相続対策で注意すべき危うい節税提案|税額だけで判断しないための実務視点

相続対策のご相談では、「これをすれば相続税が下がります」「今のうちに名義を変えておきましょう」「借入れをして不動産を建てれば評価が下がります」といった提案を耳にすることがあります。

もちろん、相続税対策そのものが悪いわけではありません。生前贈与、生命保険、不動産活用、遺言、法人・同族会社の整理、納税資金の準備などは、適切に設計すれば、いずれも有効な選択肢になり得ます。

ただ、相続対策は「税額を下げること」だけで完結するものではありません。相続人の納得感、遺産分割のしやすさ、二次相続、財産評価の根拠、納税資金、将来の管理負担、そして税務調査での説明可能性まで含めて判断しなければ、目先の節税効果が、かえって将来の紛争や追加納税、資産価値の毀損につながってしまうことがあります。

相続対策では、「できるか」だけではなく、「行うべきか」「後から説明できるか」「家族関係と税務の双方に耐えられるか」を確かめておく必要があるのです。

目次

危うい節税提案に共通する特徴

危うい相続税対策には、いくつかの共通点があります。

危うい提案の特徴見落とされやすい論点
節税額だけを強調する納税資金、家族間の不公平、将来の管理負担
「みんなやっています」と説明する個別事情、資料、税務調査リスク
税務上の評価減だけを見ている収益性、借入返済、売却可能性、二次相続
名義変更を簡単に勧める贈与の成立、名義財産、みなし贈与
不動産分割や共有を安易に提案する建築制限、管理処分、将来の共有紛争
特例適用を前提にしている要件、継続義務、申告期限、添付資料
税務調査の説明がない評価根拠、証拠、説明記録、附帯税
他の専門家との連携を軽視する登記、法務、遺産分割、鑑定、建築制限

相続対策は、相続税対策だけで成り立つものではありません。相続争いの防止、納税資金対策、税額軽減、申告実務を一体として考える必要があります。とりわけ、相続争いの防止と納税資金の確保は、税額軽減よりも優先して検討すべき場面が少なくありません。

たとえば、多額の借入金で賃貸不動産を建築する対策では、相続税は軽減されても、相続人が長期にわたって返済を負い続けることになり、結果として大きな負担となってしまう場合があります。

「節税になるかもしれない」という入口だけを見るのではなく、「誰がその資産を管理し、借入れを返済し、納税し、将来売却・承継していくのか」までを確かめておくことが欠かせません。

過度な不動産活用・借入れによる節税提案

相続対策としてよく提案されるものに、賃貸アパート・マンションの建築、収益不動産の購入、借入れによる資産組換えがあります。

不動産活用によって、土地が貸家建付地として評価される、建物が固定資産税評価額ベースで評価される、借入金が債務控除される、小規模宅地等の特例の検討対象になる、といった効果が生じることはあります。

ただ、次のような提案は、慎重に見ておくべきです。

  • 借入額と評価減だけを示し、返済計画を示さない
  • 空室リスクや修繕費を織り込んでいない
  • 相続人が不動産経営を望んでいるか確認していない
  • 二次相続や相続後の売却時の課税を見ていない
  • 税務上の評価額と市場価格の乖離だけを狙っている
  • 高齢者に短期間で多額の借入れと不動産取得を勧めている
  • 税務調査や評価通達6項の説明がない

財産評価基本通達では、財産の価額は時価によるものとされています。ここでいう時価とは、課税時期において財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額を指します。そして同通達6項では、この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額については、国税庁長官の指示を受けて評価すると定められています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第1章 総則

近年は、通達評価と市場価格の乖離を利用した節税策について、財産評価基本通達6項の適用リスクが意識される場面が増えてきました。評価通達6項の適用は慎重であるべきものですが、その一方で、通達評価額と客観的交換価値との著しい乖離、租税回避目的との関係などが問題となり得ます。そのため、形式的な評価減だけを目的とした対策は、危うい判断になりがちです。

さらに、令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産、いわゆる分譲マンションについては、評価方法の見直しが行われています。これは、区分所有財産の取引実態等を踏まえた評価方法を定めるものです。
出典:国税庁|居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)

不動産活用を検討する際は、次の順序で確認していくことをお勧めします。

確認項目実務上の意味
収益性家賃収入、空室、修繕費、管理費、金利上昇を見込む
借入返済相続人が返済を引き継げるか、保証関係はどうなるか
評価根拠通達評価で合理的に説明できるか
相続人の意思不動産経営を望む相続人がいるか
分割可能性不動産を誰が取得し、他の相続人にどう公平性を保つか
納税資金不動産評価が下がっても、現金で納税できるか
出口戦略将来の売却、建替え、共有解消が可能か
税務調査取得時期、借入目的、評価乖離の説明が可能か

不動産活用は「節税商品」ではなく、長期にわたる不動産経営です。税額だけで判断してしまうと、相続人の手元には借入れと管理の負担だけが残る、ということにもなりかねません。

借入れをすれば相続税が下がるという単純な提案

「借入金は債務控除できるので、借入れを増やせば相続税が下がります」という説明にも、注意が必要です。

確かに、相続税の計算上、被相続人の債務は一定の要件のもとで控除の対象になります。しかし、借入れは財産を減らす魔法ではありません。借入金で取得した不動産や金融資産が相続財産に加わり、そこから借入金が控除されるという構造です。結果として評価差額が生じる場合はありますが、その差額には、それなりの理由があります。

特に危ういのは、借入れによって相続税を下げることだけを目的とし、次のような点を検討しない提案です。

  • 借入金の返済原資
  • 金利上昇リスク
  • 担保不動産の売却可能性
  • 相続人の保証・連帯債務
  • 不動産収益の下振れ
  • 申告期限までの納税資金
  • 二次相続時の財産構成
  • 高齢者ご本人の意思能力・理解力

相続税の申告と納税は、原則として相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。納税は申告期限までに済ませる必要があり、相続税は金銭で一度に納めるのが原則です。延納や物納を希望する場合であっても、申告書の提出期限までに申請書などを提出し、許可を受けなければなりません。
出典:国税庁|No.4205 相続税の申告と納税

借入れによる対策では、「相続税がいくら下がるか」よりも、「相続人が納税と返済の両方に耐えられるか」のほうが、はるかに重要です。

親族間・同族会社間の低額譲渡

親族間や同族会社間で、不動産や非上場株式を低い価額で売買するという提案も、税務リスクの高い典型例です。

「相続税評価額で売ればよい」「親子間だから自由に価格を決められる」「会社に安く売っておけば相続財産が減る」といった説明は、そのまま受け取るべきではありません。

個人から著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、その財産の時価と支払った対価との差額に相当する金額は、財産を譲渡した人から贈与により取得したものとみなされることがあります。著しく低い価額かどうかは個別具体的な事案に基づいて判定され、不動産等の時価は通常の取引価額に相当する金額とされています。
出典:国税庁|No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき

低額譲渡では、誰から誰に移転するかによって、問題となる税目も変わってきます。

取引類型主な税務リスク
親から子へ不動産を低額譲渡子へのみなし贈与、親の譲渡所得
個人から同族会社へ低額譲渡個人の譲渡所得、会社の受贈益、株主への利益移転
同族会社から個人へ低額譲渡個人への経済的利益、役員給与・賞与、法人税
非上場株式の低額譲渡みなし贈与、株式評価、支配権移転、所得税・法人税
債務免除債務者への経済的利益、贈与税・法人税

親族間・同族会社間の売買については、裁判例や裁決例でも、時価、著しく低い価額、同族関係者間の取引、法人・株主への利益移転といった点が問題とされています。

ここで気をつけたいのは、「相続税評価額=売買時価」と短絡してしまうことです。相続税評価額は、相続税・贈与税の財産評価で用いられる場面がありますが、親族間売買、法人との取引、所得税・法人税の時価判断では、取引の目的や関係者の立場に応じて、検討すべき時価が異なる場合があります。

低額譲渡を検討するのであれば、少なくとも次の点は確認しておくべきです。

  • 売買対象財産の時価をどう把握するか
  • 不動産鑑定、売買実例、収益価格、相続税評価額のどれを参考にするか
  • 譲渡者に譲渡所得税が発生するか
  • 譲受者に贈与税・法人税が発生するか
  • 同族会社株式の価値が移転していないか
  • 取引の理由を第三者に説明できるか
  • 代金決済が実際に行われるか
  • 契約書、決済資料、資金原資を残せるか

「安く移す」こと自体が目的になっている取引は、税務調査の場面で説明に窮しやすい取引でもあります。

名義変更だけで相続財産から外せるという提案

「子や孫の名義にしておけば相続税はかかりません」「毎年110万円以下で移せば問題ありません」という提案にも、相続税の実務では十分な注意が必要です。

預金、証券、保険、不動産、同族会社株式などは、名義だけで判断されるわけではありません。とりわけ名義預金・名義株式では、実質的な所有者が誰なのかが問われます。

親族名義の財産であっても、実質的に被相続人の財産と認められるものは、相続財産に含めて相続税を計算しなければなりません。贈与が認められるかどうかは、贈与契約、贈与の意思、受贈者の受諾、名義変更、管理状況、贈与税の申告、収益の帰属などを総合して確認する必要があります。

贈与税の暦年課税では、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額から、基礎控除額110万円を差し引いて税額を計算します。
出典:国税庁|No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

ただし、贈与税がかからないことと、相続税の申告で問題にならないことは、別の話です。令和6年1月1日以後の暦年課税贈与については、相続税の課税価格に加算される対象期間が、相続開始前7年以内へと段階的に延長されています。加算対象期間内の贈与であれば、基礎控除額110万円以下の贈与財産も、加算の対象となります。
出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

名義変更や贈与を検討する際は、次の確認が欠かせません。

確認項目不十分な場合のリスク
贈与契約書贈与の成立を説明しにくい
受贈者の受諾一方的な名義移転と見られる
資金管理被相続人が管理していれば名義財産とされやすい
通帳・印鑑の管理実質所有者の認定に影響する
贈与税申告贈与事実の証拠の一つになる
収益帰属配当・利息・賃料を誰が受け取ったかが問われる
使途受贈者が自由に使えたかが問われる
相続時加算相続税計算で加算される可能性がある

「名義を変えたから完了」ではなく、「贈与として後から説明できるか」までを確かめておく必要があります。

相続時精算課税を安易に選択する提案

令和6年以後、相続時精算課税に毎年110万円の基礎控除が設けられたことから、この制度の選択を勧められる場面が増えています。

相続時精算課税には、有効に使える場面があります。将来の値上がりが見込まれる財産、収益を次世代に移したい財産、事業承継との関係で早期の移転が必要な財産などでは、検討の対象になり得ます。

しかし、「毎年110万円の控除ができるから暦年課税より有利だ」と単純に判断してしまうのは危険です。

相続時精算課税は、贈与者ごとに選択する制度であり、対象者や手続、相続時の精算、贈与税額控除、申告義務などを一つひとつ確認しておく必要があります。国税庁の説明でも、相続時精算課税では、令和6年1月1日以後の贈与について毎年110万円の基礎控除が設けられているとされています。
出典:国税庁|参考 相続時精算課税制度のあらまし

相続時精算課税を選ぶ前に確認しておきたい事項は、次のとおりです。

確認項目判断上のポイント
贈与者父母・祖父母など、贈与者ごとに制度選択を確認する
受贈者年齢、推定相続人・孫などの要件を確認する
贈与財産現金、不動産、株式、収益物件など財産別に影響を見る
将来価値値上がり・値下がりの可能性を検討する
相続時精算相続税申告時にどのように反映されるか確認する
暦年課税との比較期間、金額、相続時加算、税額控除を比較する
小規模宅地等との関係将来の特例適用予定がある土地は慎重に見る
遺留分・特別受益民法上の公平性にも影響する

制度改正後の相続時精算課税は、確かに使いやすくなった面があります。ただ、制度の選択は「贈与税が安くなるか」だけでなく、「相続時にどう精算されるか」「家族の間でどう説明するか」までを確かめたうえで判断すべきものです。

土地を分ければ評価額が下がるという提案

土地の分割・分筆は、相続対策や遺産分割において重要な手段です。土地の形状、接道、地目、利用状況、権利関係によって、評価単位や評価額が変わることがあります。

しかし、「土地を細かく分ければ評価額が下がる」という提案には、危うさがあります。

宅地の価額は、1筆単位ではなく、1画地の宅地、すなわち利用の単位となっている1区画の宅地ごとに評価します。相続、遺贈または贈与により取得した宅地については、原則として取得者が取得した宅地ごとに判定しますが、親族間等で行われた宅地の分割が著しく不合理であると認められるときは、分割前の画地を1画地の宅地として評価することになります。
出典:国税庁|No.4603 宅地の評価単位

国税庁の質疑応答事例でも、無道路地、不整形地、奥行きの短い土地、接道義務を満たさない狭小な土地を創出するような分割は、分割時だけでなく将来においても有効な土地利用が図られず、著しく不合理な分割と認められる場合があるとされています。
出典:国税庁|宅地の評価単位-不合理分割(1)

また、生前贈与による土地の分割が不合理と認められる場合には、その後の相続で取得する土地についても、分割前の画地全体を1画地として評価したうえで、個々の宅地を評価するという取扱いが示されています。
出典:国税庁|宅地の評価単位-不合理分割(2)

土地分割では、次のような観点が欠けている提案は、危ういといえます。

土地分割の論点確認しない場合のリスク
接道分割後に建築できない土地が生じる
間口・奥行狭小地、帯状地、不整形地となる
道路後退セットバックにより有効宅地が減る
建ぺい率・容積率建築可能規模が変わる
インフラ上下水道・ガス・電気の引込みが必要になる
権利関係借地権、賃借権、抵当権、共有持分が絡む
将来売却市場価値が下がる可能性がある
二次相続次の相続でさらに細分化・共有化する

土地分割では、評価額だけでなく、建築・登記・測量・利用可能性・売却可能性を合わせて見ていく必要があります。土地分割には、建築の視点、不動産実務の視点、遺産分割対策の視点が求められます。評価減だけを目的とした分割は、後日の問題を生みやすいといえるでしょう。

養子縁組による節税提案

養子縁組によって法定相続人の数が増えると、相続税の基礎控除、生命保険金の非課税限度額、死亡退職金の非課税限度額、相続税の総額の計算などに影響することがあります。

しかし、養子縁組は、税額計算のためだけの手続ではありません。民法上、養子は養親の嫡出子としての身分を取得し、相続人になります。家族関係、法定相続分、遺留分、相続人間の感情にまで、大きな影響を及ぼします。

相続税の計算上、法定相続人の数に含めることができる養子の数には制限があります。被相続人に実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。また、養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果になると認められる場合には、その原因となる養子の数は含めることができません。
出典:国税庁|No.4170 相続人の中に養子がいるとき

最高裁平成29年1月31日判決は、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは併存し得るため、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに民法802条1号の「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとはいえない、と判断しています。
出典:裁判所|最高裁判所第三小法廷平成29年1月31日判決

ここで注意したいのは、「節税目的でも直ちに無効ではない」ということと、「相続対策として望ましい」ということは、まったく別の話だという点です。

養子縁組による節税提案では、次の点を確認しておく必要があります。

確認項目実務上の意味
本人意思養親・養子双方に真の縁組意思があるか
家族関係他の相続人がどのように受け止めるか
法定相続分実子・配偶者・兄弟姉妹の相続分がどう変わるか
遺留分遺留分権利者や割合に影響するか
税務上の算入制限相続税計算上、養子数に制限があるか
不当減少相続税負担を不当に減少させる結果と見られないか
離縁の難しさ後から家族関係を戻すことが容易とは限らない
代替手段遺言、生命保険、贈与、信託で対応できないか

養子縁組によって相続税の軽減効果が期待できる場合はあります。ただ、その一方で法定相続割合が変動するため、遺産分割協議が紛糾してしまう可能性もあります。

養子縁組は、節税策ではなく、家族法上の身分行為です。税額だけを見て提案・実行するものではありません。

生命保険を「非課税枠」だけで勧める提案

生命保険は、相続対策において有効な手段になり得ます。死亡保険金には一定の非課税枠があり、受取人を指定できるため、納税資金や代償金の準備に役立つことがあります。

しかし、生命保険の提案であっても、次のような説明しかない場合には注意が必要です。

  • 非課税枠だけを強調している
  • 誰を受取人にするか検討していない
  • 保険料の負担者を確認していない
  • 相続人間の公平性を見ていない
  • 既存契約の契約者変更履歴を確認していない
  • 名義保険・みなし贈与の説明がない
  • 納税資金として実際に使えるか見ていない
  • 保険金が特別受益的に問題にならないか検討していない

生命保険の税務では、契約者、被保険者、受取人だけでなく、実際に保険料を負担しているのは誰かを確認する必要があります。保険契約者と保険料負担者が一致していないこともあり、契約者変更や受取人変更のたびに、課税関係の確認が求められます。

保険は、商品として有利かどうかではなく、相続全体の中で次のように位置付けて考えるべきものです。

保険の役割確認すべきこと
納税資金誰が保険金を受け取り、納税に使えるか
代償資金不動産取得者が他の相続人に支払えるか
生活保障配偶者・同居親族の生活費を確保できるか
非課税枠法定相続人、受取人、相続放棄の有無を確認する
公平性調整保険金を受け取らない相続人とのバランスを取る
税務判断保険料負担者、契約者変更、名義保険を確認する

保険は「節税商品」ではなく、必要な人へ資金を届けるための設計手段です。

特例を前提にした提案

小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減、相続時精算課税、贈与税の配偶者控除、住宅取得等資金贈与、事業承継税制などは、いずれも相続対策で重要な制度です。

ただし、特例を「使える前提」で進めてしまうと、危険が伴います。

小規模宅地等の特例では、対象地、利用状況、取得者、継続要件、限度面積、選択適用、申告要件、添付資料、未分割時の対応などを確認する必要があります。対象地に関する関係者、利用部分、取得者、継続要件、申告手続といった論点は、横断的に問題となります。

特例を前提とした提案で注意したい言い回しには、次のようなものがあります。

  • 「自宅だから小規模宅地等は使えます」
  • 「配偶者が全部取得すれば税金はかかりません」
  • 「賃貸物件だから貸付事業用宅地等になります」
  • 「会社に貸している土地だから特定同族会社事業用宅地等です」
  • 「未分割でも後で分ければ大丈夫です」
  • 「相続時精算課税を選べば贈与税は気にしなくてよいです」

特例の適用では、制度名ではなく、要件を一つずつ確認していくことが何より重要です。

特例危うい判断
小規模宅地等居住・事業・貸付の実態を確認せずに適用を前提にする
配偶者の税額軽減一次相続の税額だけを見て、二次相続を見ない
相続時精算課税贈与時の税額だけを見て、相続時の精算を見ない
贈与税の配偶者控除登録免許税、不動産取得税、二次相続を見ない
事業承継税制継続要件、後継者、株式分散、納税猶予の打切りを見ない

特例は強力な制度ですが、要件を一つでも外してしまうと、申告後に大きな税額差となって表れます。

「税務調査は来ない」とする提案

危うい節税提案の中には、税務調査の可能性を軽視するものがあります。

「この程度なら見られません」「通帳までは見られません」「相続税評価額で申告しておけば大丈夫です」といった説明は、信頼できる判断材料とはいえません。

令和6事務年度における相続税の調査等の状況について、国税庁は、資料情報等から申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案などについて調査を実施していると公表しています。
出典:国税庁|令和6事務年度における相続税の調査等の状況

大切なのは、税務調査を怖がることではありません。税務調査があった場合に、申告した内容をきちんと説明できるかどうかです。

税務調査で確認されやすい論点は、次のとおりです。

論点事前に整理すべき資料
名義預金通帳、取引履歴、贈与契約書、管理状況
生前贈与贈与日、金額、申告書、受贈者の管理
現金引出し引出日、使途、領収書、介護・生活費の記録
生命保険契約者、被保険者、受取人、保険料負担者
土地評価評価明細、現地写真、役所調査、地積資料
同族会社決算書、株主名簿、貸付金、役員借入金
不動産活用借入契約、賃貸契約、収支計画、取得目的
低額譲渡時価の根拠、契約書、決済資料、鑑定・査定

相続税の申告では、資料の受領が円滑に行えない場合、評価の誤り、小規模宅地等の特例適用、特定の相続人にのみ有利な分割提案、税務調査の可能性を事前に伝えておくことなどが、税理士側のリスク管理の観点からも重要な論点になります。

危うい節税提案を受けたときに確認すべき質問

節税提案を受けたときは、すぐに実行するのではなく、まず次の質問を投げかけてみてください。

質問確認したいこと
その節税額はどの前提で計算されていますか財産評価、相続人、分割、特例、二次相続の前提
税額以外の費用は含まれていますか登録免許税、不動産取得税、譲渡税、仲介手数料、修繕費
納税資金はどう確保しますか現金納付、保険、売却、延納、物納、代償金
相続人全員が納得できますか遺産分割、遺留分、特別受益、代償資金
税務調査で何を説明しますか評価根拠、契約書、資金移動、管理状況
二次相続ではどうなりますか配偶者の取得、次の税額、資産の偏り
失敗した場合の影響は何ですか追加納税、附帯税、家族紛争、売却困難
他の方法と比較しましたか贈与、遺言、保険、売却、信託、何もしない選択
誰が管理・実行しますか高齢者ご本人、相続人、後継者、受託者、専門家
記録は残せますか判断メモ、契約書、説明資料、依頼者の確認

これらの質問に対して、数字と資料で説明できない提案は、慎重に再検討すべきです。

実行前に踏むべき判断手順

危うい提案を避けるためには、相続対策を次の順序で検討していきます。

目的を整理する

最初に確認しておきたいのは、「何を守りたいか」です。

相続税を下げたいのか、配偶者の生活を守りたいのか、後継者に事業を承継させたいのか、不動産を共有にしたくないのか、納税資金を確保したいのか、家族間の不公平感を減らしたいのか。守りたいものによって、選ぶべき対策は変わってきます。

財産と家族関係を把握する

不動産、預貯金、有価証券、保険、同族会社株式、貸付金、債務、贈与の履歴、遺言の有無を整理します。

あわせて、相続人の生活状況、同居の有無、過去の贈与、介護負担、後継者の存在、疎遠な相続人、認知症のリスクなども確認しておきます。

税額だけでなく資金繰りを見る

相続税の試算では、税額だけでなく、申告期限までに納税できるかどうかを見ます。

不動産や非上場株式が多い相続では、評価額があっても、すぐに現金化できない場合があります。延納・物納は制度として存在しますが、要件・担保・申請期限・適格財産の問題があり、最初から当然に使える前提で考えるべきものではありません。

法務上の効果を確認する

贈与、売買、養子縁組、遺言、信託、土地分割、共有解消は、税務だけでなく、法務上の効果を伴います。

税務上は有利に見えても、法務上の権利関係が複雑になってしまえば、将来の遺産分割や売却が難しくなることがあります。

評価根拠と税務調査対応を確認する

財産評価は、評価額を下げるための作業ではなく、合理的な根拠を積み上げていく作業です。

評価単位、地目、権利関係、現況、契約書、現地写真、役所調査、鑑定評価の要否などを、一つずつ記録に残していきます。

二次相続・相続後の処分まで見る

一次相続で税額が少なくても、二次相続で税負担が増えてしまうことがあります。配偶者に多く取得させる場合には、自宅や金融資産の偏り、次の小規模宅地等の特例、納税資金を確認します。

相続後に不動産を売却する場合は、譲渡所得税、取得費加算、空き家特例、換価分割との関係も確認しておきます。

実行しない選択肢も比較する

相続対策では、何かを実行することだけが正解とは限りません。

何もしない場合、遺言だけを作成する場合、保険で納税資金だけを確保する場合、財産整理だけを行う場合、共有を避ける分割方針だけを決めておく場合など、段階的な選択肢もあります。

専門家に相談すべき場面

次のような場合は、節税提案を受けた段階で、実行する前に専門家へ相談することをお勧めします。

  • 多額の借入れを伴う不動産活用を提案された
  • 親族間売買・同族会社売買を検討している
  • 子や孫の名義への資産移転を考えている
  • 土地の分筆・分割で評価減を狙っている
  • 養子縁組を節税目的で検討している
  • 相続時精算課税の選択を勧められている
  • 非上場株式や同族会社財産がある
  • 小規模宅地等の特例を前提にしている
  • 二次相続や納税資金を試算していない
  • 税務調査時の説明資料が残らない

危うい提案かどうかは、提案の内容だけで決まるものではありません。そのご家族の資産構成、相続人の関係、ご本人の意思、納税資金、将来の管理の見通しによっても変わってきます。

ご相談をご検討の方へ

相続対策では、節税効果があるように見える提案ほど、慎重な確認が必要です。

不動産活用、借入れ、親族間売買、名義変更、土地分割、養子縁組、相続時精算課税、生命保険、同族会社株式の移転などは、いずれも適切に設計すれば、有効な選択肢になり得ます。一方で、前提の確認や記録化が不十分なまま実行してしまうと、税務調査、家族間の紛争、納税資金の不足、将来の管理負担につながってしまうことがあります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税額だけでなく、財産評価の根拠、家族関係、遺産分割、二次相続、納税資金、申告後の説明可能性まで含めて、相続対策の妥当性を整理いたします。

提案された相続対策が本当にご自身たちに合っているのかを確認したい場合、あるいは、実行する前に税務リスクや代替案を整理しておきたい場合は、お問い合わせページからご相談ください。後から説明できる相続対策にするためには、実行前の確認が何よりも重要です。

この記事の振り返り

重要事項実務上の確認ポイント
危うい節税提案の特徴税額だけを強調し、納税資金・家族関係・説明根拠を示さない
不動産活用評価減だけでなく、収益性、借入返済、空室、出口戦略を見る
借入れ債務控除だけでなく、相続人の返済負担と納税資金を確認する
低額譲渡時価、みなし贈与、譲渡所得、法人税、株主への利益移転を確認する
名義変更名義ではなく、贈与の成立、管理状況、資金原資、収益帰属を見る
相続時精算課税令和6年以後の基礎控除だけでなく、相続時の精算を確認する
土地分割不合理分割、接道、建築制限、将来利用、二次相続を確認する
養子縁組税額効果だけでなく、身分関係、遺産分割、遺留分、家族感情を見る
生命保険非課税枠だけでなく、受取人、保険料負担者、納税資金、代償資金を見る
特例適用制度名ではなく、要件、取得者、継続要件、添付資料を確認する
税務調査調査を恐れるのではなく、評価根拠と資料で説明できる状態にする
判断手順目的、財産、家族、税額、資金、法務、将来管理を順に整理する
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