事業承継税制を検討するとき、まず気になるのは「自社に適用できるかどうか」かもしれません。
ただ、実務の現場で先に、あるいは少なくとも同時に確認しておきたいことがあります。現在の自社株評価額を把握したうえで、贈与・相続・納税猶予・納税資金を複数のシナリオで並べて比較しておくことです。
事業承継税制は、一定の要件を満たせば贈与税・相続税の負担を大きく軽減できる可能性のある制度です。法人版は、円滑化法の認定を受けた非上場会社株式等の贈与・相続等について、贈与税・相続税の納税猶予・免除を認めるものとして設けられています。個人版は、個人事業者の一定の事業用資産を対象とする制度です。
もっとも、事業承継税制は「税金がなくなる制度」ではありません。あくまで納税猶予を出発点とし、要件を維持できるか、取消しになった場合に納付できるか、さらには将来の売却・再編・廃業の可能性をどう見るかまで含めて判断していく制度です。
ですから、株価試算は単なる計算作業ではありません。後継者にいつ、どの範囲の株式を移すのか。生前贈与と相続のどちらを軸にするのか。制度を使う場合と使わない場合で、後継者・他の相続人・会社財務にどのような違いが生じるのか。こうした点を数字で比較するための、判断の土台となる資料です。
現状株価試算は「いくら税金が安くなるか」だけを見るものではない
現状株価試算というと、自社株の相続税評価額を計算し、その結果として相続税や贈与税がどの程度になるかを確かめる作業のように思われがちです。
もちろん、それも大切です。
ただ、事業承継税制の検討で求められる株価試算は、「現在の株価はいくらか」を確認して終わるものではありません。
本来確認しておきたいのは、次のような問いです。
- 現在の株価総額はどの程度か
- 先代経営者が保有する株式の評価額はいくらか
- 後継者が取得する株式の評価額はいくらか
- 贈与で移した場合の税負担はどうなるか
- 相続まで待った場合の税負担はどうなるか
- 事業承継税制を使った場合、どの税額が猶予され、どの税額が残るか
- 後継者以外の相続人に、どの程度の納税負担や不公平感が残るか
- 取消しや一部取消しが生じた場合、納付資金を用意できるか
- 会社の財務安全性や金融機関への説明に無理がないか
つまり株価試算は、「制度を使った場合の効果」を見るためだけのものではありません。「制度を使わない場合の現実的な負担」「制度を使った後に残る制約」「将来の経営判断への影響」を比較するために行うものです。
税額だけを小さく見せる試算では、承継の判断には使えません。求められるのは、後から関係者にきちんと説明できる試算です。
非上場株式評価では、誰が取得するかによって評価方式が変わる
自社株評価でまず気をつけたいのは、非上場株式の評価が、会社の決算書だけで機械的に決まるわけではないという点です。
取引相場のない株式は、相続や贈与などでその株式を取得した株主が、発行会社の経営支配力を持つ同族株主等にあたるか、それ以外の株主かによって、原則的評価方式か、特例的評価方式である配当還元方式かに分かれます。原則的評価方式では、会社規模に応じて類似業種比準方式、純資産価額方式、あるいは両者の併用方式が用いられます。
このため、同じ会社の株式であっても、後継者が取得する場合、少数株主が取得する場合、従業員持株会が関係する場合、親族外の後継者が取得する場合とで、評価の前提が変わることがあります。
特に確認しておきたいのは、次の論点です。
- 同族株主に該当するか
- 中心的同族株主に該当するか
- 取得後の議決権割合はどうなるか
- 後継者が役員または代表者になる予定か
- 自己株式、相互保有株式、議決権制限株式があるか
- 未分割株式や名義株の可能性がないか
- 従業員持株会や安定株主の保有株式をどう扱うか
事業承継税制の後継者要件・議決権要件と、相続税評価上の株主判定は、似ているようで同じではありません。
税制要件では後継者がどの程度の議決権を持つかが問われ、株式評価では取得者の株主区分によって評価方式が変わります。両者を混同すると、試算の前提そのものが崩れてしまいます。
現状株価試算で確認すべき基本項目
現状株価試算では、まず評価額を構成する要素を分解していきます。
大まかには、次の項目を確認します。
- 発行済株式数
- 自己株式の有無
- 議決権数
- 株主ごとの保有株式数
- 先代経営者の保有株式数
- 後継者が取得予定の株式数
- 直近の決算数値
- 配当実績
- 利益水準
- 純資産額
- 土地・有価証券などの含み損益
- 会社規模判定
- 特定評価会社該当性
- 類似業種比準価額
- 純資産価額
- 配当還元価額
ここで大切にしたいのは、試算結果の金額だけでなく、「どの前提でその金額になったか」を残しておくことです。
たとえば、直近決算の利益が一時的に大きかったのか。役員退職金の支給予定があるのか。不動産を取得、あるいは売却する予定があるのか。含み益のある土地を会社が抱えているのか。こうした事情によって、現状株価だけでなく将来株価も変わってきます。
株価試算は、単年度の決算書だけを見て完結させるものではありません。数期分の業績推移、資産構成、承継予定時期までの経営見通しまで見ておかなければ、承継判断に使える試算にはなりません。
将来株価を見ない試算は、承継タイミングの判断に使えない
事業承継で問題になるのは、現在の株価だけではありません。
むしろ重要なのは、承継を実行する時点で株価がどう変わっているかです。
いまは株価が低くても、今後利益が積み上がれば上がる可能性があります。反対に、退職金の支給、投資、事業撤退、不動産売却、業績悪化などによって、下がる可能性もあります。
将来株価シミュレーションでは、少なくとも次のような前提を置いて比較します。
- 現在の状態が続く場合
- 利益が増加する場合
- 利益が減少する場合
- 役員退職金を支給する場合
- 不動産や有価証券を取得する場合
- 不動産や有価証券を売却する場合
- 借入金の返済が進む場合
- 配当方針を変える場合
- 組織再編や持株会社化を検討する場合
- 将来の売却や廃業の可能性を残す場合
ここで気をつけたいのは、株価が下がれば常に良いわけではない、ということです。
株価を下げるために利益を圧縮しすぎれば、会社の財務安全性や金融機関評価に影響します。退職金を過大に支給すれば、損金性や資金繰りが問題になります。不動産取得で株価が下がるように見えても、資産管理会社判定、借入負担、将来の換金性が問題になることがあります。
承継シミュレーションで重視したいのは、株価を下げること自体ではありません。会社として説明できる範囲のなかで、合理的な承継時期を見極めることです。
贈与と相続は、税額だけで比較してはいけない
自社株の承継では、生前贈与と相続のどちらがよいかが、しばしば論点になります。
生前贈与には、後継者へ早期に経営権を移しやすく、承継時点の株価を前提に税務判断を進められるという特徴があります。
一方で、贈与後は後継者が株式保有や代表者要件など、制度適用後の管理を担っていくことになります。
相続承継では、先代経営者が生前は株式を保有し続けるため、経営権移転のタイミングを遅らせることができます。
ただし、相続発生時の株価、遺産分割、相続人間の合意、納税資金、後継者の議決権確保には、不確実性が残ります。
比較すべき項目は、税額だけではありません。
- 先代経営者がいつ代表を退くか
- 後継者がいつ代表に就任するか
- 株式を移すことで議決権が安定するか
- 他の相続人が納得できる財産配分になるか
- 贈与後に先代経営者が死亡した場合の相続税への接続をどう見るか
- 後継者が制度適用後の届出・管理を継続できるか
- 相続まで待つことで株価上昇リスクを負うか
- 相続まで待つことで後継者教育や経営移行の時間を確保できるか
贈与か相続かの比較は、「どちらが税額上有利か」だけでなく、「どちらが経営権移転、親族間の合意、資金繰り、承継後の管理に耐えられるか」で判断する必要があります。
事業承継税制を使った場合でも、納税資金の試算は必要
事業承継税制を使えば、自社株に係る贈与税・相続税の納税猶予を受けられる可能性があります。
法人版の特例措置では、対象株式数の上限撤廃、猶予割合の100%化、複数の株主から最大3人の後継者への承継など、一般措置より大きく拡充された内容が用意されています。また現行の取扱いでは、特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日まで、贈与・相続による株式取得期限は令和9年12月31日までとされています。
とはいえ、納税猶予を受けるからといって、資金繰りの検討が不要になるわけではありません。
承継シミュレーションでは、少なくとも次の金額を分けて確認します。
- 通常どおり贈与・相続した場合の税額
- 事業承継税制を使った場合の猶予税額
- 猶予されずに納付が必要な税額
- 自社株以外の財産に係る相続税
- 後継者以外の相続人の納税額
- 代償金の必要額
- 担保提供の要否
- 取消時に納付が必要となる可能性のある税額
- 利子税等を含めた資金負担
- 会社から資金を移す場合の税務・会社法上の影響
とりわけ意識しておきたいのは、自社株に係る税額が猶予されても、相続税全体の問題が消えるわけではないという点です。
自社株の評価額は、後継者以外の相続人の相続税負担、遺留分、代償金、相続財産全体の配分にまで影響することがあります。
ですから、「後継者の自社株に係る税額は猶予されるから問題ない」という整理では、十分とはいえません。
猶予税額と納付税額を分けて見なければならない
事業承継税制のシミュレーションでよくある誤解は、「猶予税額が大きいほど有利」と単純に考えてしまうことです。
たしかに、猶予税額が大きいほど、当初の納税負担は軽くなる可能性があります。
しかし、猶予税額は消滅した税額ではありません。一定の免除事由が生じるまでは、将来の取消リスクを伴う金額でもあります。
そのため、試算では次のように分けて把握する必要があります。
- 当初申告時に納付する税額
- 納税猶予を受ける税額
- 将来免除される可能性がある税額
- 取消しになった場合に納付する可能性がある税額
- 一部取消しの場合に納付する可能性がある税額
- 売却・廃業・組織再編時に再計算される可能性がある税額
この区分をしないまま「税額がゼロに近い」と説明してしまうと、後継者は制度適用後の管理負担を正しく理解できません。
事業承継税制は、制度適用時の税額を小さく見せるための制度ではなく、会社を継続する意思と管理体制を前提に、納税を猶予する制度です。
複数シナリオで比較すべき承継案
承継シミュレーションでは、1つの案だけを試算しても十分ではありません。
少なくとも、次のような複数のシナリオを並べて比較しておきたいところです。
1. 事業承継税制を使わず、相続まで待つシナリオ
このシナリオでは、現在は株式を動かさず、相続発生時に後継者が自社株を取得する前提で試算します。
確認すべきなのは、相続発生時の株価、相続税全体、納税資金、遺産分割、後継者の議決権確保です。
株価が上昇する可能性が高い会社では、相続まで待つことが大きな税負担につながることがあります。反対に、株価が低く、納税資金も確保できる場合には、事業承継税制を使わない選択肢も検討に値します。
2. 事業承継税制を使って生前贈与するシナリオ
このシナリオでは、先代経営者の生前に後継者へ株式を贈与し、贈与税の納税猶予を受ける前提で試算します。
確認すべきなのは、贈与時点の株価、後継者の代表就任、先代経営者の退任、贈与後の継続管理、先代死亡時の相続税への接続です。
早期に経営権を移せる一方で、後継者が制度管理を長期間担うことになります。
3. 相続発生時に事業承継税制を使うシナリオ
このシナリオでは、先代経営者が株式を保有したまま相続が発生し、後継者が相続税の納税猶予を受ける前提で試算します。
確認すべきなのは、遺言や遺産分割により後継者が対象株式を取得できるか、申告期限までに要件を満たせるか、他の相続人との合意が整うかです。
相続発生後に関係者間の調整が難航すると、制度適用の前提が崩れる可能性があります。
4. 一部のみ事業承継税制を使うシナリオ
すべての株式について税制を使うのではなく、一部の株式だけ制度適用を検討するケースもあります。
この場合は、後継者の議決権、制度対象株式、猶予対象外税額、他の株式の移転方法を分けて検討します。
制度を使う範囲を絞ることで管理負担を抑えられる場合もありますが、支配権が安定しないのであれば本末転倒です。
5. 通常贈与・相続時精算課税・売買と比較するシナリオ
事業承継税制だけが選択肢ではありません。
暦年贈与、相続時精算課税、時価売買、自己株式取得、役員・従業員承継における買取資金支援など、他の方法と比較しておく必要があります。
相続時精算課税制度については、令和6年1月1日以後の贈与から基礎控除に関する改正が適用されています。従前の制度理解のまま比較すると、判断を誤る可能性があります。
ただし、売買や自己株式取得を使う場合は、譲渡所得、みなし配当、会社法上の財源規制、会社資金の流出などが問題になります。税額の比較だけでなく、会社財務への影響まで合わせて確認する必要があります。
個人版事業承継税制では、株価ではなく事業用資産を試算する
個人事業主の場合は、法人版とは試算の対象が異なります。
個人版事業承継税制では、自社株ではなく、青色申告に係る一定の事業用資産が中心になります。手続面では、個人事業承継計画を令和10年9月30日までに提出し、令和10年12月31日までに事業承継を実施する必要があるとされています。
個人版のシミュレーションでは、次の項目を確認します。
- 特定事業用資産の範囲
- 土地・建物・機械装置・車両・備品の評価額
- 事業用部分と家事用部分の区分
- 青色申告決算書上の資産計上
- 小規模宅地等の特例との関係
- 事業継続要件
- 後継者の事業承継後の資金繰り
- 法人成りした場合との比較
個人版では、法人版のような株価評価ではなく、事業用資産そのものの評価と事業継続性が中心になります。
法人版と同じ感覚で試算すると、対象資産や関連制度の選択を誤る可能性があります。
シミュレーションでは「税額」と「資金」を分けて見る
税額が計算できても、資金繰りが整理できていなければ、承継の判断はできません。
事業承継税制を使った場合でも、次のような資金負担が残ることがあります。
- 猶予されない相続税・贈与税
- 後継者以外の相続人の納税資金
- 代償分割に必要な資金
- 先代経営者への退職金支給資金
- 死亡退職金の支給資金
- 自己株式取得に必要な会社資金
- 借入金返済資金
- 経営者保証の引継ぎに伴う金融機関対応
- 取消時の納付資金
- 承継後の運転資金
特に注意しておきたいのは、会社資金を個人の納税資金に使う場合です。
自己株式取得、役員退職金、会社からの貸付、役員報酬の増額などは、いずれも会社財務に影響します。
相続税の納税資金を確保できても、会社の純資産やキャッシュフローが悪化すれば、後継者の経営に負担が残ります。
承継シミュレーションでは、個人の税額だけでなく、会社の資金繰り表、金融機関への説明、承継後の投資余力まで確認しておくべきです。
シミュレーション結果は「一番税額が低い案」を選ぶためだけに使わない
複数のシナリオを作成すると、税額が最も小さく見える案が出てくることがあります。
しかし、その案が常に最善とは限りません。
たとえば、税額は低いが後継者の議決権が不安定な案、株価は低いが会社財務を大きく毀損する案、納税猶予額は大きいが将来の売却・廃業時にリスクが高い案、他の相続人に説明しにくい案などは、慎重に検討すべきです。
シミュレーション結果を見るときは、次の視点で確認します。
- 税額だけでなく、資金繰りに無理がないか
- 後継者の経営権が安定するか
- 他の相続人に説明できるか
- 会社財務を傷めすぎていないか
- 金融機関に説明できるか
- 制度適用後の管理を継続できるか
- 将来の組織再編・売却・廃業の可能性を過度に狭めないか
- 税務調査や関係者への説明に耐えられる前提になっているか
承継判断に使えるシミュレーションは、税額比較表だけではありません。リスク、制約、資金、関係者への説明までを含めた、判断のための資料である必要があります。
よくある誤りは、試算の前提を固定しすぎること
承継シミュレーションで避けたいのは、最初から結論ありきで数字を作ってしまうことです。
よくある誤りとして、次のようなものがあります。
- 直近決算だけで株価を判断する
- 株主名簿を精査せずに評価する
- 名義株や未分割株式を見落とす
- 後継者の取得後議決権を確認しない
- 会社規模判定や特定評価会社判定を簡略化しすぎる
- 自社株だけを見て相続税全体を見ない
- 納税猶予額だけを見て取消時の資金を見ない
- 他の相続人の納税額や遺留分を見ない
- 会社から個人への資金移動を安易に考える
- 将来の売却・再編・廃業の可能性を試算に入れない
- 株価引下げ策の合理性や否認リスクを検討しない
特に、株価引下げ策には注意が必要です。
合理的な経営判断として説明できる施策であれば検討の余地がありますが、税負担の軽減だけを目的に、会社の実態と合わない取引を行うことは避けるべきです。
後から説明できない試算は、承継後のリスクになります。
株価試算と承継シミュレーションで作成すべき成果物
実務上、シミュレーションを行う場合には、単に税額表を作るだけでは不十分です。
少なくとも、次のような成果物を整理しておくと、後の意思決定や関係者への説明に使いやすくなります。
- 現状株価試算資料
- 評価前提メモ
- 株主構成整理表
- 議決権割合表
- 贈与・相続比較表
- 事業承継税制適用時の猶予税額整理
- 猶予対象外税額の整理
- 相続税全体の試算
- 納税資金・代償資金の整理
- 会社資金繰りへの影響整理
- 将来株価シナリオ
- 制度適用後の管理負担一覧
- 取消リスク・出口リスクの整理
- 検討過程を残す意思決定メモ
これらは、単なる内部資料ではありません。後継者、他の相続人、金融機関、顧問税理士、弁護士、司法書士、認定支援機関など、関係者と同じ前提を共有するための資料です。
特に、後から「なぜこの時期に贈与したのか」「なぜこの制度を使ったのか」「なぜこの範囲の株式を移したのか」と問われたときに、数字と論点を示せることが重要です。
シミュレーションは一度作って終わりではない
事業承継の検討は、数年単位で進むことがあります。
そのため、株価試算と承継シミュレーションは、一度作って終わりではありません。
決算、株主構成、後継者体制、相続関係、制度改正、会社の資金繰りが変われば、試算結果も変わります。
見直しが必要になる主なタイミングは、次のとおりです。
- 決算が確定したとき
- 利益水準が大きく変わったとき
- 不動産や有価証券を取得・売却したとき
- 役員退職金を検討したとき
- 株主構成に変動があったとき
- 後継者の代表就任時期が変わったとき
- 相続人関係に変化があったとき
- 金融機関借入や保証の状況が変わったとき
- 特例承継計画の提出や認定申請を行う前
- 贈与実行前
- 相続発生後の申告方針を決めるとき
古い試算のまま承継判断を進めると、実行時点の数字と乖離することがあります。
事業承継税制の検討では、重要な節目ごとに数字を更新し、意思決定の記録もあわせて更新しておくことが望まれます。
まとめ|承継シミュレーションは、制度適用ではなく経営判断のために行う
現状株価試算と承継シミュレーションは、たしかに事業承継税制を使うための準備資料ではあります。
しかし、それ以上に重要なのは、会社と後継者がどの承継方法を選ぶべきかを判断するための資料である、という点です。
自社株の評価額が分からなければ、贈与と相続の比較はできません。将来株価を見なければ、承継のタイミングは判断できません。猶予税額と納付税額を分けなければ、資金繰りは見えてきません。複数のシナリオを比較しなければ、制度を使うべきかどうかは判断できません。
事業承継税制は、使えれば常に最適、という制度ではありません。税務上のメリットと、承継後の管理負担、取消リスク、株主構成、会社財務、相続人間の合意形成を、同じテーブルに並べて比較して、はじめて使うべきかどうかを判断できます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、事業承継税制の検討にあたり、現状株価試算、将来株価シミュレーション、贈与・相続比較、納税猶予額、猶予対象外税額、納税資金、会社財務への影響を整理したうえで、制度適用の是非を検討することを重視しています。
自社株評価や承継シミュレーションを通じて、「事業承継税制を使えるか」だけでなく、「使うべきか」「いつ実行すべきか」「後から説明できる形で進められるか」まで確認したいという場合は、現在の決算書・株主名簿・相続関係・承継方針が分かる範囲からご相談ください。
振り返り|現状株価試算と承継シミュレーションで確認すべき事項
| 確認項目 | 確認する内容 | 判断に与える影響 |
|---|---|---|
| 現状株価 | 現在の自社株評価額、先代保有分、後継者取得予定分 | 税額試算、承継範囲、制度適用判断の出発点 |
| 株主区分 | 同族株主、中心的同族株主、少数株主、議決権割合 | 評価方式、後継者の支配権、税制要件に影響 |
| 会社規模・評価方式 | 類似業種比準方式、純資産価額方式、併用方式、配当還元方式 | 株価水準と評価根拠に影響 |
| 特定評価会社 | 土地保有、株式保有、比準要素、開業後年数、休業・清算 | 通常の評価方式が使えない可能性に影響 |
| 将来株価 | 利益推移、退職金、不動産、有価証券、借入返済、配当方針 | 承継タイミング、贈与・相続比較に影響 |
| 贈与シナリオ | 生前贈与、贈与税猶予、代表就任、承継後管理 | 早期の経営権移転と管理負担に影響 |
| 相続シナリオ | 相続税猶予、遺言、遺産分割、申告期限、納税資金 | 相続発生時の不確実性と親族間調整に影響 |
| 納税猶予額 | 猶予される税額、猶予対象外税額、担保、取消時税額 | 制度効果と将来リスクの把握に影響 |
| 納税資金 | 自社株以外の税額、代償金、退職金、自己株式取得、借入 | 後継者個人と会社財務の安全性に影響 |
| 複数シナリオ比較 | 税制適用、非適用、通常贈与、相続時精算課税、売買 | 制度ありきではない承継判断に影響 |
| 意思決定記録 | 試算前提、選択肢比較、リスク説明、関係者説明資料 | 後から説明できる承継設計に影響 |