相続対策を考え始めると、多くの方がまず気にされるのは相続税です。たとえば、こんな疑問が浮かぶのではないでしょうか。
- 「相続税はいくらかかるのか」
- 「生前贈与をした方がよいのか」
- 「不動産を活用すれば税額を下げられるのか」
- 「生命保険を使うべきか」
- 「配偶者に多く相続させればよいのか」
いずれも、確かに大切な論点です。
ただ、相続対策を最初から「税額を下げる方法」として捉えてしまうと、判断を誤ることがあります。相続税は下がったのに、肝心の遺産分割がまとまらない。納税資金が足りない。特定の相続人に不公平感が残る。財産評価や贈与の証拠を、後から説明できない。あるいは、二次相続でかえって負担が大きくなってしまう。
こうした問題は、相続対策の目的と優先順位を整理しないまま、制度や節税策を先に選んでしまうことで起こりやすくなります。
相続対策は、相続税対策だけではありません。まず相続争いの防止と納税資金の確保を考え、その結果として相続税の軽減にもつながっていく。この順序で整理することが、実務上はとても重要だと感じています。
この記事では、相続対策を始める前に整理しておきたい目的と、その優先順位の考え方について解説します。
相続対策の出発点は「何を減らすか」ではなく「何を守るか」
相続対策というと、どうしても相続税を減らすことが中心に見えてきます。
もちろん、相続税の概算額を把握しておくことは必要です。相続税は、課税価格の合計額から基礎控除額を差し引き、法定相続分に応じて相続税の総額を計算したうえで、各人の取得割合に応じて税額を配分する仕組みになっています。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
ただ、この計算構造だけを見て対策を進めてしまうと、重要な視点が抜け落ちてしまいます。
相続では、財産額と税率だけが問題になるわけではありません。誰が相続人になるのか。どの財産を誰が取得するのか。過去の贈与をどう見るのか。遺言を残すのか。納税資金をどう確保するのか。不動産を共有にしてよいのか。二次相続でどうなるのか。これらは、すべてつながっています。
ですから、相続対策の出発点は、次の問いであるべきだと考えています。
「相続税をいくら減らすか」ではなく、「家族と財産について、何を守るべきか」。
守るべきものが決まらなければ、優先順位は決まりません。そして優先順位が決まらなければ、贈与、遺言、生命保険、不動産活用、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減といった制度も、適切に選ぶことができないのです。
相続対策で整理すべき5つの目的
相続対策の目的は、大きく分けると次の5つになります。
- 争族防止
- 納税資金の確保
- 相続税の軽減
- 資産承継・事業承継
- 生活保障と将来の財産管理
この5つは、必ずしも同じ方向を向いているわけではありません。
税額を減らすうえでは有効に見える対策でも、家族間の納得を損なってしまうことがあります。財産を特定の相続人に集中させることが事業承継には必要でも、他の相続人の遺留分や代償金の問題が残ることもあります。配偶者の生活保障を優先して多くの財産を承継させれば、今度は二次相続の税額や納税資金に影響が及びます。
そのため、「どの目的も大事」と考えるだけでは足りません。目的同士が衝突したときに、何を優先するのか。そこを決めておく必要があります。
第1優先:争族防止
相続対策で最初に考えるべきなのは、家族間の争いを防ぐことです。
相続税が少なくても、遺産分割でもめることはあります。反対に、相続税が多くても、本人の意思が明確で、財産の分け方や納税資金が整理されていれば、比較的スムーズに進むことも少なくありません。
相続では、法律上の相続分だけでなく、感情の問題が大きく影響します。
- 過去に誰が贈与を受けたのか
- 誰が親の近くで生活を支えてきたのか
- 誰が事業を手伝ってきたのか
- 誰が自宅を取得するのか
- 誰が不動産を管理するのか
- 誰が代償金を支払うのか
こうした事情は、税額計算だけでは到底整理しきれません。
遺産分割では、相続人の範囲、遺産の範囲、遺言の有効性、特別受益、寄与分、使途不明金、葬儀費用、遺産から生じた収益など、実に多くの争点が生じ得ます。当事者が複数になりやすいこともあって、いったんこじれると審理が長期化しやすい領域でもあります。
争族防止を優先する場合に検討すべきなのは、単に「平等に分ける」ことではありません。
現金のように分けやすい財産と、不動産・自社株式のように分けにくい財産とでは、同じようには扱えません。不動産を共有にすれば一見公平に見えますが、将来の売却、賃貸、修繕、建替え、そして次の相続の場面で、問題が複雑になっていきます。共有不動産では、使用方法、収益の分配、費用負担、共有関係の解消などが、紛争の典型的な論点になります。
争族防止のためには、少なくとも次の点を整理しておく必要があります。
- 誰が相続人になるのか
- 各相続人が何を期待しているのか
- 本人は誰に何を承継させたいのか
- 過去の贈与や援助をどう扱うのか
- 遺留分への配慮が必要か
- 不動産を共有にする合理性があるか
- 代償金を支払える資金があるか
- 遺言を残すべきか
- 遺言執行者を指定すべきか
遺言は、本人の意思を明確にし、相続争いを防ぎ、相続手続を円滑にする手段になり得ます。ただし、その内容によっては、遺留分、受遺者の先死亡、遺言執行、事業承継、預貯金の承継といった論点を生じさせます。形式さえ整えればよい、というものではありません。
なお、争族防止を第一に置くというのは、税額を無視するという意味ではありません。税額だけで分け方を決めない、という意味です。
第2優先:納税資金の確保
次に優先すべきは、相続税を納めるための資金を確保することです。
相続税は、申告期限までに納付しなければなりません。申告書の提出期限は、原則として、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
この10か月という期間は、実務上はかなり短く感じられます。
戸籍を集め、相続人を確定し、財産を調査し、不動産や株式を評価し、遺産分割協議を行い、申告書を作成し、そのうえで納税資金まで準備しなければならないからです。
財産の多くが現預金であれば、納税資金の問題は比較的整理しやすいでしょう。しかし、不動産、農地、貸地、借地権、非上場株式、同族会社への貸付金などが多い場合には、相続税額は計算できても、肝心の納税資金を確保できないという事態が起こり得ます。
相続税は申告期限までに納める必要があり、原則として金銭で一度に納付します。不動産や同族会社株式の割合が大きいと納税資金が不足しがちですが、いざ不動産を売ろうとしても、申告期限までに希望額で売れるとは限りません。延納や物納も制度としては用意されていますが、手続や要件の面から、現実には使いにくい場面も少なくないのです。
ここで押さえておきたいのは、相続税額と納税可能性は別問題だということです。
相続税額が減っても、納税資金が足りなければ困ってしまいます。反対に、税額がある程度発生しても、現預金や生命保険金などで納税資金が確保されていれば、相続後の混乱を抑えることができます。
特に注意したいのが、節税目的の借入れや不動産活用です。
借入金で賃貸不動産を建築すると、土地や建物の相続税評価額が下がり、さらに借入金が債務として控除されるため、相続税評価額を圧縮できることがあります。しかし、時価ベースの財産価値が増えるわけではありません。借入金の返済、空室、修繕、金利、管理の負担は、そのまま相続人へ引き継がれます。借入金で賃貸物件を建てる対策は評価減の効果が説明されやすい一方で、実勢価額と相続税評価額の差、すなわち賃貸用土地・建物としての評価減に着目した対策であることを、よく理解しておく必要があります。
相続税が軽減されても、相続人が長期間にわたって借入金を返済し続けなければならないのであれば、その対策が家族にとって望ましいとは限りません。
納税資金対策では、次の点を確認します。
- 相続税の概算額はいくらか
- 誰が相続税を負担するのか
- 現預金で納税できるのか
- 生命保険金や死亡退職金を納税資金に使えるのか
- 不動産を売却する場合、いつ、誰が、どの不動産を売るのか
- 代償金の支払いと納税資金が競合しないか
- 延納・物納を検討する必要があるか
- 納税後に生活資金や事業資金が不足しないか
相続対策では、税額を下げることよりも先に、「納められる形にする」ことを考える。この順序を意識していただきたいと思います。
第3優先:相続税の軽減
争族防止と納税資金の見通しが立ったところで、ようやく相続税の軽減策を検討します。
軽減策には、生前贈与、生命保険の活用、不動産の評価減、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減、事業承継税制、非上場株式対策など、さまざまな手段があります。
ただし、相続税の軽減策は、前提条件が変わると効果も変わります。
- 誰が先に亡くなるか
- 相続時点で財産がどう変わっているか
- 税制がどう変わっているか
- 財産評価基本通達の取扱いがどう変わっているか
- 相続人の生活状況や関係性がどう変化しているか
これらは、残念ながら完全には予測できません。
生前に行う軽減対策は、あくまで一定の前提のもとで立案されるものです。亡くなる順番や税制改正、財産評価基本通達の改正によって、現在は有効に見える対策の効果が薄れたり、場合によっては逆効果になったりすることさえあります。
近年の制度改正も、相続対策を「一度決めたら終わり」にはできないことを示しています。
たとえば、令和6年1月1日以後の贈与については、暦年課税贈与の相続財産への加算期間が段階的に見直され、相続開始前7年以内の贈与が加算対象となります。
出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
また、相続時精算課税についても、令和6年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税に係る基礎控除額110万円が設けられました。一方で、相続時精算課税を一度選択すると、その特定贈与者からの贈与について、暦年課税へ戻ることはできません。
さらに、令和6年1月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した居住用の区分所有財産、いわゆる分譲マンションについては、評価方法の見直しが行われています。
こうした改正を踏まえると、相続税の軽減策は、「今この制度が使えるか」だけで判断すべきではないことが分かります。
- 実行後に家族関係へどう影響するか
- 将来の相続税申告できちんと説明できるか
- 資料や契約書を残せるか
- 税務調査で実質を確認されても耐えられるか
- 制度改正があっても不自然な対策になっていないか
ここまで確認して、はじめて軽減策の検討に入るべきだと考えています。
第4優先:資産承継・事業承継
相続対策では、財産を誰に承継させるかも重要なテーマです。
特に、不動産、農地、貸地、同族会社株式、個人事業用資産がある場合には、単に相続税を少なくするだけでは足りません。将来その財産を管理し、活用し、ときには売却もできる人に承継させる必要があります。
不動産であれば、評価額の低さだけで判断するのではなく、利用可能性、接道、建築制限、共有リスク、賃貸状況、修繕負担、売却可能性まで確認します。土地分割では、財産評価基本通達上の評価だけでなく、分割後の利用可能性、都市計画法・建築基準法、権利関係、不合理分割といった点が問題になります。
建築の視点からも、道路後退、私道、インフラ、境界、実測面積と登記面積の差、建替え可能性などを確かめておく必要があります。
非上場株式がある場合は、評価額だけでなく、議決権、後継者、株主構成、会社財務、役員貸付金・借入金、自己株式取得、遺留分、納税資金が関係してきます。評価にあたっても、原則的評価方式、配当還元方式、会社規模、類似業種比準価額、純資産価額、特定の評価会社など、会計・税務・会社法を横断した確認が欠かせません。
資産承継・事業承継を目的にする場合、検討すべきことは次のとおりです。
- 誰がその財産を管理できるか
- 誰が収益・費用・借入を引き継ぐのか
- 共有にする合理性があるか
- 後継者に支配権を集中させる必要があるか
- 他の相続人への代償金をどう準備するか
- 遺留分への配慮が必要か
- 相続後に売却・組換えを予定するか
- 相続税評価額と実際の市場価値に差があるか
資産承継では、「誰に渡すと税額が下がるか」ではなく、「誰が持つべき財産か」を先に考える。この発想が大切です。
第5優先:生活保障と将来の財産管理
相続対策では、残された家族の生活保障も見過ごせません。
配偶者がいる場合には、自宅に住み続けられるか、生活費を確保できるか、金融資産を十分に持てるかを確認しておく必要があります。相続税には配偶者の税額軽減があり、配偶者が実際に取得した正味の遺産額が「1億6千万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までであれば、配偶者に相続税はかかりません。ただし、申告期限までに分割されていない財産は、原則として税額軽減の対象になりません。だからこそ、遺産分割との関係が重要になります。
もっとも、配偶者の税額軽減があるからといって、常に配偶者へ多く承継させればよいわけではありません。
一次相続では税額を抑えられても、二次相続では配偶者の財産が増え、相続人の数が減り、小規模宅地等の特例の適用関係も変わります。その結果、トータルの税負担や納税資金に影響が出ることがあるのです。
加えて、高齢期の財産管理も無視できません。
認知症や判断能力の低下が生じると、預貯金の管理、不動産売却、賃貸借契約、修繕契約、贈与、遺言、信託契約などが難しくなります。実際、認知症が疑われる親の財産管理をめぐっては、預貯金の引出し、不動産処分、親族間紛争、養子縁組、意思能力など、多くの法的リスクが生じます。
任意後見、財産管理等委任契約、見守り契約、死後事務委任契約、家族信託、遺言は、それぞれ役割が異なります。任意後見には将来型、移行型、即効型といった形態があり、財産管理等委任契約・見守り契約・死後事務委任契約などの補完契約も、あわせて検討対象になります。
生活保障や財産管理を目的にする場合には、次の点を整理します。
- 配偶者や同居家族の生活費は確保できるか
- 自宅に住み続ける必要があるか
- 金融資産を誰が取得するか
- 認知症対策をいつ行うか
- 本人の意思をどのように記録するか
- 後見、任意後見、信託、遺言の役割をどう分けるか
- 相続税対策より本人保護を優先すべき場面ではないか
相続対策は、亡くなった後だけの話ではありません。本人が生きている間の生活と財産管理を守ることも、同じように大切な目的なのです。
目的同士が衝突したときの考え方
相続対策では、複数の目的が同時に存在します。難しいのは、それらが衝突したときです。
たとえば、税額軽減を優先すれば、不動産活用を進めたくなるかもしれません。しかし、相続人が賃貸経営を望んでいなければ、将来の管理負担や借入金返済が重荷になります。
事業承継を優先すれば、後継者に株式を集中させる必要があるかもしれません。しかし、他の相続人に十分な財産や代償金を用意できなければ、遺留分や不公平感の問題が残ります。
配偶者の生活保障を優先すれば、自宅や金融資産を配偶者に多く渡すことになります。しかし、二次相続まで見据えると、相続税や納税資金の問題が大きくなってしまうことがあります。
こうした場面では、次の順序で考えると整理しやすくなります。
- まず、譲れない目的を決める
- 次に、受け入れられるリスクを決める
- そのうえで、制度や手段を選ぶ
この順番を逆にしてはいけません。
- 「小規模宅地等の特例を使いたいから、この人が取得する」
- 「贈与税が少ないから、この財産を先に渡す」
- 「相続税評価額が下がるから、不動産活用をする」
このように制度から入ってしまうと、家族関係や納税資金、将来の管理との整合性を見落としやすくなります。
小規模宅地等の特例にしても、土地の種類だけで自動的に使えるものではありません。相続開始直前の利用状況、取得者、所有・居住・事業の継続、限度面積、申告手続などを確認する必要があります。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例
制度は、あくまで目的を実現するための手段です。制度を先に置いて、家族や財産をそれに合わせる――そういう順序にしてはいけないのです。
優先順位を決めるための実務的な整理手順
相続対策の優先順位は、感覚的に話し合うだけでは決まりません。事実関係を整理し、数字に落とし込み、法務・税務の制約を確認していく必要があります。
1. 本人の意思を確認する
最初に確認すべきは、財産を持つ本人の意思です。
- 誰に何を承継させたいのか
- 守りたい生活は何か
- 事業や不動産を今後どうしたいのか
- 特定の相続人に配慮したい事情はあるか
- 相続人以外に財産を渡したい意思はあるか
本人の意思が曖昧なまま、相続人側の希望や税額だけで対策を進めてしまうと、後で対立が起こりやすくなります。
2. 家族関係と相続人の状況を整理する
次に、相続人の範囲、法定相続分、遺留分、生活状況、過去の贈与、介護や事業への貢献などを整理します。
相続人全員が納得する形で遺産分割が行われなければ、想定外のトラブルにつながりかねません。分割に先立って、相続人と相続分、遺産分割の基準、承認・放棄、遺言と遺留分といった民法上の基本事項を理解しておくことが大切です。
3. 財産の種類と性質を整理する
財産は、金額だけでなく、その性質で分けて考えます。
- 分けやすい財産か
- 換金しやすい財産か
- 評価が難しい財産か
- 管理負担がある財産か
- 共有に向く財産か
- 相続人の誰かに集中させるべき財産か
不動産、非上場株式、農地、貸地、借地権、生命保険、名義預金、国外財産などは、それぞれ判断の軸が異なります。
4. 相続税と納税資金を概算する
相続税の概算額を把握し、誰がどの財産を取得した場合に、どの程度の納税が必要になるかを確認します。
相続税の申告は、相続財産が未分割の場合でも、期限内に行う必要があります。未分割だからといって申告期限が延びるわけではなく、その場合は民法上の相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして、申告・納税することになります。
出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
ですから、分割協議が難航しそうな場合には、税額だけでなく、期限の管理まで視野に入れておかなければなりません。
5. 目的ごとの優先順位を決める
ここまで整理してから、目的の優先順位を決めます。
- 争族防止を最優先するのか
- 納税資金を最優先するのか
- 事業承継を最優先するのか
- 配偶者の生活保障を最優先するのか
- 税額軽減はどこまで重視するのか
この優先順位が定まっていないと、専門家に相談しても、なかなか判断が前に進みません。
6. 手段を選ぶ
最後に、贈与、遺言、生命保険、不動産整理、会社株式対策、信託、任意後見などの手段を選びます。
制度の比較に入るのは、ここからです。
やってはいけない優先順位の決め方
相続対策で避けたいのは、次のような決め方です。
- 「相続税が一番安くなる方法」を無条件に選ぶ
- 「長男だから自宅を取得する」とだけ決める
- 「共有にすれば公平」と考える
- 「配偶者に全部渡せば相続税がかからない」と考える
- 「毎年贈与していれば大丈夫」と考える
- 「不動産を建てれば節税になる」と考える
- 「遺言を書けば必ずもめない」と考える
- 「相続税がかからないなら対策は不要」と考える
これらはいずれも、判断の一部だけを見ています。
相続税がかからなくても、遺産分割でもめることはあります。遺言があっても、遺留分や実行可能性の問題は残ります。贈与をしていても、贈与契約、受贈者の受諾、管理状況、贈与税申告、資金原資といった点を説明できなければ、名義財産として問題になることがあります。親族名義の財産であっても、実質的に被相続人の財産と認められる場合には、相続財産に加算されて相続税が計算されます。
相続対策では、耳ざわりのよい結論ほど、慎重に確認する必要があります。
優先順位は一度決めたら終わりではない
相続対策の優先順位は、定期的に見直すことが欠かせません。
家族関係は変わります。財産の内容も変わります。相続人の生活状況も変わります。税制や評価実務も変わります。そして、本人の判断能力や健康状態も変わっていきます。
特に、生前贈与、不動産活用、会社株式の承継、遺言、信託、生命保険などは、実行後も長期間にわたって影響が残ります。実行した時点では合理的に見えても、いざ相続が発生する頃には、前提が変わっていることも珍しくありません。
ですから、相続対策は「一度作る計画」ではなく、「見直しながら整える設計」と捉えるべきだと考えています。
見直しの際には、次の点を確認します。
- 本人の意思は変わっていないか
- 相続人の状況は変わっていないか
- 財産の内容や評価額は変わっていないか
- 贈与履歴は整理されているか
- 納税資金は不足していないか
- 遺言の内容は現在の財産と合っているか
- 不動産の管理・売却方針は現実的か
- 二次相続まで見ても無理がないか
- 税制改正や通達改正の影響はないか
専門家に相談する前に整理しておきたいこと
相続対策の相談では、最初から「どの制度が得か」を尋ねるよりも、まず目的と優先順位を整理しておくほうが有益です。
相談前に、次のような情報をまとめておくと、検討の質がぐっと高まります。
- 家族関係と相続人の状況
- 主な財産と債務の一覧
- 不動産の所在地、利用状況、共有の有無
- 預貯金、有価証券、保険契約の内容
- 過去の贈与履歴
- 遺言の有無
- 同族会社株式や会社への貸付金の有無
- 納税資金として使える金融資産
- 将来守りたい財産や生活
- 相続人間で不安に感じている論点
専門家に相談する意義は、単に制度を知ることではありません。
事実関係を整理し、目的を明確にし、選択肢を比較し、どのリスクを受け入れるかを判断できる状態にすること。そこにこそ意味があります。実務の現場では、小規模宅地等の特例、相続時精算課税選択届出、土地・株式の評価、特定の相続人に有利な分割提案、資料不足、税務調査リスクの説明といった点が、トラブルにつながりやすい論点とされています。
相続対策では、無理に結論を急ぐより、後から説明できる判断材料を整えておくことが大切です。
まとめ:相続対策は「目的の順位」を決めてから始める
相続対策は、節税策から始めるものではありません。
最初に整理すべきなのは、目的です。
- 家族間の争いを防ぎたいのか
- 納税資金を確保したいのか
- 相続税を軽減したいのか
- 事業や不動産を次世代へ承継したいのか
- 配偶者や家族の生活を守りたいのか
- 本人の判断能力低下に備えたいのか
この目的の優先順位が決まって、はじめて、贈与、遺言、生命保険、不動産活用、会社株式対策、信託、任意後見といった手段を選ぶことができます。
相続対策で大切なのは、税額だけでなく、親族関係と税務の双方に耐えられる判断をすることです。そのためには、
- 「できるか」だけでなく
- 「行うべきか」
- 「後から説明できるか」
- 「家族が納得できるか」
- 「申告実務に耐えられるか」
を確認していく必要があります。
相続対策の目的整理をご相談ください
相続対策で最初に必要なのは、制度選びではなく、目的と優先順位の整理です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税額の概算だけでなく、家族関係、財産構成、不動産・同族会社資産、過去の贈与、遺言、納税資金、二次相続、そして申告後の説明可能性まで含めて、相続対策の方向性を整理します。
- 「節税策を実行すべきか迷っている」
- 「家族で揉めない分け方を考えたい」
- 「納税資金が足りるか不安がある」
- 「不動産や会社株式があり、何から整理すべきか分からない」
このようなお悩みがありましたら、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。目的と優先順位を整理したうえで、現実的に検討すべき選択肢を、一緒に確認していきます。
振り返り
| 整理すべき目的 | 優先順位を考える際のポイント |
|---|---|
| 争族防止 | 税額より先に、相続人間の納得、遺留分、過去の贈与、共有リスクを確認する |
| 納税資金 | 相続税額だけでなく、誰が・いつ・どの資金で納税するかを確認する |
| 相続税の軽減 | 節税効果だけでなく、制度改正、税務調査、将来の説明可能性を確認する |
| 資産承継・事業承継 | 誰が財産を管理・活用・承継すべきかを、評価額だけでなく実態から考える |
| 生活保障 | 配偶者や家族の生活費、自宅、金融資産、二次相続への影響を確認する |
| 高齢期の財産管理 | 認知症や判断能力低下に備え、遺言、任意後見、信託などの役割を整理する |
| 制度選択 | 贈与、遺言、保険、不動産活用、特例は、目的と優先順位が決まってから選ぶ |
| 見直し | 家族・財産・税制・健康状態の変化に応じて、対策を定期的に確認する |