相談前整理・専門家関与・実行管理|事業承継税制を「後から説明できる判断」にするために

事業承継税制を検討するとき、多くの方がまず気にされるのは、「自社は制度を使えるのか」「税額はどのくらい猶予されるのか」「特例承継計画の期限に間に合うのか」といった点でしょう。

もちろん、それらはいずれも重要な確認事項です。

ただ、実務上の判断は、それだけでは足りません。

事業承継税制は、単に贈与税・相続税の負担を軽くするための制度ではありません。後継者に経営権を移すこと。議決権を安定させること。株式や事業用資産をどの範囲で承継するかを決めること。納税資金や会社財務への影響を確認すること。他の相続人や金融機関へ説明できる状態を整えること。そして、承継後も継続届出や取消リスクを管理し続けること。ここまでを含む、長期の経営判断です。

法人版事業承継税制は、円滑化法の認定を受けた非上場会社の株式等を後継者が贈与または相続等により取得した場合に、一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡等によって納付が免除される制度です。特例措置では、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限が撤廃され、納税猶予割合が100%とされるなどの措置が設けられています。
出典:国税庁|法人版事業承継税制

また、法人版の特例措置を使う場合は、特例承継計画を令和9年9月30日までに申請し、令和9年12月31日までに事業承継を行う必要があります。認定を受けた後も、都道府県庁への年次報告書、税務署への継続届出書といった管理が続きます。
出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)

個人版事業承継税制についても、認定を受けるためには、平成31年4月1日から令和10年9月30日までの間に、認定経営革新等支援機関の指導および助言を受けた旨を記載した個人事業承継計画を提出する必要があります。
出典:中小企業庁|個人版事業承継税制の前提となる認定

第13テーマで扱うのは、制度そのものの細かな要件ではありません。実際に専門家へ相談し、判断し、実行し、記録として残していくために、何を整理しておくべきか。そこに焦点を当てます。

このテーマで理解できること

第13テーマの役割は、事業承継税制を「相談できる状態」「比較できる状態」「説明できる状態」へ整えることにあります。

制度の概要をご存じでも、専門家に相談する時点で、会社の状況、株主構成、後継者候補、相続人関係、借入・保証、事業用資産、将来方針が整理されていなければ、有効な判断には進めません。

反対に、資料と論点が整理されていれば、初回相談の段階から、次のような判断へ進みやすくなります。

  • 事業承継税制を使うべきか
  • 生前贈与で進めるべきか、相続まで待つべきか
  • 後継者は一人でよいか、複数後継者を想定すべきか
  • どの株式を、どの時期に、誰から移すべきか
  • 事業用不動産や個人所有資産はどう扱うべきか
  • 制度を使わない選択肢も比較すべきか
  • 適用後の継続届出や取消リスクを誰が管理するのか
  • 親族、役員、金融機関にどのように説明するのか

中小企業庁の事業承継ガイドラインにおいても、事業承継は単なる株式の承継ではなく、「人(経営)」「資産」「知的資産」という多面的な経営資源の承継として整理されています。
出典:中小企業庁|事業承継ガイドライン

本テーマでは、この考え方を事業承継税制の相談実務へ引き寄せ、読者の皆さまが次に読む詳細コラムを選びやすいよう、相談前整理から専門家レビューまでの流れをお示しします。

第13テーマを読むべき読者

このテーマは、事業承継税制の概要をある程度ご存じの方に向いています。

たとえば、次のような状況にある経営者、後継者、ご親族、管理部門の責任者、そして顧問専門家の方にとって有用です。

  • 特例承継計画の提出を検討しているが、まだ社内で意思決定できていない
  • 株価試算をしたいが、どの資料を揃えればよいか分からない
  • 後継者候補はいるものの、株式をいつ移すべきか決めきれていない
  • 事業承継税制を使う場合と使わない場合を比較したい
  • 先代、後継者、他の相続人の間で、説明の前提を揃えたい
  • 金融機関や取引先に、承継後の体制を説明する必要がある
  • 専門家に相談したいが、依頼範囲や報酬の考え方が分からない
  • 自社の案件が、通常の申請実務だけで進めてよいものか不安がある

一方で、「とにかく税額だけを下げたい」「制度を使えるならすぐ申請したい」というお考えだけで読み進めると、本テーマの内容は少し遠回りに感じられるかもしれません。

しかし、事業承継税制は、適用して終わりの制度ではありません。

後継者が代表を継続するのか。株式を持ち続けるのか。会社が事業を継続するのか。資産管理会社に該当しないか。年次報告や継続届出を漏らさずに行えるか。適用後も、こうした管理が続いていきます。

だからこそ第13テーマでは、「申請できるか」だけでなく、「後から説明できる判断になっているか」を重視します。

推奨する読む順番

第13テーマは、次の順番で読み進めていただくことを想定しています。

まず、13-1で初回相談前に考えるべき事項を確認します。

次に、13-2で資料収集と現状把握を進めます。

そのうえで、13-3において株価試算と承継シミュレーションを行い、複数の選択肢を比較します。

さらに、13-4で関係者説明資料と意思決定記録を整え、判断の経緯を残します。

その後、13-5で専門家へ依頼すべき業務範囲と報酬の考え方を確認します。

最後に、13-6で高リスク案件に該当しないかを確認し、必要に応じて専門家レビューを深めます。

この順番は、単なる記事の並びではありません。実務上も、相談、資料整理、試算、意思決定、依頼範囲の確定、リスクレビューという順序で進めたほうが、判断の抜け漏れが少なくなります。

13-1. 初回相談前に確認すべき事項

最初にお読みいただきたいのが、「13-1. 初回相談前に確認すべき事項」です。

事業承継税制の相談では、制度についての質問をする前に、自社がどのような承継を望んでいるのかを整理しておく必要があります。

  • 後継者は誰か
  • 承継時期はいつ頃を想定しているか
  • 株主は誰か
  • 自社株以外にどのような財産があるか
  • 相続人は誰か
  • 会社の借入や経営者保証はどうなっているか
  • 事業を長期継続する前提か、それとも将来の売却・廃業の可能性もあるか

これらを整理しないまま専門家へ相談すると、話が制度要件の確認だけで終わってしまいます。

13-1では、相談前に考えておくべき論点を大きく整理します。

資料がまだ完全には揃っていない段階でも、自社の承継判断の入口を把握しておきたい方は、このコラムから読み始めてください。

13-2. 必要資料の収集と現状把握

次にお読みいただきたいのが、「13-2. 必要資料の収集と現状把握」です。

事業承継税制の検討は、印象や口頭の説明だけでは進められません。

決算書、法人税申告書、株主名簿、定款、登記簿、相続関係資料、資産明細、借入・保証資料、契約書、許認可資料。こうした資料を確認して初めて、適用可能性やリスクが見えてきます。

とくに非上場会社の承継では、株主名簿が古いままである、名義株の可能性がある、過去の株式譲渡資料が残っていない、定款上の株式譲渡制限や種類株式の有無が把握されていない、といった問題が少なくありません。

13-2では、専門家への相談前にどのような資料を集めるべきか、そして、どの資料がどの判断に関係するのかを整理します。

「何を準備して相談すればよいか分からない」という方は、13-2を確認したうえで専門家面談に進むと、相談の質が大きく変わります。

13-3. 現状株価試算と承継シミュレーション

資料が揃ったら、「13-3. 現状株価試算と承継シミュレーション」へ進みます。

事業承継税制を使うべきかどうかは、制度要件だけでは判断できません。

現状の自社株評価額、将来の株価変動、贈与で移す場合と相続で移す場合の違い、納税猶予額、猶予対象外税額、後継者の納税資金、会社財務への影響。これらを数字で比較する必要があります。

ここで大切なのは、単一の結論を急がないことです。

  • 事業承継税制を使う案
  • 通常の贈与や相続時精算課税を使う案
  • 売買を組み合わせる案
  • 遺言や生命保険で相続人間のバランスを整える案
  • 承継時期を遅らせる案
  • 制度を使わない案

これらを複数シナリオで比較して初めて、税務上のメリットと経営上の制約を同じテーブルの上で検討できます。

13-3は、制度の有利不利を感覚ではなく数字で確かめたい方に向いています。

13-4. 関係者説明資料と意思決定記録

承継案を比較した後に重要となるのが、「13-4. 関係者説明資料と意思決定記録」です。

事業承継税制の判断は、先代経営者と後継者だけで完結するとは限りません。他の相続人、役員、従業員、金融機関、顧問専門家など、関係者への説明が必要になる場面があります。

とくに、自社株を後継者へ集中させる設計では、他の相続人に対して、なぜその配分にするのか、代償財産や生命保険をどう考えるのか、遺留分にどのように配慮するのかを説明できる状態にしておくことが重要です。

また、金融機関に対しては、承継後の代表者体制、株主構成、経営者保証、退職金支給、自己株式取得、資金繰りへの影響などを説明する場面があります。

13-4では、検討資料、株価試算、選択肢比較、リスク説明、議事録、家族・金融機関への説明、提出控えといった、後から説明できる記録の考え方を整理します。

「判断したこと」だけでなく、「なぜその判断に至ったのか」を残しておきたい方に、ぜひお読みいただきたいコラムです。

13-5. 専門家へ依頼すべき業務範囲と報酬の考え方

意思決定に必要な資料と記録の重要性を理解したら、「13-5. 専門家へ依頼すべき業務範囲と報酬の考え方」へ進みます。

事業承継税制に関する専門家業務は、一言で「相談」や「申請」と言っても、その範囲は大きく異なります。

  • 初期診断だけを依頼するのか
  • 自社株評価まで依頼するのか
  • 特例承継計画の作成を依頼するのか
  • 都道府県への認定申請を依頼するのか
  • 贈与税・相続税申告まで依頼するのか
  • 適用後の継続届出や年次管理まで依頼するのか
  • 株主構成、遺留分、金融機関説明、組織再編、医療法人、農地などの論点も含めるのか

依頼範囲が曖昧なまま進めてしまうと、「専門家に相談したつもりだったが、そこまでは業務範囲外だった」という行き違いが起こり得ます。

13-5では、価格の高低ではなく、どの判断を誰に依頼するのか、どこまでを成果物として残すのか、継続管理をどう設計するのかを整理します。

専門家選びや見積比較に入る前に、まずお読みいただきたいコラムです。

13-6. 高リスク案件で必要となる専門家レビュー

最後に確認していただきたいのが、「13-6. 高リスク案件で必要となる専門家レビュー」です。

すべての事業承継税制案件が、同じ難易度というわけではありません。

  • 株主紛争がある
  • 名義株や所在不明株主がいる
  • 後継者が複数いる
  • 資産管理会社に近い
  • 不動産や有価証券が多い
  • 承継前後に組織再編や持株会社化を予定している
  • 医療法人や農地が関係する
  • 評価通達6項のリスクがある
  • 税務調査や税賠リスクが高い

このような案件では、通常の株価試算や申請手続だけで進めるのは危険です。税理士・公認会計士だけでなく、弁護士、司法書士、行政書士、金融機関、認定経営革新等支援機関など、複数の専門家によるレビューが必要になることがあります。

13-6では、高リスク案件に該当する兆候と、専門家レビューを入れるべき場面を整理します。

「自社の案件は、一般的な相談で足りるのだろうか」と不安を感じている方は、必ず確認しておいていただきたいコラムです。

第13テーマは、制度適用前の「最後の整理」を担う

本シリーズではこれまで、法人版・個人版の制度構造、特例承継計画、認定申請、贈与・相続の判断、自社株評価、株主構成、遺留分、承継後の管理、取消事由、資金繰り、関連制度との境界を整理してきました。

第13テーマは、それらを実際の相談・実行へ落とし込むためのテーマです。

制度を理解しているだけでは、承継判断は前に進みません。

株価を試算しただけでも、まだ十分とはいえません。

特例承継計画を提出しただけでも、意思決定についての説明責任は残ります。

本当に必要なのは、制度、税額、株主構成、後継者体制、相続人関係、会社財務、将来方針を一つの判断資料にまとめ、先代・後継者・関係者が同じ前提に立って判断できる状態をつくることです。

第13テーマでは、そのための準備、資料、試算、記録、専門家関与、レビュー体制を扱います。

相談前整理で失敗しやすいポイント

事業承継税制の相談前整理でつまずきやすいのは、制度についての質問だけを先にしてしまうことです。

「事業承継税制は使えますか」と尋ねられても、専門家としては、会社要件、株主構成、後継者要件、株価、資産管理会社判定、相続関係、納税資金、将来方針を確認しなければ、責任ある判断をお伝えすることはできません。

また、「特例承継計画を出せばよい」と考えてしまうのも危険です。

特例承継計画は重要な入口ですが、それ自体がゴールではありません。計画提出後も、認定申請、贈与・相続、税務申告、担保提供、継続届出、年次報告、取消事由の管理が続きます。

さらに、専門家への依頼範囲を曖昧にしたまま進めることも問題です。

  • 株価評価だけの依頼なのか
  • 制度適用の判断まで含むのか
  • 親族間説明や金融機関説明まで支援するのか
  • 継続届出まで管理するのか

この線引きを明確にしておかないと、後になって「聞いていなかった」「依頼したつもりだった」という認識のずれが生じます。

第13テーマでは、こうした実務上のズレを防ぐために、相談前の整理と専門家関与を一体のものとして扱います。

このテーマで扱わないこと

第13テーマは、相談前整理と実行管理を扱うテーマです。

そのため、個別の税額計算、申請書の具体的な記入例、贈与契約書・遺言書・議事録の文案、個別の争訟、税務調査対応、M&Aの相手探し、デューデリジェンス、契約交渉、PMIの詳細は取り上げません。

これらは案件ごとに前提が大きく異なるため、詳細コラムだけで一般化することは適切ではないと考えるためです。

本テーマで目指すのは、読者の皆さまが専門家に相談する前に、自社の状況と論点を整理し、必要な支援範囲をご自身で判断できる状態になることです。

まず読むべき詳細コラムの選び方

これから専門家に相談しようとお考えの方は、13-1から読み始めてください。

何を準備すべきか分からないという方は、13-2を先にお読みいただくと、実務に移りやすくなります。

事業承継税制を使う場合と使わない場合を比較したい方は、13-3が起点になります。

親族や金融機関への説明に不安がある方は、13-4をご確認ください。

専門家への依頼範囲や報酬の考え方に迷っている方には、13-5が参考になるはずです。

株主紛争、名義株、複数後継者、資産管理会社、組織再編、医療法人、農地などが絡む場合は、13-6を必ずお読みください。

第13テーマは、単なる相談導線ではありません。事業承継税制を使うかどうかの判断を、後から説明できる経営判断へと変えるための、実務上の整理です。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

事業承継税制の検討では、制度要件だけでなく、自社株評価、株主構成、後継者体制、相続人関係、納税資金、会社財務、金融機関への説明、適用後の継続管理までを一体として整理する必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、事業承継税制を単なる節税策としてではなく、会社を次世代へ引き継ぐための経営判断として整理することを重視しています。

初回相談の前に、決算書、申告書、株主名簿、定款、登記簿、相続関係、借入・保証資料、事業用資産の明細、過去の株式移動資料などを、可能な範囲でご準備いただけますと幸いです。制度適用の可否だけでなく、そもそも使うべきか、どの順番で検討すべきか、どの専門家レビューが必要かというところまで、具体的に整理しやすくなります。

「特例承継計画を出す前に論点を整理したい」「株価試算と承継シミュレーションを比較したい」「親族や金融機関へ説明できる資料を整えたい」「高リスク案件に該当しないか確認したい」。そうお考えの場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

振り返り|第13テーマで整理すること

読む順番詳細コラムこのコラムで整理すること
113-1. 初回相談前に確認すべき事項後継者、承継時期、株主、財産、相続人、借入、事業継続、将来売却可能性など、相談の入口を整理する
213-2. 必要資料の収集と現状把握決算書、申告書、株主名簿、定款、登記簿、相続関係、資産明細、借入、契約、許認可など、判断の前提資料を整理する
313-3. 現状株価試算と承継シミュレーション現状株価、将来株価、贈与・相続比較、猶予税額、納税資金、複数シナリオを比較する
413-4. 関係者説明資料と意思決定記録検討資料、株価試算、選択肢比較、リスク説明、議事録、家族・金融機関説明、提出控えを整理する
513-5. 専門家へ依頼すべき業務範囲と報酬の考え方初期診断、株価評価、計画作成、認定申請、税務申告、継続届出、顧問的管理の依頼範囲を整理する
613-6. 高リスク案件で必要となる専門家レビュー株主紛争、名義株、複数後継者、資産管理会社、組織再編、医療法人、農地、評価通達6項、税務調査・税賠リスクを確認する