業利益として表れますが、その手前には営業活動があります。コストシナジーであれば、最終的な財務効果は費用削減・利益増加ですが、その手前には契約見直し、業務変更、拠点整理、システム移行があります。

そこでKPIは、次の3層で設計すると見通しがよくなります。

KPIの層役割
活動KPI施策が実行されているかを見る顧客紹介件数、共同訪問件数、購買交渉件数、業務棚卸件数
成果KPI活動が事業上の成果につながっているかを見る受注件数、受注率、単価改善率、契約見直し完了率
財務KPIPL・CFへの影響を見る売上増加額、粗利増加額、販管費削減額、営業CF改善額

活動KPIだけを見ていると、実行はしているのに成果が出ていない、という状況を見逃します。財務KPIだけを見ていると、結果が出るまで原因が分かりません。あいだに成果KPIを挟むことで、活動から財務効果までのつながりが見えてきます。

KPIとは、会社の目標達成に向けた重要な活動や成果を定量的に評価する指標であり、財務指標だけでなく、日々の取組状況を測定する指標も含みます。

シナジー計画は、100日で完了するものと継続するものを分ける

買収後のPMIでは、100日計画がよく用いられます。ただし、すべてのシナジーが100日で実現するわけではありません。

むしろ、100日で実現できるシナジーは限られます。

顧客紹介の開始。主要取引先への共同訪問。重複契約の洗い出し。主要費目の購買条件比較。不要な小口契約の解約。月次管理資料へのシナジーKPI追加。シナジー施策ごとの責任者設定。

これらは、比較的早期に着手できるものです。

一方で、次のような施策には、数か月から数年かかることがあります。

販売チャネルの本格統合。ブランド統合。拠点統廃合。生産・物流ネットワークの再設計。基幹システム統合。人事制度統合。研究開発テーマの共同化。本社機能の統合。事業ポートフォリオの見直し。

100日統合計画では短期で効果が上がる事項が中心になりますが、短期では実現が難しい重要なシナジー施策については、100日後も継続して計画・実行し続けることが、統合価値の実現には欠かせません。最終的なあるべき姿に到達するまでに、数年を要することもあります。

そのため、シナジー計画は次の3段階に分けると、実務へ落とし込みやすくなります。

時間軸主な目的管理すべき内容
Day1〜100日初期安定化と早期着手顧客・従業員・取引先への影響を抑えつつ、見える化と優先施策を開始
100日〜1年シナジー施策の実行売上・コスト施策を月次でモニタリングし、未達時に軌道修正
1年以降グループ経営への定着継続効果、追加投資、組織再編、事業再編、投資回収を確認

PMIは、初期対応で終わるプロジェクトではありません。シナジーが実際に企業価値へ変わるまで、月次・四半期・年度で検証し続ける必要があります。

モニタリングは「月次決算」と「経営会議」に接続する

シナジーを検証するには、月次決算と経営会議に組み込むことが前提になります。

シナジー管理表をPMI担当者が別管理しているだけでは、経営判断にはつながりません。売上、粗利、販管費、資金繰り、KPI、アクションプランが月次の管理資料に反映され、経営会議で議論される状態をつくる必要があります。

月次決算を活用する基礎にあるのは、経営者自身が会計を読める・話せる・使える・見通せる状態になることです。買収後のシナジーモニタリングでも、経営者が月次の数字を見て、施策の進捗と財務影響を確認できることが前提になります。

シナジーモニタリングの会議では、少なくとも次を確認します。

会議で確認する項目内容
施策進捗計画どおり実行されているか
KPI活動KPI・成果KPI・財務KPIに異常はないか
財務影響売上、粗利、販管費、営業利益、資金繰りにどう表れているか
遅延理由顧客、現場、システム、人材、契約、資金のどこで詰まっているか
副作用顧客離反、品質低下、現場負荷、内部統制低下が起きていないか
対策施策を継続するか、変更するか、中止するか
責任者・期限次回会議までに誰が何を行うか

決算早期化の実務では、最終成果物から逆算して業務を組み立てる「森を見る視点」が重要になります。単体決算、連結決算、開示業務、管理資料が縦割りになると、手待ち・手戻り・重複が生じます。

シナジーモニタリングも同じです。シナジー管理、月次決算、予実管理、資金繰り、経営会議がばらばらに動くと、効果は見えてきません。経営会議で判断する最終アウトプットから逆算して、必要なデータとKPIを整えていくべきです。

未達時は「実行不足」と「前提違い」を分ける

シナジーが計画どおりに出ないことは、珍しくありません。むしろ、当初計画どおりにすべて進むことのほうが少ない、と考えておくくらいがちょうどよいでしょう。

大切なのは、未達を見つけたときに、「頑張る」「営業を強化する」「コスト削減を徹底する」で終わらせないことです。

未達理由は、少なくとも次のように分けて捉えます。

未達理由確認すべきこと
実行不足施策が予定どおり実行されていないのか
体制不足責任者、担当者、権限、人員が足りないのか
データ不足進捗や効果を測る数字が取れていないのか
顧客反応の違い想定より顧客ニーズが弱いのか
現場負荷対象会社の現場に過度な負担がかかっているのか
品質・供給制約売れても供給能力や品質が追いつかないのか
コスト増実行コストが想定より大きいのか
前提違い買収時の仮説そのものが誤っていたのか
外部環境変化市場、為替、原材料、人手不足などの影響か

実行不足であれば、責任者、期限、リソースを見直します。体制不足であれば、買収側からの支援、外部専門家の活用、担当者変更を検討します。前提違いであれば、シナジー仮説や予算そのものを見直します。副作用が大きいなら、施策を中止または縮小する判断も必要になります。

M&Aの成果は、売上、利益、事業価値といった結果指標に表れます。ただ、その源泉となる顧客数、営業職員1人当たり売上、顧客別利益などのバリュー・ドライバーまで分解して継続的に追跡すれば、統合過程の問題にもタイムリーに対応できます。

シナジーモニタリングは、未達を責めるための仕組みではありません。前提を早く見直すための仕組みです。

売上シナジーで見るべき具体的な指標

売上シナジーは、結果が出るまでに時間がかかります。そのため、売上高だけを月次で眺めていると、判断がどうしても後手に回ります。

売上シナジーでは、営業プロセスを分解して、先行指標と結果指標を組み合わせて見ていきます。

領域指標例判断ポイント
顧客連携顧客紹介件数、共同訪問件数両社の営業連携が実際に動いているか
提案活動提案件数、見積提出件数商品・サービスが顧客に提案されているか
受注受注件数、受注額、受注率提案が成果につながっているか
採算粗利額、粗利率、案件別利益売上増加が利益を生んでいるか
継続性リピート率、契約継続率一過性の売上で終わっていないか
顧客影響解約件数、クレーム件数既存顧客との関係を壊していないか
資金影響入金サイト、滞留債権売上増加が資金繰りを圧迫していないか

売上シナジーで気をつけたいのは、これを営業部門だけの問題にしないことです。

営業が受注しても、製造が追いつかない。提案は進んでも、価格設定が合わない。対象会社の商品知識が買収側営業に浸透していない。買収側の営業方針と対象会社の顧客対応文化が違う。顧客紹介はあるものの、誰が商談オーナーになるかが決まっていない。

こうした問題は、営業KPIだけでは解決できません。商品、価格、製造、納期、顧客対応、契約、会計処理まで含めて、実行体制を整えていく必要があります。

コストシナジーで見るべき具体的な指標

コストシナジーは、短期的に効果が出やすい一方で、現場負荷やリスクも表れやすい領域です。

見るべき指標は、削減額だけではありません。

領域指標例判断ポイント
購買主要品目単価、購買先集約率、共同購買対象額仕入条件が改善しているか
外注外注費率、外注先別粗利、内製化効果外注見直しが採算改善につながっているか
物流配送単価、積載率、物流費率、納期遵守率物流費削減が顧客対応を損なっていないか
管理部門処理件数当たり工数、月次締め日数効率化が管理品質を落としていないか
システム重複システム数、利用料削減額、入力工数統合効果と現場負荷のバランスは取れているか
拠点拠点維持費、稼働率、移転費用統廃合効果が一時費用を上回るか
品質不良率、手戻り件数、クレーム件数削減が品質低下につながっていないか

とりわけ管理部門のコストシナジーには注意が必要です。買収後に経理・財務・人事・総務・ITを削りすぎると、月次決算、資金繰り、内部統制、労務管理、情報セキュリティに影響が及びます。

業務フローを理解するうえでは、適切な内部統制、全体最適化、業務フローの構築という観点が欠かせません。会社の業務フローには共通する課題やリスクがあり、それを低減するために内部統制があります。

コストシナジーとは、単に費用を減らすことではありません。経営管理の品質を保ちながら、重複、非効率、過剰、属人化を減らしていくことです。

シナジーの過大評価を防ぐ

M&Aには、シナジーが過大評価されやすい構造があります。

買収を進めたい側は、どうしてもシナジーを前向きに見積もりがちです。買収価格を正当化するために、楽観的なシナジーが織り込まれることもあります。営業現場の実行難易度、顧客反応、現場負荷、システム制約、人材不足が十分に反映されないこともあります。コスト削減額は見積もりやすい一方で、実行コストや副作用が見落とされがちです。

財務DDは、対象会社の過去の損益・キャッシュフローの実績、現在の財務状況、リスク、将来計画の基礎情報を把握する手続であり、買収価格やシナジー効果を検討するうえで重要な手続です。

ただし、DDでシナジー仮説を検討しても、買収後に実行されなければ意味がありません。買収前のシナジー試算は、PMIで検証されるべき仮説にすぎないのです。

過大評価を防ぐには、次の視点が役立ちます。

視点確認内容
実現可能性現場が本当に実行できるか
時間軸効果はいつ出るのか
粗利影響売上ではなく利益を生むか
実行コスト追加投資、システム費、教育費、移転費を見ているか
副作用顧客、品質、人材、統制への影響はないか
重複計上同じ効果を複数施策で二重に数えていないか
外部要因市場成長や為替などをシナジーに含めていないか
責任者誰が実行責任を持つか
測定方法どのデータで効果を確認するか

シナジーは、楽観的に描いたからといって実現するものではありません。厳しく分解したうえで、実行できるものから着手していくことが大切です。

シナジー施策には「やらない判断」も必要である

PMIでは、すべてのシナジー施策を実行すればよい、というものではありません。

効果は大きいが、現場負荷が大きすぎる。短期利益は出るが、対象会社の強みを損なう。コスト削減はできるが、品質低下リスクが高い。買収側ルールの導入が早すぎて、従業員の反発が強い。システム統合の費用対効果が現時点では見合わない。主要顧客との関係を壊す可能性がある。

こうした場合には、施策を延期する、縮小する、段階的に導入する、あるいは実行しない、という判断も必要になります。

PMIは、早く統合することだけが正解ではありません。統合すべきもの、残すべきもの、段階的に整えるものを見極めていく必要があります。

とりわけ中小企業のM&Aでは、対象会社の強みが、属人的な営業、人間関係、地域密着、柔軟な現場対応にあることも少なくありません。これを短期的なシナジーのために壊してしまえば、買収目的そのものが損なわれてしまいます。

シナジー計画は、実行リストであると同時に、やらないことを決める判断表でもあるのです。

シナジーモニタリングの実務設計

シナジーモニタリングを実務で回していくには、次のような設計が必要です。

1. 月次のシナジーダッシュボードを作る

シナジー施策ごとに、計画、実績、差異、ステータス、課題、次アクションを一覧化します。

施策区分責任者KPI計画実績差異ステータス次アクション
主要顧客への共同提案売上営業責任者提案件数10件6件△4件遅延対象顧客を再選定
共同購買コスト購買責任者単価削減額100万円80万円△20万円注意追加品目を検討
物流契約見直しコスト管理部長年間削減額300万円300万円0完了納期影響を継続確認
クロスセル案件売上事業部長粗利額200万円120万円△80万円遅延価格設定を見直し

ここで大切なのは、数字を並べるだけでなく、次アクションまで書き込むことです。

2. 経営会議で扱うKPIを絞る

シナジー施策が多い場合でも、経営会議にすべてを上げる必要はありません。

経営会議では、買収目的に直結するもの、遅延しているもの、リスクが高いもの、資金影響が大きいものに絞ります。詳細な進捗はPMI分科会や部門会議で確認し、経営会議では意思決定が必要な論点を扱います。

3. 進捗ステータスを明確にする

シナジー施策は、次のようなステータスで管理すると見通しがよくなります。

ステータス意味
未着手まだ開始していない
実行中計画どおり進行している
注意軽微な遅延・課題がある
遅延期限や効果に明確な遅れがある
見直し前提・施策・目標の修正が必要
中止実行しない判断をした
完了施策は完了し、効果測定へ移行

「遅延」や「見直し」を悪い評価として扱いすぎると、現場は問題を隠すようになります。PMIでは、悪い情報が早く上がってくること自体に価値があります。

4. 効果が出た後も継続性を確認する

シナジーは、一度効果が出たら終わり、というものではありません。

売上シナジーなら、その売上が継続するか。コストシナジーなら、その削減が翌期以降も続くか。一時的な値引きやキャンペーンで作った売上ではないか。一時的に費用を先送りしただけではないか。人員負荷や品質問題が後から出ていないか。資金繰りに悪影響が出ていないか。

効果が出ることと、効果が定着することは別です。PMIでは、効果が出たかどうかだけでなく、その効果が持続するかどうかまで見ていく必要があります。

シナジー計画と資金繰りを切り離さない

シナジー計画は、PLだけで見るわけにはいきません。

売上シナジーが出るほど、売掛金は増えます。新規受注に対応するため、在庫や外注費が先行します。コストシナジーを出すために、システム投資や移転費用が必要になります。拠点統廃合では一時費用が発生し、人材確保や教育にも追加投資がかかります。クロスセルを拡大するには、広告宣伝費や営業人員も必要になります。

つまりシナジー施策は、利益改善だけでなく、資金繰りにも影響を及ぼすのです。

月次決算で資金繰りを確認する際には、売上債権、棚卸資産、仕入債務などの運転資金を把握し、借入金返済額と稼ぎ出す資金とのバランスを検討する必要があります。

シナジー計画では、少なくとも次の資金影響を見ておきます。

資金影響確認内容
売上増加に伴う運転資金売掛金、在庫、外注費、仕入債務
コスト削減の一時費用解約違約金、移転費、システム費、教育費
追加投資設備投資、人材採用、IT投資、広告費
回収期間いつ投資額を回収できるか
資金余力手元資金、借入枠、返済予定との関係

利益が出る施策でも、資金が先に出ていく場合があります。買収後の資金余力が限られている会社では、シナジー施策の優先順位を、資金繰りと一体で判断していく必要があります。

シナジーが出ない会社の共通点

シナジーが出ない会社には、いくつかの共通点があります。

買収目的が曖昧なまま進んでいる

何のために買収したのかが曖昧だと、シナジーの定義もまた曖昧になります。

売上を伸ばしたいのか。コストを下げたいのか。人材・技術を確保したいのか。顧客基盤を守りたいのか。製造能力を確保したいのか。地域展開を加速したいのか。

ここが曖昧なままでは、そもそもシナジー計画は作れません。

M&Aの初期検討では、M&Aの目的を明確にし、何が実現できれば成功と言えるのかを定義しておくことが重要です。これが曖昧なまま成り行きでM&Aを実行してしまうと、PMI段階でのリカバリーが難しくなる可能性があります。

責任者がいない

シナジーは、自然には出てきません。

営業部門、購買部門、経理部門、IT部門、製造部門、対象会社の幹部――この誰が何をするのかが決まっていなければ、施策は前に進みません。

「両社で連携する」という言葉だけでは不十分です。「誰が顧客リストを作るか」「誰が訪問を設定するか」「誰が価格条件を決めるか」「誰が削減効果を測るか」まで決めておく必要があります。

数字の定義が揃っていない

買収側と対象会社で、売上、粗利、案件、顧客、部門、費目、在庫、外注費の定義が異なることはよくあります。

この状態でシナジーを測ろうとしても、数字が比較できません。

売上計上基準が違う。粗利に含める費用が違う。部門別管理の単位が違う。顧客コードが整備されていない。案件別原価が分からない。外注費と仕入の区分が曖昧。共通費配賦のルールがない。

シナジーモニタリングの前提として、会計方針、勘定科目、補助科目、部門区分、管理粒度を整えておくことが必要です。

月次決算が遅い

月次決算が遅ければ、シナジーの検証も遅れます。

2か月前の数字を見ていては、打ち手が後手に回ります。数字が後から大きく変わる状態では、効果測定にも使えません。試算表だけで背景情報がなければ、シナジーの原因分析もできません。

月次決算は、シナジーモニタリングの土台です。

現場の納得がない

売上シナジーもコストシナジーも、現場が動かなければ実現しません。

買収側が一方的に「シナジーを出す」と言っても、対象会社の現場にとっては負担増にしか見えないことがあります。

なぜこの施策を行うのか。誰にとって意味があるのか。対象会社の強みをどう活かすのか。現場の負荷はどう調整するのか。顧客にどのような価値があるのか。成果が出たら、会社や従業員にどう還元されるのか。

これらを丁寧に説明しなければ、シナジー計画は現場に浸透していきません。

シナジー検証で専門家が関与すべき局面

シナジー計画は、本来、経営者自身が引き受けるべきテーマです。専門家に丸投げしても、現場は動きません。

ただし、次のような場合には、外部専門家の関与を検討する価値があります。

買収時のシナジー仮説が、買収後の行動計画に落ちていない。売上シナジー・コストシナジーのベースラインが不明確。シナジー効果を売上高だけで見ており、粗利・キャッシュ・実行コストを見ていない。KPIはあるが、経営会議で意思決定に使われていない。対象会社の月次決算が遅く、シナジー検証に間に合わない。会計方針、勘定科目、部門区分が揃っておらず、効果測定ができない。コスト削減の副作用として、内部統制や業務品質に問題が出ている。金融機関や親会社に、買収後の成果を説明できる資料がない。シナジー未達の原因が、実行不足なのか前提違いなのか判断できない。

専門家の役割は、シナジーを「出してあげる」ことではありません。

買収目的を整理する。シナジー仮説を施策に分解する。KPIと測定方法を設計する。月次決算・管理資料・経営会議につなげる。過大評価や二重計上を防ぐ。実行コストや資金影響を見落とさない。後から説明できる管理体制を整える。

ここに、会計・税務・財務・管理会計・内部統制を横断して見る専門家の価値があります。

なお、シナジー施策の内容によっては、税務、会計処理、労務、契約、許認可、個人情報、内部統制、金融機関説明といった論点が関わってくる場合があります。本記事は、M&A後の経営管理・PMIに関する一般的な整理であり、個別案件では、最新の法令・会計基準・税務上の取扱い・契約条件・実務状況を確認しながら判断していく必要があります。

シナジーを「経営成果」に変えるために

シナジーは、M&Aを正当化するための言葉ではありません。

シナジーとは、買収後に実行し、測定し、見直し、経営成果へと変えていくものです。

そのためには、買収時の資料に書かれたシナジーを、そのまま信じてはいけません。買収後の実態に合わせて、施策、責任者、期限、KPI、測定方法、実行コスト、資金影響、副作用まで分解していく必要があります。

売上シナジーは、売上高ではなく、粗利、継続率、営業工数、顧客影響、キャッシュまで見る。コストシナジーは、削減額ではなく、ネット効果、継続効果、品質、内部統制、現場負荷まで見る。未達のときは、実行不足、体制不足、データ不足、前提違いを分けて捉える。そして、月次決算と経営会議で、次の打ち手を決め続ける。

PMIにおけるシナジーモニタリングは、華やかな成長論ではありません。買収目的を現実の数字へ変えていくための、地道な経営管理です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&A後の月次決算、予実管理、KPI設計、部門別採算、資金繰り、シナジーモニタリング、管理資料整備について、会計・税務・財務・管理会計の視点から整理を支援しています。

買収時に見込んだシナジーが実際に出ているか分からない、売上シナジー・コストシナジーをどう測ればよいか整理できていない、経営会議でシナジー未達の原因を説明できない――そうした場合には、まず現在のシナジー仮説、月次資料、予算、KPI、アクションプランを棚卸しすることが有効です。

M&A後のシナジー計画やモニタリング体制を見直したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

この記事の振り返り

論点重要なポイント
シナジーの位置づけシナジーは目的ではなく、買収目的を実現するための手段
シナジー計画施策、効果、期限、責任者、測定方法に分解する必要がある
売上シナジー売上高だけでなく、粗利、継続率、営業工数、顧客影響、キャッシュを見る
コストシナジー削減額だけでなく、実行コスト、ネット効果、継続効果、副作用を見る
ベースラインM&Aをしなかった場合の比較基準を決めないと効果測定が曖昧になる
KPI活動KPI、成果KPI、財務KPIに分けて設計する
100日計画早期着手できる施策と、中長期で継続する施策を分ける
月次モニタリング月次決算、管理資料、経営会議に組み込んで初めて経営判断に使える
未達時の見直し実行不足、体制不足、データ不足、前提違い、外部環境変化を分けて確認する
専門家の役割作業代行ではなく、シナジー仮説を検証可能な管理体制に落とし込むこと

参考情報・出典

出典:中小企業庁|PMIを実施する
出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン 概要版
出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン 詳細版

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