配偶者居住権は、残された配偶者の住まいを守るための制度です。
たとえば、夫が亡くなり、相続人が妻と子であるとしましょう。このとき、妻が自宅の所有権をすべて取得すると、他の財産を子に渡す余地が少なくなったり、子へ代償金を支払う必要が生じたりすることがあります。かといって、子が自宅を取得すれば、今度は妻が住み慣れた家に住み続けられるのかという不安が残ります。
こうした場面で力を発揮するのが配偶者居住権です。自宅の「所有権」は子などに承継させながら、配偶者には「住み続ける権利」を確保する。両者を切り分けられるところに、この制度の意義があります。
もっとも、相続税申告の実務では、配偶者居住権を設定すれば判断が終わるわけではありません。配偶者居住権そのものの評価に加えて、建物所有権の評価、敷地利用権の評価、敷地所有権の評価がそれぞれ必要になります。
さらに、小規模宅地等の特例との関係で問われるのは、「配偶者居住権」そのものではありません。その建物の敷地を使う権利である「敷地利用権」や、敷地所有権の方が論点になります。
この記事では、配偶者居住権を設定した場合に、小規模宅地等の特例がどの部分に使えるのか、誰が取得するとどう判定が変わるのかを、面積調整や二次相続まで含めて整理していきます。
まず押さえておきたい結論
配偶者居住権と小規模宅地等の特例の関係は、次のように整理すると全体像がつかみやすくなります。
| 論点 | 実務上の整理 |
|---|---|
| 配偶者居住権とは | 配偶者が居住建物を無償で使用・収益できる権利 |
| 小規模宅地等の対象 | 配偶者居住権そのものではなく、敷地利用権や敷地所有権が対象になり得る |
| 敷地利用権とは | 配偶者居住権に基づき、居住建物の敷地を使用する権利 |
| 評価の分解 | 建物は「配偶者居住権」と「建物所有権」、土地は「敷地利用権」と「敷地所有権」に分けて評価する |
| 特定居住用宅地等 | 敷地利用権や敷地所有権について、取得者ごとに要件を判定する |
| 面積調整 | 敷地利用権と敷地所有権の価額割合に応じて、小規模宅地等の面積を按分する |
| 配偶者が取得する場合 | 配偶者が取得する敷地利用権は、特定居住用宅地等として検討しやすい |
| 子が敷地所有権を取得する場合 | 同居・居住継続・保有継続など、子側の要件確認が必要 |
| 二次相続 | 配偶者居住権は配偶者の死亡により消滅し、配偶者から所有者に移転する財産はないと整理される |
| 注意点 | 税額だけでなく、配偶者の生活資金、子の所有権、遺留分、登記、将来売却まで確認する |
小規模宅地等の特例は、相続開始の直前に被相続人等の事業用または居住用に供されていた宅地等のうち、一定のものについて、一定面積まで評価額を減額する制度です。そして、特例対象地が配偶者居住権の目的となっている建物の敷地や敷地利用権である場合には、価額割合に応じた面積調整を行うこととされています。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
配偶者居住権は「所有権」ではなく「住み続ける権利」
配偶者居住権は、配偶者が居住建物を無償で使用・収益できる権利です。所有権そのものを取得するわけではありません。
この制度がめざすのは、残された配偶者が住み慣れた住居で暮らしを続けながら、預貯金など老後の生活資金も確保しやすくすることです。社会の高齢化が進み、夫婦の一方が亡くなった後に、残された配偶者が長期間にわたって生活を続ける場面が増えてきました。そうした背景を受けて、遺言や遺産分割の選択肢として設けられたのが配偶者居住権です。
出典:法務省|残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。
配偶者居住権は、主に次の方法で取得します。
| 取得方法 | 内容 |
|---|---|
| 遺産分割 | 相続人間の遺産分割で、配偶者が配偶者居住権を取得する |
| 遺贈 | 遺言により、配偶者居住権を配偶者に遺贈する |
| 家庭裁判所の審判 | 一定の場合に、家庭裁判所が配偶者居住権の取得を定める |
ここで意識しておきたいのは、配偶者居住権が「住まいの問題」であると同時に、「相続税評価」と「小規模宅地等の特例」の問題でもあるという点です。
配偶者の生活保障だけを見て設定すると、相続税申告の段階で評価や添付資料が複雑になります。反対に、税額だけを見て設定すると、将来の売却、修繕、建替え、二次相続、子との関係に課題が残ることもあります。どちらか一方の視点に偏らないことが、この制度を扱うときの出発点になります。
相続税評価では、建物と土地が4つに分かれる
配偶者居住権を設定すると、相続税評価では、自宅を単純に「土地」と「建物」として評価するだけでは足りません。
建物側と土地側で、それぞれ次のように分解して考えます。
| 対象 | 配偶者が取得する側 | 所有者が取得する側 |
|---|---|---|
| 建物 | 配偶者居住権 | 配偶者居住権が付いた建物所有権 |
| 土地 | 敷地利用権 | 配偶者居住権が付いた居住建物の敷地所有権 |
配偶者居住権が設定されると、配偶者は建物を使用できるだけでなく、その建物の敷地も実質的に使用することになります。そのため土地についても、配偶者が取得する「敷地利用権」と、子などが取得する「敷地所有権」に分けて評価します。
配偶者居住権等については、配偶者居住権、居住建物、敷地利用権、居住建物の敷地の用に供される土地という4つの評価方法が定められています。このうち敷地利用権は、居住建物の敷地を配偶者居住権に基づいて使用する権利と位置づけられています。
実務では、配偶者が取得した配偶者居住権と敷地利用権を配偶者の課税価格に算入します。一方、子などが取得した建物所有権と敷地所有権は、配偶者居住権等の価額を控除した価額で評価することになります。
小規模宅地等の特例は「配偶者居住権そのもの」にはかからない
ここが、配偶者居住権と小規模宅地等の特例を考えるうえで、もっとも誤解されやすいところです。
小規模宅地等の特例の対象は、一定の「宅地等」です。この宅地等には、土地そのものだけでなく、土地の上に存する権利も含まれます。
これに対して、配偶者居住権そのものは、建物についての使用・収益権です。したがって、配偶者居住権自体が小規模宅地等の特例の対象になるわけではありません。
対象になり得るのは、次の部分です。
| 権利・財産 | 小規模宅地等の対象になるか |
|---|---|
| 配偶者居住権 | 原則として対象ではない |
| 敷地利用権 | 土地の上に存する権利として対象になり得る |
| 敷地所有権 | 宅地等として対象になり得る |
| 居住建物の所有権 | 小規模宅地等の特例の対象ではない |
| 配偶者短期居住権 | 小規模宅地等の対象として考えるものではない |
つまり、配偶者居住権を設定した場合の小規模宅地等の特例では、「配偶者居住権があるから使えるか」という問い方をしません。確認すべきは、「敷地利用権または敷地所有権が、特定居住用宅地等などの要件を満たすか」です。
配偶者居住権は建物についての権利ですが、その目的建物の敷地を使う敷地利用権は「土地の上に存する権利」に当たります。だからこそ、敷地利用権は小規模宅地等の特例の対象になり得るのです。
面積は「土地全体の面積」をそのまま使わない
配偶者居住権が設定されると、敷地利用権と敷地所有権が分かれます。
このとき、小規模宅地等の限度面積を判定するうえで、土地全体の面積をそれぞれの取得者がそのまま使うわけではありません。敷地利用権と敷地所有権の価額割合に応じて、面積を按分します。
基本的なイメージは次のとおりです。
| 項目 | 計算イメージ |
|---|---|
| 敷地利用権に対応する面積 | 土地全体の面積 × 敷地利用権の価額 ÷ 土地全体の価額 |
| 敷地所有権に対応する面積 | 土地全体の面積 × 敷地所有権の価額 ÷ 土地全体の価額 |
| 両者の合計 | 原則として土地全体の面積に対応する |
たとえば、土地全体の面積が300㎡、土地全体の相続税評価額が9,000万円、敷地利用権の価額が3,000万円、敷地所有権の価額が6,000万円であるとします。この場合、面積は次のように整理されます。
| 区分 | 計算 | 小規模宅地等で見る面積 |
|---|---|---|
| 敷地利用権 | 300㎡ × 3,000万円 ÷ 9,000万円 | 100㎡ |
| 敷地所有権 | 300㎡ × 6,000万円 ÷ 9,000万円 | 200㎡ |
| 合計 | 100㎡ + 200㎡ | 300㎡ |
実際の質疑応答事例でも、配偶者居住権が設定されていないものとした場合の土地の相続税評価額、敷地利用権の相続税評価額、敷地所有権の相続税評価額を用いて、敷地利用権と敷地所有権の面積を価額割合で計算する例が示されています。
出典:国税庁|相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(民法(相続法)改正関係)について(情報)
この面積調整を誤ると、330㎡の限度面積を超えているかどうか、他の宅地との併用調整、減額金額までが変わってきます。
「土地は300㎡だから全部330㎡以内」と単純に判断するのではなく、権利ごとの価額と面積の対応を一つずつ整理しておく必要があります。
誰が取得するかで、特定居住用宅地等の判定が変わる
配偶者居住権を設定した場合、敷地利用権と敷地所有権を誰が取得するかによって、小規模宅地等の特例の適用関係が変わります。
特に大切なのは、配偶者が取得する敷地利用権と、子などが取得する敷地所有権を分けて判定することです。
| 取得者 | 取得するもの | 主な確認点 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 敷地利用権 | 被相続人の居住用宅地等として特定居住用宅地等に該当するか |
| 同居していた子 | 敷地所有権 | 相続開始直前から申告期限まで居住継続し、保有継続しているか |
| 別居していた子 | 敷地所有権 | いわゆる家なき子要件などを満たすか |
| 自宅を所有している別居子 | 敷地所有権 | 特定居住用宅地等の要件を満たさない可能性が高い |
| 複数の子が共有取得 | 敷地所有権 | 各人の持分ごとに要件を判定する |
被相続人の居住用宅地等を配偶者が取得する場合には、取得者ごとの要件はありません。これに対して、同居親族が取得する場合には、相続開始の直前から申告期限まで引き続き居住し、かつその宅地等を申告期限まで有していることが要件とされています。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
配偶者居住権を設定したからといって、子が取得した敷地所有権まで自動的に小規模宅地等の特例の対象になるわけではありません。
たとえば、配偶者が敷地利用権を取得し、同居していた子が敷地所有権の一部を取得して引き続き住んでいる場合には、その子の持分についても特定居住用宅地等として検討できる余地があります。
一方で、別生計で自宅を所有している子が敷地所有権を取得したケースでは、その子の取得部分は要件を満たさず、特例の対象とならないことがあります。実際の事例でも、自己所有の建物に居住している生計別の子が取得した敷地所有権については、特定居住用宅地等の要件を満たさず、小規模宅地等の特例の適用はないと整理されています。
出典:国税庁|相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(民法(相続法)改正関係)について(情報)
配偶者が敷地利用権と敷地所有権の両方を取得する場合
遺産分割の内容によっては、配偶者が配偶者居住権だけでなく、敷地所有権の全部または一部を取得する場合もあります。
このときも、評価と小規模宅地等の判定は分けて考えます。
| 配偶者が取得するもの | 税務上の確認 |
|---|---|
| 配偶者居住権 | 建物に関する権利として評価する |
| 敷地利用権 | 土地の上に存する権利として評価し、小規模宅地等の対象になり得る |
| 敷地所有権 | 所有権として評価し、小規模宅地等の対象になり得る |
| 預貯金等 | 配偶者軽減・二次相続・生活資金とのバランスを見る |
配偶者が多く取得すれば、一次相続の納税負担は配偶者の税額軽減によって軽くなることがあります。しかし、それだけをもって有利と決めつけることはできません。
配偶者に土地所有権や金融資産を集中させると、二次相続で課税財産が大きくなる可能性があるからです。逆に、配偶者居住権だけを取得させ、所有権を子へ移すと、配偶者の住まいは守りやすくなります。ただしその場合は、子が所有者として固定資産税、修繕、建替え、売却制限などをどう受け止めるかを確認しておく必要があります。
申告期限までの保有継続・居住継続にも注意する
小規模宅地等の特例では、取得者ごとの継続要件が重要な意味を持ちます。
配偶者が取得する場合には、特定居住用宅地等について取得者ごとの要件はありません。しかし、配偶者以外の親族が取得する場合には、居住継続や保有継続が問われることになります。
| 取得者 | 注意する継続要件 |
|---|---|
| 配偶者 | 特定居住用宅地等について取得者ごとの要件はない |
| 同居親族 | 申告期限までの居住継続・保有継続 |
| 別居親族 | 家屋所有歴、被相続人に配偶者・同居相続人がいないこと等 |
| 敷地所有権を取得した子 | 申告期限前に一部譲渡すると、その譲渡部分は対象外になる可能性 |
| 共有取得者 | 持分ごとに要件を判定する |
質疑応答事例では、配偶者以外の親族が取得した宅地等が特定居住用宅地等に該当するためには、相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を有している必要があるとされています。申告期限までに一部を譲渡した場合、その譲渡部分は特定居住用宅地等に該当しません。一方、配偶者についてはこの継続保有要件がないため、申告期限までに譲渡した部分も含めて特定居住用宅地等に該当するとされています。
出典:国税庁|相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(民法(相続法)改正関係)について(情報)
配偶者居住権を設定した相続では、所有者と居住者が分かれるため、申告期限までの事実関係が複雑になりがちです。
申告期限までに、誰が住んでいるのか、誰が所有しているのか、一部を売却していないか、建替えや賃貸に出していないか。こうした点を、その都度確認しておく必要があります。
二次相続では、配偶者居住権は消滅する
配偶者居住権は、配偶者の死亡によって消滅します。配偶者から子などへ「相続される権利」ではありません。
この性質は、二次相続を考えるうえで非常に重要です。
質疑応答事例では、配偶者居住権者である配偶者が死亡した場合の取扱いが示されています。配偶者は居住建物や土地を所有しておらず、相続を原因として移転する財産がないため、相続税の課税関係は生じず、小規模宅地等の特例の対象となる財産もないと整理されています。配偶者居住権は民法の規定によって消滅するものであり、配偶者から居住建物の所有者へ相続を原因として移転する財産はない、という考え方です。
出典:国税庁|相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(民法(相続法)改正関係)について(情報)
こうした点から、配偶者居住権は二次相続対策として注目されることがあります。
ただし、「二次相続で消えるから有利」と短絡的に考えるのは危険です。
配偶者が配偶者居住権だけでなく、預貯金、土地持分、建物持分、有価証券などをどれだけ取得するかによって、二次相続の課税財産は変わってきます。また、子が所有者になる場合には、配偶者が存命中は売却や建替えに制約が生じます。
二次相続では、次のような比較が欠かせません。
| 比較する分割案 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 配偶者が自宅所有権を取得 | 一次相続は安定しやすいが、二次相続で自宅が課税財産に残る |
| 子が所有権、配偶者が居住権を取得 | 配偶者の住まいを守りつつ、所有権を次世代へ移せるが、子の管理負担が生じる |
| 自宅を共有にする | 税額調整はしやすいことがあるが、将来の売却・建替え・相続で共有リスクが残る |
| 配偶者に金融資産を多く渡す | 生活資金は確保しやすいが、二次相続の財産額が増える |
| 子に不動産を集中させる | 不動産管理は明確になるが、他の相続人への代償金・公平感が問題になる |
配偶者居住権は、税額を下げるための道具というより、生活保障と所有権承継を切り分けるための制度です。その結果として、相続税評価や二次相続の課税財産に影響が及ぶ、という順序で理解しておくのがよいでしょう。
申告期限後に配偶者居住権が設定される場合
相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらず、配偶者居住権の設定が申告期限後になることもあります。
この場合でも、相続税申告を待てるわけではありません。未分割のまま、法定相続分等によって申告・納税する必要があります。
質疑応答事例では、相続税の申告期限までに配偶者居住権を設定しようとする建物や敷地等が未分割である場合の取扱いが示されています。未分割財産については法定相続分に従って取得したものとして課税価格を計算し、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告書を提出する必要があります。その後、分割によって配偶者居住権が設定され、課税価格等が変わる場合には、修正申告や更正の請求の問題となります。
出典:国税庁|相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(民法(相続法)改正関係)について(情報)
小規模宅地等の特例についても、未分割のままでは原則として適用対象になりません。
ただし、相続税申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出し、申告期限から3年以内に分割が行われ、配偶者居住権に基づく敷地利用権または敷地所有権を取得した場合には、これらについて特例の適用を受けられる可能性があります。税額が過大となった場合には、分割日の翌日から4か月以内に更正の請求を行うことになります。
出典:国税庁|相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(民法(相続法)改正関係)について(情報)
未分割の場合の実務整理は、次のとおりです。
| 状況 | 実務対応 |
|---|---|
| 申告期限までに分割成立 | 配偶者居住権等を評価し、小規模宅地等を検討 |
| 申告期限までに未分割 | 法定相続分等で期限内申告・納税 |
| 後日3年以内に分割 | 分割後に更正の請求等で特例適用を検討 |
| 3年以内に分割できない | 訴訟等のやむを得ない事由があるか、承認申請を検討 |
| 分割見込書の添付漏れ | 後日の特例適用に支障が生じる可能性 |
配偶者居住権を使う場合には、遺産分割の合意形成だけでなく、相続税の申告期限から逆算した資料整理が欠かせません。
賃貸併用住宅・店舗併用住宅では、利用部分の整理が必要
配偶者居住権が設定される建物は、純粋な自宅だけとは限りません。
たとえば、1階が店舗で2階が自宅である建物。一部を賃貸している建物。二世帯住宅。親族が一部を無償で使っているケース。さらには、相続開始時と申告期限時とで利用状況が変わっているケースもあります。
このような場合には、建物全体の敷地を一括して「自宅敷地」と扱うことはできません。居住用、事業用、貸付用といった利用区分ごとに整理する必要があります。
| 利用状況 | 確認すること |
|---|---|
| 店舗併用住宅 | 居住部分と事業部分の床面積・利用実態 |
| 賃貸併用住宅 | 賃貸部分、空室、一時的空室、賃貸借契約 |
| 二世帯住宅 | 区分所有登記の有無、同居親族の判定 |
| 一部を無償使用 | 使用貸借の有無、相続税評価上の取扱い |
| 相続後に用途変更 | 申告期限までの継続要件への影響 |
| 配偶者が建物の一部を貸付 | 誰の貸付事業用宅地等といえるか |
特に貸付部分がある場合には、配偶者居住権に基づいて配偶者が建物を貸し付けているのか、所有者側の貸付事業なのかによって、小規模宅地等の区分が変わる可能性があります。
質疑応答事例でも、配偶者居住権に基づき貸付事業の用に供されていた部分について、敷地所有権を取得した者の貸付事業用宅地等の要件を満たさないと整理される場面が示されています。
出典:国税庁|相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(民法(相続法)改正関係)について(情報)
配偶者居住権が絡む場合には、「誰が権利を持つか」と「誰の居住・事業・貸付に使われているか」を分けて確認することが欠かせません。
使用貸借の土地では、そもそも敷地利用権の価値が問題になる
被相続人が自宅建物を所有していても、その敷地までは所有していないことがあります。
たとえば、親族から土地を無償で借り、その上に被相続人が建物を建てて住んでいたようなケースです。
この場合、配偶者が配偶者居住権を取得したとしても、相続によって土地や、土地の上に存する有価値の権利を取得したとはいえない場面が出てきます。
質疑応答事例では、被相続人が使用貸借により土地を使用しており、自ら土地を所有していない場合の取扱いが示されています。配偶者は相続によって宅地等を取得していないため、小規模宅地等の特例の対象となる財産はないと整理されています。また、使用貸借に基づく敷地利用権の価額についても、零になるものと解されています。
出典:国税庁|相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(民法(相続法)改正関係)について(情報)
つまり、配偶者居住権があるからといって、必ずしも敷地利用権に小規模宅地等の特例が使えるわけではないのです。
土地の所有者は誰か、借地権はあるのか、使用貸借か賃貸借か、借地権価額があるのか。こうした点を一つずつ確認する必要があります。
評価単位は、敷地利用権と敷地所有権で整合させる
配偶者居住権が設定された土地では、評価単位の取り方も重要になります。
複数筆の土地にまたがって建物が建っている場合、敷地利用権の取得者は配偶者1人でも、敷地所有権は複数人が取得することがあります。このとき、敷地利用権だけを一体で評価し、敷地所有権を取得者ごとに別評価してしまうと、敷地利用権と敷地所有権の合計が土地全体の評価と整合しなくなる可能性があります。
そのため、敷地利用権の評価単位は、評価額の計算の基礎となる居住建物の敷地の評価単位と整合させて判定する必要があります。敷地利用権の取得者が配偶者だけであっても、評価単位が必ず一つになるとは限りません。
この点は、小規模宅地等の面積調整にも影響します。
評価単位を誤ると、敷地利用権と敷地所有権の価額割合、面積按分、限度面積の判定、特例選択の順序まで変わってしまうおそれがあります。
配偶者居住権を使うかどうかの判断手順
配偶者居住権は、制度として使えるかどうかだけでなく、使うべきかどうかまで検討する必要があります。
実務では、次の順序で整理していきます。
1. 配偶者の生活保障を確認する
まず、配偶者が住み続けたいのか、将来の施設入所や売却の可能性があるのか、生活資金をどれだけ確保すべきかを確認します。
配偶者が高齢で、将来の介護費用や住替えの可能性がある場合には、自宅に住む権利だけでは十分でないこともあります。
2. 自宅の所有権を誰に承継させるかを決める
子に所有権を承継させる場合、子は固定資産税、修繕、保険に加え、将来の売却や建替えの制約まで引き受けることになります。
共有にすると、各相続人の納得を得やすい場面もあります。しかし次世代で共有者が増えれば、管理・売却が難しくなることがあります。
3. 配偶者居住権等の評価額を試算する
配偶者居住権や敷地利用権の評価額は、建物の相続税評価額、耐用年数、経過年数、存続年数、複利現価率、土地の評価額などによって変わります。
相続税または贈与税の申告では、配偶者居住権等の評価明細書を作成し、申告書に添付します。この明細書は、配偶者居住権、居住建物、敷地利用権、居住建物の敷地を評価するために使用するものです。
4. 小規模宅地等の適用対象を権利ごとに整理する
敷地利用権、敷地所有権、他の居住用宅地、事業用宅地、貸付事業用宅地等を並べたうえで、どの宅地等について特例を選択するかを検討します。
限度面積調整後の1㎡当たり減額が大きい宅地から選べばよい、とは限りません。配偶者の税額軽減、二次相続、納税資金まで含めると、最終的な有利不利が変わってくるからです。
5. 遺言・遺産分割・登記を整える
配偶者居住権は、遺産分割や遺贈などによって設定されます。生前から予定する場合には、遺言で明確にしておくことが実務上重要になります。
また、配偶者居住権は登記との関係も見逃せません。第三者に対抗するためには、登記の要否や手続を司法書士等と確認しておく必要があります。
6. 二次相続と将来処分を確認する
配偶者の死亡によって配偶者居住権は消滅しますが、所有者である子が先に亡くなる場合には、子の相続で敷地所有権や建物所有権が問題になります。
また、配偶者が存命中に売却や建替えを検討する場合、配偶者居住権が制約となります。将来の資産処分の可能性を考えずに設定してしまうと、家族全員が動きにくくなることもあります。
相談前に整理しておきたい資料
配偶者居住権と小規模宅地等の特例を検討する場合、次の資料を準備しておくと論点整理がスムーズに進みます。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 戸籍・法定相続情報 | 相続人、配偶者、子、代襲相続の有無 |
| 遺言書 | 配偶者居住権の遺贈、所有権の帰属 |
| 遺産分割協議案 | 配偶者居住権、建物所有権、敷地所有権の取得者 |
| 登記事項証明書 | 土地・建物の所有者、共有持分、区分所有登記 |
| 固定資産税課税明細書 | 土地・建物の評価、地番、家屋番号 |
| 公図・地積測量図 | 複数筆、一体利用、評価単位 |
| 住民票・戸籍附票 | 被相続人、配偶者、同居親族の居住実態 |
| 建物図面・間取り | 居住部分、賃貸部分、事業部分の区分 |
| 賃貸借契約書 | 賃貸併用住宅、貸付部分の有無 |
| 介護施設資料 | 老人ホーム入所等がある場合の居住用判定 |
| 土地評価資料 | 路線価、倍率、評価単位、補正 |
| 配偶者居住権等の評価資料 | 耐用年数、経過年数、存続年数、複利現価率 |
| 小規模宅地等の計算明細 | 敷地利用権・敷地所有権の面積調整 |
| 納税資金資料 | 預貯金、保険金、売却可能資産 |
| 二次相続試算資料 | 配偶者が取得する財産、将来の課税財産 |
資料がそろっていない段階で、「配偶者居住権を使えば有利です」と判断してしまうのは危険です。
特に、建物と土地の所有者が異なる場合、共有持分がある場合、賃貸部分がある場合、二世帯住宅の場合には、評価と特例判定の両方が難しくなります。
避けたい短絡的な判断
配偶者居住権と小規模宅地等の特例をめぐっては、次のような判断は避けたいところです。
| 避けたい判断 | なぜ危険か |
|---|---|
| 配偶者居住権を設定すれば必ず節税になる | 評価額、配偶者軽減、二次相続、所有者の負担で結果が変わる |
| 配偶者居住権そのものに小規模宅地等を使う | 対象は敷地利用権や敷地所有権であり、権利の整理が必要 |
| 土地全体の面積をそのまま330㎡判定に使う | 価額割合による面積調整が必要 |
| 子が所有者になれば自動的に特例対象になる | 同居、居住継続、保有継続、家なき子要件などを確認する必要がある |
| 二次相続だけを見て配偶者居住権を選ぶ | 配偶者の生活資金、介護、売却、建替えの選択肢を狭める可能性がある |
| 遺言なしで相続発生後に決めればよい | 申告期限、合意形成、登記、評価資料の整備が遅れる |
| 共有でとりあえず解決する | 次世代で共有者が増え、管理・売却・修繕で対立しやすい |
| 賃貸併用住宅を一律に自宅敷地と扱う | 利用区分、床面積、貸付主体ごとの判定が必要 |
配偶者居住権は、配偶者の生活保障に役立つ制度です。しかし、相続税上の扱いは決して単純ではありません。
小規模宅地等の特例と組み合わせる場合には、法務上の権利設計、相続税評価、特例適用、申告期限、二次相続までを一体で確認することが求められます。
まとめ|配偶者居住権は「住まいを守る制度」であり、税務上は敷地利用権の整理が核心になる
配偶者居住権は、残された配偶者が住み慣れた自宅に住み続けるための有効な選択肢です。
ただし、小規模宅地等の特例との関係では、配偶者居住権そのものではなく、敷地利用権と敷地所有権が論点になります。相続税評価では、建物と土地を4つの権利に分解し、敷地利用権と敷地所有権の価額割合に応じて面積を調整していきます。
さらに、配偶者が取得するのか、同居親族が取得するのか、別居親族が取得するのかによって、特定居住用宅地等の要件判定が変わります。二次相続では配偶者居住権が消滅するため、相続税の課税関係は生じないと整理される一方で、配偶者が他にどの財産を取得するかによって、全体の税負担は変わってきます。
配偶者居住権は、単なる節税策ではありません。
配偶者の生活、子の所有権、遺産分割の公平、遺留分、納税資金、二次相続、そして将来の売却まで含めて、使うべきかどうかを判断するための制度です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、配偶者居住権を設定した場合の相続税評価、小規模宅地等の特例、敷地利用権・敷地所有権の面積調整、二次相続への影響までを整理したうえで、申告後にもご説明できる判断材料を整えます。配偶者の住まいを守りながら、相続税申告や遺産分割をどう進めるべきか悩んでいる場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 項目 | 振り返り |
|---|---|
| 配偶者居住権 | 配偶者が居住建物を無償で使用・収益できる権利 |
| 制度の目的 | 配偶者の居住保障と生活資金確保を両立しやすくすること |
| 評価の分解 | 建物は配偶者居住権と建物所有権、土地は敷地利用権と敷地所有権に分ける |
| 小規模宅地等の対象 | 配偶者居住権そのものではなく、敷地利用権・敷地所有権が対象になり得る |
| 敷地利用権 | 配偶者居住権に基づき居住建物の敷地を使用する権利 |
| 面積調整 | 敷地利用権と敷地所有権の価額割合で面積を按分する |
| 配偶者取得分 | 配偶者が取得する敷地利用権は特定居住用宅地等として検討しやすい |
| 子の取得分 | 同居・居住継続・保有継続など取得者要件を確認する |
| 別居親族 | 家なき子要件などを満たさなければ適用できない可能性がある |
| 二次相続 | 配偶者居住権は配偶者死亡により消滅し、配偶者から移転する財産はない |
| 未分割 | 申告期限まで未分割なら、分割見込書や更正の請求の管理が必要 |
| 賃貸併用 | 居住用・事業用・貸付用を区分し、誰の利用かを確認する |
| 使用貸借 | 土地を所有していない場合、特例対象となる宅地等を取得していない可能性がある |
| 評価単位 | 敷地利用権と敷地所有権の評価単位を整合させる必要がある |
| 判断軸 | 税額だけでなく、配偶者の生活、子の負担、二次相続、将来処分まで比較する |