非上場株式の相続で最も避けたいのは、「株式は後継者へ」とだけ決めて、会社支配・遺留分・納税資金・他の相続人への説明が、実際には何も整理されていない状態です。
同族会社の株式は、単なる相続財産にとどまりません。会社を動かす議決権であり、後継者の経営基盤であり、相続税評価額を持つ財産であり、さらには相続人間の公平感を左右する資産でもあります。
そのため、非上場株式を承継する場面では、次の4つを同時に考えておく必要があります。
| 判断軸 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 支配権 | 後継者が議決権を確保できるか |
| 税務評価 | 相続税評価額がいくらになるか |
| 遺留分・公平感 | 他の相続人にどのように説明し、補填するか |
| 納税資金 | 株式を取得する後継者が相続税や代償金を支払えるか |
遺言を作るだけ、あるいは遺産分割協議をまとめるだけでは、不十分なことがあります。
遺言で株式を後継者に集中させても、遺留分侵害額請求を受ければ金銭の支払いが必要になります。遺産分割協議で相続人全員が合意できたとしても、申告期限までに協議がまとまらなければ、未分割申告や株式評価上の不利が生じることもあります。
本稿では、非上場株式を遺言・遺産分割で承継する場合の判断順序を、支配権承継、遺留分、代償金、事業承継税制、株式分散防止という観点から整理します。
非上場株式は「評価額」だけでなく「議決権」を見る
非上場株式の相続では、まず株価を評価する必要があります。ただ、評価額だけに目を向けていると、承継の設計を誤ってしまいます。
取引相場のない株式は、取得した株主が同族株主等に該当するか、それ以外の株主かによって、原則的評価方式または配当還元方式で評価されます。国税庁のタックスアンサーでも、取引相場のない株式は、株主が会社の経営支配力を持つ同族株主等かどうかによって評価方式が異なる、と整理されています。
つまり同じ会社の株式であっても、誰が取得するかによって、相続税評価の意味は変わってきます。後継者が会社支配を担う立場で取得する株式と、経営に関与しない少数株主が取得する株式とでは、評価上も実務上も意味合いが異なるのです。
| 取得者の立場 | 実務上の意味 | 税務上の注意点 |
|---|---|---|
| 後継者 | 議決権を確保し、経営を継続する | 原則的評価方式となることが多く、評価額が大きくなりやすい |
| 後継者以外の相続人 | 財産配分として株式を取得する | 少数株主として配当還元方式となる場合があるが、株式分散の原因になる |
| 相続人全員の共有 | 一見公平に見える | 権利行使や売却、会社運営で紛争化しやすい |
| 未分割のまま | 申告期限に間に合わない状態 | 評価方式・議決権判定・特例適用に不利が出ることがある |
非上場株式の評価では、支配株主にとっての株式価値と、少数株主にとっての株式価値の違いが問題になります。支配株主は会社の経営を通じて利益配分や経営方針に影響を及ぼせるため、配当への期待だけを持つ少数株主とは、価値の見方そのものが異なるからです。
したがって相続対策では、「株価を下げる」ことよりも先に、「誰が議決権を持つべきか」を決める必要があります。
後継者に集中させるべき株式はどこまでか
後継者に非上場株式を承継させるときは、単に株式数を渡すのではなく、会社法上・経営上、どの水準の議決権が必要なのかを確認します。
| 議決権の目安 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 過半数 | 取締役選任など通常決議を安定させやすい |
| 3分の2以上 | 定款変更、合併、会社分割、自己株式取得に関する一定の決議など、特別決議を見据えた水準 |
| 100%またはそれに近い水準 | 少数株主との対立を極力避け、経営判断を迅速に行いやすい |
| 分散状態 | 親族株主の意見対立、配当要求、株式買取請求、相続のたびのさらなる分散が問題になる |
後継者が代表取締役であっても、議決権が不足していれば、経営の安定性は確保できません。逆に、議決権を十分に持っていても、相続税や代償金を支払えなければ、後継者個人の資金繰りが破綻してしまいます。
非上場株式の承継では、次の順序で確認していくのが現実的です。
| 順序 | 確認事項 |
|---|---|
| 1 | 現在の株主名簿と議決権割合を確認する |
| 2 | 後継者が経営上必要な議決権水準を決める |
| 3 | 相続税評価額を試算する |
| 4 | 他の相続人の遺留分・取得希望・生活状況を確認する |
| 5 | 後継者の納税資金・代償金原資を確認する |
| 6 | 遺言、生前贈与、事業承継税制、種類株式、自己株式取得などを比較する |
「後継者に株を集中させたい」という希望は、経営上は合理的であることが多いものです。
しかし、それを実現するには、他の相続人に何を渡すのか、どのように納税するのか、遺留分にどう備えるのかまで、あわせて設計しておかなければなりません。
遺言で非上場株式を承継させる場合
後継者に株式を集中させたい場合、遺言は非常に重要な役割を果たします。
遺言がなければ、非上場株式は遺産分割協議の対象になります。相続人全員の合意がなければ、誰が株式を取得するかは確定しません。後継者以外の相続人が株式取得を希望したり、株式評価額に不満を持ったりすれば、協議は長期化します。
遺言で後継者に株式を承継させる場合には、主に次のような効果が期待できます。
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 支配権の明確化 | 後継者が株式を取得する方針を明示できる |
| 遺産分割協議の負担軽減 | 株式の帰属を協議に委ねずに済む |
| 事業承継税制との接続 | 相続または遺贈による取得として制度検討がしやすい |
| 株式分散防止 | 非後継者に株式が分散することを防ぎやすい |
| 申告実務の整理 | 取得者が明確になり、株式評価・納税資金計画を組みやすい |
ただし、遺言を作ればすべて解決する、というわけではありません。
遺言で後継者に株式を集中させても、他の相続人の遺留分を侵害していれば、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。また、株式の評価額が大きければ、後継者の相続税負担や代償金負担も重くなります。
| 遺言で確認すべき項目 | 確認の視点 |
|---|---|
| 株式の特定 | 会社名、株式数、種類株式の有無を明確にする |
| 後継者の指定 | 株式を取得する相続人・受遺者を明確にする |
| 予備的遺言 | 後継者が先に死亡した場合の承継先を決める |
| 遺留分対応 | 他の相続人への金銭・不動産・保険等の配分を検討する |
| 代償金原資 | 後継者が他の相続人に支払う資金を用意できるか確認する |
| 遺言執行者 | 株式、預金、不動産などの移転手続を円滑に進める体制を置く |
| 会社側手続 | 株主名簿、定款、譲渡制限、売渡請求条項を確認する |
公正証書遺言は、事業を承継させたい場合や、各人ごとに相続財産を特定して相続させたい場合に、その必要性が高い場面として整理できます。
とくに同族会社株式では、「長男に全株式を相続させる」といった単純な表現にとどめず、会社への貸付金、不動産、役員退職金、保険金、代償金まで含めて、後から説明できる設計にしておくことが重要です。
遺産分割協議で非上場株式を承継する場合
遺言がない場合、あるいは遺言とは異なる分け方を相続人全員で合意する場合には、遺産分割協議によって非上場株式の取得者を決めます。
遺産分割協議は柔軟です。相続開始後の会社の状況、後継者の意思、他の相続人の生活状況、納税資金を踏まえて、現実的な分割を検討できます。
一方で、非上場株式については、協議が長引くこと自体がリスクになります。
相続税の申告と納税は、相続財産が未分割であっても、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。国税庁も、未分割であることによって相続税の申告期限が延びることはない、と説明しています。
出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
未分割の場合は、民法上の相続分または包括遺贈割合に従って取得したものとして、申告・納税することになります。さらに、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減など、分割を前提とする特例については、当初申告で制限を受ける点にも注意が必要です。
出典:国税庁|No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
非上場株式では、未分割による問題がさらに複雑になります。
| 未分割の影響 | 内容 |
|---|---|
| 株主権行使 | 共同相続状態で権利行使者を定める必要が生じる |
| 経営判断 | 株主総会決議が不安定になる |
| 相続税評価 | 同族株主判定が不利に働くことがある |
| 納税資金 | 誰が株式を取得するか未定のまま税額が生じる |
| 事業承継税制 | 後継者要件、認定、申告手続との整合が問題になる |
非上場株式が相続税の申告期限までに分割されていない場合、同族株主の判定では、各相続人が従前から所有していた株式に未分割株式の全てを加算して議決権割合を判定する、という実務上重要な取扱いがあります。法定相続分で按分して判定するわけではない、という点に注意が必要です。
この取扱いのもとでは、未分割株式について各相続人が相続対象株式を全部取得したものとして判定されます。その結果、相続人が取得すると想定される非上場株式の評価が、高くなる方向に働くことがあります。
したがって非上場株式の遺産分割は、「相続人同士であとから話し合えばよい」と安易に構えない方がよい場面が多いといえます。会社の支配権、申告期限、評価方式、納税資金を考え合わせれば、生前に遺言等で方向性を決めておくことが現実的です。
遺留分は「株式が戻る」問題から「金銭を払う」問題へ変わった
令和元年7月1日以後に開始した相続では、遺留分制度は大きく変わりました。
従来の遺留分減殺請求では、権利行使によって目的財産が共有化してしまう問題がありました。現在は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する制度に改められています。民法1046条は、遺留分権利者等が受遺者または受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる旨を定めています。
この改正により、遺言で後継者に非上場株式を承継させた場合でも、遺留分侵害額請求によって株式そのものが当然に他の相続人との共有に戻る、ということはなくなりました。実務上は、株式の支配権を守りやすくなった一方で、後継者は金銭の支払義務に備えておく必要があります。
| 改正前後の違い | 旧制度 | 現行制度 |
|---|---|---|
| 権利の性質 | 目的財産に物権的影響が生じ得た | 金銭債権として請求 |
| 非上場株式への影響 | 株式共有化のリスクが大きかった | 株式自体の承継は維持しやすい |
| 後継者の課題 | 株式分散・共有化への対応 | 金銭支払資金の確保 |
| 設計上の重点 | 財産そのものを守る | 支払原資と説明可能性を整える |
遺留分侵害額請求権は、遺留分に相当する価値を金銭で確保する制度です。そのため、多額の金銭をただちに準備できない場合には、裁判所による期限の許与が問題になることもあります。
ここで大切なのは、「遺留分が金銭債権化されたのだから、株式はすべて後継者に渡してよい」と短絡しないことです。後継者が遺留分相当額を支払えなければ、結局は会社からの資金流出、株式売却、自己株式取得、不動産売却、金融機関借入などを検討せざるを得なくなります。
代償金は「公平のための金銭」だが、支払能力がなければ危険
後継者に非上場株式を集中させる場合、他の相続人には現預金、不動産、生命保険金、代償金などでバランスを取ることがあります。
このうち代償金は、後継者が株式を取得する代わりに、他の相続人へ金銭を支払う方法です。会社支配を後継者に集約しつつ、相続人間の公平感を一定程度調整できる点で有効です。
ただし代償金は、「払う約束をすればよい」というものではありません。支払能力を伴わない代償分割は、後継者の生活や会社資金を圧迫してしまいます。
| 代償金の原資 | 注意点 |
|---|---|
| 後継者個人の預金 | 最も安定するが、十分な資金が必要 |
| 生命保険金 | 受取人指定と相続人間バランスの確認が必要 |
| 会社からの役員報酬・賞与 | 法人税・所得税・損金算入要件を確認 |
| 役員退職金 | 支給時期、金額の相当性、会社資金を確認 |
| 配当 | 所得税課税、他の株主との関係を確認 |
| 会社による自己株式取得 | みなし配当、譲渡所得、会社法上の分配可能額を確認 |
| 金融機関借入 | 返済可能性と担保、会社保証の有無を確認 |
| 不動産売却 | 譲渡所得税、売却時期、取得費加算を確認 |
非上場株式の評価額が高いにもかかわらず、会社から配当が出ていない、後継者個人に流動資産がない、会社の資金繰りにも余裕がない――こうしたケースでは、遺留分や代償金の支払いが重大な問題になります。
相続税の納税は、申告期限までに行う必要があります。申告期限までに申告・納付をしなかった場合や、少ない額で申告した場合には、加算税や延滞税がかかる可能性があります。
したがって後継者への株式集中を考えるときは、相続税と代償金の両方を、資金計画に組み込んでおく必要があります。
事業承継税制は「納税資金対策」になるが、遺産分割対策そのものではない
非上場株式を後継者が取得する場合には、法人版事業承継税制の適用を検討することがあります。
法人版事業承継税制の特例措置では、一定の要件のもとで、非上場会社の株式に係る相続税・贈与税の納税が猶予・免除されます。中小企業庁の現行案内によれば、特例措置の特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日まで、対象となる贈与・相続は令和9年12月31日までとされています。
特例措置では、対象株式数の上限撤廃、納税猶予割合100%、最大3人の後継者、雇用要件の弾力化などが示されています。
ただし事業承継税制は、あくまで後継者にとっての相続税の納税猶予制度であって、他の相続人の遺留分や代償金を消す制度ではありません。
| 事業承継税制で対応できること | 対応できないこと |
|---|---|
| 後継者が取得する株式に係る相続税の納税猶予 | 他の相続人の遺留分請求 |
| 後継者の納税資金負担の軽減 | 代償金の支払原資 |
| 株式集中承継の税負担緩和 | 家族間の納得形成 |
| 一定要件下での猶予税額の免除 | 後継者としての経営能力の保証 |
| 経営承継計画に基づく制度利用 | 遺言がない場合の遺産分割紛争の解決 |
また、制度の適用を受けるには、経営承継円滑化法に基づく認定、代表者としての経営、株式の継続保有、年次報告・継続届出などが必要です。中小企業庁も、認定後に都道府県庁への年次報告書、税務署への継続届出書の提出が必要である旨を案内しています。
「事業承継税制を使えば相続税は心配ない」という説明は、それだけでは不十分です。制度の適用可否、猶予対象外の財産、他の相続人への支払い、猶予継続要件、さらには将来のM&A・廃業・代表交代まで確認しておく必要があります。
遺留分に関する民法特例を組み合わせる視点
後継者に自社株式を生前贈与する場合には、経営承継円滑化法に基づく「遺留分に関する民法特例」を検討することがあります。
中小企業庁は、経営承継円滑化法による支援として、税制支援、金融支援、遺留分に関する民法の特例、所在不明株主に関する会社法の特例を掲げています。このうち遺留分に関する民法の特例については、後継者が遺留分権利者全員との合意および所要の手続を経ることを前提に、適用を受けられると案内されています。
この特例では、後継者に贈与等された自社株式について、遺留分算定基礎財産から除外する除外合意、または遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の価額に固定する固定合意が問題になります。
| 特例 | 内容 | 実務上の効果 |
|---|---|---|
| 除外合意 | 自社株式を遺留分算定基礎財産から外す | 後継者への株式集中承継を安定させやすい |
| 固定合意 | 遺留分算定基礎財産に算入する株式価額を合意時に固定する | 後継者の経営努力による将来の株価上昇分を遺留分計算から切り離しやすい |
この制度は強力ですが、遺言で初めて株式を承継させる場合に自動的に使える制度ではありません。基本的には、生前に後継者へ株式を贈与等する設計と組み合わせて検討します。また、推定相続人全員の合意、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可など、手続面のハードルもあります。
したがって、後継者に株式を集中させたい場合には、遺言だけでなく、次のような組み合わせを検討します。
| 承継手段 | 主な役割 |
|---|---|
| 遺言 | 相続時に株式を後継者へ確実に承継させる |
| 生前贈与 | 後継者への早期移転、事業承継税制、民法特例との接続 |
| 遺留分に関する民法特例 | 生前贈与株式の遺留分リスクを抑える |
| 生命保険 | 他の相続人への代償金・納税資金の準備 |
| 種類株式 | 議決権と経済的利益の設計を分ける |
| 自己株式取得 | 相続後の納税資金や株主整理の手段 |
| 定款整備 | 株式分散、売渡請求、譲渡制限への対応 |
種類株式は有効だが、税務評価と遺留分評価を混同しない
後継者に議決権を集中させながら、他の相続人に経済的価値を分配する方法として、種類株式を活用することがあります。
たとえば、後継者には議決権のある普通株式を取得させ、後継者以外には無議決権株式や配当優先株式を取得させる設計です。また、拒否権付種類株式、いわゆる黄金株を活用して、重要事項について一定のコントロールを残すことも検討されます。
ただし、種類株式は慎重に扱う必要があります。
| 種類株式の活用例 | 期待される効果 | 注意点 |
|---|---|---|
| 無議決権株式 | 後継者以外に経済的価値を渡しつつ議決権分散を防ぐ | 評価方法、配当政策、相続人間の納得が必要 |
| 配当優先株式 | 経営に関与しない相続人に収益期待を与える | 配当原資がなければ不満が生じる |
| 議決権制限株式 | 決議事項ごとに議決権を制限する | 定款設計と会社法手続が必要 |
| 黄金株 | 重要事項への拒否権を持たせる | 後継者の経営自由度や評価への影響を確認 |
| 取得条項付株式 | 一定事由で会社が取得できる | 買取資金、課税関係、少数株主保護に注意 |
種類株式の評価では、会社法上の価値、相続税評価、遺留分算定上の価値が、必ずしも一致しません。
事業承継の場面では、後継者以外の相続人が取得する非上場株式を議決権制限株式とし、配当優先株式にする設計や、後継者が取得する株式に黄金株を組み合わせる設計が考えられます。ただし、租税法上の評価を遺留分算定にそのまま用いることはできない、という点に注意が必要です。
また相続税評価上も、無議決権株式について一定の調整計算を選択できる場合があります。ただしそのためには、相続税の法定申告期限までに遺産分割が確定していること、所定の選択届出書の提出、評価明細書への算定根拠の添付などが必要です。
種類株式は、後継者支配と相続人間の公平を両立できる可能性を持ちます。とはいえ、定款変更、株主総会決議、評価、税務申告、将来の配当政策まで含めて設計しておく必要があります。
株式分散を防ぐために定款も確認する
非上場株式を遺言や遺産分割で承継する際には、会社の定款もあわせて確認します。
同族会社では、株式に譲渡制限が付いていることが一般的です。ただし、相続による株式承継は、通常の売買による譲渡とは性質が異なります。そのため、相続人が株式を取得した後に、会社がどのように対応できるのかを、定款で確認しておく必要があります。
会社法174条は、株式会社が、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社へ売り渡すことを請求できる旨を、定款で定められるとしています。
この相続人等に対する売渡請求条項は、後継者以外に株式が分散した場合に、会社が買い取る手段として機能することがあります。一方で、使い方を誤ると、後継者が取得した株式まで会社の買取対象になり得るため、定款設計には注意が必要です。
| 定款で確認すべき項目 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 株式譲渡制限 | 親族外への株式流出を防ぐ基本条項 |
| 相続人等への売渡請求 | 相続で取得した株式を会社が買い取れるか |
| 種類株式 | 議決権、配当、取得条項などの設計 |
| 株主総会決議要件 | 後継者が重要決議を通せるか |
| 代表者・取締役選任 | 後継者が経営権を確保できるか |
| 自己株式取得 | 納税資金・株主整理の手段になるか |
| 株主名簿管理 | 相続後の名義書換、権利行使に支障がないか |
非上場株式の相続対策では、遺言書、相続税試算、会社定款、株主名簿を、セットで確認しておく必要があります。
遺言と遺産分割で評価時点がずれることにも注意する
相続税申告上の財産評価は、原則として相続開始時点で行います。一方、遺産分割の場面では、実務上、現実に分割する時点の評価が問題になることがあります。特別受益や寄与分が問題になる場合には、相続開始時の評価と分割時の評価の双方が必要になることもあります。
非上場株式では、相続開始後に会社業績が大きく変動することがあります。たとえば、相続開始時点では好業績で株式評価額が高かったものの、その後の業績悪化で会社の実態価値が下がることがあります。反対に、相続開始後に後継者の努力で株価が上昇することもあります。
| 評価の場面 | 主な基準時 | 注意点 |
|---|---|---|
| 相続税申告 | 相続開始時 | 税務上の課税価格を決める |
| 遺産分割協議 | 分割時が問題になることが多い | 相続人間の公平感に影響する |
| 遺留分侵害額請求 | 相続開始時財産を基礎にする | 金銭請求額に影響する |
| 事業承継税制 | 制度要件に応じた評価・認定 | 認定・申告・継続要件が必要 |
| 自己株式取得 | 譲渡時・会社法上の価額判断 | 所得税・会社法・少数株主対応が必要 |
相続税評価額と遺産分割上の評価額が異なること自体は、ただちに問題というわけではありません。ただし、なぜその評価額を用いたのか、相続人全員がどの評価を前提に合意したのかは、記録しておく必要があります。
非上場株式には市場価格がないため、評価根拠を説明できるかどうかが重要になります。後から税務調査や相続人間の紛争になったときに、決算書、申告書、株主名簿、評価明細書、議事録、事業計画などを示して説明できる状態にしておくべきです。
よくある承継パターンと注意点
1. 後継者に全株式を遺言で承継させる
最も分かりやすい方法で、会社支配を後継者に集中できます。
ただし、株式以外の財産が少ない場合には、他の相続人の遺留分を侵害しやすくなります。後継者が遺留分侵害額を支払えるか、生命保険や現預金をどのように準備するかが、重要なポイントになります。
2. 後継者に株式、他の相続人に現預金・不動産を承継させる
事業承継と家族間の公平を両立しやすい方法です。
ただし、株式評価額が高い場合には、他の財産でバランスを取れないことがあります。また、不動産を他の相続人に渡すときは、二次相続、共有、売却時の譲渡所得税まで確認しておきます。
3. 株式を相続人で分ける
一見公平ですが、事業承継では避けたいことが多い方法です。
株式を兄弟姉妹で分けると、後継者が経営に必要な議決権を確保できないおそれがあります。相続人同士の関係が良好なうちは問題にならなくても、次世代で株式がさらに分散し、会社運営が難しくなることがあります。
4. 後継者に生前贈与し、民法特例・事業承継税制を検討する
事業承継を相続発生前に進める方法です。
後継者が早期に議決権を確保でき、遺留分に関する民法特例や事業承継税制と組み合わせられる可能性があります。ただし、贈与後に後継者が先に死亡する、経営能力に問題が生じる、他の相続人が納得しない、制度要件を満たし続けられない、といったリスクもあります。
5. 種類株式や信託で議決権と経済的利益を分ける
議決権と経済的価値を切り分ける設計です。
後継者には議決権を集中させ、他の相続人には配当や経済的価値を持たせる、といった工夫ができます。ただし、会社法、信託法、相続税、贈与税、遺留分評価が複雑に絡むため、安易に導入すべきではありません。
短絡的に避けたい判断
非上場株式の承継では、次のような判断は危険です。
| 短絡的判断 | なぜ危ういか |
|---|---|
| とりあえず法定相続分で株式を分ける | 株式分散により会社支配が不安定になる |
| 後継者に全株式を渡せばよい | 遺留分・代償金・納税資金が未整理だと紛争化する |
| 遺言があるから遺留分は問題ない | 遺留分侵害額請求により金銭支払が必要になる |
| 事業承継税制で税金は消える | 納税猶予であり、継続要件・届出・将来リスクがある |
| 株価を下げれば解決する | 支配権、会社財務、税務調査、説明可能性を損なう場合がある |
| 後継者以外に無議決権株式を渡せばよい | 評価、配当原資、遺留分、会社法手続の確認が必要 |
| 未分割でも申告までに何とかなる | 申告期限は延びず、評価・特例・経営権に影響する |
| 税理士だけで全部判断できる | 遺言、定款、種類株式、遺留分は弁護士・司法書士等との連携が必要な場合がある |
非上場株式の承継は、税務だけで完結するものではありません。むしろ、税務評価、会社法、遺言、遺留分、資金繰りが交差するため、どれか一つだけを見て判断すると、後から説明できない承継になってしまいます。
相談前に整理しておきたい資料
非上場株式を遺言・遺産分割で承継する相談では、次の資料があると論点整理が進みます。
| 資料 | 確認目的 |
|---|---|
| 株主名簿 | 現在の株主構成、議決権割合を確認する |
| 定款 | 譲渡制限、種類株式、売渡請求条項を確認する |
| 登記事項証明書 | 役員、発行可能株式総数、種類株式の有無を確認する |
| 直近3期分の決算書・法人税申告書 | 株式評価、会社財務、納税猶予要件を確認する |
| 勘定科目内訳書 | 役員貸付金・借入金、不動産、保険等を確認する |
| 株式評価明細書案 | 相続税評価額と評価方式を確認する |
| 会社所有不動産資料 | 純資産価額、土地保有特定会社判定等を確認する |
| 役員退職金規程・議事録 | 死亡退職金や納税資金との関係を確認する |
| 遺言書または遺言案 | 株式の承継先、遺留分対応を確認する |
| 相続人関係図 | 遺留分権利者、後継者、非後継者の関係を確認する |
| 生命保険証券 | 納税資金・代償金原資を確認する |
| 特例承継計画の有無 | 事業承継税制の適用可能性を確認する |
| 過去の贈与資料 | 特別受益、遺留分、贈与加算、民法特例の検討に使う |
資料をそろえる目的は、形式的なチェックリストを埋めることではありません。後継者へ集中させる合理性、他の相続人への説明、税務評価の根拠、納税資金の現実性を、同時に確認するためです。
非上場株式の承継設計で大切なこと
非上場株式を後継者に承継させる目的は、単に相続税を減らすことではありません。
会社を継続させること、従業員や取引先を守ること、後継者が経営判断をできる状態を作ること、他の相続人にも説明できる財産配分にすること、相続税申告後も税務調査や親族間の疑問に耐えられる根拠を残すこと――こうした点こそが重要です。
そのためには、次の問いに答えられる必要があります。
| 問い | 判断の意味 |
|---|---|
| なぜ後継者に株式を集中させるのか | 経営上の合理性 |
| 他の相続人には何をどのように渡すのか | 公平感・遺留分対応 |
| 後継者は相続税と代償金を払えるのか | 納税資金・資金繰り |
| 株式評価額の根拠は説明できるか | 申告後の説明可能性 |
| 事業承継税制を使う場合、要件を満たし続けられるか | 将来リスク管理 |
| 遺言、定款、株主名簿は整合しているか | 法務・会社法実務 |
| 後継者が先に死亡した場合や辞退した場合はどうするか | 予備的設計 |
| 二次相続や次世代の株式分散をどう防ぐか | 長期承継 |
ここまで整理できてはじめて、非上場株式の承継は「税務上有利か」ではなく、「家族関係と会社経営の双方に耐えられるか」という判断に進めます。
非上場株式の遺言・遺産分割について相談したい方へ
非上場株式の承継は、相続税評価だけでなく、議決権、後継者の経営権、遺留分、代償金、納税資金、会社法上の定款設計、事業承継税制の適用可能性が重なり合う論点です。
- 「後継者に株式を集中させたいが、他の相続人への説明が不安」
- 「遺言で株式を承継させたいが、遺留分や代償金をどう考えればよいか分からない」
- 「事業承継税制を使えるのか、使うべきなのか確認したい」
- 「株式評価額が高く、納税資金をどう準備すべきか悩んでいる」
- 「兄弟姉妹で株式が分散しており、次の相続が心配」
このような場合は、早い段階で株主名簿、定款、決算書、相続人関係、遺言案、保険・納税資金を一体で整理しておくことが重要です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、非上場株式評価、相続税申告、事業承継税制、会社財務、遺産分割上の論点を横断的に確認し、後継者への集中承継と他の相続人への説明可能性を両立できるよう整理します。
非上場株式の承継を、税額だけでなく、会社の将来と家族間の納得まで含めて検討したい方は、お問い合わせページからご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 重要ポイント | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 非上場株式の本質 | 財産であると同時に議決権である | 評価額だけでなく支配権を見る |
| 遺言 | 後継者への株式集中を明確にできる | 遺留分・代償金・納税資金を合わせて設計する |
| 遺産分割 | 相続後の事情を踏まえて柔軟に決められる | 協議が長引くと申告・評価・経営権に影響する |
| 未分割申告 | 申告期限は延びない | 非上場株式の同族株主判定が不利に働くことがある |
| 遺留分 | 現行法では金銭請求が中心 | 株式は守れても支払資金が必要 |
| 代償金 | 株式集中と公平感の調整手段 | 後継者の支払能力を必ず確認する |
| 事業承継税制 | 相続税・贈与税の納税猶予に役立つ | 遺留分や代償金を消す制度ではない |
| 特例承継計画 | 現行案内では令和9年9月30日までに提出 | 適用期限、認定、継続届出を確認する |
| 民法特例 | 除外合意・固定合意で遺留分リスクを抑え得る | 生前贈与設計、全員合意、確認・許可が必要 |
| 種類株式 | 議決権と経済的価値を分けられる | 税務評価・遺留分評価・会社法手続を混同しない |
| 定款整備 | 株式分散防止に重要 | 譲渡制限、売渡請求、種類株式を確認する |
| 資料整理 | 判断の質を左右する | 株主名簿、定款、決算書、遺言案、納税資金資料を準備する |