期中監査は、期末監査を少し早めに始めるための作業ではありません。
その本質は、会社の事業活動が実際に動いているその期間のなかで、取引がどのように発生しているのか、業務プロセスや内部統制はどう設計され運用されているのか、IT環境や決算・財務報告プロセスの準備はどこまで整っているのかを理解し、期末に監査意見を形成できるだけの証拠形成へつなげていくことにあります。
期末監査では、残高、開示、会計上の見積り、後発事象、未修正虚偽表示といった論点を集中的に評価します。しかし、その前提となる「会社の取引がどのように発生し、承認され、記録され、集計され、財務諸表へ反映されるのか」は、期末だけを切り取って見ても十分には見えてきません。
販売、購買、在庫、固定資産、資金、給与、連結、決算・開示といった業務プロセスは、日々の処理のなかで統制が機能しているかを見なければ、その実効性を判断できないからです。業務フローを理解する意義は、会社に共通する業務上の課題やリスクと、それを低減する内部統制を把握することにあります。典型的な業務フローが頭に入って初めて、どの統制が不足し、どの統制が過剰で、どこに虚偽表示リスクが潜んでいるのかを、具体的に検討できるようになります。
ですから期中監査は、「何を期末前に終わらせるか」ではなく、「期末に説明可能な監査判断を行うために、期中で何を理解し、何を評価し、どの課題を収束させるか」という視点から設計する必要があります。
期中監査は、リスク評価と統制評価を更新する局面である
監査計画は期首に作成しますが、会社の状況は期首のまま止まってはくれません。
新規取引、組織変更、システム変更、業績変動、内部統制不備、会計上の見積りの変化、不正リスクの兆候、開示上の論点。こうした事象が期中に生じれば、当初の監査計画やリスク評価は見直しを迫られます。
監査基準報告書315は、監査人によるリスクの識別と評価のプロセスを「反復的かつ累積的」なものと位置づけ、企業及び企業環境、財務報告の枠組み、内部統制システムの理解が相互に関係すると整理しています。また、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクについては、固有リスクと統制リスクに分けて評価することが求められています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書315 重要な虚偽表示リスクの識別と評価
この考え方に立てば、期中監査は期首計画をただ実行に移す局面ではないことが分かります。
期中監査は、会社理解を深め、統制リスクを評価し、当初計画した監査手続の種類・時期・範囲がなお適切かを検討する局面です。内部統制に依拠する監査アプローチを採るのであれば、期中の段階で統制の整備状況と運用状況を評価しない限り、期末の実証手続の範囲を合理的に決めることはできません。
監査基準報告書330も、評価した重要な虚偽表示リスクに対応する内部統制を勘案している場合には、その運用状況が有効であるかどうかを判断するための監査証拠を入手する必要があるとしています。運用評価手続は質問だけで完結するものではなく、その他の監査手続と組み合わせて実施することが求められます。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書330 評価したリスクに対応する監査人の手続
期中監査で扱う範囲と、期末監査へ回す範囲
期中監査で何を行うべきかは、会社の規模、事業内容、内部統制の成熟度、財務諸表監査と内部統制監査の関係、そして監査計画上のリスク評価によって変わります。
ただ、実務上は次のように切り分けておくと、頭の整理がしやすくなります。
| 区分 | 期中監査で扱うべき内容 | 期末監査へつなげる内容 |
|---|---|---|
| 会社理解 | 事業、取引、組織、IT、決算体制の変化を把握する | 期末時点の財務諸表項目への影響を評価する |
| 業務プロセス | 取引の発生、承認、記録、集計の流れを理解する | 残高・開示に反映された結果を検証する |
| 内部統制 | 統制の設計、業務への適用、運用状況を評価する | 期末まで継続して有効に機能したかを確認する |
| 期中取引 | 異常取引、非定型取引、例外処理、重要取引を検証する | 期末残高、カットオフ、表示・開示へ接続する |
| 課題管理 | 不備、資料不足、会計処理論点、運用改善を管理する | 未解決論点を意見形成前に収束させる |
| 監査役等連携 | 重要論点、不備、KAM候補、会社対応状況を共有する | 監査結果報告、KAM、内部統制監査報告へ接続する |
本稿で扱うのは、期中監査と内部統制評価の進め方です。J-SOXにおける評価範囲の詳細、全社的統制・業務プロセス・IT統制の個別評価、不備の重要性判断、内部統制監査報告書の記載判断は、それぞれ別の記事で深掘りする領域として位置づけています。
内部統制評価の現行制度を踏まえる
期中監査で内部統制評価を扱うにあたっては、現行の内部統制報告制度を踏まえておく必要があります。
2023年4月、企業会計審議会は「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」および実施基準の改訂に関する意見書を公表しました。この改訂の背景には、内部統制報告制度が2008年4月1日以後開始する事業年度に適用されてから15年余りが経過するなかで、評価範囲外から開示すべき重要な不備が明らかになる事例や、内部統制の有効性評価が訂正される際に十分な理由の開示がない事例が見られたことがあります。
改訂基準および改訂実施基準は、2024年4月1日以後開始する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査から適用されています。
内部統制基準では、財務報告に係る内部統制が有効であるとは、当該内部統制が適切な内部統制の枠組みに準拠して整備及び運用されており、開示すべき重要な不備がないことをいうとされています。そして開示すべき重要な不備とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い財務報告に係る内部統制の不備を指します。
出典:金融庁|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)
この定義から見えてくるのは、内部統制評価においては「統制があるか」だけでは足りない、ということです。
その統制は、適切に整備されているか。実際に運用されているか。開示すべき重要な不備はないか。財務報告に重要な影響を及ぼしうる不備を見落としていないか。
期中監査では、これらを期末になって初めて検討するのではなく、期中の段階で把握し、必要に応じて会社に是正を促し、期末評価へつなげていく必要があります。
期中監査の入口は、業務理解である
期中監査で最初に取り組むべきことは、業務理解です。
業務理解とは、会社の説明を聞くことと同義ではありません。取引がどこで発生し、誰が承認し、どのシステムに入力され、どの証憑に基づき、どの会計処理を経て、どの財務諸表項目に反映されるのか。その一連の流れを、リスクとアサーションに結びつけて理解することです。
たとえば販売プロセスであれば、受注、与信、契約、出荷・役務提供、売上計上、請求、回収、債権管理という流れを確認していきます。売上計上の統制だけを見ていても、与信管理や契約管理が弱ければ、貸倒、返品、値引き、契約条件の変更、収益認識時期に影響が及ぶ可能性があります。
売上拡大を先行させた結果として売掛金の滞留が生じたようなケースでは、会計上、貸倒引当金を計上すれば足りるという話ではありません。与信管理、契約管理、収益認識、請求管理、債権管理という業務プロセス全体の統制として捉える必要があります。
業務理解では、次の観点を外さないようにしたいところです。
| 観点 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 取引の流れ | 取引がどこで発生し、どこで承認され、どこで記録されるか |
| 証憑 | 契約書、発注書、納品書、検収書、請求書、入金資料などがどう残るか |
| システム | どのシステムで処理され、どのデータが会計システムへ連携されるか |
| 承認 | 誰が、どの基準で、どのタイミングで承認するか |
| 例外処理 | 通常フローから外れる取引がどのように処理されるか |
| 会計処理 | どの時点で、どの勘定科目に、どの金額で記録されるか |
| 開示への接続 | 注記、有価証券報告書、決算短信、内部統制報告書にどう影響するか |
業務理解が浅ければ、内部統制評価もまた浅くなります。
リスクを理解しないまま統制だけを確認しても、その統制が何を防止し、発見し、是正しているのかが分からないからです。
統制理解では「統制目的」と「証跡」を見る
期中監査で統制を理解する際には、統制目的と証跡を必ず確認します。
統制目的とは、その統制がどの虚偽表示リスクに対応しているのかということです。証跡とは、その統制が実際に実施されたことを、後から確認できる記録を指します。
実務上は統制が存在していても、証跡が残されていないために、監査上の評価に耐えない形になっていることがあります。実質的なコントロールは動いているのに「評価に耐えうる」状態になっていない、という状況は決して珍しくありません。
統制理解は、次のように整理しておくと、整備評価・運用評価へつなげやすくなります。
| 項目 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 統制目的 | どの虚偽表示リスクを防止・発見・是正するための統制か |
| 統制活動 | 具体的に誰が何を確認・承認・照合・レビューするか |
| 統制頻度 | 日次、週次、月次、四半期、年次、取引ごとなど |
| 統制実施者 | 実施者の権限、能力、独立性、職務分離 |
| 使用データ | システム生成データ、手入力データ、外部資料の信頼性 |
| 証跡 | 承認履歴、チェックリスト、照合表、レビューコメント、ログなど |
| 例外対応 | エラーや差異が発見された場合に誰がどう対応するか |
| IT依存度 | 自動化統制、アクセス権、マスタ変更、システム連携の影響 |
統制理解は、会社が作成した業務記述書やフローチャートを読むだけでは完結しません。会社作成資料が実態と一致しているかどうかを、自ら確かめる必要があります。
規程やマニュアルに書かれた統制が、現場では行われていないこともあります。逆に、現場では統制が行われているにもかかわらず、規程や手順書、3点セット、証跡に落ちていないこともあります。いずれの場合も、監査上は慎重な評価が求められます。
整備評価は「統制が設計され、業務に適用されているか」を見る
内部統制評価では、まず整備評価から入ります。
整備評価とは、統制が虚偽表示リスクに対応するように適切に設計され、実際の業務に適用できる状態にあるかを評価することです。規程が存在するか、フローチャートが作成されているかを確認するだけでは足りません。
整備評価では、次の問いに答えていく必要があります。
| 問い | 判断のポイント |
|---|---|
| その統制は、識別したリスクに対応しているか | リスクと統制目的がずれていないか |
| 統制実施者は適切か | 権限、能力、独立性、職務分離が確保されているか |
| 統制の実施方法は明確か | 誰が、何を、どの基準で確認するかが定義されているか |
| 証跡が残るか | 後から統制実施を確認できる記録が残るか |
| 例外処理が定義されているか | 差異やエラーが発生した場合の対応が決まっているか |
| IT処理に依存しているか | アクセス権、変更管理、マスタ管理、ログの信頼性が確保されているか |
| 実態に合っているか | 規程・マニュアルと現場運用が一致しているか |
組織変更やビジネスの変化によって、業務フローはしばしば書き換わります。とりわけ売上計上や仕入計上のコントロールについては、実態を早期に確認しておきたいところです。内部統制のデザイン評価では、統制する仕組みが設計され規程等に可視化されているか、そしてその規程等が実態に合っているかを確かめることが重要になります。
これは通常の上場会社監査でも変わりません。
会社が成長し、組織が変わり、システムが変わり、取引類型が増えていけば、過年度に有効だった統制が当年度も有効であるとは限らないからです。整備評価では、前年の統制を形式的に更新するのではなく、当年度の業務実態と財務報告リスクに対応しているかを確認する必要があります。
運用評価は「統制が期間を通じて一貫して機能したか」を見る
整備評価で統制が適切に設計されていると判断できたとしても、それだけで監査上依拠できるわけではありません。
統制は、実際に運用され、監査対象期間を通じて一貫して機能している必要があります。
運用評価では、次の点を確認します。
| 観点 | 確認内容 |
|---|---|
| 実施実績 | 統制が対象期間中に実際に実施されているか |
| 一貫性 | 実施方法が期間を通じて変わっていないか |
| 実施者 | 定められた権限者が実施しているか |
| 証跡 | 実施記録、承認履歴、レビューコメントが残っているか |
| 例外事項 | 差異、エラー、未承認、遅延が発生していないか |
| 是正対応 | 例外事項が適時に是正されているか |
| IT統制 | 自動化統制やシステム生成データを支えるIT全般統制に問題がないか |
監査基準報告書330は、運用評価手続について、質問とその他の監査手続を組み合わせて実施し、監査対象期間において内部統制がどのように運用されていたか、その運用が一貫していたか、誰がまたはどのような方法で運用していたかを確かめる必要があるとしています。
出典:日本公認会計士協会|監査基準報告書330 評価したリスクに対応する監査人の手続
ここで注意したいのは、質問だけでは運用評価にならない、という点です。
「担当者に聞いたところ、毎月確認しているとのことだった」という調書は、統制の運用状況に関する証拠としては弱いことが少なくありません。実際の承認証跡、照合表、差異分析資料、システムログ、レビューコメント、再実施結果などを確認し、必要に応じて再実施や閲覧を組み合わせていく必要があります。
期中で運用評価を行う場合は、ロールフォワードを意識する
期中監査では、運用評価を期末前に実施することがあります。
その場合、期中時点まで統制が有効に運用されていたとしても、それが期末日まで有効であったとは直ちには言えません。期中で評価した後、期末日までの期間についても、統制が継続して有効に機能していたかを確認する必要があります。
これが、いわゆるロールフォワードの考え方です。
ロールフォワードでは、次の観点を検討します。
| 観点 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 期中評価後の期間 | 期中評価日から期末日までどの程度の期間が残っているか |
| 統制頻度 | 統制が日次、月次、四半期、年次のどの頻度で実施されるか |
| リスクの程度 | 対応する虚偽表示リスクが高いか低いか |
| 変更の有無 | 組織、担当者、システム、業務フローに変更がないか |
| 例外事項 | 期中評価後に例外や不備が発生していないか |
| 追加手続 | 追加サンプル、質問、閲覧、再実施、変更確認が必要か |
期中で評価したのだから期末は何もしなくてよい、という判断は危険です。
とりわけ、決算・財務報告プロセス、会計上の見積り、開示基礎資料、IT全般統制、権限変更、マスタ変更、手作業によるレビュー統制については、期末までの変化を慎重に確認しておく必要があります。
期中取引検証は、期末監査の代替ではなくリスク把握の手続である
期中監査では、期中取引の検証を行うことがあります。
ここで大切なのは、期中取引検証を単なる前倒しの実証手続として扱わないことです。
期中取引検証の目的は、期末残高を直接検証することだけにあるのではありません。むしろ、期中の取引検証を通じて、業務プロセス、内部統制、会計処理、例外処理、非定型取引、不正リスクを把握し、監査計画とリスク評価を更新していくところに眼目があります。
期中取引検証では、次のような取引を重点的に確認することが考えられます。
| 対象 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 重要金額の取引 | 金額的重要性、承認、証憑、会計処理、開示影響 |
| 非定型取引 | 通常業務フロー外の承認、契約条件、会計処理 |
| 期末に近い取引 | カットオフ、収益認識、仕入計上、在庫移動 |
| 例外処理 | システム外処理、手入力修正、特別承認、取消・再計上 |
| 関連当事者取引 | 取引条件、承認、開示、実態 |
| 新規取引 | 新しい契約形態、取引価格、履行義務、リスク移転 |
| 長期滞留債権・在庫 | 評価、貸倒、滞留、処分可能性 |
| 仕訳 | 経営者による内部統制の無効化、手入力、期末修正 |
販売業務、在庫管理、経理・財務業務における内部統制は、受注、売上計上、請求、回収、在庫評価、債権管理、決算業務といったプロセス別に統制リスクを捉えていく必要があります。
期中取引検証を行っておけば、期末に初めて判明すると手戻りの大きい論点を、早い段階で把握できます。
もっとも、期中取引を検証しただけで、期末残高について十分かつ適切な監査証拠が得られるわけではありません。期末残高、期末カットオフ、評価、表示・開示については、期末時点での追加手続が必要になります。
課題管理は、期中監査の品質を左右する
期中監査で識別した課題は、一覧表に記録して終わりというわけにはいきません。
課題管理では、課題の内容、影響、原因、対応方針、期限、責任者、監査上の追加対応、期末監査への影響までを明確にする必要があります。
「課題管理表」は定期的に更新し、「何を」「いつまでに」「どのように」片付けるかを会社のキーマンと合意しておくこと。「できていない」という抽象論にとどめないこと。これは上場会社監査においても、そのまま当てはまります。
期中監査で識別した課題を抽象的なまま残しておくと、期末監査で次のような問題が生じます。
| 課題管理が弱い場合 | 期末に起こる問題 |
|---|---|
| 不備内容が曖昧 | 追加手続の要否を判断できない |
| 対応期限が不明 | 期末直前まで未解決のまま残る |
| 責任者が不明 | 会社側の対応が進まない |
| 財務諸表影響が未整理 | 監査意見や開示への影響を判断できない |
| 証拠が未入手 | 是正完了と判断できない |
| 審査共有が遅れる | 監査報告直前に手戻りが生じる |
| 監査役等への共有が不足 | ガバナンス上の対話につながらない |
課題管理表には、少なくとも次の項目を含めておきたいところです。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 課題の内容 | どのプロセス、統制、会計処理、開示に関する課題か |
| 識別日 | いつ、どの手続で識別したか |
| 影響範囲 | 財務諸表項目、注記、内部統制評価、監査報告への影響 |
| 原因 | 設計不備、運用不備、証跡不足、資料不足、判断不足など |
| 会社対応 | 是正方針、担当者、期限、必要資料 |
| 監査対応 | 追加手続、実証手続拡大、審査共有、監査役等報告 |
| 完了判断 | 是正後の証拠、再評価結果、残余リスク |
| 期末への持越し | 期末監査で確認すべき事項 |
期中監査の価値は、課題を見つけることそのものにあるのではありません。期末までに判断可能な状態へ持っていくことにあります。
内部統制不備を識別した場合の考え方
期中監査で内部統制不備を識別したからといって、それが直ちに開示すべき重要な不備であると結論づけられるわけではありません。
不備の性質、原因、発生可能性、潜在的な虚偽表示の重要性、補完統制、是正状況、財務諸表監査への影響を、順を追って評価していく必要があります。
内部統制基準では、経営者は財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性の観点から必要な範囲について内部統制の有効性評価を行うこととされ、評価に先立って内部統制の整備及び運用の方針・手続を定め、その状況を記録し保存することが求められています。また、財務報告に係る内部統制の有効性評価は、原則として連結ベースで行うものとされています。
さらに、経営者は全社的な内部統制を評価したうえで、その結果を踏まえて業務プロセスに係る内部統制を評価しなければならないとされています。
出典:金融庁|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)
したがって、期中で不備を識別した場合には、当該統制だけを見て終わるのではなく、全社的統制、業務プロセス、IT統制、決算・財務報告プロセスへの波及を確認する必要があります。
内部統制不備の評価は、次の順序で考えると整理しやすくなります。
| ステップ | 判断内容 |
|---|---|
| 1. 不備の識別 | 設計不備か、運用不備か、証跡不足か、IT統制不備か |
| 2. 影響するリスク | どの虚偽表示リスクに対応する統制か |
| 3. 財務諸表項目 | どの勘定科目、注記、開示に影響するか |
| 4. 発生可能性 | 虚偽表示が発生する可能性が高いか |
| 5. 潜在的影響額 | 金額的重要性があるか |
| 6. 質的重要性 | 不正、経営者関与、財務制限条項、開示影響があるか |
| 7. 補完統制 | 他の統制でリスクが低減されているか |
| 8. 是正状況 | 期末日までに是正され、十分な運用実績があるか |
| 9. 監査対応 | 実証手続拡大、審査共有、監査役等報告が必要か |
| 10. 報告影響 | 内部統制報告書、内部統制監査報告、財務諸表監査への影響 |
内部統制基準では、開示すべき重要な不備が期末日に存在する場合、内部統制報告書にその内容と是正されない理由を記載しなければならないとされています。他方で、開示すべき重要な不備が発見されたとしても、それが評価時点である期末日までに是正されていれば、財務報告に係る内部統制は有効であると認めることができるとされています。
出典:金融庁|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)
ただし、是正したという会社の説明だけで足りるわけではありません。是正後の統制が適切に整備され、評価時点までに有効に運用されていたことを、証拠をもって確認する必要があります。
期中監査と決算・開示体制の確認
期中監査では、日常取引プロセスだけでなく、決算・開示体制にも目を向ける必要があります。
財務報告は、日常取引の集計だけで完結するものではありません。決算整理仕訳、連結決算、注記、会計上の見積り、開示基礎資料、記述情報との整合、内部統制報告書と、期末に集中するプロセスが控えているからです。
経理・財務業務は、金融商品取引法における財務報告に係る内部統制の中心的な役割を担います。日々の取引処理が正確に行われることに加えて、決算前後の取引の期間帰属、引当金、税金計算、費用・収益の繰延べといった、決算処理固有の統制も重要になります。
決算・開示が遅れがちな会社には、いくつか共通する傾向があります。単体決算、連結決算、開示業務が分断している。開示基礎資料が不足している。開示基礎資料と最終成果物が紐づいていない。監査開始のタイミングが悪い。こうした点は、決算早期化の観点からもしばしば指摘されるところです。
期中監査では、次のような決算・開示体制を確認しておきたいところです。
| 領域 | 期中で確認すべきこと |
|---|---|
| 単体決算 | 月次決算の精度、決算整理仕訳、勘定科目明細、証憑管理 |
| 連結決算 | 連結パッケージ、子会社報告体制、内部取引消去、連結修正 |
| 会計上の見積り | 減損、税効果、引当金、退職給付、時価評価、継続企業 |
| 注記 | 開示基礎資料、会計方針、見積り注記、関連当事者、後発事象 |
| 決算短信・有報 | 最終成果物から逆算した資料設計、数値と記述情報の整合 |
| 内部統制報告書 | 経営者評価、評価結果、不備、是正状況、監査人との協議 |
| 監査対応 | 資料提出時期、レビュー体制、会社側説明能力、課題管理 |
決算・開示体制を確認しないまま期末に入ってしまうと、監査人は期末に、数字の検証だけでなく、会社の資料作成能力や開示基礎資料の信頼性までを同時に確かめなければならなくなります。
これでは、期末監査が論点収束の場ではなく、論点発見の場になってしまいます。
期中監査で監査計画を更新する
期中監査の結果は、監査計画の更新に反映されなければ意味がありません。
内部統制が想定どおり有効に運用されていれば、当初計画した統制依拠や実証手続の範囲を維持できる可能性があります。反対に、統制不備や例外事項が発見されれば、実証手続の種類、時期、範囲を見直す必要が出てきます。
監査計画の更新が必要になりやすいのは、次のような場合です。
| 期中監査で把握した事象 | 更新すべき監査計画上の論点 |
|---|---|
| 統制証跡が残っていない | 統制依拠方針、追加実証手続、会社改善対応 |
| 運用例外が多数発生 | 運用評価の結論、サンプル拡大、不備評価 |
| 業務フローが変更 | 整備評価の再実施、リスク評価の更新 |
| ITシステムが変更 | IT全般統制、データ信頼性、手続時期 |
| 新規取引が発生 | 会計処理、契約条件、開示、KAM候補 |
| 業績が悪化 | 減損、税効果、継続企業、見積り監査 |
| 不正兆候が発見 | 仕訳テスト、非定型取引、監査役等報告 |
| 決算資料が不十分 | 期末監査日程、会社資料依頼、開示チェック |
| 内部監査結果に重要指摘 | 監査計画、統制評価、三様監査連携 |
| 監査役等から懸念事項 | リスク評価、追加手続、審査共有 |
期中監査で得た情報を監査計画に反映しないのであれば、期中監査は単なる消化手続に終わってしまいます。
大切なのは、期中監査の結果を、リスク評価、内部統制への依拠方針、監査手続の種類・時期・範囲、監査調書、審査対応、監査役等報告へと接続していくことです。
監査役等・内部監査との連携
期中監査で把握した重要論点は、監査チーム内で抱え込むべきものではありません。
監査役等や内部監査と連携し、内部統制不備、改善状況、重要な会計論点、不正リスク、KAM候補を共有することで、監査品質は確実に高まります。
監査役等は、取締役および執行役の職務執行に対する監査の一環として、内部統制に関心を持っています。会社法上の監査役会は、監査役が組織的・効率的な監査を行い、より高い水準の監査を実現するための機能を果たすことが期待されている機関です。
期中段階で監査役等と共有しておきたい事項は、次のとおりです。
| 共有事項 | 共有の意味 |
|---|---|
| 監査計画上の重点領域 | 監査人がどこを重要と見ているかを共有する |
| 内部統制評価の進捗 | 会社の整備・運用状況を把握してもらう |
| 統制不備・例外事項 | ガバナンス上の改善論点として共有する |
| 会社対応状況 | 課題が放置されていないか確認する |
| 不正リスク | 経営者関与、内部通報、非定型取引を共有する |
| 会計上の見積り | 重要な経営者判断を早期に議論する |
| KAM候補 | 監査報告書作成時に議論を集中させない |
| 期末監査への影響 | 未解決論点を期末前に明確にする |
内部監査との関係でも、期中監査は重要な意味を持ちます。
内部監査が業務プロセス、統制不備、改善状況を把握しているのであれば、外部監査人にとって貴重な情報源になります。ただし、その結果を利用する場合には、客観性、専門能力、実施手続の十分性、調書化の水準を確認しておく必要があります。
期中監査で失敗しやすいポイント
1. 期中監査を「前倒し作業」として扱う
期中監査を前倒しの証憑突合だけで終わらせてしまうと、内部統制やリスク評価の更新には結びつきません。
期中監査で重要なのは、会社の業務と統制が動いている間に、リスクの発生源を押さえることです。
2. 会社作成の3点セットをそのまま信じる
フローチャート、業務記述書、RCMが整っていても、実態と一致しているとは限りません。
資料がきれいであることと、内部統制が有効であることは別です。ウォークスルーや証跡確認を通じて、実際の業務への適用を必ず確認する必要があります。
3. 統制証跡の不足を軽く扱う
統制が実務上行われていたとしても、証跡が残っていなければ、監査上は評価しにくくなります。
承認印、システムログ、レビューコメント、差異分析資料、照合表など、後から統制実施を確認できる証跡が欠かせません。
4. 運用評価を質問だけで終わらせる
担当者への質問はもちろん重要ですが、それだけでは運用評価手続として不十分な場合が少なくありません。
閲覧、再実施、観察、システムログ確認、サンプルテストなどを組み合わせる必要があります。
5. 期中評価後のロールフォワードを忘れる
期中で統制が有効であったとしても、期末まで継続して有効だったかどうかは、別途確認しなければ分かりません。
組織変更、担当者変更、システム変更、例外事項の発生があれば、追加手続が必要になります。
6. 課題管理が抽象的である
「決算体制が弱い」「証跡が不十分」「統制が未整備」といった記載だけでは、会社は動きようがありません。
「何を」「いつまでに」「誰が」「どの資料で」「どの水準まで」改善するのかを明確にする必要があります。
7. 財務諸表監査と内部統制監査が分断される
内部統制評価の結果が財務諸表監査の手続に反映されていなければ、期中監査の意味は薄れてしまいます。
統制不備があれば、統制リスク、実証手続、監査証拠、未修正虚偽表示、監査報告への影響を、一体のものとして考える必要があります。
期中監査を期末監査へつなげるための実務整理
期中監査の成果は、期末監査で使える状態に整理されていて初めて価値を持ちます。
期中手続を実施したという記録にとどめず、それが期末監査へどうつながるのかまでを明確にしておく必要があります。
| 期中監査の成果物 | 期末監査へのつなげ方 |
|---|---|
| 業務理解メモ | リスク評価、アサーション、監査手続へ接続する |
| フローチャート・業務記述書 | 統制理解、整備評価、ウォークスルーへ接続する |
| RCM | リスク、統制、監査手続、証拠を接続する |
| 整備評価調書 | 統制に依拠できる前提を整理する |
| 運用評価調書 | 統制依拠の可否、追加実証手続の要否を判断する |
| 期中取引検証調書 | 異常取引、例外処理、不正リスクを期末手続へ反映する |
| 課題管理表 | 未解決論点を期末前に収束させる |
| 監査役等共有資料 | 重要論点をガバナンス上の対話へつなげる |
| 審査共有メモ | 高リスク論点を期末直前の手戻りにしない |
期中監査で作成した調書が、期末監査で読み返したときに使えないのであれば、その期中監査は十分に機能していなかったということになります。
「何を実施したか」だけでなく、「何が分かり、何が未解決で、期末に何を確認すべきか」まで残しておきたいところです。
期中監査は、期末監査の混乱を防ぐための判断プロセスである
期中監査は、監査現場の効率化のためだけに行うものではありません。
期中監査とは、監査人が会社の実態を理解し、内部統制の有効性を評価し、期末に監査意見を形成するための証拠形成を、計画的に進めていくプロセスです。
期中監査で次のような状態を作ることができれば、期末監査の景色は大きく変わります。
| 期中監査で作るべき状態 | 期末監査での効果 |
|---|---|
| 重要な業務プロセスを理解している | 期末残高のリスクを説明しやすい |
| 統制の整備・運用状況を把握している | 実証手続の範囲を合理的に設計できる |
| 不備と課題が管理されている | 未解決論点が期末に集中しにくい |
| 重要な取引・例外処理を把握している | 不正リスクや非定型取引に対応しやすい |
| 決算・開示体制を確認している | 期末資料の不足や手戻りを減らせる |
| 監査役等と論点を共有している | 監査報告前の説明が形式化しにくい |
| 審査論点を早期に整理している | 監査報告直前の手戻りを防ぎやすい |
期末監査を安定させたいのであれば、期末に頑張るだけでは足りません。
期中でどこまで会社を理解し、どこまで統制を評価し、どこまで課題を解消し、どこまで関係者に説明できる状態にしておくか。それが、期末監査の品質を左右します。
期中監査・内部統制評価に課題がある場合
期中監査や内部統制評価が形式化していると、その影響は期末監査で表面化します。
内部統制不備の評価遅れ、実証手続の追加、会社資料の不足、監査役等への説明不足、審査対応の手戻り、KAM候補の整理不足、内部統制報告書への影響。こうした論点が、期末に一斉に押し寄せることになりかねません。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、法定監査、内部統制、決算・開示、会計上の見積り、監査役等との連携を一体として整理し、説明可能な監査判断プロセスを組み立てるための相談を受け付けています。
期中監査の進め方、内部統制の整備評価・運用評価、課題管理表の設計、監査計画更新、監査役等・審査担当者への説明にお悩みがある場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。現在の3点セット、RCM、課題管理表、監査計画書、監査役等報告資料をお手元にご用意いただけると、どの論点を期中で収束させ、どの論点を期末監査へ接続すべきかを整理しやすくなります。
振り返り
| 重要事項 | 実務上の意味 |
|---|---|
| 期中監査は期末監査の前倒しではない | 業務理解、統制評価、リスク評価更新を行う局面である |
| 業務理解が内部統制評価の入口になる | 取引の発生から財務諸表・開示までの流れを理解する |
| 統制理解では統制目的と証跡を見る | 統制がどのリスクに対応し、後から確認できるかを判断する |
| 整備評価では設計と業務への適用を確認する | 規程や3点セットが実態に合っているかを評価する |
| 運用評価では期間を通じた実効性を見る | 質問だけでなく、閲覧・再実施・ログ確認等を組み合わせる |
| 期中評価後はロールフォワードが必要になる | 期末日まで統制が継続して有効だったかを確認する |
| 期中取引検証はリスク把握にも使う | 異常取引、例外処理、非定型取引、不正リスクを早期に把握する |
| 課題管理は具体化が重要である | 何を、いつまでに、誰が、どの水準まで対応するかを明確にする |
| 内部統制不備は財務諸表監査へ波及する | 統制リスク、実証手続、監査証拠、内部統制報告へ影響する |
| 決算・開示体制も期中で確認する | 期末監査で資料不足や開示手戻りを発生させない |
| 監査役等・内部監査との連携が重要である | 内部統制不備や重要論点をガバナンス上の対話へつなげる |
| 期中監査の成果は期末監査へ接続する | 調書、課題管理表、審査共有、監査役等報告に落とし込む |