不動産業の会計実務は、「土地建物を買って、開発して、売る」「保有して賃貸する」という単純な整理では足りません。
同じ不動産であっても、販売目的で保有しているのか、賃貸収益を得るために保有しているのか、自社利用しているのか、将来売却を見込んでいるのか、あるいは証券化・流動化スキームの中で保有しているのか。この違いによって、適用される会計処理、評価、注記、監査上の争点は大きく変わってきます。
不動産業では、事業計画、開発計画、許認可、販売計画、賃貸稼働率、鑑定評価、金利、NOI、キャップレート、将来キャッシュ・フロー、SPCとの取引、ノンリコースローン、税効果、適時開示が互いに連動します。ですから、決算で問われるのは「不動産の帳簿価額がいくらか」だけではありません。
問われるのは、その不動産をなぜその区分で保有し、どの根拠に基づいて評価し、将来の投資回収可能性をどの資料で説明できるかです。
本稿では、日本基準を前提に、不動産業における販売用不動産、仕掛販売用不動産、開発用土地、賃貸等不動産、固定資産減損、資産除去債務、流動化、収益認識、リース、注記・KAM・監査対応を、実務判断の組み立て方として整理します。
不動産業は「保有目的」で会計処理が分かれる業種である
不動産業の伝統的な業務には、開発、分譲、賃貸、流通、運営管理があります。近年は不動産証券化の進展に伴い、アセットマネジメント、プロパティマネジメントといった周辺業務も重要性を増してきました。
開発は、土地を取得し、造成・インフラ整備や建物建設を通じて不動産価値を創造したうえで、分譲又は賃貸により収益を実現する業務です。分譲は、宅地、戸建住宅、マンション等を開発・販売する事業を指します。賃貸は、自ら所有する不動産を貸し出して賃料収入を得る事業です。
会計上は、この業務区分をそのまま勘定科目に置き換えるのではなく、まず不動産の保有目的を確認するところから始まります。
| 保有目的 | 典型的な表示・会計論点 |
|---|---|
| 分譲・転売目的 | 販売用不動産、仕掛販売用不動産、開発用土地、棚卸資産評価 |
| 開発中で販売予定 | 仕掛販売用不動産、開発原価、許認可、追加開発コスト |
| 賃貸収益目的 | 建物・土地、賃貸等不動産、減損、時価注記 |
| 自社利用目的 | 有形固定資産、減価償却、減損、資産除去債務 |
| キャピタルゲイン目的 | 賃貸等不動産又は棚卸資産との区分、時価注記、売却方針 |
| 流動化・証券化目的 | 売却認識、継続的関与、連結範囲、金融商品、注記 |
| 仲介・AM/PM業務 | 収益認識、本人代理人、成功報酬、変動対価 |
同じマンション、オフィスビル、商業施設、物流施設であっても、販売目的なら棚卸資産、賃貸目的なら固定資産又は賃貸等不動産、自社利用なら有形固定資産として検討することになります。
実務上の落とし穴は、物件名や事業部門名だけで会計処理を決めてしまうことです。不動産業では、開発段階では販売予定だった物件を賃貸へ転用する、賃貸中の物件を売却方針に変更する、保有目的そのものを変更する、SPCに譲渡して流動化する、といった判断が頻繁に起こります。
そのため、期末時点の保有目的、取締役会決議、事業計画、販売活動、賃貸契約、資金調達契約を横断して確認しておく必要があります。
販売用不動産は、棚卸資産として「正味売却価額」を中心に評価する
分譲用マンション、戸建分譲地、販売目的で保有する収益不動産、開発用土地などは、通常、棚卸資産として検討します。
棚卸資産会計基準では、棚卸資産は、商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等の資産であり、企業が営業目的を達成するために所有し、売却を予定する資産等とされています。棚卸資産の評価方法、評価基準及び開示については、企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」が優先して適用されます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準
販売用不動産の評価で中心になるのは、取得原価と正味売却価額の比較です。正味売却価額は、売価から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除したものとされています。
個別性の強い不動産では、物件ごとの販売価格、追加開発コスト、販売費用、解体費、販売手数料、広告費、金利・保有コストの扱いなどを、ひとつずつ慎重に検討していくことになります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準
販売用不動産の評価では、次のような要因が評価損の兆候になり得ます。
| 評価リスク | 確認すべき資料 |
|---|---|
| 販売価格の下落 | 直近販売実績、販売中物件価格、近隣取引事例、査定書 |
| 開発計画の遅延 | 工程表、許認可状況、工事進捗、追加コスト見積り |
| 需要変化 | 販売戸数推移、成約率、問い合わせ件数、市況データ |
| 金利上昇 | 購入者需要、投資家利回り、キャップレート、資金調達条件 |
| 建築費上昇 | 建築見積、追加工事契約、資材・労務費変動 |
| 法令・条例変更 | 都市計画、建築制限、用途変更、開発許可 |
| 土壌・環境問題 | 土壌調査、アスベスト、PCB、除去費用見積り |
| 長期滞留 | 保有年数、販売方針、値下げ履歴、処分予定 |
不動産業のKAM事例でも、分譲事業に関する販売用不動産等の評価は、経済環境、金利、不動産市場の競合状況、開発上の外部要因、法制・税制、自然災害等の影響を受けます。見積りの不確実性と経営者の主観的判断の程度が大きい領域として扱われているのが実情です。
したがって、販売用不動産の評価は、単に「鑑定評価額が帳簿価額を上回っているか」を見るだけでは足りません。販売目的の棚卸資産として、売却予定価格、追加開発コスト、販売直接経費、販売可能性、販売時期を、物件ごとに整理していく必要があります。
仕掛販売用不動産・開発用土地では、原価集計と開発計画の実現可能性が争点になる
仕掛販売用不動産や開発用土地は、完成前の段階で多額の原価が蓄積されます。そのぶん、決算上の見積りも複雑になります。
不動産開発では、土地情報の収集から、事業計画、用地取得、設計、許認可、造成・建設を経て、販売又は賃貸開始に至るまで、数年を要することがあります。その間に、建築費、金利、需給、法規制、近隣対応、販売価格、テナント誘致状況が変化していきます。
実務上は、次の原価をどこまで取得原価に含めるかが問題になります。
| 原価項目 | 判断上の留意点 |
|---|---|
| 用地取得費 | 土地代、仲介手数料、登記費用、不動産取得税等の扱い |
| 造成費 | 土地改良、インフラ整備、擁壁、道路整備 |
| 建築費 | 建物本体、付帯設備、設計変更、追加工事 |
| 設計・監理費 | 開発に直接関連するものか、一般管理費か |
| 許認可・調査費 | 開発に不可欠な支出か、探索段階の費用か |
| 支払利息 | 会計方針、期間、対象プロジェクト、重要性 |
| 販売費 | 棚卸資産原価に含めるか、販売直接経費として控除するか |
| 解体・土壌改良 | 将来販売価値の形成に必要か、過去汚染の処理か |
ここで重要なのは、「開発に関連する支出だからすべて資産化できる」という発想を避けることです。資産化の根拠は、将来販売による回収可能性と対応していなければなりません。
たとえば、許認可取得前の段階で事業化可能性が不確実な土地、近隣調整が難航している開発案件、販売価格の下落により利益率が低下している案件。こうしたケースでは、追加原価を資産計上し続けるだけでなく、評価損の要否をあわせて検討する必要があります。
KAM事例では、開発中の販売用不動産等について、開発計画の進捗状況及び蓋然性に関連する資料の閲覧、開発計画の達成可能性に関する経営者への質問、現場視察などが監査手続として挙げられています。
つまり、不動産開発案件では、会計処理の根拠資料が会計部門だけでは完結しないということです。用地取得資料、開発会議資料、許認可資料、販売部門資料、建築見積、資金計画、取締役会資料を一体として確認していくことになります。
収益認識では、引渡し・支配移転・継続的関与を分けて考える
不動産販売収益の認識では、従来の「引渡基準」という実務感覚だけに頼るのではなく、収益認識基準に基づいて顧客への支配移転を検討します。
企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示について定め、5ステップに基づいて収益を認識する枠組みを示しています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
不動産分譲では、多くの場合、売買契約、残代金決済、登記、鍵の引渡し、占有移転、リスク負担の移転が収益認識の重要な証拠になります。もっとも、契約上の形式だけを見るのでは不十分です。買主が不動産を使用し、便益を得る能力を獲得しているか、売主が実質的な支配やリスクを残していないかを確認する必要があります。
特に注意すべきなのは、次のような取引です。
| 取引類型 | 収益認識上の注意点 |
|---|---|
| 買戻し条件付き売却 | 買主に支配が移転しているか、金融取引・リース的要素はないか |
| セール・アンド・リースバック | 売却処理とリース処理の両面を検討する |
| SPCへの売却 | リスクと経済価値が移転しているか、連結範囲はどうか |
| 関連当事者への売却 | 価格の合理性、支配移転、開示、監査証拠 |
| ファンド向け売却 | 継続的関与、AM/PM契約、買戻し義務、保証の有無 |
| 完成前販売 | 契約成立、手付金、契約負債、解約条件 |
| 仲介手数料 | 契約成立時か、引渡時か、変動対価はないか |
不動産売却では、形式的に売買契約を締結し、登記が移転していても、売主が買戻し義務、損失補填、利回り保証、賃料保証、劣後出資、追加資金拠出義務などを負っている場合があります。そうしたケースでは、売却取引として収益を認識できるかを慎重に検討しなければなりません。
KAM事例でも、不動産売却取引について、不動産売買契約書の閲覧、将来キャッシュ・フローや割引率の検討、買戻し関連契約条件の理解、譲渡不動産への継続的関与の程度を考慮した売却取引の合理性評価が、監査手続として挙げられています。
不動産販売収益では、「契約書がある」「入金がある」だけでは足りません。支配移転、継続的関与、価格の合理性、関連当事者性、流動化スキームの実質まで整理しておくことが求められます。
仲介・販売代理・AM/PM業務では、本人代理人と成功報酬を検討する
不動産業には、物件を自ら保有・販売する事業だけでなく、仲介、販売代理、アセットマネジメント、プロパティマネジメント、リーシングマネジメント、コンストラクションマネジメントといった役務提供型ビジネスがあります。
不動産流通は、土地建物等の売買・交換・賃貸の仲介や、住宅分譲の販売代理を行う事業です。仲介業者は、売主・買主との媒介契約、条件交渉、重要事項説明、契約締結、登記・代金精算、物件引渡し等を経て、仲介手数料を受領します。
これらの取引では、次の収益認識論点が生じます。
| 業務 | 主な会計論点 |
|---|---|
| 売買仲介 | 成約時か引渡時か、契約解除条件、成功報酬の認識時点 |
| 賃貸仲介 | 賃貸借契約成立、入居開始、貸主・借主双方からの報酬 |
| 販売代理 | 本人代理人、総額・純額表示、販売活動の履行義務 |
| AM業務 | 固定報酬、成功報酬、運用期間に応じた収益認識 |
| PM業務 | 月額管理報酬、修繕手配、立替精算、本人代理人 |
| リーシング | テナント誘致成功報酬、契約成立条件、解約リスク |
| CM業務 | 工事管理サービス、進捗、追加報酬、コスト精算 |
特に、販売代理やPM業務では、顧客に対して不動産そのものを提供しているのか、それとも販売・管理サービスを提供しているだけなのかを区分し、本人代理人の判定を行う必要があります。
総額表示は売上規模に直結します。だからこそ、価格裁量、在庫リスク、履行責任、信用リスク、契約上の立場を、ひとつずつ確認しなければなりません。
賃貸等不動産では、帳簿価額だけでなく時価開示が問題になる
賃貸収益又はキャピタルゲインの獲得を目的として保有する不動産については、賃貸等不動産の時価等の開示が重要になります。
企業会計基準第20号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」は、賃貸等不動産の時価等の開示について、その内容を定めることを目的とし、賃貸等不動産を保有する企業に適用されます。なお、連結財務諸表で賃貸等不動産の時価等の開示を行っている場合、個別財務諸表での開示は要しないとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第20号 賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準
適用指針第23号は、当該会計基準を適用する際の指針を定めています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第23号 賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針
賃貸等不動産を保有している場合には、一般に次の事項が注記対象となります。
| 注記項目 | 実務上の確認事項 |
|---|---|
| 賃貸等不動産の概要 | 用途、地域、保有目的、主要物件 |
| 貸借対照表計上額 | 期首残高、取得、売却、減価償却、減損、振替 |
| 当期末時価 | 鑑定評価、収益還元法、取引事例、評価方法 |
| 損益 | 賃貸収益、賃貸費用、売却損益、減損損失 |
新リース会計基準との関係も見逃せません。2024年9月13日に公表された企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する年度から早期適用できます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
リース会計基準の公表に伴い、賃貸等不動産の時価等の開示基準も改正されました。リースの借手が使用権資産の形で保有する不動産のうち、賃貸収益又はキャピタルゲインの獲得を目的とするものも、賃貸等不動産の定義に含める整理がされています。もっとも、使用権資産として保有する賃貸等不動産については、時価注記の範囲が所有不動産と同一ではない点に注意が必要です。
不動産業では、賃貸等不動産の時価開示が、投資家説明、金融機関説明、KAM、減損検討と密接に関連します。時価開示は「参考情報」ではありません。帳簿価額の妥当性を理解するための、重要な財務情報です。
賃貸不動産の減損では、物件単位のキャッシュ・フローが中心になる
賃貸不動産を固定資産として保有している場合、固定資産減損会計の検討が必要になります。
固定資産減損については、企業会計審議会の「固定資産の減損に係る会計基準」と、企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」が中心になります。ASBJの一覧でも、固定資産の減損に係る会計基準、企業会計基準第35号「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正、適用指針第6号が示されています。
出典:企業会計基準委員会|固定資産の減損
不動産業では、賃貸用資産や遊休資産を物件単位でグルーピングする事例が多く見られます。キャッシュ・フロー生成の最小単位として、物件単位が実態に合うことが多いためです。
賃貸不動産の減損兆候には、次のようなものがあります。
| 減損兆候 | 確認すべき資料 |
|---|---|
| 稼働率低下 | テナント契約一覧、空室率、解約通知、リーシング計画 |
| 賃料下落 | レントロール、賃料改定履歴、周辺賃料相場 |
| NOI悪化 | 賃貸収益、管理費、修繕費、固定資産税、保険料 |
| 大規模修繕 | 修繕計画、CAPEX計画、建物診断、劣化調査 |
| 市場価格下落 | 鑑定評価、収益還元法、取引事例、キャップレート |
| 用途変更 | 自社利用、賃貸、販売、再開発への方針変更 |
| 売却方針決定 | 取締役会決議、売却予定価格、仲介契約、買付証明 |
| 法令・環境リスク | 土壌汚染、アスベスト、耐震、建築基準法、用途規制 |
減損の検討では、事業計画上の賃料、稼働率、賃貸費用、修繕投資、売却価格、割引率、キャップレートが主要な仮定になります。いずれも経営者の見積りに依存するため、監査上も争点化しやすい領域です。
KAM事例では、住宅分譲目的で保有する不動産、販売目的で保有する収益不動産、賃貸事業目的で保有する不動産の減損が、不動産業における主要なKAMとして取り上げられています。
不動産業の減損判断では、「鑑定評価があるから大丈夫」とは言えません。鑑定評価の前提、評価時点、収益還元法の入力値、事業計画との整合性、経営者による売却方針の有無、そして当該物件を保有し続ける合理性まで検討することが求められます。
販売目的への変更は、固定資産減損と棚卸資産評価の接点になる
不動産業で実務上難しいのが、保有目的の変更です。
たとえば、賃貸事業目的で保有していたオフィスビルを売却方針に変更する場合。自社利用していた土地建物を販売目的に変更する場合。賃貸収益目的の収益不動産をリノベーション後に販売する場合。いずれも実際によく起こる場面です。
この場合、会計上は、固定資産の減損と棚卸資産への振替、販売用不動産評価の関係を整理する必要があります。
賃貸事業目的又は自社使用目的で保有していた不動産を、合理的な理由に基づき販売目的で保有する場合、保有目的の変更自体が固定資産の減損の兆候に該当する可能性があります。
この論点では、次の順序で判断することが重要です。
- 保有目的の変更が実際に決定されているか
- 取締役会決議、事業計画、売却活動などの客観的証拠があるか
- 変更前の固定資産について減損兆候があるか
- 減損認識・測定を行う必要があるか
- 棚卸資産へ振り替える場合、振替価額は妥当か
- 振替後の販売用不動産について正味売却価額による評価が必要か
- 売却予定価格、追加コスト、販売費用が整合しているか
- 注記・適時開示・業績予想修正への影響があるか
保有目的の変更は、経営判断であると同時に、会計上の重要な判断でもあります。恣意的な振替によって減損を回避したり、評価損を先送りしたりすることはできません。変更の合理性と証拠資料を整えておくことが不可欠です。
資産除去債務・土壌汚染・アスベストは、不動産業で見落としやすい
不動産業では、資産除去債務も重要な論点です。
企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」は、資産除去債務の定義、会計処理及び開示について定めることを目的としており、適用指針第21号もあわせて参照する必要があります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第18号 資産除去債務に関する会計基準
不動産業では、特に次のような論点が生じます。
| 対象 | 会計上の検討事項 |
|---|---|
| アスベスト含有建物 | 除去義務、売却予定、解体予定、見積可能性 |
| PCB含有設備 | 処理義務、保管状況、処理費用、期限 |
| 土壌汚染 | 法令上の義務、契約上の義務、調査・除去費用 |
| 借地・賃借建物 | 原状回復義務、退去時期、使用期間、割引率 |
| 大規模商業施設 | テナント工事、設備撤去、修繕義務 |
| 再開発予定地 | 解体・除去費、補償費、移転費用との区分 |
資産除去債務では、法律上の義務又はそれに準ずる義務があるか、履行時期・履行方法を合理的に見積れるか、将来キャッシュ・フローと割引率が妥当かを検討します。
プロジェクト初期に環境調査や土壌調査が不十分だった場合、後から多額の除去費用が判明することがあります。その影響は、販売用不動産評価、固定資産減損、税効果、適時開示にまで波及します。
不動産業では、環境リスクを法務・技術部門だけの問題として扱うのではなく、決算見積りの一部として管理していくことが必要です。
不動産流動化・SPC取引では、売却処理の要件を慎重に検討する
不動産業では、特別目的会社を利用した不動産流動化、ファンドへの売却、匿名組合出資、TMKスキーム、ノンリコースローンを伴う取引が行われることがあります。
移管指針第10号「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」は、特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理について、取扱いを統一するための実務指針です。同指針では、対象となる不動産には、固定資産としての土地建物等のほか、棚卸資産である販売用不動産等も含まれるとされています。
出典:企業会計基準委員会|移管指針第10号 特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針
同指針では、不動産の売却の認識について、不動産が法的に譲渡され、資金が譲渡人に流入していることを前提に、譲渡不動産のリスクと経済価値のほとんどすべてが他の者に移転した場合に、当該譲渡不動産の消滅を認識するという考え方が示されています。
また、不動産の流動化が譲渡人の子会社に該当する特別目的会社を譲受人として行われている場合、譲渡人は売却処理を行うことができないとされています。
出典:企業会計基準委員会|移管指針第10号 特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針
流動化取引では、次のような継続的関与を確認する必要があります。
| 継続的関与 | 検討すべき会計上の影響 |
|---|---|
| 買戻し義務・買戻しオプション | 売却処理の可否、金融取引性 |
| 劣後出資・匿名組合出資 | リスク負担、連結範囲、金融商品評価 |
| 利回り保証・賃料保証 | リスク移転、引当金、偶発債務 |
| 運営管理契約 | 通常のPMか、実質的支配・関与か |
| 追加資金拠出義務 | リスク負担、債務性、注記 |
| セール・アンド・リースバック | 売却処理とリース処理の両面 |
| 関連当事者・グループ会社 | 価格合理性、開示、連結消去 |
不動産流動化では、法的譲渡と資金流入があるだけでは、売却処理の十分条件になりません。経済的リスク、キャッシュ・フロー、支配、連結範囲、関連当事者性を含めて、売却処理の説明可能性を確認していくことになります。
不動産業のリース論点は、貸手・借手・サブリースの三面で整理する
不動産業では、貸手としての賃貸収益、借手としてのオフィス・店舗・土地賃借、サブリース、マスターリース、転貸、建設協力金、敷金・保証金などが絡み合います。
2024年公表の新リース会計基準は、借手のすべてのリースについて資産及び負債を認識する方向で、日本基準の国際的整合性を図るために開発されたものです。
出典:企業会計基準委員会|リースに関する会計基準
不動産業で特に注意すべき論点は、次のとおりです。
| 論点 | 実務上の検討事項 |
|---|---|
| 貸手の不動産賃貸 | リース分類、賃貸収益、共益費、変動賃料 |
| 借手の賃借不動産 | 使用権資産、リース負債、リース期間、割引率 |
| サブリース | 原契約と転貸契約の関係、貸手・借手双方の処理 |
| マスターリース | 空室リスク、賃料保証、本人代理人、収益表示 |
| 敷金・保証金 | 金融商品、償却、原状回復、長期前払・預り |
| 建設協力金 | 金融要素、賃貸借契約との一体性、返済条件 |
| フリーレント | 賃料総額の期間配分、インセンティブ |
| 原状回復義務 | 資産除去債務、リース期間、見積変更 |
不動産賃貸契約は、契約期間が長く、更新オプション、中途解約条項、賃料改定条項、保証金、原状回復義務を含むことが多いものです。契約の名称だけでは判断できません。新リース基準の適用に向けて、契約データの棚卸しと会計方針の整備を進めておくことが重要になります。
税効果会計では、評価損・減損・資産除去債務・税務簿価を結び付ける
不動産業では、会計上の評価損や減損損失と、税務上の損金算入時期が一致しないことが少なくありません。そのため、税効果会計が重要な意味を持ちます。
税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合に、法人税等の額を適切に期間配分し、法人税等控除前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させる手続です。
不動産業で税効果の論点になりやすい項目は、次のとおりです。
| 項目 | 税効果上の検討事項 |
|---|---|
| 販売用不動産評価損 | 税務上の損金算入時期、一時差異 |
| 固定資産減損損失 | 税務簿価との差異、将来減算一時差異 |
| 資産除去債務 | ARO負債・対応資産、税務上の取扱い |
| 棚卸資産から固定資産への振替 | 税務簿価、減価償却、評価差額 |
| 固定資産から販売用不動産への振替 | 減損、税務上の帳簿価額、売却損益 |
| 土地再評価差額金 | 税効果、純資産、売却時の取崩し |
| グループ内不動産取引 | 未実現損益、連結税効果 |
| SPC・匿名組合出資 | 金融商品、評価、税務上の損益帰属 |
販売用不動産評価損や固定資産減損損失が多額に発生する場合には、繰延税金資産の回収可能性も同時に検討する必要があります。
不動産市況の悪化を前提に評価損を計上しながら、税効果では楽観的な課税所得計画を用いる。こうした状態では、見積り間の整合性を説明することができません。
不動産業のKAMでは、評価・減損・売却取引が中心になりやすい
不動産業の監査では、販売用不動産等の評価、賃貸不動産の減損、不動産売却収益の認識、SPC取引、関連当事者取引がKAMになりやすい領域です。
金融庁は、KAMについて、2018年7月公表の監査基準改訂により日本の監査実務に導入され、2021年3月期から一部を除く金融商品取引法監査が適用される会社に対して監査報告書への記載が求められていると説明しています。KAMの記載には、監査人が実施した監査の透明性を向上させ、監査報告書の情報価値を高める意義があります。
出典:金融庁|監査上の主要な検討事項(KAM)の実務の定着と浸透に向けた取組みについて
不動産業では、KAMと重要な会計上の見積り開示が整合していることが大切です。実例分析でも、住宅分譲目的で保有する不動産の評価、販売目的で保有する収益不動産の評価、賃貸事業目的で保有する不動産の減損が、重要な会計上の見積りとKAMの双方で対応する形で整理されています。
会計上の見積りの開示については、企業会計基準第31号が、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末から適用されています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第31号 会計上の見積りの開示に関する会計基準
不動産業の開示では、次の説明が弱いと、投資家や監査人に伝わりにくくなります。
- どの物件又は物件グループが重要な見積り対象なのか
- 帳簿価額はいくらか
- どのような評価方法を使ったか
- 主要な仮定は何か
- 不動産市況、金利、稼働率、開発遅延をどう織り込んだか
- 翌期以降、どのような条件変化で評価損・減損が生じ得るか
- 監査上の対応と会社側の注記が整合しているか
KAMは監査人が記載するものです。しかし、その前提となる会社側の注記、見積り資料、経営者説明の品質こそが重要になります。
適時開示では、固定資産の取得・譲渡、減損、業績予想修正を見落とさない
不動産業では、大型物件の取得、譲渡、減損、流動化、開発方針変更、売却方針決定が、適時開示に関係することがあります。
JPXの適時開示に関するFAQでは、固定資産の譲渡又は取得について、開示を行う際には「適時開示に関する実務要領」もあわせて確認することが求められています。また、当該事実の決定による影響見込額自体が基準に該当する場合には、他の要因と合算すると業績に大きな影響が出ない場合でも開示が必要になる旨が示されています。
出典:日本取引所グループ|固定資産の譲渡又は取得、リースによる固定資産の賃貸借
また、子会社等における固定資産の譲渡又は取得については、譲渡又は取得を子会社等が決定した時点で開示が必要となります。契約締結日又は物件引渡日ではない点に注意が必要とされています。
出典:日本取引所グループ|子会社等における固定資産の譲渡又は取得
不動産業では、取締役会決議、基本合意、売買契約、条件成就、引渡し、決済、会計処理のタイミングが、それぞれ異なることがあります。そのため、会計処理だけでなく、適時開示の時点、業績予想修正、減損損失、固定資産売却益、特別利益・特別損失の見込みを、同時に確認しておく必要があります。
不動産業の内部統制では、物件別管理と会計判断の接続が重要になる
不動産業の内部統制は、物件別の情報管理が中心になります。
販売用不動産、開発中物件、賃貸不動産、SPC取引、AM/PM契約が分散管理されている場合、会計判断に必要な情報が経理部門に届かないリスクが生じます。
特に、次の内部統制が重要です。
| 統制領域 | 確認すべき統制 |
|---|---|
| 用地取得 | 投資委員会、デューデリジェンス、稟議、価格評価 |
| 開発管理 | 予算承認、追加コスト承認、許認可管理、進捗報告 |
| 販売管理 | 販売価格承認、値下げ承認、契約管理、引渡確認 |
| 賃貸管理 | レントロール、稼働率、解約通知、賃料改定 |
| 評価 | 評価損・減損判定、鑑定評価利用、経営者レビュー |
| 流動化 | SPC契約、継続的関与、リスク移転、連結判定 |
| 開示 | 重要事実の把握、適時開示判断、注記作成 |
| 監査対応 | 物件別資料、見積り根拠、会議体議事録、専門家資料 |
会計不正の観点でも、不動産業は注意が必要な業種です。一般に、会計不正には不適切な収益認識、負債・費用の隠蔽、費用・収益の期間帰属の操作、不適切な資産評価、不適切な開示などがあります。
不動産業では、売却収益の前倒し、買戻し条件の隠れた付与、評価損の先送り、関連当事者取引の過小開示、SPCを利用したオフバランス処理が問題になり得ます。
専門家に相談する前に整理すべき資料
不動産業の高度会計論点について専門家に相談する場合、物件別に事実関係を整理しておくと、検討の質が大きく変わります。
| 整理事項 | 具体的な資料 |
|---|---|
| 物件概要 | 所在地、用途、面積、取得日、保有目的、担当部門 |
| 保有目的 | 販売、賃貸、自社利用、再開発、流動化、売却予定 |
| 取得資料 | 売買契約書、重要事項説明書、登記、鑑定評価、DD資料 |
| 開発資料 | 事業計画、開発予算、許認可、工程表、追加コスト見積り |
| 販売資料 | 販売価格、成約実績、販売計画、値下げ履歴、買付証明 |
| 賃貸資料 | レントロール、稼働率、契約一覧、解約通知、修繕計画 |
| 評価資料 | 正味売却価額、鑑定評価、収益還元法、キャップレート |
| 減損資料 | グルーピング、兆候判定、将来CF、割引率、回収可能価額 |
| ARO資料 | アスベスト、PCB、土壌汚染、原状回復、除去費用 |
| 流動化資料 | SPC契約、出資、ローン契約、買戻し、保証、PM契約 |
| 税務資料 | 税務簿価、評価損・減損の税務処理、税効果、通算影響 |
| 開示資料 | 注記案、KAM対応資料、適時開示判定、業績影響額 |
| 監査資料 | 監査人指摘事項、論点メモ、会議体議事録、経営者確認 |
不動産業の会計判断は、物件別の投資判断、契約実態、評価、資金調達、出口戦略を理解しなければ結論を出せません。会計処理の結論だけでなく、判断の前提、根拠資料、代替案、開示影響をセットで整理しておくことが重要です。
まとめ|不動産業会計は、保有目的・評価・出口戦略を説明できる形に整える実務である
不動産業の会計実務では、土地建物という同じ資産を扱っていても、保有目的、事業計画、販売方針、賃貸方針、流動化スキーム、開発段階、資金調達条件によって、会計処理が大きく変わります。
販売用不動産であれば、正味売却価額と追加開発コストを物件別に検討します。賃貸不動産であれば、減損と賃貸等不動産の時価開示が重要になります。流動化取引では、法的譲渡だけでなく、リスクと経済価値の移転、継続的関与、連結範囲を確認しなければなりません。新リース基準の影響も、不動産賃貸・サブリース・使用権資産・賃貸等不動産の注記に波及していきます。
不動産業会計で大切なのは、「保有している不動産がいくらか」ではありません。なぜその不動産をその目的で保有し、その帳簿価額がどの将来キャッシュ・フローで回収され、その判断をどの資料で後から説明できるかです。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、日本基準に基づく不動産業の販売用不動産評価、賃貸等不動産の時価開示、固定資産減損、資産除去債務、SPC・流動化、リース、税効果、注記・KAM・監査対応について、決算・開示に耐える形で論点整理を支援しています。
不動産業の決算論点について、社内判断や監査対応に不安がある場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り|不動産業会計の重要論点
| 論点 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| 保有目的 | 販売、賃貸、自社利用、流動化、再開発のいずれかを物件別に確認する |
| 販売用不動産 | 棚卸資産として、正味売却価額、追加開発コスト、販売直接経費を確認する |
| 仕掛販売用不動産 | 開発計画、許認可、進捗、追加コスト、販売価格の実現可能性を確認する |
| 収益認識 | 売買契約、決済、登記、引渡し、支配移転、継続的関与を確認する |
| 仲介・AM/PM | 本人代理人、成功報酬、変動対価、履行義務の充足時点を確認する |
| 賃貸等不動産 | 概要、帳簿価額、時価、算定方法、損益を注記できる形に整理する |
| 新リース基準 | 使用権資産、リース負債、サブリース、賃貸等不動産注記への影響を確認する |
| 固定資産減損 | 物件単位のグルーピング、稼働率、NOI、売却価格、割引率を確認する |
| 保有目的変更 | 固定資産減損、棚卸資産への振替、評価損、開示影響を一体で検討する |
| 資産除去債務 | アスベスト、PCB、土壌汚染、原状回復義務、除去費用見積りを確認する |
| 流動化・SPC | 法的譲渡、資金流入、リスクと経済価値の移転、連結範囲を確認する |
| 税効果 | 評価損、減損、ARO、税務簿価、回収可能性を整合させる |
| KAM | 販売用不動産評価、賃貸不動産減損、不動産売却収益が主要論点になりやすい |
| 適時開示 | 物件取得・譲渡、減損、売却益、業績予想修正の開示時点を確認する |
| 内部統制 | 物件別管理、評価、開発計画、販売・賃貸情報、開示判断を接続する |