当事務所にご相談いただく前に整理しておきたい視点|相続・贈与の相談を、より深い判断につなげるために

相続や贈与のご相談では、「何を持って行けばよいのでしょうか」「まだ相続は起きていませんが、相談してもよいものでしょうか」「税額だけを知りたい段階でも相談できますか」といったお声をよくいただきます。

最初から資料が完璧にそろっている必要は、まったくありません。相続や贈与のご相談は、何が論点なのか、何を集めればよいのか、誰に確認すべきなのか、それ自体が分からない状態から始まることのほうがむしろ自然です。

ただ、実務の経験から申し上げると、相談の質は、ご相談の前にどのような視点で状況を整理しておられるかによって、大きく変わってきます。

相続・贈与は、「相続税がいくらかかるのか」「贈与税を安くできるのか」といった計算問題ではありません。家族関係、ご本人の意思、財産の種類、評価の根拠、遺産分割、納税資金、二次相続、将来の管理、そして税務調査で説明できるかどうか。こうした要素まで含めて判断していく必要があります。

この記事では、犬飼公認会計士・税理士事務所へご相談いただく前に、読者ご自身が考えを整理しやすくなるよう、相談テーマごとの「整理の視点」をまとめました。問い合わせ文を作るための形式的なチェックリストではなく、ご相談を実務上の判断につなげるための見取り図として読んでいただければと思います。

目次

まず整理しておきたいのは「相談の種類」

相続・贈与のご相談は、大きく二つに分かれます。

相談の段階主な関心判断の中心
相続発生前生前対策、贈与、遺言、認知症対策、納税資金、二次相続何を実行すべきか、どのリスクを受け入れるか
相続発生後相続人確定、財産調査、遺産分割、相続税申告、納税、税務調査対応何を申告し、どう評価し、どう分け、期限までにどう納めるか

相続発生前のご相談では、「やったほうがよい対策」を探す前に、「何を守りたいのか」を整理しておくことが大切です。相続争いを防ぎたいのか、納税資金を確保したいのか、特定の方に事業や不動産を承継させたいのか、配偶者の生活を守りたいのか。守りたいものによって、選ぶべき方法は変わってきます。

相続発生後のご相談では、期限の管理が重要になります。相続税の申告と納税は、原則として、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。仮に申告を期限内に済ませても、税金そのものを期限までに納めなければ、延滞税がかかる場合があります。
出典:国税庁|No.4205 相続税の申告と納税

ですから、ご相談の際には、まず次のどちらの段階にあるのかを明確にしておくと、話が進めやすくなります。

相談の入口最初に整理したいこと
まだ相続は発生していない本人の意思、家族関係、財産の概要、将来の不安、実行済みの贈与・保険・遺言
すでに相続が発生している死亡日、相続人の範囲、遺言の有無、財産・債務の概要、分割協議の状況、申告期限
贈与を検討している誰から誰へ、何を、いつ、何の目的で移すのか
提案された対策を確認したい提案内容、想定税額、前提資料、費用、リスク説明の有無
申告後・対策後に不安がある申告内容、評価根拠、税務署からの連絡、追加資料、過去の判断経緯

相続対策では、相続税対策だけでなく、相続争いの防止、納税資金対策、税額軽減、申告実務を一体として捉えることが欠かせません。とりわけ、相続争いの防止と納税資金の確保は、税額軽減よりも先に検討すべき場面が少なくありません。

整理の視点1:生前対策は「何を実行するか」より「何を避けたいか」から

生前対策のご相談では、最初に「どの節税策が有利か」を知りたくなるものです。

ただ、実務の上では、いきなり制度の選択から入ると判断を誤りやすくなります。生前対策には、贈与、遺言、生命保険、不動産活用、家族信託、任意後見、同族会社株式の承継など、選択肢が数多くあります。その一方で、それぞれに副作用があるのです。

ご相談の前には、次のように「避けたいこと」から整理していくと、本当に必要な対策が見えやすくなります。

避けたいこと検討しやすい手段注意点
相続人間で揉めること遺言、生命保険、代償資金、財産の見える化遺留分、特別受益、過去贈与への不満
納税資金が不足すること生命保険、金融資産の確保、不動産売却計画、自己株式取得の検討税額が下がっても現金がなければ納税できない
認知症後に財産が動かせなくなること任意後見、財産管理契約、家族信託、遺言本人の判断能力があるうちに設計する必要がある
事業承継で株式が分散すること遺言、種類株式、信託、事業承継税制、自己株式取得議決権、納税資金、非後継者への公平性
不動産が共有になること現物分割、代償分割、換価分割、遺言共有は次世代で管理・売却が難しくなる
税務調査で説明できないこと贈与契約書、資金移動記録、評価根拠、判断メモ名義財産、低額譲渡、通達評価リスク

生前対策では、「税額が下がるか」だけでなく、「本人の意思に沿っているか」「相続人に管理や納税の負担を残さないか」「相続後にきちんと説明できるか」が問われます。

贈与については、特に令和6年以後の制度改正を踏まえておく必要があります。令和6年1月1日以後の暦年課税に係る贈与は、相続税の課税価格に加算される対象期間が、相続開始前7年以内へと段階的に延長されています。出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

また、相続時精算課税については、令和6年1月1日以後の贈与から、毎年110万円の基礎控除が設けられました。ただし、いったん相続時精算課税を選択すると、その後の撤回はできません。贈与者が亡くなったときには、一定の金額を相続税の課税価格に加算して精算することになります。
出典:国税庁|No.4409 贈与税の計算(相続時精算課税の選択をした場合)

こうした点を踏まえると、生前対策のご相談の前には、少なくとも次の情報を整理しておかれると有効です。

整理する情報具体例
本人の意思誰に何を承継させたいか、配偶者の生活をどう守りたいか
家族関係相続人、推定相続人、疎遠な相続人、再婚、前婚の子、未成年者、障害のある家族
財産の概要不動産、預貯金、有価証券、生命保険、同族会社株式、貸付金、借入金
過去の贈与贈与時期、金額、受贈者、贈与契約書、申告書、通帳管理
実行済みの対策遺言、保険、贈与、家族信託、任意後見、法人化、不動産活用
将来の不安認知症、納税資金、相続人間の不公平感、事業承継、空き家、共有

生前対策は、制度の有利・不利だけでなく、本人の意思とご家族の受け止め方を確認しながら進めていくものだと考えています。

整理の視点2:相続税申告は「財産一覧」だけでなく「分割・評価・納税」を同時に

相続税申告のご相談では、財産資料を集めることが出発点になります。

ただ、財産の一覧を作るだけでは、申告実務としては足りません。相続税申告では、財産の把握、評価、債務控除、遺産分割、特例の適用、納税資金、添付資料、そして税務調査での説明可能性が、互いに絡み合っているからです。

相続発生後の手続では、戸籍、遺言、相続放棄、準確定申告、相続税申告、不動産・預貯金・株式の承継手続など、期限も必要資料も異なる手続が同時並行で進みます。相続税申告では、被相続人の戸籍、相続人の戸籍、住民票、印鑑証明書、相続関係図、所得税の準確定申告書、贈与税申告書、遺産分割協議書、贈与財産の明細、相続財産・債務明細などが重要な資料になります。

ご相談の前に整理しておきたいのは、次の3つの層です。

確認する内容相談での意味
財産の層何があるか、誰名義か、どこに資料があるか申告漏れを防ぐ
評価の層その財産をいくらで評価するか税額と分割の前提になる
分割・納税の層誰が取得し、どう納税するか特例適用と資金繰りに影響する

たとえば不動産がある場合、固定資産税評価額だけでは判断できません。現況、利用状況、接道、賃貸借、共有、農地・生産緑地、借地権、セットバック、地積、地目、建築制限といった事情が、評価や分割に影響してきます。

生命保険がある場合も、保険金額だけを見るのでは不十分です。契約者、被保険者、受取人、保険料負担者、契約者変更履歴、非課税枠、相続人間の公平性まで確認する必要があります。

同族会社株式がある場合は、会社の決算書や株主名簿が必要なだけでなく、後継者、議決権、納税資金、会社への貸付金、自己株式取得の可能性まで踏み込んで検討することがあります。

ご相談の前には、次のように「資料の有無」と「判断が必要なこと」を分けて整理しておくと、初回相談の精度が上がります。

財産・論点まず用意したい資料判断が必要なこと
預貯金残高証明、通帳、取引履歴名義預金、死亡前引出し、未収利息
不動産固定資産税課税明細、登記事項証明書、公図、地積測量図、賃貸借契約評価単位、地目、利用状況、小規模宅地等
有価証券証券会社の残高資料、取引報告書評価時点、配当・利息、相続後売却
生命保険保険証券、支払通知、契約内容、保険料負担資料みなし相続財産、非課税枠、受取人
借入金・債務金銭消費貸借契約、返済予定表、未払金資料債務控除、保証債務、団信
贈与履歴贈与契約書、贈与税申告書、通帳相続財産加算、名義財産、特別受益
遺言・分割遺言書、遺産分割協議状況取得者、特例、遺留分、未分割申告

「資料が少ないから相談できない」ということはありません。むしろ、どの資料が重要かを見極めるためにこそ、ご相談いただく意味があります。そのうえで、資料の所在や名義、過去の経緯をできる範囲で整理しておいていただけると、税額の試算や論点の抽出がぐっと早くなります。

整理の視点3:財産評価は「安く評価できるか」より「根拠を説明できるか」

相続税申告では、財産評価が税額を大きく左右します。とりわけ、不動産、非上場株式、農地、借地権、同族会社関係資産、国外財産などは、評価の前提となる事実の確認が重要になります。

財産評価基本通達では、財産の価額は評価単位ごとに評価することとされ、時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうとされています。あわせて、財産の評価にあたっては、その価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮するとされています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第1章 総則

ご相談の前に意識していただきたいのは、「評価額を下げること」だけを目的にしないという点です。評価額を下げることが合理的な場面もありますが、その根拠を資料・現況・法令・通達に基づいて説明できなければ、申告後の税務調査で問題になりかねません。

評価のご相談では、次のような視点で整理しておかれると有効です。

評価リスク相談前に確認したいこと
土地の評価単位複数筆、一体利用、駐車場、貸家建付地、貸宅地、自用地の区分
地目判定登記地目と現況地目、宅地・農地・山林・雑種地の実態
接道・形状無道路地、私道、セットバック、不整形、がけ地、間口狭小
賃貸不動産賃貸借契約、空室、サブリース、駐車場利用、修繕負担
共有不動産共有者、持分、利用者、賃料収入、費用負担、将来売却
農地・生産緑地農地区分、転用可能性、納税猶予、特定生産緑地、営農継続
借地権・貸地権利金、地代、契約書、無償返還届出、相当地代
非上場株式株主構成、議決権、会社規模、決算内容、不動産保有、役員貸付金
国外財産所在国、評価資料、外貨換算、現地税務資料、取得費資料

土地の評価では、評価単位や地目判定、都市計画法・建築基準法、接道義務などが結果に影響します。土地の分割や分筆を検討する場合も、税務上の評価だけでなく、建築の視点、不動産実務の視点、インフラ、境界、道路後退といった点まで確認しておく必要があります。

また、令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産、いわゆる分譲マンションについては、評価方法が見直されています。
出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価

評価のご相談で大切なのは、評価額という結論そのものだけではありません。どの資料を見て、どの事実を確認し、どう判断したのか。その過程を記録に残しておくことです。税務論点の検討結果や作業の内容を記録しておくことは、税務調査の場面でも、ご依頼者への説明の場面でも、重要な意味を持ちます。

整理の視点4:不動産は「相続税評価」だけでなく「使えるか・売れるか・分けられるか」

不動産が相続財産に含まれると、ご相談は一気に複雑になります。

不動産には、次の3つの顔があるからです。

不動産の顔問題になること
税務上の財産相続税評価額、小規模宅地等の特例、貸家建付地、借地権
法務上の権利所有権、共有、借地借家、抵当権、相続登記
実物資産接道、建築制限、老朽化、空き家、収益性、売却可能性

不動産のご相談の前には、固定資産税評価額だけでなく、次の情報を整理しておかれると有効です。

整理する情報具体例
所在・権利登記事項証明書、所有者、共有者、抵当権、借地・貸地
利用状況自宅、賃貸、空き家、駐車場、農地、事業用、同族会社利用
収益性賃料、空室、修繕費、管理会社、サブリース契約
法規制用途地域、建ぺい率、容積率、道路、セットバック、農地法
分割可能性分筆予定、代償分割、換価分割、共有の解消
納税資金売却予定、売却時期、譲渡所得、取得費加算
将来管理誰が管理するか、空き家化しないか、次世代で共有化しないか

令和6年4月1日からは、相続登記の申請が義務化されています。法務省の説明によれば、相続したことを知った日から3年以内に登記する必要があり、正当な理由なく義務に違反した場合には、10万円以下の過料が科される可能性があるとされています。義務化前に発生した相続も、対象に含まれます。
出典:法務省|相続登記の義務化

この改正によって、不動産については「相続税申告が終わればよい」という整理では足りなくなりました。相続人を確定し、遺産分割を行い、相続登記を進め、さらに将来の管理・売却・活用まで見据えて考えていく必要があります。

共有不動産は、使用方法、費用負担、賃料収入、売却、共有物分割などをめぐって紛争が生じやすい財産です。共有関係を解消するのか、共有のまま残すのであれば管理のルールを明確にしておくのか、早めに整理しておくことが重要です。

整理の視点5:非上場株式・同族会社は「評価」と「経営承継」を分けて

同族会社株式や個人事業用資産がある場合、相続のご相談は、通常の個人資産の承継より複雑になります。

非上場株式は、株価を評価して終わりではありません。誰が株式を取得するのかによって、会社の支配権、後継者の経営、非後継者への公平性、納税資金、会社の資金繰りまでが変わってきます。

国税庁の説明によれば、取引相場のない株式については、株式を取得した株主が、その会社の経営支配力を持っている同族株主等か、それ以外の株主かという区分に応じて、原則的評価方式または特例的な評価方式である配当還元方式により評価することとされています。
出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価

非上場株式の評価では、同族株主・中心的同族株主の判定、議決権割合、会社規模、類似業種比準価額、純資産価額、特定の評価会社への該当性など、数多くの判定が必要になります。相続税の申告期限までに株式の分割協議がまとまらない場合にも、同族株主判定に影響する論点があります。

ご相談の前には、次のように資料と論点を分けて整理しておかれると有効です。

区分整理したい内容
株主関係株主名簿、議決権数、親族関係、種類株式、自己株式
会社資料決算書、法人税申告書、勘定科目内訳書、固定資産台帳、定款、議事録
経営承継後継者、役員構成、代表者変更、金融機関対応、従業員への影響
個人・会社間取引役員貸付金、役員借入金、土地貸付、建物賃貸、保証債務
納税資金後継者の資金、自己株式取得、死亡退職金、生命保険
分割・遺留分株式集中、代償金、非後継者の取り分、遺言
税制選択法人版事業承継税制、相続時精算課税、贈与、信託

同族会社のご相談では、相続税評価額を下げることだけが目的になってしまうと、経営上のコストや将来の柔軟性を見落としてしまうことがあります。たとえば持株会社の設立などは、グループ経営上の目的があるなら選択肢になり得ますが、株価の引下げだけを主目的にすると、コストや納税資金対策との比較が欠かせなくなります。

公認会計士・税理士事務所にご相談いただく意味が特に大きいのは、このように「会計数値」「株式評価」「会社法」「相続税」「資金繰り」「家族間の公平」が同時に動く場面です。

整理の視点6:国際相続は「人・財産・手続の国」を分けて

海外居住者、外国籍の相続人、国外財産、海外金融口座、海外不動産がある場合は、国際相続として整理しておく必要があります。

国際相続では、「海外財産があるかどうか」だけでなく、次の3つを分けて考えます。

整理軸確認すること
人の国際要素被相続人・相続人の住所、国籍、在留資格、過去の住所履歴
財産の国際要素国内財産、国外財産、外貨建資産、海外口座、海外不動産、外国株式
手続の国際要素日本の相続税申告、現地の相続手続、プロベート、翻訳・認証、外国税額控除

国税庁の説明によれば、外国に居住していて日本に住所がない方が相続などで財産を取得した場合、原則として、取得した財産のうち日本国内にある財産だけが相続税の課税対象になります。一方で、一定の場合には、日本国外にある財産についても相続税の課税対象になるとされています。
出典:国税庁|No.4138 相続人が外国に居住しているとき

国際相続では、納税義務者、財産の所在地、国外財産の評価、外貨換算、外国税額控除、海外での相続手続、国際私法、プロベートといった論点が問題になります。

ご相談の前に、次の情報を整理しておかれると、初期の判断がしやすくなります。

情報具体例
住所履歴被相続人・相続人がいつ、どの国に住んでいたか
国籍・在留資格日本国籍、外国籍、永住権、在留資格
財産所在日本国内、海外不動産、海外預金、外国証券、海外法人持分
外貨資料残高証明、取引明細、評価書、為替換算資料
現地手続遺言、プロベート、現地専門家、翻訳・認証
現地税務海外相続税・遺産税、納税証明、外国税額控除資料

国外財産については、国外財産調書制度や財産債務調書制度との関係が問題になることもあります。国税庁は、国外財産調書制度について、制度の概要、FAQ、法令解釈通達、様式などを公表しています。
出典:国税庁|国外財産調書制度に関するお知らせ

国際相続のご相談では、国内税務だけで結論を出さないことが何より重要です。現地法、現地税務、名義変更手続、送金、翻訳、認証まで含めて、どの専門家と連携すべきかを整理していく必要があります。

整理の視点7:認知症・高齢期の財産管理は「本人意思」と「権限」を分けて

高齢のご親族の相続対策をご相談いただく場合、まず確認すべきなのは、ご本人が判断できる状態かどうかです。

相続対策では、贈与、遺言、不動産の売却、家族信託、任意後見、生命保険の契約変更など、ご本人の意思能力を前提とする行為が数多くあります。判断能力が不十分な状態で形式的に手続を進めてしまうと、後から無効や親族間の紛争という問題に発展しかねません。

法務省の説明によれば、法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助の3つの制度が用意されています。
出典:法務省|成年後見制度・成年後見登記制度 Q&A

また、任意後見制度は、ひとりで決められるうちに、認知症や障害の場合に備えて、あらかじめ本人が選んだ人に、代わりにしてもらいたいことを任意後見契約で決めておく制度です。この契約は、公証人の作成する公正証書によるものとされています。
出典:厚生労働省|任意後見制度とは

ご相談の前には、次の2つを分けて整理しておかれると有効です。

整理軸確認すること
本人意思本人が何を望んでいるか、誰に財産を承継させたいか、誰に管理を任せたいか
権限誰が何をする権限を持っているか、代理権はあるか、後見・任意後見・信託はあるか

認知症に備える財産管理には、財産管理契約、見守り契約、任意後見、法定後見、遺言、信託など、複数の選択肢があります。ご本人の判断能力の状態、親族間の信頼関係、財産の種類、不動産処分の必要性によって、選ぶべき手段は変わってきます。

特に注意したいのは、次のようなご相談です。

相談内容注意すべき点
親の預金を家族が管理している使途、権限、記録、他の相続人への説明
親名義の不動産を売却したい本人意思、意思能力、代理権、後見の要否
認知症後に贈与したい贈与能力、契約の成立、税務調査、無効リスク
家族信託を使いたい受託者の適格性、信託財産、税務、遺留分
任意後見を検討したい公正証書、任意後見監督人、発効時期
遺言を作りたい遺言能力、内容の合理性、医師記録、付言事項

「家族だから大丈夫」という前提だけで財産を動かしてしまうと、相続発生後に、使途不明金、名義財産、贈与の有効性、遺産分割の不公平といった形で問題になることがあります。

整理の視点8:紛争可能性は「揉めているか」より「揉める構造があるか」で

相続のご相談では、「今は揉めていません」とおっしゃる方が少なくありません。

ただ、実務上重要なのは、現在すでに対立しているかどうかだけではありません。相続が発生したときに、揉める構造があるかどうかです。

次のような事情がある場合、表面上は問題がなくても、分割協議や申告の段階で対立が表に出てくることがあります。

紛争可能性がある事情起こりやすい問題
相続人の一部が親と同居している介護負担、生活費、預金引出し、居住継続
特定の子だけが多額の贈与を受けている特別受益、遺留分、不公平感
不動産が財産の大半を占める分けられない、代償金が払えない、共有化
再婚・前婚の子がいる法定相続分、遺留分、遺言の必要性
事業後継者と非後継者がいる株式集中、代償金、経営権、納税資金
相続人の一部が海外在住署名、印鑑証明、翻訳、送金、期限管理
判断能力に不安のある相続人がいる遺産分割協議の有効性、後見、特別代理人
遺言内容が偏っている遺留分侵害額請求、税務申告の修正
生命保険金の受取人が偏っている相続税上の取扱いと民法上の不公平感

遺産分割事件は、相続人の範囲、遺産の範囲、遺言の有効性、使途不明金、葬儀費用、遺産管理費用、遺産から生じた果実など、複雑で多様な争点を含みやすいとされています。

ご相談の前には、感情的な対立の有無だけでなく、次の点を整理しておかれると有効です。

整理すること具体例
相続人間の関係疎遠、同居、介護、事業関与、過去の対立
過去の財産移転贈与、学費援助、住宅資金、事業資金、借金肩代わり
生活保障配偶者、障害のある家族、未成年者、内縁関係
不動産利用誰が住んでいるか、誰が管理しているか、誰が収益を得ているか
遺言の有無内容、作成年月日、方式、遺言執行者、遺留分への配慮
分割原資代償金、生命保険、不動産売却、会社資金

税理士は、遺産分割紛争の代理人にはなれません。すでに法的紛争になっている場合には、弁護士との連携が必要です。一方で、紛争の可能性を早期に把握し、税務・評価・納税資金の観点から分割案の影響を整理しておくことは、税理士が果たすべき重要な役割だと考えています。

相談テーマ別に見る「最初に伝えてほしいこと」

ここまでの整理の視点を、相談テーマごとにまとめると、次のようになります。

相談テーマ最初に伝えてほしいことあると有用な資料
生前対策何を避けたいか、誰に何を承継させたいか財産一覧、家族関係図、過去贈与、保険、遺言
相続税申告死亡日、相続人、遺言、財産・債務の概要戸籍、不動産資料、金融資料、保険、債務資料
財産評価評価が難しい財産の種類と所在固定資産税資料、登記、公図、契約書、決算書
不動産承継不動産を残すのか、売るのか、分けるのか登記、固定資産税課税明細、賃貸借契約、図面
非上場株式後継者、株主構成、会社の資金状況決算書、申告書、株主名簿、定款、議事録
国際相続誰がどの国に住み、どこに財産があるか住所履歴、国籍、海外財産資料、現地税務資料
認知症対策本人の意思、判断能力、誰が管理しているか診断状況、財産一覧、既存契約、遺言、信託
紛争可能性不公平感や対立が生じそうな点贈与履歴、保険、遺言、介護・生活費の記録
納税資金税金を現金で払えるか、売却候補はあるか現預金、保険、売却予定資産、借入、会社資金

ご相談の前にすべてをそろえる必要はありません。むしろ、この表を眺めながら「自分たちはどこが曖昧なのか」を把握しておくことが大切です。

相談前に避けたい3つの整理の仕方

ご相談の準備の仕方によっては、かえって判断の幅を狭めてしまうことがあります。

1.「税額を最小にする方法」だけを探す

税額の軽減は確かに重要です。ただ、相続対策の目的は、税額を最小にすることだけではありません。

一次相続で税額を下げても、二次相続で税負担が増えることがあります。不動産の評価を下げても、納税資金が足りないことがあります。特定の相続人に有利な分割をすると、遺留分や家族間の不公平が問題になることがあります。

ご相談の前には、「税額を下げたい」という気持ちと同時に、「誰に何を残したいか」「納税できるか」「家族が納得できるか」も整理しておいてください。

2.「資料がないから相談できない」と考える

資料がそろっていない段階でも、ご相談は可能です。

ただし、「財産はだいたいこのくらい」「不動産がいくつかある」「保険はあると思う」という状態では、税額や具体策を断定することはできません。初回のご相談では、資料が不足していることを前提に、どの資料を優先して集めるべきか、どの論点が大きいのかを整理していくことになります。

3.「家族の感情」は税務相談に関係ないと考える

相続税申告や贈与のご相談では、家族関係の整理が非常に大きな意味を持ちます。

誰が納税するのか、誰が不動産を管理するのか、誰が会社を承継するのか、誰が過去に贈与を受けているのか、誰が介護を担ってきたのか。これらによって、税務の判断も分割の方針も変わってきます。

相続は、数字だけでなく、家族の納得感と説明可能性が問われる手続なのです。

当事務所へのご相談と相性がよいケース

犬飼公認会計士・税理士事務所では、単に申告書を作成するだけでなく、事実関係、資料、評価根拠、税務リスク、将来の選択肢を整理したうえで、判断材料をお示しすることを大切にしています。

特に、次のようなご相談は、早めに整理しておく価値があります。

相談内容早期相談が有効な理由
不動産が複数ある評価、分割、登記、売却、納税資金が絡む
同族会社株式がある株式評価、議決権、後継者、会社資金が絡む
過去に贈与をしている名義財産、相続財産加算、特別受益が問題になる
生命保険が多い受取人、保険料負担者、非課税枠、代償資金を確認する
相続人間に温度差がある分割協議、遺留分、説明方法を考える必要がある
認知症リスクがある本人意思と権限を早期に確認する必要がある
海外財産・海外居住者がいる納税義務者、国外財産評価、現地手続を確認する必要がある
節税提案を受けている実行前にリスク、費用、出口、税務調査対応を確認できる
申告期限が近い優先順位を付けて資料収集・評価・分割を進める必要がある
申告後の不安がある評価根拠、修正申告、更正の請求、附帯税リスクを整理する必要がある

反対に、「とにかく最安で申告したい」「節税効果だけを保証してほしい」「資料の確認なしに結論だけ知りたい」というご相談は、当事務所の支援方針とは合いにくい場合があります。

相続・贈与では、後から説明できる判断を一つずつ積み上げていくことが何より大切です。資料の共有や事実の確認にご協力いただけるほど、より具体的で、実務に耐える整理が可能になります。

ご相談をご検討の方へ

相続・贈与のご相談では、最初から結論を決めておく必要はありません。

「何が論点なのか分からない」「資料が足りているか不安」「相続税がかかるのか分からない」「提案された節税策が安全か確認したい」「家族にどう説明すべきか整理したい」。こうした段階でも、ご相談いただく意味は十分にあります。

重要なのは、税額だけを切り離して考えないことです。家族関係、財産構成、評価根拠、遺産分割、二次相続、納税資金、認知症リスク、そして税務調査での説明可能性まで含めて判断材料を整えること。それが、後悔のない相続・贈与につながります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続発生前の対策から、相続発生後の申告実務、財産評価、そして不動産・非上場株式・国際相続・認知症を含む複雑なご相談まで、論点を整理しながら、現実的な選択肢をご一緒に検討してまいります。

ご自身の状況を一度整理したい方、家族で話し合う前に専門的な視点を入れておきたい方、すでに動き出している対策や申告内容に不安をお持ちの方は、お問い合わせページからご相談ください。資料がすべてそろっていなくても、まずは「何を確認すべきか」というところから、一緒に整理していくことができます。

この記事の振り返り

重要事項相談前に整理したいポイント
相談の段階相続発生前か、相続発生後か、申告後かを明確にする
生前対策節税策ではなく、避けたいリスクと承継したい意思から考える
相続税申告財産一覧だけでなく、評価、分割、納税、特例を同時に見る
財産評価安く評価できるかではなく、根拠を後から説明できるかを見る
不動産評価額だけでなく、使えるか、売れるか、分けられるかを見る
非上場株式株価評価と経営承継、議決権、納税資金を分けて整理する
国際相続人、財産、手続の国際要素を分けて整理する
認知症対策本人意思と権限を分け、判断能力があるうちに準備する
紛争可能性現在揉めているかではなく、揉める構造があるかを見る
納税資金税額が下がるかだけでなく、期限までに現金納付できるかを見る
相談資料完璧にそろえる必要はないが、所在・名義・経緯を把握しておく
専門家相談結論をもらう場ではなく、前提を確認し選択肢を比較する場として使う
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