相続税法上の時価と財産評価基本通達の関係|通達評価でよい場合・注意すべき場合

相続税の申告で財産評価を考えるとき、まず押さえておきたいのは、「相続税評価額」と「時価」は同じ言葉ではない、ということです。

相続税法上の原則は、あくまで「時価」にあります。しかし実務では、多くの財産を国税庁の財産評価基本通達に基づいて評価していきます。

この二つの関係を整理しないまま申告に入ると、現場では次のような疑問が次々と生じてきます。

よくある疑問実務上の意味
相続税法上の時価とは何か申告すべき財産価額の根本的な基準
財産評価基本通達とは何か相続税・贈与税の評価実務で通常用いられる評価基準
通達評価額は時価なのか通達評価は時価を算定するための実務上の標準的な方法
市場価格や鑑定評価額と違う場合はどうするのか通達評価で申告してよいか、個別評価を検討すべきかの判断が必要
税務調査で評価が否認されることはあるのか通達評価の限界、総則6項、説明可能性が問題になる

これは、机上の評価理論にとどまる話ではありません。

不動産や非上場株式をお持ちの方、親族間売買や生前贈与、相続直前の不動産取得、借入を伴う相続対策、相続後の売却予定などがある場合には、「通達評価でよいのか」「別の時価を考えるべきなのか」という判断が、税額そのもの、遺産分割、そして税務調査リスクに直結してきます。

この記事では、相続税法上の時価と財産評価基本通達の関係を、相続税申告や生前対策の判断にそのまま使える形で整理していきます。

目次

相続税法上の原則は「取得時の時価」

相続税法22条は、相続、遺贈または贈与により取得した財産の価額について、特別の定めがあるものを除き、その財産を取得した時の時価による、と定めています。相続の場合は、原則として相続開始時、つまり被相続人が亡くなった時点が評価の基準時になります。

出典:e-Gov法令検索|相続税法

ここでいう時価は、「売れそうな金額」や「不動産会社の査定額」と同じ意味ではありません。最高裁の判決でも、相続税法22条にいう時価とは、財産の取得時における「客観的な交換価値」をいうものと整理されています。

出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件

つまり相続税法上の時価とは、相続人の思い入れや家族間の事情、売り急ぎ、特殊な交渉事情などをそのまま映し込んだ主観的な価額ではなく、課税時期における客観的な価値をとらえようとする概念だということです。税法上の時価を考えるときは、主観的価値や使用価値ではなく、客観的価値、すなわち客観的交換価値を軸に整理していく必要があります。

ただし、すべての財産を個別に時価評価することは現実的ではない

相続税の対象となる財産は、実に多様です。

不動産、預貯金、有価証券、生命保険金、非上場株式、貸付金、農地、借地権、著作権、書画骨とう、国外財産。性質のまったく異なるこれらの財産を、同じ申告期限のなかで評価しなければなりません。

そのすべてについて個別に鑑定評価や取引事例分析を行うことは、納税者にとっても課税庁にとっても現実的とはいえません。さらに、評価者ごとに方法がばらばらになれば、似たような財産を持つ納税者の間で課税の公平を保つことも難しくなってしまいます。

そこで、相続税・贈与税の実務において重要な役割を果たすのが、国税庁の財産評価基本通達です。

財産評価基本通達は、相続税および贈与税の課税価格計算の基礎となる財産評価について、財産の種類ごとに評価方法を定めた法令解釈通達です。国税庁は、法令に別段の定めがあるものなどを除き、この通達によって取り扱うものとしています。

出典:国税庁|財産評価基本通達

財産評価基本通達は、土地、家屋、株式、動産、無体財産権、その他の財産などについて、実務上の評価方法を体系的に定めています。評価実務は、相続税法上の時価を出発点としながら、実際には財産評価基本通達を通じて具体的な評価額を算定していく、という構造になっているのです。

財産評価基本通達は「時価を算定するための標準的なものさし」

財産評価基本通達の「評価の原則」では、財産の価額は時価によるものとされ、その時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいう、とされています。そして、その価額は財産評価基本通達の定めによって評価した価額による、とされています。

出典:国税庁|財産評価基本通達 第1章 総則

この規定を読むと、つい「通達評価額=時価」と単純に考えたくなります。

しかし正確にいえば、財産評価基本通達は、相続税法上の時価を実務のうえで算定するための標準的な評価方法です。通達評価額は、多数の納税者に公平かつ安定的に適用できるよう設計された評価額であって、個別の財産の市場価格そのものを常に直接示すものではありません。

この点は、実務上きわめて重要です。

区分意味
相続税法上の時価法律上の評価原則。取得時における客観的交換価値
財産評価基本通達時価を算定するための標準的・画一的な評価方法
通達評価額財産評価基本通達に基づいて算定した申告実務上の評価額
市場価格・売買価格実際の取引で成立した、または成立し得る価格
鑑定評価額不動産鑑定評価基準等に基づく専門的評価額

通達評価額は、通常は相続税申告で用いる中心的な評価額です。とはいえ、それは「個別事情を一切確認しなくてよい」という意味ではありません。

評価通達上の評価方法を当てはめる前に、評価対象、評価単位、地目、権利関係、利用状況、評価時点、資料の正確性を、ひとつずつ確認していく必要があります。

通達は納税者を直接法的に拘束するものではない

財産評価基本通達は、法律そのものではありません。

税務通達は、行政内部における取扱いを示すものであり、納税者を直接法的に拘束する法源ではない、と整理されています。もっとも、実務では課税庁がこの通達に従って画一的に評価を行うため、納税者にとっても通達評価は強い実務上の意味を持ちます。

最高裁も、財産評価基本通達について、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、国民に対して直接の法的効力を有するものではない、と示しています。その一方で、課税庁が通常は評価通達に従って画一的に評価している以上、特定の納税者についてのみ通達評価を超える価額で課税するには合理的な理由が必要である、という整理も併せて示しています。

出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件

この関係を実務向けに整理すると、次のようになります。

観点整理
法律上の根拠相続税法22条の「時価」
実務上の基準財産評価基本通達
納税者への法的拘束通達自体が直接拘束するものではない
実務上の影響課税庁も納税者も通常は通達評価を基礎に申告・調査を進める
例外的な場面通達評価が著しく不適当な場合には、別の合理的評価が問題となる

したがって相続税申告では、「通達に従っていれば絶対に安全」とも、「通達は法律ではないから自由に別評価を使える」ともいえないのです。

現実には、財産評価基本通達を基礎としながら、その通達評価が相続税法上の時価を適切に表していると説明できるかどうかを、しっかり確認していくことになります。

通達評価が必要とされる理由

財産評価基本通達が実務の中心となっている理由は、大きく三つあります。

第一に、課税の公平です。同じ種類の財産について、納税者ごとに評価方法が大きく異なってしまえば、相続税の負担に不公平が生じます。通達評価は、似た財産には似た評価方法を適用するための、共通のものさしになります。

第二に、申告実務の安定性です。相続税には申告期限があります。すべての不動産や株式について個別に時価を争うような運用では、期限内に申告を進めること自体が困難になってしまいます。

第三に、納税者の予測可能性です。どの財産がどう評価されるのかがある程度見通せなければ、生前対策も、遺産分割も、納税資金の準備も、計画的に進めることができません。

通達評価の役割実務上の意味
課税の公平同種の財産について一定の基準で評価する
申告実務の安定期限内申告を可能にする
予測可能性生前対策や分割協議の前提を作る
税務調査対応評価根拠を説明しやすくする
事務効率納税者・課税庁双方の評価作業を標準化する

こうした役割があるからこそ、相続税申告で財産評価基本通達から離れた独自評価を行うことには、慎重な判断が求められるのです。

通達評価額と実際の売買価格が異なることは珍しくない

不動産を例にとると、相続税評価額と実際の売買価格が一致しないことは、決して珍しくありません。

路線価方式では、路線価を基礎に、土地の奥行、形状、接道、がけ地、地積規模などの補正を行って評価します。国税庁は、路線価等について、毎年1月1日を評価時点とし、1年間の地価変動などを考慮したうえで、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定めている、と説明しています。

出典:国税庁|令和6年分の路線価等について

一方の地価公示は、国土交通省土地鑑定委員会が毎年1月1日時点における標準地の正常な価格を公示する制度です。一般の土地取引価格に指標を与え、不動産鑑定や公共用地取得価格の算定の規準となるものです。

出典:国土交通省|地価公示

固定資産税評価額も、相続税評価とは目的も評価主体も異なります。相続税評価、固定資産税評価、地価公示価格、市場価格は、それぞれ目的・基準時点・評価方法が異なるため、互いに参照されることはあっても、同じ金額になることを前提にしてはいけません。公的土地評価は相互の均衡を意識しているものの、地価公示価格、路線価、固定資産税評価額は目的や改定時期が異なり、開差が生じることがあります。

価格・評価額主な目的相続税申告での位置づけ
相続税評価額相続税・贈与税の課税価格計算申告実務で通常用いる評価額
路線価路線価地域の土地評価の基礎土地評価の出発点
固定資産税評価額固定資産税等の課税倍率方式や家屋評価等で利用
地価公示価格一般土地取引の指標、不動産鑑定の規準等路線価評定や時価判断の参考
実際の売買価格個別取引で成立した価格事情により参考となるが、そのまま相続税評価額とは限らない
鑑定評価額不動産鑑定評価基準に基づく価格特殊事情がある場合の検討資料となる

相続後に不動産を売却した価格が、相続税評価額より高い、あるいは低いというだけで、ただちに相続税評価が誤りになるわけではありません。

売却の時期や条件、測量・解体・造成の有無、相続開始時点で存在していた事情、売主と買主の関係、売り急ぎがなかったかどうか。こうした点を一つひとつ確認していく必要があります。

通達評価が「時価を必ず下回る」と考えるのは危険

相続税評価額は市場価格より低い、と一般的にいわれることがあります。

しかし、これを絶対的な前提にしてしまうのは危険です。

たとえば不動産の場合、路線価が地価公示価格等の80%程度を目途に定められているとしても、個別の土地について市場価格の80%になるとは限りません。道路条件、利用制限、境界問題、地積、形状、土壌汚染、賃貸借関係、共有関係、建物状態、地域の需給。こうした要素によって、実際の売買価格は大きく変わってきます。

非上場株式についても同様です。相続税法上の評価と、会社法上の株式買取価格、所得税法・法人税法上の時価、親族間売買における適正対価は、それぞれ目的も前提も異なります。非上場株式の評価では、評価目的や株主の立場によって、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチといった考え方が問題となり、相続税法上の評価方式だけであらゆる時価を説明できるわけではありません。

相続税評価額を、親族間売買や同族会社との取引における時価としてそのまま使ってよいかどうかは、また別の問題です。不動産や非上場株式の親族間・同族関係者間取引では、相続税評価額、所得税法上の時価、法人税法上の時価、みなし贈与・みなし譲渡・受贈益課税の関係を、それぞれ分けて検討する必要があります。

通達評価によらない評価が問題になる場合

財産評価基本通達には、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」とする規定があります。いわゆる総則6項です。

出典:国税庁|財産評価基本通達 第1章 総則

総則6項は、通達評価を否定するための一般的な抜け道ではありません。通達による画一的な評価では、かえって相続税法上の時価や課税の公平を適切に実現できない――そうした例外的な場面に対応するための規定です。

評価通達6項は、評価基準制度を補完するものとして理解され、通達評価額と客観的交換価値との開差が著しく不適当と認められる場合に問題となります。ただし、その適用基準が不明確であれば納税者の予測可能性を損ねることになるため、適用にあたっては慎重な整理が欠かせません。

最高裁令和4年4月19日判決は、相続開始前に不動産を取得し、借入れを伴う取引が行われ、通達評価額と鑑定評価額に大きな乖離があった事案について、評価通達による画一的評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合には、通達評価を上回る価額によることも平等原則に反しない、と示しました。もっとも同判決は、通達評価額と鑑定評価額に大きな乖離があるというだけで、ただちに例外評価が認められるとはしていません。

出典:最高裁判所|令和2年(行ヒ)第283号 相続税更正処分等取消請求事件

この点は、非常に重要です。

単に「通達評価額が市場価格より低い」というだけで、すべての相続税評価が否認されるわけではありません。その一方で、近い将来の相続を見据え、通達評価と実勢価格の乖離を利用することを主たる目的として、不自然な借入・取得・売却を組み合わせるような対策については、慎重に検討すべきです。

鑑定評価額があれば通達評価より優先されるわけではない

不動産評価でよくある誤解に、「不動産鑑定評価書を取れば、通達評価より低い評価額で申告できる」というものがあります。

たしかに鑑定評価は重要な資料になり得ます。しかし、鑑定評価額が通達評価額より低いというだけで、当然に鑑定評価額を相続税申告に採用できるわけではありません。

裁判例のなかには、鑑定意見書による評価方法が一般に是認でき、算出価格が客観的交換価値と評価し得るものであったとしても、その価格が評価通達に従って算出した価額を下回っているというだけでは、通達評価によるべきでない特別の事情があるとはいえない、と判断されたものもあります。

鑑定評価を検討する場合には、少なくとも次の点を確認しておく必要があります。

確認事項実務上の意味
鑑定評価の目的相続税申告用か、売買・訴訟・担保評価用か
価格時点相続開始時点に対応しているか
評価対象土地・建物・権利関係が相続税評価対象と一致しているか
前提条件賃貸借、共有、利用制限、法規制が正しく反映されているか
通達評価との違いなぜ通達評価では実態を適切に反映できないのか
採用リスク税務調査で説明できる根拠があるか

鑑定評価は、「評価額を下げるための手段」ではありません。通達評価では財産の客観的交換価値を適切に示しにくい場合に、その個別事情を説明するための資料として位置づけるべきものです。

公的評価との違いを混同しない

相続税評価を考えるときには、複数の「価格」が登場します。

とりわけ不動産では、相続税路線価、固定資産税評価額、地価公示価格、基準地価、不動産鑑定評価額、実際の売買価格が、ずらりと並びます。

これらは同じ土地を対象にしていても、それぞれ目的が異なります。そして目的が異なれば、評価時点も、評価主体も、評価方法も、補正の考え方も変わってきます。

価格の種類誤解しやすい点正しい整理
相続税路線価市場価格そのものと考える相続税・贈与税評価の基礎となる標準価額
固定資産税評価額売買価格や時価と考える固定資産税等の課税目的の評価額
地価公示価格個別土地の売買価格と考える標準地の正常価格であり、取引・鑑定等の指標
売買価格相続税評価額を当然に置き換えると考える取引事情を確認したうえで参考にする
鑑定評価額通達評価より当然に優先すると考える個別事情を説明する資料として検討する

相続税申告では、複数の価格を集めるだけでは足りません。それぞれの価格が、何の目的で、いつの時点で、どの前提に基づいて算定されたものなのかを、丁寧に整理していく必要があります。

通達評価を使う場合でも、事実確認を省略してはいけない

「財産評価基本通達に従う」とは、機械的に数字を当てはめることではありません。

たとえば土地評価では、路線価に地積を乗じる前に、次のような確認が必要になります。

確認事項評価への影響
地目宅地、農地、山林、雑種地などで評価方法が変わる
評価単位一体評価か別評価かで評価額が変わる
地積公簿面積と実測面積の差が問題になることがある
権利関係自用地、貸宅地、貸家建付地、借地権などで評価が変わる
接道無道路地、私道、セットバックなどが問題になる
形状不整形地、間口狭小、奥行長大、がけ地などの補正がある
法規制都市計画、建築制限、土砂災害区域などを確認する
利用状況居住用、貸付用、事業用、空き地などで評価・特例に影響する

評価単位、地目、利用形態、接道義務、都市計画法・建築基準法の知識は、いずれも土地評価の前提になります。とりわけ、同じ土地であっても利用単位や権利関係の見方ひとつで評価結果が変わるため、通達評価を行う前提として、現況と資料の確認が欠かせません。

これは非上場株式でも同じです。財産評価基本通達に評価方式が定められているからといって、株主判定、議決権割合、会社規模、特定の評価会社への該当性、純資産価額、類似業種比準価額、役員貸付金、同族会社不動産といった確認を省略することはできません。

通達評価は、事実確認の代わりにはならないのです。

生前対策では「相続税評価額を下げること」だけを目的にしない

この論点が特に重みを持つのは、生前対策の場面です。

不動産取得、賃貸建物の建築、借入金の活用、親族間売買、同族会社との取引、生前贈与、非上場株式の移転。こうした場面では、相続税評価額と経済的価値の差を利用した提案が行われることがあります。

しかし、相続対策で考えるべきは、相続税の軽減だけではありません。争族の防止、納税資金、相続後の申告実務を、一体のものとして考えていく必要があります。相続対策は相続税対策だけではなく、相続争いの防止や納税資金対策が優先し、その結果として税額軽減に役立つ対策こそが望ましい――これは実務上とても大切な整理です。

財産評価の観点からも、次のような判断は避けたいところです。

避けたい判断なぜ危ういか
評価額が下がるから不動産を買う収益性、借入返済、相続人の管理負担、総則6項リスクがある
路線価が低いから親族間売買の価格に使う所得税・法人税・贈与税の時価とは異なる場合がある
鑑定評価が低いからそのまま申告する通達評価によるべきでない事情の説明が必要
土地を分ければ評価額が下がる不合理分割や建築制限、将来利用の問題がある
通達に書いてあるから安全と考える事実関係や制度趣旨に反する適用は説明困難になる

「できるか」だけでなく、「行うべきか」「後から説明できるか」「家族関係と税務の双方に耐えられるか」。この三つを併せて検討することが大切です。

通達評価でよいかを判断するための実務視点

通達評価で申告するのか、それとも個別評価や鑑定評価を検討するのか。この判断は、次の順序で整理していくと、ずいぶん見通しがよくなります。

判断順序確認すること
1. 評価対象の特定何を評価するのか。土地、建物、株式、権利、共有持分などを特定する
2. 評価時点の確認相続開始時点・贈与時点の現況に基づいているか
3. 通達評価の適用可否財産評価基本通達に評価方法があるか
4. 前提事実の整理地目、利用状況、権利関係、契約関係、資料が整っているか
5. 通達評価額の妥当性客観的交換価値との乖離が著しく不自然でないか
6. 特別事情の有無相続直前取引、借入、短期売却、租税負担軽減目的などがないか
7. 代替評価の必要性鑑定評価、売買実例、専門家意見などを検討すべきか
8. 説明記録税務調査で評価根拠を説明できる資料を残しているか

ここで大切なのは、通達評価か鑑定評価かを最初に選ぶのではなく、評価対象と前提事実を先に固めることです。

前提事実が曖昧なまま評価方法を選んでしまうと、どの評価額を採用したとしても、説明そのものが弱くなってしまいます。

最近の評価実務では、通達自体も更新される

財産評価基本通達や関連する評価通達は、固定されたものではありません。資産の取引実態や税制改正に応じて、随時更新されていきます。

たとえば、居住用の区分所有財産、いわゆる分譲マンション等については、近年の区分所有財産の取引実態等を踏まえ、令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した財産の評価について、国税庁の個別通達に基づく評価方法が適用される場合があります。

出典:国税庁|居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)

また、財産評価基準書も年分ごとに公表され、その年分の相続・贈与に適用されます。国税庁の財産評価基準書では、令和7年分が最新年分として掲載されており、令和7年1月1日から12月31日までの間に相続、遺贈または贈与により取得した財産に係る相続税・贈与税の評価に適用される旨が示されています。

出典:国税庁|財産評価基準書

ですから、過去に聞いた評価方法や古い資料だけで判断するのではなく、取得時期、評価対象財産、該当する年分、最新の通達改正を、そのつど確認していく必要があります。

税務調査では「なぜその評価額にしたのか」が問われる

税務調査で問題になるのは、評価額そのものだけではありません。

その評価額に至るまでの事実確認、資料、判断の過程が問われます。

調査で問われやすい点確認される内容
土地評価地目、地積、評価単位、路線価、補正、権利関係、現況
賃貸不動産賃貸借契約、賃貸割合、空室、使用貸借、サブリース
非上場株式株主判定、会社規模、純資産、土地・株式保有割合
名義財産資金原資、管理者、贈与契約、収益帰属
相続直前取引取得目的、借入、売却予定、価格乖離、節税意図
鑑定評価鑑定の前提、価格時点、通達評価との違い

相続・贈与税の分野では、土地や株式の評価誤り、小規模宅地等の特例の適用誤り、相続時精算課税の届出失念、資料受領の不備などが、専門家側のリスクとしても問題になりやすい領域です。

通達評価を採用する場合であっても、評価明細、判断メモ、現地写真、役所調査の記録、契約書、相続人への説明記録などを残しておくことが大切です。

専門家に相談すべき場面

次のような場合には、通達評価でよいのか、それとも個別評価や追加資料を検討すべきなのかを、早めに確認しておくことをおすすめします。

相談を検討すべき場面理由
相続財産に不動産が多い評価単位、地目、補正、特例、納税資金が複合する
相続直前に不動産取得や借入がある総則6項や通達評価の妥当性が問題になる可能性がある
相続後すぐに不動産売却を予定している売買価格と相続税評価額の関係を整理する必要がある
親族間・同族会社間で売買を予定している相続税評価額を時価として使えるとは限らない
非上場株式がある相続税法・会社法・所得税法・法人税法の時価が異なる可能性がある
鑑定評価を使いたい通達評価によらない合理的理由を整理する必要がある
評価額に相続人間で不満がある遺産分割上の評価と相続税評価を区別する必要がある
国外財産や特殊資産がある国内通達評価だけでは整理できない場合がある

財産評価は、単に税額を計算する作業ではありません。財産の価値をどのように把握し、相続人の間でどう説明し、税務上どこまで耐えられる評価根拠を残すか――そうした実務上の判断そのものなのです。

相談をご検討の方へ

相続税法上の時価と財産評価基本通達の関係は、相続税申告の品質を左右する、重要な論点です。

通達評価は実務の中心ですが、すべての場面で機械的に安全といえるわけではありません。かといって、市場価格や鑑定評価額を持ち出せば自由に評価額を変えられる、というものでもありません。

大切なのは、財産の現況、権利関係、評価時点、通達評価の適用関係、そして税務調査での説明可能性を、順序立てて整理していくことです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税申告や生前対策について、財産評価、遺産分割、納税資金、二次相続、そして申告後の説明可能性までを踏まえ、評価判断の前提を丁寧に整理することを大切にしています。

不動産、非上場株式、親族間取引、生前贈与、相続直前の不動産取得、鑑定評価の活用など、通達評価と時価の関係にご不安がある場合は、お問い合わせページよりお気軽にご相談ください。

この記事の振り返り

重要事項押さえるべきポイント
相続税法上の原則財産評価は、原則として取得時の時価による
時価の意味主観的価値ではなく、客観的交換価値を中心に考える
財産評価基本通達時価を算定するための実務上の標準的な評価方法
通達の法的性格納税者を直接法的に拘束するものではないが、実務上は中心的基準となる
通達評価額通常は相続税申告で用いる評価額だが、市場価格そのものではない
公的評価との違い路線価、固定資産税評価額、地価公示価格、売買価格は目的が異なる
総則6項通達評価が著しく不適当な場合に例外評価が問題となる
鑑定評価通達評価より低いというだけでは採用できず、特別事情の説明が必要
実務上の判断評価対象、評価時点、現況、権利関係、資料、説明記録を順に確認する
生前対策での注意評価額を下げることだけでなく、納税資金、家族関係、申告後リスクを含めて判断する
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