内部統制の不備・重要な不備・開示すべき重要な不備|J-SOX不備評価を「潜在的な虚偽表示リスク」から説明する

内部統制評価で難しいのは、不備を見つけることそのものではありません。

本当に難しいのは、見つかった不備が財務報告にどの程度の影響を及ぼし得るのかを判断し、その判断を会社、監査役等、会計監査人、審査担当者、場合によっては財務諸表利用者に対して説明できる状態にしておくことです。

承認漏れが1件あった。サンプルテストで例外が出た。決算資料のレビュー証跡が残っていなかった。IT権限の棚卸が遅れていた。子会社の決算数値に誤りがあった。過年度の有価証券報告書を訂正することになった。

これらはいずれも「内部統制上の問題」になり得ます。しかし、直ちに「開示すべき重要な不備」となるわけではありません。

一方で、実際の誤謬金額が小さい、サンプル例外が少ない、期末までに修正仕訳を入れた、といった事情だけを根拠に軽微と判断できるわけでもありません。

内部統制の不備評価で見るべき中心は、発生した誤謬そのものではなく、その不備によって財務報告に重要な虚偽記載が発生する可能性と、その影響の大きさです。

本稿では、5-3「整備評価・運用評価・ロールフォワード」を前提として、内部統制の不備、重要な不備、開示すべき重要な不備を、J-SOXの不備評価、財務諸表監査、訂正対応、監査役等報告、審査対応へ接続しながら整理します。

目次

まず、「不備」「重要な不備」「開示すべき重要な不備」を混同しない

J-SOX実務では、「不備」「重要な不備」「開示すべき重要な不備」という言葉が近い距離で使われます。しかし、これらは同じ階層に並ぶ用語ではありません。

財務報告に係る内部統制の評価制度において、内部統制が有効であるとは、適切な内部統制の枠組みに準拠して整備・運用されており、開示すべき重要な不備がない状態をいいます。そして開示すべき重要な不備とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い、財務報告に係る内部統制の不備を指します。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

一方で、「重要な不備」という表現は、財務諸表監査における監査役等とのコミュニケーションの文脈でも用いられます。

JICPAの内部統制監査に関する実務上の取扱いでは、監査基準報告書265における重要な不備は、監査人が監査役等の注意を促すに値するほど重要と判断した内部統制の不備であり、開示すべき重要な不備は、財務報告全般に関する虚偽記載の発生可能性と影響の大きさから判断するものとして整理されています。
出典:日本公認会計士協会|財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い

したがって、実務上は次のように切り分けておく必要があります。

区分実務上の意味
内部統制の不備統制の整備又は運用に問題があり、虚偽記載を防止又は発見・是正する機能が十分でない状態
重要な不備主に財務諸表監査・監査役等コミュニケーションの文脈で、監査役等の注意を促すに値するほど重要な不備
開示すべき重要な不備J-SOX上、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備であり、期末日に存在すれば内部統制は有効でないと評価される不備

この区別が曖昧なままだと、監査役等へ報告すべき事項と、内部統制報告書で外部開示すべき事項とが混同されてしまいます。

特に審査やレビューの場面では、「重要な不備と判断したのか」「開示すべき重要な不備ではないと判断したのか」「その理由は何か」が問われます。

内部統制の不備は、整備上の不備と運用上の不備からなる

内部統制の不備は、大きく整備上の不備と運用上の不備に分けて考える必要があります。

金融庁の実施基準では、内部統制の不備は、内部統制が存在しない、又は規定されている内部統制では目的を十分に果たせないといった整備上の不備と、整備段階で意図したように運用されていない、運用上の誤りが多い、統制を実施する者が統制内容や目的を正しく理解していないといった運用上の不備からなるとされています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

整備上の不備

整備上の不備は、統制設計そのものの問題です。

たとえば、売上計上について承認統制が置かれていたとしても、承認者が契約条件、履行義務、出荷・検収、期間帰属、変動対価を確認する設計になっていなければ、収益認識リスクを十分に低減することはできません。

運用上の不備

運用上の不備は、設計された統制が意図どおりに実行されていない問題です。

たとえば、月次の滞留在庫レビュー統制が設計されていても、レビューが遅れている、対象データが不完全である、差異分析が行われていない、承認者が内容を確認せず形式的に承認しているといった状況であれば、運用上の不備となります。

ここで重要なのは、整備上の不備と運用上の不備のどちらかに機械的に分類することではありません。どのような原因により、どの財務報告リスクが低減されていないのかを説明することです。

開示すべき重要な不備は、実際の誤謬額だけで判断しない

内部統制の不備評価では、実際に発見された誤謬額だけを見て判断してはいけません。

開示すべき重要な不備は、一定の金額を超える虚偽記載、又は質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性が高い内部統制の不備をいい、経営者は金額的な面と質的な面の双方から検討する必要があります。金額的重要性は、連結総資産、連結売上高、連結税引前利益などに対する比率で判断しますが、これらを画一的に当てはめるのではなく、会社の業種、規模、特性に応じて適切に用いることが求められます。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

この考え方に立てば、不備評価の出発点は次の問いに置かれます。

  • この不備があった場合、どの勘定科目、注記、開示項目に虚偽記載が発生し得るか
  • その虚偽記載は、どの程度の金額規模になり得るか
  • その虚偽記載は、どの程度の頻度又は可能性で発生し得るか
  • 金額は小さくても、投資判断、上場維持、財務制限条項、関連当事者、経営者関与、不正リスクに関わる質的重要性があるか

たとえば、発見された誤謬が100万円であったとしても、その不備が売上計上プロセス全体に関わり、母集団全体では重要な虚偽表示につながる可能性があるのなら、軽微とはいえません。

反対に、サンプル例外が存在していても、原因が限定的であり、同じ統制目的を達成する有効な補完統制があり、母集団全体への影響が限定されると説明できる場合には、開示すべき重要な不備には至らないこともあります。

不備評価とは、発見された誤りの金額評価ではありません。潜在的な虚偽表示リスクの評価です。

「発生可能性」と「影響の大きさ」を分けて考える

開示すべき重要な不備の判断は、基本的に、虚偽記載の発生可能性と影響の大きさの双方から行います。

金融庁の実施基準は、開示すべき重要な不備の判断指針は企業の環境や事業特性により異なるため一律には示せないとしつつ、基本的には財務報告全般に関する虚偽記載の発生可能性と影響の大きさから判断されるとしています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

実務上は、この2軸を分けて記録しておくことが重要です。

影響の大きさは、対象勘定科目の残高、取引量、注記・開示項目への波及、連結財務諸表への影響、質的重要性によって評価します。

発生可能性は、統制不備の原因、反復性、母集団への広がり、過年度からの継続、担当者の理解不足、システム設定、内部監査・監査人からの過去の指摘、経営者関与、不正リスクの有無によって評価します。

たとえば、決算・財務報告プロセスにおいて連結パッケージのレビュー統制が十分に機能していなかった場合、発見された誤りが少額であっても、連結修正、組替、注記、セグメント、関連当事者、後発事象など複数の領域に影響が及ぶ可能性があります。この場合に見るべきは、単一の誤謬金額ではなく、統制不備が及ぶ範囲です。

一方、特定担当者の一時的な入力ミスであり、上位レビュー、システムチェック、月次差異分析、決算レビューによって適時に発見・是正される仕組みが機能していた場合には、発生可能性や影響の広がりは限定的と評価できる余地があります。

複数の不備は、単独ではなく組み合わせて評価する

内部統制の不備は、単独で見ると小さく見えることがあります。

しかし、複数の不備が同じ勘定科目、同じ開示項目、同じ財務報告プロセスに影響しているのであれば、それらを組み合わせて評価しなければなりません。

金融庁の実施基準は、複数の内部統制の不備が存在する場合、それらが単独又は複数合わさって開示すべき重要な不備に該当しないかを評価する必要があるとしています。また、勘定科目ごとに見れば重要な虚偽記載に該当しない場合であっても、複数の勘定科目に係る影響を合わせると重要な虚偽記載に該当することがあり、その場合にも開示すべき重要な不備となるとされています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

この点は、実務上かなり重要です。

販売プロセスで与信承認が不十分であり、請求・入金プロセスでも消込確認が弱く、決算時の貸倒引当金レビューも形式的だった場合、個々の不備をそれぞれ軽微と判断することはできません。売掛金の実在性、評価、貸倒見積りに関するリスクが連続して低減されていない以上、組み合わせて評価する必要があります。

また、購買プロセスの検収統制が弱く、未払計上プロセスも弱く、決算整理仕訳レビューも弱いという場合には、費用の網羅性と期間帰属に関する虚偽記載リスクが累積していきます。

不備評価で必要なのは、「どの不備が何件あるか」を数えることではありません。「財務報告リスクを低減する統制の連鎖が、どこで切れているか」を見ることです。

補完統制は、不備を打ち消すための便宜的な説明ではない

不備評価でよく使われる概念が補完統制です。

ただし、補完統制は「何か別のチェックもある」というだけでは足りません。同じ虚偽記載リスクを、十分な精度と適時性で低減している必要があります。

金融庁の実施基準は、勘定科目等に虚偽記載が発生する可能性と影響度を検討する際、個々の内部統制を切り離して検討するのではなく、内部統制が相互に連係して虚偽記載リスクを低減しているかを検討する必要があるとしています。そのうえで、ある内部統制の不備を補う補完統制の有無と、補完統制が虚偽記載の発生可能性及び金額的影響をどの程度低減しているかを検討するとされています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

補完統制として評価するには、少なくとも次の観点が必要です。

  • 対象リスクが同じか
  • 統制の精度が十分か
  • 実施時期が適時か
  • 母集団を網羅しているか
  • 実施者に必要な能力と独立性があるか
  • 補完統制自体について整備評価・運用評価ができているか
  • 証跡が監査証拠として利用できるか

たとえば、日次の売上承認統制に不備があった場合、月次の売上分析が存在するというだけでは補完統制とはいえません。その月次分析が、架空売上、期間帰属、異常値、返品・値引、未出荷売上を発見できる粒度で行われ、差異が調査・是正されている必要があります。

補完統制は、「不備があっても何となく大丈夫」と説明するための概念ではありません。不備によって高まった虚偽記載リスクを、別の統制が実際にどこまで低減しているのかを評価するための概念です。

全社的な内部統制の不備は、影響が広範になる

業務プロセスの不備は、特定の勘定科目や取引循環に紐づけて評価できることが多いといえます。これに対して、全社的な内部統制の不備は、影響範囲が広くなります。

金融庁の実施基準は、全社的な内部統制に不備がある場合、内部統制の有効性に重要な影響を及ぼす可能性が高いとしています。そして、開示すべき重要な不備となる例として、経営者が財務報告の信頼性に関するリスク評価と対応を実施していないこと、取締役会又は監査役等が内部統制の整備・運用を監督・監視・検証していないこと、財務報告に係る内部統制の有効性を評価する責任部署が明確でないこと、ITに関する内部統制の不備が改善されずに放置されていること、内部統制の整備状況に関する記録を欠いていること、報告された全社的な不備が合理的な期間内に改善されないことを挙げています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

全社的統制の不備は、直接に特定の仕訳の誤りを生むとは限りません。しかし、決算体制、リスク評価、権限分掌、監査役等の監視、内部監査、IT統制、子会社管理、経営者の姿勢に関わるため、個別の業務プロセス統制の信頼性を支える土台そのものを揺るがします。

特に注意すべきなのは、経営者関与、不正リスク、子会社管理、決算・開示統制の不備です。

会計不正の実務では、不正実行者が取引スキームを熟知し、内部統制の欠陥を突いて行うことが多く、長期間同一業務を担当している者や、社内で信頼を得ている者が関与することもあります。形式的に統制が存在するというだけでは、不正リスクを低減することはできません。

IT統制の不備は、直ちに開示すべき重要な不備とは限らないが、軽視できない

IT全般統制の不備は、直ちに特定の金額誤謬に結びつかないことがあります。そのため、IT全般統制に不備があるという事実だけで、常に開示すべき重要な不備になるわけではありません。

もっとも、金融庁の実施基準は、IT全般統制に不備がある場合、IT業務処理統制が有効に整備されていても、その有効な運用を継続的に維持できない可能性があり、虚偽記載が発生するリスクが高まるとしています。また、IT業務処理統制に不備がある場合には、業務プロセスに係る内部統制の不備と同様に、その影響度と発生可能性を評価する必要があるとしています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

実務上は、IT統制の不備について次のように整理していきます。

  • アクセス権限に不備がある場合、誰が、どのデータを、どの期間、どの範囲で変更できたのか
  • 変更管理に不備がある場合、財務報告に関係するプログラムや設定が未承認で変更される可能性があったのか
  • システム生成レポートに不備がある場合、統制評価や決算資料で使用したデータの完全性・正確性をどう補うのか
  • 外部委託先の統制評価が不十分な場合、委託先の処理が財務報告に与える影響をどう把握するのか

IT統制の不備は、見た目には技術的な問題に映ります。しかし財務報告上は、売上、在庫、債権債務、固定資産、会計仕訳、連結パッケージ、開示基礎データの信頼性にまで波及していきます。

実際の誤謬・訂正がある場合の考え方

有価証券報告書等の訂正があったからといって、内部統制報告書も必ず訂正しなければならない、という単純な関係にあるわけではありません。

重要なのは、訂正の原因となった誤りが、財務報告に重要な影響を及ぼす内部統制の不備から生じたものかどうかです。

過年度訂正があった場合でも、その誤りが内部統制の評価範囲内の不備に起因するのか、適切に決定された評価範囲外から発見されたものなのか、あるいは評価範囲そのものが不適切だったのかを整理する必要があります。実務上も、有価証券報告書の訂正報告書が提出されたという事実だけで直ちに内部統制報告書の訂正が必要になるわけではない一方、誤りが評価範囲内の重要な内部統制の不備から生じた場合には内部統制報告書の訂正が必要となる、という整理が行われます。

なお、2024年4月以降に提出される訂正内部統制報告書については、改正内部統制府令により、訂正の対象となる内部統制報告書の提出日、訂正の理由、訂正の箇所及び内容等の記載が求められます。

特に、当初「有効」としていた内部統制報告書を訂正し、開示すべき重要な不備があり有効でない旨を記載する場合には、不備の内容、是正措置、評価結果を訂正した経緯、当初の報告書に当該不備の記載がなかった理由等が問題になります。
出典:金融庁|令和6年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等

この改正は、不備評価を後から説明できる状態にしておく必要性を、一段引き上げたといえます。

内部統制報告書の訂正時には、単に「不備がありました」では足りません。当初の評価範囲、評価手続、発見の経緯、判断を変更した理由、是正の状況まで説明する必要があります。

期末日までに是正されたか、期末日後の是正かを分ける

J-SOXの不備評価では、期末日が重要な意味を持ちます。

開示すべき重要な不備が発見された場合でも、評価時点である期末日までに是正されていれば、財務報告に係る内部統制は有効であると認められます。一方、内部統制の評価時点はあくまで期末日であり、期末日後に実施した是正措置は、期末日における評価には影響しません。ただし、内部統制報告書の提出日までに実施した是正措置がある場合には、付記事項として記載することができます。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

この区別は、実務上きわめて重要です。

期末日までに統制を再設計し、運用し、十分な運用実績を確認できているのであれば、是正済みとして評価できる余地があります。

しかし、期末日後に規程を改訂した、担当者を増員した、承認ルートを変更した、システム設定を修正した、という場合、それは将来に向けた是正措置であって、期末日現在の内部統制の有効性を回復するものではありません。

したがって、不備を発見した段階で、期末日までの是正可能性を現実的に見積もっておく必要があります。是正措置の設計だけでなく、是正後の運用実績をどこまで確認できるかが、判断の分かれ目になります。

内部統制報告書で何を記載するか

内部統制報告書では、評価範囲、基準日、評価手続、評価結果を記載します。

内部統制報告書の第一号様式では、評価結果として、財務報告に係る内部統制が有効である旨、評価手続の一部が実施できなかったが有効である旨、開示すべき重要な不備があり有効でない旨、重要な評価手続が実施できなかったため評価結果を表明できない旨などの区分が示されています。開示すべき重要な不備がある場合には、その内容及び事業年度末日までに是正されなかった理由を記載することが求められます。
出典:金融庁|内部統制報告書 第一号様式

ただし、本稿で扱うのは開示文案の作成ではありません。開示文案は、第10テーマ「開示制度・訂正対応」及び第11テーマ「内部統制監査報告書」で扱うべき論点です。

ここで強調しておきたいのは、開示文案の前に、不備評価の判断過程が必要だということです。

  • 開示すべき重要な不備の内容は何か
  • どの財務報告リスクに関係するか
  • どの勘定科目・注記・開示項目に影響するか
  • なぜ期末日までに是正されなかったのか
  • 財務諸表監査上の追加手続は何か
  • 監査役等、会計監査人、取締役会への報告はどう行われたか
  • 是正措置の内容と、提出日までの進捗はどうか

これらが整理されていない状態で開示文案だけを整えても、後から説明に耐えることはできません。

不備評価は、財務諸表監査のリスク対応に反映される

内部統制の不備評価は、J-SOXの報告だけで完結するものではありません。

開示すべき重要な不備に該当しないとしても、統制に依拠できない領域があるのであれば、財務諸表監査のリスク対応を見直す必要があります。実証手続の範囲拡大、期末日後の手続強化、外部証拠の追加、母集団全体への分析、見積り仮定の再検証、仕訳テストの強化、開示チェックの深掘りなどが必要になることがあります。

また、監査人は、経営者による評価範囲の妥当性を検討するに当たり、財務諸表監査の過程で入手した監査証拠を必要に応じて活用し、財務諸表監査の過程で評価範囲外から内部統制の不備を識別した場合には、内部統制報告制度における評価範囲及び評価に及ぼす影響を十分に考慮したうえで、必要に応じて経営者と協議することが適切とされています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)

つまり、J-SOX上の不備評価と、財務諸表監査上のリスク対応は、別々の作業ではありません。

不備評価の結論は、統制リスク、実証手続、監査証拠、未修正虚偽表示の評価、監査役等報告、審査対応、場合によってはKAM候補にまで影響していきます。

判断に迷う典型場面

サンプル例外が少数だった場合

少数の例外だから軽微である、とはいえません。

見るべきは、例外の原因です。単発の証跡漏れなのか、承認者が確認すべき内容を理解していないのか、統制の対象母集団が不完全なのか、システム設定が誤っているのか、特定拠点に集中しているのか。原因によって結論は変わります。

実際の誤謬が修正済みだった場合

財務諸表が修正済みであることと、内部統制が有効であることは別の問題です。

修正仕訳によって財務諸表の虚偽表示が是正されたとしても、同じ誤謬を防止又は発見できなかった統制不備が残っているのであれば、不備評価は必要です。

決算・開示チェックリストに漏れがあった場合

チェックリストの漏れそのものよりも、開示基礎資料の作成・レビュー・承認・修正反映の流れが機能しているかを見ます。

決算早期化の実務でも、単体決算、連結決算、開示業務を縦割りで捉えるのではなく、最終成果物である有価証券報告書や決算短信から逆算して業務を組み立てる視点が重要になります。

子会社で不備が発見された場合

子会社単体の金額的重要性だけでなく、連結財務諸表への影響、親会社の子会社管理統制、決算報告パッケージ、内部監査、監査役等との連携、現地経営者の関与、不正リスクを見ます。

子会社管理の不備は、単一プロセスの問題ではなく、全社的統制の弱さとして評価すべき場合があります。

IT全般統制に不備があった場合

IT全般統制の不備は、直ちに開示すべき重要な不備となるとは限りません。しかし、影響を受ける業務処理統制、システム生成レポート、アクセス可能者、変更可能なデータ、対象期間、補完統制を、具体的に特定しなければなりません。

説明可能な不備評価メモに残すべき事項

不備評価で後から問われるのは、結論だけではありません。むしろ、結論に至るまでの判断過程です。

実務上、不備評価メモには少なくとも次の事項を残しておくべきです。

記録すべき事項残すべき内容
不備の内容整備上の不備か、運用上の不備か。統制目的との関係
発見事実どの手続で、何が、いつ、どの範囲で発見されたか
原因分析担当者理解、設計不足、職務分掌、IT、子会社管理、経営者関与など
影響範囲勘定科目、注記、開示項目、アサーション、拠点、期間、システム
影響額実際の誤謬額だけでなく、潜在的な虚偽表示額、母集団、最大影響
発生可能性単発か反復か、他拠点への波及、過年度からの継続、同種誤謬の有無
質的重要性不正、関連当事者、財務制限条項、上場維持、経営者関与、投資判断への影響
補完統制同じ統制目的を、十分な精度と適時性で達成しているか
是正状況期末日までに是正されたか、期末日後の措置か、運用実績はあるか
報告先経営者、取締役会、監査役等、会計監査人への報告内容
監査対応財務諸表監査のリスク評価・実証手続への影響
結論不備、重要な不備、開示すべき重要な不備のいずれか。その根拠

こうした整理がないまま「開示すべき重要な不備ではない」と結論づけてしまうと、審査やレビューの場で説明に窮することになります。

不備評価は、会社の財務報告体制を映す

内部統制の不備評価は、会社の弱点探しではありません。

財務報告の信頼性を確保するうえで、どのリスクが統制により低減されており、どのリスクが残っているのかを明らかにする作業です。

形式的な統制評価にとどまれば、重要な不備を見逃します。逆に、すべての例外事項を重大視すれば、限られた監査資源が分散し、本当に重要なリスクへの対応が弱くなってしまいます。

公認会計士として重要なのは、次の姿勢です。

  • 実際の誤謬額だけでなく、潜在的影響を見る
  • 単独の不備だけでなく、複数不備の組合せを見る
  • 補完統制を、形式ではなく精度と適時性で見る
  • 期末日までの是正と、期末日後の是正を分ける
  • J-SOXの結論を、財務諸表監査の手続設計に反映する
  • 監査役等、会社、審査担当者に説明できる判断過程を残す

内部統制の不備評価は、単なるJ-SOX作業ではありません。監査意見の形成に至る、監査判断プロセスの一部です。

内部統制の不備評価に迷う場合

内部統制の不備評価では、「軽微」「重要」「開示すべき重要」の境界を明確に線引きできない場面が少なくありません。

特に、決算・財務報告プロセス、会計上の見積り、収益認識、子会社管理、IT統制、関連当事者取引、不正リスクが絡む場合には、単純なサンプル結果や実際の誤謬額だけで判断してしまうと、後から説明に耐えられないことがあります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、J-SOX評価、内部統制監査、財務諸表監査、決算・開示、訂正対応を横断し、不備評価の判断過程を整理する支援を行っています。

開示すべき重要な不備に該当するか、補完統制に依拠できるか、期末日までに是正済みといえるか、内部統制報告書や監査役等報告にどうつなげるべきか。こうした点について個別の事情を踏まえて検討したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

振り返り

論点実務上の要点
内部統制の不備整備上の不備と運用上の不備に分け、どの財務報告リスクが低減されていないかを見る
重要な不備財務諸表監査上、監査役等の注意を促すに値する不備として扱われることがある
開示すべき重要な不備財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備
判断軸実際の誤謬額ではなく、虚偽記載の発生可能性と影響の大きさで判断する
金額的重要性連結総資産、連結売上高、連結税引前利益等を、会社の状況に応じて使う
質的重要性上場維持、財務制限条項、関連当事者、不正、経営者関与、投資判断への影響を見る
複数不備単独でなく、同一勘定科目・複数勘定科目・決算プロセス全体への累積影響を評価する
補完統制同じ統制目的を、十分な精度と適時性で達成しているかを確認する
IT統制IT全般統制の不備は直ちに開示すべき重要な不備とは限らないが、業務処理統制への波及を評価する
是正時点期末日までに是正されていれば有効と評価できる余地があるが、期末日後の是正は期末日評価を変えない
内部統制報告書開示すべき重要な不備が期末日に存在する場合、不備の内容と是正されなかった理由を記載する
財務諸表監査との関係不備評価の結論は、統制リスク、実証手続、監査証拠、監査役等報告、審査対応に影響する
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