特定同族会社事業用宅地等の要件|会社に貸している土地で小規模宅地等の特例を使う前に確認すべきこと

被相続人が所有していた土地を、ご自身が経営する会社に貸していた。その土地の上には、会社の店舗や工場、事務所、倉庫、社宅などが建っている。会社の株式も相続財産に含まれており、後継者がそのまま会社を引き継ぐ予定になっている。

こうした相続では、小規模宅地等の特例のうち「特定同族会社事業用宅地等」を使えるかどうかが、相続税額を大きく左右します。

特定同族会社事業用宅地等に該当すれば、一定の宅地等について、400㎡まで80%の評価減を受けられる可能性があります。国税庁のタックスアンサーでも、一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業以外の事業に使われている宅地等は、特定同族会社事業用宅地等に該当する場合に400㎡・80%減額の区分として整理されています。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

ただし、この特例は「同族会社に貸している土地なら当然に使える」というものではありません。確認すべき点は、いくつもあります。

  • 会社が特定同族会社に当たるか
  • 会社の事業が不動産貸付業等ではないか
  • 相続人が申告期限にその会社の役員であるか
  • 土地や建物の貸付関係が有償か、それとも使用貸借か
  • 土地の無償返還届出や相当地代をどう整理するか
  • 会社の事業用部分と貸付事業用部分が混在していないか
  • 誰が土地を取得すれば、税務と経営承継の双方に耐えられるか

これらを確認しないまま「80%減額できるはずだ」と進めてしまうと、申告時の特例選択、土地評価、非上場株式評価、遺産分割、税務調査対応のいずれかで、思わぬつまずきが生じることがあります。

この記事では、特定同族会社事業用宅地等の要件を、同族会社・役員・事業用・土地貸付・無償返還届出・相当地代・事業継続という順序で整理していきます。

目次

まず押さえておきたい結論

特定同族会社事業用宅地等は、次のすべてを一体で確認する特例です。

確認項目実務上の意味
減額割合・限度面積400㎡まで80%評価減の対象になり得る
対象法人相続開始直前に、被相続人および親族等が発行済株式等の50%超を有する一定の法人
除外される法人申告期限に清算中の法人は対象外
対象事業法人の事業。ただし不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業は除外
土地の利用相続開始直前から申告期限まで、その法人の事業の用に供されていること
取得者被相続人の親族が相続または遺贈により取得すること
役員要件取得者が相続税の申告期限にその法人の役員であること
保有継続要件取得者が申告期限まで宅地等を保有していること
事業継続法人が申告期限まで対象地を事業の用に供していること
土地貸付法人への貸付関係、対価、契約、建物所有者を確認
無償返還届出借地権認定・土地評価に影響するが、特例要件を自動的に満たすものではない
相当地代借地権・貸宅地評価に影響し、法人・個人間の税務整理に関係する
混在利用法人の本業部分は特定同族会社事業用、法人の転貸・貸付事業部分は貸付事業用宅地等に分かれ得る
遺産分割役員でない相続人が取得すると、80%減額ではなく50%減額または不適用となる可能性
申告手続分割、選択同意、計算明細、添付資料が必要

特定同族会社事業用宅地等は、土地の相続税評価を下げるためだけの制度ではありません。会社の事業継続、後継者の役員就任、非上場株式の承継、遺産分割の公平性、納税資金の確保まで含めて判断する必要があります。

なかでも、対象地を使っているのが被相続人本人ではなく「特定同族会社」である点、そして取得者に役員要件が課されている点が、この特例ならではの特色だといえます。

特定同族会社事業用宅地等とは何か

特定同族会社事業用宅地等とは、相続開始の直前から相続税の申告期限まで、一定の法人の事業の用に供されていた宅地等で、一定の要件を満たす被相続人の親族が相続または遺贈により取得したものをいいます。

ここで大切なのは、対象地を使っているのが「被相続人本人」ではなく「法人」だという点です。個人事業者の店舗敷地であれば特定事業用宅地等の問題になりますが、同族会社の店舗・工場・事務所などの敷地であれば、特定同族会社事業用宅地等の問題として考えることになります。

典型的なケースとしては、次のようなものがあります。

利用形態特定同族会社事業用宅地等として検討する対象
被相続人所有の土地を同族会社に貸し、会社が店舗を所有・使用会社店舗敷地
被相続人所有の土地を同族会社に貸し、会社が工場を所有・使用会社工場敷地
被相続人所有の建物を同族会社に貸し、会社が事務所として使用貸付建物の敷地
被相続人所有の土地・建物を同族会社に貸し、会社が本社として使用本社敷地
被相続人と生計一親族所有の建物を同族会社に貸している建物所有者・土地使用関係を確認
同族会社が一部を本業、一部を第三者へ転貸本業部分と貸付部分を区分
同族会社が不動産賃貸業を営んでいる原則として特定同族会社事業用ではなく貸付事業用宅地等側を検討

国税庁の通達では、特定同族会社事業用宅地等における「法人の事業の用に供されていた宅地等」として、法人に貸し付けられていた宅地等や、法人の事業の用に供されていた建物等の敷地で一定のものが整理されています。ただし、ここでいう法人の事業には、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業は含まれません。

出典:国税庁|租税特別措置法関係通達 69の4-23 法人の事業の用に供されていた宅地等の範囲

「一定の法人」つまり特定同族会社に当たるか

最初に確認したいのは、対象となる法人が「一定の法人」に該当するかどうかです。

国税庁のタックスアンサーによれば、一定の法人とは、相続開始の直前において、被相続人および被相続人の親族等が、その法人の発行済株式の総数または出資の総額の50%超を有している場合のその法人をいいます。ただし、相続税の申告期限において清算中の法人は除かれます。また、議決権を行使できる事項の全部について制限された一定の株式または出資は、発行済株式総数等には含まれません。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

実務では、「家族で経営している会社だから大丈夫だろう」と安易に判断することはありません。次のような資料を一つずつ確認していきます。

確認資料確認する内容
株主名簿相続開始直前の株主構成
法人税申告書別表二同族会社判定、株主グループ
定款種類株式、議決権制限、譲渡制限
登記事項証明書役員、発行可能株式、会社状態
株主総会議事録株式発行、自己株式、役員選任
過去の贈与・譲渡資料株式の名義と実質所有者
相続開始直前の株式移動死亡前後の名義変更や譲渡の有無
グループ会社関係法人株主、持株会社、関連会社

特定同族会社の判定では、相続開始直前の時点で、被相続人・親族等が50%超を保有しているかどうかが入口になります。とりわけ、議決権に制限のある株式、法人株主、名義株式、従業員持株会、自己株式などがある会社では、表面的な株数だけを見ていると判定を誤ることがあります。

非上場株式の評価でも、同族株主判定や議決権判定は重要な論点です。株主構成の確認は、土地の特例と株式評価の双方に効いてくると考えておくとよいでしょう。

法人の「事業」が不動産貸付業等ではないか

特定同族会社事業用宅地等では、会社がその土地をどのような事業に使っているかが大きな意味を持ちます。

対象になるのは、会社の事業のうち、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業を除いた事業です。したがって、会社がその土地を本社、店舗、工場、倉庫、診療所、飲食店、製造業、卸売業、小売業、サービス業などの事業に使っている場合は、検討の対象になります。

一方で、会社がその土地上の建物を第三者に賃貸しているだけ、というケースでは、原則として貸付事業用宅地等側の検討になります。

法人の利用状況主な判定
会社が本社・事務所として使用特定同族会社事業用宅地等を検討
会社が店舗・工場・倉庫として使用特定同族会社事業用宅地等を検討
会社が診療所・クリニック・介護事業所として使用事業実態を確認して検討
会社が賃貸マンションを所有し賃貸原則として貸付事業用宅地等側を検討
会社がコインパーキングを運営原則として貸付事業用宅地等側を検討
会社が建物の一部を自社店舗、一部を第三者へ賃貸用途ごとに区分
会社の社宅として使用親族のみ使用か、従業員社宅かを確認
休業中・廃業予定申告期限までの事業継続を確認

国税庁の質疑応答事例では、同族会社が借り受けた建物の1階を小売業の店舗として使い、2階を第三者へ貸し付けていた事案が取り上げられています。この事案では、会社が小売業の店舗として使っている部分は特定同族会社事業用宅地等として検討され、第三者へ貸し付けている部分は貸付事業用宅地等として整理されています。

出典:国税庁|特定同族会社事業用宅地等と貸付事業用宅地等が混在する場合

この区分は、申告実務において非常に重要です。同じ一筆の土地、同じ一棟の建物であっても、会社の本業部分と貸付部分が混在していれば、床面積、利用実態、賃貸借契約、社内の利用状況をもとに、特例区分を分けて考えなければなりません。

取得者は「申告期限に役員」でなければならない

特定同族会社事業用宅地等は、土地を誰が取得するかによって結論が変わります。

取得者は、被相続人の親族であり、相続または遺贈によって宅地等を取得し、相続税の申告期限においてその法人の役員であることが求められます。国税庁のタックスアンサーでも、法人役員要件として、申告期限にその法人の法人税法2条15号に規定する役員であることが掲げられています。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

この役員要件をめぐっては、次のような点で誤解が生じがちです。

誤解実務上の整理
株式を持っている相続人ならよい株式保有ではなく、申告期限に役員であることが必要
後継者でなくても土地を取得すればよい役員でない親族が取得すると特定同族会社事業用宅地等に該当しない可能性
相続開始時に役員なら十分申告期限に役員であることを確認
会社の従業員ならよい従業員では足りず、役員該当性を確認
法人が土地を遺贈で取得してもよい取得者は被相続人の親族である必要がある
代表取締役でないと不可役員該当性は法人税法上の役員概念で確認する

この役員要件は、特定同族会社事業用宅地等を貸付事業用宅地等と区分するための、いわば中核にあたります。対象地を取得した親族が会社株式を保有していなくても、申告期限に役員であれば適用対象になり得る一方、株式を保有していても役員でなければ要件を満たさない、ということが起こり得ます。

役員でない相続人が取得するとどうなるか

同族会社に貸している土地を、役員でない相続人が取得した場合、当然に80%減額を受けられるわけではありません。

たとえば、父がA社株式を60%保有し、父所有の土地・建物をA社に貸していたとします。長男はA社の役員、二男はA社の役員ではありません。父の相続で、長男と二男が土地を2分の1ずつ取得したとしましょう。

このとき、長男が取得した部分のうち、A社の本業に使われている部分は、特定同族会社事業用宅地等になり得ます。一方、二男が取得した部分は、二男が申告期限にA社の役員でなければ、同じ土地であっても特定同族会社事業用宅地等には該当しません。

このように、同じ土地でも「誰が取得したか」によって、80%減額、50%減額、不適用が分かれます。遺産分割で土地を共有にする場合は、持分ごとに特例の適用関係が変わってくる点に注意が必要です。

相続税額だけを見ると、役員である後継者が土地を取得するのが有利に見えることもあります。しかし、その後継者が代償金を支払えるのか、他の相続人が納得するのか、会社株式と土地の支配が一致するのか、二次相続で再び分散してしまわないか。こうした点まで含めて検討しておかなければなりません。

申告期限までの保有継続と事業継続

特定同族会社事業用宅地等では、申告期限までの継続要件も見落とせません。

取得者の側では、相続税の申告期限まで宅地等を保有している必要があります。法人の側では、申告期限まで対象地がその法人の事業の用に供されている必要があります。実務上は、所有継続要件は取得者について、事業継続要件は特定同族会社について判定する、と整理しておくと混乱しません。

相続後の状況注意点
取得者が申告期限前に土地を売却保有継続要件に影響
会社が申告期限前に事業廃止事業継続要件に影響
会社が清算中となった一定の法人から除外される可能性
会社が本業をやめ賃貸業へ転換特定同族会社事業用ではなくなる可能性
一部を売却・一部を貸付残部分への適用可能性を検討
建替え中一時的中断か、事業継続といえるかを確認
会社の社宅から工場へ建替え通達・質疑応答事例を確認

国税庁の通達では、申告期限までに事業用宅地等の一部が譲渡または貸し付けられた場合でも、その部分以外の残りについて要件を満たす限り、特定事業用宅地等として取り扱う旨が定められています。そして、この取扱いは特定同族会社事業用宅地等の判定にも準じるとされています。また、申告期限までに事業用建物等の建替え工事に着手された場合の取扱いについても、特定同族会社事業用宅地等に準じて適用されます。

出典:国税庁|租税特別措置法関係通達 69の4-18、69の4-19

建替えについては、国税庁の質疑応答事例でも触れられています。特定同族会社に有償で貸し付けられていた建物が申告期限までに建替え工事に着手され、建替え後の建物がその法人の事業の用に供される見込みである場合には、通達69の4-19の取扱いを適用できるとされています。

出典:国税庁|特定同族会社に貸し付けられていた建物が相続税の申告期限までに建て替えられた場合の小規模宅地等の特例

土地貸付、建物貸付、使用貸借を分けて確認する

同族会社が使っている土地では、「土地を貸している」のか、「建物を貸している」のか、それとも「無償で使わせている」のかを、まず切り分けて確認します。

形態確認する論点
被相続人が土地を会社に賃貸し、会社が建物を所有土地賃貸借、地代、無償返還届出、借地権・貸宅地評価
被相続人が土地建物を所有し、建物を会社に賃貸建物賃貸借、賃料、会社の事業利用部分
被相続人所有土地に生計一親族所有建物があり、建物を会社に賃貸生計一親族、土地の無償使用、通達69の4-23の範囲
会社が土地建物を無償で使用使用貸借、対価の有無、特例要件、法人税・贈与税リスク
会社が一部を本業、一部を転貸用途区分、床面積按分、特例区分の混在
会社が不動産管理会社・賃貸会社貸付事業用宅地等側を検討

国税庁の通達69の4-23では、法人に貸し付けられていた宅地等や、法人の事業の用に供されていた建物等で、被相続人または一定の生計一親族が所有していたものの敷地が、一定の場合に法人の事業の用に供されていた宅地等として整理されています。

出典:国税庁|租税特別措置法関係通達 69の4-23

ここで見るべきなのは、契約書の名称ではなく実態です。賃貸借契約書があっても、賃料が実際には支払われていない、役員勘定で相殺されている、固定資産税程度の負担しかしていない、契約期間や更新の取り決めが曖昧である。こうした場合には、土地評価や法人税務上の取扱いまで含めて、慎重に確認する必要があります。

無償返還届出は「特例適用の要件」そのものではない

同族会社への土地貸付では、「土地の無償返還に関する届出書」がしばしば論点になります。

この届出は、法人が借地権の設定等によって他人に土地を使用させ、契約書で将来その土地を無償で返還することが定められている場合に提出する手続です。国税庁は、この届出を行っている場合には権利金の認定課税が行われないこと、また土地所有者が個人である場合でも提出できることを案内しています。

出典:国税庁|C1-63 土地の無償返還に関する届出

ただし、無償返還届出を提出していることと、特定同族会社事業用宅地等の要件を満たすことは、別の問題です。

無償返還届出は、主に借地権課税や土地評価にかかわる論点です。特定同族会社事業用宅地等では、これとは別に、特定同族会社該当性、法人の事業内容、取得者の役員要件、保有継続、事業継続、申告手続を満たす必要があります。

論点無償返還届出との関係
権利金の認定課税届出により原則として認定課税が行われない
借地権評価届出がある場合、借地権価額は零として扱われる
貸宅地評価原則として自用地価額の80%相当額で評価
使用貸借使用貸借に係る土地は自用地評価となる点に注意
小規模宅地等届出だけで特定同族会社事業用宅地等になるわけではない
非上場株式評価法人側の借地権評価、土地利用権が株式評価に影響し得る

相当地代通達では、無償返還届出が提出されている場合の借地権価額は零、貸宅地価額は自用地価額の80%相当額とされています。その一方で、使用貸借に係る土地について無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地価額は、自用地価額によるとされています。

出典:国税庁|相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて

したがって、「無償返還届出を出しているから80%減額できる」と考えるのは誤りです。まず土地評価として貸宅地評価等を行い、そのうえで小規模宅地等の特例要件を別に確認する。この順序で整理していくのが筋です。

相当地代をどう見るか

同族会社への土地貸付では、相当地代も重要な論点になります。

相当地代通達では、借地権の設定に際して権利金に代えて、土地の自用地価額に対しておおむね年6%程度の地代を支払っている場合には、借地権設定による利益はないものとして取り扱う旨が示されています。

出典:国税庁|相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて

もっとも、相当地代を払っているかどうかは、特定同族会社事業用宅地等の要件そのものではありません。相当地代は、主に借地権認定、貸宅地評価、法人税・贈与税リスクにかかわる論点です。

実務では、次のように分けて考えていきます。

確認事項判断の意味
権利金の授受借地権設定時の経済的利益を確認
地代水準相当地代、通常地代、低額地代の区分を確認
無償返還届出将来無償返還の合意と届出状況を確認
契約書土地賃貸借、建物賃貸借、使用貸借の区分を確認
入金履歴実際に賃料・地代が支払われているか確認
会社経理地代・賃料が損金経理されているか確認
個人側申告不動産所得・雑所得等の申告状況を確認
株式評価法人側の借地権、受贈益、資産負債への影響を確認

土地の貸付条件は、土地評価だけでなく、会社の非上場株式評価にも影響します。会社が借地権を有するのか、借地権価額が零とされるのか、地代水準は相当か、土地所有者と会社・株主の間で経済的利益の移転が生じていないか。こうした点を確認しなければなりません。

同族会社関係の資産では、土地、建物、株式、役員貸付金、会社債務を別々に見るのではなく、法人と個人を一体のものとして整理していく姿勢が欠かせません。

会社の社宅等に使っている場合

会社が社宅や社員寮として建物を使っている場合にも、特定同族会社事業用宅地等の対象になるかどうかを検討する場面があります。

国税庁の通達69の4-24では、法人の社宅等の敷地について、被相続人等の親族のみが使用していたものを除き、法人の事業の用に供されていた宅地等に当たるとされています。

出典:国税庁|租税特別措置法関係通達 69の4-24 法人の社宅等の敷地

この場合も、「社宅」と名付ければそれで済む、というわけではありません。

確認項目注意点
入居者親族のみの利用ではないか
社宅規程会社としての社宅制度があるか
使用料役員・従業員からの徴収状況
会社経理社宅費、賃料、福利厚生費の処理
建物所有者被相続人、会社、生計一親族のいずれか
利用実態実際に会社の事業遂行に関連する利用か

親族のみが利用している社宅、実質的に役員家族の住居として使われている建物、会社経理との整合性がない社宅。これらは、いずれも慎重に検討する必要があります。

貸付事業用宅地等との違い

特定同族会社事業用宅地等と貸付事業用宅地等は、どちらも「貸している土地」にかかわる制度です。しかし、その要件と効果は大きく異なります。

区分特定同族会社事業用宅地等貸付事業用宅地等
主な利用者一定の同族会社被相続人等または一定法人等の貸付事業
対象事業不動産貸付業等を除く法人の事業不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業
限度面積400㎡200㎡
減額割合80%50%
取得者要件申告期限に法人役員である親族区分に応じた貸付継続・保有継続
会社の株式要件被相続人・親族等で50%超なし
主な確認資料株主名簿、役員登記、会社事業、賃貸契約賃貸契約、入金履歴、空室、駐車場設備
典型例会社の本社・店舗・工場敷地アパート、貸家、駐車場、転貸部分

同族会社に貸している土地であっても、その会社が不動産賃貸業を営んでいる場合や、会社が借りた建物を第三者へ貸し付けている部分は、特定同族会社事業用宅地等ではなく貸付事業用宅地等として整理することがあります。国税庁の質疑応答事例も、法人の本業部分と貸付事業部分を分けて取り扱っています。

出典:国税庁|特定同族会社事業用宅地等と貸付事業用宅地等が混在する場合

3年以内貸付の制限と混同しない

貸付事業用宅地等では、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等について、一定の適用制限があります。これに対して、特定同族会社事業用宅地等は、そもそも制度の構造が異なります。

実務では、特定同族会社事業用宅地等について、貸付事業用宅地等のような3年以内貸付宅地等の制限を機械的に当てはめることはしません。あくまで、相続開始直前から申告期限まで、一定の法人の貸付事業以外の事業の用に供されていたかどうかを確認します。

特定同族会社事業用宅地等は、貸付事業用宅地等とは異なり、法人の事業承継に対応するという趣旨のもとで、株式等所有割合要件や役員要件を付け加えた制度として理解できます。

とはいえ、相続直前に形式だけ会社へ土地を貸した、休眠会社を急に稼働させた、実態のない事業所を設けた、というような場合は、特例要件以前に、事実認定、評価根拠、申告後の説明可能性が問われます。制度上の明文要件だけを見て判断するのではなく、実態として事業用といえるかどうかを確認しておく必要があります。

非上場株式評価との接点

特定同族会社事業用宅地等が問題になる相続では、土地だけでなく、会社株式も相続財産に含まれていることがほとんどです。

この場合、次のような複合的な論点が生じます。

論点確認すべきこと
土地評価貸宅地評価、無償返還届出、相当地代、使用貸借
建物評価所有者、賃貸借、固定資産税評価、帳簿価額
株式評価同族株主判定、会社規模、純資産価額、土地保有特定会社
会社財務借入金、役員貸付金、未払地代、未払賃料
会社支配後継者の議決権、種類株式、株式分散
遺産分割土地と株式を同じ後継者に集中させるか
納税資金後継者が土地・株式を取得して納税できるか
遺留分他の相続人への代償金、保険、金融資産の配分

土地だけを後継者が取得し、株式は他の相続人にも分散する。あるいは、株式は後継者が取得し、土地は役員でない相続人が取得する。このような分け方をすると、会社経営、地代交渉、将来の売却、相続税の特例のいずれかで、問題が残ってしまうことがあります。

非上場株式の評価では、同族株主判定、議決権割合、会社規模、純資産価額、土地保有特定会社などが重要になります。土地の貸付条件や借地権の有無は、土地所有者側の評価にとどまらず、会社側の株式評価にも影響し得るのです。

遺産分割で注意すべきこと

特定同族会社事業用宅地等では、誰が土地を取得するかが、そのまま特例の適用に直結します。だからこそ、遺産分割にあたっては、「税額が最も下がる分け方」と「家族や会社にとって維持できる分け方」を、並べて比較する必要があります。

分割方針メリット注意点
後継者役員が土地と株式を取得事業承継と特例適用が整理しやすい他の相続人への代償金・遺留分対策が必要
土地は役員、株式は複数相続人で分散土地特例は使いやすい株式分散で会社支配が不安定になる
土地を複数相続人で共有公平に見える役員要件・持分別適用・将来管理で問題が生じやすい
役員でない相続人が土地を取得代償金負担を避けられることがある特定同族会社事業用宅地等が使えない可能性
会社へ土地を遺贈法人所有に整理できる可能性法人課税・相続税・みなし譲渡等を別途確認
相続後に会社が買い取る管理は整理しやすい譲渡所得税、資金繰り、時価取引を確認

相続対策は、相続税対策だけではありません。「争族」対策、納税資金対策、税額軽減対策を、一体のものとして考えていく必要があります。とくに同族会社関係の資産では、税額軽減を優先しすぎると、後継者に過大な代償金や借入返済を負わせてしまったり、他の相続人との不公平感を強めてしまったりすることがあります。

未分割の場合と申告手続

小規模宅地等の特例では、申告手続そのものも軽視できません。

国税庁は、小規模宅地等の特例を受けるためには、相続税申告書に特例を受けようとする旨を記載し、小規模宅地等に係る計算の明細書や遺産分割協議書の写しなど、一定の書類を添付する必要があるとしています。また、特例対象となり得る宅地等を取得した相続人等が2人以上いる場合には、特例対象宅地等の選択について全員が同意していること、そして原則として申告期限までに分割されていることが必要です。

出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

特定同族会社事業用宅地等では、未分割のまま申告期限が近づいてくると、次のような問題が重なってきます。

問題実務上の影響
誰が取得するか未定役員要件を満たす取得者が確定しない
共有取得案が残る持分ごとに特例適用関係が分かれる
会社株式の分割も未定会社支配と土地所有が一致しない
代償金額が未定後継者の納税資金が確定しない
申告期限が迫る特例適用、選択同意、添付資料に影響
申告後の分割変更贈与税・譲渡所得税リスクが生じ得る

会社に貸している土地は、金額が大きく、相続人の間で「誰が取得すべきか」をめぐって意見が分かれやすい財産です。相続が起きてから協議を始めるだけでは間に合わないこともあります。生前のうちから、後継者、株式承継、土地承継、代償金、遺言までを含めて整理しておくことが望ましい場面は、決して少なくありません。

申告実務で準備すべき資料

特定同族会社事業用宅地等を検討する場合、少なくとも次の資料は整理しておきたいところです。

資料確認する内容
土地・建物の登記事項証明書所有者、地番、家屋番号、権利関係
固定資産税課税明細書・名寄帳土地建物の把握、評価対象
公図・地積測量図・建物図面土地と建物の対応関係
賃貸借契約書・使用貸借契約書土地貸付か建物貸付か、対価、期間
地代・賃料の入金履歴有償貸付の実態
土地の無償返還届出書届出の有無、提出時期、契約との整合
相当の地代に関する資料地代水準、改訂、過去3年平均
法人税申告書・決算書会社事業、地代・賃料処理、別表二
株主名簿50%超判定、株主グループ
定款・種類株式資料議決権制限、譲渡制限
登記事項証明書役員就任状況、清算中でないか
役員選任議事録申告期限に役員であること
会社の事業資料店舗、工場、事務所、社宅等の利用実態
建物平面図・賃貸区画図本業部分と貸付部分の区分
転貸契約書会社が第三者へ貸している部分の有無
写真・現地確認メモ実際の利用状況
遺言書・遺産分割協議書案取得者と持分
小規模宅地等の計算明細面積、減額割合、選択適用
相続人全員の同意資料選択特例対象宅地等の同意

税務調査では、結論そのものだけでなく、その結論に至る事実関係が確認されます。特定同族会社事業用宅地等では、株主構成、役員就任、会社の事業利用、土地・建物の貸付契約、地代・賃料の支払実態が問われやすい。あらかじめ、そう心づもりをしておくべき特例だといえます。

判断手順|会社に貸している土地で特例を検討する流れ

実務では、次の順番で確認していくと整理しやすくなります。

1. 土地と建物の所有者を確認する

土地が被相続人の所有か、建物が被相続人の所有か、会社の所有か、それとも生計一親族の所有か。これを確認します。土地貸付と建物貸付では、確認すべき契約や評価が変わってきます。

2. 会社が特定同族会社に当たるかを確認する

相続開始直前の株主構成を確認し、被相続人・親族等で50%超を有しているかを確かめます。種類株式、議決権制限、法人株主、名義株式にも注意が必要です。

3. 会社の事業内容を確認する

会社がその土地を本業に使っているのか、それとも不動産貸付業・駐車場業・準事業に使っているのかを確認します。利用が混在している場合は、その部分を区分します。

4. 取得者が役員要件を満たすかを確認する

土地を取得する相続人が、申告期限にその法人の役員であるかを確認します。役員就任を予定している場合は、就任時期、議事録、登記、実態をあわせて確認します。

5. 申告期限までの保有・事業継続を確認する

取得者が土地を申告期限まで保有しているか、会社が申告期限まで事業の用に供しているかを確認します。売却、廃業、清算、建替え、転貸の有無も見ておきます。

6. 無償返還届出・相当地代・土地評価を確認する

小規模宅地等の特例とは別に、借地権・貸宅地評価を整理します。無償返還届出や相当地代の有無は、土地評価と会社株式評価の双方に影響します。

7. 他の小規模宅地等との選択を比較する

特定居住用宅地等、特定事業用宅地等、貸付事業用宅地等がある場合は、限度面積の使い方を比較します。貸付事業用宅地等が混在すると、調整計算が必要になります。

8. 遺産分割・株式承継・納税資金を確認する

後継者に土地と株式を集中させるのか、他の相続人へはどう代償するのか、納税資金をどう確保するのかを整理します。税額だけでなく、会社経営と家族関係の両方に耐えられる分け方を検討します。

まとめ|特定同族会社事業用宅地等は、土地特例であると同時に事業承継の論点である

特定同族会社事業用宅地等は、同族会社に貸している土地の相続において、非常に重要な特例です。要件を満たせば、400㎡まで80%の評価減を受けられる可能性があり、税額への影響は大きなものになります。

しかし、この特例は、形式的に「会社に貸している土地」というだけで判断できるものではありません。確認すべき論点は、いくつもあります。

  • 会社が特定同族会社に当たるか
  • 会社の事業が貸付事業ではないか
  • 土地や建物の貸付関係がどうなっているか
  • 無償返還届出や相当地代が土地評価と整合しているか
  • 取得者は申告期限に役員か
  • 申告期限まで土地を保有し、会社が事業を継続するか
  • 会社株式の承継と土地所有が分断されないか
  • 他の相続人への公平性と納税資金をどう確保するか

これらを一つずつ整理して、はじめて、特定同族会社事業用宅地等を適用すべきか、貸付事業用宅地等として扱うべきか、あるいは別の分割・承継方法を考えるべきかが、見えてきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、同族会社に貸している土地、会社所有建物の敷地、無償返還届出のある土地、相当地代の土地、非上場株式を含む相続について、小規模宅地等の特例だけでなく、土地評価、株式評価、遺産分割、納税資金、申告後の説明可能性まで含めて整理しています。会社に貸している土地の相続税申告や生前対策で判断に迷われた際は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

重要ポイントの振り返り

論点確認すべきポイント
特例の効果400㎡まで80%評価減の対象になり得る
対象法人相続開始直前に被相続人・親族等で発行済株式等の50%超を有する一定法人
清算中法人申告期限に清算中の法人は対象外
対象事業不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業は除外
土地利用相続開始直前から申告期限まで法人の事業用であること
取得者被相続人の親族が相続または遺贈で取得すること
役員要件取得者が申告期限にその法人の役員であること
保有継続取得者が申告期限まで宅地等を保有すること
事業継続法人が申告期限まで対象地を事業の用に供していること
土地貸付土地賃貸借、建物賃貸借、使用貸借を区分して確認
無償返還届出借地権認定・土地評価に影響するが、特例要件そのものではない
相当地代借地権・貸宅地評価、法人・個人間税務に影響
混在利用法人の本業部分と転貸・貸付事業部分を分ける
役員でない相続人同じ土地でも80%減額ではなく50%減額または不適用となる可能性
非上場株式土地貸付条件は株式評価・会社支配にも影響
遺産分割税額だけでなく、後継者、代償金、遺留分、納税資金を確認
申告手続計算明細、遺産分割協議書、選択同意、添付資料が必要
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