賃貸不動産の相続税評価と空室・サブリース|貸家建付地・賃貸割合・駐車場・修繕負担の実務判断

賃貸アパートや賃貸マンションは、相続税対策として検討されることの多い財産です。建物が賃貸されていれば「貸家」として、その敷地は「貸家建付地」として評価され、自用の土地・建物に比べて相続税評価額が下がる可能性があります。

ただ、実務で本当に問題になるのは、算式そのものよりも、その手前の前提部分です。

相続開始日に空室があったとき、その部屋を賃貸中として扱ってよいのか。サブリース契約があれば、実際の入居状況にかかわらず満室として扱ってよいのか。アパートの隣にある駐車場まで、貸家建付地に含めてよいのか。さらに、大規模修繕の予定やサブリース会社との賃料改定リスクは、相続人の納税資金や遺産分割にどう響いてくるのか。

賃貸不動産の評価は、「賃貸物件だから評価減できる」という単純な話ではありません。相続開始時点の賃貸の実態、契約の内容、空室となっている理由、募集の状況、駐車場の利用者、修繕の負担、そして相続人が引き継ぐ経営リスクまで確認したうえで、申告後にきちんと説明できる評価を組み立てていく必要があります。

目次

まず押さえておきたい結論

賃貸不動産の相続税評価で、最初に確認していただきたいのは次の5点です。

確認事項実務上の意味
課税時期に実際に貸し付けられているか貸家・貸家建付地評価の前提になる
空室が一時的なものか賃貸割合を100%にできるかどうかに影響する
サブリース契約の実態は何か形式上の一括借上げか、実質的な賃貸借かを確認する
駐車場が入居者専用か外部貸しか貸家建付地に含めるか、別評価するかに影響する
相続人が賃貸経営を引き継げるか納税資金、修繕負担、遺産分割、二次相続に影響する

なかでも空室とサブリースは、申告後に税務署から説明を求められやすい論点です。

空室を「一時的なもの」として扱うには、その部屋に継続的な賃貸実績があること、退去後に速やかに募集していること、空室の間に他の用途へ転用していないこと、課税時期の前後で見て空室期間が一時的といえること、課税時期後の入居が形式的な一時入居ではないことなどを、総合的に説明できる状態にしておく必要があります。出典:国税庁|貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲

一方で、独立した一棟の貸家が相続開始日に空き家となっている場合は、以前は貸家であったとしても、原則として貸家建付地ではなく自用地として評価します。賃貸用に新築した建物であっても、課税時期に現実に貸し付けられていなければ、借家人による土地利用の制約が存在しないためです。出典:国税庁|貸家が空き家となっている場合の貸家建付地の評価

賃貸不動産の評価は「土地」と「建物」に分けて考える

賃貸不動産の評価では、まず建物と土地を切り分けます。

建物は、原則として固定資産税評価額を基礎に評価します。土地は、路線価方式または倍率方式によって自用地としての価額を求め、そのうえで貸家建付地に該当する場合に、借地権割合・借家権割合・賃貸割合を用いて評価減を反映していきます。出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価

賃貸されている建物は、固定資産税評価額から、借家権割合と賃貸割合を乗じた金額を控除して評価します。アパート等の貸家についても、課税時期において貸家の用に供されている家屋であれば、固定資産税評価額から借家権割合と賃貸割合を乗じた価額を控除する、という考え方が示されています。出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価 Q3 アパート等の貸家の評価

土地のほうは、貸家建付地に該当する場合、次の算式で評価します。

評価対象基本的な評価式
貸家自用家屋価額 − 自用家屋価額 × 借家権割合 × 賃貸割合
貸家建付地自用地価額 − 自用地価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合

貸家建付地とは、所有者が建てたアパートやビルなどを他に貸し付けている場合の、その敷地である宅地をいいます。貸家建付地の評価式や、借地権割合・借家権割合・賃貸割合の考え方は、国税庁のタックスアンサーでも整理されています。出典:国税庁|No.4614 貸家建付地の評価

ここで一つ押さえておきたいのは、評価減とは「賃貸経営をしているから自動的に認められる」ものではない、という点です。あくまで、借家人の権利によって所有者の土地・建物の使用収益が制約されている事実を、評価に反映させるためのものです。

ですから、形式上は賃貸物件であっても、実態が空き家、社宅、使用貸借、一時使用、あるいは親族への形式的な貸付けにとどまる場合には、評価減の前提そのものが崩れてしまうことがあります。

評価単位を先に決める|一棟・一筆・一契約で判断しない

賃貸不動産の評価では、計算式に入る前に「評価単位」を確認しておくことが欠かせません。

宅地は、原則として「1画地の宅地」、つまり利用の単位となっている1区画ごとに評価します。この判定にあたっては、所有者による自由な使用収益を制約する他者の権利の有無、その権利の種類、権利者の違いを確認します。国税庁の質疑応答事例でも、貸家が数棟あるときは、原則として各棟の敷地ごとに1画地の宅地とする、という考え方が示されています。出典:国税庁|宅地の評価単位

たとえば、同じ一筆の土地に複数のアパートが建っている場合でも、当然に一体評価できるわけではありません。各棟の建物、入居者、駐車場、通路、外構、管理の実態を確認したうえで、どこまでが一体として利用されているのかを見極めていきます。

評価単位を検討する際には、次のような資料が手がかりになります。

資料確認する内容
登記事項証明書土地・建物の所有者、地番、地目、建物構造
公図・地積測量図筆界、接道、隣接地との関係
固定資産税課税明細書建物ごとの評価額、土地の課税地目
賃貸借契約書借主、対象部分、契約期間、賃料、駐車場の扱い
管理会社資料入居状況、空室期間、募集履歴
現地写真利用状況、駐車場、通路、看板、区画
配置図・建物図面各棟の敷地範囲、駐車場の対応関係
サブリース契約書一括借上げの範囲、解約条項、賃料改定条項

「一筆だから一体評価」「同じオーナーだから一体評価」「同じ管理会社だから一体評価」とは限りません。逆に、複数筆にまたがっていても、一体で利用されていれば一つの評価単位として扱う場合もあります。

空室がある場合|賃貸割合をどう見るか

アパートや賃貸マンションで一部の部屋が空室になっている場合、評価の中心になる論点は「賃貸割合」です。

賃貸割合は、原則として次のように計算します。

項目内容
分子課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積の合計
分母その貸家の各独立部分の床面積の合計

ただし、継続的に賃貸されてきた各独立部分について、課税時期において一時的に賃貸されていなかったと認められるものは、賃貸されている部分に含めて差し支えない、とされています。出典:国税庁|No.4614 貸家建付地の評価

この「一時的な空室」に当たるかどうかは、実務上、非常に重みのある判断になります。

国税庁の質疑応答事例では、学生専用の賃貸アパートについて、卒業によって一時的に空室が多くなったものの、新入居者を募集しており、3月末には全室が実際に賃貸された事例で、一時的空室部分を賃貸部分に含めて差し支えない、としています。出典:国税庁|貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲

判断の要素は、おおむね次のように整理できます。

判断要素確認すべきこと
過去の賃貸実績その部屋が継続的に賃貸されてきたか
退去後の対応退去後、速やかに募集・修繕・原状回復を行ったか
空室期間の使途空室期間中、自己使用・物置・親族使用などに使っていないか
空室期間の長さ課税時期前後で一時的と説明できる期間か
課税時期後の状況その後の入居が一時的な形式入居ではないか
地域事情近隣の空室率、学生向け物件、単身者向け物件などの特性
管理状況管理会社への募集依頼、広告掲載、内見記録があるか
物件状態老朽化・大規模修繕・事故物件化などで長期空室になっていないか

実務上は、「空室期間が何か月までなら安全」と機械的に線を引けるものではありません。それでも、空室期間が長期化している、複数の部屋が長く空いたままになっている、募集活動の記録が乏しい、相続開始後も入居が進んでいない、といった事情があるときには、賃貸割合を100%として評価することは慎重に考えるべきです。

裁決や判決でも、一時的空室と認められるかどうかは、継続的な賃貸実績、募集の状況、空室期間、周辺事情、課税時期後の入居状況などを総合して判断されています。空室期間が長期に及ぶ事例では、その空室部分について貸家建付地評価が認められなかった判断もあります。

「一棟まるごと空き家」は、一部空室とは扱いが違う

ここで注意したいのは、一部に空室があるアパートと、一棟の独立家屋がまるごと空き家になっている場合とでは、判断が分かれるという点です。

たとえば、戸建賃貸の借家人が退去し、相続開始日に空き家となっている場合、以前は貸家であったとしても、原則としてその敷地は貸家建付地ではなく自用地として評価します。貸家建付地評価の対象となる宅地は、借家権の目的となっている家屋の敷地に限られ、課税時期に現実に貸し付けられていない家屋の敷地は自用地として評価する、という整理になっているためです。出典:国税庁|貸家が空き家となっている場合の貸家建付地の評価

この点は、相続対策として戸建賃貸を保有しているケースで、案外見落とされがちです。

アパートの一部屋が空いた場合であれば、「一時的空室」として賃貸割合に含められる余地があります。しかし、一棟の独立家屋に借家人がいない場合は、その建物全体について借家人の権利による制約が存在しないため、評価減の前提が根本から異なってきます。

サブリース契約がある場合|「一括借上げ」だけで判断しない

サブリースとは、一般に、所有者が管理会社等へ建物を一括して賃貸し、その管理会社等が入居者に転貸する仕組みをいいます。

相続税評価の場面では、サブリース契約があると、次のような疑問が出てきます。

疑問確認すべき視点
サブリース会社へ一括賃貸していれば満室扱いでよいか契約が実質的な建物賃貸借か、管理委託に近いものか
入居者が空室でも賃貸割合100%でよいか所有者から見た使用収益の制約がどこまであるか
複数棟を一括借上げしている場合、一体評価でよいか各棟の独立性、敷地利用、契約対象、管理実態
賃料保証がある場合、評価に影響するか保証賃料、免責期間、解約条項、賃料改定条項
サブリース会社が同族会社の場合地代・賃料水準、契約実態、みなし贈与・法人税リスク

サブリースで最も避けたいのは、契約書の表題だけで判断してしまうことです。

「一括借上契約」「家賃保証契約」と銘打たれていても、実際には所有者が空室リスクを負っている、管理会社が短期間で解除できる、賃料改定によって実質的な収益保証が弱い、修繕費や原状回復費を所有者が広く負担している、といったケースは少なくありません。

相続税評価では、その家屋が借家権の目的となっているか、所有者の自由な使用収益がどの程度制約されているかを確認します。評価単位の考え方においても、宅地の利用単位は、他者の権利の存在、その権利の種類、権利者の違いによって判定する、とされています。出典:国税庁|宅地の評価単位

複数棟のアパートがサブリースされている場合は、実務上、一体評価とするか別評価とするかで判断が分かれやすい場面です。各建物が外観・構造のうえでそれぞれ独立しているのであれば、各建物の敷地ごとに評価単位を分ける方向で検討します。一方、各建物が一体で機能している特段の事情があるときには、一体評価を検討する余地が出てきます。

サブリース契約で確認しておきたい条項は、少なくとも次のとおりです。

契約条項確認する理由
借主・転貸人所有者から見た直接の借主が誰か
賃貸対象一棟全体か、一部区画か、駐車場を含むか
契約期間相続開始時に有効に継続しているか
賃料保証固定保証か、空室・免責・減額条項があるか
中途解約サブリース会社が容易に解除できるか
賃料改定将来の収益がどの程度変動するか
修繕負担大規模修繕・原状回復・設備交換の負担者
転貸条件入居者との契約実態、転貸承諾、使用目的
駐車場入居者用か外部貸しか、契約が一体か
同族関係親族・同族会社との取引でないか

サブリースは、相続税評価だけでなく、相続人が引き継ぐ賃貸経営リスクにも直結します。サブリース会社との賃料減額交渉、契約解除、修繕負担、入居者トラブルに、いったい誰が対応していくのか。そこまで見据えておく必要があります。

駐車場は「入居者専用」か「外部貸し」かで評価が変わる

賃貸不動産の評価でよく論点になるのが、アパートやマンションに隣接する駐車場の扱いです。

駐車場が入居者専用で、建物賃貸借と一体として利用されている場合には、貸家建付地評価に含める余地があります。一方で、外部の近隣住民にも貸している、月極駐車場の看板を出している、建物賃貸借と駐車場契約が別々に結ばれている、駐車区画が入居者用と外部用とで混在している、といった場合には、駐車場部分を貸家建付地に含めてよいかどうかを慎重に判断する必要があります。

裁決例や実務上の整理を見ても、駐車場の利用者が借家人に限定されていない場合には、貸家敷地と駐車場を一体の貸家建付地として評価するのは難しい、という傾向がうかがえます。

駐車場を評価する際に確認しておきたいポイントは、次のとおりです。

確認項目判断への影響
利用者入居者専用か、外部利用者がいるか
契約形態建物賃貸借に駐車場が含まれているか、別契約か
区画対応各部屋に対応する駐車区画が決まっているか
物理的一体性建物敷地と駐車場が隣接し、通行・利用が一体か
道路・擁壁・高低差建物敷地と駐車場が分断されていないか
看板・募集状況外部向け月極駐車場として募集していないか
駐車台数建物規模に比べて過大でないか
舗装・設備小規模宅地等の貸付事業用宅地等の検討にも影響

たとえば、アパートの敷地に隣接する駐車場で、入居者用区画と外部貸し区画が混在している場合、駐車場全体をそのまま貸家建付地に含めてしまうのは危険です。評価単位を分ける、合理的に区分する、あるいは駐車場部分を別の地目・利用区分として評価するといった検討が必要になります。

また、建物の1階や地下部分が駐車場になっている賃貸マンションでは、その駐車場がすべて入居者専用であれば、マンション敷地全体を貸家建付地として評価しやすくなります。ただし、一部をオーナーが自用で使っている場合には、その自用部分を賃貸割合に反映させる調整が必要になります。

小規模宅地等の特例との関係|貸付事業用宅地等は別途判定する

賃貸アパートや賃貸マンションの敷地では、貸家建付地評価とは別に、小規模宅地等の特例、とりわけ「貸付事業用宅地等」の適用を検討します。

貸付事業用宅地等に該当すれば、一定の要件のもとで、200㎡まで50%減額の対象となります。ここでいう貸付事業には、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業のほか、事業と称するに至らない不動産の貸付け等で、相当の対価を得て継続的に行う準事業も含まれます。ただし、使用貸借による貸付けは対象になりません。出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例 Q1 事業的規模でない不動産貸付けの場合

また、貸付事業用宅地等については、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として対象外となる制限があります。もっとも、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等の貸付事業の用に供された宅地等であれば、3年以内貸付宅地等には該当しないものとして取り扱われます。出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

ここで意識しておきたいのは、貸家建付地評価と小規模宅地等の特例とでは、そもそも判断の目的が違う、ということです。

論点判断目的
貸家建付地評価借家人の権利による土地利用の制約を評価に反映する
貸家評価借家人の権利による建物利用の制約を評価に反映する
貸付事業用宅地等相続開始直前の貸付事業の用、取得者の継続・保有要件を確認する
評価単位どの土地を一つの評価対象として評価するかを決める
遺産分割誰が賃貸経営・借入・修繕負担を引き継ぐかを決める

貸家建付地として評価できるからといって、小規模宅地等の特例が当然に使えるわけではありません。逆に、小規模宅地等の検討にあたっては、取得者が相続税の申告期限まで貸付事業を継続し、その宅地等を保有しているかどうかも確認します。出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

修繕負担・借入金・空室率は、評価額だけでなく承継判断に影響する

賃貸不動産の相続では、評価額が下がることだけに目を向けると、判断を誤りやすくなります。

建物は、築年数が経つにつれて、屋上防水、外壁、給排水管、エレベーター、空調、給湯器、共用部、原状回復など、さまざまな修繕負担が生じてきます。サブリース契約では、大規模修繕をオーナー負担とすることも珍しくありません。空室が増えれば収益は下がっていく一方で、固定資産税、保険料、管理費、借入金の返済、修繕費は変わらず続いていきます。

相続税評価では、将来発生する修繕費を当然に債務控除できるわけではありません。債務控除の対象となるのは、被相続人が死亡したときに現に存在していた債務で、確実と認められるものに限られます。出典:国税庁|No.4126 相続財産から控除できる債務

したがって、次のように区別して考える必要があります。

支出・負担相続税評価・申告上の扱い
既に発生し、未払いとなっている修繕費確実な債務かどうかを契約書・請求書等で確認
相続開始前に契約済みの工事代金工事内容、履行状況、支払義務の確定性を確認
将来予定している大規模修繕原則として将来負担であり、直ちに債務控除とはならない
借入金相続開始時の残高、連帯保証、担保、返済条件を確認
敷金・保証金返還債務契約内容、返還条件、残高を確認
サブリース会社との精算金契約上の確定債務か、将来の可能性にとどまるかを確認

賃貸不動産は、相続税評価のうえでは評価減がある一方、相続人にとっては長期の経営負担を伴う財産です。相続対策では、相続争いの防止、納税資金の確保、相続税の軽減を一体で考える必要があります。多額の借入金で賃貸不動産を建築した結果、相続人が長期にわたって返済を背負うことになるケースには、とりわけ注意が必要です。

賃貸不動産を誰が取得するか|共有は慎重に考える

賃貸不動産は、現金のように簡単には分けられません。

一棟のアパートを相続人全員の共有にすれば、一見、公平に分けられたように見えるかもしれません。しかし共有にすると、管理方針、修繕、売却、借換え、サブリース契約の変更、賃料収入の分配、経費負担をめぐって、次の世代で問題が生じやすくなります。

実際、収益不動産の共有では、賃料収入の分配、経費の負担、管理の方法、共有関係の解消といった点が、紛争の典型的な論点になります。

賃貸不動産を承継する場合には、次のような選択肢を比較していきます。

分割方法向いている場面注意点
特定の相続人が取得賃貸経営を担える人がいる他の相続人への代償金が必要になることがある
換価分割売却して金銭で分けたい売却時期、譲渡所得税、入居者対応が必要
共有代償資金がなく、直ちに売却しない管理・売却・修繕で合意形成が難しくなる
法人所有・管理会社活用事業的に不動産を管理したい法人税、株式評価、役員貸付金等も検討が必要
遺言で取得者を指定生前に承継方針を決めたい遺留分、代償資金、納税資金を併せて設計する

評価額が低くなる財産ほど、取得する側にとっては有利に見えることがあります。しかし、賃貸不動産の場合、評価額だけで公平性を判断するのは危険です。将来の修繕、借入の返済、空室リスク、管理の負担、そして売却しにくさまで含めて、相続人どうしの納得感をどう整えるかを考えていく必要があります。

税務調査で確認されやすいポイント

賃貸不動産の相続税申告では、次の点について、後からきちんと説明できる状態にしておくことが大切です。

確認されやすい事項残しておきたい資料
空室が一時的か募集資料、管理会社メール、広告掲載、内見記録、原状回復資料
賃貸割合各部屋の床面積、入退去一覧、賃貸借契約書
サブリースの実態一括借上契約書、賃料改定通知、入金資料、転貸状況
駐車場の扱い駐車場契約書、利用者一覧、区画図、入居者対応表
評価単位公図、測量図、配置図、現地写真、通路・擁壁・道路の状況
貸家建付地評価の対象範囲建物図面、賃貸部分と自用部分の区分
小規模宅地等貸付事業の継続資料、取得者の保有・事業継続資料
修繕負担工事契約書、請求書、未払金資料、長期修繕計画
敷金・保証金契約書、預り金台帳、返還条件
借入金残高証明、返済予定表、担保設定資料

相続税の申告では、土地や株式の評価誤り、小規模宅地等の特例の適用誤り、資料不足、調査リスクの説明不足が、トラブルにつながりやすい領域です。

とくに空室については、「管理会社に任せていた」「募集していたはず」という口頭の説明だけでは十分とはいえません。いつ退去したのか、いつ募集を始めたのか、どの媒体に掲載したのか、内見はあったのか、相続開始後にいつ入居したのか。これらを資料で確認できるようにしておくことが重要です。

生前対策として賃貸不動産を取得・建築する場合の注意点

賃貸不動産は、生前対策としても活用されます。借入金で賃貸建物を建てれば、現金が建物・貸家建付地に変わり、評価額が下がることがあります。さらに借入金が債務として残るため、相続税額が下がる可能性もあります。

とはいえ、相続対策として不動産を活用する場合には、次の点を必ず確認しておくべきです。

確認事項理由
立地と需要長期空室になると評価減以上に収益が悪化する
借入返済相続人が長期返済を引き継ぐ
建物の築年数大規模修繕の時期と相続時期が重なることがある
サブリース条件賃料保証は将来見直される可能性がある
相続人の意思賃貸経営を引き継ぎたい相続人がいるか
分割方針不動産に偏ると他の相続人への代償資金が必要になる
納税資金評価額が下がっても、納税資金が不足することがある
税務調査対応評価根拠、空室、契約実態を説明できるか

相続税対策として賃貸不動産を建てるときには、「評価額がどれだけ下がるか」だけでなく、「10年後、20年後に、相続人がこの物件を管理していけるのか」までを考えておく必要があります。

実務上の判断手順

賃貸不動産の相続税評価は、次の順序で進めると整理しやすくなります。

1. 財産と権利関係を把握する

土地、建物、借入金、敷金、保証金、管理契約、サブリース契約を確認します。土地建物が誰の名義か、共有になっていないか、同族会社が関係していないかも確認します。

2. 評価単位を判定する

一筆ごとではなく、利用単位、建物ごとの敷地、駐車場、通路、外部貸し部分を確認します。

3. 貸家・貸家建付地に該当するか確認する

課税時期に借家権の目的となっている建物か、現実に貸し付けられているかを確認します。社宅、使用貸借、一時使用、空き家は慎重に判断します。

4. 賃貸割合を計算する

各独立部分の床面積、入居状況、空室状況を整理します。一時的空室として扱う場合は、募集・修繕・入居の履歴を資料として残します。

5. サブリース契約の実態を確認する

契約書、賃料保証、免責期間、解約条項、賃料改定、修繕負担、転貸状況を確認します。

6. 駐車場を評価に含めるか判断する

入居者専用か外部貸しか、契約が一体か、区画が対応しているか、物理的に一体かを確認します。

7. 小規模宅地等を検討する

貸付事業用宅地等の要件、3年以内貸付の制限、取得者の事業承継・保有継続要件を確認します。

8. 遺産分割・納税資金と接続する

評価額だけでなく、誰が取得し、誰が借入・修繕・空室リスクを負うのか、代償金や保険で調整できるのかを検討します。

まとめ|賃貸不動産評価は「満室想定」ではなく「相続開始時の実態」で考える

賃貸不動産の相続税評価では、どうしても貸家・貸家建付地の評価減に目が向きがちです。しかし実務で問われるのは、相続開始の時点で本当に貸し付けられていたのか、空室は一時的といえるのか、サブリース契約に実体があるのか、駐車場を一体評価できるのか、そして相続人が賃貸経営を引き継いでいけるのか、という点です。

評価減は、相続税を下げるための便法ではありません。借家人の権利によって、所有者の土地・建物の利用が制約されている事実を、評価に反映させるためのものです。だからこそ、契約書、入退去の履歴、募集資料、駐車場の利用状況、修繕資料、管理会社の資料を整理し、後からきちんと説明できる評価を行っておくことが大切になります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、賃貸アパート・賃貸マンション・サブリース物件・駐車場を含む不動産相続について、相続税評価、空室判定、貸家建付地評価、小規模宅地等、納税資金、遺産分割、二次相続まで、一体で整理しています。

すでに賃貸不動産を保有されている方、相続税対策として賃貸物件の建築や購入を提案されている方、相続開始後に空室やサブリース契約の扱いで迷っておられる方は、契約書・固定資産税資料・入居状況・管理会社資料を整理したうえで、できるだけ早い段階でご相談ください。

評価額を下げることだけでなく、相続人が納得して引き継ぎ、申告後にもきちんと説明できる形に整えること。それが、賃貸不動産の相続では何より重要です。

振り返り

論点重要ポイント確認資料
貸家評価建物は固定資産税評価額を基礎に、借家権割合・賃貸割合を反映する固定資産税課税明細書、賃貸借契約書
貸家建付地評価自用地価額から借地権割合・借家権割合・賃貸割合を反映して評価する路線価図、評価倍率表、賃貸状況
評価単位一筆単位ではなく、利用単位・権利者・権利の種類で判断する公図、測量図、配置図、現地写真
一部空室一時的空室なら賃貸部分に含められる余地がある募集資料、入退去履歴、原状回復資料
一棟空き家独立家屋が空き家なら、原則として自用地評価退去日、募集状況、賃貸借契約
サブリース契約名ではなく、一括賃貸借の実態と使用収益制約を見るサブリース契約書、賃料改定通知
複数棟サブリース一体評価か別評価かは、建物の独立性・一体利用状況で判断建物図面、契約対象範囲
駐車場入居者専用か外部貸しかで貸家建付地に含める判断が変わる駐車場契約書、利用者一覧、区画図
外部貸し駐車場貸家建付地に含めるのは慎重に判断する看板、募集資料、契約書
小規模宅地等貸付事業用宅地等は200㎡まで50%減額の可能性がある貸付資料、取得者の継続資料
3年以内貸付相続開始前3年以内の新規貸付は制限に注意貸付開始日、事業規模資料
修繕負担将来修繕は当然に債務控除できない工事契約書、請求書、未払金資料
借入金評価減と同時に、相続人の返済負担を見る残高証明、返済予定表
敷金・保証金返還義務の有無と金額を確認する賃貸借契約書、預り金台帳
遺産分割共有は管理・売却・修繕で紛争化しやすい遺言、分割案、代償金計画
税務調査対応空室・サブリース・駐車場は資料で説明できるようにする判断メモ、証拠資料一式
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