「相続人がいないと、財産はすぐ国に取られてしまうのでしょうか」 「長年世話をしてくれた人に財産を渡したいけれど、遺言がなくても何とかなりますか」 「相続人がいないなら、相続税の心配はいらないのですよね」
相続人不存在に関するご相談では、こうした誤解をお持ちのまま来られる方が少なくありません。
結論から申し上げると、相続人がいない場合でも、財産がそのまま国庫へ移るわけではありません。実際には、戸籍などによる相続人の調査に始まり、相続財産清算人の選任、債権者や受遺者への弁済、特別縁故者への財産分与の可能性を経て、それでも残った財産が国庫に帰属する、という順序をたどります。
そして、相続人がいない場合ほど、遺言の有無が財産の行き先を大きく左右します。生前に意思を残しておかなければ、内縁の配偶者、長年介護をしてくれた方、親しい友人、支援したい公益法人などが、当然に財産を受け取れるわけではないからです。
この記事では、相続人不存在、相続財産清算人、特別縁故者、国庫帰属、遺贈、そして公益法人等への遺贈・寄附の税務までを、相続税申告の実務とつなげながら整理していきます。
まず押さえておきたい結論
| 論点 | 実務上の結論 |
|---|---|
| 相続人がいない場合 | 財産は直ちに国庫へ行くのではなく、家庭裁判所で相続財産清算人が選任される |
| 相続財産清算人 | 債権者・受遺者への弁済、財産管理、換価、特別縁故者への分与、国庫引継ぎを担う |
| 特別縁故者 | 生計同一、療養看護、その他特別の縁故がある者が、家庭裁判所に申立てできる |
| 申立期限 | 相続人捜索公告期間満了後3か月以内 |
| 国庫帰属 | 債権者・受遺者への弁済、特別縁故者への分与後に残った財産が対象 |
| 遺言の役割 | 相続人がいない場合でも、特定の個人・法人・公益法人等へ財産を承継させる重要な手段 |
| 税務 | 特別縁故者への分与は相続税法上、遺贈により取得したものとみなされる |
| 公益法人等への遺贈 | 相続税だけでなく、法人税、みなし譲渡所得税、租税特別措置法40条の承認が問題になる |
「相続人がいない=税務も手続も簡単」という受け止め方には、注意が必要です。むしろ、相続人がいる通常の遺産分割よりも、家庭裁判所の手続、公告、財産管理、換価、債務弁済、税務申告と、判断すべき論点が複雑になりやすい分野だといえます。
相続人不存在とは何か
相続人不存在とは、法律上、相続人の存在が明らかでない状態を指します。
ここでいう「相続人がいない」とは、単に身近な家族がいないという意味ではありません。配偶者、子や孫などの直系卑属、父母・祖父母などの直系尊属、兄弟姉妹や甥姪まで、民法上の相続人となり得る人をひととおり確認したうえで、なお相続人が存在しない場合、あるいは相続人全員が相続放棄をした結果、相続する人がいなくなった場合を指します。
| よくある誤解 | 実務上の整理 |
|---|---|
| 配偶者も子もいないから相続人はいない | 父母、祖父母、兄弟姉妹、甥姪まで確認が必要 |
| 兄弟姉妹と疎遠だから相続人ではない | 疎遠であっても法定相続人であれば相続人 |
| 相続人全員が放棄したら財産はすぐ国へ行く | 相続財産清算人による清算手続が必要 |
| 内縁の配偶者は当然に相続できる | 法定相続人ではないため、遺言または特別縁故者の手続が問題 |
| 長年介護した人は相続人と同じ扱いになる | 相続人ではなく、特別縁故者として分与申立てを検討する立場 |
相続税申告の準備においても、出発点は変わりません。相続税の申告にあたっては、相続人の確認、遺言書の有無、遺産と債務の確認、遺産の評価、分割といった作業が必要になります。とりわけ相続人不存在の場面では、「相続人の確認」と「遺言書の有無」が、すべての判断の起点になります。
出典:国税庁|No.4202 相続税の申告のために必要な準備
相続財産法人と相続財産清算人
相続人の存在・不存在が明らかでない場合、相続財産は、相続人が確定するまでの間、独立した管理対象として扱われます。現在の実務では、この清算を担う人を「相続財産清算人」と呼びます。
古い資料や過去の実務では「相続財産管理人」と記されていることもありますが、現在の裁判所の案内では「相続財産清算人」という名称が用いられています。
相続人の存在・不存在が明らかでないとき、家庭裁判所は、申立てによって相続財産清算人を選任します。これは、相続人全員が相続放棄をして相続する人がいなくなった場合も同様です。選任された相続財産清算人は、被相続人の債務を支払うなどして清算を行い、清算後に残った財産を国庫に帰属させます。その過程で、特別縁故者への財産分与がなされることもあります。
申立てができるのは、主に利害関係人と検察官です。利害関係人には、被相続人の債権者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者などが含まれます。申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
相続財産清算人が選任された後の流れ
相続財産清算人が選任されると、おおむね次のような流れで手続が進みます。
| 段階 | 内容 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 1 | 相続財産清算人の選任公告・相続人捜索公告 | 相続人を捜す公告期間は6か月以上 |
| 2 | 債権者・受遺者への公告 | 債務や遺贈の有無を確認する |
| 3 | 相続人不存在の確定 | 公告期間内に相続人が現れなければ次段階へ進む |
| 4 | 特別縁故者の分与申立て | 公告期間満了後3か月以内 |
| 5 | 財産の換価・弁済・分与 | 不動産や株式は家庭裁判所の許可を得て売却されることがある |
| 6 | 残余財産の国庫引継ぎ | 清算後も残った財産が国庫へ帰属 |
相続財産清算人の選任後は、相続人を捜す公告、債権者・受遺者を確認するための公告、特別縁故者への分与申立て、不動産・株式等の売却、債権者・受遺者への支払、特別縁故者への分与、そして残余財産の国庫引継ぎへと進んでいきます。
この一連の手続は、相続税申告のためだけの制度ではありません。債務の清算、受遺者の保護、特別縁故者の救済、そして残余財産の帰属先の確定という、法務上の手続です。
もっとも、財産を取得する人が現れれば、その取得者に相続税・所得税・法人税などの問題が生じます。したがって、税務判断と切り離して進めることはできない、という点には注意が必要です。
特別縁故者とは何か
特別縁故者とは、法定相続人ではないものの、被相続人と特別の縁故があった人を指します。
特別縁故者への相続財産分与は、相続財産清算人が債務を支払うなどして清算を行った後、家庭裁判所が相当と認めるときに行われます。具体的には、被相続人と特別の縁故のあった者の請求により、清算後に残った相続財産の全部または一部を分与できる、という仕組みです。申立人としては、被相続人と生計を同じくしていた者、療養看護に努めた者、その他特別の縁故があった者が想定されています。
特別縁故者に該当し得る典型例
| 類型 | 具体例 | 説明資料として重要なもの |
|---|---|---|
| 生計を同じくしていた者 | 内縁の配偶者、事実上の家族 | 同居資料、家計負担、住民票、生活費の支払記録 |
| 療養看護に努めた者 | 長年介護した親族以外の人、支援者 | 介護記録、通院同行記録、施設との連絡記録、費用負担 |
| その他特別の縁故があった者 | 親しい友人、後見的支援者、法人・団体等 | 交流記録、支援内容、被相続人の意思を示す資料 |
| 法人・団体 | 生活支援をしていた施設、宗教法人、福祉法人等 | 支援契約、施設利用記録、関係性を示す資料 |
特別縁故者の制度は、「親しかった人に当然に財産を渡す制度」ではありません。家庭裁判所が、被相続人との関係、支援の内容や期間、財産の状況、他の利害関係人の有無などを総合的に見たうえで、分与の相当性と分与額を判断します。
申立期間にも気をつけたいところです。特別縁故者の分与申立ては、相続人を捜索するための公告で定められた期間が満了した後、3か月以内とされています。
「相続人はいないはずだから、いずれ落ち着いてから申し立てればよい」と考えていると、この申立期間を逃してしまうおそれがあります。官報公告の確認、相続財産清算人への照会、必要資料の準備は、できるだけ早めに進めておくことが大切です。
国庫帰属は「最後の帰属先」であって、最初の手続ではない
相続人不存在の場合に最終的に残った財産は、国庫に帰属します。
ただし、ここでいう国庫帰属は、相続財産清算人が債務の支払、受遺者への弁済、特別縁故者への分与などを終えたうえで、なお残った財産の帰属先を定めるものです。相続開始と同時に、国がすべてを取得するわけではありません。
相続人不存在の財産は、最終的には国庫に帰属します。一方で、被相続人と特別の縁故がある人については、申立てによって財産分与が認められることがある、という点も併せて理解しておきたいところです。
なお、近年話題になっている「相続土地国庫帰属制度」と、相続人不存在による残余財産の国庫帰属は、別の制度です。相続土地国庫帰属制度は、相続または遺贈により土地を取得した相続人が、一定の要件を満たす土地について国庫帰属の承認を申請できる仕組みであり、相続人不存在の清算手続とは、対象となる人も手続も異なります。
さらに、共有持分については、民法255条により他の共有者への帰属が問題となる場合があり、国庫帰属と単純には整理できない場面があります。共有者の一人が死亡して相続人がいない場合、その共有持分を他の共有者が遺贈により取得したものとして相続税が課税される取扱いが示されています。申告期限についても、特別縁故者の財産分与請求の有無に応じた考え方が示されています。
出典:国税庁|民法第255条の規定により共有持分を取得した場合の相続税の課税関係
相続人がいない場合こそ、遺言の有無が重要になる
相続人がいない場合でも、遺言があれば、財産を望む相手へ承継させることができます。
遺言がなければ、相続財産清算人による清算、特別縁故者の申立て、国庫帰属という流れをたどります。これに対して遺言があれば、被相続人の意思に基づき、特定の個人や内縁の配偶者、親族以外の支援者、公益法人、学校法人、社会福祉法人、一般社団法人・一般財団法人などへ、財産を承継させることが可能になります。
相続人がいない場合に検討される遺言の形は、主に次のとおりです。
| 遺言の内容 | 想定される場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 特定遺贈 | 特定の不動産、預金、株式を特定の人に渡す | 残余財産や債務処理を別途整理 |
| 包括遺贈 | 全財産または割合で財産を渡す | 包括受遺者は相続人に近い地位を持ち、債務承継にも注意 |
| 清算型遺贈 | 財産を売却し、換価代金を分配 | 譲渡所得税、換価費用、遺言執行者の権限が重要 |
| 公益法人等への遺贈 | 財産を社会貢献に使いたい | 法人税、みなし譲渡所得税、租税特別措置法40条の承認を確認 |
| 一般財団法人の設立 | 自分の財産で財団を作りたい | 定款記載事項、遺言執行者、設立登記、税務区分を設計 |
| 予備的遺言 | 受遺者が先に死亡する場合に備える | 財産の行き先が空白にならないようにする |
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有します。そのため、相続財産全部の包括受遺者がいる場合には、たとえ相続人が存在しないときであっても、相続財産法人による清算手続を当然には要しない、と整理される場面があります。相続人不存在の事案では、包括遺贈の有無が手続全体に影響するのです。
ただし、遺言を作成すればすべてが解決するわけではありません。不動産があれば、登記、売却、固定資産税、管理費用が問題になります。非上場株式があれば、会社法上の株主構成、株式評価、自己株式取得、議決権の承継を考えなければなりません。法人や公益法人へ遺贈する場合には、相続税だけでなく、所得税や法人税まで視野に入れる必要があります。
特別縁故者への財産分与と相続税
特別縁故者が家庭裁判所の審判によって財産分与を受けた場合、その財産は相続税法上、遺贈により取得したものとみなされます。
特別縁故者への相続財産分与は、相続財産清算人の選任、公告、債権者・受遺者への公告、特別縁故者の分与請求という段階を経て行われます。そのため、相続開始からかなりの期間を経たうえで分与に至る点に、留意が必要です。また、分与を受ける者には、個人だけでなく、一定の社団・財団・法人も含まれると整理されています。
税務上、特に注意したい点は次のとおりです。
| 税務論点 | 内容 |
|---|---|
| 課税原因 | 相続税法上、遺贈により取得したものとみなされる |
| 評価 | 与えられた時における時価または相続税法上の評価規定により評価 |
| 申告期限 | 財産分与があったことを知った日の翌日から10か月以内が問題になる |
| 2割加算 | 配偶者・一親等血族等でないため、原則として2割加算の対象になりやすい |
| 基礎控除 | 相続人がいない場合、法定相続人の数は0人として基礎控除は3,000万円となる整理 |
| 小規模宅地等 | 相続人・親族要件等を満たさず適用できない場面が多い |
| 納税資金 | 不動産分与を受ける場合、現金納付資金を別途確保する必要がある |
相続人不存在の場合の基礎控除は、法定相続人の数を0人として3,000万円となる点を前提に、相続税額を検討します。特別縁故者や受遺者が財産を取得するときでも、相続人がいないことによって基礎控除額が大きくなるわけではない、という点には十分な注意が必要です。
また、相続または遺贈により財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族および配偶者以外であるときは、相続税額に2割加算が行われます。特別縁故者や第三者である受遺者は、この2割加算の対象となることが多いため、取得した財産の価額だけで納税額を見積もらないことが大切です。
遺贈を受ける相手が個人か法人かで、税務は大きく変わる
相続人がいない場合に遺言を作成するとき、財産の行き先として、個人だけでなく法人が候補になることがあります。
ただし、遺贈先が個人なのか法人なのか、また法人の種類が普通法人なのか公益法人等なのかによって、課税関係は大きく変わってきます。
| 受遺者 | 主な課税関係 |
|---|---|
| 個人 | 相続税の対象。配偶者・一親等血族等以外は2割加算に注意 |
| 普通法人 | 原則として相続税の納税義務者ではないが、受贈益として法人税が問題 |
| 持分の定めのない法人 | 原則として相続税の納税義務者ではないが、相続税負担の不当減少があると個人とみなされる場合がある |
| 公益法人等 | 法人税は収益事業課税が基本。遺贈財産の取得そのものは収益事業に当たらない整理が多い |
| 一般社団法人・一般財団法人 | 非営利型か否かで法人税の取扱いが異なる |
| 特定の公益法人等 | 相続税非課税特例や租税特別措置法40条の検討が必要 |
法人に財産を遺贈した場合、その法人は相続税の納税義務者である「個人」には該当しないため、原則として相続税はかかりません。とはいえ、普通法人では受贈益として法人税が課されますし、法人の株価上昇を通じた株主へのみなし遺贈や、持分の定めのない法人への遺贈に関する相続税法66条4項の問題も、検討の対象になります。
特に注意したいのが、不動産や有価証券のように、譲渡所得の基因となる資産を法人へ遺贈する場合です。このときは、被相続人が相続開始時に時価で譲渡したものとみなされ、準確定申告で譲渡所得税が問題になることがあります。公益法人等への遺贈であっても、租税特別措置法40条の非課税承認を受けなければ、みなし譲渡所得税が残る可能性があります。
公益法人等への遺贈・寄附は「公益だから税金がかからない」とは限らない
財産を公益法人や学校法人、社会福祉法人、認定NPO法人などに残したい、というご相談は増えています。相続人がいない方にとって、遺産を社会のために役立てる選択肢は、大切な意味を持ちます。
ただし、公益法人等への遺贈・寄附は、税務上の確認を怠ると、思いがけない負担が生じることがあります。
相続や遺贈によって取得した財産を、相続税の申告期限までに国、地方公共団体、特定の公益法人、認定NPO法人などへ寄附した場合、その寄附財産を相続税の対象としない特例があります。もっとも、この特例には、寄附先の範囲、寄附期限、添付書類、適用除外事由が定められている点に注意が必要です。
出典:国税庁|No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき
また、公益法人等に対する財産の寄附、すなわち贈与または遺贈について、譲渡所得等の非課税承認を受けるには、国税庁長官の承認手続が必要になります。遺贈の場合や、承認申請の前に寄附者が死亡している場合には、寄附者の相続人および包括受遺者が手続の対象者になる、と案内されています。
出典:国税庁|A4-12 租税特別措置法第40条の規定による承認申請(公益法人等用)
公益法人等への遺贈にあたっては、次の点を確認しておきたいところです。
| 確認事項 | 理由 |
|---|---|
| 遺贈先が特定の公益法人等に該当するか | 相続税非課税特例や法人税取扱いに影響 |
| 遺贈する財産が金銭か不動産・株式か | みなし譲渡所得税の有無に影響 |
| 租税特別措置法40条の承認対象になるか | 譲渡所得税非課税の可否に影響 |
| 遺言執行者を指定するか | 換価、寄附、承認申請、清算手続の実行性に影響 |
| 公益目的事業に使用されるか | 承認・特例適用の要件に影響 |
| 親族等への特別利益がないか | 相続税・贈与税負担の不当減少に該当し得る |
| 法人の税務区分 | 公益法人等、非営利型法人、普通法人で法人税が異なる |
「公益法人だから安心」「法人だから相続税は関係ない」という単純な判断では、十分とはいえません。遺言を作成する時点で、遺贈先の法人区分、遺贈財産の種類、譲渡所得税の有無、承認申請の要否、そして遺言執行者の権限まで確認しておくことが大切です。
相続人不存在の場合の相続税申告で見落としやすい点
相続人不存在の事案では、通常の相続税申告とは異なるかたちで、見落としが生じやすくなります。
1 法定相続人の数が0人になる
相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。相続人が不存在の場合、法定相続人の数は0人として考えるため、基礎控除額は3,000万円です。相続人がいないから相続税もない、ということにはなりません。
2 第三者が財産を取得すると2割加算になりやすい
特別縁故者、内縁の配偶者、友人、法人関係者などが財産を取得する場合、配偶者や一親等血族には該当しないため、相続税額の2割加算が問題になります。
3 申告期限の起算点が通常と異なることがある
一般の相続では、相続税の申告期限は、原則として、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内です。
出典:国税庁|No.4202 相続税の申告のために必要な準備
一方、特別縁故者が後日に財産分与を受けた場合や、共有持分が他の共有者に帰属する場合には、通常の死亡日基準だけでは判断できない場面があります。共有持分の取得については、特別縁故者による財産分与請求がない場合にはその請求期限満了日の翌日から10か月以内、請求がある場合には分与額または分与しないことの決定が確定したことを知った日の翌日から10か月以内、という考え方が示されています。
出典:国税庁|民法第255条の規定により共有持分を取得した場合の相続税の課税関係
4 不動産・非上場株式は納税資金と管理が問題になる
特別縁故者や受遺者が不動産を取得しても、相続税は原則として金銭での納付です。不動産を取得しただけでは、納税資金は確保されません。空き家、山林、農地、借地権、共有持分、非上場株式などが含まれる場合には、評価額と換金可能性が一致しないことがある点にも、注意が必要です。
5 法人への遺贈では所得税・法人税を忘れやすい
個人への遺贈であれば相続税が中心になりますが、法人への遺贈では、法人税、みなし譲渡所得税、株主へのみなし遺贈、相続税法66条4項などが問題になります。公益法人等であっても、租税特別措置法40条の承認を受けるかどうかによって、税負担は変わってきます。
生前に整理しておきたいこと
相続人がいない、あるいは相続人が極めて遠縁・疎遠であるという場合には、相続発生後の手続に任せきりにするのではなく、生前の整理がとても重要になります。
| 生前に整理すること | 理由 |
|---|---|
| 法定相続人の有無 | 戸籍を確認しなければ、本当に相続人不存在か判断できない |
| 遺言書の作成 | 財産の行き先を明確にできる |
| 遺言執行者の指定 | 預貯金、不動産、有価証券、法人への遺贈を実行しやすくする |
| 予備的遺言 | 受遺者が先に死亡した場合に備える |
| 特別縁故者になり得る人との関係資料 | 遺言がない場合の分与申立てに備える |
| 不動産の管理・売却方針 | 空き家、山林、共有持分の放置を防ぐ |
| 公益法人等への事前確認 | 受入可否、受入条件、税務手続を確認 |
| 債務・保証関係 | 清算手続や受遺者の負担に影響 |
| 生命保険の受取人 | 相続人以外を受取人にできるか、非課税枠や2割加算を確認 |
| 死後事務委任・任意後見等 | 葬儀、納骨、住居整理、施設費用などの実務に備える |
特に、内縁の配偶者、事実上の養子、長年介護をしてくれた方、支援したい団体がいる場合には、特別縁故者制度に期待するよりも、遺言による承継を検討するほうが、意思の実現可能性は高まります。
もっとも、遺言を残しさえすればよい、というわけでもありません。財産評価、債務、譲渡所得税、法人税、遺言執行、登記、納税資金といった点を見落とすと、財産を受け取る側に負担を残すことになります。相続人不存在への備えでは、「誰に渡すか」だけでなく、「どう実行し、どの税金を誰が負担するか」というところまで設計しておくことが大切です。
相談前に準備しておきたい資料
相続人不存在や特別縁故者、公益法人等への遺贈についてご相談いただく際には、次の資料を整理しておくと、判断がスムーズに進みます。
| 分類 | 資料・情報 |
|---|---|
| 親族関係 | 戸籍、除籍、改製原戸籍、戸籍附票、親族関係図 |
| 遺言関係 | 公正証書遺言、自筆証書遺言、法務局保管制度の通知、過去の遺言 |
| 財産 | 預貯金、有価証券、不動産、保険、貸付金、非上場株式、事業用資産 |
| 不動産 | 登記事項証明書、固定資産税課税明細書、公図、測量図、賃貸借契約 |
| 債務 | 借入金、保証債務、未払税金、医療・介護費、施設費 |
| 特別縁故 | 同居資料、介護記録、支援記録、金銭負担、被相続人との交流資料 |
| 公益法人等 | 寄附先候補、受入方針、法人区分、公益認定・非営利型該当性 |
| 税務 | 過去の確定申告書、贈与履歴、取得費資料、不動産購入契約書 |
| 死後事務 | 葬儀、納骨、家財整理、ペット、施設退去、デジタル資産 |
| 連絡先 | 受遺者、支援者、施設、金融機関、顧問専門家 |
相続人不存在のご相談では、「財産を誰に渡したいか」だけでなく、「その人・法人が本当に受け取れるか」「受け取った後に、税金や管理の負担を負えるか」「後から経緯を説明できる資料が残っているか」といった点まで確認していきます。
まとめ:相続人がいない場合は、意思を残さなければ財産の行き先を選べない
相続人がいない場合でも、財産の行き先が自動的に望みどおりに決まるわけではありません。
遺言がなければ、相続財産清算人が選任され、債権者・受遺者への弁済、特別縁故者への分与の可能性、そして残余財産の国庫帰属という流れをたどります。特別縁故者として財産を取得するには、家庭裁判所への申立てと相当性の判断が必要であり、しかも期限があります。
一方で、遺言を活用すれば、内縁の配偶者、親族以外の支援者、公益法人などへ財産を承継させることができます。ただし、遺贈先が個人か法人か、財産が金銭か不動産・株式かによって、相続税、所得税、法人税の取扱いは大きく変わります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続人の有無の確認、遺言・遺贈の税務、特別縁故者への分与、相続財産清算人が関与する事案、公益法人等への遺贈・寄附、不動産や非上場株式の評価まで、法務と税務を分断することなく、論点を整理することを大切にしています。
「相続人がいない可能性がある」「内縁の配偶者や支援者に財産を残したい」「公益法人等へ遺贈したい」「相続人不存在の相続税申告や財産評価が不安だ」といった場合には、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。財産の行き先、税務負担、手続の実行可能性を整理し、後から説明できる承継の設計を、ご一緒に考えてまいります。
重要ポイントの振り返り
| 項目 | 重要ポイント |
|---|---|
| 相続人不存在 | 法定相続人がいない、または全員が相続放棄した結果、相続する人がいない状態 |
| 相続財産清算人 | 家庭裁判所が選任し、債務弁済、受遺者対応、財産管理、国庫引継ぎを行う |
| 特別縁故者 | 生計同一、療養看護、その他特別の縁故がある者が対象になり得る |
| 申立期限 | 相続人捜索公告期間満了後3か月以内 |
| 国庫帰属 | 債権者・受遺者への弁済、特別縁故者への分与後に残った財産が対象 |
| 遺言の役割 | 相続人がいない場合に、財産の行き先を本人の意思で決める中心手段 |
| 包括遺贈 | 包括受遺者は相続人に近い地位を持ち、債務承継や手続に注意 |
| 特別縁故者の税務 | 相続税法上、遺贈により取得したものとみなされる |
| 2割加算 | 配偶者・一親等血族等以外の取得者は対象になりやすい |
| 基礎控除 | 相続人不存在では、法定相続人の数0人として3,000万円が基本 |
| 法人への遺贈 | 法人税、みなし譲渡所得税、相続税法66条4項を確認 |
| 公益法人等への遺贈 | 相続税非課税特例、租税特別措置法40条承認、公益目的使用を確認 |
| 不動産・株式 | 評価額、換価可能性、納税資金、登記・名義変更まで確認 |
| 相談前整理 | 戸籍、財産資料、遺言、債務、特別縁故資料、寄附先情報を準備する |