親御さんの判断能力が低下してきたとき、ご家族から繰り返し寄せられるご相談があります。
「成年後見制度を使えば、親の預金を動かせるのでしょうか」 「施設費用のために、自宅を売却できるのでしょうか」 「後見人がつけば、生前贈与や相続税対策は続けられるのでしょうか」 「遺産分割協議や相続税申告は、どのように進めればよいのでしょうか」
こうしたご相談を受けたとき、私がまず整理していただくようにお伝えしていることがあります。
成年後見制度は、相続税対策を進めるための制度ではありません。判断能力が不十分になった本人を保護し、その方の生活、療養看護、財産管理を支えるための制度です。
そのため、本人のために必要な預貯金の管理、施設入所の契約、医療・介護費用の支払い、必要性のある不動産の処分などには、当然この制度が関わってきます。
一方で、相続人の将来の税負担を下げるための贈与や財産移転、過度な不動産活用などは、原則として後見制度の目的にはなじみにくいものです。
本稿では、成年後見制度のなかでも主に法定後見制度を中心に、後見・保佐・補助の基本、家庭裁判所の関与、居住用不動産の処分、そして贈与や相続税対策への影響を整理していきます。
なお、成年後見制度をめぐっては、2026年4月3日に閣議決定・国会提出された民法等改正法案が成立しており、後見・保佐の廃止、補助の適用範囲の拡大、任意後見契約と補助制度との関係の見直しなどが予定されています。本稿は、施行前の実務でなお前提となる現行制度を中心に説明していますが、実際の手続では、施行日・経過措置・最新の家庭裁判所の運用を必ずご確認ください。
成年後見制度は「本人のため」の制度である
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分になった方を、保護・支援するための制度です。
本人が不動産や預貯金を管理したり、介護サービスや施設入所の契約を結んだり、遺産分割協議に参加したりすることが難しくなった場合に、法律の面から支えるために用いられます。
相続対策の場面では、この制度の位置づけが誤解されやすくなります。
たとえば、ご家族が「親の財産を守るため」と考えていても、その中身が実際には、子や孫への生前贈与であったり、相続税の軽減であったり、相続人間の財産配分の調整であったりすれば、それは本人の利益ではなく、将来の相続人の利益と評価されることがあります。
法定後見の実務において、成年後見人等は、本人の財産を本人のために管理・保全する立場にあります。本人の財産を家族のために使うことや、相続税の節税を目的として財産を減少させることは、許されにくいと整理されます。
つまり、成年後見制度を検討する際の出発点は、「相続税を下げられるか」ではありません。
問われるのは、本人の生活、医療、介護、住まい、財産管理にとって必要かどうか。本人の意思や利益に沿っているかどうか。そして、家族の都合ではなく、本人保護として説明できるかどうかです。
ここを外してしまうと、法務上も税務上も、後から説明することが難しくなります。
法定後見制度には後見・保佐・補助がある
現行の法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」という3つの類型があります。
法務省は、後見を「判断能力が欠けているのが通常の状態」、保佐を「判断能力が著しく不十分」、補助を「判断能力が不十分」と整理しています。
| 類型 | 対象となる本人の状態 | 主な権限・効果 | 相続実務で問題になりやすい場面 |
|---|---|---|---|
| 後見 | 判断能力を欠くのが通常の状態 | 成年後見人が財産に関する広い代理権を持ち、本人の法律行為は日常生活に関する行為を除き取り消し得る | 預金管理、施設費用支払い、不動産管理、遺産分割協議、本人所有財産の処分 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 借入れ、保証、不動産売買、相続承認・放棄など一定の重要行為に保佐人の同意が必要。特定行為について代理権付与も可能 | 自宅売却、借入れ、遺産分割、相続放棄、賃貸不動産管理 |
| 補助 | 判断能力が不十分 | 家庭裁判所が定めた特定の法律行為について、補助人に同意権・取消権・代理権を与える | 軽度認知症段階での限定的支援、借入れ防止、特定財産の管理、契約支援 |
ここで大切なのは、後見・保佐・補助は「相続対策の進めやすさ」で選ぶものではない、という点です。
これらは、本人の判断能力、本人に必要な支援の範囲、親族間の対立の有無、財産の内容、今後必要になる法律行為を踏まえて選択されます。
たとえば、軽度の認知症で、まだ本人がある程度の判断をできる場合には、補助や保佐を検討する余地があります。一方で、本人がほぼ常時、判断能力を失っている段階では、法定後見以外の選択肢は限られてきます。
判断能力の段階に応じて、財産管理契約、任意後見契約、法定後見制度のいずれを選ぶのかを見極める。この実務上の整理も、見落とせない視点です。
家庭裁判所が選任するため、家族の希望どおりになるとは限らない
法定後見制度では、家庭裁判所が成年後見人等を選任します。
申立人が「長男を後見人にしたい」「同居している子に任せたい」と希望しても、家庭裁判所がその希望どおりに選任するとは限りません。
本人のためにどのような保護・支援が必要か、財産の内容、親族関係、紛争の可能性、専門性の必要性などを踏まえて、弁護士、司法書士、社会福祉士といった専門職や法人が選任されることもあります。
これは、相続対策を考えるご家族にとって、非常に重要な点です。
親族後見人が選任される前提で申立てをしても、第三者である専門職が選任されることがあります。また、専門職後見人が選任された場合、その方は「家族の相続対策」を進める立場ではなく、あくまで「本人の利益」を基準に判断します。
特に、家族間にすでに対立がある場合、過去の預金引出しに疑義がある場合、財産が多額である場合、不動産や同族会社株式がある場合などには、第三者専門職や監督人の関与が想定されやすくなります。
成年後見制度を使うかどうかは、単に「預金を引き出せるようにする」ための手続として捉えるべきではありません。誰が財産管理を行い、どこまで家庭裁判所の監督を受けることになるのか。そこまで見通したうえで判断する必要があります。
成年後見人等の役割は財産管理と身上保護である
成年後見人等は、本人の生活、医療、介護、福祉などにも目を配りながら、本人を保護・支援します。
具体的には、不動産や預貯金などの財産を管理し、本人の希望、身体の状態、生活状況を考慮しながら、必要な福祉サービスや医療を受けられるように契約や支払いを行います。ただし、食事の世話や実際の介護そのものは、一般に成年後見人等の職務ではありません。
財産管理の面では、後見人等は本人の財産目録を作成し、収入と支出を把握し、必要な支出を計画し、管理の状況を記録して、家庭裁判所へ報告します。
後見人等は家庭裁判所の監督を受けますので、ご家族がこれまでどおり自由に通帳や現金を管理してきた感覚とは、大きく異なってきます。
この仕組みは、親族による不適切な財産管理を防ぎ、本人の財産を守るうえでは重要なものです。
一方で、ご家族から見れば、「柔軟に動かせない」「相続税対策が止まってしまう」「不動産の活用が進まない」と感じる場面もあるでしょう。成年後見制度は、本人保護のための制度であって、資産承継の自由度を高めるための制度ではない。この点を、あらかじめ理解しておく必要があります。
後見制度を使うと生前贈与は原則として難しくなる
相続税対策として、毎年こつこつと生前贈与を行っているご家庭は少なくありません。
しかし、成年後見制度を利用した後に、後見人が本人に代わって相続税対策を目的とした贈与を行うことは、原則として困難です。
理由は明確です。贈与は、本人の財産を無償で減少させる行為だからです。本人の生活費、医療費、介護費、施設費用を確保するための制度である成年後見と、将来の相続人の税負担を減らすための財産移転とでは、そもそも目的が異なります。
もちろん、本人の生活歴、家族関係、過去の扶養状況、社会的な儀礼、少額の慣習的な支出など、個別に検討すべき場面はあります。しかし、相続税の節税を目的として、子や孫へまとまった金額を贈与することは、本人の利益としては説明しにくいのが通常です。
税務上も、これは同じです。
判断能力が低下した後に行われた贈与については、贈与契約が成立しているか、本人の意思があったか、財産管理の実態はどうか、受贈者が支配管理していたか、贈与税申告がなされているか、といった点が後から確認されます。
贈与の形式を整えたつもりでも、本人の意思能力や管理の実態に問題があれば、相続税申告の段階で、名義財産や贈与の有効性が問題になりかねません。
ですから、成年後見制度を使う段階になってから「節税のために贈与を進めよう」と考えても、すでに遅い場合があるのです。生前贈与、相続時精算課税、生命保険、遺言、家族信託といった手段は、本人が判断できるうちに、本人の意思と生活保障を確認したうえで設計しておくべきものです。
成年後見人は本人に代わって遺言を作成できない
成年後見制度を利用すれば、本人に代わって遺言まで整えられる。そう誤解されることがあります。
しかし、遺言は本人自身の意思に基づく行為です。成年後見人が本人に代わって遺言を作成することはできません。
成年後見が開始していても、本人が遺言をする時点で遺言能力を有していれば、一定の要件のもとで遺言が成立する余地はあります。ただし、これは後見人の代理権の問題ではなく、あくまで本人自身の遺言能力の問題です。
相続対策として遺言を考えるのであれば、判断能力が低下してから「後見人に任せればよい」と考えるのではなく、本人が財産の内容、相続人、遺言の効果、遺留分や納税資金への影響を理解できる段階で検討しておく必要があります。
成年後見制度は、遺言作成の代替手段ではないのです。
居住用不動産を処分するには家庭裁判所の許可が必要
成年後見制度と相続対策が最も強く交差するのが、不動産の処分です。
たとえば、本人が施設に入所し、空き家となった自宅を売却して施設費用に充てたい、という場面があります。あるいは、固定資産税や管理費の負担が重く、本人の生活資金を確保するために不動産の売却を検討する、ということもあります。
このような場合であっても、成年後見人等が本人の居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要です。
裁判所は、本人が現在住んでいる不動産だけでなく、現在は病院や施設に入所しているため居住していないものの将来居住する可能性がある不動産、入所前に居住していた不動産なども含めて、居住用不動産として扱うことを示しています。
売却、抵当権の設定、賃貸借契約の締結・解除、建物の取壊しなどが処分に含まれ、許可を得ずに処分した場合は無効となります。
出典:裁判所|成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可
この許可は、相続税対策として不動産を売るためのものではありません。
本人の生活費、医療費、介護費、施設費、管理の負担、将来の居住の可能性などを踏まえて、本人にとってその処分が必要かどうかが問われます。
相続税申告の観点では、不動産を売却するかどうかによって、将来の相続財産の内容、譲渡所得税、取得費、空き家特例、小規模宅地等の特例、納税資金に影響が及びます。しかし、これらはあくまで税務上の影響であり、後見制度のうえでの判断軸は、あくまで本人保護にあります。
遺産分割協議に本人が参加できない場合も後見が問題になる
成年後見制度は、相続が発生する前だけでなく、相続が発生した後にも問題になります。
たとえば、相続人のなかに判断能力が不十分な方がいる場合、その方が遺産分割協議を有効に行えるかどうかを確認しなければなりません。意思能力がない、または判断が難しい場合には、成年後見制度の利用が必要になることがあります。
後見人が選任されている場合は、原則として後見人が本人を代理して遺産分割協議に関与します。保佐や補助の場合には、同意権や代理権の範囲を確認する必要があります。後見制度を利用しているかどうかは、法務局で発行される成年後見登記に関する登記事項証明書等によって確認するのが実務です。
ここで特に注意していただきたいのが、利益相反です。
たとえば、父が亡くなり、母が認知症で、長男が母の成年後見人であり、その長男自身も相続人である、というケースを考えてみます。この場合、長男と母の利害が対立する可能性があります。こうした場面では、特別代理人、後見監督人、臨時保佐人・臨時補助人などの関与が必要になることがあります。
相続税申告の面では、遺産分割がまとまらないと、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用に影響が出ることがあります。判断能力の問題は、法務手続だけにとどまらず、申告期限、特例の適用、納税資金、未分割申告にまで、直結してくるのです。
同族会社株式がある場合は経営承継にも影響する
被相続人や高齢の親御さんが同族会社の株式を多く保有している場合、成年後見制度の影響はさらに大きくなります。
社長や大株主について後見・保佐・補助が開始すると、会社経営、議決権の行使、役員の選任、株式の承継に影響が生じます。
成年後見が開始した場合、後見人が議決権の行使に関与することになりますが、後見人は会社経営の円滑化や後継者の希望を最優先する立場ではありません。あくまで、成年被後見人の財産を適切に管理し、財産を減少させないという観点で業務を行います。社長の認知症が進行した後に、安易に法定後見の申立てをすると、会社経営に大きな影響が生じ得ると整理されます。
これは、相続税評価だけの問題ではありません。
非上場株式の承継では、次のような論点が同時に関わってきます。
- 誰が議決権を行使するのか
- 後継者に株式を集中できるのか
- 遺留分や代償金をどう考えるのか
- 事業承継税制を検討できる段階か
- 役員借入金・貸付金をどう整理するのか
- 会社所有不動産や同族会社への土地貸付があるか
- 本人の判断能力低下後に株式移転を行えるのか
後見制度が始まってから、会社株式の贈与、種類株式の設計、議決権の集約、自己株式の取得などを自由に進められるとは限りません。
同族会社がある場合には、認知症対策、遺言、任意後見、家族信託、株式承継、相続税試算を、早い段階から一体として検討しておくべきです。
法定後見・任意後見・家族信託は役割が異なる
成年後見制度を検討するとき、任意後見や家族信託と比較されることがあります。
任意後見制度は、本人が十分な判断能力を有しているうちに、将来任意後見人となる人や委任する事務の内容を公正証書による契約で定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人がその委任された事務を行う制度です。任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じます。
家族信託は、特定の財産について、委託者、受託者、受益者を定め、受託者が信託の目的に従ってその財産を管理・処分する仕組みです。信託財産の範囲では柔軟な管理が可能となる場合がありますが、受託者の権限が大きい分、受託者の義務、監督、利益相反、税務処理を慎重に設計する必要があります。
それぞれの制度の違いを簡単に整理すると、次のようになります。
| 制度 | 主な目的 | 開始時期 | 相続対策との関係 |
|---|---|---|---|
| 法定後見 | 判断能力低下後の本人保護 | 判断能力が不十分になった後、家庭裁判所の審判により開始 | 本人保護が中心。節税目的の贈与や財産移転は原則として難しい |
| 任意後見 | 将来の判断能力低下に備えた本人意思に基づく支援 | 判断能力が十分な時に契約し、低下後に監督人選任で発効 | 本人の希望を事前に反映しやすいが、発効後は監督を受ける |
| 家族信託 | 特定財産の管理・承継設計 | 判断能力があるうちに契約 | 財産管理と承継を設計できる場合があるが、税務・受託者リスクを要検討 |
| 遺言 | 死後の財産承継 | 本人が遺言能力を有する時に作成 | 死後承継には有効だが、生前の財産管理はできない |
どの制度が優れているか、という問いの立て方ではなく、本人の判断能力、財産の構成、家族関係、管理したい財産、死後の承継、税務上の影響を見たうえで、それぞれの役割分担を考えていく。そうした視点が大切です。
後見制度を使うべきか判断するための順序
成年後見制度を使うべきかどうかは、次の順序で整理すると判断しやすくなります。
1. 本人の判断能力を確認する
まずは、本人がどの程度判断できるのかを確認します。
診断名だけでなく、本人が財産の内容、契約の内容、住まい、生活費、家族関係を理解できているかどうかを見ていきます。
軽度認知障害や認知症の初期であれば、任意後見、財産管理委任、家族信託、遺言などを検討できる余地があります。すでに判断能力が大きく低下していれば、法定後見が中心になります。
2. 何をする必要があるのかを特定する
次に、必要な行為を具体的にしていきます。
- 預金を引き出す必要があるのか
- 施設入所の契約が必要なのか
- 遺産分割協議が必要なのか
- 自宅の売却が必要なのか
- 賃貸不動産の管理が必要なのか
- 会社株式の議決権行使が問題なのか
「相続税対策をしたい」というだけでは、後見制度の必要性としては不十分です。本人の生活・療養・財産管理のために、どの法律行為が必要なのかを明確にする必要があります。
3. 親族間の対立可能性を確認する
親族間に争いがないように見えても、財産を動かす段階になって対立が表面化することがあります。
- 同居している子が預金を管理している
- 一部の相続人だけが親の通帳を把握している
- 過去の贈与や生活費の援助に不公平感がある
- 不動産を誰が取得するかで意見が分かれている
- 後継者と非後継者で会社株式の承継方針が違う
このような場合、親族だけで財産を動かすと、後から、不正な引出し、贈与の無効、名義財産、特別受益、遺留分といった問題に発展することがあります。
法定後見を使うことには柔軟性を下げる面がありますが、その一方で、親族間の不信を抑え、本人の財産管理を客観化するという役割も果たします。
4. 税務上の影響を事前に確認する
成年後見制度を利用すると、税務上の判断にも影響が及びます。
- 生前贈与が止まる可能性
- 相続時精算課税や暦年贈与の継続可否
- 不動産売却による譲渡所得税
- 小規模宅地等の特例への影響
- 相続税申告時の名義財産・贈与履歴の整理
- 未分割申告や特例適用期限への影響
- 同族会社株式の評価・承継への影響
- 生命保険契約や受取人変更の可否
後見制度そのものは、税務の制度ではありません。しかし、後見開始後は財産を動かしにくくなるため、相続税対策、納税資金、不動産管理、二次相続に大きく影響します。
後見開始前に済ませておくべきこと
本人に判断能力があるうちに検討しておくべきことは、次のとおりです。
- 財産一覧の作成
- 預貯金、証券、不動産、保険、同族会社株式の把握
- 本人の生活費、医療費、介護費、施設費用の見積り
- 将来売却する可能性のある不動産の整理
- 遺言の必要性の検討
- 任意後見契約の検討
- 家族信託の必要性の検討
- 過去の贈与履歴の整理
- 生命保険の受取人・保険料負担者の確認
- 同族会社の株主構成、議決権、後継者の確認
- 納税資金の見通し
- 親族間で共有しておくべき情報の整理
これらは、判断能力が低下してからでは実行できない、あるいは実行が著しく難しくなることがあります。
「まだ元気だから大丈夫」ではなく、「本人が理解して決められるうちに、選択肢を整理しておく」こと。これが何より重要です。
相談前に整理しておきたい資料
成年後見制度と相続対策のご相談では、次のような資料があると、論点を整理しやすくなります。
| 分野 | 整理したい資料・情報 |
|---|---|
| 本人の状況 | 診断書、認知機能検査、主治医意見書、要介護認定資料、施設入所状況 |
| 財産 | 預貯金残高、通帳、証券口座、不動産登記、固定資産税通知書、保険証券、同族会社資料 |
| 収支 | 年金、賃料収入、医療費、介護費、施設費、固定資産税、借入返済 |
| 家族関係 | 推定相続人、同居・介護状況、過去の援助、親族間対立の有無 |
| 既存対策 | 遺言、任意後見契約、家族信託、贈与契約書、贈与税申告書、生命保険契約 |
| 急ぎの課題 | 預金引出し、施設契約、不動産売却、遺産分割、相続税申告期限 |
| 税務論点 | 贈与履歴、名義財産、納税資金、小規模宅地等、同族会社株式、土地評価 |
資料が十分にそろっていない段階でも、ご相談は可能です。ただし、成年後見制度を使うかどうかは、法務・税務・生活資金・親族関係の全体像を見たうえで判断する必要があります。
まとめ:成年後見制度は相続税対策の道具ではなく、本人保護の制度である
成年後見制度は、判断能力が不十分になった本人を守るための制度です。
預金管理、施設入所の契約、医療費・介護費の支払い、必要性のある不動産処分、遺産分割への参加などには、重要な役割を果たします。
一方で、相続税を減らすための生前贈与、不動産の活用、株式の移転、生命保険契約の変更などを、後見人が自由に進められるわけではありません。むしろ、後見が開始した後は、本人の財産を本人のために保全する方向へ、大きく制約されることになります。
相続対策で大切なのは、本人が判断できるうちに、本人の意思、生活資金、財産の構成、家族関係、税務上の影響を整理しておくことです。
成年後見制度を使うべき場面では、本人保護を最優先にすべきです。そして、成年後見制度を使う前に選択肢がある場面では、任意後見、家族信託、遺言、贈与、生命保険、納税資金対策を、後から説明できる形で検討しておくべきです。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 押さえるべきポイント |
|---|---|
| 成年後見制度の目的 | 本人の保護・支援が目的であり、相続税対策を進める制度ではない |
| 後見・保佐・補助 | 判断能力の程度と必要な支援範囲に応じて選択される |
| 後見人の選任 | 家庭裁判所が選任するため、家族の希望どおりになるとは限らない |
| 財産管理 | 本人の財産を本人のために管理・保全し、家庭裁判所へ報告する |
| 生前贈与 | 本人の財産を減少させるため、節税目的の贈与は原則として難しい |
| 遺言 | 後見人が本人に代わって遺言を作ることはできない |
| 居住用不動産 | 売却・賃貸・抵当権設定・取壊し等には家庭裁判所の許可が必要 |
| 遺産分割 | 判断能力が不十分な相続人がいる場合、後見人・保佐人・補助人の権限確認が必要 |
| 同族会社 | 大株主・社長の後見開始は議決権行使や事業承継に影響する |
| 相談前整理 | 本人の判断能力、財産、家族関係、既存対策、急ぎの手続、税務論点を整理する |
犬飼公認会計士・税理士事務所では、認知症が疑われる段階の相続対策について、成年後見制度を使うべきか、使う前に整理しておくべき選択肢があるか、相続税申告・納税資金・不動産・同族会社株式にどのような影響が及ぶかを、資料と事実関係に基づいて整理しています。
親御さんの判断能力、預金の管理、不動産の売却、贈与の継続、遺言、同族会社株式、将来の相続税申告にご不安がある場合は、制度を選ぶ前に、まずは現在の財産状況と家族関係を一度整理して、ご相談ください。