暗号資産やトークンの取引は、「ビットコインを保有している」「トークンを発行した」「ステーキング報酬を受け取った」という事実だけでは、会計処理を決めることができません。
上場企業やIPO準備企業の決算実務では、まず、その対象が資金決済法上の暗号資産なのか、電子決済手段、いわゆるステーブルコインなのか、金融商品取引法上の電子記録移転有価証券表示権利等なのか、あるいは会計基準上の明確な取扱いがない独自トークンなのかを切り分けるところから始まります。
そのうえで、保有目的、活発な市場の有無、自己発行か第三者発行か、移転制限の有無、カストディの方法、秘密鍵の管理、取引所・販売所の価格情報、税務上の期末時価評価、注記・KAM・内部統制への影響を、後から説明できる形に整理しておかなければなりません。
暗号資産は、物理的な形態を持たず、電子的に記録・移転される財産的価値である点に特徴があります。旧来の「仮想通貨」という呼称の時代から、分散型台帳、秘密鍵、ウォレット、取引所、顧客預り資産、分別管理といった論点が、会計・監査上の重要論点として整理されてきました。
本稿では、日本基準を前提に、暗号資産・トークン取引を決算・開示・監査対応へ落とし込むための判断軸を整理します。
まず確認すべきは「トークンの法的・会計的な性質」である
暗号資産・トークン取引の会計処理は、名称ではなく、権利の内容と法的性質から出発します。
「トークン」と呼ばれていても、会計上は少なくとも次のように区分して検討する必要があります。
- 資金決済法上の暗号資産
- 資金決済法上の電子決済手段、いわゆるステーブルコイン
- 金融商品取引法上の電子記録移転有価証券表示権利等、いわゆるセキュリティトークン
- 前払式支払手段、ポイント、ゲーム内アイテム、NFT等に近い性質を持つもの
- 発行者に対する請求権やサービス提供請求権を含むユーティリティトークン
- 権利内容が明確でない、または会計基準上の取扱いが直接定められていない独自トークン
資金決済法上の暗号資産は、代価の弁済のために不特定の者に対して使用でき、不特定の者を相手方として購入・売却でき、電子的に記録・移転できる財産的価値等として整理されています。ただし、法定通貨、通貨建資産、電子決済手段、金融商品取引法上の有価証券として扱われるトークンは、暗号資産から除かれます。出典:金融庁|暗号資産制度について
この入口の判定を誤ると、その後の評価、表示、税務、監査対応がすべてずれてしまいます。
暗号資産に該当するものを有価証券のように処理してしまう。電子決済手段に該当するものを、価格変動性のある暗号資産と同じように扱ってしまう。セキュリティトークンを単なるデジタルデータとして扱ってしまう。こうした誤りは、財務諸表の表示だけでなく、規制対応や開示にも影響します。
そのため、暗号資産・トークン取引では、会計処理の検討に入る前に、少なくとも次の資料を確認しておく必要があります。
- ホワイトペーパー
- 利用規約
- 発行契約
- 販売契約
- 発行体の義務内容
- 保有者の権利内容
- 移転制限の有無
- 取引所または販売所での取扱状況
- 法定通貨との交換可能性
- 暗号資産・電子決済手段・有価証券該当性に関する法務確認資料
- カストディ契約
- ウォレット管理規程
- 税務上の分類検討資料
この分類を曖昧にしたまま「時価評価するか」「取得原価でよいか」を議論しても、判断の根拠は崩れてしまいます。
日本基準では、暗号資産に直接適用できる包括的な既存基準はない
日本基準では、資金決済法上の暗号資産について、企業会計基準委員会の実務対応報告第38号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」が中心的な取扱いを定めています。
同実務対応報告は、資金決済法に規定する暗号資産を対象としつつ、自己または自己の関係会社が発行した資金決済法上の暗号資産を対象外としています。また、暗号資産に関連するビジネスが初期段階にあり、私法上の位置づけも明らかでないことを踏まえ、当面必要と考えられる最小限の項目のみを定めるものとされています。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第38号 資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い
ここで重要なのは、暗号資産を単純に「現金」「金融資産」「棚卸資産」「無形固定資産」のどれかに当てはめるのではなく、暗号資産独自の会計処理として整理されている点です。
実務対応報告第38号の結論の背景では、暗号資産について直接的に参照可能な既存の会計基準は存在しないため、既存基準をそのまま適用せず、暗号資産独自の会計処理を定めたと説明されています。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第38号 資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い
この点は、実務判断のうえでかなり重要です。
暗号資産は、現金のように法定通貨ではありません。金融資産のように、他の企業から現金等を受け取る契約上の権利とも限りません。棚卸資産のように通常の販売目的で保有されることもありますが、常にそうとはいえません。無形固定資産のように、長期使用を目的として保有されるとも限らないのです。
そのため、暗号資産の会計処理では、既存基準との類似性を確認しつつも、最終的には実務対応報告第38号の枠組みに沿って整理していくことになります。
暗号資産の期末評価は「活発な市場」の有無で大きく変わる
資金決済法上の暗号資産を保有する場合、期末評価の中心論点となるのは、「活発な市場」が存在するかどうかです。
実務対応報告第38号では、暗号資産交換業者および暗号資産利用者が保有する暗号資産について、活発な市場が存在する場合には、市場価格に基づく価額を貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額を当期の損益として処理するとされています。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第38号 資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い
一方、活発な市場が存在しない場合には、取得原価を貸借対照表価額とします。ただし、期末における処分見込価額が取得原価を下回る場合には、処分見込価額まで切り下げ、その差額を当期の損失として処理します。過年度に切り下げた損失処理額については、戻入れを行いません。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第38号 資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い
以上を踏まえると、暗号資産の期末評価は次のように整理できます。
| 区分 | 会計処理 |
|---|---|
| 活発な市場が存在する暗号資産 | 市場価格に基づく価額で評価し、評価差額を損益処理 |
| 活発な市場が存在しない暗号資産 | 取得原価。ただし処分見込価額が下回る場合は切下げ |
| 過年度に切下げ済みの暗号資産 | 原則として損失処理額の戻入れは行わない |
| 活発な市場の有無が変化した場合 | 変化時点以後の評価基準の切替えを検討 |
このとき、単に「取引所に上場しているから活発な市場がある」と判断してしまうのは危険です。
実務対応報告第38号では、活発な市場が存在する場合とは、継続的に価格情報が提供される程度に、暗号資産取引所または暗号資産販売所において十分な数量および頻度で取引が行われている場合とされています。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第38号 資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い
上場の有無だけでなく、実際の取引量、取引頻度、価格情報の継続性、取引価格のばらつき、売気配と買気配の乖離、取引所・販売所の信頼性、自己が通常使用する市場との関係まで確認しておく必要があります。
とりわけ、流動性が低いトークン、特定の取引所だけで取引されるトークン、価格形成が不透明なトークン、DEX上でのみ交換されるトークンについては、活発な市場の判断を丁寧に文書化しておくことが求められます。
市場価格は「都合のよい価格」を選ぶものではない
活発な市場が存在する暗号資産については、市場価格を用いて期末評価を行います。しかし、複数の取引所や販売所で価格が存在する場合、どの価格を用いるかが問題になります。
実務対応報告第38号では、活発な市場が存在する暗号資産の期末評価において、暗号資産取引所または販売所で取引されている取引価格を用いる場合、保有する暗号資産の種類ごとに、通常使用する自己の取引実績が最も大きい暗号資産取引所または販売所における取引価格を用いることとされています。取引価格がない場合には、取引所の気配値または販売所の提示価格を用いることとされています。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第38号 資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い
実務上は、次のような管理が必要になります。
- 暗号資産ごとに、通常使用する取引所・販売所を定める
- 期末評価に使用する価格取得時点を定める
- 価格情報の取得方法を統一する
- 価格情報のスクリーンショットやAPI取得データを保存する
- 取引所ごとの価格差が大きい場合の判断ルールを設ける
- 取引停止、上場廃止、流動性低下があった場合の対応を定める
- 決算日前後の価格操作や異常値を検知する仕組みを持つ
暗号資産は価格変動が大きいため、期末日後に価格が大きく下落した場合には、期末時点の評価が誤っていたのか、後発事象なのか、追加開示が必要なのかという論点も生じます。
この場合も、単に価格変動が大きかったというだけで判断するのではなく、期末日時点で入手可能であった情報、期末日時点で市場が機能していたか、取引停止や流動性枯渇が生じていたかを確認していくことになります。
売却損益は総額表示ではなく純額表示が原則となる
暗号資産の売却取引については、売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示します。また、売却損益は、暗号資産の売買の合意が成立した時点で認識します。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第38号 資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い
これは、暗号資産の売買額を売上高と売上原価として総額表示するのではなく、売却損益として純額表示するという考え方です。
もっとも、暗号資産交換業者や暗号資産関連事業を主たる事業とする会社では、取引実態、事業内容、表示科目、営業損益への含め方について、財務諸表利用者に誤解を与えない表示が求められます。単に会計基準上の純額表示に従うだけでなく、経営成績を適切に説明できる表示科目、注記、セグメント情報との整合性まで確認しておく必要があります。
暗号資産交換業者では「顧客預り暗号資産」が固有の論点になる
暗号資産交換業者の場合、自社が保有する暗号資産と、顧客から預託を受けた暗号資産を分けて考えなければなりません。
実務対応報告第38号では、暗号資産交換業者が預託者との預託の合意に基づいて暗号資産を預かった時、預かった暗号資産を資産として認識し、同時に預託者に対する返還義務を負債として認識するとされています。当初認識時の帳簿価額は、預かった時の時価で算定します。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第38号 資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い
期末には、預かった暗号資産に係る資産を、自社保有分と簿価分離したうえで、活発な市場の有無に応じて評価します。ただし、預託者への返還義務として計上した負債の期末貸借対照表価額は、対応する預かった暗号資産に係る資産の期末貸借対照表価額と同額とし、預託暗号資産の期末評価から損益は計上しません。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第38号 資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い
ここでの監査・内部統制上の核心は、顧客預り暗号資産を本当に保全できているかという点にあります。
金融庁の事務ガイドラインでは、暗号資産交換業者が利用者から金銭・暗号資産の預託を受ける場合、利用者財産等の分別管理の適切性を確認する必要があり、自己財産と利用者財産を明確に区分し、個々の利用者の金銭残高・暗号資産数量を直ちに判別できることなどが着眼点として示されています。出典:金融庁|事務ガイドライン 第三分冊:金融会社関係 16 暗号資産交換業者関係
また、自己で受託暗号資産を管理する場合には、自己の暗号資産を管理するウォレットとは別のウォレットで管理し、ブロックチェーン上の有高と帳簿上の残高を毎営業日照合すること、コールドウォレット等による管理を行うことなども、重要な着眼点として示されています。出典:金融庁|事務ガイドライン 第三分冊:金融会社関係 16 暗号資産交換業者関係
暗号資産交換業者については、財務諸表監査に加えて、利用者財産の分別管理に関する外部監査・合意された手続も重要になります。暗号資産交換業者では、財務諸表監査と分別管理監査が区分され、顧客預り資産と自己資産を適切に分別管理しているかが、監査上の重要論点として位置づけられます。
一般事業会社でもカストディと実在性は監査上の重要論点になる
暗号資産交換業者でない一般事業会社が暗号資産を保有する場合でも、実在性と権利帰属の確認は容易ではありません。
預金であれば金融機関の残高証明、有価証券であれば証券会社の残高証明が中心になります。しかし暗号資産では、保管形態によって確認手続が変わってきます。
主な保管形態は次のとおりです。
- 国内暗号資産交換業者に預託している
- 海外取引所に預託している
- カストディ業者に預託している
- 自社でホットウォレットを管理している
- 自社でコールドウォレットを管理している
- マルチシグやMPC等の仕組みを利用している
- DeFiプロトコルに預け入れている
- ステーキングやレンディングにより一定期間移転制限がある
この場合、監査対応では、次のような資料が必要になります。
- ウォレットアドレス一覧
- 秘密鍵または署名権限の管理規程
- 取引所・カストディ業者の残高証明
- オンチェーン残高の確認資料
- 社内帳簿残高とブロックチェーン上残高の照合資料
- 入出庫履歴
- 期末日前後の取引履歴
- 取引承認権限
- 秘密鍵保管場所、アクセス権限、バックアップ管理
- ハッキング・流出時の対応方針
- ステーキング、レンディング、ロックアップの契約条件
暗号資産の監査では、秘密鍵を監査人へ開示すること自体が資産流出リスクになり得ます。そのため、秘密鍵を直接開示せずに、署名手続や少額移転、オンチェーン確認、残高証明、内部統制テスト等を組み合わせながら、実在性と権利帰属をどのように確認するかを検討することになります。暗号鍵を監査人に開示することによるリスク、そして監査人と会社との間で実施可能な手続を協議する必要性は、実務上あらかじめ押さえておきたい点です。
ここは、暗号資産会計のなかでも特に「形式的な残高表だけでは足りない」領域だといえます。
自己発行トークンは、実務対応報告第38号だけでは処理を完結できない
自己発行トークンは、暗号資産会計のなかでも判断が難しい領域です。
実務対応報告第38号は、自己または自己の関係会社が発行した資金決済法上の暗号資産を対象外としています。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第38号 資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い
そのため、企業が自ら発行したユーティリティトークン、ガバナンストークン、サービス利用権付きトークン、発行時に自己に割り当てたトークンなどについては、実務対応報告第38号をそのまま当てはめることはできません。
ASBJは、ICOトークンについて、投資性ICOが金融商品取引法の規制対象となり、投資性ICO以外のICOトークンについては資金決済法上の暗号資産に該当する範囲で資金決済法の規制対象に含まれるという状況を踏まえ、ICOトークンの発行・保有等に係る会計上の取扱いについて論点整理を公表しています。出典:企業会計基準委員会|資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理
自己発行トークンを検討する場合には、少なくとも次の分岐を整理しておきます。
- 発行者が対価を受領しているか
- 発行者が将来財・サービスを提供する義務を負うか
- 保有者に払戻請求権、配当請求権、収益分配請求権、残余財産分配請求権があるか
- トークンが金融商品取引法上の有価証券性を持つか
- トークンが資金決済法上の暗号資産に該当するか
- トークンが電子決済手段に該当するか
- 発行時に自己に割り当てたトークンが内部取引にすぎないか
- 自己割当トークンについて、資産性を認識すべきか
- トークン発行により負債、収益、株主資本、新株予約権、契約負債のいずれが生じるか
- 将来のサービス提供義務が収益認識基準上の履行義務になるか
自己発行トークンについては、会計基準が細部まで完成している領域ではありません。したがって、会計方針の選択、基準未整備取引としての注記、監査人との事前協議、法務意見、税務上の取扱いを一体で整理していく必要があります。
セキュリティトークンは「デジタルであること」より「有価証券としての権利内容」が重要になる
セキュリティトークン、すなわち電子記録移転有価証券表示権利等については、実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」があります。
同実務対応報告では、電子記録移転有価証券表示権利等の発行および保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券の発行および保有の会計処理と同様に取り扱うとされています。つまり、ブロックチェーン等を用いて移転されること自体が会計処理を根本的に変えるのではなく、権利の内容が従来のみなし有価証券と同一であることを重視する考え方です。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第43号 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い
電子記録移転有価証券表示権利等を発行する場合、その発行に伴う払込金額は、負債、株主資本または新株予約権として会計処理します。負債に区分される場合は金融負債として、株主資本または新株予約権に区分される場合は純資産会計基準や会社法、複合金融商品に関する定め等に従うことになります。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第43号 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い
また、保有する場合には、金融商品会計基準等上の有価証券に該当するかどうかに分けて処理します。有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等については、従来のみなし有価証券を保有する場合と同様に、金融商品会計基準等の定めに従って処理することになります。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第43号 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い
したがって、セキュリティトークンでは、次の確認が重要になります。
- 表章されている権利は何か
- 金融商品取引法上の有価証券に該当するか
- 金融商品会計基準上の有価証券に該当するか
- 発行者側で払込金額を負債、株主資本、新株予約権のいずれに区分するか
- 投資家側で売買目的、満期保有目的、その他有価証券、組合等出資等のどの枠組みで処理するか
- 権利移転時点、受渡日、約定日、ブロックチェーン上の記録時点の関係をどう整理するか
- 開示上、金融商品注記やリスク情報にどう反映するか
セキュリティトークンでは、「トークンだから暗号資産会計」という発想ではなく、「表章されている権利が金融商品会計上どのような性質を持つか」を起点に判断していく必要があります。
ステーブルコインは、暗号資産と同じ評価モデルで扱わない
いわゆるステーブルコインのうち、資金決済法上の電子決済手段に該当するものについては、暗号資産とは別の会計処理が定められています。
ASBJは、実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」を公表しています。同報告は、資金決済法上の電子決済手段のうち、第1号、第2号、第3号電子決済手段を対象とし、特定の電子決済手段の会計処理・開示に関する当面の取扱いを定めるものです。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い
同実務対応報告では、対象となる電子決済手段を取得したときは、受渡日に券面額に基づく価額で資産計上し、期末時も券面額に基づく価額を貸借対照表価額とします。また、発行者側では、発行時に払戻義務を債務額で負債計上し、期末時も当該払戻義務を債務額で貸借対照表価額とします。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第45号 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い
この取扱いは、価格変動リスクを前提に時価評価する暗号資産とは、発想そのものが異なります。
法定通貨建てで券面額と同額の払戻しが予定される電子決済手段では、期末に価格変動益を把握するというよりも、券面額、払戻義務、外貨建の場合の換算、預託電子決済手段の取扱い、金融商品注記を中心に検討していくことになります。
なお、電子決済手段・暗号資産をめぐる制度は、継続的に改正が重ねられています。2026年5月には、令和7年資金決済法改正に係る政令等に関して、電子決済手段等取引業者および暗号資産交換業者に対して国内保有を命じることができる資産の範囲や、電子決済手段・暗号資産サービス仲介業に関する規定整備などが公表されました。出典:金融庁|令和7年資金決済法改正に係る政令の公布及びパブリックコメントの結果等について
そのため、ステーブルコインや電子決済手段を扱う場合には、会計基準だけでなく、資金決済法・内閣府令・金融庁ガイドラインの最新状況もあわせて確認しておく必要があります。
税務では、会計と同じ結論になるとは限らない
暗号資産の税務では、会計上の評価と法人税上の評価を分けて確認する必要があります。
法人税では、法人が事業年度終了時に有する暗号資産のうち、一定のものを自己の計算において有する場合には、時価法により評価した金額を評価額とし、その評価額と帳簿価額との差額を益金または損金に算入することになります。国税庁のFAQでは、活発な市場が存在する暗号資産であって、特定譲渡制限付暗号資産や特定自己発行暗号資産に該当しないもの等が、期末時価評価の対象として整理されています。出典:国税庁|暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)
このFAQは、令和6年12月更新項目として、暗号資産の譲渡原価、期末時価評価、活発な市場、DEXで取引される暗号資産、ステーキングのためにロックアップした暗号資産、貸付けをした暗号資産、借入れをした暗号資産、特定自己発行暗号資産、特定譲渡制限付暗号資産などを取り上げています。出典:国税庁|暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)
実務上は、次のような差異が問題になります。
- 会計上は活発な市場ありとして時価評価するが、税務上の期末時価評価対象から除外されるか
- 会計上は取得原価・減損処理だが、税務上は時価評価が必要か
- 自己発行暗号資産について、会計上の処理が未整備である一方、税務上は特定自己発行暗号資産の要件を満たすか
- ロックアップ中でも、自己の計算において保有しているとして税務上の時価評価が必要になるか
- ステーキング報酬、レンディング報酬、エアドロップ、ハードフォークによる取得時期・取得価額・益金計上時期をどう整理するか
- 会計上の評価差額と税務上の評価差額の差異が一時差異になるか
- 繰延税金資産・繰延税金負債を認識すべきか
国税庁FAQでは、ロックアップや貸付けにより譲渡できない状態にある暗号資産であっても、価格変動リスク等を保有者が負う場合には、自己の計算において有するものとして、法人税法上の期末時価評価の対象となる旨が示されています。出典:国税庁|暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)
したがって、税務上は「移転できないから時価評価不要」と直ちに判断するのではなく、価格変動リスク、収益享受、自己の計算で有しているか、特定譲渡制限付暗号資産や特定自己発行暗号資産の要件を満たすかを、順に確認していくことになります。
消費税では、暗号資産の譲渡と手数料を分けて考える
消費税では、暗号資産そのものの譲渡と、取引所や交換業者に支払う手数料を分けて整理する必要があります。
国税庁FAQでは、消費税法上、暗号資産などの支払手段等の譲渡は非課税とされる一方、暗号資産交換業者に対して取引の仲介料として支払う手数料は、仲介に係る役務提供の対価として消費税の課税対象になるとされています。出典:国税庁|暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)
このため、暗号資産を取得した場合の取得価額、手数料の税区分、税抜経理方式における仮払消費税等の処理、非課税売上割合、課税売上割合、仕入税額控除への影響を確認しておく必要があります。
暗号資産の会計処理だけを決めても、税務・消費税処理が追いついていなければ、決算整理・申告調整・税効果のいずれかで差異が生じてしまいます。
ステーキング・レンディング・DeFiは、保有と収益認識を分けて整理する
暗号資産関連取引では、単純な購入・売却だけでなく、ステーキング、レンディング、流動性提供、DeFiプロトコルへの預入れ、報酬トークンの受領などが発生します。
ここで重要なのは、「暗号資産を保有しているか」と「報酬をいつ認識するか」を分けて考えることです。
ステーキングやレンディングでは、暗号資産を移転しているように見えても、経済的には価格変動リスクを引き続き負っている場合があります。その一方で、契約上またはプロトコル上、返還請求権、報酬請求権、ロックアップ、スラッシング、流動性提供トークンの受領など、権利義務が複雑になることもあります。
実務上は、次の確認が必要です。
- 元本暗号資産の所有・支配が移転しているか
- 返還請求権はあるか
- 返還される暗号資産は同種同量か
- 報酬はいつ確定するか
- 報酬は法定通貨建てか暗号資産建てか
- スラッシング等により元本が減少するリスクがあるか
- ロックアップ中も価格変動リスクを負っているか
- 税務上、自己の計算で有している暗号資産と評価されるか
- 報酬受領時の時価、取得価額、収益認識時点をどう測定するか
- 取引履歴をどのように監査証拠化するか
この領域は、会計基準の定めが直接対応していない取引も少なくありません。したがって、契約、プロトコル、オンチェーンデータ、会計方針、税務判断、監査人協議をそろえたうえで検討することが重要になります。
NFTやゲームトークンは、暗号資産該当性を安易に決めない
NFTやゲーム内トークン、会員権的トークン、デジタルアイテムについては、暗号資産に該当するものと、該当しないものがあります。
金融庁の事務ガイドラインでは、暗号資産該当性について、不特定の者を相手方として購入・売却できるか、ブロックチェーン等のネットワークを通じて不特定の者の間で移転可能な仕組みを有しているか、発行者による制限なく法定通貨や1号暗号資産との交換市場が存在するかなどを確認することが示されています。また、前払式支払手段発行者が発行するプリペイドカードやポイントサービスにおけるポイントは、発行者と店舗等との関係では暗号資産には該当しない旨も示されています。出典:金融庁|事務ガイドライン 第三分冊:金融会社関係 16 暗号資産交換業者関係
NFTであっても、単なる一点物のデジタル所有証明に近いもの、特定サービス内でのみ利用されるもの、発行者が移転・交換を制限しているもの、不特定の者との交換可能性が乏しいものは、暗号資産とは異なる会計・税務判断になる可能性があります。
逆に、形式上はNFTやユーティリティトークンと呼ばれていても、実態として不特定の者との交換可能性や決済手段性を有する場合には、暗号資産該当性を慎重に検討しなければなりません。
上場企業の実務では、「暗号資産に該当しない」と結論づける場合にも、なぜ該当しないのかを説明できる資料が必要になります。
開示では、残高だけでなく、評価方法とリスクを説明する
暗号資産の注記について、実務対応報告第38号は、期末日において保有する暗号資産、および暗号資産交換業者が預託者から預かっている暗号資産について、貸借対照表価額の合計額、活発な市場が存在する暗号資産と存在しない暗号資産の別、暗号資産の種類ごとの保有数量および貸借対照表価額などを注記することを定めています。出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第38号 資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い
ただし、上場企業の開示実務では、それだけでは不十分となる場合があります。
暗号資産の残高や評価差額が重要である場合には、次の開示影響を検討します。
- 重要な会計方針
- 会計上の見積りの開示
- 金融商品注記との関係
- 事業等のリスク
- 経営者による財政状態・経営成績の分析
- セグメント情報
- 関連当事者取引
- 後発事象
- KAM
- 適時開示
- 内部統制報告書
特に、暗号資産の評価額が財務諸表に重要な影響を与える場合には、活発な市場の有無、使用する市場価格、評価差額、流動性リスク、保管リスク、サイバーリスク、法規制変更リスクをどのように説明するかが重要になります。
また、暗号資産関連ビジネスは制度変更が早く、規制上の位置づけが変化する可能性もあります。金融庁の2026年公表資料でも、電子決済手段・暗号資産サービス仲介業や国内保有命令など、制度整備が継続していることが示されています。出典:金融庁|令和7年資金決済法改正に係る政令の公布及びパブリックコメントの結果等について
したがって、暗号資産・トークン取引を扱う企業では、会計処理だけでなく、投資家がリスクを理解できる開示になっているかどうかまで確認しておく必要があります。
監査対応では、実在性・評価・収益発生・内部統制が主要論点になる
暗号資産・トークン取引の監査対応では、次の4つが主要論点になります。
1つ目は、実在性です。オンチェーン上の残高、取引所残高、カストディ残高、社内帳簿残高が整合しているかを確認する必要があります。
2つ目は、権利帰属です。ウォレットに残高が存在していても、会社が秘密鍵または署名権限を管理しているか、カストディ契約上の権利を有しているか、レンディングやステーキングにより権利が制限されていないかを確認します。
3つ目は、評価です。活発な市場の有無、使用する市場価格、異常値、流動性、取引停止、移転制限、処分見込価額を確認します。
4つ目は、収益・費用の発生です。売買損益、ステーキング報酬、レンディング報酬、トークン発行対価、手数料収益、交換差損益が、適切な時点で認識されているかを確認します。
JICPAの実務指針公表情報でも、暗号資産交換業者の監査では、収益の発生、暗号資産の実在性、暗号資産の評価が、業界特有の重要な虚偽表示リスクとして例示されています。出典:日本公認会計士協会|業種別委員会実務指針第73号「電子決済手段等取引業者の財務諸表監査に関する実務指針」等の公表について
暗号資産は、財務諸表監査において、IT、サイバーセキュリティ、権限管理、外部業者管理、オンチェーン分析、評価、税務が交差する領域です。監査人に残高一覧だけを提出しても、十分とはいえません。
内部統制では、取引実行権限と秘密鍵管理を分けて考える
暗号資産・トークン取引の内部統制では、会計システム上の仕訳承認だけでは足りません。
暗号資産は、秘密鍵や署名権限を保有する者が実質的に資産を移転できるため、資産保全の統制が極めて重要になります。上場企業やIPO準備企業では、次の統制を整備する必要があります。
- 暗号資産取引を行うための取締役会または経営会議承認
- 取引可能な暗号資産、取引所、カストディ業者の事前承認
- ウォレット作成・変更・廃止の承認
- 秘密鍵または署名権限の保管・分散・バックアップ
- マルチシグまたはMPCの承認権限設計
- 取引実行者と記帳担当者の分離
- 取引所口座の入出金承認
- 日次または月次のオンチェーン残高照合
- 社内帳簿と取引所明細の照合
- 評価価格の取得・レビュー
- ステーキング、レンディング、DeFi利用の事前承認
- 移転制限・ロックアップの管理
- サイバーインシデント発生時の対応手順
- 外部カストディ業者のSOCレポート等の確認
- 期末決算時の残高・評価・税務調整のレビュー
ここで重要なのは、暗号資産の内部統制が、経理部門だけでは完結しないということです。
経理、法務、情報システム、事業部門、内部監査、監査人、税務担当、外部カストディ業者が関係します。誰がどの権限を持ち、どの時点でどの証跡を残し、どの資料で会計処理に反映するのか。ここを定めておかないと、決算時に説明が難しくなってしまいます。
適時開示・KAM・訂正リスクにも波及する
暗号資産・トークン取引は、金額的重要性が大きくなると、会計処理だけでなく、適時開示や監査報告にも波及します。
例えば、次のような事象では、決算・開示・監査対応を一体で検討する必要があります。
- 暗号資産価格の大幅下落
- 保有暗号資産の評価損益が業績に大きく影響する
- 取引所の破綻・出金停止
- カストディ業者の障害
- 秘密鍵の紛失
- ハッキング・流出
- トークン発行による資金調達
- 自己発行トークンに関する会計方針の決定
- ステーキング・レンディングの開始
- 暗号資産関連事業への参入・撤退
- 法規制の変更
- 監査人との見解相違
- 過年度会計処理の訂正
暗号資産は価格変動が大きく、制度・税務・監査実務も継続的に変化しています。そのため、重要性が高い場合には、KAMの対象となる可能性や、重要な会計上の見積り、事業等のリスク、後発事象、適時開示の要否を、早めに検討しておくことが求められます。
暗号資産・トークン取引で相談前に整理すべき事項
暗号資産・トークン取引について専門家に相談する前に、少なくとも次の事項を整理しておくと、会計・税務・監査対応の検討が進みやすくなります。
- 対象となる暗号資産・トークンの名称
- 発行者
- 保有目的
- 取得経緯
- 取得価額
- 取引所・販売所での取扱状況
- 活発な市場の有無に関する一次判断
- 期末時点の数量
- ウォレットまたはカストディの保管形態
- 秘密鍵または署名権限の管理者
- 移転制限、ロックアップ、ステーキング、レンディングの有無
- 自己発行か第三者発行か
- ホワイトペーパー、規約、契約書
- 法的分類に関する検討資料
- 会計方針案
- 税務上の分類案
- 消費税区分
- 内部統制の整備状況
- 監査人からの指摘事項
- 開示への影響
暗号資産・トークン取引では、会計処理の結論だけを求めようとすると、判断が不安定になります。取引実態、権利内容、保管方法、市場価格、税務、内部統制、開示を一体で整理していくことが重要です。
まとめ|暗号資産・トークン取引は「分類・評価・保全・開示」の順に整理する
暗号資産・トークン取引の会計処理は、従来の資産分類に単純に当てはめるだけでは整理しきれません。
まず、対象が暗号資産、電子決済手段、セキュリティトークン、自己発行トークン、NFT、ポイント、前払式支払手段のいずれに近いのかを分類します。次に、会計基準上の適用範囲を確認し、活発な市場の有無、時価評価、取得原価、減損、売却損益、税務上の時価評価、内部統制、開示を整理していきます。
特に上場企業やIPO準備企業では、暗号資産・トークン取引は、財務諸表の金額だけでなく、監査対応、KAM、内部統制、適時開示、税務調整、投資家説明にまで波及します。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、日本基準に基づく高度会計論点、暗号資産・トークン取引の会計処理、税務影響、開示・監査対応、内部統制整備について、取引実態の整理から判断資料の作成まで支援しています。暗号資産やトークン取引について、社内判断や監査対応にご不安がある場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り|暗号資産・トークン取引の実務判断ポイント
| 論点 | 実務上の確認事項 |
|---|---|
| 入口分類 | 暗号資産、電子決済手段、セキュリティトークン、自己発行トークン、NFT等を区分する |
| 適用基準 | 実務対応報告第38号、第43号、第45号の適用対象かを確認する |
| 自己発行トークン | 実務対応報告第38号の対象外となるため、権利義務と会計方針を個別に整理する |
| 活発な市場 | 取引所上場の有無だけでなく、取引量、頻度、価格情報の継続性を確認する |
| 期末評価 | 活発な市場があれば市場価格で評価し、差額を損益処理する |
| 非活発市場 | 取得原価を基礎とし、処分見込価額が下回る場合は切下げる |
| 売却損益 | 売却収入から売却原価を控除した純額を損益計算書に表示する |
| 顧客預り暗号資産 | 暗号資産交換業者では資産・返還義務を同額で認識し、分別管理を確認する |
| セキュリティトークン | デジタル性よりも、表章される権利が有価証券としてどう処理されるかを重視する |
| ステーブルコイン | 電子決済手段に該当する場合、暗号資産とは異なる券面額ベースの処理を確認する |
| 税務 | 法人税上の期末時価評価、特定自己発行暗号資産、特定譲渡制限付暗号資産を確認する |
| 消費税 | 暗号資産の譲渡は非課税、取引手数料は課税対象となる点を区分する |
| 内部統制 | 秘密鍵、ウォレット、取引権限、残高照合、価格取得、外部カストディを管理する |
| 監査対応 | 実在性、権利帰属、評価、収益発生、税務調整、開示影響を証拠化する |
| 開示 | 注記、重要な会計方針、見積り、リスク情報、KAM、適時開示への波及を検討する |