専門家へ依頼すべき業務範囲と報酬の考え方|事業承継税制を「申請代行」で終わらせないために

事業承継税制を検討するとき、多くの経営者がまず気にされるのは、「そもそもこの制度を使えるのか」「税金はいくら猶予されるのか」「専門家に頼むといくらかかるのか」という三点ではないでしょうか。

制度適用の可否、株価評価、税額試算、そして報酬額。いずれも、確かに重要な論点です。

ただ、ここで一つ注意したいことがあります。事業承継税制への専門家関与を「申請書を出してもらうための費用」とだけ捉えてしまうと、判断を誤ることがあるのです。

法人版事業承継税制は、円滑化法の認定を受けた非上場会社の株式等を、後継者が贈与や相続などによって取得した場合に、一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。その後、後継者の死亡等によって、猶予されていた税額の納付が免除される仕組みになっています。特例措置では、対象株式数の上限が撤廃され、猶予割合が100%とされるなど、一般措置よりも踏み込んだ内容が設けられています。

出典:国税庁|事業承継税制特集

ここで押さえておきたいのは、これは非課税制度ではなく、あくまで納税の猶予・免除を前提とした制度だということです。

適用後に要件を満たせなくなれば、猶予されていた税額の納付に加え、利子税、資金繰り、関係者への説明、金融機関への対応といった問題が一度に立ち上がってきます。

ですから、専門家に依頼すべき業務は、「特例承継計画の作成」「認定申請」「税務申告」だけにとどまりません。

自社株評価、承継シミュレーション、株主構成、遺留分、納税資金、金融機関への説明、継続届出、取消リスク、さらには将来の組織再編や廃業の可能性まで。これらを視野に入れたうえで、どこまでを依頼するのかを設計しておく必要があります。

本記事では、事業承継税制を検討するにあたって、専門家へ依頼すべき業務範囲と報酬の考え方を、実務判断の視点から整理してみたいと思います。

目次

事業承継税制の相談は「制度質問」ではなく「経営判断の設計」

事業承継税制の相談で、最初に整理しておきたいこと。それは「制度を使えるか」ではありません。

むしろ、より重要なのは次のような問いです。

  • 使うべきか
  • いつ使うべきか
  • 誰に承継させるべきか
  • どの株式を、どの範囲で移すべきか
  • 適用後の管理を維持できるか
  • 後継者が経営を継続できるか
  • 他の相続人や少数株主に説明できるか
  • 金融機関に財務の安全性を説明できるか
  • 将来の売却、組織再編、廃業といった選択肢を狭めないか

制度の要件そのものは満たしている会社であっても、後継者がまだ定まっていなかったり、株主構成が不安定だったり、将来的に売却の可能性が高かったり、あるいは納税猶予後の継続管理に耐えられそうにない場合があります。こうしたケースでは、制度の適用を慎重に考えるべき場面が出てきます。

専門家に依頼する価値は、「申請書を作ること」だけにあるのではありません。会社の実態と制度の制約を照らし合わせ、使う場合と使わない場合の選択肢を比較し、後から第三者にも説明できる判断材料を整える。ここにこそ、本来の意味があると考えています。

専門家へ依頼する業務は、大きく7段階に分けて考える

事業承継税制の専門家業務は、外から見るとひとまとまりのように映ります。けれども実際には、いくつもの段階に分かれています。

依頼範囲を曖昧にしたまま進めてしまうと、「株価評価だけを頼んだつもりだった」「税務申告まで含まれていると思っていた」「継続届出の管理は、結局誰がするのか分からない」といった認識のズレが生まれがちです。

実務上は、次の7段階で整理しておくと、全体像がつかみやすくなります。

  1. 初期診断
  2. 資料収集と現状把握
  3. 自社株評価と税額試算
  4. 承継シミュレーションと意思決定支援
  5. 特例承継計画・認定申請
  6. 贈与税・相続税の申告と担保提供
  7. 適用後の年次報告・継続届出・取消リスク管理

このうち、どこまでを依頼するのか。その範囲によって、専門家の関与内容も報酬も大きく変わってきます。

単発の相談で終えるのか、株価評価までなのか、計画作成までなのか、認定申請までなのか、税務申告までなのか、あるいは承継後の継続管理まで含めるのか。この線引きを最初に確認しておくことが、何より大切です。

初期診断で依頼すべきこと

初期診断では、制度の詳細計算に入る前に、そもそも検討を進める価値があるのかどうかを見極めます。

この段階で専門家に確認しておきたいのは、主に次のような点です。

  • 法人版か個人版かの整理
  • 一般措置か特例措置かの整理
  • 対象会社要件の大枠確認
  • 先代経営者、後継者、株主構成の確認
  • 株式の分散状況の確認
  • 資産管理会社に該当するリスクの確認
  • 後継者の経営関与状況の確認
  • 相続人関係の確認
  • 借入金、担保、経営者保証の確認
  • 将来の売却、廃業、組織再編の可能性の確認
  • 検討に必要な追加資料の洗い出し

この段階では、まだ詳細な税額計算や申請書の作成に入る必要はありません。

それよりも、いきなり細かな作業に着手する前に、「この会社で事業承継税制を検討するなら、どこが難所になりそうか」を把握しておくことが大切です。

たとえば、後継者がまだ代表者になる見通しが立っていない、名義株の疑いがある、少数株主との関係が悪化している、会社が多額の不動産や有価証券を抱えている、将来のM&Aの可能性が高い。こうした事情があれば、制度の適用を考える前に、別の論点を整理しておく必要が出てきます。

初期診断の報酬は、単純に面談の時間だけで決まるものではありません。確認すべき資料の量、株主構成の複雑さ、相続人関係、資産構成、過去の株式移動、顧問税理士との連携の要否によって、必要な検討量は変わってきます。

「初回相談無料」の範囲で判断できるのは、多くの場合、方向性の確認までです。適用可否や税務リスクについて踏み込んだ結論まで求めるのであれば、初期診断そのものを正式な業務として依頼したほうが安全です。

自社株評価は、報酬差が出やすい中核業務

事業承継税制の検討では、自社株評価が中核になります。

取引相場のない株式は、その取得者が同族株主等に当たるかどうかによって、原則的評価方式か配当還元方式かで評価します。原則的評価方式をとる場合は、会社規模に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、あるいはその併用方式が用いられます。さらに、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、比準要素数1の会社、開業後3年未満の会社、休業中・清算中の会社など、いわゆる特定の評価会社に該当しないかどうかも、見落とせない論点です。

出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価

自社株評価の報酬は、会社の規模だけで判断できるものではありません。次のような要素によって、作業量とリスクが大きく変わってきます。

  • 株主数が多い
  • 同族株主判定が複雑である
  • 自己株式がある
  • 種類株式がある
  • 名義株の疑いがある
  • 未分割株式がある
  • 従業員持株会がある
  • 子会社や関連会社がある
  • 会社が不動産を多く保有している
  • 土地評価が複雑である
  • 有価証券、貸付金、保険積立金などが多い
  • 役員退職金の支給予定がある
  • 過去に株価対策を行っている
  • 評価通達6項の適用リスクを検討すべき事情がある
  • 会社法上の時価、税務上の時価、相続税評価額を区別する必要がある

簡易な評価で足りる場面もあります。

ただ、事業承継税制の適用判断、贈与と相続の比較、遺留分の説明、金融機関への説明、そして将来の税務調査対応まで見据えるのであれば、評価額そのものだけでなく、「評価の前提」や「評価上の注意点」を説明できる資料が必要になります。

安い株価評価が、必ずしも悪いというわけではありません。けれども、評価の前提、検討の範囲、土地評価の深度、関連会社の評価、特定評価会社の判定、レビューの有無がはっきりしないまま、金額だけで比較してしまうと、後になって大きな差が出てきます。

承継シミュレーションは、単なる税額比較ではない

株価評価の次に重要になるのが、承継シミュレーションです。

ここで専門家に求めたいのは、単に「事業承継税制を使った場合の税額」を出すことではありません。

少なくとも、次のような複数の案を並べて比較したいところです。

  • 生前贈与で事業承継税制を使う案
  • 相続発生時に事業承継税制を使う案
  • 事業承継税制を使わず、通常の相続で承継する案
  • 相続時精算課税を使う案
  • 暦年贈与を組み合わせる案
  • 売買で株式を移す案
  • 一部の株式のみを移す案
  • 自己株式取得で株主構成を整理する案
  • 遺言や遺留分対策を優先する案
  • 承継前に組織再編を検討する案
  • 制度を使わず、M&Aや廃業の可能性を残す案

承継シミュレーションでは、税額だけでなく、後継者の議決権割合、他の相続人への財産配分、納税資金、会社財務、金融機関への説明、そして将来の出口までを、同じテーブルの上で比較していきます。

ここまで踏み込むと、報酬は「税額計算料」というより「意思決定支援料」に近いものになります。

専門家に依頼する際は、成果物として何が出てくるのかを確認しておきたいところです。単なる税額の一覧なのか、選択肢の比較表なのか、関係者への説明資料なのか、それとも意思決定の記録まで含むのか。これによって、業務の価値も報酬も変わってきます。

特例承継計画の作成は、形式的な記入では足りない

法人版事業承継税制の特例措置を使う場合、特例承継計画の提出が重要になります。

中小企業庁は、この特例措置について、特例承継計画の提出期限を令和9年9月30日まで、贈与・相続による株式取得の期限を令和9年12月31日までとしています。また、特例承継計画には、後継者の氏名、事業承継の予定時期、承継時までの経営の見通し、承継後5年間の事業計画などを記載し、認定経営革新等支援機関による指導・助言を受けることが求められています。

出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)

ここで気をつけたいのは、特例承継計画は単なる申請書類ではない、ということです。

形式的に提出するだけなら、作業量は限られているように見えるかもしれません。けれども実務上は、次のような点を確認しておかないと、計画としての意味が薄れてしまいます。

  • 後継者は、実際に経営を引き受ける意思と能力があるか
  • 承継の予定時期は妥当か
  • 先代経営者の退任時期は整理されているか
  • 株式移転の順序は、制度要件と整合しているか
  • 複数の株主からの承継を想定しているか
  • 承継後5年間の事業計画は現実的か
  • 雇用、役員構成、借入、保証、資金繰りに無理はないか
  • 将来の組織再編や売却の可能性をどう考えるか
  • 後継者以外の相続人への説明と矛盾しないか

特例承継計画の報酬は、単なる様式の記入であれば、低く見えることもあります。けれども、事業計画、株主構成、財務計画、相続対策、継続管理までを踏まえて作成するとなると、必要な検討量はまったく違ってきます。

「計画の提出だけを依頼する」のか、それとも「承継方針の設計から依頼する」のか。この二つは、分けて考える必要があります。

認定申請は、都道府県手続と税務手続を分けて依頼する

事業承継税制では、都道府県への認定手続と、税務署への申告手続が分かれています。

中小企業庁も、法人版の特例措置について、都道府県知事による認定を受けた後、贈与税・相続税の納税猶予を受けるためには、税務申告の際に別途手続が必要であると案内しています。

出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)

専門家に依頼する際は、次のような区分を明確にしておきます。

  • 特例承継計画の作成・提出
  • 都道府県への認定申請
  • 贈与契約や株式移転の手続
  • 株主名簿の書換、譲渡承認、登記等の会社法手続
  • 贈与税申告または相続税申告
  • 担保提供の手続
  • 税務署への添付書類の整理
  • 提出控え、受付記録、期限の管理

都道府県の認定を受けたからといって、税務申告まで完了したわけではありません。逆に、税務申告を済ませたからといって、会社法上の株式移転手続や株主名簿の管理が正しく行われているとは限りません。

だからこそ、税理士・公認会計士、弁護士、司法書士、行政書士、そして社内担当者の役割分担を、あらかじめ整理しておくことが重要になります。

税務申告は、税理士業務の範囲を理解して依頼する

贈与税申告、相続税申告、税務署への手続、税務相談については、税理士業務との関係を理解しておく必要があります。

国税庁は、税理士法第2条に基づく税理士業務として、税務代理、税務書類の作成、税務相談の三つを挙げています。税務代理は、税務官公署に対する申告等について代理・代行することです。税務書類の作成は、税務官公署に提出する申告書等を、自己の判断に基づいて作成することを指します。税務相談は、租税の課税標準等の計算に関する事項について、具体的な質問に答弁・指示・意見表明することとされています。

出典:国税庁|2 税理士の業務

したがって、税務申告や税務判断を依頼する場合には、税理士または税理士法人の関与が前提になります。

事業承継税制では、次のような税務判断が問題になります。

  • 贈与税申告の要否
  • 相続税申告の要否
  • 納税猶予額の計算
  • 猶予対象外税額の把握
  • 担保提供の要否
  • みなし相続取得の扱い
  • 贈与税猶予から相続税猶予への切替え
  • 相続時精算課税との関係
  • 自己株式取得時のみなし配当
  • 低額譲渡、みなし贈与、譲渡所得課税
  • 役員退職金、死亡退職金の税務
  • 評価誤りや否認のリスク

申請支援と税務申告支援は、似ているようでいて、業務の性質がまったく異なります。

報酬を確認する際も、「認定申請まで含むのか」「税務申告まで含むのか」「申告後の税務署対応まで含むのか」を、はっきりさせておく必要があります。

継続届出・年次報告は、適用後の顧問的管理として考える

事業承継税制は、適用して終わり、という制度ではありません。

国税庁は、非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予を継続して受けるためには、継続届出の手続が必要であると案内しています。仮に期限までに継続届出書を提出しなかった場合には、その提出期限の翌日から2か月を経過する日に、納税猶予に係る期限が確定するとされています。提出の時期は、贈与税または相続税の申告期限後5年間は毎年、5年を経過した後は3年ごととされています。

出典:国税庁|B1-78 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予の継続届出手続(一般措置)

法人版の特例措置についても、認定を受けた後は、都道府県庁への年次報告書、税務署への継続届出書の提出が必要になります。具体的には、税務申告後5年以内は毎年、その後は税務署への継続届出書を3年に一度提出する、という流れが示されています。

出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)

こうした事情があるため、専門家報酬を考えるときには、適用時だけでなく、適用後の管理まで含めて見ておくべきです。

具体的には、次のような業務が想定されます。

  • 年次報告書の作成支援
  • 税務署への継続届出書の作成支援
  • 提出期限の管理
  • 添付資料の収集
  • 株式保有状況の確認
  • 代表者要件の確認
  • 同族過半、筆頭株主、議決権要件の確認
  • 雇用要件・従業員数の確認
  • 資産保有型会社・資産運用型会社への該当性の確認
  • 組織再編、株式移動、退職金、自己株式取得時の事前確認
  • 提出控え・証拠資料の保存
  • 取消事由の事前レビュー

これらを毎年の顧問業務に含めるのか、事業承継税制専用の継続管理契約とするのか、それともスポット対応にするのか。あらかじめ決めておく必要があります。

とくに注意したいのは、通常の税務顧問契約に、事業承継税制の継続管理が当然に含まれているとは限らない、という点です。「顧問税理士が見てくれていると思っていたが、実は継続届出は管理の対象外だった」という事態を避けるためにも、契約の範囲を明確にしておくべきです。

専門家ごとの役割を分けて考える

事業承継税制では、複数の専門家が関与することがあります。

税理士・公認会計士、弁護士、司法書士、行政書士、金融機関、認定経営革新等支援機関。それぞれに、得意とする領域があります。

税理士・公認会計士に依頼すべき業務

税理士・公認会計士に依頼する中心業務は、税務・会計・財務の判断です。

具体的には、次のような業務が挙げられます。

  • 自社株評価
  • 相続税・贈与税の試算
  • 納税猶予額の試算
  • 猶予対象外税額の把握
  • 法人税・所得税への波及確認
  • 役員退職金、死亡退職金の設計
  • 自己株式取得の税務検討
  • 会社財務への影響分析
  • 事業計画・資金繰りの確認
  • 特例承継計画の税務・財務面の確認
  • 税務申告
  • 継続届出
  • 税務調査リスクの整理

公認会計士が関与する場合は、財務分析、事業計画、内部管理、金融機関への説明、組織再編、資本政策との接続といった領域に強みが出やすくなります。

なお、税理士登録の有無や業務範囲は、個別に確認すべき事柄です。税務申告・税務代理が必要になる場合には、税理士業務としての体制が整っていることが前提になります。

弁護士に依頼すべき業務

弁護士に依頼すべきなのは、法的紛争、相続法務、会社法上のリスクが絡む領域です。

たとえば、次のような場面が考えられます。

  • 遺留分侵害額請求のリスクが高い
  • 相続人間の対立がある
  • 少数株主との紛争がある
  • 名義株の帰属に争いがある
  • 株主間契約を検討する
  • 種類株式、黄金株、属人的定めを設計する
  • スクイーズアウト等の株式集約手法を検討する
  • 遺言、遺産分割、代償分割に法的リスクがある
  • 役員責任や株主代表訴訟のリスクがある
  • M&Aや組織再編へ移行する可能性がある

税務上は合理的に見える承継案であっても、相続法務や会社法上のリスクが高ければ、実行した後に紛争へと発展しかねません。

弁護士費用は、紛争を予防する段階と、紛争に対応する段階とで、大きく異なります。事業承継税制の検討段階で、紛争が起きる前にレビューを受けておくほうが、結果として会社を守りやすくなります。

司法書士に依頼すべき業務

司法書士に依頼する主な業務は、登記や会社法手続の実行支援です。

具体的には、次のような業務が挙げられます。

  • 役員変更登記
  • 代表取締役変更登記
  • 定款変更に伴う登記
  • 種類株式の発行・変更に関する登記
  • 組織再編登記
  • 相続登記
  • 不動産の名義変更
  • 株式移転に伴う会社法手続の確認支援

事業承継税制は株式税務の制度ですが、実際の承継では、役員変更、不動産、定款、登記といった手続が連動して動くことがあります。

税務判断だけで進めず、登記や会社法手続の実行可能性を、早めに確認しておくことが重要です。

行政書士・認定支援機関に依頼すべき業務

認定申請書類の作成支援や行政手続の支援では、行政書士や認定経営革新等支援機関が関与することがあります。

中小企業庁は、認定経営革新等支援機関について、専門知識や実務経験が一定レベル以上の者を国が認定する公的な支援機関であると説明しています。商工会・商工会議所、金融機関、税理士、公認会計士、弁護士等が、主な認定支援機関として認定されています。

出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)

ただし、認定支援機関であることと、税務申告、株価評価、相続法務、会社法手続、金融機関交渉のすべてに対応できることは、同じではありません。

認定支援機関に依頼する場合も、どの領域まで対応できるのか、税務申告や法務のレビューは誰が担当するのかを、確認しておく必要があります。

金融機関に相談すべき業務

金融機関は、税制の適用そのものを判断する専門家ではありません。けれども、承継後の財務の安全性を考えるうえでは、重要な関係者です。

相談しておきたいのは、次のような内容です。

  • 経営者保証の承継
  • 借入条件の見直し
  • 担保の変更
  • 役員退職金支給後の財務影響
  • 自己株式取得による資金流出
  • 後継者の経営計画
  • 金融支援の可能性
  • 承継後の資金繰り
  • 金融機関向けの説明資料

納税猶予を使えば、個人の納税資金の問題が軽くなることはあります。ただ、会社財務、借入返済、保証、金融機関からの評価といった問題は、それとは別に残ります。

報酬は「作業量」だけでなく「判断リスク」で考える

事業承継税制の報酬を考えるとき、「書類作成に何時間かかるか」だけで判断するのは適切ではありません。

報酬に影響するのは、主に次のような要素です。

  • 資料量
  • 会社数
  • 株主数
  • 相続人の数
  • 株価評価の複雑さ
  • 不動産評価の有無
  • 関連会社・子会社の有無
  • 過去の株式移動の有無
  • 名義株、所在不明株主の有無
  • 複数後継者の有無
  • 親族外承継かどうか
  • 先代以外の株主からの承継があるか
  • 相続発生後の案件か、生前対策か
  • 申請期限までの余裕
  • 税務申告まで含むか
  • 継続届出まで含むか
  • 弁護士・司法書士等との連携が必要か
  • リスク説明資料や意思決定記録を作成するか
  • 専門家レビューの深度

同じ「事業承継税制の相談」であっても、単純な親族内承継と、少数株主・不動産・複数後継者・相続紛争・金融機関対応が絡む案件とでは、必要な専門性も、負うべき責任も、まったく異なります。

報酬が高いか安いかは、金額だけでは判断できません。何を成果物とし、どこまで責任を持ち、どのリスクを検討し、どの範囲を別途扱うのか。ここを確認することが重要です。

報酬形態は、段階別に分けると分かりやすい

事業承継税制の報酬は、段階別に分けて考えると整理しやすくなります。

初期診断報酬

初期診断は、制度適用の方向性と主要なリスクを整理する業務です。この段階では、詳細な株価評価や申請書の作成までは含まれないのが一般的です。

成果物としては、初期診断レポート、論点整理表、必要資料リスト、今後の検討ステップなどが考えられます。

株価評価報酬

株価評価は、評価明細の作成、評価方式の判定、関連会社の評価、土地評価、特定評価会社の判定などを含む業務です。

簡易な評価なのか、それとも申告や説明資料にも耐える評価なのか。この点を確認しておく必要があります。

承継シミュレーション報酬

承継シミュレーションは、贈与・相続・売買・非適用案などを比較する業務です。

税額だけでなく、議決権、相続人、納税資金、会社財務まで比較する場合には、単なる計算業務ではなく、判断支援業務という位置づけになります。

特例承継計画作成報酬

特例承継計画の作成では、記載内容、事業計画、認定支援機関の指導・助言、提出前のレビューが含まれるかどうかを確認します。

形式的な作成にとどまるのか、承継方針の設計まで含むのか。これによって報酬は変わってきます。

認定申請報酬

都道府県への認定申請では、申請書、添付資料、提出管理、自治体との照会対応が含まれるかどうかを確認します。

税務申告報酬

贈与税申告・相続税申告では、納税猶予の適用、添付書類、担保提供、相続財産全体の申告、他の特例との関係を確認します。

相続税申告の全体を含むのか、それとも事業承継税制の部分だけなのか。これは分けて確認しておくべきです。

継続管理報酬

年次報告、継続届出、期限管理、取消事由のチェック、株式保有状況の確認などを、毎年または3年ごとに管理する業務です。

通常の顧問料に含めるのか、それとも別契約とするのか。明確にしておきます。

高リスク案件レビュー報酬

名義株、少数株主との紛争、組織再編、医療法人、農地、評価通達6項、税務調査リスクなどがある場合には、別途レビューが必要になることがあります。

この場合は、複数の専門家が連携するための費用も含めて考えておくべきです。

「安い見積り」を比較するときに確認すべきこと

報酬を比較すること自体は、自然なことです。

ただ、事業承継税制においては、見積書の金額だけを比べてもあまり意味がありません。確認しておきたいのは、次のような点です。

  • 初期診断は含まれているか
  • 株価評価は簡易評価か、正式評価か
  • 土地評価は含まれているか
  • 関連会社の評価は含まれているか
  • 特定評価会社の判定は含まれているか
  • 特例承継計画の事業計画部分まで支援するか
  • 認定支援機関の関与は含まれているか
  • 都道府県への認定申請は含まれているか
  • 贈与税・相続税申告は含まれているか
  • 担保提供の支援は含まれているか
  • 継続届出は何年分含まれているか
  • 取消リスクの説明資料は含まれているか
  • 関係者への説明資料は含まれているか
  • 弁護士、司法書士との連携は含まれているか
  • 税務調査への対応は含まれているか
  • 期限管理の責任範囲は明記されているか
  • 契約書や業務委嘱書に範囲が書かれているか

安い見積りであっても、それが必要十分な業務に絞った合理的なものであれば、問題はありません。けれども、重要な業務が含まれていないために安く見えているのだとすれば、後から追加費用やリスクが発生することになります。

事業承継税制では、報酬の安さよりも、判断の前提と責任範囲がどれだけ明確か。ここを重視すべきだと考えています。

依頼前に確認すべき質問

専門家へ依頼する前に、次のような質問をしておくと、認識違いを防ぎやすくなります。

  • 「今回の業務範囲は、初期診断までですか。株価評価、計画作成、認定申請、税務申告、継続届出まで含みますか」
  • 「株価評価は、簡易試算ですか。申告や関係者説明に使える前提整理まで含みますか」
  • 「事業承継税制を使わない選択肢も、比較してもらえますか」
  • 「後継者以外の相続人への説明や、遺留分リスクの整理は含まれますか」
  • 「少数株主、名義株、所在不明株主の確認は、業務範囲に含まれますか」
  • 「特例承継計画の提出後、贈与・相続を実行するまでの期限管理は、誰が行いますか」
  • 「都道府県への認定申請と、税務署への申告手続は、どちらも対応範囲に含まれますか」
  • 「継続届出や年次報告は、適用後も継続して管理してもらえますか」
  • 「組織再編、M&A、廃業を検討する場合、事前に取消リスクを確認してもらえますか」
  • 「弁護士、司法書士、金融機関との連携が必要になった場合、どのように進めますか」
  • 「見積りに含まれない業務は、何ですか」

こうした確認をせずに依頼してしまうと、専門家の側は「そこまでは依頼されていない」と考え、依頼者の側は「当然見てくれていると思っていた」と考える。そんなすれ違いが起こりかねません。

専門家報酬は「節税額の一部」ではなく「判断品質への投資」と考える

事業承継税制の報酬を、「猶予される税額に対して高いか安いか」という物差しだけで見るのは、危険です。

なぜなら、専門家が担うべき価値は、税額を下げることだけではないからです。

本当に重要なのは、次のような価値だと考えています。

  • 制度を使うべきかを判断できる
  • 使わない選択肢も比較できる
  • 株価評価の前提を説明できる
  • 後継者の経営権を安定させられる
  • 他の相続人への説明材料を整えられる
  • 金融機関に財務の安全性を説明できる
  • 期限の徒過を防げる
  • 継続届出を管理できる
  • 取消リスクを事前に把握できる
  • 将来の組織再編・廃業・売却の際に、慌てずに済む
  • 税務調査や関係者間のトラブルに備えた記録を残せる

報酬は、申請書を作る手間だけに対する対価ではありません。承継判断の品質、説明可能性、継続管理、そして会社を守るためのリスク低減。これらに対する対価なのです。

依頼範囲を曖昧にしないための実務的な進め方

専門家に依頼する際は、段階ごとに契約を分けるという方法が有効です。

たとえば、次のような進め方が考えられます。

  • 第1段階:初期診断と資料整理を依頼する
  • 第2段階:自社株評価と税額試算を依頼する
  • 第3段階:承継シミュレーションと関係者説明資料を依頼する
  • 第4段階:特例承継計画と認定申請を依頼する
  • 第5段階:贈与・相続実行時の税務申告を依頼する
  • 第6段階:継続届出と年次管理を依頼する

このように分けておけば、途中で「制度を使わない」という判断になった場合でも、無駄な申請作業に進まずに済みます。

また、段階ごとに成果物を確認できるという利点もあります。初期診断レポート、株価評価資料、税額比較表、承継シミュレーション、特例承継計画、認定申請書、申告書の控え、継続管理表。何が納品されるのかを、あらかじめ確認しておくことが重要です。

まとめ|専門家選びは「誰が申請できるか」ではなく「誰が判断を支えられるか」で考える

事業承継税制の専門家選びで大切なのは、単に「申請できる人」を探すことではありません。

必要なのは、会社の状況を見たうえで、制度を使うべきか、いつ使うべきか、誰にどの範囲を承継させるべきか、適用後に維持できるか。これらを一緒に整理してくれる専門家です。

事業承継税制には、税務、財務、会社法、相続法務、株主構成、金融機関対応、継続管理が絡み合っています。専門家報酬は、単なる書類作成料ではなく、これらの論点を誤らないための、判断品質への投資と考えるべきです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、事業承継税制の検討にあたり、制度適用の可否だけでなく、自社株評価、納税猶予額、猶予対象外税額、後継者体制、株主構成、納税資金、金融機関への説明、継続届出、取消リスクまでを含めた整理を重視しています。

「制度を使えるか」だけでなく、「使うべきか」「どこまで専門家に依頼すべきか」「報酬に見合う検討範囲は何か」を確認したい場合は、現在の決算書、株主名簿、定款、登記簿、相続関係、借入資料などを整理したうえで、ご相談ください。早い段階で業務範囲を明確にしておくことで、不要な作業を避けながら、必要な検討を漏らさず進めやすくなります。

振り返り|専門家へ依頼すべき業務範囲と報酬の考え方

検討項目依頼すべき主な内容報酬を考える視点
初期診断制度適用の可能性、主要リスク、必要資料の整理面談時間だけでなく、論点抽出の深さを見る
資料収集決算書、申告書、株主名簿、定款、登記簿、相続関係、借入資料の確認資料量と不備確認の範囲で変わる
自社株評価同族株主判定、会社規模、評価方式、特定評価会社判定簡易評価か、申告・説明対応評価かを確認する
税額試算贈与税、相続税、猶予税額、猶予対象外税額、取消時負担税額だけでなく資金繰りまで見る
承継シミュレーション贈与・相続・売買・非適用案の比較計算業務か、意思決定支援かで報酬が変わる
特例承継計画後継者、承継時期、経営見通し、5年計画、認定支援機関の助言形式記入か、承継方針設計まで含むかを確認する
認定申請都道府県への申請書、添付資料、照会対応税務申告とは別業務として範囲を確認する
税務申告贈与税・相続税申告、担保提供、添付書類税理士業務として誰が責任を持つか確認する
継続届出年次報告、継続届出、期限管理、取消事由の確認適用後の顧問的管理として考える
法務対応遺留分、遺言、株主紛争、名義株、種類株式、契約弁護士レビューの要否を早めに判断する
登記・会社法手続役員変更、定款変更、種類株式、組織再編、不動産登記司法書士との連携範囲を確認する
金融機関対応借入、保証、退職金、自己株式取得、事業計画税務メリットではなく財務の安全性を説明する
報酬比較見積書の金額、含まれる業務、含まれない業務安さではなく、業務範囲と判断責任で比較する
継続管理株式保有、代表者要件、資産管理会社化、組織再編時の確認申請時だけでなく、制度維持まで見据える
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