マンション・区分所有財産の相続税評価|令和6年以後の評価見直しと申告実務の注意点

分譲マンションを相続や贈与で引き継ぐとき、その相続税評価については「固定資産税評価額を見れば終わり」「路線価に敷地権割合を掛ければ終わり」と考えられがちです。

しかし、令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産、いわゆる分譲マンションについては、従来の土地・家屋評価に加えて、評価乖離率や区分所有補正率を用いた評価方法を確認しなければなりません。

とりわけ、都心部の高層マンション、築浅マンション、所在階が高いマンション、敷地持分が小さいマンションでは、従来評価と市場価格との乖離が大きくなりやすく、相続税評価額が従来より高くなることがあります。

もっとも、すべてのマンションで評価額が上がるわけではありません。評価水準によっては補正が不要となる場合もありますし、一定の場合には評価額が下がる方向の補正となることもあります。

ここで大切なのは、評価額だけを見て判断しないことです。

そのマンションを誰が取得するのか。住み続けるのか、貸すのか、売却するのか。小規模宅地等の特例の対象になるのか。賃貸中であれば、貸家・貸家建付地として評価できるのか。一次相続だけでなく、二次相続でどう影響するのか。そして、税務調査の際に評価根拠を説明できる資料を残せるのか。

マンション評価は、単なる計算上の論点ではありません。財産評価、遺産分割、納税資金、将来の売却、家族間の公平感が幾重にも重なる、実務そのものの論点です。

この記事では、令和6年以後の居住用区分所有財産の評価方法を中心に、相続税申告や贈与の実行前に確認しておきたいポイントを整理していきます。

目次

まず結論|マンション評価は「家屋+敷地利用権+補正率」で確認する

令和6年1月1日以後に取得した居住用の区分所有財産の評価では、従来どおり建物部分と土地部分を分けて評価したうえで、一定の場合に区分所有補正率を乗じます。

確認項目実務上のポイント
評価対象居住用の区分所有財産、いわゆる分譲マンションの一室
評価の構成区分所有権、すなわち家屋部分と、敷地利用権、すなわち土地部分を分けて評価する
従来評価家屋は固定資産税評価額、土地は敷地全体の評価額に敷地権割合等を乗じる
令和6年以後の補正評価乖離率・評価水準を計算し、区分所有補正率を判定する
評価額が上がりやすい例築浅、高層階、総階数が多い、敷地持分が小さいマンション
適用外となる例事業用テナント、一棟所有の賃貸マンション、一定の低層集合住宅、一定の二世帯住宅など
貸付物件補正後の自用評価額を基に、貸家・貸家建付地評価を検討する
小規模宅地等補正後の敷地利用権の価額を基に、適用可否と限度面積を検討する
実務上の注意相続税評価額と遺産分割上の時価、売却見込額は一致しない
判断軸評価額、利用方針、分割の公平性、納税資金、二次相続、説明可能性をあわせて確認する

国税庁は、令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産について、令和5年9月28日付の法令解釈通達に基づき評価するとしています。

出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価
出典:国税庁|居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)

なぜマンション評価が見直されたのか

相続税評価では、財産の価額は原則として時価によります。財産評価基本通達では、時価とは、課税時期における現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいう、とされています。

ただし実務では、個々の財産について毎回市場価格や鑑定評価額を求めるわけではありません。財産評価基本通達に定められた方法によって評価するのが基本です。

マンションについても、従来から、建物部分は固定資産税評価額、土地部分はマンション敷地全体の路線価等による評価額に敷地権割合を乗じる方法が用いられてきました。

ところが、都心部や高層マンションでは、実際の市場価格に比べて相続税評価額が大きく低くなることがありました。そこで、居住用の区分所有財産について、評価乖離率と区分所有補正率を用いる新たな評価方法が整備されたのです。

ここで気をつけておきたいのは、この新制度が「マンションの時価を直接計算する制度」ではないという点です。あくまで、従来評価と市場価格との乖離が大きくなりやすい要素を一定の算式に反映させ、相続税・贈与税の評価の均衡を図るための仕組みだとご理解ください。

出典:国税庁|財産評価基本通達 第1章 総則
出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価
出典:国税庁|居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)

対象となるマンション・対象外となるマンション

新しい評価方法の対象は、すべてのマンションではありません。まずは、その財産が「居住用の区分所有財産」に該当するかどうかを確認します。

区分取扱い
分譲マンションの一室原則として対象になり得る
居住用の専有部分登記簿上の建物の種類に「居宅」を含むものは対象になり得る
事業用テナント物件構造上、主として居住用途に供することができないものは対象外
一棟所有の賃貸マンション区分建物の登記がされていないものは対象外
総階数2以下の低層集合住宅一定の場合、対象外
専有部分3室以下で全て所有者・親族居住のものいわゆる二世帯住宅などとして対象外となる場合がある
たな卸商品等不動産販売業者等が販売目的で保有するものは対象外
借地権付分譲マンションの底地貸宅地、すなわち底地側の評価には本通達は適用されない

実務でまず大切にしたいのは、「マンション」という名称だけで判断しないことです。登記事項証明書上の区分建物の登記、専有部分の種類、総階数、部屋数、居住実態、棚卸資産該当性を、ひとつずつ確認していきます。

たとえば、被相続人が賃貸用として一棟マンションを所有していた場合、区分建物の登記がされていなければ、この居住用区分所有財産の評価通達ではなく、通常の土地・建物評価や貸家・貸家建付地評価、小規模宅地等の特例などを検討することになります。

出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価

評価の基本構造|区分所有権と敷地利用権を分ける

分譲マンションの相続税評価は、家屋部分と土地部分を分けて考えるところから始まります。

部分内容従来の基本的な評価
区分所有権専有部分と共用部分持分を含む家屋部分固定資産税評価額を基に評価
敷地利用権敷地権または敷地共有持分などの土地部分マンション敷地全体の評価額に敷地権割合等を乗じる
居住用区分所有財産上記の家屋部分と土地部分の合計令和6年以後は、一定の場合に区分所有補正率を乗じる

たとえば、路線価地域にある分譲マンションであれば、土地部分は次のように考えます。

手順内容
1マンション敷地全体の評価額を路線価方式等で計算する
2敷地権割合または敷地共有持分割合を確認する
3敷地全体の評価額に敷地権割合等を乗じて、対象住戸の敷地利用権の価額を計算する
4区分所有補正率の適用がある場合は、補正後の敷地利用権の価額を計算する

建物部分は、固定資産税評価額を基に評価します。固定資産税課税明細書や名寄帳に記載された金額を確認することになりますが、マンションでは建物部分と土地部分の情報が分かれて記載されていることがあります。資料の読み違いには注意が必要です。

出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価
出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価

区分所有補正率の考え方

令和6年以後の居住用区分所有財産の評価では、評価乖離率、評価水準、区分所有補正率を、この順番で確認していきます。

評価乖離率は、次の要素を用いて計算します。

要素内容評価への影響の考え方
築年数建築時から課税時期までの期間築年数が古くなるほど、評価乖離率を下げる方向
総階数指数総階数を33で除した値。ただし1を超える場合は1総階数が多いほど、評価乖離率を上げる方向
所在階対象住戸の所在階高層階ほど、評価乖離率を上げる方向
敷地持分狭小度敷地利用権の面積 ÷ 専有部分の面積敷地持分が小さいほど、評価乖離率を上げる方向になりやすい
定数3.220算式上加算される定数

評価乖離率の算式は、次のとおりです。

評価乖離率 = A + B + C + D + 3.220

A、B、C、Dは、それぞれ次のように計算します。

記号算式
A築年数 × △0.033
B総階数指数 × 0.239
C所在階 × 0.018
D敷地持分狭小度 × △1.195

評価水準は、評価乖離率の逆数です。

評価水準 = 1 ÷ 評価乖離率

そして、この評価水準に応じて区分所有補正率を判定します。

評価水準区分所有補正率
評価水準 < 0.6評価乖離率 × 0.6
0.6 ≦ 評価水準 ≦ 1補正なし
1 < 評価水準評価乖離率

この仕組みによって、従来評価が市場価格に比べて低すぎると推計される場合には評価額が引き上げられ、逆に従来評価が高すぎると推計される場合には引き下げ方向の補正が行われることになります。

ただし、評価乖離率や0.6という数値については、通達上、適時見直しを行うものとされています。そのため、長期にわたる相続対策や贈与計画では、現在の算式だけを前提に効果を固定的に見込むのではなく、将来の見直しの可能性も意識しておく必要があります。

出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価
出典:国税庁|居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)

評価額が上がりやすいマンションの特徴

区分所有補正率は、最終的には個別の資料に基づいて計算する必要がありますが、評価額が上がりやすいマンションには一定の傾向があります。

特徴理由
築浅築年数によるマイナス要素が小さい
総階数が多い総階数指数が評価乖離率を押し上げる
所在階が高い所在階が評価乖離率を押し上げる
敷地持分が小さい敷地持分狭小度が小さくなり、評価乖離率が大きくなりやすい
市場価格が高い都心部物件従来評価と市場価格の乖離が生じやすい
いわゆるタワーマンション総階数、所在階、敷地持分の要素が重なりやすい

とはいえ、「タワーマンションだから必ず評価額が大幅に上がる」「低層マンションだから関係ない」といった単純な決めつけはできません。総階数、所在階、築年数、専有面積、敷地権割合、敷地面積を確認したうえで、実際に評価乖離率を計算する必要があります。

また、補正後の相続税評価額は、売却可能額そのものではありません。遺産分割で相続人間の公平性を検討する場面では、相続税評価額だけでなく、実勢価格、売却見込額、賃貸中か空室か、管理費・修繕積立金、将来の修繕負担なども考え合わせる必要があります。

評価で使う資料と確認ポイント

マンション評価では、資料が1つ欠けるだけで計算が止まってしまうことがあります。なかでも、敷地権割合、専有部分の面積、築年数、所在階、総階数は、評価乖離率の計算に直結する数値です。

必要資料確認する内容
登記事項証明書 建物区分建物か、建物の種類、専有部分の床面積、所在階、建築年月日
登記事項証明書 土地または敷地権情報敷地権の割合、敷地の所在、地目、地積
固定資産税課税明細書家屋部分の固定資産税評価額、土地部分の評価情報
名寄帳共有・複数物件の把握、課税明細書に載らない情報の確認
公図・地積測量図敷地の範囲、筆の構成、私道・共有地の有無
路線価図・評価倍率表土地部分の評価方式、路線価、借地権割合
管理規約・重要事項調査報告書敷地利用権、共用部分、管理費、修繕積立金、利用制限
賃貸借契約書貸家・貸家建付地評価、賃貸割合、サブリースの有無
入居状況資料課税時期の賃貸状況、空室期間、一時的空室かどうか
売買契約書・購入資料取得時期、取得価額、将来売却時の取得費資料
近隣売買事例・査定資料遺産分割や売却判断の参考資料

評価乖離率の計算では、専有部分の面積について、不動産登記規則上の建物の床面積を用いることとされています。販売パンフレットや広告に記載された壁芯面積とは異なることがあるため、登記事項証明書での確認が欠かせません。

出典:国税庁|居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)
出典:国税庁|B2-6 居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書

貸付マンションの場合|補正後の自用評価を基に貸家・貸家建付地を考える

相続したマンションが賃貸中である場合は、居住用区分所有財産の評価と、貸家・貸家建付地評価の両方を整理する必要があります。

国税庁は、居住用の区分所有財産が貸家および貸家建付地である場合、その貸家および貸家建付地の評価ならびに小規模宅地等の特例の適用については、居住用区分所有財産の算式により計算した価額を基に行うとしています。

つまり、賃貸中だからといって区分所有補正率を無視してよいわけではありません。

大まかな順序としては、次のようになります。

手順内容
1区分所有権、すなわち家屋部分の補正前価額を確認する
2敷地利用権、すなわち土地部分の補正前価額を確認する
3評価乖離率、評価水準、区分所有補正率を計算する
4補正後の家屋部分・土地部分の価額を把握する
5賃貸借契約、借家権割合、賃貸割合、空室状況を確認する
6貸家・貸家建付地としての評価を検討する
7貸付事業用宅地等の小規模宅地等の特例が使えるかを検討する

賃貸マンションでは、税務調査の際に次のような点が確認されやすくなります。

論点確認すべきこと
賃貸借契約の有無契約書、賃料、契約期間、更新状況
賃貸割合課税時期に実際に貸していたか
空室一時的空室か、長期空室か
サブリース契約当事者、実際の転貸状況、空室保証の内容
親族への貸付相当の対価か、使用貸借ではないか
法人への貸付同族会社との契約実態、賃料水準
管理費・修繕積立金収益性、将来負担、売却判断への影響

貸付事業用宅地等の特例については、相当の対価を得て継続的に行う貸付けであること、3年以内貸付宅地等の制限、取得者の事業承継・保有継続要件などを確認する必要があります。単に賃貸中であるというだけでは、十分とはいえません。

出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価
出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

自宅マンションと小規模宅地等の特例

被相続人の自宅マンションを相続する場合は、敷地利用権について小規模宅地等の特例、とりわけ特定居住用宅地等の適用を検討します。

特定居住用宅地等に該当すれば、一定の面積まで80%の減額が可能です。ただし、適用できるかどうかは、マンションであること自体ではなく、誰が取得するか、被相続人や取得者の居住実態、申告期限までの所有・居住の継続といった点で判断します。

取得者主な確認事項
配偶者取得者ごとの居住・保有継続要件は比較的緩やかだが、分割・申告手続は必要
同居親族相続開始直前から申告期限までの居住継続、所有継続が重要
いわゆる家なき子被相続人に配偶者や同居相続人がいないこと、自宅所有歴など複数要件を確認
生計一親族被相続人と生計を一にしていたか、居住実態、所有継続を確認

区分所有建物では、同じ建物内に住んでいる親族であっても、区分所有建物かどうかによって、小規模宅地等の特例における居住部分の判定が異なる場面があります。二世帯住宅の場合や、親子が同じマンション内の別室に住んでいる場合には、区分所有登記、生活実態、取得者、敷地利用権の対応関係を、丁寧に確認していく必要があります。

また、令和6年以後の居住用区分所有財産では、小規模宅地等の特例を適用する前に、まず区分所有補正率を反映した敷地利用権の価額を把握することになります。特例は、その後に課税価格へ算入すべき価額を減額する制度として整理するとわかりやすいでしょう。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例
出典:国税庁|小規模宅地等の特例の対象となる『被相続人等の居住の用に供されていた宅地等』の判定
出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価

敷地利用権と地積規模の大きな宅地の評価

マンション評価では、どうしても区分所有補正率に目が向きがちです。しかし、その前提として、土地部分、すなわち敷地利用権の補正前価額を正しく計算しておくことが欠かせません。

敷地利用権の価額を計算する際には、マンション敷地全体について、路線価方式、倍率方式、画地補正、私道、セットバック、都市計画道路予定地、地積規模の大きな宅地の評価などを確認していきます。

とりわけ、マンションの敷地面積が大きい場合には、地積規模の大きな宅地の評価を検討する場面があります。このとき、共有地について国税庁は、共有者の持分に応じてあん分する前の共有地全体の地積により地積規模を判定するとしています。

ただし、地積規模の大きな宅地の評価は、評価単位ごとに判定します。贈与や遺産分割で分割が行われた場合には、原則として分割後の画地を1画地としつつ、不合理分割に該当するときには分割前の画地で判定することがあります。

したがって、マンション敷地についても、単に「自分の敷地権割合を掛けた面積が小さいから関係ない」と判断するのではなく、敷地全体、評価単位、用途地域、地区区分、指定容積率、地積要件を確認しておく必要があります。

出典:国税庁|地積規模の大きな宅地の評価-共有地の場合の地積規模の判定
出典:国税庁|地積規模の大きな宅地の評価-地積規模の判定
出典:国税庁|No.4609 地積規模の大きな宅地の評価

相続税評価額と遺産分割上の価値は一致しない

マンションの相続で実務上よく問題になるのが、「相続税評価額」と「家族間で公平と感じる価値」が一致しないことです。

たとえば、自宅マンションを長男が取得し、他の相続人には預金を分ける場合を考えてみます。相続税評価額だけを基準にすると、他の相続人が「市場価格より低く見積もられているのではないか」と感じることがあります。

逆に、相続税評価額が補正によって高くなったとしても、築年数、修繕積立金、管理状況、売却時の仲介手数料、譲渡所得税、空室リスクなどを考えると、すぐにその金額で換金できるとは限りません。

目的見るべき価額
相続税申告財産評価基本通達等に基づく相続税評価額
遺産分割の公平性実勢価格、査定額、相続税評価額、取得後負担を総合的に検討
代償分割代償金の支払可能性、取得者の資金力、売却可能性
売却判断市場価格、譲渡所得税、取得費、売却時期
二次相続対策配偶者取得後の評価、特例適用、将来の取得者
納税資金現金化可能性、売却期間、ローン・抵当権の有無

相続税評価額は、あくまで申告上の価額であり、遺産分割における合意形成のための唯一の基準ではありません。家族間の納得感を大切にするなら、評価額の説明だけにとどめず、売却査定、賃料水準、管理費・修繕積立金、残債、将来の利用方針まで含めて話し合っておくことが大切です。

配偶者がマンションを取得する場合の二次相続リスク

一次相続では、配偶者が自宅マンションを取得することが自然に見える場面が多くあります。配偶者の居住を守ることができ、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例によって、一次相続の税負担を抑えられる場合もあるからです。

しかし、二次相続まで視野に入れると、次のような論点が残ります。

論点注意点
配偶者の居住継続本当に住み続けられるか、施設入所時にどうするか
二次相続の取得者子のうち誰が取得するか、共有にするか
売却可能性配偶者死亡後に売却するのか、誰かが住むのか
納税資金二次相続で現預金が不足しないか
評価見直し区分所有補正率や税制が将来変わる可能性
管理負担管理費、修繕積立金、大規模修繕、老朽化
家族間公平マンションを取得する相続人と金融資産を取得する相続人のバランス

一次相続で「とりあえず配偶者へ」と決めること自体が、ただちに誤りというわけではありません。ただ、配偶者が高齢である場合には、判断能力の低下、施設入所、売却の必要性、二次相続時の分割方針まで見ておかないと、次の相続で問題を先送りしてしまうおそれがあります。

生前贈与でマンションを移す場合の注意点

マンションを子や孫へ生前贈与する場合も、令和6年以後は居住用区分所有財産の評価を確認しておく必要があります。

さらに、贈与では相続税評価だけでなく、次の論点も同時に確認しておきたいところです。

論点確認すべきこと
贈与税暦年課税か相続時精算課税か、贈与税申告が必要か
相続財産への加算暦年贈与の相続財産加算、相続時精算課税の相続時加算
登録免許税・不動産取得税相続より贈与の方が移転コストが重くなることがある
収益物件賃料収入の帰属、管理者、修繕負担
住宅ローン抵当権、団体信用生命保険、金融機関承諾
遺留分・特別受益他の相続人から不公平と見られないか
将来売却取得費、譲渡所得税、所有期間
認知症対策贈与時点の意思能力、契約意思、証拠化

とりわけ、相続時精算課税を使ってマンションを贈与する場合は、贈与時の価額が将来の相続税計算に関わってきます。令和6年以後は相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられましたが、いったん選択すると撤回できないため、贈与財産の種類、将来の値上がり・値下がり、二次相続、他の相続人との公平性を踏まえて判断する必要があります。

マンション贈与は、単に「評価額が時価より低いから有利」と考えるべきものではありません。税額、登記コスト、保有負担、家族間での説明可能性まで含めて比較しておくことが大切です。

出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価
出典:国税庁|相続時精算課税制度のあらまし

「マンション節税」として購入する場合の注意点

相続税対策として、現金をマンションに変える提案を受けることがあります。たしかに、不動産は相続税評価額と市場価格に差が出ることがあり、賃貸中であれば貸家・貸家建付地評価も関わってきます。

しかし、令和6年以後の居住用区分所有財産の評価見直しによって、従来のような単純な評価差だけに依存した対策は、成立しにくくなっています。

加えて、財産評価基本通達には、この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産について、国税庁長官の指示を受けて評価する旨の規定があります。したがって、形式的に通達評価を行えば、どのような相続直前の不動産購入でも安全だ、というわけではありません。

マンション購入を相続対策に組み込む場合には、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。

確認事項実務上の意味
購入目的居住、賃貸、資産組換え、納税資金対策のどれか
購入時期相続開始直前の購入では説明が難しくなることがある
借入金相続人が返済を引き継げるか
収益性空室、賃料下落、管理費、修繕積立金
出口戦略売却、保有、居住、次世代承継
家族の納得特定の相続人に負担が偏らないか
税制変更区分所有補正率や評価方法の見直し可能性
説明資料購入検討資料、収支計画、家族への説明記録

相続税対策は、税額の軽減だけでなく、相続争いの防止、納税資金、資産管理、二次相続まで含めて判断すべきものです。マンション購入は、流動性のある現金を不動産に変える行為でもあります。売却に時間がかかる、価格が変動する、管理費等が継続して発生する、という側面があることも忘れてはなりません。

出典:国税庁|財産評価基本通達 第1章 総則
出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価

相続登記・管理面も忘れてはいけない

マンションを相続した場合に必要になるのは、相続税申告だけではありません。相続登記や管理組合への届出、管理費・修繕積立金の支払い、賃貸中であれば賃貸人変更の通知など、いくつもの手続が待っています。

相続登記は、令和6年4月1日から義務化されました。相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があり、正当な理由なく義務に違反した場合には、過料の対象となる可能性があります。

マンションは戸建てより管理が簡単に見えることがあります。しかし実際には、管理規約、長期修繕計画、管理費滞納、修繕積立金の増額、建替え・敷地売却決議など、区分所有特有の管理リスクがあります。

管理面の論点確認すべきこと
管理費・修繕積立金滞納の有無、将来増額予定
長期修繕計画大規模修繕の予定、追加負担の可能性
管理組合総会議決、規約、役員負担
賃貸制限民泊禁止、事務所利用制限、ペット規約
老朽化建替え、敷地売却、耐震性
共有取得相続人間で共有にした場合の意思決定
空室管理郵便物、水漏れ、残置物、鍵管理
売却準備権利証、登記識別情報、取得費資料

出典:法務省|不動産を相続したらかならず相続登記!令和6年4月1日から義務化されました

税務調査で説明できるように残すべき記録

マンション評価では、計算結果だけでなく、どの資料を基に、どの数値を使い、どのような判断をしたのかを残しておくことが重要です。

とりわけ令和6年以後の評価では、区分所有補正率の計算明細書を作成し、申告書に添付するという実務対応が必要になります。計算ツールを使った場合であっても、入力した数値の根拠資料を保存しておかなければ、後から説明できなくなってしまいます。

記録すべき事項残すべき資料
区分建物該当性登記事項証明書、管理規約
居住用該当性建物の種類、利用状況、写真
築年数登記事項証明書、建築年月日
総階数登記事項証明書、建物図面、重要事項説明書
所在階登記事項証明書、販売図面
専有部分面積登記事項証明書
敷地権割合登記事項証明書、敷地権表示
敷地全体の評価路線価図、評価明細、公図、地積資料
貸付状況賃貸借契約書、入金履歴、管理会社資料
空室状況募集資料、退去日、入居申込、管理会社報告
小規模宅地等居住資料、住民票、公共料金、介護施設資料
遺産分割遺産分割協議書、相続人の同意資料
売却予定査定書、媒介契約、売買契約書
評価判断評価メモ、計算過程、専門家確認記録

申告後に評価誤りが見つかれば、修正申告や更正の請求の問題になります。過少申告となれば、延滞税や過少申告加算税などの附帯税が問題となることもあります。

税務調査で問われるのは、「評価額が低いか高いか」だけではありません。評価に必要な資料をきちんと集めたか、評価単位や特例の前提を確認したか、賃貸実態や居住実態をどう判断したか、そして相続人にどのように説明したか――こうした点が重要になります。

出典:国税庁|B2-6 居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書

避けたい短絡的判断

「マンションは固定資産税評価額だけで評価すればよい」と考える

令和6年1月1日以後に取得した居住用区分所有財産では、区分所有補正率の確認が必要です。固定資産税評価額だけで建物部分を見て終わるのではなく、敷地利用権と補正率を含めて評価します。

「タワーマンションは必ず不利になった」と考える

評価額が上がりやすい傾向はあるものの、実際には築年数、総階数、所在階、敷地持分狭小度によって異なります。計算する前に有利・不利を断定することはできません。

「賃貸中なら新しいマンション評価は関係ない」と考える

貸付物件であっても、居住用区分所有財産に該当する場合には、まず区分所有補正率を反映した価額を確認し、その価額を基に貸家・貸家建付地評価を検討します。

「小規模宅地等の特例が使えるから評価は気にしなくてよい」と考える

小規模宅地等の特例は、対象となる敷地利用権の価額を把握したうえで適用します。また、取得者要件、居住継続、所有継続、分割、申告手続を満たさなければ適用できません。

「相続税評価額でそのまま遺産分割すれば公平」と考える

相続税評価額は、あくまで申告上の評価額です。遺産分割では、実勢価格、売却可能性、管理負担、修繕積立金、代償金の支払能力を考慮しないと、相続人間に不満が残ることがあります。

「節税目的で買えばよい」と考える

マンション購入は、税額の軽減だけでなく、借入返済、空室、管理費、修繕積立金、売却価格、将来の税制変更、家族間の納得まで含めた資産承継の判断です。短期的な評価差だけで判断するのは危険です。

相談前に整理しておきたい事項

マンション・区分所有財産の相続税評価をご相談いただく際には、次の情報を整理しておくと、評価、分割、納税資金、将来方針の検討が進めやすくなります。

整理事項具体例
物件情報所在地、マンション名、部屋番号、築年月、総階数、所在階
権利関係単独所有、共有、敷地権割合、借地権付、定期借地権付
利用状況自宅、賃貸、空室、親族使用、法人使用
賃貸資料契約書、賃料入金、管理会社資料、空室期間
固定資産税資料課税明細書、名寄帳、評価証明書
登記資料建物・土地の登記事項証明書、公図、地積測量図
購入資料売買契約書、重要事項説明書、取得費資料
管理資料管理規約、長期修繕計画、管理費・修繕積立金
家族の意向誰が住むか、売るか、貸すか、共有を避けるか
遺産分割案マンション取得者、代償金、預金とのバランス
納税資金現預金、保険、売却予定、借入金
二次相続配偶者取得後の承継先、将来売却方針
贈与履歴過去の持分贈与、相続時精算課税、配偶者控除
申告上の論点小規模宅地等、貸家建付地、地積規模、総則6項リスク

マンション評価は、資料を見なければ判断できない要素が多い分野です。とりわけ、敷地権割合、専有部分面積、築年数、総階数、所在階、賃貸状況、小規模宅地等の特例の前提については、早めに確認しておくことをおすすめします。

まとめ|マンション評価は「計算」ではなく承継判断の入口

令和6年以後、居住用区分所有財産の相続税評価は、従来よりも確認すべき項目が増えました。

区分所有権と敷地利用権を分けて評価し、評価乖離率、評価水準、区分所有補正率を確認する。貸付物件であれば、補正後の価額を基に貸家・貸家建付地評価を検討する。自宅であれば、小規模宅地等の特例の適用可否を、取得者・居住実態・申告期限とあわせて確認する。遺産分割では、相続税評価額だけでなく、実勢価格、管理負担、売却可能性、代償金、二次相続まで見ていく。

マンションは、現金や上場株式に比べると、1つの財産に居住、収益、権利、管理、売却、税務の論点が重なりやすい財産です。

「評価額がいくらか」だけではなく、誰にどう承継させるのか、相続人にどう説明するのか、そして申告後に税務署へどのように根拠を示すのか――そこまで含めて整理しておくことが、後悔の少ない相続税申告につながります。

マンション・区分所有財産の相続税評価でお悩みの方へ

犬飼公認会計士・税理士事務所では、マンション・区分所有財産の相続税評価について、単に評価額を計算するだけでなく、区分所有補正率、敷地利用権、貸付状況、小規模宅地等の特例、遺産分割、納税資金、二次相続まで含めて整理することを大切にしています。

分譲マンションを相続した、賃貸マンションの評価が分からない、自宅マンションで小規模宅地等の特例を使えるか不安、複数の相続人で公平な分け方を検討したい、過去の贈与や将来の売却まで含めて確認したい――そうした場合には、早い段階で資料を整理して検討を始めることが大切です。

評価根拠を残し、相続人間にも税務署にも説明できる申告を目指したい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

振り返り|マンション・区分所有財産評価の重要ポイント

論点振り返り
適用開始令和6年1月1日以後の相続、遺贈、贈与で取得した居住用区分所有財産が対象
評価対象分譲マンションの一室に係る区分所有権と敷地利用権
基本構造家屋部分と土地部分を分けて評価する
従来評価家屋は固定資産税評価額、土地は敷地全体の評価額に敷地権割合等を乗じる
新しい補正評価乖離率、評価水準、区分所有補正率を計算する
評価乖離率の要素築年数、総階数指数、所在階、敷地持分狭小度
補正なしの場合評価水準が0.6以上1以下の場合は補正なし
評価額が上がりやすい例築浅、高層階、総階数が多い、敷地持分が小さいマンション
適用外事業用テナント、一棟所有賃貸マンション、一定の低層集合住宅など
貸付物件補正後の価額を基に貸家・貸家建付地評価を検討する
小規模宅地等補正後の敷地利用権を基に、居住用・貸付用などの要件を確認する
敷地利用権敷地権割合、共有持分、路線価、地積規模などを確認する
遺産分割相続税評価額と実勢価格は一致しないため、家族間説明が重要
二次相続配偶者取得後の承継先、売却、納税資金を確認する
生前贈与贈与税、相続時加算、登記コスト、遺留分をあわせて検討する
節税目的購入税額だけでなく収益性、借入、管理負担、税制変更リスクを確認する
必要資料登記事項証明書、固定資産税資料、敷地権割合、賃貸借契約、管理資料
説明可能性計算明細書だけでなく、入力数値の根拠資料と判断メモを残す
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次