不動産収入の相談前に整理すべき論点|物件・契約・家賃・経費・借入・共有・消費税

不動産収入の確定申告は、管理会社から届いた年間収支報告書を会計ソフトへ入力すれば終わる、というものではありません。

誰の不動産から生じた収入なのか。賃料以外にどのような金銭を受け取っているのか。その支出はその年の必要経費なのか、それとも取得価額や資本的支出として処理すべきものなのか。さらに、共有、相続、住宅と事務所の混在、借入金、消費税まで確認しなければ、正しい所得計算にたどり着けないことがあります。

家賃収入が多く見えても、固定資産税、管理費、修繕費、借入金返済、空室、所得税や消費税などが重なると、手元資金は思うほど残らないものです。不動産収入の税務は、単年の申告としてだけでなく、保有・管理・活用・承継を含む長期的な判断として捉える必要があります。

相談前に必要なのは、領収書を一つの袋へまとめることではありません。物件ごとに、所有関係、契約、収入、支出、借入、利用実態、将来方針を結び付けて整理しておくことです。

目次

先に整理しておきたい9つの論点

不動産収入について税理士へ相談する前には、少なくとも次の9点を確認しておきたいところです。

  1. どの物件を、誰が、どのような権利で所有しているか
  2. 物件を何に使用し、誰へ、どのような契約で貸しているか
  3. 家賃、礼金、更新料、敷金等を、いつ、いくら受け取ったか
  4. 支出が、必要経費、取得価額、資本的支出、家事費のどれに当たるか
  5. 土地・建物・設備の取得価額と減価償却をどう整理しているか
  6. 借入金の元本、利息、担保、返済資金をどう管理しているか
  7. 共有や相続がある場合、収入と経費が誰に帰属するか
  8. 事業的規模、青色申告、帳簿・資料保存の状況はどうなっているか
  9. 住宅、事務所、駐車場等の消費税区分と、将来の活用方針はどうなっているか

この順序で確認していくと、単なる集計作業と、専門的な判断が必要な部分とを切り分けやすくなります。

まず「物件一覧」を作成する

複数の不動産をお持ちの場合は、すべての収入と経費を一つにまとめる前に、物件ごとの一覧を作成しておきます。

一覧には、次の事項を記載します。

  • 所在地
  • 土地・建物・区分所有建物等の種類
  • 物件名、部屋番号
  • 所有者
  • 共有者と共有持分
  • 取得年月日
  • 取得原因
  • 賃貸開始日
  • 用途
  • 入居者または賃借人の属性
  • 管理方法
  • 空室期間
  • 借入金の有無
  • 売買代金
  • 土地・建物・設備の金額区分
  • 過去の減価償却方法
  • 今後の売却、修繕、用途変更等の予定

物件一覧に対応させる基本資料

各物件について、少なくとも次の資料を用意します。

  • 登記事項証明書
  • 売買契約書
  • 建築請負契約書
  • 購入時の精算書
  • 仲介手数料等の請求書・領収書
  • 固定資産税・都市計画税の納税通知書
  • 固定資産評価証明書
  • 賃貸借契約書
  • 管理委託契約書
  • 借入金契約書、返済予定表
  • 火災保険・地震保険等の契約資料
  • 過年度の確定申告書
  • 青色申告決算書または収支内訳書
  • 減価償却費の計算明細
  • 固定資産台帳

不動産所得は、原則として総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。この総収入金額には、家賃だけでなく、更新料、承諾料、返還を要しない敷金・保証金、共益費として受け取る水道光熱費等が含まれることがあります。

また、建物や建物附属設備等は減価償却の対象となる一方で、土地は通常、減価償却資産ではありません。そのため、取得時の土地・建物・設備の区分を確認できる資料は、取得年だけでなく、保有期間中の申告や将来の売却にも影響してきます。
出典:国税庁|No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
出典:国税庁|No.2100 減価償却のあらまし

「誰が申告するか」を最初に確定する

家賃の振込先と、税務上その所得が帰属する人は、必ずしも一致しません。

家族名義の口座へ家賃が振り込まれている場合、共有者の一人がすべての家賃を管理している場合、あるいは管理会社がいったん賃料を受け取っている場合でも、それだけで口座名義人や管理者の所得になるとは限らないのです。

資産から生じる収益が誰に帰属するかは、原則として、その収益の基因となる資産の真実の権利者が誰であるかによって判定されます。相談前には、登記名義だけでなく、実際の取得資金、贈与・相続の経緯、共有持分、契約主体、そして収益を享受している人を確認しておきます。
出典:国税庁|法第12条《実質所得者課税の原則》関係

家族名義の口座を使用している場合

次の事項を整理してください。

  • 不動産の真実の所有者
  • 取得資金を負担した人
  • 賃貸借契約上の賃貸人
  • 管理会社との契約者
  • 家賃を最終的に取得している人
  • 固定資産税、借入金、修繕費を負担している人
  • 口座名義が異なる理由
  • 過年度に誰が申告していたか

「家計を一緒にしている」「家族が管理している」という事情だけで、所得の帰属を自由に選べるわけではありません。

その収入は本当に不動産所得か

土地や建物等を、通常の賃貸借契約により貸し付けて得る所得は、原則として不動産所得に該当します。

一方で、物件の利用方法や提供するサービスによっては、単純な不動産の貸付けではなく、事業所得または雑所得として検討すべき場合があります。

相談前には、次の事項を説明できるようにしておきます。

  • 通常の賃貸借か、短期利用か
  • 入居者へ継続的なサービスを提供しているか
  • 家具、清掃、食事、受付等を提供しているか
  • 駐車場所だけを貸しているか、車両管理等も行っているか
  • 民泊、貸別荘、レンタル収納等として運営しているか
  • 運営を管理会社へ全面委託しているか
  • 収益保証、サブリース、転貸の形態を採用しているか
  • 土地だけを貸しているか、設備・施設を含めて貸しているか

所得区分は、物件の名称や管理会社の商品名ではなく、契約内容と実際の運営方法から確認します。

空き家や遊休不動産についても同様です。通常賃貸、駐車場、レンタル収納、民泊、売却では、関係する所得区分、消費税、許認可、固定資産税、将来の譲渡所得が、それぞれ異なってきます。

「事業的規模」は所得区分とは別に確認する

不動産の貸付けが事業的規模かどうかは、不動産所得か事業所得かを分ける話ではありません。

これは、不動産の貸付けによる所得であることを前提として、その貸付けが社会通念上、事業と称する程度の規模かどうかを判断するものです。

国税庁は、建物の貸付けについて、貸室がおおむね10室以上、または独立家屋がおおむね5棟以上であれば、原則として事業的規模として取り扱う基準を示しています。ただし、この基準だけでなく、実際の規模や管理状況を含めた確認が必要になります。
出典:国税庁|No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分

事業的規模かどうかは、青色申告特別控除、青色事業専従者給与、貸付資産の損失等の取扱いに関係します。

相談前には、戸数・室数だけでなく、次の情報も準備しておきます。

  • 物件数、戸数、貸室数
  • 駐車場等を含む貸付規模
  • 管理に要する時間
  • 従業員や家族の関与
  • 管理会社への委託範囲
  • 入退去件数
  • 修繕や家賃回収の管理方法
  • 過年度に事業的規模として申告していたか

賃貸借契約と家賃の入金を対応させる

不動産収入の相談では、通帳だけでなく、賃貸借契約書と管理会社の精算書が重要になります。

収入として確認するもの

物件ごとに、次の金銭の有無を確認します。

  • 月額家賃
  • 共益費、管理費
  • 駐車場使用料
  • 礼金
  • 更新料
  • 名義書換料
  • 承諾料
  • 敷金、保証金
  • 解約時の償却額
  • 原状回復費用として入居者から受け取った金額
  • 滞納家賃
  • 家賃保証会社からの入金
  • 保険金、補償金
  • 自動販売機、看板、アンテナ等の設置料
  • 太陽光発電設備等に関する収入
  • 共用部の水道光熱費等として受け取った金額

「家賃」という名称で入金されていないものであっても、契約内容によっては不動産所得の総収入金額に含まれることがあります。

管理会社からの振込額だけで売上を集計しない

管理会社が家賃から管理料、清掃費、振込手数料、修繕費等を差し引いて送金している場合、銀行への入金額だけでは、収入と経費の内訳を把握できません。

次の三つを分けて整理します。

  • 入居者が支払った家賃等の総額
  • 管理会社等が差し引いた費用
  • オーナー口座への実際の振込額

年間収支報告書だけでなく、月次精算書、家賃台帳、賃貸借契約書、通帳を照合してください。

家賃の計上時期

家賃は、原則として賃貸借契約に定められた支払日に収入へ計上します。

そのため、年末時点で未入金であっても、契約上の支払日が到来していれば、対象年の収入として整理する場合があります。反対に、翌年分の家賃を前もって受け取っている場合は、対象年の収入とするかどうかを契約条件に沿って確認します。

礼金、権利金、名義書換料等についても、資産の引渡しを要するか、契約の効力がいつ発生するかによって、計上時期が異なってきます。
出典:国税庁|No.1376 不動産所得の収入計上時期

敷金・保証金は返還条件を確認する

敷金や保証金は、預り金として全額返還する義務がある間は、原則として受け取った時点の収入にはなりません。

一方で、契約上返還を要しない部分や、退去時等に返還しないことが確定した部分は、その確定時点で収入へ計上することがあります。

相談前には、金額だけでなく、次の資料を確認します。

  • 賃貸借契約書
  • 敷金・保証金台帳
  • 返還条件
  • 償却条項
  • 退去時の精算書
  • 原状回復費用の請求書
  • 入居者との合意書

出典:国税庁|No.1376 不動産所得の収入計上時期

賃貸借契約では、家賃、保証金、更新、修繕、原状回復、管理方法等の定めが相互に関係します。金銭の名称だけで判断しないことが重要です。

必要経費は「物件との対応関係」から確認する

不動産所得の必要経費となるのは、不動産収入を得るために直接必要な費用のうち、家事上の支出と明確に区分できるものです。

主な支出には、次のものがあります。

  • 固定資産税、都市計画税
  • 損害保険料
  • 管理委託料
  • 入居者募集費用
  • 仲介手数料
  • 清掃費
  • 修繕費
  • 建物・設備の減価償却費
  • 借入金利子
  • 共用部の水道光熱費
  • 税理士等への報酬
  • 賃貸管理に必要な通信費、交通費
  • 立退料その他賃貸経営上必要な支出

ただし、「不動産に関係して支払った」というだけで、その年に全額を必要経費にできるとは限りません。

相談前には、支出を次の四つに分類しておきます。

  1. その年の必要経費
  2. 土地・建物・設備の取得価額
  3. 資本的支出として減価償却するもの
  4. 自宅部分や私生活部分に対応する家事費

取得時の支出を一括経費にしない

賃貸用不動産を購入した際の仲介手数料は、原則として土地・建物それぞれの取得価額に算入されます。全額を購入年の必要経費にできるものではありません。

また、売買時に売主へ支払う固定資産税・都市計画税相当額の清算金も、買主自身の固定資産税納税義務に基づく支払ではなく、売買当事者間の合意に基づく取得対価として、取得価額へ含める取扱いがあります。

したがって、購入年の相談では、毎年の賃貸経費と取得時の付随費用とを分けておく必要があります。
出典:国税庁|賃貸用の土地建物を購入した際に支払った仲介手数料の取扱いについて
出典:国税庁|賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税及び都市計画税相当額の清算金の取扱いについて

購入時には、次の資料を一式で準備します。

  • 売買契約書
  • 重要事項説明書
  • 購入代金の精算書
  • 仲介手数料の請求書
  • 登記費用の明細
  • 不動産取得税の通知書
  • 固定資産税等の清算書
  • リフォーム工事資料
  • 家具・設備等の購入明細
  • 借入時の融資手数料、保証料等の資料

同じ「購入時に支払った費用」であっても、土地・建物の取得価額、必要経費、繰延べて処理する費用などに分かれます。支払時点で自己判断せず、内訳を保存しておくことが重要です。

修繕費か資本的支出かは工事名では決まらない

不動産所得で判断に迷いやすいのが、修繕費と資本的支出の区分です。

通常の維持管理や、壊れた部分を元の状態へ戻すための支出は、修繕費としてその年の必要経費になることがあります。

一方で、建物の使用可能期間を延長する、価値を高める、用途を変更する、機能を大きく向上させる部分は、資本的支出として資産計上し、減価償却によって各年へ配分することがあります。

判断は、請求書に「修繕」「改修」と書かれているかどうかではなく、工事の実質によって行います。
出典:国税庁|No.1379 修繕費とならないものの判定

工事の相談前にそろえる資料

  • 工事請負契約書
  • 見積書
  • 請求書
  • 工事項目別の内訳
  • 工事前後の写真
  • 図面
  • 使用材料、設備の仕様
  • 修理対象となった故障・劣化の状況
  • 工事の目的
  • 保険金、補助金の受取資料
  • 管理会社・施工会社とのメール
  • 支払日と支払方法

複数の工事が一つの請求書にまとめられている場合は、修繕部分、設備更新部分、用途変更部分等を分けられる内訳が必要です。

申告直前に請求書だけを見ても工事内容が分からないことがあります。工事を行った時点で、写真や見積書を保存しておいてください。

マンションの修繕積立金は管理規約まで確認する

区分所有マンションの修繕積立金は、支払った年に必ず必要経費になるとは限りません。

原則としては、実際の修繕が行われ、その修繕が完了した年の必要経費となります。ただし、区分所有者に支払義務があり、返還されず、修繕以外へ流用されず、長期修繕計画に基づいて合理的に算出されているなど、一定の要件をすべて満たす場合には、支払期日の属する年の必要経費として取り扱えるとされています。

相談前には、管理費・修繕積立金の支払明細だけでなく、管理規約と長期修繕計画も準備しておきます。
出典:国税庁|賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い

減価償却は取得年だけの問題ではない

建物や設備の取得価額は、原則として取得時に全額を必要経費にせず、耐用年数に応じて各年へ配分します。

そのため、取得年の処理を誤ると、その後の不動産所得、帳簿上の未償却残高、売却時の取得費に影響が残る可能性があります。

相談前には、次の事項を確認します。

  • 土地と建物の取得価額
  • 建物本体と建物附属設備の区分
  • 構築物、備品等の区分
  • 新築か中古か
  • 取得年月日
  • 賃貸の用に供した日
  • 構造
  • 法定耐用年数
  • 過年度の償却方法
  • 相続・贈与で取得したか
  • 大規模修繕や設備更新を行ったか
  • 売却・除却した資産があるか

土地・建物の金額区分が契約書に記載されていない場合は、合理的な区分方法を検討するため、固定資産税評価証明書、建築請負契約書、取得時の鑑定・査定資料等も準備します。
出典:国税庁|No.2100 減価償却のあらまし

借入金は「返済額」と「必要経費」を分ける

不動産を借入金で取得している場合、年間返済額の全額が必要経費になるわけではありません。

借入金の返済は、大きく次の二つに分かれます。

  • 元本返済
  • 支払利息

元本返済は、借入債務を減らす支出であり、通常、そのまま不動産所得の必要経費にはなりません。

支払利息は、賃貸用不動産の取得・運営との関係に応じて必要経費を検討します。ただし、借入金の使途、土地・建物への対応、賃貸開始前後、自宅部分との混在などを確認する必要があります。

相談前には、銀行の年間返済総額だけでなく、元本と利息が分かれた返済予定表を準備してください。

借入関係で確認する事項

  • 借入先
  • 借入日
  • 当初借入額
  • 年末残高
  • 元本返済額
  • 支払利息
  • 借入金の使途
  • 土地・建物・修繕・諸費用への充当額
  • 借換えの有無
  • 繰上返済
  • 金利変更
  • 連帯債務者、保証人
  • 担保設定
  • 団体信用生命保険等の有無

赤字でもすべて給与所得と通算できるとは限らない

不動産所得の損失は、原則として他の一定の所得と損益通算できる場合があります。

ただし、不動産所得の赤字のうち、土地等を取得するための借入金利子に相当する一定部分は、他の所得との損益通算の対象外となります。

「不動産所得が赤字だから、赤字全額を給与所得から引ける」とは限りません。土地・建物の取得価額と借入金の対応関係を整理しておく必要があります。
出典:国税庁|No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算

利益と手元資金が一致しない理由を把握する

不動産所得が黒字でも、手元資金が減ることがあります。

反対に、減価償却費が大きい年には、現金収支が黒字でも税務上の所得が小さくなることがあります。

相談前には、税務上の損益計算とは別に、次の資金収支を整理しておきます。

  • 家賃等の入金
  • 空室・滞納による減収
  • 管理料
  • 固定資産税
  • 損害保険料
  • 修繕費
  • 借入金利子
  • 借入元本返済
  • 設備投資
  • 所得税
  • 住民税
  • 個人事業税
  • 消費税
  • 相続・承継に向けた資金
  • 家計への引出し

税額だけを下げても、借入返済、空室、修繕費を含む資金繰りが改善するとは限りません。

不動産収入の相談では、申告書上の利益と実際の現金残高がなぜずれているのかを説明できる状態にしておくことが重要です。

共有不動産は収入・経費・意思決定を分けて整理する

共有不動産では、一人が家賃を受け取り、別の共有者が修繕費や固定資産税を支払っている、という状況が生じることがあります。

この場合、次の事項を確認します。

  • 共有者
  • 登記上の持分
  • 真実の権利関係
  • 賃貸借契約の名義
  • 家賃を受け取る口座
  • 各共有者への分配額
  • 固定資産税や修繕費の負担者
  • 管理業務を行う人
  • 管理報酬の有無
  • 共有者間の合意書
  • 売却や大規模修繕に関する意思決定

一人が家賃を一括管理しているからといって、その人だけの不動産所得になるとは限りません。

共有不動産では、収入の分配、経費負担、管理方法、修繕、売却について、共有者間の認識が一致していないと、税務だけでなく民事上の紛争にもつながりやすくなります。

相続直後の不動産収入は特に注意する

賃貸不動産の所有者が死亡した場合、死亡前後の家賃、未収家賃、敷金、経費、借入金、減価償却を区分する必要があります。

遺産分割が確定していない期間は、賃貸不動産から生じる所得は、原則として共同相続人へ法定相続分に応じて帰属します。

特定の相続人が家賃を一括管理している場合でも、その人が全額を申告するとは限りません。また、その後に遺産分割が確定したとしても、確定前の期間に生じた所得の帰属が遡って変更されるわけではありません。
出典:国税庁|No.1376 不動産所得の収入計上時期―未分割遺産から生ずる不動産所得

相続物件の相談で準備する資料

  • 被相続人の死亡日
  • 遺言書
  • 相続人関係図
  • 戸籍関係資料
  • 遺産分割協議書
  • 登記事項証明書
  • 相続税申告書
  • 被相続人の過年度所得税申告書
  • 賃貸借契約書
  • 家賃の入金口座
  • 相続開始前後の家賃台帳
  • 敷金・保証金一覧
  • 借入金残高
  • 物件の固定資産台帳
  • 各相続人への家賃分配記録

被相続人の死亡に伴い生命保険金を受け取っている場合は、賃貸収入とは分けて、契約者、保険料負担者、被保険者、受取人を確認する必要があります。保険証券や保険金支払通知書も、相続関係資料と併せてご用意ください。

相続登記の状況も確認する

2024年4月1日から、相続登記の申請が義務化されています。

相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行うことが原則です。制度開始前に相続した不動産で、2024年4月1日より前に取得を知っていた場合も、原則として2027年3月31日までに申請する必要があります。

所得税申告と相続登記は別の手続ですが、所有関係が長期間曖昧なままだと、家賃の帰属、借換え、修繕、売却、担保設定、承継が進みにくくなります。そのため、相談時に登記状況も確認しておきます。
出典:法務省|相続登記の申請義務化について

青色申告・帳簿・届出を確認する

不動産収入について青色申告を選択している場合は、単に申告書へ「青色」と記載されているかどうかではなく、承認申請、事業的規模、記帳方法、申告期限を確認します。

相談時に用意するもの

  • 所得税の青色申告承認申請書
  • e-Taxの受信通知
  • 青色事業専従者給与に関する届出書
  • 過年度の青色申告決算書
  • 仕訳帳
  • 総勘定元帳
  • 現金出納帳
  • 賃料台帳
  • 敷金・保証金台帳
  • 固定資産台帳
  • 借入金台帳
  • 貸借対照表
  • 預金残高資料

新たに不動産貸付けを始めた年から青色申告を選択する場合、原則として所定の期限までに承認申請が必要です。提出期限を過ぎてから、申告書作成時に選択することはできません。
出典:国税庁|No.1399 新たに不動産の貸付けを始めたときの届出など

国税庁の現行案内では、青色申告特別控除には55万円、一定の要件を満たす場合の65万円、または10万円の区分があります。不動産所得で55万円・65万円の控除を検討する場合は、事業的規模、複式簿記、貸借対照表等の作成、期限内申告、e-Taxまたは一定の電子帳簿保存などの要件を確認します。
出典:国税庁|No.2072 青色申告特別控除

控除額や適用要件は、対象年分の法改正によって変わり得ます。相談時には「いつの年分について、どの制度を使うのか」を明確にしておいてください。

電子データは印刷前の状態でも保存する

管理会社から受け取る家賃精算書、修繕請求書、保険料明細、固定資産税資料、ローン明細などが、PDFやウェブ明細で提供されることがあります。

電子メール、クラウド、ウェブサイト、アプリ等を通じて受領した請求書、領収書、契約書等は、電子取引データとして保存が必要となる場合があります。

相談時には、紙へ印刷したものだけでなく、元のPDF、CSV、画像データもご用意ください。
出典:国税庁|電子取引関係

電子帳簿保存法は、会計ソフトで作成した帳簿、電子的に作成した書類、紙を取り込むスキャナ保存、最初から電子的に授受した取引情報を、それぞれ分けて考える制度です。

なお、管理会社のウェブサイトを解約すると、過去の精算書を取得できなくなることがあります。年末まで待たず、定期的にダウンロードして保存する運用を整えておきます。

消費税は物件の用途ごとに判定する

不動産収入について、所得税だけを整理しても十分ではありません。

消費税では、住宅、事務所、店舗、土地、駐車場、短期貸付け、民泊等によって、取扱いが異なります。

住宅の貸付け

住宅の貸付けは、契約上住宅用であることが明らかである場合等には、原則として消費税が非課税となります。

ただし、貸付期間が1か月未満の場合や、旅館業に係る施設、民泊等については、住宅家賃の非課税と同じ扱いにならない場合があります。
出典:国税庁|No.6226 住宅の貸付け

事務所・店舗の貸付け

事務所や店舗等の建物の家賃は、原則として消費税の課税対象となります。

土地部分と建物部分を契約上区分していても、建物の貸付けに伴う対価である場合は、総額が課税対象となることがあります。

事業用建物の返還しない保証金、権利金、更新料等についても、契約内容に応じて消費税の課税関係を確認する必要があります。
出典:国税庁|No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など

土地・駐車場

土地の貸付けは原則として消費税が非課税ですが、貸付期間が1か月未満の場合や、駐車場等の施設利用に伴う土地の使用は、課税対象となることがあります。

駐車場については、単に更地を貸しているのか、区画、舗装、フェンス、設備、車両管理等を伴うのかを確認します。
出典:国税庁|No.6213 駐車場の使用料など

消費税の相談前に確認する事項

  • 各物件・各区画の用途
  • 賃貸借契約に記載された用途
  • 実際の利用状況
  • 住宅と店舗・事務所の併設状況
  • 駐車場使用料を別に受け取っているか
  • 民泊、短期貸し、レンタル収納等の有無
  • 課税売上・非課税売上の内訳
  • インボイス登録の有無
  • 過年度の消費税申告書
  • 課税事業者選択届出書
  • 簡易課税制度選択届出書
  • 大規模修繕、建物取得、売却の予定

基準期間の課税売上高が一定額以下であっても、インボイス登録、特定期間の判定、課税事業者選択等により、消費税の納税義務が生じる場合があります。
出典:国税庁|No.6501 納税義務の免除

「住宅家賃が中心だから消費税は関係ない」と決めつけず、事務所、店舗、駐車場、設備利用料、建物売却等を含めて確認することが重要です。

不動産管理会社・法人化は契約と実態から検討する

不動産収入が増えると、不動産管理会社の設立や法人化を検討することがあります。

しかし、会社を設立しただけで、個人の家賃収入を自由に法人へ移せるわけではありません。

相談前には、まず次の事項を整理します。

  • 現在の物件所有者
  • 賃貸借契約上の賃貸人
  • 管理業務の内容
  • 管理会社へ委託する具体的業務
  • 管理料の算定方法
  • 管理業務を行う人
  • 家賃の入金経路
  • 修繕や入退去対応の権限
  • サブリースを行うか
  • 建物を法人へ譲渡・賃貸するか
  • 借入金、担保、金融機関の承諾
  • 消費税への影響
  • 所得税、法人税、社会保険、相続への影響
  • 将来の売却・承継方針

不動産管理会社には、管理委託、転貸、資産保有等の異なる形態があり、契約と実際の業務内容を対応させる必要があります。税額の比較だけでなく、管理実態、資金移動、資産移転、借入れ、相続、消費税まで含めた検討が求められます。

管理会社設立後に契約を整えるのではなく、設立や資産移転の前に、採用する方式と税務上の影響を確認しておくことが重要です。

将来の活用方針まで相談時に伝える

不動産所得の申告は、その年の家賃と経費だけで完結するものではありません。

現在、次の予定がある場合は、相談時にお伝えください。

  • 大規模修繕
  • 建替え
  • 用途変更
  • 自宅部分の賃貸開始
  • 住宅から事務所・店舗への変更
  • 空き家の活用
  • 駐車場化
  • 民泊・短期貸し
  • サブリース契約
  • 賃料改定
  • 借換え
  • 共有持分の整理
  • 親族への贈与
  • 相続対策
  • 売却
  • 法人への移転
  • 不動産管理会社の設立
  • 賃貸事業の縮小・廃止

不動産には、取得、保有・運用、譲渡・承継の各段階で、所得税、消費税、固定資産税、不動産取得税、登録免許税、相続税・贈与税等が関係します。現在の申告処理だけでなく、将来の取引に現在の帳簿や資料がどうつながるかを意識しておく必要があります。

相談前に用意する資料のチェックリスト

物件・所有関係

  • 物件一覧
  • 登記事項証明書
  • 共有持分資料
  • 売買契約書
  • 建築請負契約書
  • 遺言書、遺産分割協議書
  • 相続税申告書
  • 贈与契約書

賃貸契約・収入

  • 賃貸借契約書
  • 契約更新書類
  • 管理委託契約書
  • サブリース契約書
  • 家賃台帳
  • 管理会社の月次・年次精算書
  • 通帳
  • 敷金・保証金台帳
  • 滞納家賃一覧
  • 家賃保証会社の明細
  • 退去時精算書

経費・修繕

  • 固定資産税・都市計画税納税通知書
  • 損害保険料明細
  • 管理料明細
  • 入居者募集費用
  • 清掃費
  • 修繕契約書、見積書、請求書
  • 工事前後の写真
  • 管理規約
  • 長期修繕計画
  • 水道光熱費
  • 専門家報酬の資料

購入・減価償却

  • 購入時精算書
  • 仲介手数料
  • 登記費用
  • 固定資産評価証明書
  • 土地・建物の価格区分資料
  • 設備・備品明細
  • 固定資産台帳
  • 過年度の減価償却計算書

借入・資金

  • 金銭消費貸借契約書
  • 返済予定表
  • 年末残高証明書
  • 年間利息明細
  • 借換え資料
  • 担保・保証関係資料
  • 物件別資金繰り表

税務・届出

  • 過年度の所得税申告書
  • 青色申告決算書または収支内訳書
  • 青色申告承認申請書
  • 専従者給与届出書
  • 消費税申告書
  • 課税事業者・簡易課税関係の届出書
  • インボイス登録通知書
  • e-Tax受信通知
  • 税務署からの照会・通知

将来計画

  • 修繕計画
  • 売却予定
  • 用途変更予定
  • 借換え予定
  • 管理会社設立案
  • 法人化案
  • 贈与・相続方針
  • 空室対策
  • 収支予測

申告期限を待たずに相談した方がよい場面

次のいずれかに該当するときは、資料が完全にそろうまで待たず、早めにご相談いただくのが適切です。

  • 初めて賃貸を開始した
  • 相続した物件から家賃が発生している
  • 遺産分割が終わっていない
  • 所有者と家賃口座の名義が異なる
  • 共有者間で収入や経費の分担が決まっていない
  • 大規模な修繕・改装を行った
  • 土地・建物の取得価額が分からない
  • 過年度の減価償却に誤りがある可能性がある
  • 不動産所得が赤字である
  • 住宅と事務所・店舗が混在している
  • 駐車場、民泊、短期貸し等を行っている
  • インボイス登録をした
  • 消費税申告の要否が分からない
  • 不動産を売却する予定がある
  • 法人化や管理会社設立を検討している
  • 海外へ転居する、または所有者が非居住者である
  • 税務署から照会や調査連絡があった

届出、所得区分、資本的支出、消費税、資産移転は、取引後や申告期限直前では修正できない選択を含むことがあります。

不動産収入の相談で避けたい誤解

管理会社からの振込額が、そのまま家賃収入である

管理料等が差し引かれている場合は、家賃総額と経費を別々に確認する必要があります。

現金を支払ったものは、すべてその年の必要経費になる

土地・建物の取得価額、減価償却資産、資本的支出、前払費用等に該当する場合があります。

工事会社が「修繕」と記載していれば修繕費になる

名目ではなく、工事の目的、内容、価値増加、耐用年数への影響によって判断します。

借入金の返済額は、すべて経費になる

元本返済と支払利息を分ける必要があります。

家賃を受け取った人が、全額を申告すればよい

収入の帰属は、口座名義だけでなく、真実の権利関係に基づいて判断します。

遺産分割後の所有者が、相続開始後の家賃をすべて申告する

未分割期間中の所得は、原則として各共同相続人へ法定相続分に応じて帰属します。

住宅家賃が中心なら、消費税は関係しない

事務所、店舗、駐車場、短期貸し、設備利用料、建物売却等がある場合は、別途消費税の確認が必要です。

管理会社を設立すれば、自動的に節税できる

契約、業務実態、管理料、資産所有、消費税、借入れ、相続まで含めた検討が必要です。

不動産収入の税務判断に不安がある方へ

不動産収入の確定申告では、物件一覧、所有関係、賃貸借契約、家賃台帳、修繕資料、借入金、共有・相続、青色申告、消費税を、一体として確認する必要があります。

とりわけ、相続直後の物件、共有物件、大規模修繕を行った物件、取得価額が不明な物件、住宅と事業用が混在する物件、消費税の課税売上がある物件は、通帳と領収書だけでは判断できません。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、家賃と経費の集計だけでなく、契約内容、権利関係、資金の流れ、過年度の処理、そして将来の修繕・売却・承継まで確認し、後から説明できる申告へ向けた整理を重視しています。

物件ごとの処理や必要経費、共有・相続、消費税、今後の不動産活用について整理したい場合は、当事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

※本稿は2026年6月26日現在の公表情報を基礎とした一般的な解説です。実際の所得区分、収入計上時期、必要経費、減価償却、損益通算、青色申告、消費税その他の取扱いは、対象年分の法令、契約内容、所有関係、利用実態、提出済みの届出書等によって異なります。

重要事項の振り返り

整理する領域相談前に確認する事項主な資料判断上の注意点
物件の全体像所在地、種類、用途、取得日、賃貸開始日物件一覧、登記、売買契約書物件ごとに収入・経費・借入れを分ける
所有・所得の帰属真実の所有者、共有持分、家賃の受取人登記事項、取得資金資料、共有関係資料口座名義だけで申告者を決めない
所得区分通常賃貸か、サービスを伴う運営か賃貸借契約、運営資料物件名ではなく契約と実態で判断する
事業的規模戸数、室数、管理状況物件一覧、家賃台帳不動産所得かどうかとは別の判断
賃料収入家賃、礼金、更新料、共益費、保証金契約書、家賃台帳、精算書、通帳管理会社の差引入金だけで集計しない
敷金・保証金返還義務、償却条項、退去時精算契約書、保証金台帳、精算書返還不要が確定する時期を確認する
必要経費収入との関係、家事費との区分請求書、領収書、管理明細支払っただけで経費になるとは限らない
取得時費用仲介料、税清算金、登記費用等購入時精算書、請求書当年経費ではなく取得価額になるものがある
修繕・資本的支出工事目的、内容、価値・耐用年数への影響見積書、契約書、写真、図面「修繕」という名称だけでは判断しない
減価償却土地・建物・設備の区分、取得価額、耐用年数固定資産台帳、取得資料取得年の誤りが保有・売却時まで影響する
借入金元本、利息、使途、土地・建物への対応借入契約、返済予定表元本返済は通常、そのまま必要経費にならない
損益通算赤字の内容、土地取得借入利子収支資料、借入資料不動産所得の赤字全額を通算できるとは限らない
共有・相続共有持分、法定相続分、未分割期間遺言、遺産分割協議書、相続税申告書一人が家賃を管理しても全額所得とは限らない
青色申告承認申請、事業的規模、記帳、期限内申告届出書、帳簿、e-Tax受信通知控除額は年分と適用要件を確認する
電子保存PDF、CSV、ウェブ明細の保存状況元データ、保存先一覧紙への印刷だけでなく電子原本も保存する
消費税住宅、事務所、店舗、土地、駐車場等の区分契約書、用途一覧、消費税申告書所得税とは別の軸で物件・取引ごとに判定する
納税資金元本返済、修繕、税金、空室を含む資金収支資金繰り表、預金・借入明細税務上の利益と手元資金は一致しない
将来方針修繕、用途変更、売却、承継、法人化計画書、収支予測、契約案取引後ではなく意思決定前に相談する
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