相続や贈与のご相談では、まず「相続税をどれだけ減らせるか」「生前贈与をした方がよいか」「不動産を活用すべきか」といったところから話が始まることが少なくありません。
もちろん、税額を把握することは大切です。相続税の申告が必要なのか、どの程度の納税資金を用意しておくべきなのか。そこを確認しないことには、具体的な対策を組み立てることはできません。
ただ、私は実務のなかで、相続・贈与を税額だけで考えると判断を誤りやすいと感じてきました。
相続は、単に財産を移すための手続ではありません。家族関係、財産の内容、ご本人の意思、相続人それぞれの生活、納税資金、遺産分割、財産評価、登記、税務調査、そして二次相続まで——これらすべてが連なる、きわめて現実的な意思決定です。
生前贈与も同じです。贈与税がかからない、あるいは少なく済む。その一点だけを理由に進めてしまうと、後の相続税申告で贈与の事実そのものや、名義財産の問題が問われることがあります。特定の相続人にだけ財産を移した結果、将来の遺産分割や遺留分の問題が複雑になることもあります。
ですから、相続・贈与を考える入口では、まず次の視点を持っていただきたいと思います。
「税金をいくら減らすか」ではなく、「何を守り、誰にどう承継し、どのリスクを受け入れるのか」。
この順番を取り違えないこと。これは、相続・贈与の実務判断において、本当に重要なところです。
相続対策は「節税対策」だけではない
相続対策という言葉を聞くと、相続税を減らすための対策を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし実務では、相続税の軽減よりも先に考えるべきことがあります。
第一に、家族間の争いを防ぐこと。第二に、相続税を納めるための資金を確保すること。第三に、そのうえで相続税の軽減策を検討すること。そして第四に、実際の相続税申告で説明できる資料と根拠を整えることです。
この順番は、相続対策を考えるうえで非常に重要です。
仮に相続税が減ったとしても、相続人の間で分割協議がまとまらなければ、財産の移転も申告手続も止まってしまいます。不動産や非上場株式が多く、現預金が少なければ、税額が適正に計算できていても、いざ納税という段になって困ることがあります。さらに、相続税を減らす目的で実行した対策が、後の税務調査で説明できなければ、結果として追加の税額や附帯税の問題につながることもあります。
だからこそ相続対策では、「争族」防止、納税資金、税額軽減、申告実務を、切り離さず一体で考える必要があるのです。
相続税の一般的な計算では、まず各人の課税価格を求め、その合計額から基礎控除額を差し引きます。続いて法定相続分に応じて相続税の総額を計算し、最後に実際の取得割合に応じて各人の税額を按分していきます。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
この計算の構造を見ても分かるとおり、相続税は「財産の評価額」だけで決まるものではありません。誰が相続人なのか、どの財産を誰が取得するのか、どの特例を使うのか、過去の贈与をどう扱うのか。こうした要素によって、最終的な税額も、納税者ごとの負担も変わってきます。
最初に整理すべきは、財産ではなく「目的」
相続・贈与を考えるとき、多くの場合、最初に財産一覧や相続税の試算から入ります。それ自体は、もちろん必要な作業です。
ただ、財産を一覧にする前に、本来は目的を整理しておきたいところです。
相続・贈与の目的には、たとえば次のようなものが考えられます。
- 配偶者の生活を守る
- 自宅を残す
- 事業を後継者に承継する
- 不動産の共有化を避ける
- 納税資金を確保する
- 特定の相続人に負担が偏らないようにする
- 相続人以外の人や団体に財産を渡す
- 認知症などで意思決定が難しくなる前に備える
- 二次相続まで含めて、財産を残す順番を考える
これらの目的が、いつも同じ方向を向いているとは限りません。
自宅を配偶者に残すことは、生活保障にはつながります。しかし、二次相続の税額や、将来の不動産管理に影響することがあります。後継者に会社株式を集中させることは事業承継には有効ですが、他の相続人との公平感や遺留分、代償金の問題が出てくることがあります。不動産を分けやすくするために土地を分割しても、分割後の土地が建築上・評価上・売却上、かえって不利になることもあります。
ですから、相続対策の最初の問いは「どの制度を使うか」ではありません。「何を優先するか」です。
税額軽減、円満分割、納税資金、事業承継、生活保障、資産管理。このうち、何をどの順番で重視するのか。ここが曖昧なまま制度の選択に入ってしまうと、後になって判断がぶれやすくなります。
家族関係は、税務判断の前提になる
相続税の計算では、法定相続人の数や相続分が重要です。しかし実際の相続は、法律上の相続分だけで話が決まるわけではありません。
相続人同士の関係、過去の贈与、介護や同居の有無、事業への関与、親族間の距離感、そしてご本人の意思。こうしたものが、遺産分割の納得感に大きく影響します。
民法上の法定相続分は、相続人の間で協議がまとまらない場合の基準として重要です。一方、実際の遺産分割では、遺言、協議、調停・審判、現物分割、代償分割、換価分割といった複数の方法が関わってきます。相続人の範囲、遺産の範囲、遺言の有効性、特別受益、寄与分などが争点になると、分割協議はどうしても長期化しやすくなります。
ここで気をつけたいのは、税務上有利な分け方が、家族にとって納得しやすい分け方とは限らない、ということです。
たとえば小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を考えると、特定の相続人が取得した方が、税額の面では有利に見えることがあります。しかしその結果、他の相続人の取得財産が少なくなり、しかも代償金を支払う資金もないとなれば、分割協議は難航しかねません。
また、過去に一部の相続人だけが贈与を受けていた場合、税務上の贈与加算と、民法上の特別受益の問題は、必ずしも同じではありません。税務だけで整理してしまうと、家族のあいだに不公平感が残ることがあります。
相続・贈与では、法律上の権利関係と税務上の取扱いをいったん切り分けたうえで、その両方を見ながら判断していく必要があります。
財産構成によって、相続の難しさは大きく変わる
相続税額が同じであっても、財産の中身によって、相続の難易度は大きく変わります。
現預金が多い場合は、遺産分割や納税資金の面で、比較的整理しやすいことがあります。一方、不動産、農地、貸地、借地権、非上場株式、同族会社への貸付金、生命保険、国外財産などが含まれてくると、評価・分割・納税・手続が一気に複雑になります。
なかでも不動産は、相続税評価額だけでは判断できません。
土地の評価では、地目、評価単位、利用状況、権利関係、接道、形状、都市計画、建築制限などを一つひとつ確認する必要があります。土地を分割する場合には、財産評価基本通達上の考え方だけでなく、不合理分割、権利関係、登記、都市計画法・建築基準法上の制限も問題になってきます。
建築の視点も欠かせません。土地を分けた後にそこへ建物を建てられるのか、道路後退や接道義務に問題はないか、インフラの整備が必要か、実測面積と登記面積に差はないか。こうした確認も重要になります。
非上場株式についても同じです。評価額だけでなく、議決権、株主構成、後継者、会社の財務、役員貸付金や借入金、同族会社との不動産取引などが関わってきます。非上場株式の評価では、同族株主の判定、会社規模、類似業種比準価額、純資産価額、特定の評価会社など、会計・税務・会社法を横断した判断が求められます。
相続・贈与の判断では、まず財産を「金額」ではなく「性質」で見ること。これが大切です。
同じ1億円の財産でも、現預金なのか、収益不動産なのか、共有不動産なのか、農地なのか、非上場株式なのか。その違いによって、必要な対策はまったく変わってきます。
生前贈与は「渡せば終わり」ではない
生前贈与は、相続税対策としてよく検討される手段です。早い段階から財産を移転できること、受贈者の生活支援や資産形成に使えること、将来の相続財産を減らす効果が期待できること。こうした点から、有効に働く場面があります。
ただ、生前贈与は「名義を変えたから完了」というものではありません。
贈与は、贈与する側が財産を無償で与える意思を示し、受ける側がそれを受諾することで成立します。したがって、受贈者が贈与を知らない、贈与した後も贈与者が通帳や印鑑を管理している、贈与契約書や贈与税の申告がない、贈与財産から生じる収益を贈与者が受け取っている——こうした場合には、税務上も実質的に贈与が成立しているのかが問われることになります。
とりわけ、親族名義の預金や株式は、相続税の税務調査で問題になりやすい財産です。名義が子や孫になっていても、実質的に被相続人の財産と認められれば、相続財産に含めて申告しなければなりません。
さらに、令和6年1月1日以後の贈与については、暦年課税に係る贈与財産を相続財産へ加算する期間が、段階的に見直されています。国税庁は、令和6年1月1日以後の暦年課税贈与について、相続開始前7年以内が加算の対象期間となること、経過期間に応じた取扱いがあることを示しています。
出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
相続時精算課税についても、令和6年1月1日以後の贈与では、相続時精算課税に係る基礎控除額110万円が設けられました。ただし、相続時精算課税は一度選択すると、その特定贈与者からの贈与について、暦年課税へ戻ることはできません。
つまり、生前贈与を検討するときは、単に「今年いくら贈与するか」だけでは足りないのです。
誰から誰へ贈与するのか。暦年課税と相続時精算課税のどちらを選ぶのか。相続時に加算される可能性はあるのか。贈与の証拠は残っているのか。将来の遺産分割や遺留分に影響しないか。受贈者は、その財産を管理できるのか。
ここまで確認して、はじめて「贈与を実行すべきか」を判断できます。
遺言・遺産分割は、税務と切り離せない
遺言は、相続対策において非常に重要な手段です。遺言があれば、ご本人の意思に沿って財産を承継させやすくなり、遺産分割協議の負担を軽くできる場合があります。
ただし、遺言もまた「書けば安心」とは限りません。
遺言の内容が遺留分に配慮していなければ、相続開始後に遺留分侵害額請求が行われる可能性があります。財産を特定していない、受遺者が先に亡くなった場合の予備的な指定がない、遺言執行者がいない、換価や代償金の支払い方法が曖昧——こうした場合には、実行の段階で問題が生じます。
遺言によって期待できる効果としては、相続争いの防止、相続手続の円滑化、事業承継の円滑化、不動産相続手続の円滑化、税法上の特例適用の円滑化などがあります。その一方で、遺留分、生命保険金、配偶者居住権、小規模宅地等の特例、遺言と異なる遺産分割など、遺言を作成する時点で検討しておくべき税務・法務上の論点は、実に広範にわたります。
遺産分割協議も同じです。
現物分割、代償分割、換価分割のいずれを選ぶかによって、相続税はもちろん、譲渡所得税や登記、納税資金、共有リスクまでが変わってきます。遺言や遺産分割協議による財産移転では、相続税だけでなく、譲渡所得税や法人税などが関係する場合もあります。
特に不動産を分ける場合は、税務上の評価額だけでなく、将来売れるのか、貸せるのか、建て替えられるのか、共有者の間で管理できるのか、というところまで見ておかなければなりません。
「税額が下がる分け方」ではなく、「税務上も法務上も、後から説明でき、将来の管理にも耐えられる分け方」を考える。そこに意味があります。
納税資金を軽視すると、相続後に困る
相続税は、原則として金銭で納付します。申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
出典:国税庁|相続税の申告要否判定コーナー 相続税の申告期限
この10か月という期間は、実務の感覚からすると、決して長くありません。
戸籍を集め、相続人を確定し、財産を調査し、不動産を評価し、預金・証券・保険・債務を確認し、遺産分割協議を行い、申告書を作成し、そのうえで納税資金まで準備しなければならないからです。
相続財産の多くが不動産や非上場株式である場合、相続税額は計算できても、肝心の納税資金が足りないということが起こります。納税のために不動産を売却しようとしても、測量、境界確認、共有者の同意、賃借人への対応、担保権、都市計画上の制限などがあり、すぐには売れないこともあります。
延納や物納という制度もありますが、要件や担保、利子税、物納の適格性などを検討する必要があり、決して気軽に使えるものではありません。
ですから生前対策の段階では、相続税をいくら減らせるかだけでなく、次のような点も確認しておくことが重要です。
相続税をどう支払うか。誰が納税資金を持つのか。換金できる財産は何か。売却すると譲渡所得税はどうなるのか。
生命保険は、納税資金や代償金の準備に有効な場合があります。ただし、保険料の負担者、契約者、被保険者、受取人の関係によって、課税関係が変わります。生命保険の税務では、保険料負担者と受取人の関係を確認することが、とりわけ重要です。
保険を使う場合も、商品そのものの有利・不利ではなく、相続全体のなかでどの役割を担わせるのかという視点で考える必要があります。
財産評価は「金額を下げる作業」ではない
相続税申告では、財産評価が非常に重要です。とりわけ土地や非上場株式は、評価額が税額に大きく影響します。
しかし、財産評価を「いかに評価額を下げるか」という発想だけで進めるのは、危険です。
相続税法上の財産評価では、時価、財産評価基本通達、評価単位、権利関係、例外的評価、鑑定評価、そして税務調査での説明可能性が問題になります。評価基本通達に定める方法は実務上きわめて重要ですが、通達による評価が常に問題なく認められるとは限りません。通達評価が著しく不適当とされる場面では、総則6項や、裁判例・裁決例の考え方も問題になってきます。
評価実務で本当に重要なのは、評価額そのものよりも、その評価に至る過程です。
なぜその地目と判断したのか。なぜその評価単位としたのか。なぜその補正を適用したのか。契約書、登記、固定資産税資料、現地の状況、役所調査、写真、図面はそろっているか。特殊な事情がある場合、それをどのように評価へ反映したのか。
こうした根拠を残しておかなければ、申告の後に説明できなくなってしまいます。
近年では、居住用の区分所有財産、いわゆる分譲マンションについても、評価方法が見直されています。国税庁は、令和6年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した居住用の区分所有財産について、法令解釈通達に基づく評価方法を示しています。
このような改正からも分かるように、かつて有効とされた相続対策や評価方法が、これからも同じように使えるとは限りません。
相続対策では、「今の制度で効果があるか」だけでなく、「将来の申告時点で説明できるか」「制度改正があっても、過度に不自然な対策になっていないか」を確認しておく必要があります。
登記・法務手続も、相続税申告とつながっている
相続税申告では、税務だけを見ていればよいわけではありません。
不動産を相続する場合には、登記の問題があります。令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化され、不動産を相続したことを知った日から3年以内の登記が求められるようになりました。正当な理由なく義務に違反した場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。義務化前の相続も、対象とされています。
相続登記は、税務申告とは別の手続です。しかし実務上は、両者が密接につながっています。
誰が不動産を取得するのかが決まらなければ、登記も進みません。登記が未了のままだと、売却、担保設定、共有解消、そして次の相続の場面で、問題が大きくなることがあります。古い相続が未整理のまま残っている場合には、相続人の確定や数次相続の整理から始める必要が出てきます。
また、相続放棄、限定承認、未成年者、判断能力に不安のある相続人、海外居住者、行方不明者などがいる場合には、遺産分割や申告手続の進め方そのものにも影響します。
相続税申告の前提として、誰が相続人で、何が相続財産で、どのような権利関係にあるのか。これを正確に確認しておくことが欠かせません。
認知症対策は、相続税対策の前提になる
相続・贈与のご相談では、ご本人が高齢になってから対策を考え始める、というケースが少なくありません。
しかし、贈与、遺言、不動産売却、信託契約、任意後見契約などは、いずれもご本人の意思能力が前提になります。判断能力に不安がある状態で財産を動かすと、後日、家族のあいだで無効や不当な財産移転が争われる可能性があります。
認知症が疑われる親御さんの財産管理では、預貯金の引き出し、不動産処分、贈与、養子縁組、遺言能力、家族信託、成年後見など、法的なリスクが多方面に広がります。
成年後見制度、任意後見、財産管理等委任契約、見守り契約、家族信託は、それぞれ役割が異なります。成年後見制度は、あくまでご本人の保護を中心とする制度であり、相続税対策を自由に進めるための制度ではありません。任意後見や家族信託も万能な仕組みではなく、ご本人の意思、財産の種類、受任者・受託者の能力、税務上の影響を踏まえて検討する必要があります。
相続対策は、ご本人が判断できるうちに、その意思を確認しながら進めること。これが重要です。
相続税を減らすことよりも先に、ご本人の意思をどう残し、財産管理をどう続け、家族がどう関わっていくのか。そこを整理しておく必要があります。
相続・贈与の判断は、将来の申告実務まで見据える
生前対策と相続税申告は、別々のものではありません。
生前に行った贈与、土地分割、不動産活用、生命保険契約、遺言、信託、会社株式の承継は、相続が発生した後の申告実務に、そのまま影響します。
相続税申告では、資料収集、財産評価、相続人の確定、遺産分割、特例適用、申告書作成、納税、税務調査対応までを見通す必要があります。申告書を提出して終わりではなく、評価の根拠、贈与の履歴、名義財産、契約関係、特例適用の要件などを、いつでも説明できる状態にしておくことが大切です。
相続・贈与税の分野では、小規模宅地等の特例の適用、相続時精算課税選択届出書の提出、土地や株式の評価、特定の相続人に有利な分割提案、資料の受領不足、税務調査リスクの説明不足などが、税理士業務上のトラブルや税賠リスクにつながり得る論点として整理されています。
これは、納税者の側から見ても重要なことです。
専門家に相談するときは、「申告書を作ってもらう」だけでなく、「どの資料を確認し、どの論点を検討し、どの判断にどのリスクがあるのかを説明してもらう」という視点を持っていただきたいと思います。
相続税申告の品質は、申告書の見た目で決まるものではありません。確認した資料、評価判断の根拠、リスクの説明、依頼者との認識の共有、そして税務調査を見据えた記録化によって決まるのです。
相続・贈与を考えるときの基本的な判断順序
相続・贈与の検討は、次の順序で整理していくと、判断の抜け漏れを減らしやすくなります。
1. 目的を整理する
まず、何を実現したいのかを明確にします。
税額を下げたいのか、配偶者の生活を守りたいのか、事業を承継したいのか、不動産の共有を避けたいのか、納税資金を確保したいのか。目的が複数ある場合には、優先順位をつけます。
2. 財産を棚卸しする
不動産、預貯金、有価証券、生命保険、債務、同族会社株式、貸付金、農地、国外財産、過去の贈与履歴などを整理します。
ここでは、財産の金額だけでなく、換金のしやすさ、評価の難しさ、権利関係、共有の有無、資料の有無まで確認します。
3. 家族関係と法務上の前提を確認する
誰が相続人になるのか。遺留分の問題はあるのか。過去の贈与や介護負担をどう考えるのか。未成年者、認知症、行方不明者、海外居住者はいないか。
税務上の検討に入る前に、まず法務上の前提を確認します。
4. 相続税額と納税資金を概算する
相続税がかかるのか、どの程度の税額が見込まれるのか、現預金や保険で納税できるのかを確認します。
ここで大切なのは、税額だけでなく「誰が払えるか」という視点です。
5. 遺産分割と承継方針を考える
財産を誰にどう渡すかを検討します。
税務上有利かどうかだけでなく、相続人間の公平感、代償金を支払えるか、共有リスク、二次相続、将来の管理・売却の可能性まで確認します。
6. 生前対策を選択する
贈与、遺言、生命保険、不動産整理、会社株式の承継、信託、任意後見などを検討します。
制度を選ぶのは、目的・財産・家族・税額・資金を整理した後です。
7. 実行後の記録を残す
贈与契約書、資金移動の記録、議事録、評価資料、登記資料、保険契約資料、ご本人の意思の記録などを残します。
相続対策は、実行して終わりではありません。将来の相続税申告で説明できる状態にしておくことが大切です。
8. 定期的に見直す
家族関係、財産の内容、税制、ご本人の意思、健康状態は、いずれも変わっていきます。
一度作った対策でも、時間が経てば前提が変わります。相続・贈与は、実行した時点だけでなく、相続が発生した時点でどう機能するかを、改めて見直す必要があります。
専門家に相談すべき場面
相続・贈与は、すべてのご家庭で必ず複雑になるわけではありません。財産構成がシンプルで、相続人間の関係も良好で、納税資金も十分にある場合には、比較的整理しやすいこともあります。
一方で、次のような場合には、早い段階で専門家に相談する価値があります。
- 不動産が複数ある
- 土地の評価が難しい
- 自宅、賃貸不動産、農地、貸地、借地権がある
- 同族会社株式や、会社への貸付金がある
- 生前贈与を継続している
- 子や孫名義の預金・株式がある
- 生命保険を複数契約している
- 相続人間で考え方に差がある
- 遺言を作るべきか迷っている
- 納税資金に不安がある
- 配偶者の二次相続が気になる
- 親の判断能力に不安がある
- 海外財産や海外居住者が関係する
- 過去の相続登記が未了になっている
これらに該当する場合、一般論を調べるだけでは、判断に必要な情報が足りないことがあります。
ここで大切なのは、専門家に「答えを丸投げする」ことではありません。
ご自身たちの財産、家族関係、意思、リスクを整理し、専門家とともに選択肢を比較していくこと。相続・贈与の判断では、最終的に家族が何を選ぶかが何より大切です。その判断に必要な事実、数字、制度、リスクを整理するところに、専門家が関わる意味があります。
まとめ:相続・贈与は、後から説明できる形で考える
相続・贈与では、目先の税額だけを見て判断しないこと。これが何より重要です。
節税効果があるように見える対策でも、家族間の納得感を損なうことがあります。相続税評価額が下がるように見える不動産活用でも、借入金や空室リスクが次世代の負担になることがあります。生前贈与をしたつもりでも、証拠や管理状況が不十分であれば、相続税申告で問題になることがあります。
相続・贈与を考えるうえで、私が大切にしているのは、次の問いです。
その判断は、ご本人の意思に沿っているか。相続人間で説明できるか。税務上の根拠を示せるか。納税資金まで見通せているか。二次相続や将来の管理に耐えられるか。申告後に税務署へ説明できるか。
これらを一つずつ確認していくことで、相続・贈与は単なる節税策ではなく、家族と財産を次の世代へ引き継ぐための設計になっていきます。
相続・贈与の方針整理をご相談ください
相続・贈与は、制度を知っているだけでは十分ではありません。
財産の内容、家族関係、過去の贈与、ご本人の意思、納税資金、将来の二次相続、財産評価の根拠まで整理して、はじめて、ご自身たちに合った判断が見えてきます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税申告や生前対策を、単なる申告手続や節税策としてではなく、財産承継に関する総合的な意思決定として整理しています。
不動産、非上場株式、贈与履歴、遺産分割、納税資金などが複雑に絡む場合でも、事実関係と資料を一つひとつ確認しながら、後から説明できる判断を、ご一緒に整理してまいります。
相続・贈与について、何から考えるべきか整理したいという方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り
| 確認すべき視点 | 重要な考え方 |
|---|---|
| 相続対策の目的 | 税額軽減だけでなく、争族防止、納税資金、資産承継、生活保障を整理する |
| 家族関係 | 法定相続分だけでなく、過去の贈与、介護、遺留分、納得感を確認する |
| 財産構成 | 現預金、不動産、農地、借地権、非上場株式、保険、国外財産では必要な判断が異なる |
| 生前贈与 | 贈与契約、受贈者の受諾、管理状況、贈与税申告、相続時加算を確認する |
| 遺言・遺産分割 | 法務上の有効性、税務上の課税関係、登記、譲渡税、代償金まで考える |
| 納税資金 | 相続税額だけでなく、誰が・いつ・どの財産で納税するかを確認する |
| 財産評価 | 評価額を下げることではなく、評価根拠を後から説明できることが重要 |
| 認知症対策 | 本人の意思能力があるうちに、遺言、任意後見、信託、財産管理を検討する |
| 申告実務 | 生前対策の結果が、将来の評価、分割、申告、税務調査に影響する |
| 専門家相談 | 一般論ではなく、個別の財産・家族・資料に基づいて判断材料を整理する |