相続税の税務調査で確認されやすいポイント|名義預金・贈与履歴・現金・生命保険・土地評価をどう説明するか

相続税の申告は、申告書を提出して納税を済ませれば終わり、という手続ではありません。申告した財産の範囲、評価額、特例の適用、過去の贈与、預金の動き。これらを後から説明できる状態にしておくところまで含めて、はじめて相続税申告の品質が問われると考えています。

税務調査で問われるのも、単に「税額が合っているか」だけではありません。

  • その財産は、誰のものだったのか
  • その預金移動は贈与なのか、それとも単なる名義変更なのか
  • 相続開始前に引き出された現金は、どこに使われたのか
  • 土地評価の補正は、現況・法令・資料に基づいているのか
  • 小規模宅地等の特例は、実際の居住・事業・貸付の状況に合っているのか
  • 同族会社への貸付金や非上場株式の評価は、会社資料と整合しているのか

つまり、税務調査への備えとは、調査官との交渉術を身につけることではありません。申告の時点で「事実関係・資料・判断過程」を整えておくこと。これに尽きます。

国税庁が公表した令和6事務年度の相続税の実地調査では、実地調査件数9,512件のうち、申告漏れ等の非違件数は7,826件、非違割合は82.3%、追徴税額の合計は824億円とされています。

ただし、この数字は調査対象として選定された事案の実績であり、相続税申告全体の82.3%に誤りがあるという意味ではありません。税務当局は、資料情報などから申告額が過少と想定される事案や、無申告が想定される事案などを対象に、実地調査を行っているためです。

出典:国税庁|令和6事務年度における相続税の調査等の状況

本記事では、相続税の税務調査で確認されやすいポイントを、名義預金、贈与履歴、現金、生命保険、土地評価、小規模宅地等、同族会社、海外資産、資料保存の順に整理します。調査当日の対応テクニックではなく、申告前・申告時にどのような確認をしておくべきかを中心にお話しします。

目次

税務調査で見られるのは「申告書そのもの」よりも「申告書に至る過程」

相続税の税務調査では、申告書に記載された金額だけでなく、その金額に至った根拠が確認されます。

たとえば、預金残高証明書だけを見て申告しているケースと、過去数年分の入出金、家族間の資金移動、生前贈与の有無、相続開始直前の出金、生命保険契約、証券口座、貸付金、同族会社との取引まで確認したうえで申告しているケース。仮に税額が同じであっても、説明力はまったく異なります。

税務調査で確認されやすい論点を大きく分けると、次のように整理できます。

確認されやすい領域調査で問われること
財産の網羅性申告漏れの財産がないか
名義と実質家族名義の預金・株式・保険が実質的に被相続人の財産ではないか
生前贈与贈与が成立していたか、相続税の課税価格に加算すべき贈与がないか
現金・出金相続開始前後の多額出金の使途が説明できるか
生命保険保険料負担者、受取人、契約者変更、非課税枠の適用が正しいか
土地評価地目、評価単位、地積、利用状況、補正の根拠があるか
小規模宅地等居住・事業・貸付の実態、取得者、継続要件、添付書類が整っているか
非上場株式・同族会社株主判定、評価方式、会社資料、役員貸付金・借入金が整理されているか
海外資産国外口座、国外不動産、外国法人、国外送金の有無が説明できるか
資料保存判断過程を後から再現できる資料が残っているか

なお、税務署からの連絡には、実地調査だけでなく、文書・電話・来署依頼による「簡易な接触」もあります。国税庁は、行政指導として申告書の見直しを要請する場合があり、その際には調査なのか行政指導なのかを、手続に入る前に明示するとしています。

出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

1. 名義預金・家族名義財産|名義ではなく「実質の所有者」が問われる

相続税の税務調査で、最も問題になりやすい論点の一つが名義預金です。

名義預金とは、口座の名義こそ配偶者、子、孫などになっているものの、実質的には被相続人が所有していたと判断される預金をいいます。

相続税の対象となる財産は、現金、預貯金、有価証券、土地、家屋、貸付金など、金銭に見積もることのできる経済的価値のあるものです。名義が家族であっても、実質的に被相続人の財産と認められる場合には、相続税申告の対象に含める必要があります。

出典:国税庁|No.4105 相続税がかかる財産

名義預金について、特に確認されやすいのは次の点です。

確認項目具体的に見られる資料・事情
資金の原資入金の元になった資金が被相続人の預金・収入・現金か
口座の管理者通帳、キャッシュカード、印鑑、ネットバンキングを誰が管理していたか
贈与の意思被相続人が贈与する意思を持ち、受贈者が受け取る意思を持っていたか
贈与契約書契約書があるか、日付・金額・署名押印が整合しているか
贈与税申告基礎控除を超える贈与について申告・納税がされているか
受贈者の自由な処分受贈者が自分の意思で引出し・運用・使用できたか
収益の帰属利息、配当、運用益を誰が享受していたか
家族間の説明相続人間でその財産の帰属について認識が一致しているか

「毎年110万円以下だから贈与税の申告をしていない」「子どもの名義にしてあるのだから親の財産ではない」。こうした説明だけでは、残念ながら十分とはいえません。税務調査で問われるのは、贈与税がかかったかどうかだけではなく、そもそも贈与が民法上・実態上成立していたかどうかだからです。

とりわけ注意したいのは、被相続人が通帳や印鑑を保管し続けていた場合、受贈者が口座の存在そのものを知らなかった場合、そして生活費や教育費とはいえない多額の資金が一方的に移されていた場合です。こうしたケースでは、名義は家族であっても、実質的には被相続人の財産と判断されるリスクがあります。

2. 贈与履歴|「贈与したつもり」と「相続税上説明できる贈与」は違う

生前贈与は相続税対策としてよく利用されますが、税務調査では、その贈与履歴が詳細に確認されます。

確認されるのは、贈与契約書の有無だけではありません。誰が、いつ、どの財産を、どのような意思で、どの口座からどの口座へ移したのか。そして受贈者がその後どのように管理していたのか。そこまで見られると考えておくべきです。

特に、令和6年1月1日以後の暦年課税贈与については、相続税の課税価格に加算される期間が、段階的に「相続開始前7年以内」へと見直されています。相続開始日が令和8年12月31日以前であれば相続開始前3年以内、令和9年1月1日から令和12年12月31日までであれば令和6年1月1日から死亡日まで、令和13年1月1日以後であれば相続開始前7年以内が、それぞれ加算対象期間となります。

出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

また、相続時精算課税については、令和6年1月1日以後の贈与から、毎年110万円の基礎控除が設けられました。ただし、相続時精算課税は贈与者ごとに選択する制度であり、一度選択すると、同じ贈与者からの贈与について暦年課税へ戻すことはできません。

出典:国税庁|参考 相続時精算課税制度のあらまし

税務調査で確認されやすい贈与の論点は、次のとおりです。

贈与に関する論点確認すべきこと
暦年贈与贈与契約、資金移動、受贈者管理、贈与税申告の有無
相続開始前贈与加算加算対象期間内の贈与が相続税申告に反映されているか
相続時精算課税選択届出、贈与税申告、相続税への加算額が正しいか
名義財産との区別贈与として成立しているか、単なる名義変更ではないか
不動産・株式の贈与評価額、登記・名義書換、贈与税申告が整合しているか
孫への贈与相続や遺贈による取得の有無、加算対象者かどうか
保険料相当額の贈与保険料負担者の実質と受取人の関係が説明できるか

贈与は、節税額だけを見て実行してしまうと、相続の場面で説明が難しくなることがあります。生前対策の段階から、贈与契約書、通帳、贈与税申告書、受贈者の管理状況を一体で残しておく。この積み重ねが、後々の安心につながります。

3. 現金・相続開始前後の出金|「使途不明金」は調査の入口になりやすい

相続税の税務調査では、相続開始前後の預金出金が重点的に確認されます。

医療費、介護費、生活費、葬儀費用、施設入所費用など、相続開始前後にまとまった支出があること自体は、決して珍しいことではありません。問題になるのは、多額の現金が引き出されているにもかかわらず、その使途を説明できない場合です。現金が手元に残っていたのではないか、相続人が保管していたのではないか、家族名義の口座へ移っているのではないか。そうした確認につながっていきます。

国税庁の令和6事務年度の調査事例では、相続開始前に被相続人名義の口座から多額の現金が引き出され、相続人宅で保管されていたにもかかわらず、関与税理士にも伝えず申告から除外した事例が紹介されています。

出典:国税庁|令和6事務年度における相続税の調査等の状況

現金・出金については、次のような資料を整理しておく必要があります。

出金・現金の状況残しておきたい資料
医療費・介護費の支払領収書、請求書、施設利用明細、振込記録
葬儀費用葬儀社請求書、領収書、香典帳、支払者の記録
生活費家計簿、介護者のメモ、通常支出との比較
リフォーム・修繕見積書、契約書、請求書、領収書
親族への立替・返済金銭消費貸借契約書、返済記録、振込履歴
現金保管金庫、手許現金、相続開始時点の残額メモ
使途不明の大口出金出金日、金額、使途、受取人を整理した一覧

「現金で払ったので資料がない」という説明は、金額が大きくなるほど通りにくくなります。現金支出の多いご家庭では、生前から支出メモと領収書を残しておくことが、そのまま相続人を守る資料になります。

4. 生命保険|非課税枠だけでなく、保険料負担者と受取人が見られる

生命保険は、相続税対策、納税資金対策、代償分割の資金確保などに使われることがあります。ただし税務調査では、保険金額だけでなく、契約者、被保険者、受取人、保険料負担者、そして契約者変更の履歴まで確認されます。

被相続人の死亡によって取得した生命保険金のうち、保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続等により取得したものとみなされ、相続税の課税対象になります。受取人が相続人である場合には、500万円に法定相続人の数を乗じた非課税限度額が設けられています。

出典:国税庁|No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

生命保険で気をつけたいのは、その扱いの二面性です。保険金は「民法上の遺産分割の対象財産」とは異なる扱いを受ける場面が多い一方で、相続税の上では、みなし相続財産として課税対象になります。受取人が一度受け取った保険金を、話合いで別の相続人に分けた場合には、贈与税の問題が生じることもあります。

出典:国税庁|No.4114 相続税の対象になる死亡保険金 Q&A

税務調査で確認されやすい保険のポイントは、次のとおりです。

確認項目注意点
保険料負担者契約者名義ではなく、実際に誰が保険料を負担していたか
受取人相続人か相続人以外か、非課税枠の適用可否
契約者変更変更時点で課税関係が生じないか、権利評価が必要か
名義保険子や孫名義の契約でも、被相続人が実質負担していないか
解約返戻金相続開始時点で保険契約に関する権利がないか
代償資金保険金を他の相続人への代償金に使う設計が明確か
申告書第9表保険金、非課税限度額、各人の課税金額が正しく記載されているか

生命保険は、「非課税枠があるから有利」という単純な話ではありません。受取人の指定が、遺産分割の納得感に影響することもあります。税務調査では、保険の契約関係と家族間の資金移動が、重ねて確認されると考えておきましょう。

5. 土地評価|評価額を下げることより、評価根拠を説明できることが重要

土地評価は、相続税申告の中でも税額への影響が大きく、税務調査でも確認されやすい領域です。

土地は、原則として宅地、田、畑、山林などの地目ごとに評価し、評価方法には路線価方式と倍率方式があります。路線価方式では、路線価を土地の形状等に応じた補正率で補正し、面積を乗じて評価します。

出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価

税務調査で問題になりやすいのは、計算式そのものよりも、計算の前提となる事実認定の部分です。

土地評価の論点調査で確認されやすいこと
地目登記地目ではなく、相続開始時の現況と整合しているか
評価単位一体利用か、別利用か、複数筆をどう評価したか
地積公簿面積、実測面積、測量図、固定資産税資料が整合しているか
接道建築基準法上の道路、私道、無道路地、セットバックの判断
形状補正不整形地、間口狭小、奥行長大、がけ地等の根拠
貸付状況貸宅地、貸家建付地、使用貸借、空室の実態
駐車場自用地か貸付事業用か、賃貸借契約・舗装・設備の有無
特殊事情土壌汚染、埋蔵文化財、地中埋設物、高圧線下地など
マンション令和6年1月1日以後取得の居住用区分所有財産の評価方法
分割後の利用遺産分割や分筆が不合理な評価単位を生んでいないか

なお、令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産、いわゆる分譲マンションについては、居住用の区分所有財産の評価通達に基づく評価が必要になる場合があります。

出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価

土地評価では、評価額を下げること自体が問題なのではありません。問題になるのは、現地確認、役所調査、図面、写真、契約書、利用状況といった裏付けのないまま、評価減だけを適用しているケースです。

6. 小規模宅地等の特例|「使えるはず」ではなく、要件事実を積み上げる

小規模宅地等の特例は、相続税額に大きな影響を与えるため、税務調査でも確認されやすい特例です。

この特例は、相続開始の直前に被相続人等の事業用または居住用に使われていた一定の宅地等について、限度面積まで評価額を減額する制度です。適用を受けるには、相続税申告書に特例適用の記載をしたうえで、計算明細書や遺産分割協議書の写しなど、一定の書類を添付する必要があります。また、対象となり得る宅地等を取得した相続人等が複数いる場合には、選択についての同意が必要となることがあります。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

調査で確認されるのは、添付書類があるかどうかだけではありません。実態として要件を満たしていたかが問われます。

類型確認されやすい事実
特定居住用宅地等被相続人の居住実態、同居親族の居住継続、別居親族の要件、老人ホーム入所の経緯
特定事業用宅地等事業の実態、事業承継、申告期限までの事業継続・所有継続
貸付事業用宅地等貸付の継続性、相当の対価、空室、駐車場の実態、3年以内貸付の制限
特定同族会社事業用宅地等同族会社の事業用利用、役員要件、株式保有関係、土地賃貸借の実態
複数宅地の選択限度面積、減額割合、取得者同意、二次相続への影響
未分割申告期限、分割見込書、期限後分割、更正の請求の管理

小規模宅地等の特例は、「自宅だから使える」「賃貸物件だから使える」といった名称だけの判断ではなく、取得者、利用状況、継続要件、申告手続を組み合わせて判断します。特例適用後の税額が大きく下がる場合ほど、申告後に説明できる資料を残しておく必要があります。

7. 非上場株式・同族会社|会社資料と個人財産の接点が見られる

被相続人が同族会社の株式を持っていた場合、相続税申告は一気に複雑になります。非上場株式には市場価格がないため、株主の立場、会社規模、財務内容、保有資産、同族関係に基づいて評価することになるからです。

取引相場のない株式は、株式を取得した株主が同族株主等か、それ以外の株主かによって、原則的評価方式または特例的評価方式である配当還元方式により評価します。原則的評価方式では、会社規模に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、またはその併用方式を用います。

出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価

税務調査では、株式評価そのものに加えて、個人と会社の間の資金関係も確認されやすくなります。

同族会社関係の論点確認すべき資料
株主判定株主名簿、議決権割合、親族関係、種類株式
会社規模判定決算書、法人税申告書、勘定科目内訳書、従業員数、取引金額
類似業種比準価額配当、利益、純資産、業種目、直前期数値
純資産価額不動産、有価証券、含み損益、負債、法人税額等相当額
特定の評価会社土地保有特定会社、株式等保有特定会社、開業後3年未満会社等
役員貸付金被相続人から会社への貸付金が相続財産に計上されているか
役員借入金会社から被相続人への貸付け、仮払金がないか
会社への土地貸付無償返還届出、地代、使用貸借、借地権課税、小規模宅地等
死亡退職金会社規程、支給決議、みなし相続財産、非課税枠
自己株式取得相続後の納税資金対策、みなし配当、会社法手続

同族会社のある相続では、個人の相続税申告だけを見ても、全体像はつかめません。会社の決算書、法人税申告書、役員貸付金、所有不動産、株主構成までを確認し、個人財産と会社財産の境界を整理しておく必要があります。

8. 海外資産・国外送金|「見つからないだろう」は通用しにくくなっている

海外口座、海外不動産、外国株式、外国法人への貸付金、海外居住の相続人がある場合も、税務調査で確認されやすい領域です。

国税庁は、令和6事務年度の相続税の海外資産関連事案について、CRS情報をはじめとした租税条約等に基づく情報交換制度などを活用し、海外取引や海外資産の保有状況の把握に努めていると説明しています。同年度の海外資産に係る申告漏れ等の非違件数は209件、海外資産に係る申告漏れ課税価格は97億円とされています。

出典:国税庁|令和6事務年度における相続税の調査等の状況

ここでいうCRSとは、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準であり、日本を含む各国が実施しています。

出典:国税庁|共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換に関する情報

海外資産については、次のような資料が必要になります。

海外資産の種類整理すべき資料
海外預金口座明細、残高証明、利息明細、為替換算資料
外国株式・投資信託証券会社明細、評価日、取引履歴、配当履歴
海外不動産登記資料、評価資料、固定資産税資料、賃貸契約
外国法人への貸付金契約書、送金記録、返済履歴、法人財務諸表
国外送金送金依頼書、受取人、送金目的、資金原資
海外居住相続人住所、納税管理人、署名証明、現地手続
国外財産調書提出義務、記載内容、加算税の軽減・加重措置

国外財産調書制度では、一定の国外財産を有する人に提出義務があり、期限内の提出や記載の有無によって、国外財産に関する所得税・相続税の申告漏れに係る過少申告加算税等の軽減・加重措置が設けられています。

出典:国税庁|No.7456 国外財産調書の提出義務

海外資産がある場合には、「そもそも日本の相続税の対象か」「どの時点の為替で換算するか」「現地資料をどう入手するか」「外国税額控除の対象になるか」まで含めて、早い段階で整理しておく必要があります。

9. 税務調査で問題になりやすい「説明できない申告」

税務調査で大きな問題になりやすいのは、単に税額が少ない申告ではありません。説明できない申告です。

次のような申告は、調査で疑問を持たれやすくなります。

調査で説明が難しくなる申告問題点
預金残高証明だけで申告している過去の出金、名義預金、贈与履歴が確認されていない
家族名義財産を確認していない実質所有者の判断ができない
贈与契約書だけを根拠にしている受贈者管理、資金移動、贈与税申告と整合していない
現金出金の使途が不明手許現金や相続人保管の可能性を説明できない
土地評価の補正だけを適用している現地写真、役所調査、図面、判断メモがない
小規模宅地等を形式的に適用している居住・事業・貸付の実態が確認されていない
非上場株式を概算評価している株主判定、会社規模、純資産評価の根拠が弱い
同族会社との貸借を確認していない役員貸付金、未収金、債務控除の漏れが生じる
海外資産を本人申告だけで判断しているCRS、国外送金、国外財産調書との整合性が確認されていない
相続人間で説明内容が違う税務上だけでなく、遺産分割上の紛争にもつながる

税務調査とは、申告時に確認しなかった事実を、申告後に説明する場面です。調査の時点で初めて資料を探し始めるのでは、間に合わないこともあります。

10. 書面添付制度は「調査を絶対に防ぐ制度」ではなく、判断過程を説明する制度

相続税申告では、税理士法第33条の2に基づく書面添付制度を利用することがあります。これは、税理士が申告書の作成にあたり、どのような資料を確認し、どのような判断をしたのかを記載する制度です。

国税庁は、書面添付制度について、申告書が税務の専門家の立場からどのように調製されたかを明らかにすることにより、正確な申告書の作成および提出に資する制度であると説明しています。あわせて、添付書面には、税理士の責任の範囲を国税当局に対して明確化する役割もあるとされています。

出典:国税庁|税理士制度のQ&A 4 書面添付・意見聴取制度

ただし、書面を添付したからといって、税務調査が必ず省略されるわけではありません。大切なのは、書面を付けること自体ではなく、書面に書けるだけの確認を実際に行っているかどうかです。

相続税申告で書面添付を検討する場合には、次のような内容が整理されているかを確認しておきたいところです。

書面添付で整理したい事項内容
財産調査の範囲どの金融機関、保険会社、証券会社、法務局資料を確認したか
名義財産の確認家族名義財産について、どのような資料を確認したか
生前贈与贈与契約、資金移動、申告履歴をどう確認したか
土地評価現地確認、役所調査、評価単位、補正判断の根拠
小規模宅地等居住・事業・貸付の実態、取得者、継続要件の確認
非上場株式会社資料、株主判定、評価方式、役員貸借の確認
判断に迷った点不確実性、採用した判断、依頼者へ説明したリスク
保存資料後日の調査で提示できる資料の所在

書面添付制度は、調査回避を目的に形式的に利用する制度ではありません。申告内容の説明可能性を高めるための、品質管理の手段として考えるべきものです。

11. 税務調査に備える資料保存の考え方

相続税申告後に備えて残しておくべき資料は、申告書の控えだけではありません。税務調査では、申告書に書かれていない判断過程が問われるためです。

最低限、次の資料は整理しておきたいところです。

分野保存しておきたい資料
戸籍・相続人戸籍、除籍、改製原戸籍、法定相続情報一覧図
遺産分割遺産分割協議書、印鑑証明書、代償金支払記録
預貯金残高証明書、取引履歴、相続開始前後の出金メモ
名義財産家族名義口座の確認資料、贈与契約書、管理状況メモ
贈与贈与契約書、贈与税申告書、納税記録、通帳
生命保険保険証券、契約内容照会、保険料負担資料、受取人履歴
不動産登記事項証明書、公図、地積測量図、固定資産税資料、現地写真
土地評価評価明細書、路線価図、倍率表、役所調査メモ、補正判断メモ
小規模宅地等居住資料、事業資料、賃貸借契約書、継続要件確認資料
非上場株式決算書、申告書、勘定科目内訳書、株主名簿、定款
債権債務借入契約書、返済予定表、貸付金資料、保証債務資料
海外資産海外口座明細、外国不動産資料、為替換算資料、国外財産調書
判断記録税理士とのやり取り、リスク説明資料、採用しなかった選択肢

重要なのは、資料を「集める」だけで終わらせないことです。それぞれの資料が、申告書のどの金額に対応しているのかまで整理しておく。相続人が数年後に見返しても分かるように、財産一覧、評価根拠、未解決の論点、税務上の判断メモを残しておけば、税務調査の場面だけでなく、二次相続や不動産売却の際にも役立ちます。

12. 調査で指摘を受けた場合に考えるべきこと

税務調査で申告漏れや評価誤りを指摘された場合には、すぐに感情的に反論するのではなく、次の順に整理していくことをおすすめします。

整理順序確認内容
1 事実関係指摘された財産・取引・評価について、事実がどうだったか
2 資料通帳、契約書、領収書、評価資料、会社資料があるか
3 法令・通達課税庁の指摘がどの法令・通達・事実認定に基づくか
4 金額影響税額、加算税、延滞税、相続人間の負担がどう変わるか
5 相続人間の調整追加税額を誰が負担するか、分割協議に影響するか
6 修正申告の要否修正申告を行うか、更正処分を受けるか
7 再発防止二次相続、贈与、資産管理にどう反映するか

税務調査の結果、税額が増える場合には、修正申告や更正処分、延滞税・加算税の問題が生じます。延滞税は、税金が定められた期限までに納付されない場合に、原則として法定納期限の翌日から納付日までの日数に応じて課されます。

出典:国税庁|No.9205 延滞税について

附帯税の詳細については別の記事で改めて整理しますが、相続税申告の段階では、「後で直せばよい」ではなく、「最初から説明できる申告にする」ことが、何より重要だと考えています。

まとめ|相続税の税務調査対策は、申告前の事実確認で決まる

相続税の税務調査で確認されやすいのは、名義預金、贈与履歴、現金、生命保険、土地評価、小規模宅地等、同族会社、海外資産などです。これらに共通するのは、形式だけでは判断できず、実質・資料・経緯の説明が必要になるという点です。

調査を過度に恐れる必要はありません。しかし、申告時に十分な確認をしないまま、後から説明できない申告をしてしまうと、追加税額だけでなく、相続人間の不信感、専門家への不満、二次相続への影響まで生じかねません。

相続税申告は、財産評価と税額計算の作業であると同時に、家族の資産移転を将来に向けて説明できる形へ整える作業でもあります。税務調査で問われやすいポイントを事前に把握し、必要な資料を集め、判断に迷う点は記録に残しておく。その積み重ねが、申告後の安心につながります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税申告にあたり、名義預金、過去の贈与、土地評価、小規模宅地等、非上場株式、同族会社、納税資金などを一体で整理し、申告後に説明できる資料と判断過程を重視しています。

相続税申告を控えている方、すでに申告を済ませたものの調査リスクが気になる方、家族名義財産や過去の贈与に不安をお持ちの方は、申告書だけでなく、通帳・契約書・評価資料・家族間の資金移動を整理したうえで、当事務所のお問い合わせページからご相談ください。税務調査で何が問題になり得るのかを、早い段階で見える化しておくことが大切です。

振り返り|相続税の税務調査で確認されやすいポイント

論点確認されやすいこと申告前に整えるべき資料・対応
名義預金家族名義でも実質的に被相続人の財産ではないか原資、管理者、贈与契約、贈与税申告、通帳管理状況
生前贈与贈与が成立していたか、相続税への加算漏れがないか贈与契約書、通帳、申告書、受贈者管理資料
現金・出金相続開始前後の多額出金の使途領収書、支出メモ、医療・介護・葬儀資料
生命保険保険料負担者、受取人、非課税枠、契約者変更保険証券、保険料支払資料、契約内容照会
土地評価地目、評価単位、地積、補正、貸付実態登記、公図、測量図、現地写真、役所調査メモ
小規模宅地等居住・事業・貸付の実態、取得者、継続要件居住資料、事業資料、賃貸借契約、選択同意資料
非上場株式株主判定、会社規模、評価方式、会社資産決算書、申告書、株主名簿、勘定科目内訳書
同族会社貸借役員貸付金、借入金、会社への土地貸付契約書、内訳書、返済記録、地代資料
海外資産国外口座、国外不動産、国外送金、外国法人貸付海外明細、評価資料、送金記録、為替換算資料
書面添付申告書の作成過程を説明できるか確認範囲、判断メモ、リスク説明資料
資料保存申告後に判断過程を再現できるか財産一覧、評価根拠、申告書控え、対応履歴
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