不動産・株式・保険を贈与するときの注意点|財産別に税務リスク・管理負担・相続時の影響を整理

生前贈与を考えはじめたとき、多くの方がまず悩むのは「誰に、いくら渡すか」という点でしょう。

ただ、実務の現場では、それと同じくらい大切な問いがもう一つあります。

何を贈与するのか。

同じ1,000万円相当の贈与であっても、現金、不動産、上場株式、非上場株式、保険契約では、税務上の扱いも、評価の難しさも、その後に続く管理の負担も、まったく違ってきます。

たとえば不動産を贈与するなら、登記や登録免許税、不動産取得税、固定資産税に加え、賃貸管理や将来売却したときの譲渡所得まで視野に入れる必要があります。

上場株式は評価が比較的はっきりしていますが、株価の変動や取得費の引継ぎは確認しておかなければなりません。

非上場株式となると、評価額だけでなく、議決権や後継者、会社の支配、ほかの相続人との公平まで絡んできます。

保険契約も同様で、契約者の名義だけを見て判断すると、保険料の負担者、被保険者、受取人、契約者変更の履歴を見落とし、相続税・贈与税・所得税の判断を誤ることがあります。

贈与税の暦年課税では、その年に贈与を受けた財産の価額を合計し、そこから基礎控除額110万円を差し引いて税額を計算します。出典:国税庁|No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

もっとも、令和6年1月1日以後の暦年課税贈与については、相続税の課税価格に加算される対象期間が、一定の経過措置を経たうえで、相続開始前7年以内へと見直されています。出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

つまり、これからの贈与は「毎年110万円以内に収めれば十分」という単純な発想だけでは整理しきれません。財産の種類ごとに、評価、将来の相続税、家族の納得、管理の負担、売却したときの税金まで含めて判断していく必要があります。

目次

まず押さえたい結論

不動産・株式・保険を贈与するときは、贈与税額の多寡だけで比較してはいけません。少なくとも、次のように整理しておきたいところです。

贈与する財産主なメリットになり得る点注意すべき点
自宅・土地将来承継者を明確にできる登記・不動産取得税・小規模宅地等の特例喪失・共有化リスク
収益物件将来の賃料収入を受贈者へ移せる借入金、敷金、修繕、空室、所得税申告、管理能力
上場株式分けやすく評価資料も取りやすい株価変動、贈与日、取得費引継ぎ、将来売却益
非上場株式後継者への支配権承継に使える評価が難しい、議決権・遺留分・納税資金・会社法対応
保険契約納税資金・代償資金の設計に使える契約者名義より保険料負担者が重要、契約者変更履歴の確認が必要

相続対策は、相続税対策と同じではありません。相続争いの防止、納税資金の確保、税額の軽減を、ひとつながりのものとして考える必要があります。

とりわけ不動産や同族会社の株式のように、すぐには換金しにくい財産を贈与する場合は、税額が下がるかどうか以上に、誰が管理し、誰が納税し、ほかの相続人にどう説明するのかが大きな意味を持ちます。

財産を贈与する前に見るべき5つの判断軸

不動産・株式・保険のどれを贈与するかを考える前に、まず次の5つを確かめておきます。

判断軸確認すること
評価贈与税の評価額を合理的に算定できるか
相続時の影響暦年課税の加算、相続時精算課税、小規模宅地等への影響
管理受贈者が管理・納税・修繕・議決権行使を担えるか
公平他の相続人に説明できるか、遺留分や特別受益の問題がないか
将来処分売却時の取得費、譲渡所得、換金可能性を確認しているか

贈与は、実行した瞬間に完結するものではありません。相続税の申告のとき、税務調査のとき、ほかの相続人との遺産分割協議のとき、そして将来その財産を売却するとき。過去の贈与は、その都度かたちを変えて再び問われることになります。

不動産を贈与するときの注意点

不動産の贈与は、相続対策のなかでもとりわけ慎重な検討が求められます。

理由ははっきりしています。不動産は金額が大きく、評価が難しく、名義を移すだけでも税金と費用がかかり、贈与した後も管理の負担が続いていくからです。

不動産は「贈与税だけ」で判断しない

不動産を贈与すると、贈与税のほかにも、登録免許税、不動産取得税、司法書士報酬、固定資産税、都市計画税、火災保険、修繕費など、さまざまな費用が関わってきます。国税庁も、贈与によって土地や建物を取得したときには、地方税である不動産取得税がかかると説明しています。出典:国税庁|財産をもらったとき

さらに、相続で取得していれば使えたはずの特例を、生前贈与によって失ってしまうこともあります。

その代表が小規模宅地等の特例です。これは、相続や遺贈によって取得した一定の宅地等について、一定面積まで評価額を減額できる制度です。国税庁は、相続時精算課税に係る贈与によって取得した宅地等には、この特例を適用できないと説明しています。出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

ですから、自宅の敷地や事業用の宅地を生前に贈与する場合には、次のような比較が欠かせません。

比較すべき選択肢確認すること
生前贈与する贈与税、登録免許税、不動産取得税、将来の管理負担
相続で承継する小規模宅地等の特例、配偶者軽減、遺産分割、納税資金
遺言で取得者を指定する争族防止、遺留分、申告期限内の分割、登記
売却・組換えを検討する譲渡所得、納税資金、将来利用

「評価額を下げられるから、とにかく生前に移しておこう」という発想だけで動くのは危険です。

マンション贈与は令和6年以後の評価見直しに注意する

分譲マンションを贈与する場合は、評価方法の変更に注意が必要です。令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与によって取得した居住用の区分所有財産については、居住用区分所有財産の評価通達による評価方法を確認しなければなりません。出典:国税庁|No.4667 居住用の区分所有財産の評価

以前の感覚のまま「マンションは相続税評価額が低い」と考えていると、贈与税額や、相続時精算課税での加算額を見誤ってしまう可能性があります。

特に、築年数、所在階、総階数、敷地持分、面積、立地によって、評価額と市場価格の関係は大きく変わります。マンションを贈与する際は、固定資産税評価額、路線価、敷地権、区分所有補正率、賃貸中か自用かといった点を確かめたうえで、贈与と相続のどちらが説明しやすいかを見極めていきます。

負担付贈与は「通常の取引価額」で見る

借入金の付いた不動産を子へ贈与する場合、「借入金もあわせて引き受けてもらうのだから、贈与税は少なくなるはずだ」と考えがちです。

しかし、負担付贈与には注意が必要です。国税庁は、土地や借地権、家屋や構築物などの負担付贈与について、贈与時における通常の取引価額に相当する金額から負担額を控除した価額を贈与税の課税価格とすると説明しています。あわせて、贈与者の側は負担額でその財産を譲渡したことになるため、譲渡益が生じれば所得税の対象となります。出典:国税庁|No.4426 負担付贈与に対する課税

つまり、不動産の負担付贈与では、相続税評価額から借入金を差し引けば済む、という単純な話にはなりません。

項目確認すること
不動産の通常の取引価額査定書、鑑定評価、近隣取引、収益価格
借入金誰が債務者になるか、金融機関の承諾、保証関係
敷金・保証金賃貸物件では返還債務の承継
贈与者側負担額による譲渡所得課税
受贈者側贈与税、不動産取得税、登録免許税、返済能力

借入金の付いた不動産を移すときは、贈与税だけでなく、所得税、金融機関への対応、その後の賃貸経営まで、まとめて確認しておく必要があります。

収益物件の贈与は「賃料移転」と「管理負担」をセットで見る

収益物件を贈与すると、それ以降の賃料収入を受贈者へ移す効果が期待できます。相続時精算課税を選択した収益物件であれば、贈与後に生じる賃料などの果実は受贈者側の財産となり、贈与者側の財産が膨らむのを抑える効果が見込めます。一方で、相続時精算課税は取消しができず、土地については小規模宅地等の特例との関係にも注意が要ります。

ただし、収益物件の贈与は、単なる「賃料の移転」では終わりません。

確認事項内容
所得税贈与後の不動産所得は誰に帰属するか
賃貸借契約賃貸人変更通知、敷金、保証金、契約更新
借入金債務引受、保証人、担保、返済原資
修繕大規模修繕、原状回復、設備更新
空室空室リスク、家賃下落、管理会社との契約
消費税事業用賃貸、課税売上、インボイス対応が必要な場合
相続対策他の相続人との公平、代償資金、遺留分

受贈者がまだ若い、遠方に住んでいる、不動産経営に関心がない、資金に余裕がない――こうした場合には、贈与した物件がかえって重荷になることもあります。相続税評価額だけを見るのではなく、収支表、修繕予定、借入残高、空室率、管理体制まで確かめたうえで判断したいところです。

持分贈与・共有化は慎重に考える

不動産を一部だけ贈与する方法として、持分贈与があります。

たとえば、自宅の2分の1、アパートの3分の1、土地の一部持分を子へ贈与する、といったケースです。

持分贈与は、贈与税額を抑えながら段階的に承継できる手段のように見えます。しかし、不動産がいったん共有になると、売却、建替え、大規模修繕、担保設定、賃貸条件の変更といった場面で、共有者どうしの意思決定が必要になります。共有不動産では、使用方法、収益の分配、経費の負担、共有関係の解消などが、しばしば紛争の火種になることにも注意しておきたいところです。

さらに、将来子の相続が発生すれば、共有者の数はいっそう増えていきます。最初は親子の共有で何の問題もなくても、次の世代では配偶者や孫が共有者に加わり、管理や売却がままならなくなることもあるのです。

上場株式を贈与するときの注意点

上場株式は、不動産に比べれば分けやすく、評価のための資料も手に入れやすい財産です。

その分、暦年贈与や相続時精算課税の対象としても扱いやすい面があります。とはいえ、上場株式には上場株式なりの注意点があります。

贈与日の株価だけで判断しない

上場株式の相続税・贈与税評価は、財産評価基本通達に定められています。通常の上場株式は、課税時期の最終価格を基礎としつつ、その価格が課税時期の属する月以前3か月間の各月の最終価格の月平均額のうち最も低い価額を上回る場合には、その最も低い価額で評価します。ただし、負担付贈与や個人間の対価を伴う取引によって取得した上場株式は、課税時期の最終価格で評価します。出典:国税庁|財産評価基本通達 第8章 第1節 株式及び出資

この取扱いをふまえると、上場株式の贈与では、次の点を確認しておくことになります。

確認事項実務上の意味
贈与日贈与契約日と証券移管日がずれる場合の整理
株価終値、月平均額、評価明細
配当権利確定日、配当の帰属
証券口座受贈者名義口座への移管手続
贈与契約書銘柄、株数、贈与日を明記
贈与税申告評価明細と取引記録の保存

上場株式の時価は、毎日のように動きます。贈与契約書の日付、証券会社の移管日、配当の基準日があいまいだと、いつ贈与したのか、いくらで評価するのかを、後から説明しづらくなってしまいます。

将来売却時の取得費を確認する

上場株式を贈与した後、受贈者がその株式を売却すると、今度は譲渡所得の計算が問題になります。

国税庁は、相続、遺贈または贈与によって取得した株式等について、被相続人、遺贈者または贈与者の取得費を引き継ぐと説明しています。出典:国税庁|No.1464 譲渡した株式等の取得費

つまり、贈与時の評価額が、そのまま受贈者の取得費になるわけではありません。

たとえば、親が100万円で取得した株式が、贈与の時点で1,000万円になっていたとします。この株式を受贈者が将来売却すると、原則として親の取得費100万円を引き継いで譲渡所得を計算することになります。贈与した時点では相続税対策になったように見えても、いざ売却するときに大きな譲渡益が表に出てくることがあるのです。

贈与する銘柄を選ぶ際は、現在の評価額だけでなく、取得価額、含み益、売却の予定、配当の方針まで確かめておく必要があります。

値上がり期待だけで贈与しない

値上がりが見込まれる株式を早めに贈与しておけば、その後の値上がり分を受贈者の側に移せる可能性があります。

しかし、株価は下がることもあります。相続時精算課税を使った場合、贈与者の相続時には、原則として贈与時の価額をもとに相続税を計算へ反映します。国税庁は、相続時精算課税について、贈与者が亡くなった時に、相続時精算課税適用財産の贈与時の価額を相続財産の価額と合計して相続税を計算する制度だと説明しています。なお、令和6年1月1日以後の贈与では、年分ごとに相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額を基礎とします。出典:国税庁|No.4301 相続時精算課税の選択と相続税の申告義務

値上がりすれば効果が出る一方で、値下がりした場合には、贈与時の価額で精算することがかえって不利に働くこともあります。上場株式は分散して贈与しやすい反面、市場の変動を受ける財産なのだという前提を、忘れずに持っておきたいところです。

非上場株式を贈与するときの注意点

非上場株式の贈与は、上場株式とはまるで性質が異なります。

市場価格が存在せず、評価方法は複雑で、しかも会社の支配権に直結します。私たち公認会計士・税理士が関与すべき場面が多いのも、まさにこの領域です。

評価方式は株主の立場で変わる

国税庁は、取引相場のない株式について、相続や贈与などで株式を取得した株主が、発行会社の経営支配力を持つ同族株主等にあたるのか、それ以外の株主なのかという区分により、原則的評価方式または配当還元方式で評価すると説明しています。出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価

非上場株式の評価には、少なくとも次の資料が必要になります。

資料確認する目的
株主名簿同族株主判定、議決権割合
定款譲渡制限、種類株式、議決権制限
決算書・申告書類似業種比準価額、純資産価額
勘定科目内訳書貸付金、借入金、土地、有価証券
会社保有不動産資料純資産価額、含み益、土地保有特定会社判定
直前期の取引金額・従業員数会社規模判定
過去の増資・自己株式取得株価移転、みなし贈与、みなし配当
事業承継計画後継者、役員就任、議決権集中

非上場株式の評価では、同族株主にあたるかどうか、会社規模、類似業種比準方式、純資産価額方式、特定の評価会社に該当するかどうかを、順を追って確認していきます。評価方式の選択それ自体が税額を大きく左右するため、「額面で贈与する」「過去の取引価額で贈与する」といった対応で済ませてしまうのは危険です。

後継者に株式を渡すだけでは事業承継にならない

非上場株式の贈与は、事業承継の手段として使われます。

ただし、後継者に株式を贈与すれば、それで承継が完了するわけではありません。

論点確認すること
議決権後継者が経営を安定的に支配できるか
役員体制代表権、取締役構成、親族外役員
他の相続人株式をもらわない相続人への代償・遺留分
納税資金贈与税・将来の相続税を誰が払うか
会社財務配当可能性、自己株式取得、役員貸付金
株式分散少数株主、従業員持株会、名義株式
契約・定款譲渡制限、買戻し、種類株式

株式は分けやすそうに見えますが、議決権を細かく分けてしまうと、会社経営はかえって不安定になります。かといって後継者に集中させれば、ほかの相続人から不公平だと受け取られやすくなります。

非上場株式の贈与では、税額だけでなく、経営支配、遺留分、代償金、将来の相続税申告までを、ひとつの設計として組み立てていく必要があります。

低額譲渡・増資・自己株式取得による価値移転にも注意する

非上場株式では、単純な贈与だけでなく、低額譲渡、第三者割当増資、自己株式取得、株主間の取引によっても、株式の価値が移転することがあります。

一部の株主が時価より低い価額で株式を移す場合や、特定の株主だけが有利な条件で増資に応じる場合には、株式価値の移転が生じ、みなし贈与が問題になる可能性があります。非上場株式の価値移転は、同族株主か同族株主以外かによって評価額が変わるため、税務上の判断がとりわけ難しくなります。

会社関係者の間では「身内の会社なのだから、話し合いで価格を決めればよい」と考えられがちです。しかし税務上は、価格を決めた根拠、会社の財務内容、支配権への影響、ほかの株主への利益の移転までを確認することになります。

保険契約を贈与・変更するときの注意点

生命保険は、相続対策でよく用いられる財産です。

ただし、「保険金が非課税になる」「受取人を指定できる」という一面だけで判断してはいけません。保険契約では、契約者、被保険者、受取人、保険料の負担者が誰なのかによって、相続税・贈与税・所得税の課税関係が変わってきます。

契約者名義より保険料負担者が重要

国税庁は、保険料を負担していない人が、満期、解約、または被保険者の死亡によって生命保険金を受け取った場合には、保険料を負担した人から生命保険金の贈与があったものとされると説明しています。なお、被保険者の死亡によって受け取った生命保険金のうち、被保険者自身が保険料を負担していたものについては、贈与税ではなく相続税の対象となります。出典:国税庁|No.4417 贈与税の対象になる生命保険金

また、満期や解約で保険金を受け取った場合には、保険料の負担者と保険金の受取人が同じであれば所得税、異なれば贈与税の対象になります。出典:国税庁|No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき

保険の税務では、契約者・被保険者・受取人の組み合わせだけでなく、実際に誰が保険料を負担したのかが決め手になります。保険約款上の契約者と保険料の負担者が一致しているとは限らず、契約者を変更するたびに課税関係を確かめておく必要があります。

契約者変更は「変更時」だけで終わらない

親が保険料を負担している契約について、契約者を子へと変更することがあります。

このとき、契約者を変更した時点で直ちに贈与税が生じるかどうか、そこだけを見ていては不十分です。本当に重要なのは、その後に解約、満期、死亡が起きたとき、誰が保険料を負担していた部分に対応する保険金なのか、という点です。

保険事故が発生する前に保険料の負担者が亡くなった場合には、生命保険契約に関する権利が相続税の対象になることがあります。契約者変更の履歴、既払込保険料、解約返戻金、受取人を確認しておかないと、相続税の申告のときに保険契約そのものを見落としてしまうおそれがあります。

保険契約を贈与・変更する場合は、次の資料を整えておきます。

資料確認すること
保険証券契約者、被保険者、受取人、保険種類
保険料払込履歴誰が、いつ、いくら負担したか
契約者変更履歴変更時期、変更前後の契約者
受取人変更履歴死亡保険金・満期保険金の受取人
解約返戻金証明契約に関する権利の評価
契約者貸付貸付金残高、保険金控除額
贈与契約書保険料相当額を贈与している場合の証拠
贈与税申告書保険料贈与の申告履歴

保険は、預金や不動産と違って、相続人が契約の中身を把握していないことも少なくありません。相続税の申告では、保険金そのものだけでなく、保険契約に関する権利、契約者の変更、保険料の負担者まで確認しておく必要があります。

保険は「商品」ではなく「資金設計」として見る

生命保険は、納税資金や代償金の準備に役立つことがあります。

ただし、見るべきは保険商品そのものの有利不利ではなく、相続設計のなかでその保険がどんな役割を果たすのか、という点です。

目的保険で確認すること
納税資金誰が保険金を受け取り、誰が税金を払うか
代償分割不動産取得者が他の相続人へ支払う資金になるか
生活保障配偶者や障害のある相続人の生活資金になるか
遺産分割保険金受取人だけが有利になりすぎないか
二次相続一次相続後に資金が残るか
保険料負担贈与税・名義保険・契約者変更の説明ができるか

保険金は、民法上の遺産分割とは異なる扱いになる場面がありますが、相続人どうしの公平感には大きく影響します。特定の相続人だけが多額の保険金を受け取るような場合には、遺留分・特別受益・代償金との関係まで含めて説明できる設計にしておきたいところです。

暦年課税と相続時精算課税をどう使い分けるか

不動産・株式・保険を贈与する際には、暦年課税と相続時精算課税のどちらを選ぶかも重要な論点です。

相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などへ財産を贈与した場合に選べる制度です。いったん選択すると、その贈与者からの贈与については、暦年課税へ戻ることはできません。出典:国税庁|No.4103 相続時精算課税の選択

令和6年1月1日以後の贈与については、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられています。国税庁は、令和6年1月1日以後の贈与に係る相続時精算課税の計算例として、贈与額から基礎控除額110万円を控除する例を示しています。出典:国税庁|No.4409 贈与税の計算(相続時精算課税の選択をした場合)

ただし、相続時精算課税は「贈与時の税金が少なくて済む制度」ではなく、「相続時に精算する制度」です。特に不動産や非上場株式では、次のような比較が必要になります。

比較項目暦年課税相続時精算課税
制度の性質年単位で贈与税を計算贈与者ごとに選択し、相続時に精算
基礎控除年110万円令和6年以後は年110万円の基礎控除あり
相続時加算一定期間内の贈与が加算対象相続時精算課税適用財産は相続時に加算
変更毎年の贈与設計がしやすい一度選択すると撤回不可
向く可能性がある財産分散贈与しやすい金融資産等将来値上がりや収益移転を見込む財産等
注意点7年加算、名義財産、証拠小規模宅地等、値下がり、受贈者死亡、申告

不動産や株式は、将来値上がりするかどうかだけでなく、値下がりする可能性、特例を失う可能性、そして受贈者が先に亡くなる可能性まで視野に入れて考えておきたいところです。

財産別に見る「贈与してよいか」の判断順序

どの財産を贈与するかを決めるときは、次の順序で検討していくと整理しやすくなります。

1. 贈与の目的を明確にする

まずは、何のための贈与なのかを、はっきり言葉にしてみます。

目的向いている可能性のある財産
将来の値上がりを移したい上場株式、非上場株式、不動産
収益を次世代へ移したい収益物件、配当株式
後継者へ経営権を移したい非上場株式
納税資金を準備したい保険、金融資産
生活保障をしたい居住用不動産、保険、金融資産
遺産分割を円滑にしたい保険、換金しやすい金融資産
管理を次世代へ移したい収益物件、家族信託等との併用も検討

目的があいまいなまま贈与してしまうと、税務上は成立しても、家族の納得や将来の管理という点で問題が残ります。

2. 受贈者が管理できるかを確認する

贈与した後の財産は、受贈者自身の財産になります。

不動産なら固定資産税や修繕の負担、株式なら議決権の行使や売却の判断、保険なら保険料の負担や契約の管理――それぞれに担うべきものがあります。

特に、未成年者、学生、資産管理に不慣れな子、海外に住む人、判断能力に不安のある人へ贈与する場合には、管理者、収益の帰属、通帳・証券口座・契約書の管理を、あらかじめ明確にしておく必要があります。

贈与が認められるためには、贈与契約、受贈者の受諾、名義変更、管理の状況、収益の帰属、贈与税の申告などが重要な意味を持ちます。不動産や株式等の名義変更があり、対価のやり取りがない場合には、原則として贈与として取り扱われる点にも注意が必要です。

3. 相続時の説明を想定する

贈与は、相続が起きたときに、あらためて見直されます。

相続税では、暦年課税贈与の一定期間加算、相続時精算課税による加算、名義財産、特別受益、遺留分が問題になり得ます。

とりわけ次のような贈与は、家族への説明が欠かせません。

贈与の内容説明すべき点
長男に収益物件を贈与他の相続人との差、代償金、家賃収入
後継者に非上場株式を贈与会社支配、株価、遺留分、納税資金
孫に上場株式を贈与子世代との公平、相続税2割加算の可能性
配偶者へ自宅を贈与二次相続、小規模宅地等、流通税
子を保険金受取人に指定他の相続人との公平、代償資金の目的

税務署への説明だけでなく、家族にきちんと説明できるかどうかも、贈与設計の一部だと考えておきたいところです。

4. 将来売却時の税金を確認する

贈与した財産は、将来売却されることがあります。

土地・建物について、国税庁は、相続や贈与により取得した土地建物を売った場合の取得費は、被相続人や贈与者が買い入れたときの購入代金や購入手数料などをもとに計算すると説明しています。あわせて、取得した時期も、被相続人や贈与者の取得時期を引き継ぐとされています。出典:国税庁|No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期

上場株式も不動産も、贈与時の評価額が、そのまま将来売却するときの取得費になるわけではありません。贈与者の取得資料が残っていない場合には、売却時に概算取得費で計算することになり、譲渡所得税が重くなってしまうこともあります。

ですから、贈与する前に、購入契約書、取得価額の資料、過去の相続税申告書、証券会社の取引履歴、不動産取得時の資料を、あらかじめ整理しておくことが大切です。

避けたい判断

不動産・株式・保険の贈与で避けたいのは、次のような判断です。

避けたい判断なぜ危険か
不動産は相続税評価額が低いから贈与すべき小規模宅地等、流通税、管理負担、負担付贈与を見落とす
収益物件は家賃を移せるから有利借入金、修繕、空室、所得税申告、管理能力が必要
上場株式は移管すれば終わり贈与日、株価、配当、取得費引継ぎを確認する必要
非上場株式は額面で渡せばよい同族株主判定、株価評価、みなし贈与、議決権が問題
保険は契約者を変えれば贈与できる保険料負担者と受取人の関係で課税関係が決まる
贈与税が出なければ問題ない相続時加算、遺留分、譲渡所得、税務調査が残る
子が管理できなくても名義だけ移せばよい名義財産、実質所有、管理責任、家族間紛争の原因になる
兄弟には相続のときに説明すればよい生前贈与は特別受益や不公平感として争点化しやすい

相談前に整理しておきたい資料

不動産・株式・保険の贈与を検討する際は、次の資料をそろえておくと、判断がぐっと具体的になります。

財産準備したい資料
不動産登記事項証明書、固定資産税課税明細、路線価、評価倍率、測量図、公図、賃貸借契約
収益物件家賃明細、修繕履歴、借入残高、敷金台帳、管理契約、空室状況
上場株式証券会社残高証明、取得価額、取引履歴、配当明細、贈与予定日
非上場株式決算書、申告書、株主名簿、定款、議事録、会社保有不動産資料、役員貸付金
保険契約保険証券、保険料払込履歴、契約者変更履歴、受取人変更履歴、解約返戻金証明
家族関係推定相続人、法定相続分、過去の贈与、遺言、遺留分に関係する事情
税務資料過去の贈与税申告書、相続時精算課税選択届出書、所得税申告書
資金資料納税資金、代償金原資、借入金、生活資金、保険金受取予定

贈与税の申告と納税は、原則として財産をもらった人が、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに行います。申告期限までに申告しなかったり、実際にもらった額より少ない額で申告したりした場合には、加算税がかかることがあります。出典:国税庁|No.4429 贈与税の申告と納税

申告期限に間に合わせることももちろん大切です。ただ、それ以上に重要なのは、評価の根拠、契約書、資金の移動、名義の変更、管理の状況をきちんと残しておくことです。相続・贈与税の分野は、土地や株式の評価誤り、特定の相続人にだけ有利な分割提案、資料の不足、税務調査リスクの説明不足といったところから、実務上のトラブルにつながりやすい領域だからです。

まとめ:どの財産を贈与するかは、税額ではなく「承継後の姿」で決める

不動産、株式、保険は、いずれも相続対策において重要な財産です。

しかし、贈与に向いているかどうかは、財産の種類だけで決まるものではありません。

不動産は、評価額だけでなく、登記、流通税、管理、賃貸経営、そして小規模宅地等の特例への影響まで確認します。

上場株式は、評価がはっきりしている一方で、株価の変動、取得費の引継ぎ、配当、売却の時期を確かめます。

非上場株式は、評価額にとどまらず、議決権、後継者、会社の財務、遺留分、納税資金を見ていきます。

保険契約は、契約者の名義だけでなく、保険料の負担者、受取人、契約者変更の履歴を確認します。

生前贈与とは、「税額を下げるための作業」ではありません。「財産を、誰に、どのような責任とともに承継させるか」を決める、ひとつの意思決定なのです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産、収益物件、上場株式、非上場株式、保険契約を含む生前贈与について、贈与税だけでなく、相続時の加算、財産評価、遺産分割、納税資金、二次相続、将来売却時の譲渡所得まで含めて整理いたします。

「どの財産を贈与すべきか」「相続時精算課税を使うべきか」「不動産や自社株を今のうちに移すべきか」「保険契約の名義や受取人を見直したい」――そうお感じの方は、財産資料、家族関係、過去の贈与履歴を整理したうえで、お問い合わせページよりご相談ください。

振り返り

論点重要ポイント
財産別判断不動産・株式・保険では、評価、税務、管理負担が大きく異なる
暦年課税年110万円の基礎控除があるが、令和6年以後の贈与は7年加算を意識する
相続時精算課税令和6年以後は年110万円の基礎控除があるが、撤回不可で相続時に精算する制度
不動産贈与贈与税だけでなく、登録免許税、不動産取得税、固定資産税、管理負担を確認
小規模宅地等生前贈与した宅地等では、相続時の小規模宅地等の特例が使えない場合がある
マンション令和6年以後の居住用区分所有財産の評価見直しを確認する
負担付贈与土地・建物等は通常の取引価額から負担額を控除して考える
収益物件賃料移転だけでなく、借入金、敷金、修繕、空室、所得税申告を確認
上場株式贈与日、株価、配当、証券移管、取得費引継ぎを確認
非上場株式同族株主判定、会社規模、議決権、後継者、遺留分を確認
保険契約契約者名義より保険料負担者と受取人の関係が重要
契約者変更変更時だけでなく、解約・満期・死亡時の課税関係を確認
取得費贈与された不動産・株式を売却する場合、原則として贈与者の取得費を引き継ぐ
家族間公平特定の相続人だけに財産を移す場合、特別受益・遺留分・代償金を確認
証拠整理贈与契約書、評価資料、名義変更資料、資金移動、申告書を保存する
最終判断「贈与税が少ないか」ではなく「承継後に管理・説明できるか」で決める
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次